JP3730778B2 - キャピラリー電気泳動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、キャピラリー電気泳動法(Capillary Electrophoresis、以下、単にCEという)によって分離された物質の測定器を備えて成るキャピラリー電気泳動装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上記のキャピラリー電気泳動装置は、それぞれ緩衝液を収容する陽極電極槽と陰極電極槽とにわたって、試料導入手段を備えたキャピラリーを連通連結する一方、キャピラリー内に液体の電気泳動を発生させる高電圧の直流電源を陰陽両極にわたって接続し、かつ、キャピラリー電気泳動法によって分離された物質の測定器を備えて成るもので、紫外線吸収、赤外吸収、蛍光、レーザ誘起、蛍光、電気化学、電気伝導度、質量分析、示差屈折率、円二色性、ラマンなどの測定が行われる。
【0003】
上記の測定に際して、陰陽両極にわたって直流の高電圧を印加して、長時間の電気泳動を行うと、電極槽内の緩衝液において電気分解が起こり、時間の経過と共に緩衝液のpHが変化する。
【0004】
基本的に試料導入側の緩衝液のpHが変化すると、印加電圧の変化に繋がる不具合があることから、一般には別途pH計を用意して、電極槽内の緩衝液のpHを定期的に検出し、この検出結果に基づいて印加電圧を補正したり、或いは、検出結果をライフ管理の基準にして緩衝液を交換したりしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、別途pH計を用意しての検出作業は非常に煩わしく、pH計の保管面でも問題があり、かつ、pHの測定対象がキャピラリー内を移動する試料でないことから、CEにて分離された物質を高精度で測定し難いのであった。
【0006】
本発明は、かゝる実情に鑑みて成されたものであって、その目的は、緩衝液のpH変化を、キャピラリー内を移動する試料を対象にして、インラインでリアルタイムに検出できるようにして、上記の不都合を解消し、CEにて分離された物質を高精度で測定することができるようにする点にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、上記したキャピラリー電気泳動装置において、前記キャピラリーの一部にpH計のガラス電極を組み込み、陰陽両極にわたる直流電圧の印加中断時にpHの検出を行わせるようにした点に特徴がある(請求項1)。
【0008】
上記の構成によれば、その都度、別途pH計を用意することなく、保管の手間も一切必要としないで、しかも、キャピラリー内を移動する試料を対象にして、緩衝液のpH変化をリアルタイムで検出することができるのであって、このpHの検出結果を基づいて、印加電圧の補正制御や緩衝液のライフ管理などを行うことが可能となり、かつ、CEにて分離された物質を高精度で測定することができるのである。
【0009】
上記のガラス電極としては、複数本の微小キャピラリーを集束し、かつ、リード線に接続された内極を微小キャピラリー間の隙間に挿通する一方、前記隙間に内部液を注入して、その両端側を封止したものが好適である(請求項2)。
【0010】
即ち、微小キャピラリーの複数本を集束させて、その集束キャピラリーによって、接液面積が極めて広い電極応答部を形成するのであって、これによって電極応答部のインピーダンスを大幅に低下させ得ることから、高入力絶縁回路が不要となり、しかも、微小キャピラリー自体が非常に薄膜であることから、応答性も飛躍的に高くなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はキャピラリー電気泳動装置(CE装置)の構成を概略的に示すもので、図中の1,2は、それぞれ緩衝液Aを収容する電極槽で、それぞれの緩衝液Aには、高電圧の直流電源3に接続された陽極4と陰極5とが浸漬され、陽極電極槽1に収容の緩衝液Aには正の電位が、かつ、陰極電極槽2に収容の緩衝液Aには負の電位が、印加されるようになっている。
【0012】
6は両電極槽1,2にわたって連通連結されたキャピラリーで、例えば内径が約100μmで長さが約100cmの石英ガラス製であり、陽極電極槽1に近い側に試料液Lの導入手段7を備えている。8はキャピラリー電気泳動法によって分離された物質の例えば紫外線の測定器で、試料導入手段7よりも下流側に設けられている。
【0013】
上記構成のCE装置によれば、直流電源3を例えば30kVで100μAまでの電流の強さで駆動すると、陽極電極槽1内の緩衝液Aがキャピラリー6内に流れ込んで、陰極電極槽2側に移動する(いわゆる電気泳動の現象)。
【0014】
この状態で試料導入手段7を動作させて、試料液Lをキャピラリー6内に適宜のタイミングで注入すると、図1において拡大部分Xに示すように、緩衝液Aと試料液Lとが互いに区画状態で存在する試料Sになって、キャピラリー6内を移動し、所定のCE分離を受けて、図1において拡大部分Yに示すように分離され、この分離された試料Sは、紫外線測定器8を経て陰極電極槽2に導かれるのであり、この間に、分離された試料Sの紫外線測定が行われるのである。
