JP3734187B2 - 静的強度に対し動的強度が高い冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の軽量化および安全性向上を達成するのに適した高強度冷延鋼板に関するものであり、静的強度に対し動的強度の高いことを特徴とする冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の安全性向上の観点から衝突時の安全性に対する要求もますます厳しくなりつつある。自動車の軽量化と衝突時の衝撃を吸収特性の向上を両立させるためには、自動車の強度部材として高強度鋼板を使用することが適するが、一般に高強度鋼板は強度の低い鋼板に較べ成形性に劣るため自動車の設計時の自由度を減少させる。このような観点から加工性に優れた高強度鋼板の開発が進められ、たとえば特公昭58−48616号公報にみられるように鋼板の組織をフェライト相とマルテンサイト相の複合組織とする提案や、特公昭5−24205号公報にみられるように鋼板の組織をフェライト相とオーステナイト相に複合組織とする提案がなされている。
【0003】
前述の高強度鋼板の強度は通常の引張試験で測定された強度のことを示し、ひずみ速度が約10-3(s-1)と非常に遅い領域での強度(静的強度)を表す。鋼板の強度はひずみ速度に依存し、ひずみ速度が大きくなるにつれ強度が増加すること、また、この増加の程度は鋼板の種類に依存することが従来から知られている。つまり、鋼板の安全性の観点から高強度鋼板を開発する場合には、衝突時に対応すると推定されるひずみ速度(103 (s-1)程度)での強度(動的強度)で材料特性を評価する必要がある。
【0004】
ところが、従来の高強度鋼板の開発においてはこのような点には特に注意を払っていなかった。また、衝突時の鋼板は成形、塗装、その後の塗装焼付の工程を経ていることから、特に、この工程を経てからの高ひずみ速度での変形時の強度が重要となるが、このような観点で開発された鋼板は見当たらない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上の説明からわかるように、衝突安全性に優れた鋼板に求められる特性は鋼板の成形・塗装焼付後の動的強度と成形前の静的強度の比である静動比(=動的強度/静的強度)が高いことにある。本発明では、従来の高強度鋼板より高い静動比を持つ高強度冷延鋼板を製造することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、種々の実験、研究を重ねた結果、鋼材の成分を適切に調整し、フェライト相と5〜30%のマルテンサイト相およびその他の低温生成相からなる組織を形成させることで静動比を向上させることが可能であることを見いだした。その要旨は、
(1) 重量%で、
C:0.02〜0.12%
Si:1.5%以下
Mn:1.0〜2.5%
P:0.1%以下
S:0.01%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ組織がフェライト相と5〜30%のマルテンサイト相およびその他の低温生成相からなり、10-3(s-1)のひずみ速度で変形したときの強度σS(MPa)と、予ひずみE(%)を与え、温度T(℃)で時間t(分)処理した後、ひずみ速度10 3 (s-1)で変形したときの最大強度σD(MPa)との比σD/σSが
σD/σS≧600/σS+0.2+535E(√t)exp(−5000/(T+273))
を満足することを特徴とする静的強度に対し動的強度の高い冷延鋼板。
【0007】
重量%で、
C:0.02〜0.12%
Si:1.5%以下
Mn:1.0〜2.5%
P:0.1%以下
S:0.01%以下
を含み残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、常法にて、熱間圧延、酸洗、冷間圧延後、Ac1 以上かつ(Ac1 +75℃)以下の温度範囲で15秒以上保持した後、50℃/s以上の冷却速度で50℃以上200℃以下の温度まで冷却することを特徴とする、組織がフェライト相と5〜30%のマルテンサイト相およびその他の低温生成相からなり、10-3(s-1)のひずみ速度で変形したときの強度σS(MPa)と、予ひずみE(%)を与え、温度T(℃)で時間t(分)処理した後、ひずみ速度103(s-1)で変形したときの最大強度σD(MPa)との比σD/σSが
σD/σS≧600/σS+0.2
+535E(√t)exp(−5000/(T+273))
である静的強度に対し動的強度の高い冷延鋼板の製造方法である。
【0008】
以下、本発明について、詳細に説明する。
まず、鋼成分を限定した理由について述べる。
Cは、鋼板の組織に強く影響を与える元素であり、その含有量が少なくなると目的とするマルテンサイト相を得るのが困難になり、また添加量が多くなると強度が高くなりすぎ成形性を劣化させるため、C量は0.02%以上、0.12%以下とする。
【0009】
Siは、固溶強化元素であり鋼板の強度の調整を可能とするだけでなく炭化物形成を抑えることやフェライト中の固溶Cをオーステナイト中へ吐き出すことでマルテンサイト組織形成を容易にすることから添加することが望ましいが、冷延鋼板の製造工程ではAc1 以上かつ(Ac1 +75℃)以下での焼鈍中にフェライト中の固溶Cはオーステナイト中へと容易に吐き出されるため特に添加量を多くする必要はない。また、添加量が多くなると強度が高くなりすぎ成形性を劣化させ、かつ静動比を低下させるため、1.5%以下とする。
【0010】
Mnは、Siと同様に固溶強化元素であり強度調整に有効である。また、オーステナイト安定化元素でありマルテンサイトの生成を容易にすることや、高速変形時の強度上昇を促進することから、1.0%以上とする。しかしながら、むやみに含有量を増加させると成形性の劣化を招き、かつ静動比を低下させることから、2.5%以下とする。
Pは、マルテンサイト生成にあまり大きな影響を与えずに強度調整をするために添加するがその含有量が多くなると成形性が劣化するため、0.1%以下とする。
Sは、その含有量が多くなると高強度鋼板の重要な特性のひとつである伸びフランジ性を劣化させるため、0.01%以下とする。
【0011】
