JP3727084B2 - 方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、変圧器等に使用される方向性けい素鋼板に係わり、特に、方向性けい素鋼板製造過程中における脱炭焼鈍方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、省エネルギー技術が着目され、電力ロスの低減を目的とし、変圧器の損失を低減する努力がなされている。このためトランスその他の電気機器の鉄心として利用される方向性けい素鋼板の鉄損(W17/50 の値で代表される)の低減の要求は高くなっている。
【0003】
そのためには、(110)[001] 方位の二次再結晶粒を安定して得ることと、最終製品の鋼板中に存在する不純物や折出物をできるだけ減少させることが必要である。
方位の良い二次再結晶粒を得るためには、最終仕上げ焼鈍前の脱炭焼鈍工程が重要であることが特開昭54−160514号公報、特開昭59−35624 号公報、特開昭59−185725号公報、特開昭60−121222号公報、特開昭61−48529 号公報、特開平2−274817号公報などで指摘されている。
【0004】
そのなかでも特開昭59−35624 号公報には脱炭焼鈍時に鋼板表面に生成する酸化物層すなわち内部酸化層の性質が磁気特性に大きな影響を与えることが指摘されている。
従って、脱炭焼鈍時に生成する内部酸化層を制御することが重要であるが、最終仕上げ焼鈍後の最終製品の磁気特性あるいは被膜特性により脱炭焼鈍条件の良否を判定したのでは、最終仕上げ焼鈍のように脱炭焼鈍以降の工程に1〜3週間の日時を要する場合、脱炭焼鈍条件の変動に起因する最終製品の磁気特性あるいは被膜の不良を見いだすまでに1〜3週間以上の日時を要するので、その間脱炭焼鈍条件が不適のままで通板される量は膨大なもので、多額の損失に結び付くことも有り得る。そのため、工程途中での迅速な材質チェック方法の確立が以前から強く要望されていた。
【0005】
脱炭焼鈍板の材質チェックの方法としては、特開昭59−185725号公報に開示されているように内部酸化層の酸素量を化学分析する方法があるが、分析にはある程度の時間が必要なため迅速なチェックができない。また、この方法では板厚方向の質の変化がわからず、酸素量に差異がなくても、製品特性が全く異なることがある。
【0006】
内部酸化層の板厚方向変化を知るには電子顕微鏡による断面観察などの手段もあるが、これは微小領域の情報であり、定量評価もできず、試料採取から観察までの工数もかかることから製品の途中工程で定常的に実施することは実際的でない。
また、特開昭54−161519号公報では脱炭焼鈍処理された鋼板より試料を切り出し、これを水溶液系腐食液中に浸漬し、同時に浸漬してある比較対極との間に生ずる電極電位あるいは電流を測定して、脱炭焼鈍処理条件を判定する方法が開示されているが、この方法では同一条件で処理した試料でも、結果の再現性に問題があった。
【0007】
その理由としては、▲1▼比較対極は予め硝酸水溶液で表面酸化物を除去した同一試験片であり、これを腐食液中に浸漬するため同時に侵されること、▲2▼腐食液中での試料極と比較対極での反応は全く個別に進行し、互いに関連がないこと、▲3▼腐食液中での試料極の反応速度あるいは反応形態などは全く制御されていないので、腐食液の時間による劣化や腐食反応の発熱により液温の変動によって反応速度が無秩序に変動すること、などが挙げられる。
【0008】
また、これらの材質チェック方法を利用した脱炭焼鈍方法としては、特開平2-274817号公報報に開示されているように内部酸化層の酸素量を計測しながら焼鈍する方法、または特開平6-25749 号公報、特開平6-100938号公報に開示されているように内部酸化層中の鉄系酸化物(FeO)量を測定し、その結果を基にして焼鈍条件を決定する方法があるが、いずれの場合も内部酸化層の定量的な評価のみをもとにして焼鈍条件を決定するため、内部酸化層の性状の変化には対応できない。すなわち、酸素量には差異がなくても内部酸化層の性状の違いによって磁気特性が劣化する場合には役にたたない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来の方法では、脱炭焼鈍工程で生成する内部酸化層の性状を迅速に把握し、それを直ちに脱炭焼鈍処理条件に反映させる方法がなかった。
本発明の目的は、方向性けい素鋼板の製造過程における脱炭焼鈍において、脱炭焼鈍工程で生成する内部酸化層の性状を迅速に把握し、それを直ちに脱炭焼鈍処理条件に反映させることができる方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、方向性けい素鋼板の製造過程における脱炭焼鈍において、脱炭焼鈍後の鋼板より試料を切出し、その片面を電解質溶液に接触させ試料極とし、該電解質溶液内で試料極から一定の距離にある対極との間に電解質濃度が0.5wt %NaCl水溶液で、試料極の面積を50〜100mm2としたとき50〜100mAとなるような定電流を流し、その際に生じる、電圧が急激に下がる第1領域と、該第1領域における電圧降下より緩やかな電圧がやや急激に下がる第2領域と、該第2領域に続く電圧がほぼ水平に変化する第3領域と、該第3領域に続いて電圧がやや急激に下がる第4領域からなる電圧の経時変化を求め、この経時変化の第3領域における電圧変化量V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲になるように、電解脱脂条件、脱炭焼鈍露点、脱炭時の加熱温度および脱炭時の通板速度の少なくとも一つを制御することを特徴とする方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍方法である。
