JP3732007B2 - ホーンスピーカ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホーンスピーカに関し、特に指向特性に特徴のあるホーンスピーカに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、例えば廊下や会議室等の比較的に広い空間にスピーカを設置する場合、図14に示すように、スピーカ101を天井10に取り付けることが多い。これは、広範囲にわたって音を拡声するためであるが、同図に示すように、1台のスピーカ101を真下に向けた状態で取り付けただけでは、このスピーカ101が拡声(音の放射)の対象としている範囲(空間)に対して一様に音を拡声することができない。例えば、スピーカ101の真下付近に居る聴取者110にとっては、スピーカ1の拡声音が大きく聴こえるものの、スピーカ101から少し離れた場所に居る聴取者111に対しては、上記聴取者110に比べて上記拡声音が極端に小さくなる。従って、聴取者110、111がスピーカ101の下方を通過する際、スピーカ101から聞こえる拡声音のレベルが激しく変化するため、違和感を感じたり、或いは拡声音の内容が聞き取り難い等の問題がある。
【0003】
そこで、従来、図15に示すように、スピーカ101を複数台、例えばこれを廊下に設置する場合には2台設け、これら各スピーカ101、101をそれぞれ角度を付けて設置することによって、上記問題を解決していた。即ち、各スピーカ101、101を、廊下の伸延方向に沿って配置すると共に、それぞれが出力する音を音圧レベルの不足している箇所、例えば各スピーカ101、101から廊下の伸延方向に沿って少し離れた場所に向けて拡声するように、互いに相反する方向に傾けた状態で取り付ける。これによって、スピーカ101、101から離れた場所、例えば聴取者111の居る場所に対しても大きな拡声音レベルを確保することができ、ひいては拡声対象範囲に対して一様な拡声音レベルを与えることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記図15に示す従来技術においては、スピーカ101、101から少し離れた場所に対しては大きな拡声音レベルを確保することができるものの、各スピーカ101、101の真下付近においては、各スピーカ101、101の各拡声音が互いに干渉し、これによって、例えば図16に示すように、ポーラパターン200上にピークディップ200aが発生してしまう。従って、スピーカ101、101の真下付近においては音圧レベルが不安定となり、場合によっては、上記図14よりも不快さを感じたり、或いは拡声音が聞き取り難くなるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、スピーカ、詳しくはスピーカドライバ(以下、単にドライバという。)を1台とすることによって、上記のような音の干渉を防止すると共に、ドライバを1台のみとするにも係わらず、廊下等の比較的に広い空間に対して一様な音圧レベルを与えることのできるホーン形のスピーカを提供することを目的とする。そして、このようなスピーカだけでなく、例えば広角度に一定(均一)の音圧レベルを与えることのできる所謂広指向性のスピーカを実現する等、それぞれの用途に応じた指向特性を有するスピーカを提供することが、本発明の主な目的である。更に、ドライバを複数台用いた場合でも、上記のような干渉が生じることのないホーンスピーカを提供することも、本発明の目的とするところである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のうち請求項1記載の発明は、ホーンと、音導管と、スピーカドライバとを備えるホーンスピーカであって、ホーンは、少なくとも後側で近接し、前側に放音用の開口部を形成する2つのホーン板を有すると共に、一方のホーン板には、後側で左右方向のほぼ中央位置に、前後方向に長辺が沿う長方形の貫通孔が設けられ、音導管は、一端を貫通孔に連結すると共に、他端をスピーカドライバに連結するものである。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、貫通孔には、ほぼ同じ長さの複数の音導管が連結され、各音導管の他端にはそれぞれスピーカドライバが連結されたものである。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のホーンスピーカにおいて、他方のホーン板には、貫通孔と対向する位置に、スピーカドライバから供給される音を所定方向に案内する案内部を設けたものである。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、音導管は、ホーンの前後方向における断面が、貫通孔に向かうに従って大となる形状とするものである。
