JP3730659B2 - ナフタリンジカルボン酸のジエステルの製造方法 - Google Patents
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Description
本発明はナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルの製造方法に関するものである。より詳細には、本発明はナフタリンジカルボン酸を低分子量アルコールと、高められた反応温度で連続配置された反応帯域内において、過度の副生物生成なしにナフタリンジカルボン酸からそのジエステルへの高い反応速度および高い転化率を与える条件下に反応させることによる、ナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルを製造するための改良法に関するものである。
発明の背景
ナフタリンジカルボン酸のジエステルは多様なポリマー材料、たとえばポリエステルおよびポリアミドの製造に有用である。特に有用なジエステルの1つは、ジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレート(DM−2,6−NDC)である。たとえば、ジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートはエチレングリコールと縮合させて、高性能ポリエステル材料であるポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)(PEN)を製造することができる。PENから製造された繊維およびフィルムは、たとえばポリ(エチレンテレフタレート)と比較してかなり向上した強度および卓越した熱的性質を示す。このためPENは、市販品、たとえば磁気記録テープおよび電子部品の製造に使用しうる薄膜の製造のために優れた材料である。さらにその卓越したガス拡散抵抗性、特に二酸化炭素、酸素および水蒸気の拡散に対する抵抗性のため、PENから製造されたフィルムは食品容器、特にいわゆる″高温充填(hot fill)″食品容器の製造に有用である。PENは、たとえばタイヤコードの製造に有用な高力繊維の製造にも使用しうる。
DM−2,6−NDCは2,6−ナフタリンジカルボン酸(2,6−NDA)をメタノールでエステル化することによって、極めて容易に製造される。2,6−NDAは、2,6−ジアルキル−または2−アルキル−6−アシル−ナフタリン化合物を酸化反応のための酸素源としての分子状酸素により、液相重金属触媒酸化することによって製造するのが好都合である。この酸化反応に際して、不純物、たとえば2−ホルミル−6−ナフトエ酸(FNA)、トリメリット酸(TMLA)が、および酸化促進剤として臭素を用いる場合には各種の臭素化化合物が生成する。場合により2,6−NDAをそのままPENの製造に用いることが望ましいが、その融点が高いため(>300℃、分解)、および通常の溶剤中における溶解度が著しく低いため、2,6−NDAは標準的な技術、たとえば吸着または再結晶により精製することは困難である。2,6−NDAを精製する際のこれらの難点は、2,6−NDAをそのジメチルエステルであるDM−2,6−NDCに変換することにより一部は克服される。DM−2,6−NDCは蒸留することができ、かつメタノールなどの溶剤から、または1種または2種以上の溶剤から再結晶することができる。
ナフタリンジカルボン酸のジエステル、たとえばジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートを製造するための大規模な商業的方法については、エステル化反応に最小量のアルコール成分を用い、かつ最も安価な反応装置を用いて、連続的様式で高い反応速度においてジエステルを製造することが極めて有利である。ナフタリンジカルボン酸、たとえば2,6−ナフタリンジカルボン酸をエステル化するための改良法が依然として求められている。本発明はこのような改良法を提供する。
ナフタリンジカルボン酸のジエステルを製造する方法は知られている。代表的な方法においては、ナフタリンジカルボン酸、たとえば2,6−ナフタリンジカルボン酸をメタノールにより、120−220℃で硫酸触媒を用いてエステル化する。米国特許第4,003,948号明細書(ヤマシタら)には、より高温での方法が示されており、その場合2,6−ナフタリンジカルボン酸はメタノールにより、エステル化触媒の存在下または不在下で連続的にエステル化され、2,6−ナフタリンジカルボン酸は約4,000cm2/gの比表面積を有する固体粒子の形でエステル化反応帯域へ供給される。そこには、連続操作のためには棚段塔または撹拌式容器型の反応器を使用しうることが示されている。
日本国特許50−83362号公報(1975)には、エステル化反応器内の液相のメタノール濃度が20重量%である状態で2,6−ナフタリンジカルボン酸をメタノールと反応させることにより2,6−ナフタリンジカルボン酸を連続的にエステル化する方法が示されている。この50−83362号公報(1975)には、ジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレート中の2,6−ナフタリンジカルボン酸の懸濁液を段型カラム反応器の最上段に供給するのが望ましいこと、およびメタノールは段型カラムの最下段より低い位置に供給すべきであることが示されている。その公報に提示された例には、段型反応器への反応体のこのような向流添加が記載され、その場合2,6−ナフタリンジカルボン酸は反応器に添加される前にその重量の4倍のジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートと共にスラリー化される。従ってこのような方法は大量の生成物をエステル化反応器へ再循環する必要がある。2,6−ナフタリンジカルボン酸をエステル化する方法は日本国特許48−96574(1978)、50−76055(1975)、50−76057(1975)、および50−95253(1975)号公報にも示されている。最後に、テレフタル酸からジメチルテレフタレートを製造する先行技術方法は、2コンパートメント撹拌槽型反応器をプラグ流型反応器と組み合わせて、本質的に液体充填(liquid−fill)条件下に約1時間の長い滞留時間で、約260℃の反応温度において用いている。
発明の概要
本発明は、低分子量アルコール、ナフタリンジカルボン酸、およびナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルを含む液相反応混合物を、高められた温度で、連続配置された反応帯域に導通し、その際ナフタリンジカルボン酸および低分子量アルコールを上流の反応帯域に導入し、少なくとも1個の反応帯域を撹拌し、そしてナフタリンジカルボン酸と低分子量アルコールの反応により生成したナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルを含む生成物を下流の反応帯域から取り出すことを含む、ナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルを製造するための連続法である。
