JP3728931B2 - インクジェット式記録ヘッド - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はノズルからインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドに係わり、撓み振動モードの圧電振動体を用いたインクジェット式記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ノズルプレート、圧力発生室形成基板及び振動板を積層し、この振動板の表面に、撓み振動モードの圧電振動体を取り付けた積層型インクジェット式記録ヘッドが知られている(例えば、特表平5−504740号公報)。通常、この積層型インクジェット式記録ヘッドを構成する部材の大部分は、セラミックから形成されている。したがって、前記各部材をグリーンシート(粘土状のシート)の状態で積層して焼成することにより、接着剤を使用することなく各部材を固定することができる。この結果、それぞれの層を互いに接合するための工程が不要となり、製造工程の簡略化を図ることができるという利点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、記録ヘッドの高密度、多ノズル化が加速的に進展するにつれて、圧電振動体に駆動信号を印加する電極、特に複数の圧電振動体に跨って形成されている共通電極のインピーダンスが高くなり、駆動信号波形が鈍ってしまいインク飛行状態が安定しないという問題が顕著になってきている。電極の抵抗値は一般に電極材質の導電率、厚み、幅に反比例し、長さに比例するが、従来のようにセラミック基板上に電極を部分的に形成し、その上に圧電振動体を形成するような構成だと、その幅は複数の圧力発生室から離れた位置に共通電極を形成せざるを得なく、共通電極の幅を広くすることは、そのまま記録ヘッド長大化を招いてしまうという問題を有していた。
【0004】
また、振動板の撓み量は、圧電振動体の剛性と、振動板及び電極の剛性とのバランスによって最適化されるが、電極の厚みを増していくと圧電振動体の剛性とのバランスが取れなくなり、必要とする振動板の撓み量が得られなくなるといった問題を有していた。同電圧での振動板のたわみ量を増加させるには、圧電振動体の厚みを薄くし、振動板の厚みをそれと比例して減少させていく手段があるが、振動板の厚さを薄くしていくほど、上述の問題は顕著になっていってしまう。
【0005】
そこで本発明は、高密度、多ノズルであってもヘッドの長大化を招くことなく安定したインク飛行状態を得ることができ、かつ、電極の配線が容易で信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のインクジェット式記録ヘッドは、ノズルと連通する圧力発生室と、この圧力発生室に撓み振動を与える圧電振動体とを備え、この圧電振動体の振動により前記圧力発生室のインクを前記ノズルから吐出するインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧力発生室を形成する圧力発生室形成部材と、前記圧力発生室の一壁面を形成する、表面に撓み振動モードの圧電振動体が前記圧力発生室に対応して形成された導電部材からなる振動板と、前記圧電振動体上に形成された個別電極と、前記振動板の前記圧力発生室と対向しない領域の少なくとも一部に形成された電気絶縁層とを備え、前記圧電振動体は前記電気絶縁層上にオーバーラップして形成されていると共に、前記個別電極は前記電気絶縁層まで延在して形成されていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、振動板を導電部材により形成したので、電極のインピーダンスを極めて小さくすることが可能となり、高密度、多ノズルインクジェット式記録ヘッドにおいても、駆動信号が鈍ることなく、正確に圧電振動体に伝達することができ、安定したインク飛行状態とすることができる。また、電気絶縁層上に圧電振動体をオーバーラップさせ、さらに個別電極も圧電振動体上に延在させることにより、信頼性の高い電極配線を行うことができる。
【0008】
また、前記電気絶縁層上に密着層が形成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、電気絶縁層上に密着層を介して圧電振動体が密着するので、インク吐出時の応力による影響を低減し、個別電極の導通を確実に行うことができる。
【0010】
また、前記密着層は、Ti、Pt、Cr、または、少なくともそれらの一成分を含む材質からなることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、圧電振動体と電気絶縁層の密着性に優れている。
【0012】
また、前記電気絶縁層上で、前記個別電極と端子電極がオーバーラップして形成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、フレキシブルケーブルなどの電気配線との接続を容易に行うことが可能になり、また、個別電極と端子電極の材質を適宜選択することが可能である。
【0014】
また、前記圧力発生室形成部材の前記振動板が形成された面と反対の面を、ノズル開口が形成されたノズルプレート、共通インク室が形成されたリザーバー形成基板、及び流路となる通孔が形成された蓋板からなる流路形成部材を積層したことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、厚み方向に流路をレイアウトできるので、小型の記録ヘッドを提供できる。
【0016】