【0010】
請求項5記載の発明は、ホーンと、第1及び第2音導管と、第1及び第2スピーカドライバと、案内部とを備えるホーンスピーカであって、ホーンは、後側で近接し、前側に放音用の開口部を形成する2つのホーン板を有すると共に、各ホーン板には、後側で左右方向のほぼ中央位置に、前後方向に長辺が沿う長方形の貫通孔が対向して設けられ、第1及び第2の音導管は、一端をホーン板の各貫通孔に連結すると共に、他端を第1及び第2のスピーカドライバに連結し、案内部は、2つの貫通孔の中間位置に設けられ、第1及び第2のスピーカドライバから供給される音を所定方向に案内するものである。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明に係るホーンスピーカの一実施の形態について、図1から図12を参照して説明する。
【0029】
図1は、本実施の形態のスピーカ1の外観斜視図、図2は、三面図と主要部分の断面図である。なお、このスピーカ1は、その取り付け方向が特に限定されるものではないが、本実施の形態においては、説明を簡明にするために、図2(b)に示す正面図を基準として、その上下及び左右方向を本スピーカ1自体の上下及び左右方向とし、紙面の表裏方向を本スピーカ1自体の前後方向として説明する。
【0030】
図1及び図2において、2は、図示しない入力端子から入力される電気信号を音に変換するドライバで、このドライバ2は、上記電気信号を変換して得た音を音波放出面21から放出する。音波放出面21は、真下に向けられた状態で音導管3の一端に結合されており、この音導管3内に上記音を放出する。なお、このようなドライバ2は、一般に、電気−音響変換機構によって、例えば動電(ダイナミック)形や電磁(マグネチック)形、或いは電歪形や放電形等に分類されるが、このドライバ2の電気−音響変換機構がどのようなものであるのかについては、本発明の特徴に直接関係しないので、ここでは特に限定しない。
【0031】
音導管3は、上記一端に供給されたドライバ2の放出音を他端側に伝搬するもので、例えばABS樹脂等の硬質樹脂製の四角管とされている。ただし、この四角管を形成する4つの壁面31乃至34のうち、左右に位置する壁面31及び32については、互いに平行かつ近接した状態で、ドライバ2の音波放出面21から略垂直に真下に向かって伸延している。また、後方の壁面33についても、上記左右の壁面31及び32と同様に、これらに直角を成した状態で、ドライバ2の音波放出面21から略垂直に真下に向かって伸延している。そして、前方に位置する壁面34は、これと隣り合う左右の壁面31及び32と略直角を成すと共に、ドライバ2の音波放出面21から下方に向かうに従って前方に傾斜する状態に設けられている。従って、この音導管3の一端から他端(即ち下方)に向かう方向を横切る断面は、他端に向かうに従って前方に細長く伸延する長方形状となる。そして、この音導管3の上記音の出口となる他端は、その開口部が略水平に沿うように形成されており、この他端に、ホーン4が結合されている。
【0032】
ホーン4は、2枚の湾曲板41、42と、これら2枚の湾曲板41、42に結合したがいりゃkウ長方形の側壁板43とによって構成されており、外観上は、例えば一般に知られているラジアル形やセクトラル形等のものと類似した概略扁平形のものである。即ち、2枚の湾曲板41、42は、それぞれ略同一形状のもので、例えば丸底の中華鍋を半円状に略半分に切断したような形状をしている。そして、それぞれの外周縁を揃えると共に、各害周縁のうち円弧の部分を互いに平行にし、かつ互いの凸面側を若干の距離を隔てて対向させた状態で、上記切断部分に対応する後方側の側縁部分を側壁板43の左右両側縁に揃えられており、これによって各湾曲板41、42の外周縁の円弧部分と側壁板43の左右両側縁とによって外側に向かって開口した閉ループが形成されている。なお、側壁板43の左右両端部は、それぞれ後方側に若干湾曲しており、この湾曲した形状に合わせて、湾曲板41、42の左右両端部もまた、後方側に若干鋭利に突出した形状とされている。
【0033】
また、上記2枚の湾曲板41、42のうち上方にある湾曲板41については、上記半円の略中心に相当する位置、即ちこの湾曲板41の左右方向における略中央でかつ側壁板43に近接した位置に、上述した音導管3の他端側の開口部と略同じ大きさの細長い長方形の貫通孔44が、前後に伸延する状態に穿設されている。そして、この貫通孔44の開口周縁と、上記音導管3の他端側の開口部周縁とを一致させた状態で、この湾曲板41(即ちホーン4)と上記音導管3の他端とが結合されている。