ナフタリンジカルボン酸、たとえば2,6−ナフタリンジカルボン酸のエステル化はテレフタル酸などの芳香族ジ酸のエステル化よりはるかに困難であることは十分に認識されている。たとえば2,6−ナフタリンジカルボン酸はアルコール、たとえばメタノール中における溶解度が極めて低く、かつアルキルまたはアシル置換ナフタリン化合物の金属触媒酸化により製造した場合には酸化触媒金属が該酸と共にエステル化反応に随伴する。不溶性の金属触媒部分は、低溶解度の2,6−ナフタリンジカルボン酸と同様にエステル化反応器内に沈着する固体を生じ、反応器を閉塞する可能性がある。しかし本発明方法はこれらの不溶性成分の不都合な作用を最小限に抑える。
さらにナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルを製造するために採用される反応条件下、特に硫酸などの強酸触媒を用いる先行技術方法では、アルコール、たとえばメタノールがジアルキルエーテル、たとえばジメチルエーテルに変換される。このようなジメチルエーテルの形成はさもなければ再循環されるはずのメタノールを消費し、またジメチルエーテルは廃棄の問題をも提示する。さらにジメチルエーテルと同時に形成される水はエステル化反応の平衡制御を制限する。しかし本発明を用いると、過度の量のジメチルエーテルを形成することなしにナフタリンジカルボン酸、たとえば2,6−ナフタリンジカルボン酸をメタノールでエステル化することができる。
【図面の簡単な説明】
図面は本発明方法を実施するために好ましい反応器の断面図を示す。
発明の詳細な記述
本発明方法においては、ナフタリンジカルボン酸を低分子量アルコールにより、高められた温度で、少なくとも2個、好ましくは3個以上の連続配置された反応帯域を用いてエステル化し、その際これらの連続配置された反応帯域は少なくとも一部の反応混合物を1反応帯域から次の反応帯域へ流入させる手段を備えている。本発明者らは、このような反応器の配列によってナフタリンジカルボン酸、たとえば2,6−ナフタリンジカルボン酸が低分子量アルコール、たとえばメタノールによって、速やかにエステル化されることを確認した。
また本発明方法においては、アルコールおよびナフタリンジカルボン酸が並流方式で添加される。すなわちアルコールおよびナフタリンジカルボン酸を上流の1個または2個以上の反応帯域に添加し、そして生成エステルを下流の反応帯域から取り出す。この様式を採用すると、高融点の、一般に不溶性のナフタリンジカルボン酸をアルコールによりスラリー化することができ、これにより先行技術によるエステル化反応混合物への供給原料アルコールとナフタリンジカルボン酸の向流添加に要求されるように、スラリー化媒質としての大過剰のナフタリンジカルボン酸ジアルキルエステルの必要性が除かれる。
本発明方法の好ましい操作形態においては、反応混合物に添加されたアルコール、一般にメタノールの大部分が、連続配置された反応帯域内で気相または蒸気相であるように反応条件が選ばれ、これによりアルコールが速やかに反応帯域を貫流移動することができる。これらの反応条件での操作は、添加されたすべてのアルコールが反応混合物の液相中に存在する方法と比較して、より小型のエステル化反応器の使用を可能にする。重要なことには、連続配置された反応帯域を貫流移動する気体状アルコールの存在により、エステル化反応から水を効果的に除去し、これによって目的のジアルキルエステルがより速やかに形成されるように平衡を移動させることができる。反応混合物に添加された大部分のアルコールが連続配置された反応帯域内に気体または蒸気相で存在する場合、ジアルキルエーテル、たとえばジメチルエーテルの生成を減少させることができる。
本発明方法においては、少なくとも1個の反応帯域がそこに収容されたエステル化反応混合物を撹拌すべく設備されている。撹拌は少なくとも1個の反応帯域内で行われればよいが、各反応帯域がエステル化反応混合物の固体成分の懸濁を促進するための撹拌手段を備えており、これにより存在する液相と固相の接触を促進し、かつより重要なことには存在する固体がエステル化反応中に沈殿するのを防止することが好ましい。エステル化反応器中に気相のアルコールが存在する場合、撹拌によって液相と気相の接触が改善される。液相と気相の接触が改善されることにより、気体状アルコールが液相に溶解し、かつ水が液相から気相へ移行しうる。このアルコールの添加および水の除去によって、エステル化反応が促進される。
本発明方法に用いられるナフタリンジカルボン酸は1,2−、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−、1,7−、1,8−、2,3−、2,6−、または2,7−ナフタリンジカルボン酸から選ばれるが、2,6−および2,7−ナフタリンジカルボン酸が好ましい。2,6−ナフタリンジカルボン酸が極めて好ましい。これらのナフタリンジカルボン酸を製造するための既知の方法はいずれも採用しうる。本発明方法は特に、ジアルキルまたはアルキル−アシルナフタリン化合物の液相、重金属触媒酸化により製造されたナフタリンジカルボン酸のエステル化に適している。液相、重金属触媒酸化反応により酸化しうるこれらのジアルキルまたはアルキル−アシルナフタリン化合物には下記構造式の成分が含まれる:
式中のR1およびR2は、独立して1−約6個の炭素原子を有するヒドロカルビル基、2−約6個の炭素原子を有するアシル基、またはホルミル基から選ばれる。これらのナフタリン化合物の個々の例には、2,6−ジメチルナフタリン、2−メチル−6−アセチルナフタリン、2−メチル−6−ブチルナフタリン、1,4−ジメチルナフタリン、2,3−ジメチルナフタリン、2,6−ジエチルナフタリン、2,6−ジイソプロピルナフタリンなどが含まれる。シケンガらの米国特許第5,034,561;5,030,781および4,950,825号明細書にはジメチルナフタリンの製法が示され、ハーゲンらの米国特許第5,026,917号明細書には2−メチル−6−アセチルナフタリンの製法が示され、ハーゲンらの米国特許第4,873,386号明細書には2,6−ジエチルナフタリンの製法が示されている。
ナフタリンジカルボン酸を製造するための極めて好ましい芳香族の供給化合物は2,6−ジメチルナフタリンである。2,6−ジメチルナフタリンの酸化により、2,6−ナフタリンジカルボン酸が生成し、これは前記のように高性能ポリエステルPENの製造に適したモノマーである。さらに2,6−ジメチルナフタリンは、たとえば2,6−ジエチル−または2,6−ジイソプロピルナフタリンより優れている。それは分子量がより低く、かつ2,6−ジアルキルナフタリン化合物の一定重量当たりの2,6−ナフタリンジカルボン酸の収率は2,6−ジメチルナフタリンの場合の方が2,6−ジエチル−または2,6−ジイソプロピルナフタリンの場合より高いからである。
アルキル−またはアシル置換芳香族化合物−−たとえば前記のナフタリン化合物−−を液相、重金属触媒酸化して対応する芳香族カルボン酸となす方法は、当技術分野で周知である。たとえば米国特許第4,950,786;4,933,491;3,870,754および2,833,816号明細書にこのような酸化法が示されている。一般に適切な重金属系酸化触媒には、原子番号約21−約82の金属が含まれる。好ましい酸化溶剤は2−約8個の炭素原子を有する低分子量モノカルボン酸であり、好ましくはそれは酢酸、または酢酸と水の混合物である。促進剤、たとえば2−約6個の炭素原子を有する低分子量ケトン、または1−約6個の炭素原子を有する低分子量アルデヒドも使用しうる。当技術分野で知られている臭素系の促進剤化合物、たとえば臭化水素、分子状臭素、臭化ナトリウムなども使用しうる。酸素分子の供給源も必要であり、それは一般に空気である。
ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物、特に2,6−ジメチルナフタリンを酸化してナフタリンジカルボン酸となすために特に適した方法は、アルバーチンスらの米国特許第4,933,491号明細書に示されている。ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物のこのような液相酸化反応に適した溶剤には、低分子量カルボン酸、たとえば安息香酸、いずれかの脂肪族C2−C6モノカルボン酸、たとえば酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−バレリアン酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、および水が含まれる。好ましくは溶剤は水と酢酸の混合物であり、この混合物は好ましくは水1−10重量%である。ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物のこのような液相酸化反応に用いられる酸素分子の供給源は、酸素分子の含量が空気のものから酸素ガスにまで及びうる。経済性の理由で空気が好ましい酸素分子供給源である。
ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物のこのような液相酸化反応に用いられる触媒は、臭素含有化合物、ならびに少なくとも1種のコバルト−およびマンガン−含有化合物からなる。好ましくは触媒は、コバルト−、マンガン−および臭素−含有成分からなる。液相酸化におけるジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物に対する触媒のコバルト成分中のコバルト(コバルト元素として計算)の比率は、ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物のグラムモル当たり約0.1−約100ミリグラム原子(mga)である。液相酸化における触媒のコバルト成分中のコバルト(コバルト元素として計算)に対する触媒のマンガン成分中のマンガン(マンガン元素として計算)の比率は、コバルトのmga当たり約0.1−約10mgaである。液相酸化における触媒のコバルトおよびマンガン成分中のコバルトおよびマンガン(コバルト元素およびマンガン元素として計算)全量に対する触媒の臭素成分中の臭素(臭素元素として計算)の比率は、コバルトおよびマンガン全量のmga当たり約0.1−約1.5mgaである。
コバルトおよびマンガン成分はそれぞれ、反応器内で溶剤中に供給する可溶性形態のコバルト−、マンガン−および臭素を供給するその既知のイオン形態または結合形態のいずれで供給されてもよい。たとえば溶剤が酢酸媒質である場合、コバルトおよび/またはマンガンの炭酸塩、酢酸塩・4水和物、および/または臭化物を用いることができる。0.1:1.0−1.5:1.0の臭素:コバルトおよびマンガン全体のmga比が、適切な臭素源、たとえば臭素元素(Br2)、または臭化物イオン(たとえばHBr、NaBr、KBr、NH4Brなど)、または酸化の操作温度で臭化物イオンを供給することが知られている有機臭化物(たとえばブロモベンゼン、ベンジルブロミド、テトラブロモエタン、エチレンジブロミドなど)によって得られる。臭素分子および臭素イオン中の全臭素が、0.1:1.0−1.5:1.0の臭素:コバルトおよびマンガン元素mga比を満たすために用いられる。酸化の操作温度で有機臭化物から遊離する臭素イオンは既知の分析手段によって、容易に測定することができる。たとえばテトラブロモエタンは335−440°F(168−227℃)で臭素約3有効グラム原子/グラムモルを与えることが認められた。
操作に際して酸化反応器が維持される最小圧力は、ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物および少なくとも70重量%の溶剤を実質的に液相に維持する圧力である。気化したため液相中にないジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物および溶剤は、酸化反応器から蒸気−気体混合物として取り出され、凝縮され、次いで酸化反応器へ戻される。溶剤が酢酸−水混合物である場合、酸化反応器内の適切な反応ゲージ圧は約0−約35気圧、一般に約10−約30気圧である。酸化反応器内の温度範囲は一般に約250°F(121℃)、好ましくは約350°F(177℃)から、約450°F(232℃)、好ましくは420°F(216℃)までである。酸化反応器内の滞留時間は一般に約20−約150分、好ましくは約30−約120分である。
酸化はバッチ方式、連続方式または半連続方式で実施することができる。バッチ方式の場合、ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物、溶剤および触媒成分をまずバッチ式で反応器に導入し、次いで反応器内容物の温度および圧力を酸化反応の実施に望ましい水準にまで高める。空気を反応器に連続的に導入する。酸化反応を実施したのち、たとえばすべてのジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物が完全に反応器に導入されたのち、反応器内容物の温度を高める。連続方式の場合、ジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物、空気、溶剤および触媒を連続的に反応器に導入し、溶剤に溶解したナフタリンジカルボン酸および触媒成分からなる生成物流を反応器から取り出す。半連続方式の場合、溶剤および触媒をまず反応器に導入し、次いでジアルキルまたはアルキルアシルナフタリン化合物、および空気を連続的に反応器に導入する。大規模な商業的操作のためには、連続酸化法を用いることが好ましい。供給材料として2,6−ジメチルナフタリンを用いるこのような方法の場合、モノカルボン酸系溶剤:2,6−ジメチルナフタリンの重量比は、好ましくは約2:1−約12:1であり、マンガン:コバルトのmga比は約5:1−約0.3:1であり、臭素:コバルトおよびマンガン全量のmga比は約0.3:1−約0.8:1であり、コバルト元素およびマンガン元素として計算したコバルトおよびマンガン全量は溶剤の重量に対して少なくとも約0.40重量%であり、酸化反応温度は約370−約420°F(188−216℃)である。酢酸が2,6−ジメチルナフタリンのこのような好ましい連続酸化に極めて適切な溶剤である。
酸化反応ののち、反応混合物からのナフタリンジカルボン酸の結晶化を促進するために、酸化反応混合物を一般に冷却し;固相を液相から分離するのに適したいずれかの手段により、たとえば遠心分離などにより、ナフタリンジカルボン酸を酸化反応混合物から分配(すなわち分離)する。分離したナフタリンジカルボン酸を周囲温度または好ましくは高められた温度の溶剤1種または2種以上で洗浄することができる。洗浄溶剤が水、酢酸、もしくは他の低分子量脂肪族カルボン酸、または水と低分子量カルボン酸の混合物であることが極めて適切である。粗製ナフタリンジカルボン酸をエステル化前に乾燥させてもよい。