【0011】
ただし、
V34=(第3領域の終わりの電圧値)−(第3領域の始まりの電圧値)
であり、第3領域の始まりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V未満でかつそれが連続して2秒以上続き始める時の電圧値であり、第3領域の終わりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V以上でかつそれが連続して4秒以上続き始める時の電圧値である。
【0013】
【作用】
本発明者らは、上記課題を達成するためについて鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
まず、測定法の概略を図1に示す。図1(a)、(b)は測定用の試料4の断面を示す模式図であり、地鉄4bの表面には内部酸化層4aが形成されている。試料の非測定面は図1(a)のように電気導通状態にしても、あるいは図1(b)のように内部酸化層があってもよい。そして、図1(c)に示すように内部酸化層4aの定面積が電解質溶液6に接するように試料4をセッティングする。電解質溶液6にはNaCl水溶液などを用いればよい。測定は例えば試料4を+極とし、−極をPtなどの対極5として定電流電源7より定電流を流して行い、電圧値の経時変化は電圧測定計8で測定し、測定によって得られる電圧変化の信号はレコーダー(図示せず。)等に入力して変化曲線を描かせればよいし、またパソコン10に入力してデータを処理し、データ処理結果出力計11から出力してもよい。また、銀−塩化銀電極などからなる参照電極9を参照電極用コード1を介して定電流電源7に接続して電圧値を測定してもよい。
【0014】
得られる電圧変化曲線は内部酸化層が表面から板厚方向に壊れていく過程を示している。実際、電解質溶液の濃度および定電流値を高くすると、測定終了後の測定面は地鉄が露出した状態になる。また、電解質溶液の濃度および定電流値を低くすると、測定終了後の測定面は内部酸化層の表層部のみが除去された状態になる。電解質溶液の濃度あるいは定電流値を適当に変えることによって、任意の深さまでの内部酸化層の性質を知ることができる。また、測定面積は試料が電解質溶液に接する面積を変えることで自由に変化させ得るので、微少な領域から大きな領域の情報まで任意に得ることができる。なお、測定に要する時間は数分であるので、結果は迅速に得ることができる。
【0015】
測定条件 0.5wt%NaCl水溶液、75mA定電流、試料の測定面積 78.5mm2(10mmφ)、試料極と対極間の距離は 110mmの場合に得られる電圧変化曲線の模式図を図2に示す。脱炭焼鈍処理条件によって、模式図の電圧経時変化のパターンはやや変化するが、電圧が急激に上がり次いで急激に下がる第1領域、やや急激に下がる第2領域、それに続くほぼ水平に変化する第3領域とそれに続いてやや急激に下がる第4領域に分けることができる。
【0016】
本発明者らは、この電圧経時変化のパターンを鋭意検討した結果、第3領域が酸素目付量に対応し、特に磁気特性の安定に対して重要なのは第3領域の始めと終わりの電圧差であることを見いだした。
なお、第3領域の始めと終わりの電圧差はV34として、次のように定義される。
【0017】
V34=(第3領域の終わりの電圧値)−(第3領域の始まりの電圧値)
また、第3領域の始まりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V未満でかつそれが連続して2秒以上続き始める時の電圧値であり、第3領域の終わりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V以上でかつそれが連続して4秒以上続き始めた時の電圧値である。
【0018】
図3は典型的な第3領域の電圧経時変化のパターンを示すもので、(a)の場合はV34が正(+)に、(b)の場合はV34が負(−)になる例を示している。本発明者らは、脱炭焼鈍後の試料の電圧経時変化の第3領域の始めと終わりの電圧差V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲になるとき、安定して良好な磁気特性が得られることを見いだした。
【0019】
例えば、図4はV34と板厚0.23mmの最終製品コイルの磁気特性(B8 :磁化力 800A/mでの磁束密度)を示したものである。V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲で、良好な磁気特性B8 が得られている。
また、図5は、最終製品コイルの板厚が0.30mmの場合だが、図4と同一な傾向を示していることが分かる。
【0020】
V34値が大きい試料の脱炭焼鈍板内部酸化層の電子顕微鏡による断面観察を行った結果、このような試料では内部酸化層中のシリカ粒子がやや粗大で、密度もやや疎になっている傾向が認められた。このように内部酸化層の保護性が低下したため、仕上げ焼鈍中にインヒビターの劣化が促進されて磁気特性が劣化したものと考えられる。従って、定電流電解法で得られるV34値は、このような内部酸化層の変化を反映しているため、磁気特性と良い相関が得られると推察される。