【0034】
従って、上記音導管3の他端から出力される音は、上記貫通孔44を介して、湾曲板41、42と側壁板43とによって囲まれた空間、即ちホーン4内に供給される。そして、このホーン4内に供給された音は、外側に向かって、即ち上述した閉ループ側に向かってホーン4内を伝搬し、外部へと放出される。従って、このホーン4によれば、貫通孔44が、このホーン4に対する上述したドライバ2の音の供給口となる喉部(スロート)に相当する。そして、音の放出口となる上記閉ループに囲まれた空間45が、開口部(マウス)に相当する。なお、各図から明らかなように、開口部45から放出される音は、主に、側壁板43よりも前方で、かつ貫通孔44が穿設された位置を略中心として放射状に(半円の半径方向に)、即ち扇形状に、概略水平面に沿って拡声される。
【0035】
更に、下方にある湾曲板42の上面には、上記貫通孔44の左右方向における略中央に対向する位置に、貫通孔44側に向けて突出した案内部46が設けられている。この案内部46は、貫通孔44を介してホーン4内に供給された音を、所定の方向に案内するもので、ここでは、この案内部46として、細長い概略山脈状のものを用いている。そして、この概略山脈状の案内部46を、貫通孔44の長さ方向(前後方向)に沿って伸延させており、これによって、図2(d)に矢印で示すように、ホーン4内に供給される上記音を左右方向に案内している。この案内部46の案内作用により、音導管3とホーン4との音響的な接続が滑らかになり、音導管3からホーン4内に供給される音に音響的な不連続が生じるのを抑制できる。
【0036】
なお、図1及び図2における47は、丸棒状の支持棒で、この支持棒47は、上記貫通孔44が設けられた位置から斜め前方の位置に、各湾曲板41、42間に略垂直に2本ずつ設けられており、これによって、各湾曲板41、42間を互いに支持している。また、側壁板43には、ドライバ2との物理的な干渉を避けるために切り欠いた切欠部48を設けている。
【0037】
ところで、本実施の形態によれば、上記のように、ホーン4に対する音の供給口となる貫通孔44を、ホーン4の前後方向に細長く伸延する長方形状としている。従って、ホーン4に対する音の供給源として、直線状の所謂線状音源(以下、貫通孔44と同一符号を用いる。)を形成したのと略等価な状態となる。そして、この線状音源44を、ホーン4を形成する上方側の湾曲板41上に設け、これによって、ホーン4の拡声方向に対して角度を成してホーン4内に音を供給するよう構成している。
【0038】
このような構成においては、線状音源44からホーン4内に供給される音は、主に、線状音源44の成す直線の周囲方向に向かって、即ちホーン4の左右に向かって、拡声される。つまり、これら2つの方向に向けてそれぞれ拡声する2つの音源が存在するのと略等価な状態となり、これを概念的に表わすと、図3のようになる。即ち、同図に示すように、ドライバ2と音導管3とから成る音源が2つ存在し、これら各音源による指向特性が、同図に一点鎖線5a、5bで示すように、それぞれホーン4の左右両側に形成されるのと略等価な状態となる。
【0039】
ただし、上記各音源による指向特性5a、5bは、同図に示すように、ホーン4の左右真横方向よりも若干前方(同図の下方)側に片寄った特性、即ちホーン4の左右斜め前方に対する音圧レベルが最大となるような特性となる。これは、音導管3を形成する前方側の壁面34が、上述したように、ドライバ2からホーン4に向かうに従って前方に傾斜しているためである。即ち、この壁面34の傾斜により、ドライバ2から音導管3を介してホーン4内に供給される音が、ホーン4の前方に向かって若干斜めに供給される。これによって、ホーン4の前方に対する音波面の進行が、他の方向に比べて整合し易くなり、その結果、各音源による指向特性5a、5bが、上記のように若干前方側に片寄った特性となる。
【0040】
このように、本実施の形態によれば、上記2つの音源が形成されたのと等価な状態となるので、スピーカ1全体の指向特性(ポーラパターン)としては、図4に実線5で示すように、上記各音源の指向特性5a、5bを合成したのと略等価な特性が得られる。これにより、同図に二点鎖線の直線50で示すように、ホーン4の前方(同図の下方)から左右斜め前方に至る比較的に広い領域に対して略一様な音圧レベルを与えることのできる特性5が得られる。
【0041】