本発明のエステル化法に用いられるアルコール類は1−約6個の炭素原子を有する低分子量アルコール、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノールなどである。価格の点から、および生成エステルの分子量がより低いことから、ナフタリンジカルボン酸のエステル化法に用いられるアルコールはメタノールであることが極めて好ましい。ナフタリンジカルボン酸と反応させるメタノールその他の低分子量アルコールの量は、主割合のナフタリンジカルボン酸をジエステルに変換するのに十分な量である。たとえば反応器に添加されるアルコールとナフタリンジカルボン酸の重量比は約1:1−約10:1、より好ましくは2:1−約6:1が適切である。遊離カルボン酸基に対して大過剰モルのアルコールがナフタリンカルボン酸からジエステルへのより完全な変換をもたらす可能性はあるが、大量のアルコールは大容量の反応混合物を用いる必要があり、これはより大型の反応器またはより低い処理量を必要とする。さらに過剰のメタノールを分離および再循環しなければならない。従って比較的低いアルコールとナフタリンジカルボン酸の重量比、たとえば約1:1−約10:1、より好ましくは2:1−約6:1を採用することがより有利である。
アルコールおよびナフタリンジカルボン酸は、エステル化反応器の連続配置された反応帯域からナフタリンジカルボン酸のジエステルを含む生成物混合物を取り出す反応帯域の上流にある1または2以上の反応帯域に添加される。アルコールおよびナフタリンジカルボン酸は、好ましくは混合物として添加される。しかしナフタリンジカルボン酸と低分子量アルコールを別個に添加してもよい。あるいは一部のアルコールのみをナフタリンジカルボン酸と共に添加し、残りのアルコールを別個に添加してもよい。このように本発明方法においては供給成分であるアルコールおよびナフタリンジカルボン酸供給成分をエステル化反応混合物に添加するのに適したいかなる方法も考慮される。しかしナフタリンジカルボン酸をアルコールとのスラリーとして反応混合物に添加することが極めて好ましく、このスラリーを反応混合物にポンプ送入その他の方法で添加することができる。固体ナフタリンジカルボン酸のスラリー化にアルコールを用いることにより、ナフタリンジカルボン酸のスラリー化に再循環ジエステルを用いる必要なしに、ナフタリンジカルボン酸を反応混合物に添加することができる。これは本発明の利点の1つである。アルコールとナフタリンジカルボン酸が並流ではなく向流で添加される先行技術方法においては、ナフタリンジカルボン酸をかなり大量のジエステルによりスラリー化しなければならない。従って新たなナフタリンジカルボン酸のスラリー化媒質を供給するために、粗製ジエステル生成物の大部分をプロセスの前端へ再循環する必要があろう。このような再循環は非効率的な操作である。これに対しアルコールとナフタリンジカルボン酸を並流で添加する本発明においては、エステル化反応のための液体媒質を供給するのに十分なナフタリンジカルボン酸ジエステルへの転化率が最初の上流反応帯域で得られる。スラリー中のアルコールとナフタリンジカルボン酸の重量比は約1:1−約10:1、好ましくは約1.5:1−約6:1が適切である。
好ましい方法においては、アルコールおよびナフタリンジカルボン酸の混合物を連続配置されたエステル化反応帯域に添加する前に、まず混合物を予熱する。撹拌槽型反応器、管状熱交換器、またはそれらの組み合わせが予熱器として機能しうる。予熱器はアルコールおよびナフタリンジカルボン酸の混合物を一般にエステル化温度より低い温度に加熱する。たとえば約300−約700°F(約149−約371℃)の温度が適切である。メタノールを用いる場合、予熱器の温度はメタノールの臨界温度より低いことが好ましい。エステル化反応混合物に装填されるアルコールはすべて予熱器を通して添加することができる。あるいは混合物に装填される全アルコールのうち一部のみを予熱器を通して混合物に添加し、残りを直接に、または別個に予熱器を通してエステル化反応混合物に添加する。
ナフタリンジカルボン酸を、ナフタリンジカルボン酸のモノアルキルエステル、ナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステル、またはナフタリンジカルボン酸のモノ−およびジアルキルエステルの混合物と共にエステル化反応混合物に、または予熱器を用いる場合は予熱器に添加することもできる。ナフタリンジカルボン酸のモノ−またはジアルキルエステル(またはそれらの混合物)を用いる場合、これらとナフタリンジカルボン酸の重量比は約0.01:1−約1:1、より好ましくは約0.1:1−約0.5:1が適切である。ナフタリンジカルボン酸を反応器または予熱器に添加する前に、それをナフタリンジカルボン酸のモノ−および/またはジアルキルエステルと予め混合することができる。あるいはナフタリンジカルボン酸をナフタリンジカルボン酸のモノ−および/またはジアルキルエステルの添加とは別個に、反応器または予熱器に添加することもできる。
本発明者らは、約500−約700°F(約260−約371℃)、好ましくは約540−約660°F(約282−約349℃)のエステル化反応温度で、出発ナフタリンジカルボン酸またはジアルキルエステル生成物の著しい分解なしに速やかな反応速度が得られることを確認した。これらの高い反応温度ではエステル化反応が速やかであり、長い滞留時間を必要としない。それぞれの反応帯域は同じか、または異なる温度で操作することができる。
エステル化反応に用いられる圧力は約5−約250;好ましくは約20−約150絶対気圧が適切である。本発明方法を実施する際には、反応器が完全に液体充填状態ではない、すなわちすべてのアルコールが液相で存在するのではなく、少なくとも若干のアルコールが反応器内に気相で存在する反応条件、たとえば温度および圧力を採用することが好ましい。この好ましい様式を実施する際に、連続した反応帯域ではなく、1個の反応帯域を用いることができる。しかし少なくとも2個の連続した反応帯域を用いることが好ましい。従ってこの好ましい連続配置された帯域において、好ましくは、1個または2個以上の反応帯域が、反応帯域内を貫流移動する、好ましくは反応混合物の液体成分中を貫流移動する気体状のアルコール流を含み、液体成分は主として生成物ナフタリンジカルボン酸ジアルキルエステル、および種々の量のナフタリンジカルボン酸モノアルキルエステルである。アルコールの一部が気相で存在する条件内で操作する場合、エステル化反応を完了させるためにはるかに少ない全反応器容量を採用しうることを本発明者らは確認した。アルコールの一部が気相で存在する条件下では、気体状アルコールが連続配置された帯域内を極めて速やかに貫流移動することができ、反応器容量をより効果的に利用しうる。その結果、はるかに小さな反応器容量を採用することができる。さらに1個の反応帯域、または好ましくは連続配置された帯域内を貫流移動するアルコール、好ましくはメタノールが、エステル化反応に際して生成した水の一部を排除し、ジ酸から目的のジアルキルエステルへのより高い転化率を得ることができる。さらに本発明者らは、反応混合物に添加されたアルコールの主部分が気体で存在する状態でエステル化反応を実施すると、極めて低いジアルキルエーテル生成が起こるにすぎないことを確認した。