JP3728549B2 - 一方向クラッチ - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車の動力伝達機構の一種である自動変速機（ＡＴ）用トルクコンバ−タ等で用いられる一方向クラッチ、特に外輪内径の後加工を不要とした一方向クラッチに関する。
【０００２】
【従来の技術】
自動車の自動変速機（ＡＴ）用トルクコンバ−タは、図８に示すように、エンジンから取り出した動力でポンプインペラ１５を駆動し、ステ−タ１４を利用しＡＴ用オイル（自動変速機油）を媒介液としてタ−ビンランナ１３を回転駆動する。該タ−ビンランナ１３は内径部のフランジ部１２に固定され、該フランジ部１２にインプットシャフト１１がスプライン嵌合されて該インプットシャフト１１にポンプインペラ１５側からの回転トルクが伝達される。前記ステ−タ１４には一方向クラッチ１６の外輪１６ａが嵌合され、該一方向クラッチ１６の内輪１６ｂはケ−ス固定部に固定されたシャフト１７にスプライン嵌合される。この場合、該ステ−タ１４は該一方向クラッチ１６により前記ポンプインペラ１５と同方向には回転するが、逆方向には回転不可としてある。
【０００３】
前記一方向クラッチ１６は、図７に示すように、ボス部１４ａの片側にベアリングサポ−ト部１４ｂを形成した合成樹脂製ステ−タ１４に一体成形された鋼製の外輪１６ａと、上記するようにシャフトとスプライン嵌合された鋼製の内輪１６ｂと、これら外輪１６ａと内輪１６ｂの間に配置され係合部材となる複数個のスプラグ１９と、これらのスプラグ１９を保持する外保持器１８ａ及び内保持器１８ｂと、前記スプラグ１９を一方向に付勢するばね２０と、前記外・内輪１６ａ，１６ｂの環状空間を密封するリテ−ナ２１等から構成されている。尚、ステ−タ１４の片側にベアリングサポ−ト部１４ｂを設けるのは両側にリテ−ナを設ける場合に比べてコスト的に有利だからである。
【０００４】
【発明が解決しようとする課題】
上記するように、一方向クラッチ１６の外輪１６ａは合成樹脂製ステ−タ１４に一体成形されるが、図６に示すように、合成樹脂の収縮の関係から外輪１６ａが内径側に変形し、当初軸線に平行な平坦（ストレ−ト）状の内周面が変形する。即ち、合成樹脂製ステ−タ１４は外輪１６ａをインサ−ト成形する際１７５°Ｃ〜２００°Ｃ程度に昇温させて一体成形する。そして常温になったとき樹脂部分は収縮するが、ステ−タ１４のベアリングサポ−ト部１４ｂ側の樹脂容量が大きいため外輪１６ａの環状リテ−ナ２１側であるＢ部よりも外輪１６ａのベアリングサポ−ト１４ｂ側であるＡ部の方が収縮が大となり、外輪１６ａの内周面はテ−パ状に変形する。しかし、外輪１６ａの内周面はスプラグ１９の軌道面となるものであり精度を維持しなければならない。従って、該外輪１６ａの内周面の変形を修正するため研磨加工等の後加工が必要でありコスト的に不利であった。
【０００５】
この発明は上記する課題に着目してなされたものであり、トルクコンバ−タを構成するステ−タの一方向クラッチの外輪を合成樹脂製ステ−タと一体成形しても該外輪内周面の変形を防止することのできる一方向クラッチを提供することを目的とする。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