なお、このように2つの音源の指向特性5a、5bを合成したのと略等価な特性5が得られたとしても、これら2つの音源は飽くまでも仮想的なものであって、実際の音源は、1台のドライバ2のみである。よって、スピーカ全体の指向特性(ポーラパターン)5には、上述した従来技術のようなピークディップ200aは発生しない。
【0042】
従って、上述した廊下等の直線状の聴衆エリアに対して一様に音を拡声したい場合には、図5に示すように、本実施の形態のスピーカ1を、天井10に設置すれば、ここで拡声対象とする領域に対して、一様な音圧レベルを与えることができる。また、このとき、ポーラパターン5上に上記のようなピークディップ200は生じないので、聴取者(図示せず)に対して不快さを与えたり、拡声音が聴き取り難くなる等という問題も起こらない。即ち、上述した従来技術の問題点を解決できる。
【0043】
なお、本実施の形態においては、本発明を廊下等の天井スピーカに応用する場合について説明したが、これに限らない。例えば、壁面に設置したり、或いはエンクロージャ内に収容したりする形式のスピーカ等、天井スピーカ以外の用途にも、本発明を適用できる。
【0044】
また、ドライバ2から音導管3を介してホーン4内に供給される音波に、音響的な乱れが生じないように案内部46を設けたが、上記音響的な乱れが生じる恐れがない場合には、特に案内部46を設ける必要はない。
【0045】
そして、ホーン4の上面及び底面に相当する壁面を、それぞれ湾曲板41、42で形成することにより、ホーン4内の空間が、ホーン4の内側(音導管3が設けられている位置)から外側(開口部45)に向かって上下方向に指数関数(Exponential)的に広がるように構成したが、これに限らない。例えば、上記湾曲板41、42として、それぞれの面の凹凸が本実施形態とは逆のものを用いることによって、ホーン4内の空間が、ホーン4の内側から外側に向かって上下方向に放物線(放物面:parabolic)的に変化するように構成してもよい。また、ホーン4の上面及び底面を湾曲させるのではなく、各面をホーン4の内側から外側に向かって上下方向に一定の比率で広がるように構成してもよい。更に、ホーン4の上面及び底面に相当する壁面を、互いに略平行をなす平板で形成することにより、ホーン4の形状を、上述したラジアル形ホーンと略等価な形状としてもよい。
【0046】
また、ホーン4の後方寄りの位置に音導管3を結合したが、例えば図2(a)におけるP点のような、前方寄りの位置に結合してもよい。この場合、ホーン4の前方側に対する音圧レベルが若干増強すると共に、ホーン4の後方側、特に左右斜め後方側にも音波が拡声される等、スピーカ1の指向特性が変化する。勿論、スピーカ1の用途に応じて、ホーン4の上記P点以外の位置に、音導管3を結合することにより、指向特性を変えてもよい。
【0047】
更に、ホーン4に対する音導管3の結合角度を変えることによって、スピーカ1の指向特性5を変えてもよい。例えば、図6に矢印20で示すように、音導管3を、ホーン4の後方側に傾けると、音導管3からホーン4内に供給される音波面の進行が、ホーン4の前方に対してより整合し易くなる。これによって、上述した2つの音源の各指向特性5a、5b(同図には示さない)が、更に前方側に片寄るので、結果的に、ホーン4の前方(正面)に対する音圧レベルが、同図に矢印51で示すように増大して、例えば同図に一点鎖線51aで示すような指向特性が得られる。
【0048】
そこで、この図6の技術を応用すれば、例えば図7に示すような広指向性のスピーカを実現できる。即ち、音導管3を、ホーン4の後方側に更に傾けると、上述した2つの音源の各指向特性5a、5b(同図には示さない)が、更に前方側に片寄る。これによって、ホーン4の左右両側に対する音圧レベルは低下するものの、ホーン4の正面に対する音圧レベルは更に増大する。従って、ホーン4(スピーカ1)の左右斜め前方(同図の左右斜め下方)に対する音圧レベルと、スピーカ1の正面(同図の下方)に対する音圧レベルとが、略同レベルになる程度に、ホーン4に対する音導管3の結合角度を後方側(同図の上方側)に傾斜させれば、同図に実線5で示すように、スピーカ1の左右広角度θに対して、略一定(均一)の音圧レベル(スピーカ1の正面の音圧レベル(最大レベル)から−6dBの範囲内のレベル)を与えることができ、即ち広指向性を実現できる。
【0049】
ここで、例えば、一般のスピーカ(例えば上述した従来技術のスピーカ101)の指向特性を、図7に一点鎖線53で示す。この一般のスピーカの指向特性53と、本実施の形態の応用例の指向特性5とを比較して判るように、一般のスピーカによって略一定の音圧レベルを与えることのできる指向角φよりも、本実施の形態の応用例による上記指向角θの方が遥かに大きい。因みに、一般のスピーカによる指向角φは、φ=90度乃至100度程度であるのに対して、本実施の形態の応用例によれば、上記指向角θとして、例えばθ=120度以上の広指向性を実現できる。