大部分のジアルキルエーテル生成は、恐らく酸性のエステル化反応混合物により触媒された液相反応において起こると思われる。反応条件、たとえば反応温度および反応圧力を適宜調整することにより、反応混合物に装填されたアルコールの約50−約99%、好ましくは約80−約98%がエステル化反応器内で液体ではなく蒸気または気体の状態で存在するように操作するのが極めて有利である。従って反応条件を適宜調整することにより、かつエステル化反応で消費されたアルコールを補正したのち、エステル化反応帯域内を上流反応帯域から下流反応帯域へ、好ましくは液相のエステル化反応混合物中を通過する気体状のアルコール、好ましくはメタノールの量(ポンド/時)と、反応混合物へのアルコールの添加量(ポンド/時)との比率は、約0.5:1−約0.99:1、好ましくは約0.8:1−約0.98:1である。言い換えると、エステル化反応器の反応帯域を出る全アルコールの好ましくは約50−約99%、より好ましくは約80−約98%が気体の状態で存在する。このような操作に適した圧力は約5−約250絶対気圧、および約500−約700°F(約260−約371℃)の温度である。
本発明方法によるエステル化反応は1種または2種以上の標準的エステル化触媒を用いて、または用いずに実施することができる。しかしエステル化触媒を用いないことが好ましい。本発明方法の利点の1つは、エステル化触媒を添加せずにエステル化反応を実施しうることである。従って本発明方法の好ましい操作様式は、エステル化触媒が実質的に、より好ましくは完全に不在の状態でエステル化反応を実施することである。1種または2種以上の標準的エステル化触媒を含めるべきである場合、三酸化モリブデン、亜鉛、酸化亜鉛、チタン酸エステルまたは有機スズ化合物を用いることが好ましい。適切な金属系エステル化触媒の選択については英国特許第1,437,897号明細書に示されている。
本発明方法のエステル化反応混合物の液体部分の滞留時間は、約0.1−約10時間、より好ましくは約0.1−約2時間が適切である。
本発明方法においては、エステル化反応を実施するために連続した2個の反応帯域を用いることができる。好ましくは約2−約20個、極めて好ましくは約3−約15個の反応帯域が連続して用いられる。これらの反応帯域は、エステル化反応混合物が帯域間を最初の反応帯域から最後の反応帯域へ流動しうるように設置される。反応帯域内に存在する固体を懸濁させるために、少なくとも1個の反応帯域を撹拌する。好ましくはすべての反応帯域を液相の撹拌に適した撹拌機その他の手段で撹拌する。反応帯域内で液相を循環させるポンプも反応帯域の内容物を撹拌するために使用しうる。反応帯域は槽型反応器、好ましくは撹拌槽型反応器、プラグ流反応器、またはこれらの反応器もしくは他の反応器の組み合わせが適切である。後記に詳述するように、連続配置された反応帯域の特に好ましい形態は、エステル化反応混合物が下方のコンパートメントから上方のコンパートメントへ通過しうる仕切り板その他の分離手段により分離された2個以上のコンパートメントを備えた垂直配列コンパートメント型反応器である。後記のように、複数のコンパートメントを備えたこのようなコンパートメント型反応器1個を用いることができる。あるいは本発明方法による連続配置された反応帯域を得るために、このようなコンパートメント型反応器を2個以上連続して用いることができる。反応帯域に用いる個々の装置とは関係なく、反応器は本発明方法に用いられる温度および圧力に耐え得なければならない。また反応器は腐食性のエステル化反応混合物への暴露の作用に耐えるものでなければならない。従ってエステル化反応混合物に暴露される反応器の部品は、たとえば316ステンレス鋼またはニッケル基合金、たとえばハステロイCなどの材料で作成することができる。反応帯域は等しいか、または異なる容量をもつことができる。好ましくは第1反応帯域は後続帯域より大きく、これによってより長い滞留時間、およびナフタリンジカルボン酸からジエステルへのより大きな転化率を提供する。
好ましい反応器の形状は、少なくとも上方および下方コンパートメントに分割され、各コンパートメントが反応帯域として機能する、垂直に配置された円筒形容器である。反応器は好ましくは約2−約20個、より好ましくは約3−約15個のコンパートメントに分割されている。各コンパートメントは、反応器をコンパートメントに分割するためのプレートその他の適切な手段で隣接コンパートメントと分離されている。プレートその他の仕切り手段はそれぞれ、エステル化反応混合物が反応器内を上方へ通過する間に、エステル化反応混合物の液体、固体、および存在する場合には気体成分が1コンパートメントから次へ通過することができる開口を少なくとも1個備えている。低分子量アルコールおよびナフタリンジカルボン酸は下方のコンパートメントに添加され、ナフタリンジカルボン酸のジエステルを含有する反応生成物混合物は上方のコンパートメントから取り出される。仕切り板の面積に対比した開口の面積は、反応混合物が過度の背圧を生じることなく開口を通過し、なおかつエステル化反応混合物が前のコンパートメントへ実質的に逆流するのを防止しうるものである。仕切り板の適切な開口は、仕切り板その他の分割手段の面積の約0.1−約10%を占める。好ましい形態においては、撹拌機軸が反応器内を垂直方向に、好ましくは反応器(これが円筒形の容器である場合)の中心線に沿って走行し、かつ少なくとも1個の撹拌機が少なくとも1個、好ましくはすべてのコンパートメント内で撹拌機軸に取り付けられている。各コンパートメント内に配置された撹拌機は、不溶性物質をエステル化反応混合物に混合および懸濁させる。さもなければ不溶性物質は沈着物を生じ、これが反応器容量を減少させ、エステル化反応混合物の流れを著しく制限し、最終的には反応器を閉塞する可能性がある。反応器は1または2以上のコンパートメント内に配置されたじゃま板を備えていてもよい。1形状は、反応器の内表に対して法面であって、反応器全長にわたって走行するように配置されたじゃま板を備えたものである。他の形状のじゃま板も適しており、たとえばじゃま板は各コンパートメントの底から一部にまで伸びていてもよい。
図面の詳細な説明
図面は、本発明方法に用いる好ましいエステル化反応装置を断面図で示す。下記の説明において、エステル化されるナフタリンジカルボン酸は2,6−ナフタリンジカルボン酸であり、アルコールはメタノールである。図面を参照すると、2,6−ナフタリンジカルボン酸(2,6−NDA)、メタノール(MeOH)およびジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレート(DM−2,6−NDC)のそれぞれ4:1:0.2重量比のスラリー状混合物をポンプ10に添加し、これがスラリーを熱交換器20へ送入し、これはスラリーの温度をエステル化反応混合物の温度より低く、かつ一般にメタノールの臨界温度より低い温度にまで高める。熱交換器20は管状熱交換器または撹拌式槽型反応器であってもよい。熱交換器20から排出されたスラリーはライン30を通ってコンパートメント型エステル化反応器40に進入する。反応混合物は反応器40内で仕切り板60−63の開口50−53を通ってコンパートメント内を上方へ貫流する。下方のコンパートメント70内に存在する反応混合物は、熱交換器80により反応温度にまで加熱される。