即ち、この発明は上記する課題を解決するために、請求項１に記載の発明は、ステ−タのボス部の軸方向一端またはその近傍に内周方向へ向けてベアリングサポ−ト部を一体成形し、前記ボス部の内周側に外輪をインサ−ト成形により一体的に保持した樹脂製ステ−タの一方向クラッチにおいて、前記ステ−タのベアリングサポ−ト側の合成樹脂と前記環状リテ−ナ側との合成樹脂の収縮量をほぼ均衡させるように、前記ベアリングサポ−ト部端部側から他端側への軸方向にかけて前記外輪外径を漸減するように形成することを特徴とする。
【０００７】
また、請求項２に記載の発明は、ステ−タのボス部の軸方向一端またはその近傍に内周方向へ向けてベアリングサポ−ト部を一体成形し、前記ボス部の内周側に外輪をインサ−ト成形により一体的に保持した樹脂製ステ−タの一方向クラッチにおいて、前記ベアリングサポ−ト部の反対側の外輪端部の外周面に環状の段差を設けたことを特徴とする。
【０００８】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の具体的実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図１は、この発明の一方向クラッチの第一の実施例の一部縦断面図、図２は図１の一方向クラッチの一部分の断面図である。
この発明の一方向クラッチ１は、ボス部８ａの片側にベアリングサポ−ト部８ｂを一体形成した合成樹脂製ステ−タ８に一体成形した鋼製の外輪２と、鋼製の内輪３と、これら外輪２と内輪３との間に形成される環状空間４に配置される係合部材のスプラグ５と、該スプラグ５を保持する外保持器６ａ及び内保持器６ｂと、該スプラグ５を一方の側（前記ステ−タ８をロックする側）へ付勢するばね７と、前記環状空間４の片側を密封する環状リテ−ナ９と、で構成される。
【０００９】
前記ステ−タ８の片側にはベアリングサポ−ト８ｂ部がボス部８ａより径方向内方に延びて一体形成されるが、前記外輪２はその外周面の該ベアリングサポ−ト部８ｂ側に鍔部２ａを形成してある。即ち、外輪２は、ベアリングサポ−ト８ｂ側であるＡ部側の熱収縮量と外輪２の環状リテ−ナ９側であるＢ部側の熱収縮量とをほぼ均衡させるように、該外輪２の外周側には、ベアリングサポ−ト部８ｂ側から環状リテ−ナ９側への軸方向にかけて、ベアリングサポ−ト部８ｂ側の外輪厚みより薄くなる段差が形成してある。こうして、該外輪２をステ−タ８のボス部８ａに合成樹脂でインサ−ト成形する際熱収縮しても内周面２ｂのＡ部とＢ部との変形量の差が最小限となるようにすることが可能となる。その結果、外輪２の内周面２ｂは、テ−パ状に変形することは殆どなくなり、軸線に平行な平坦面を維持することができる。
【００１０】
次に、前記外輪２の各部の形状等について更に説明する。図３に示すように、該外輪２は外周面のベアリングサポ−ト部８ｂ側に鍔部２ａが形成してあるため他端部２ｃ側（即ち、環状リテ−ナ９側）に環状の段差部２ｄが形成される。この段差部２ｄには樹脂が充填されるため、その分ボス部８ａの他端部８ｃ側は肉厚化される。この外輪２に関して鍔部２ａ（或いは段差２ｄ）の有無について、サンプル試験を行ったので、以下にその結果を記載する。
外輪２の各部の寸法比率は、
【表１】