【0050】
なお、この図7に示す応用例では、拡声対象とする角度θに対して、略一定の音圧レベルを与えることを目的としているので、ホーン4の開口部(マウス)45を、上述した図1及び図2に示す概略半円状のホーン4ほど広く開ける必要はない。例えば、開口部45における放射インピーダンス等を考慮すれば、開口部45の大きさ(開き角)は、拡声対象とする角度θを満足する程度の大きさとするのが望ましい。この場合、ホーン4の形状は、例えば図8に示すように、上記角度θを満足する程度の開口部45を有する概略扇形状とすればよい。また、この図8に示すホーン4に代えて、例えば図9に示すように、上記図8のホーン4の前方の円弧部分を切り取ったような形状としてもよい。
【0051】
また、本実施の形態においては、ドライバ2を1台のみとしたが、このドライバ2を複数台設けることによって、拡声音レベルの増強を図ってもよい。ただし、この場合、上述した従来技術のようなピークディップ200aの発生を防止するために、次のように構成する。
【0052】
即ち、ピークディップという現象は、一般に、周波数の等しい複数の音が、互いに位相がずれた状態で干渉し合ったときに発生することが知られている。例えば、各音の位相が1/2波長(λ/2)分ずれているときには各音は互いに打ち消し合い、各音の位相が1波長(λ)分ずれているときには各音が互いに増強し合い、これによってピークディップという現象が生じる。つまり、各音の経路差が大きいほど低周波領域でピークディップが発生し、経路差が小さくなるほどピークディップが発生する周波数領域は高くなる。従って、複数台のドライバを用いる場合は、各ドライバから出力される音の経路差を小さくして、ピークディップが発生する周波数領域が可聴周波数領域よりも高くなるように構成すれば、聴感上、実質的にピークディップの発生を防止できることになる。
【0053】
そこで、例えば2台のドライバを用いる場合、例えば図10に示すように構成すればよい。同図に示すように、このスピーカ1は、上述したドライバ2及び音導管3と同一のドライバ2a及び音導管3aを更にもう一台ずつ設け、これらを上記ドライバ2及び音導管3と上下対象となるように、下方の湾曲板42に結合したものである。勿論、湾曲板42の上記音導管3aが結合される部分には、上方の湾曲板41の貫通孔44と同様の貫通孔44aが穿設されている。なお、同図において、46aは、各ドライバ2、2aから音導管3、3aを介してホーン4内に供給される音を左右方向に案内する案内部で、例えば上述した図2に示す案内部46を2つ張り合わせたのと同様な形状をしており、例えば側壁板43に結合されている。
【0054】
上記構成によれば、音導管3、3aの音の供給口が近接すると共に、各ドライバ2、2aからホーン4の中心までの距離L、Lがそれぞれ同一寸法となる。従って、ピークディップの発生する周波数領域は高くなり、各音導管3、3aの音の供給口間の距離Dを、可聴周波数の上限波長λよりも短い距離、例えばD=λ/2以下、詳しくはD=λ/3乃至λ/5程度(約6mm乃至3.5mm)とすれば、可聴周波数におけるピークディップの発生を防止できる。
【0055】
また、上記図10とは別に、例えば図11に示すように構成してもよい。即ち、各音導管3、3aの他端を、それぞれ湾曲板41(又は42)上の近接した位置、例えば同一箇所に、左右斜めに傾けて結合する。このように構成することによって、スピーカ1の拡声音レベルを増強させるだけでなく、例えば同図に矢印22、22aで示すように、ホーン4に対する各音導管3、3a(ドライバ2、2a)の左右方向の傾き角度を調整することによって、例えば図12に矢印52、52、・・・で示すように、指向特性(ポーラパターン)5をより微妙に制御することができる。更に、図12に矢印23、23aで示すように、ホーン4に対する各音導管3、3a(ドライバ2、2a)の前後方向の傾き角度を調整することによっても、上記指向特性5を制御できる。
【0056】
【実施例】
上述した図1及び図2に示すスピーカ1において、拡声音の周波数fをf=1250Hz、2500Hz、5000Hz、10000Hzとしたときのポーラパターンを、図13(a)乃至(d)にそれぞれ示す。同図に示すように、各周波数fにおいて、上述した図4に示すポーラパターン5と同様、スピーカ1の前方から左右斜め前方に至る範囲に対して一様の音圧レベルを与えることのできるポーラパターン、即ち直線状の聴衆エリア、例えば廊下等の天井スピーカとして設置するのに適したポーラパターンが得られることが判る。