エステル化反応混合物は、ポンプ90およびライン85により、下方のコンパートメント70から熱交換器80を通って循環する。反応器内のエステル化反応混合物は、撹拌機軸100を接続した撹拌機91−96により撹拌される。撹拌機軸100は変速モーター110により回転する。DM−2,6−NDCを含む生成物混合物は反応器40から生成物混合物口120を通して取り出され、気体状反応生成物、たとえばメタノール、水、およびジメチルエーテル(これが生成する場合)は蒸気出口125を通って取り出される。反応器40の生成物混合物用の開口120は反応器の液面より低い。反応器40は、じゃま板130および134(図にはじゃま板131および133は示されていない)をも備えている。追加のメタノール、2,6−ナフタリンジカルボン酸および/またはジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートを添加するために、補助口140−144も使用しうる。撹拌羽根91および93−96は、反応物中に存在する固体を懸濁状態に維持するために、コンパートメントの底付近に位置することが好ましい。撹拌羽根はたとえばストレートもしくはピッチブレードタービン、またはプロペラ(marine propeller)、またはそれらの組み合わせなど、適切な形状のいずれであってもよい。櫂形撹拌羽根が図中に示されている。じゃま板130−134を用いる場合、これらは反応器の内表にじゃま板の全長に沿って設置することができる。あるいは、沈着物の蓄積を防止するために、じゃま板は反応器壁からわずかに間隔を置いて配置されてもよい。変速モーター110は連続回転速度範囲での操作を可能にする。反応器40から排出される生成物混合物は、主としてジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートおよびモノメチル−2,6−ナフタリンジカルボン酸からなる。
図に示した好ましい反応器を用いる本発明方法の代表的な実施形態においては、メタノール対2,6−NDAの4:1混合物(重量)を、熱交換器20を通してコンパートメント70に添加する。メタノール中の2,6−NDAのスラリーは、熱交換器内で約450°F(約232℃)に加熱される。反応器内容物は約600°F(約316℃)の温度および約85絶対気圧の圧力に維持される。コンパートメント70内で、供給材料中のスラリーと共にポンプ送入された大部分のメタノールが気化する。しかしスラリーをポンプ送り可能な状態に維持するのに十分な2,6−NDA(たとえば>50%)が第1コンパートメント内で2,6−NDAのモノメチルエステルおよびジエステルに変換される。副生物である水の大部分は蒸気相に入る。生じた蒸気、液体および固体(2,6−NDAおよび不溶分)の混合物は開口50を通過して次のコンパートメント71に進入し、ここでメタノールがさらに液相に溶解し、追加の副生物である水が液相からストリッピングされて、2,6−NDAがより完全にモノ−およびジメチルエステルに変換される。このプロセスが以下のコンパートメント72および73内で継続され、末端コンパートメント74では大部分の2,6−NDAおよびモノメチルエステルがジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートに変換されている。生成物全体を最終コンパートメント(図示されていない)の頂部付近の口から取り出すか、または大部分のジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートを含有する液体を口120から、そして大部分のメタノールおよび水を含有する蒸気を口125から取り出すことができる。
生成物混合物中に存在するモノメチルエステルの量は多数の変数、たとえばメタノール対ナフタリンジカルボン酸のモル比、反応温度、および反応器内の反応混合物の滞留時間に依存する。一般に本発明方法によれば、エステル、たとえば約1−約10重量%のモノメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレート、より好ましくは約0.01−約6重量%のモノメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートを含有するジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートが生成する。
本発明方法により製造されたナフタリンジカルボン酸ジエステルは、通常は1または2以上の精製法、たとえば再結晶、蒸留、およびそれらの組み合わせによる精製を必要とするであろう。精製操作においては、反応器排出物を一般に冷却して、溶存しているジエステルを結晶化し、ジエステルを残留アルコールから分離し、アルコールで洗浄して付着している母液を除去する。ジエステルは再結晶、蒸留、またはそれらの組み合わせにより精製することができる。精製プロセスからの濾液および蒸留残液は、ナフタリンジカルボン酸の製造に用いた酸化反応から随伴した酸化触媒金属を含有する可能性がある。これらの濾液および蒸留残液を濃縮し、高温の低分子量カルボン酸、たとえば酢酸で洗浄して、触媒金属の酸溶液を回収することができる。この酸溶液を濃縮して、またはそのまま、酸化反応に使用しうる。
以下の実施例は本発明方法の理解を容易にするために提示されたものであり、その範囲を限定するためのものではない。
実施例
以下の実施例において、TMLAはトリメリト酸、2,6−NDAは2,6−ナフタリンジカルボン酸、Br−2,6−NDAは臭素化2,6−ナフタリンジカルボン酸、FNAは2−ホルミル−6−ナフトエ酸、TMTMはトリメチルトリメリテート、2−NAは2−ナフトエ酸、MM−2,6−NDCは2,6−ナフタリンジカルボン酸のモノメチルエステル、MeFNAは2−ホルミル−6−ナフトエ酸のメチルエステル、Me2−NAは2−ナフトエ酸のメチルエステル、DM−2,6−NDCは2,6−ナフタリンジカルボン酸のジメチルエステル、Br−2,6−NDCは臭素化2,6−ナフタリンジカルボン酸のジメチルエステル、およびDMEはジメチルエステルである。またNAは分析されなかったことを意味し、NDは検出されなかったことを意味する。以下の実施例において精製物を分析するために用いた液体クロマトグラフィー法は微少成分に関して高精度に調整されたので、主成分に関して報告された数値には若干の誤差がある。従って表中の合計は加算して100%にならない。
実施例1
高められた反応温度で多量の反応分解生成物、たとえば2−メチルナフトエートまたは2−ナフトエ酸を生成することなく、また多量のジメチルエーテルを生成することなく速やかな反応速度が得られることを証明するために、2,6−ナフタリンジカルボン酸およびメタノールを用いて一連の実験を行った。
内部熱電対を備えた50mlの耐圧容器に、7.8gのMeOH、0.2gの水、ならびに40−43%の2,6−NDAおよび44−45%のDM−2,6−NDCを含有する固体混合物わずか2gを装填した。耐圧容器をヘリウムでパージし、シールし、次いで激しく振盪しながら加熱砂浴に浸漬して、2分以内に目的の反応温度を達成した。反応器を目的条件に保持したのち、反応器を砂浴から取り出し、圧縮空気流中で速やかに冷却した。メタノール相をジメチルエーテル含量につき分析し、固体生成物を液体クロマトグラフィーにより分析して酸基転化率を測定した。酸基転化率(モル%)(2,6−NDAおよびモノメチルエステルを含む)を表1の最下部に挙げる。供給材料は、2,6−NDA中残留していた酸化触媒から2,6−NDA金属塩を生成したため、約3%の未反応2,6−NDAを含有していた。この未反応2,6−NDAはすべての生成物分析に際して見られる。