の通りであった。
【００１１】
そして試験の結果は、
【表２】

の如くであった。
以上の結果から判るように、Ｓ／Ａ比が０．２３以上でＴ／Ｂ比が０．６であれば好結果を得ることができ、特にＳ／Ａ比が０．４５以上でＴ／Ｂ比が０．６であれば完全に寸法精度を満足することができる。
【００１２】
また、上記第一実施例において、外輪２の軸方向他端部２ｃの外周面に環状の段差２ｄを設けたのに代えて、以下のようにしても、第一実施例と略同一の作用効果を得ることができる。
【００１３】
図４はこの一方向クラッチの第二の実施例の外輪２の断面図である。
この図に示すように、外輪２の軸方向他端部２ｃの外周面に、途中から環状リテ−ナ９側へ向けて徐々に縮径するテ−パ部２ｅを設け、このテ−パ部２ｅによって新たに形成される環状の空間に樹脂を充填して、この分、ボス部２ａの軸方向他端部（環状リテ−ナ９側）を肉厚化する。
【００１４】
図５は、この発明の一方向クラッチの第三の実施例のステ−タと外輪部分の断面図である。
即ち、上記するようにステ−タ８に合成樹脂により一体成形される一方向クラッチの外輪２はベアリングサポ−ト部８ｂ側の外周面に鍔部２ａを形成した。しかし、この図に示すように、ステ−タ８の合成樹脂と一体成形される外輪２の外周面の径ｃφは前記ベアリングサポ−ト部８ｂ側から環状リテ−ナ９側にかけて軸方向に漸減するようにテ−パ状に形成してもよい。これにより、ベアリングサポ−ト部８ｂ側のＡ部側と環状リテ−ナ９側のＢ部側の合成樹脂の熱収縮量をほぼ均衡させることができる。尚、外輪２の最大径となるベアリングサポ−ト部８ｂ側の端部の角には応力の集中を避けるためＲを設けるのが好ましい。
【００１５】
なお、この発明の一方向クラッチの第一実施例から第三実施例では、外輪２の外径をステ−タ８のベアリングサポ−ト部８ｂから環状リテ−ナ９側に軸方向に漸減させているため、ステ−タ８の環状リテ−ナ９側の肉厚が大きくなり、ステ−タ８に嵌め込んだ外輪２は軸方向への抜けもなくなる。
【００１６】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明の請求項１及び２の一方向クラッチによれば、外輪の外周側の径をベアリングサポ−ト側より軸方向他端部（環状リテ−ナ側）にかけて漸減させたり、該外輪の外周面の軸方向他端部（環状リテ−ナ側）に環状の段差が設けられているために、外輪がその軸方向他端部において軸方向一端部（ベアリングサポ−ト側）より薄肉化され、この寸法差を適宜設定することによって、樹脂の収縮時に外輪の内部に発生する応力の置きさを軸方向の全長にわたって略均一化することができる。こうして筒状の外輪がテ−パ状に変形するのを防止することができるので、外輪の内径寸法公差を満足可能な寸法精度に優れた一方向クラッチを提供することができる。
【００１７】
また、この発明の請求項３の一方向クラッチにおいては、外輪の軸方向他端部側（環状リテ−ナ側）の厚さが軸方向一端部側（ベアリングサポ−ト側）の厚さより小さく形成されている。このため、外輪の軸方向他端部が、軸方向一端部側より薄肉化され、この寸法差を適宜設定することによって、樹脂の収縮時に外輪の内部に発生する応力の大きさを軸方向全長にわたって略均一化することができる。こうして筒状の外輪がテ−パ状に変形するのを防止することができるので、外輪の内径寸法公差を満足可能な寸法精度に優れた一方向クラッチを提供することができる。
【００１８】
更に、この発明のいずれの請求項の一方向クラッチも、ステ−タの合成樹脂と一体成形した後外輪の内周面を後加工する必要がなくなるので製作コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 この発明の一方向クラッチの一部縦断面図である。
【図２】 この発明の一方向クラッチのステ−タと外輪部分の縦断面図である。
【図３】 この発明の一方向クラッチのステ−タにインサ−ト成形して保持される外輪の一部断面図である。
【図４】 この一方向クラッチの第二の実施例の外輪の断面図である。
【図５】 この発明の一方向クラッチの第三の実施例のステ−タと外輪部分の断面図である。
【図６】 従来の一方向クラッチのステ−タと外輪部分の縦断面図である。
【図７】 従来の一方向クラッチの一部縦断面図である。
【図８】 従来のトルクコンバ−タの一部縦断面図である。
【符号の説明】
１ 一方向クラッチ
２ 外輪
３ 内輪
４ 環状空間
５ スプラグ
６ａ 外保持器
６ｂ 内保持器
７ ばね
８ ステ−タ
８ａ ステ−タボス部
８ｂ ベアリングサポ−ト部
９ 環状リテ−ナ
１１ インプットシャフト
１２ フランジ部
１３ タ−ビンランナ
１４ ステ−タ
１５ ポンプインペラ
１６ 一方向クラッチ
１７ シャフト
１８ａ 外保持器
１８ｂ 内保持器
１９ スプラグ
２０ ばね
２１ リテ−ナ

Claims (2)

1. ステ−タのボス部の軸方向一端またはその近傍に内周方向へ向けてベアリングサポ−ト部を一体成形し、前記ボス部の内周側に外輪をインサ−ト成形により一体的に保持した樹脂製ステ−タの一方向クラッチにおいて、
   前記ステ−タのベアリングサポ−ト側の合成樹脂と前記環状リテ−ナ側との合成樹脂の収縮量をほぼ均衡させるように、前記ベアリングサポ−ト部端部側から他端側への軸方向にかけて前記外輪外径を漸減するように形成することを特徴とする一方向クラッチ。
2. ステ−タのボス部の軸方向一端またはその近傍に内周方向へ向けてベアリングサポ−ト部を一体成形し、前記ボス部の内周側に外輪をインサ−ト成形により一体的に保持した樹脂製ステ−タの一方向クラッチにおいて、
   前記ベアリングサポ−ト部の反対側の外輪端部の外周面に環状の段差を設けたことを特徴とする一方向クラッチ。

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