【0058】
【発明の効果】
以上のように、請求項1記載の発明によれば、ホーンに対する音の供給源として線状音源を形成することによって、1台のドライバにより仮想的に2つの音源を設けたのと等価な状態を形成している。従って、ホーンに対する音導管の結合状態によって、上記2つの音源の指向性を制御することができ、ひいてはスピーカ全体の指向性を制御することができる。なお、上記2つの音源は仮想的なものであり、飽くまでもドライバは1台であるので、上述した従来技術のようなピークディップ200aは発生しない。従って、聴取者に対して不快感を与えたり、或いは拡声音が聞き取りがたい等という従来技術の問題点を解消できる。
【0060】
請求項3に記載の発明のホーンスピーカによれば、案内部による音の案内作用によって、音波の進行に不連続が生じるのを抑制できる。従って、拡声音の周波数特性に乱れが生じず、安定した拡声音を出力できるという効果がある。請求項4に記載の発明のホーンスピーカによれば、ホーンの前方に対する音波面の進行が、他の方法に比べて整合しやすくなる。
【0061】
請求項2、5に記載の発明のホーンスピーカによれば、複数のドライバを設けているので、より大きい音圧レベルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るホーンスピーカの一実施の形態を示す外観斜視図である。
【図2】同実施の形態を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は(a)のA−A断面図、(e)は(a)のB−B断面図である。
【図3】同実施の形態の指向特性を概念的に表わす図である。
【図4】図3から得られるスピーカ全体の指向特性(ポーラパターン)図である。
【図5】同実施の形態を天井スピーカに応用した場合のイメージ図である。
【図6】同実施の形態により指向特性を変化させる場合のイメージ図である。
【図7】同実施の形態の応用例を示す図である。
【図8】図7を実現するスピーカの外観斜視図である。
【図9】図8とは別の例の外観斜視図である。
【図10】同実施の形態の別の応用例を示す図である。
【図11】上記図10とは異なる例を示す図である。
【図12】上記図11のスピーカを天井に取り付けた状態を示す図である。
【図13】同実施の形態の実施例を示すもので、(a)は周波数fがf=1250Hz、(b)はf=2500Hz、(c)はf=5000Hz、(d)はf=10000Hzのときのポーラパターン図である。
【図14】従来の天井スピーカの使用状態を示す概略図である。
【図15】図14のスピーカを改良した従来例の概略図である。
【図16】図15のスピーカのポーラパターン図である。
【符号の説明】
1 スピーカ
2 スピーカドライバ
3 音導管
4 ホーン

Claims (5)

  1. ホーンと、音導管と、スピーカドライバとを備えるホーンスピーカであって、
    ホーンは、少なくとも後側で近接し、前側に放音用の開口部を形成する2つのホーン板を有すると共に、一方のホーン板には、後側で左右方向のほぼ中央位置に、前後方向に長辺が沿う長方形の貫通孔が設けられ、
    音導管は、一端を貫通孔に連結すると共に、他端をスピーカドライバに連結する
    ホーンスピーカ。
  2. 貫通孔には、ほぼ同じ長さの複数の音導管が連結され、各音導管の他端にはそれぞれスピーカドライバが連結された
    請求項1に記載のホーンスピーカ。
  3. 他方のホーン板には、貫通孔と対向する位置に、スピーカドライバから供給される音を所定方向に案内する案内部を設けた
    請求項1または2に記載のホーンスピーカ。
  4. 音導管は、ホーンの前後方向における断面が、貫通孔に向かうに従って大となる形状とする
    請求項1に記載のホーンスピーカ。
  5. ホーンと、第1及び第2音導管と、第1及び第2スピーカドライバと、案内部とを備えるホーンスピーカであって、
    ホーンは、後側で近接し、前側に放音用の開口部を形成する2つのホーン板を有すると
    共に、各ホーン板には、後側で左右方向のほぼ中央位置に、前後方向に長辺が沿う長方形の貫通孔が対向して設けられ、第1及び第2の音導管は、一端をホーン板の各貫通孔に連結すると共に、他端を第1及び第2のスピーカドライバに連結し、
    案内部は、2つの貫通孔の中間位置に設けられ、第1及び第2のスピーカドライバから供給される音を所定方向に案内する
    ホーンスピーカ。
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