実験1−4は530°F(277℃)の温度で実施された。表1の結果は、滞留時間5分で27%の酸転化率、10分で60%の転化率、および20分で87%の転化率が得られたことを示す。DMEの重量%はこれらの実験については0.12−0.5%であった。
実験5−9は表1に示すように600°F(316℃)で実施された。530°F(277℃)での実験につき認められたように、酸基転化率は反応時間と共に変化した。しかし温度が高いほどよりいっそう高いエステル化率に達し、530°F(277℃)での20分と比較してわずか10分で90%の酸基転化率が得られた。しかし極めて重要なことは、より高い温度がエステル化率と同程度にDME生成をも促進したわけではないという事実であった。
実施例2
2,6−NDAの試料をメタノールで、実施例1において用いた8:1ではなく4:1のメタノール対2,6−NDAの重量比を用いてエステル化した。これらのエステル化反応の結果を表2に示す。実施例1に記載したものと同じ反応器および方法を用いた。実験1−5では反応温度は530°F(277℃)であり、一方実験6−8では反応温度は600°F(316℃)であった。
これらのデータは、600°F(316℃)という高い方の反応温度が530°F(277℃)の反応温度と比較して、20−25%多く2,6−NDAを転化し、″他の″副生物の量は増大せず、かつ重要なことには、一定の酸転化率においては70%の量のDMEを生成したにすぎないことを示す。
実施例3
純粋な2,6−ナフタリンジカルボン酸のメタノールによるエステル化を、実施例2に記載したと同じ方法で実施した。この純粋な2,6−NDAはDM−2,6−NDCの加水分解により得られた。データを表3に示す。
表3の実験1−5は530°F(277℃)で実施された。これらの実験は、酸基の65%が10分で転化され、20分後には80%の転化が起こったことを示す。液体生成物中のDMEの重量%は10分後に0.3重量%、20分後に0.54重量%であった。
同一の2,6−NDAを用いた2組目のエステル化実験は600°F(316℃)で実施された。これらのデータをも表3に示す。これらの高い方の温度の実験では、65%の酸基転化率が5分で得られた。従ってエステル化反応は高められた温度では4−5倍速やかであり、ただし重要なことには、″他の″不純物の量は酸基転化率80%において0.4%以下であり、これは低い方の温度で生成した0.54%の数値より低かった。
実施例4
この実施例は、600°F(316℃)の反応温度でエステル化反応混合物に装填されたメタノールの一部のみが液相中にあり、残りは気相中にあることを証明する。
300mlの耐圧容器に16gの純粋なDM−2,6−NDCおよび64gのメタノール(比率1:4)を装填した。試料浸漬管(sample dip−tube)を反応器の頭部から反応器の最下地点より約1/8”(3.2mm)の地点まで挿入した。ヘリウムでパージしたのち、反応器を撹拌しながら600°F(316℃)に加熱して、1980psig(139.2kg/cm2)の圧力を得た。加熱された試料ラインから耐圧試料容器中へ試料を採取した。試料の量は約6.5gであった。加熱中は撹拌を用いたが、試料採取前には停止した。密閉した試料容器を冷却し、秤量し、次いでガラス皿に完全に空けた。皿からメタノールを蒸発させたのち、固体の重量を測定した。
3回の実験において下記の数値が得られた:
(a)66.0%(重量)の固体(試料ラインの閉塞のため、2.5gの試料が採取されたにすぎない)
(b)65.7%(重量)の固体(正常な試料)
(c)68.6%(重量)の固体(正常な試料)
平均して、液相のメタノール/DM−2,6−NDC比は供給材料の4:1と比較して0.5:1であった。従ってこれらの条件下ではわずか12.5%のメタノールが液相中にあり、一方約87.5%が蒸気相中にあった。従って上記の各実施例に記載した反応においては、一部のメタノールのみが液相中にあり、なおかつエステル化反応は速やかに進行した。
実施例5
この実施例においては、2,6−ジメチルナフタリンのコバルト、マンガン、臭素触媒酸化により製造された2,6−ナフタリンジカルボン酸を、本質的には図面に示したものと同じエステル化反応器内でエステル化した。ただし反応混合物の温度を外部の電気ヒーターにより維持し、生成物全体を最上部のコンパートメントに位置する1個の出口から取り出した。円筒形の反応器の全容量は約0.83gal、内径は3in(76.2mm)であった。底部コンパートメントは高さ9”(228.6mm)であり、他のコンパートメントはそれぞれ高さ4.5”(114.3mm)であった。
20重量%の2,6−NDAおよび80重量%のメタノールのスラリーを反応器に15.8lb/時(7.12kg/時)の速度でポンプ送入した。これは反応器に進入する前に管状予熱器中で484°F(251℃)に加熱された。反応器の内部は外部の電気ヒーターにより600°F(316℃)に維持された。反応器圧力は1250psig(87.9kg/cm2)に維持された。
撹拌機速度は500rpmであった。生成物が撹拌機駆動装置に進入するのを避けるために、0.9lb/時(0.42kg/時)のメタノールおよび2標準cm3/時のフラッシ流を磁気撹拌機駆動装置から注入した。撹拌機排出物を管状熱交換機により358°F(181℃)に冷却し、公称および絶対定格がそれぞれ0.5および5ミクロンである焼結ステンレス鋼フィルターに導通した。315°F(157℃)に加熱し、かつ250psig(17.6kg/cm2)に加圧された撹拌された受け器に生成物を5.25時間採取した。
生成物を約60°F(16℃)に冷却することにより結晶化させた。得られたスラリーを加圧フィルターに導通した。濾過ケークを洗浄するために、メタノール(36.4lb(16.51kg))を受け器にフィルターを通してポンプ送入した。濾過ケークを105℃で乾燥させた。乾燥後の重量は14.4lb(6.53kg)であった。それは液体クロマトグラフィーにより測定して、0.92%のモノメチル2,6−ナフタリンジカルボキシレートおよび0.019%の6−ホルミル−2−ナフトエ酸メチルエステル(重量)を含有していた。
この実施例は、本発明方法を用いるとメタノールによる2,6−ナフタリンジカルボン酸のエステル化が極めて効果的であることを証明する。
実施例6
この実施例においては、2,6−ジメチルナフタリンのコバルト、マンガン、臭素触媒酸化により製造された2,6−ナフタリンジカルボン酸を、実施例5に記載のエステル化反応器内でエステル化した。
19.0%の2,6−NDA、4.8%のDM−2,6−NDC、および76.2%のメタノール(重量)のスラリーを反応器底部に21lb/時(9.53kg/時)の速度でポンプ送入した。これは反応器に進入する前に管状予熱器中で437°F(225℃)に加熱された。同時にメタノールを反応器底部に別個の口から4lb/時(1.81kg/時)の速度でポンプ送入した。このメタノールは他の管状予熱器中で907°F(486℃)に加熱された。この反応器の内部は外部の電気ヒーターにより約577°F(約303℃)の平均温度に維持され、反応器圧力は1250psig(87.9kg/cm2)維持された。撹拌機速度は750rpmであった。撹拌機フラッシングおよび生成物採取システムは実施例5に記載したものと同様であった。