【0015】
尚、図1に示した構成は、電気浸透流を利用するものであるが、陰イオンの移動を利用する場合には、印加する電位を逆にする場合がある(例えば、「ぶんせき」1998年1月号、第49頁、図4参照)。
【0016】
上記構成のCE装置において、図2にも示すように、試料導入手段7と測定器8との間のキャピラリー6に、ガラス電極9と比較電極10とによるフロースルータイプのpH計11を組み込んで、電気泳動を停止する間に、即ち、陰陽両極1,2にわたる直流電圧の印加中断時に、キャピラリー6内を移動する試料を対象にして、インラインでリアルタイムに緩衝液AのpH検出を行わせるようにしている。
【0017】
具体的には、直流電圧の印加をパルス方式にして、所定の物質測定をパルス的に行う間に、又は、所定の物質測定を1バッチ毎に行う間に、試料液Lを含む緩衝液AのpH検出を行わせるようにしているのである。
【0018】
このpHの検出結果に基づいて、陰陽両極1,2に印加させる電圧の補正制御を行い、又は及び、検出結果を緩衝液Aのライフ予測の基準にして緩衝液Aを交換し、或いは、pH値をほゞ一定にするように緩衝液Aを補給することで、測定器8による物質の測定が高精度で達成されるのであり、かつ、そのpH検出をインラインで行わせるので、別途pH計を用意したりpH計を保管したりする手間が一切不要になる。
【0019】
上記のガラス電極9は、図3に示すように、複数本の微小キャピラリー12を集束し、かつ、リード線13に接続されたガラス電極内極(Ag/AgCl)14を、微小キャピラリー12,12間の隙間aに挿通する一方、前記隙間aに内部液(KCl)15を注入して、その隙間aの両端側を封止して成り、キャピラリー6の途中に液密状に介装させている。
【0020】
具体的には、図4に示すように、酸可溶性のガラス管(例えば1mol/L程度のHClやHNO3 によって可溶なホウケイ酸系ガラス)にSiO2 −Li2 O系ガラスによる複数本(数十本〜数百本)のキャピラリー素材管17を挿通させて、素材管17が10〜100μm程度の貫通孔bを有する薄膜(10μm程度)の微小キャピラリー12となるように、650〜700℃の温度下で引き延ばし加工(リ・ドロー加工)し、これを所定長さにダイシングする。
【0021】
次に、図5(A)に示すように、ダイシングされた電極素材Aのガラス管16両端部を除く範囲を、耐酸性の熱収縮チューブ18でマスキングし、1mol/L程度のHClやHNO3 の酸を用いてガラス管16の両端部16aを溶解して、キャピラリー3の両端側を露出させる。
【0022】
次いで同図(B)に示すように、露出させた微小キャピラリー12の一端側を樹脂19によってモールドする。この樹脂19のモールドにあっては、微小キャピラリー12の貫通孔bの断面積に比較して、キャピラリー12,12間の隙間aの断面積が極めて小さいことから、毛管現象によってモールド樹脂19は、微小キャピラリー12の貫通孔bよりも深く隙間aに入り込むことになるのである。
【0023】
そして、この樹脂モールドした電極素材Aを、同図(C)に示すように、真空ケース20内に持ち込み、かつ、微小キャピラリー12の他端側を、例えばゲル状(単なる液状であってもよい。)の内部液15に真空下で浸漬させ、ここで真空を解除して、キャピラリー12,12間の隙間aに内部液15を注入(キャピラリー12内に注入されても一向に構わず、後の工程で排除される。)する。
【0024】
次に、同図(D)に示すように、微小キャピラリー12の他端側からキャピラリー12,12間の隙間aに、リード線13が接続された内極14を挿通し、かつ、リード線13をガラス管16の端部で外方に折り曲げて、このリード線13を液密保持させるように、微小キャピラリー12の他端側を樹脂19によってモールドする。
【0025】
この樹脂19のモールドに際しては、樹脂19が微小キャピラリー12,12間の隙間aに入り込んで、内部液15を注入した隙間aの両端側が樹脂19で封止されるようにすることが肝要であり、従って、内部液15が隙間aに目一杯、注入されている時は、これを排除し、モールド樹脂19が、微小キャピラリー12の貫通孔bよりも深く隙間aに入り込むようにするのである。
【0026】
次に、同図(E)に示すように、樹脂19による隙間a両端側の封止だけを残して、微小キャピラリー12の両端側のみの封止をなくすように、即ち、微小キャピラリー12の貫通孔bによる流路のみを形成するように、微小キャピラリー12の両端側でモールド樹脂19と微小キャピラリー12とを切除(切除部分を仮想線jで示している。)して、貫通孔b内の内部液15を排除するのであり、以上をもって、隙間aに注入された内部液15が密封状態で互いに連通し、かつ、この内部液15に内極14が浸漬されたフロースルータイプのガラス電極9を構成しているのである。
【0027】
上記の構成におけるガラス電極9では、微小キャピラリー12の貫通孔bによる流路壁面が電極応答部を形成するのであって、この微小キャピラリー12の複数本を集束させたことで、それの接液面積が格段に広くなることから、電極応答部のインピーダンスを大幅に低下させることが可能となり、しかも、キャピラリー自体は非常に薄膜であることから、応答性も飛躍的に高くなる。