また、前記振動板を共通電極とし、この共通電極は前記電気絶縁層上で、端子電極と導通していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、フレキシブルケーブルなどの電気配線との接続を容易に行うことが可能になり、また、個別電極と端子電極の材質を適宜選択することが可能である。
【0018】
また、前記個別電極と接続する端子電極と、前記共通電極と接続する端子電極が、列設されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、個別電極と共通電極のフレキシブルケーブルなどの電気配線殿接続を直線上で行うことができるので、容易に配線することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
そこで、以下に示す本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明のインクジェット式記録ヘッドの一実施例を示すものである。
【0022】
符号51はインクジェット記録ヘッドを構成するアクチュエーター部であり、少なくともスペーサー10、振動板13、圧電振動体14,15から構成されている。
【0023】
圧力発生室形成基板であるスペーサ10は、深さ100μm程度の圧力発生室11、12を構成するのに適した厚みを持つ基板、例えば単結晶シリコン基板や、不錆鋼基板や、ジルコニア(ZrO2)などのセラミック板からなっている。
【0024】
振動板13は、導電性の材料により構成され、スペーサ10の一方の面を封止している。振動板13は、後述する圧電振動体14、15のたわみ変位により弾性変形する材料、本発明においては、厚さ4μm程度の薄板で構成されている。振動板の材料としては,例えばチタン(Ti)プラチナ(Pt),ステンレス鋼などの金属や、あるいはFC Report Vol8 No.7(1990)他に発表されているような、硼化ジルコニウム、炭化クロム(Cr32),硼化チタン、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)または、硼化ジルコニウムと窒化硼素(BN)や炭化珪素(SiC)との複合材等からなる、導電性セラミック材料の薄板で構成することも可能である。
【0025】
この振動板13の表面には、圧電振動体14,15が形成されている。本発明においては、振動板13に圧電体のグリーンシートを印刷,焼成して圧電体を形成している。 圧電振動体の形成方法としては、焼成された圧電振動体を接着剤により振動板と接着したり、チタン層を成長基板とする水熱法(水熱合成法)を利用して形成したり、スパッタ法、ゾルゲル法により形成することも可能である。
【0026】
次に、符号50はインクジェット記録ヘッドを構成する流路形成部材であり、蓋板16、リザーバー形成基板17、ノズルプレート3を積層することにより形成されている。
【0027】
この蓋板16は、スペーサ10の他方の面に貼着される部材で、この実施例では厚さ100μmのステンレス鋼基板からなり、ノズル開口1,2と圧力発生室11,12とを接続するノズル連通口4,5と,リザーバ6,7と圧力発生室11,12とを接続するインク供給口8,9が穿設されている。
【0028】
また、リザーバ形成基板17は、インク流路を構成するに適した例えば200μmのズテンレス鋼などの耐蝕性を備えた板材に,蓋板16に設けられたインク導入口18,19に連通されて外部のインクタンクからインクの供給を受けてインク供給口8,9から圧力発生室11,12にインクを供給するリザーバ6,7と,圧力発生室11,12とノズル開口1,2とを接続するノズル連通口20,21が形成されている。
【0029】
また、ノズルプレート3は、所定のピッチでノズル開口1,2が形成され、ノズル連通口4,5及び20,21を介して圧力発生室11,12に連通している。
【0030】
これらノズルプレート3、リザーバー形成基板17、蓋板16は、接着や熱圧着等各部材に適した接合方法で接合されて流路形成部材50を形成し、この流路形成部材50はアクチュエーター部51と接合され、インクジェット式記録ヘッドとして纏められている。
【0031】
図2及び図3は各々圧力発生部の詳細を示す上面図及び断面図であり,圧電振動体14,15は圧力発生室11,12に対応して形成されており、圧力発生室11,12の配列方向の幅は、圧力発生室11,12の幅よりも狭く、例えば圧力発生室11,12の幅の0.7倍程度になるように形成されている。また、圧電振動体14,15は圧力発生室11,12の長手方向に跨るように形成されている。圧電振動体14,15の上面には圧電振動体14,15よりも幅の狭い個別電極23が形成されている。
【0032】
振動板13の圧力発生室11,12が形成されている領域の外側の領域には、ジルコニア(ZrO2)やアルミナ(Al23)等のセラミック、あるいはポリイミドやエポキシ等の樹脂材料からなる電気絶縁層24,25が形成されている。
【0033】
電気絶縁層24,25上には、縞状に形成されているチタン(Ti)からなる密着層26,27が形成されている。密着層としては、他にも圧電振動体との密着性に優れる材料、例えば、プラチナ(Pt)やクロム(Cr)あるいは少なくともそれらを含む合金や酸化物、窒化物等の材料でもよい。圧電振動体14,15は電気絶縁層24,25にオーバーラップするように延在して形成されており、密着層26,27は圧電振動体14,15と対応するように形成されいる。密着層26,27の幅は圧電振動体14,15幅と同等かそれ以上の幅に形成されている。
【0034】
密着層26,27が形成されているため,圧電振動体14,15と電気絶縁層24,25とは,密着層26,27を介して強固に密着して固定されている。個別電極23は,圧電振動体14,15の電気絶縁層24,25とオーバーラップしている領域からさらに密着層26,27に到達するまで延在しており,一部が密着層26,27上に形成されている。圧電振動体14,15は電気絶縁層24,25に密着層26,27を介して密着して形成されているため,インク吐出時の圧電振動体14,15の振動応力が加わっても、個別電極23は確実に密着層26,27に電気的に確実にかつ高信頼性を確保することができる。