静動比向上には、粒内に析出物、炭化物、介在物などのないフェライトを得ることが重要であるが、通常このようなフェライトを生成させた場合には高強度を得ることができないが、粒内以外の場所に硬質相を生成させることで強度を上昇させることが可能となる。本発明ではマルテンサイトおよびその他の低温生成相の量を5%〜30%と限定したが、これは静動比向上に有効な、粒内に析出物、炭化物、介在物などのないフェライト相を持つ高強度鋼板を本発明の成分範囲で製造した際に得られる量である。これ以外の範囲5%未満あるいは30%を越える量となった場合には高い静動比は得られない。
【0012】
このような成分の鋼を鋳造し、得られた熱片スラブを直接または加熱した後、あるいは冷片を再加熱して熱間圧延を施すが、熱間圧延は通常の熱延工程、あるいは仕上圧延においてスラブを接合し圧延する連続化熱延工程のどちらでも可能である。また熱間圧延の条件は特に限定していないがこれは熱間圧延の条件が最終の材質にほとんど影響を及ぼさないためである。また、熱間圧延の終了温度はオーステナイト域であっても、フェライト域であっても最終的に得られる材質の変化はほとんど無い。
【0013】
熱間圧延、冷間圧延後の焼鈍温度をAc1 以上かつ(Ac1 +75℃)以下の温度範囲としたが、これはAc1 以下の温度では得られるマルテンサイトおよびその他の低温生成相の量が5%未満となり、(Ac1 +75℃)を越える温度で焼鈍した場合には得られるマルテンサイトおよびその他の低温生成相の量が30%を越えるためである。
焼鈍温度での保持時間を15秒以上としたのはこれ未満の保持時間ではフェライト相からオーステナイト相への十分な固溶Cの拡散がなく静動比向上に有効な、粒内に析出物、炭化物、介在物などのないフェライトを得ることができないためである。
【0014】
焼鈍後の冷却速度を50℃/s以上としたのは、この冷却速度より遅い場合冷却中にパーライトあるいは炭化物の析出が起こり必要なマルテンサイトが得られないためである。また、冷却を50℃以上200℃以下まで行うのは、これ以上の温度で冷却を終了した場合には高静動比が得られないためである。
鋼材の特性を
σD/σS≧600/σS+0.2
+535E(√t)exp(−5000/(T+273))
で限定しているが、この式においてσDは予ひずみE(%)を与え温度T(℃)で時間t(分)処理した後、ひずみ速度103 (s-1)で変形したときの最大強度、σSは10-3(s-1)で変形した時の最大強度である。鋼材の特性は成形時に導入されるひずみおよびその後の塗装焼付処理において変化するが、この式はこの変化を考慮したときの値である。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を実施例により具体的に説明する。
表1に示す種々の化学成分の鋼を鋳造し、実機にて試験を行った。表2〜表5には、これら供試材の熱間圧延条件、高速変形前の予ひずみ量、熱処理温度、熱処理時間および得られた静動比を示す。なお、前述したように、予ひずみは成形時のひずみ、熱処理は塗装焼付処理を想定している。
【0016】
【表1】
【0017】
表2〜表4及び表5の鋼種番号4,5は、鋼成分は本発明鋼の範囲内にあるが、製造条件としては本発明範囲外のものも含まれる。製造条件が本発明内のものでは得られた静動比は式(1)を満足するが、製造条件が本発明外のものではマルテンサイト量および式(1)を満足しないことがわかる。なお、表には式(1)の右辺から求まる値も示してあるが、実測の静動比がこの値より大きなものが本発明を満足する。
表5の鋼種番号6,7は、製造条件は本発明の範囲内にあるが、鋼成分が本発明範囲外のものを示す。この実施例から、鋼成分が本発明範囲外になると式(1)の特性を満足しないことがわかる。
これら実施例から認められるように、本発明によると高い静動比を得られることがわかる。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
【表5】
【0022】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、静的強度に対し動的強度が高い鋼板の製造が可能となり、工業的に価値の大きなものである。
Claims (2)
- 重量%で、
C:0.02〜0.12%
Si:1.5%以下
Mn:1.0〜2.5%
P:0.1%以下
S:0.01%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ組織がフェライト相と5〜30%のマルテンサイト相およびその他の低温生成相からなり、10-3(s-1)のひずみ速度で変形したときの強度σS(MPa)と、予ひずみE(%)を与え、温度T(℃)で時間t(分)処理した後、ひずみ速度103(s-1)で変形したときの最大強度σD(MPa)との比σD/σSが
σD/σS≧600/σS+0.2
+535E(√t)exp(−5000/(T+273))
を満足することを特徴とする静的強度に対し動的強度の高い冷延鋼板。 - 重量%で、
C:0.02〜0.12%
Si:1.5%以下
Mn:1.0〜2.5%
P:0.1%以下
S:0.01%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、常法にて、熱間圧延、酸洗、冷間圧延後、Ac1 以上かつ(Ac1 +75℃)以下の温度範囲で15秒以上保持した後、50℃/s以上の冷却速度で50℃以上200℃以下の温度まで冷却することを特徴とする、組織がフェライト相と5〜30%のマルテンサイト相およびその他の低温生成相からなり、10-3(s-1)のひずみ速度で変形したときの強度σS(MPa)と、予ひずみE(%)を与え、温度T(℃)で時間t(分)処理した後、ひずみ速度103(s-1)で変形したときの最大強度σD(MPa)との比σD/σSが
σD/σS≧600/σS+0.2
+535E(√t)exp(−5000/(T+273))
である静的強度に対し動的強度の高い冷延鋼板の製造方法。
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Publication Number | Publication Date |
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JPH09287050A JPH09287050A (ja) | 1997-11-04 |
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