【0028】
尚、上記のガラス電極9の成形手順において、隙間aの一端側を樹脂19でモールドして、上記のcに相当する部分を切除し、次いで、内部液15を注入して内極14を隙間aに挿入し、この後、微小キャピラリー12の他端側を樹脂19でモールドして、このモールド樹脂19とキャピラリー12とを、上記のcに相当する部分で切除するようにしてもよい。
【0029】
また、隙間aの一端側をモールドする際に、その隙間aに内極14を挿通させるようにしてもよいのであって、ガラス電極9の成形手順に制約を受けることはないのである。
【0030】
更に、酸可溶性のガラス管16に複数本のキャピラリー素材管17を挿通させて、引き延ばし加工(リ・ドロー加工)し、これを所定長さにダイシングして、電極素材Aとしているが、所定の形状に形成された微小キャピラリー12の複数本を、熱収縮チューブで集束してダイシングし、この熱収縮チューブの両端側を切除して、これを電極素材Aとしてもよく、或いは、チューブ両端側を切除することなく、このチューブの一端側に切れ目を形成して、内極14に接続のリード線13を、この切れ目を通して外方に折り曲げるようにしてもよいのである。
【0031】
また、所定の形状に形成された所定長さの微小キャピラリー12の複数本を、熱収縮チューブで集束してダイシングしてもよいのであり、この際、熱収縮チューブの端部を微小キャピラリー12の端部から少し控えさせるようにすれば、チューブ両端側の切除や切れ目の加工などを不要にして、内極14に接続のリード線13を外方に折り曲げることができる。
【0032】
図2に戻って、比較電極10は、例えば次のように構成されている。即ち、CE装置の石英製キャピラリー6を利用して、このキャピラリー6に液絡部dを形成する一方、液絡部dを囲って環状の空間を形成するように、ガラス製の比較電極ボデイ21を前記キャピラリー6に密着保持させ、かつ、この比較電極ボデイ21内に、比較電極内部液22と、リード線23を導出させる状態で比較電極内極(Ag/AgCl)24とを設けて成る。
【0033】
この比較電極10と上記のガラス電極9とによって、所謂フロースルータイプのpH計が構成されるのであるが、フロースルータイプに構成された複合電極によるpH計をキャピラリー6の途中に介装して、pH検出を行うようにしてもよいのであり、また、比較電極10については、これをキャピラリー6に組み込むことなく、陽極電極槽1または陰極電極槽2の緩衝液Aに浸すようにしてもよいのである。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、別途pH計を用意することなく、保管の手間も一切必要としないで、しかも、キャピラリー内を移動する試料を対象にして、緩衝液のpH変化をリアルタイムで検出することができ、従って、このpHの検出結果を基づいて、印加電圧の補正制御や緩衝液のライフ管理などを行うことが可能となり、かつ、CEにて分離された物質を高精度で測定することができるのである。
【0035】
特に請求項2記載の発明によれば、低インピーダンスで高入力絶縁回路が不要なガラス電極を、応答性の高いものにして提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】フロースルータイプのpH計を組み込んだCE装置の概略構成図である。
【図2】模式的に示したフロースルータイプのpH計の断面図である。
【図3】電極の横断面図である。
【図4】一部を取り出して拡大図示したリ・ドロー加工による電極素材の成形説明図である。
【図5】(A)〜(E)はガラス電極の一成形手順を示し、(A)はガラス管の両端部を溶解した電極素材の断面図、(B)は樹脂によるキャピラリー一端側のモールド断面図、(C)は真空引きによる内部液の注入説明図、(D)は樹脂によるキャピラリー他端側のモールド断面図、(E)はモールド部分の切除説明図である。
【符号の説明】
1…陽極電極槽、2…陰極電極槽、3…直流電源、4…陽極、5…陰極、6…キャピラリー、7…試料導入手段、8…測定器、9…ガラス電極、10…比較電極、11…pH計、12…微小キャピラリー、13…リード線、14…内極、15…内部液、a…隙間。

Claims (2)

  1. それぞれ緩衝液を収容する陽極電極槽と陰極電極槽とにわたって、試料導入手段を備えたキャピラリーを連通連結する一方、キャピラリー内に液体の電気泳動を発生させる高電圧の直流電源を陰陽両極にわたって接続し、かつ、キャピラリー電気泳動法によって分離された物質の測定器を備えて成るキャピラリー電気泳動装置において、前記キャピラリーの一部にpH計のガラス電極を組み込み、陰陽両極にわたる直流電圧の印加中断時にpH検出を行わせることを特徴とするキャピラリー電気泳動装置。
  2. 前記ガラス電極が、複数本の微小キャピラリーを集束し、かつ、リード線に接続された内極を微小キャピラリー間の隙間に挿通する一方、前記隙間に内部液を注入して、その両端側を封止して成る請求項1記載のキャピラリー電気泳動装置。
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