【0035】
また、密着層26,27上の一部にオーバーラップするように端子電極28,29が形成されている。端子電極28,29は例えば厚さ10μm程度の銀によりなっている。この端子電極28,29は,半田付け等の方法により,図示していないフレキシブルケーブルによって,駆動信号制御回路に接続されている。
【0036】
密着層26,27は、圧電振動体14,15に対応する位置では、振動板13と接触しないように電気絶縁層24,25上で間隔を持って形成されているが、圧電振動体の配列方向の外側の領域では,振動板13と接触するように形成されている。そして、共通端子電極30,31が密着層上に形成されており、前述したフレキシブルケーブルによって、駆動信号制御回路に接続されている。
【0037】
端子電極28,29と共通端子電極28,29は、同一線上に配置されており、かつ両者とも電気絶縁層上に形成されているので、同一高さで形成されているので、配線が容易で確実である。
【0038】
そして、導電部材で形成されている振動板13と個別電極23との間に電圧を印加することにより、圧電振動体14,15と振動板13とが振動し、圧力発生室10内の圧力が高まり、ノズル開口1,2からインクがインク滴として吐出する。
【0039】
導電部材からなる振動板13はスペーサ11のほぼ全域に形成されており、かつ振動に適する範囲で可及的に厚く形成されているため、インピーダンスは極めて小さくすることができ、高密度、例えば140μmピッチで圧力発生室が形成され、かつ多ノズル数、例えば記録紙の幅と同等の幅を有するラインヘッドのように、1000ノズル以上のノズル数を有するインクジェット式記録ヘッドにおいても、駆動波形が鈍ることなく、安定したインク吐出を得ることができる。
【0040】
なお,上述の実施例においては,ノズル開口をノズルプレートに平面状に配列し,圧電振動体のたわみ方向にインクを吐出する、いわゆるフェースエジェクトタイプを例にとって説明したが,圧電振動体のたわみ方向と垂直方向にインクを吐出する,いわゆるエッジイジェクトタイプにおいても全く同様の作用を奏する。この場合、流路形成部材をなくし、圧力発生室形成部材に溝状の流路を形成し、流路の一端にノズル開口を形成するものであっても良い。
【0041】
【発明の効果】
以上、本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、高密度、多ノズルであっても記録ヘッドの長大化を招くことなく安定したインク飛行状態を得ることができ、かつ、電極の配線が容易で信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施のインクジェット式記録ヘッドの構造を示す断面図である。
【図2】図1の記録ヘッドの圧力発生室近傍の詳細を示す上面図である。
【図3】図1の記録ヘッドの電気絶縁層近傍の詳細を示す断面図である。
【符号の説明】
1,2 ノズル開口
10 圧力発生室
13 振動板
14,15 圧電振動体
23 個別電極
24,25 電気絶縁層
26,27 密着層

Claims (7)

  1. ノズルと連通する圧力発生室と、この圧力発生室に撓み振動を与える圧電振動体とを備え、この圧電振動体の振動により前記圧力発生室のインクを前記ノズルから吐出するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
    前記圧力発生室を形成する圧力発生室形成部材と、前記圧力発生室の一壁面を形成する、表面に撓み振動モードの圧電振動体が前記圧力発生室に対応して形成された導電部材からなる振動板と、前記圧電振動体上に形成された個別電極と、前記振動板の前記圧力発生室と対向しない領域の少なくとも一部に形成された電気絶縁層とを備え、前記圧電振動体は前記電気絶縁層上にオーバーラップして形成されていると共に、前記個別電極は前記電気絶縁層まで延在して形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
  2. 前記電気絶縁層上に密着層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
  3. 前記密着層は、Ti、Pt、Cr、または、少なくともそれらの一成分を含む材質からなることを特徴とする請求項2記載のインクジェット式記録ヘッド。
  4. 前記電気絶縁層上で、前記個別電極と端子電極がオーバーラップして形成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
  5. 前記圧力発生室形成部材の前記振動板が形成された面と反対の面を、ノズル開口が形成されたノズルプレート、共通インク室が形成されたリザーバー形成基板、及び流路となる通孔が形成された蓋板からなる流路形成部材を積層したことを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
  6. 前記振動板を共通電極とし、この共通電極は前記電気絶縁層上で、端子電極と導通していることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
  7. 前記個別電極と接続する端子電極と、共通電極と接続する端子電極が、列設されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッド。
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