各コンパートメントの内容物を高圧ボンベによりそれぞれ約30mlの容量でサンプリングした。第1コンパートメントはコンパートメントの底から4.5”(114.3mm)上方の地点の側壁よりサンプリングされた。他のコンパートメントは各コンパートメントの底から0.5”(12.7mm)上方の地点の側壁よりサンプリングされた。表4は各コンパートメントの内部温度、各試料の全重量、203°F(95℃)および20”Hg(508mm)の真空で5時間乾燥させることによりメタノールおよび水(メタノールおよび水が揮発性成分の大部分を占める)を除去したのちの重量、ならびに液体クロマトグラフィーによる乾燥固体の分析を示す。これらのデータが証明するように、第4コンパートメントまで2,6−NDAおよびMM−2,6−NDCが定常的に減少する。第4および第5コンパートメントにおける組成はほぼ等しい。これらのデータは本発明方法により提供される2,6−NDAからDM−2,6−NDCへの転化率が卓越していることを証明する。
実施例7
この実施例においては、2,6−ジメチルナフタリンのコバルト、マンガン、臭素触媒酸化により製造された2,6−ナフタリンジカルボン酸を、実施例5に記載のエステル化反応器内でエステル化した。
19.0%の2,6−NDA、4.8%のDM−2,6−NDC、および76.2%のメタノール(重量)のスラリーを反応器底部に21lb/時(9.53kg/時)の速度でポンプ送入した。これは反応器に進入する前に管状予熱器中で445°F(229℃)に加熱された。同時にメタノールを反応器底部に別個の口から4lb/時(1.81kg/時)の速度でポンプ送入した。このメタノールは他の管状予熱器中で863°F(462℃)に加熱された。反応器の内部は外部の電気ヒーターにより約568°F(約298℃)の平均温度に維持され、反応器圧力は1250psig(87.9kg/cm2)維持された。撹拌機速度は750rpmであった。撹拌機フラッシングおよび生成物採取システムは実施例5に記載したものと同様であった。
各コンパートメントの内容物を実施例6の場合と同様にサンプリングした。表5は各試料の全重量、203°F(95℃)および20”Hg(508mm)の真空で5時間乾燥させることによりメタノールおよび水を除去したのちの重量、ならびに液体クロマトグラフィーによる乾燥固体の分析を示す。実施例6と比較して、第1コンパートメントの2,6−NDA濃度がかなり高く、第5コンパートメントまで通して2,6−NDAおよびMM−2,6−NDCの両方が定常的に減少する。第5コンパートメントにおけるMM−2,6−NDC濃度(乾燥基準で約2.5重量%)は液体充填されたメタノールに富むエステル化反応器内で同一の全供給材料組成(20%の2,6−NDA、80%のメタノール、重量)を用いて達成しうるものより低い。その理由は、液体充填系では副生物である水がすべて液相に残留し、従って転化率が制限されるからである。本発明の好ましい形態においては、副生物である水の大部分が液体中へ溶解度の低さのため、蒸気相に侵入する。この効果によって本発明では望ましい並流様式で操作しながら高い転化率を得ることができる。
これらの実施例は、ナフタリンジカルボン酸のエステル化のための本発明方法を用いて得られる利点を証明する。本発明方法を幾つかの好ましい形態に関して記述したが、本発明はそれらに限定されない。当業者は以上の記載および図面を参照して代替、変更および修正をなすことができる。従ってそれらの代替、変更および修正はすべて、それらが請求の範囲に記載の精神および範囲に包含される限り本発明の一部をなす。
Claims (10)
- 炭素数1〜6の低分子量アルコール、ナフタリンジカルボン酸、およびナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルを含む液相反応混合物を、高められた温度で、連続配置された反応帯域に導通し、その際、炭素数1〜6の低分子量アルコールとナフタリンジカルボン酸との重量比は1:1〜4.9:1であり、ナフタリンジカルボン酸および炭素数1〜6の低分子量アルコールを上流の反応帯域に導入し、少なくとも1個の反応帯域を撹拌し、そしてナフタリンジカルボン酸と炭素数1〜6の低分子量アルコールの反応により生成したジアルキルエステルを含む生成物を下流の反応帯域から取り出すことを含む、ナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルの連続的製造方法。
- 前記低分子量アルコールがメタノールであり、ナフタリンジカルボン酸が2,6−ナフタリンジカルボン酸であり、かつ生成するジアルキルエステルがジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートである、請求の範囲第1項に記載の方法。
- 連続配置された反応帯域に添加されるアルコールの大部分が反応帯域で気相中に存在する、請求の範囲第1項に記載の方法。
- 液相反応混合物中の炭素数1〜6の低分子量アルコールおよびナフタリンジカルボン酸を、高められた温度で、少なくとも上方および下方コンパートメントを備え、これらのコンパートメントはエステル化反応混合物が反応器コンパートメント間を上方へ流動しうる開口を備えた分割手段により分離された、垂直に配置されたコンパートメント型反応器内で接触させ、その際、炭素数1〜6の低分子量アルコールおよびナフタリンジカルボン酸を下方の1または2以上のコンパートメントに添加し、ナフタリンジカルボン酸のジエステルを含む反応生成物混合物を上方の反応器コンパートメントから取り出すことを含む、ナフタリンジカルボン酸のジアルキルエステルの製造方法。
- コンパートメント型反応器が3〜8個のコンパートメントを含む、請求の範囲第4項に記載の方法。
- 前記低分子量アルコールがメタノールであり、ナフタリンジカルボン酸が2,6−ナフタリンジカルボン酸であり、かつ生成物混合物がジメチル−2,6−ナフタリンジカルボキシレートを含む、請求の範囲第4項に記載の方法。
- コンパートメント型反応器に添加されたアルコールの少なくとも一部が気体状アルコールとしてコンパートメント型反応器内を通過する、請求の範囲第4項に記載の方法。
- コンパートメント型反応器内に添加されたアルコールの大部分が液相中にあり、かつナフタリンジカルボン酸とのスラリー状である、請求の範囲第7項に記載の方法。
- コンパートメント型反応器に添加されたメタノールの大部分が気体状で反応器内を通過する、請求の範囲第6項に記載の方法。
- 炭素数1〜6の低分子量アルコールが反応混合物中に液相および気相の両方に存在し、反応帯域から気相中のアルコールを取り出す速度(ポンド/時)とアルコールを反応帯域に添加する速度(ポンド/時)との比率が0.5:1〜0.99:1となるように炭素数1〜6の低分子量アルコールを反応帯域に添加し、同時に反応帯域から取り出すことを含む、請求の範囲第1項に記載の方法。
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