【0021】
次に、得られたV34値を基に脱炭焼鈍方法を決定できるようにするため、V34値に与える脱炭焼鈍条件の検討を行った。その結果、V34値が大きい場合はそれを低下させるために、
(1)冷間圧延後の電解脱脂条件を変更して電気量を弱くする。
(2)脱炭焼鈍露点を変更する。すなわち加熱帯または均熱帯の雰囲気酸化性を高くする(注水量を増やす)。
(3)脱炭時の加熱温度を変更して、昇温速度を遅くする。
(4)脱炭時の通板速度を遅くする(昇温速度を遅くすることに相当)。
というように脱炭焼鈍方法を変更すればよいことが分かった。
なお、V 34 値が小さい場合にはそれを増加させるために、上記した(1)〜(4)とは逆方向に脱炭焼鈍方法を変更すればよい。
【0022】
実際、工場の操業においては上記の方法を複数組み合わせて、酸素目付量等の品質は変動させずに、V34値のみを調整する方法を採ればよい。
その他、V34値が変動する要因として、脱炭焼鈍条件の変化以外にそれ以前の何らかの工程因子の影響による場合もある。そのような場合、脱炭焼鈍条件は変化していなくても、結果として生成する内部酸化層は変化していて、V34値が高い場合がある。このような場合でも、上述のようにV34値を低下させる方向に脱炭焼鈍条件を変更することで磁気特性の劣化を防ぐことができることが分かった。その結果の一例を図6に示す。この場合の最終製品板厚は0.22mmである。
【0023】
【実施例】
50日に期間を区切って、最終製品板厚が0.23mmの方向性けい素鋼板を対象にして、5日おきに、一方を脱炭焼鈍時の電解脱脂条件、脱炭焼鈍露点、脱炭時の加熱温度および脱炭時の通板速度の少なくとも一つをV34が−0.2 〜0.3 Vの範囲(目標値はV34=0)になるように制御した。片方は従来通りの制御を行い、V34値に基づいた脱炭焼鈍条件の制御は実施しなかった。これらの期間のV34値の変動と得られた磁気特性の関係を、実施例は図7に、従来例は図8にそれぞれ示す。
【0024】
V34値に基づいた脱炭焼鈍条件の制御を実施した期間では、安定して良好な磁気特性の製品が得られているのが分かる。それに反して、V34値に基づいた制御を実施しなかった期間では、磁気特性がやや劣化している時があり、それはV34値がやや大きくなっている時期に対応しているのが分かる。
【0025】
【発明の効果】
本発明により、方向性けい素鋼板の製造過程の脱炭焼鈍において生成する内部酸化層の性状を制御するにあたり、脱炭焼鈍後の鋼板より試料を切出し、その片面を電解質溶液に接触させ試料極とし、該電解質溶液内で試料極から一定の距離にある対極との間に定電流を流し、その際に生じる電圧の経時変化を求め、この経時変化の第3領域における電圧変化量V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲になるように、脱炭焼鈍時の電解脱脂条件、脱炭焼鈍露点、脱炭時の加熱温度および脱炭時の通板速度の少なくとも一つを制御することにより、安定して良好な磁気特性の製品が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の測定方法の概略を示す図。
【図2】本発明法で測定した電圧変化曲線の模式図。
【図3】本発明法で測定した典型的な第3領域の電圧経時変化のパターンを示すもので、(a)の場合はV34が正(+)に、(b)の場合はV34が負(−)になる例を示した模式図。
【図4】V34値と磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ(最終製品板厚0.23mm)。
【図5】V34値と磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ(最終製品板厚0.30mm)。
【図6】脱炭焼鈍条件の変更に伴うV34値と磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ。
【図7】本発明の実施例における製造日の経過に対応したV34値および磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ。
【図8】従来例における製造日の経過に対応したV34値および磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1 参照電極用コード
2 定電流通電用コード
3 電圧変化出力用コード
4 試料
5 対極
6 電解質溶液
7 定電流電源
8 電圧測定計
9 参照電極
10 パソコン
11 データ処理結果出力計
【産業上の利用分野】
本発明は、変圧器等に使用される方向性けい素鋼板に係わり、特に、方向性けい素鋼板製造過程中における脱炭焼鈍方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、省エネルギー技術が着目され、電力ロスの低減を目的とし、変圧器の損失を低減する努力がなされている。このためトランスその他の電気機器の鉄心として利用される方向性けい素鋼板の鉄損(W17/50 の値で代表される)の低減の要求は高くなっている。
【0003】
そのためには、(110)[001] 方位の二次再結晶粒を安定して得ることと、最終製品の鋼板中に存在する不純物や折出物をできるだけ減少させることが必要である。
方位の良い二次再結晶粒を得るためには、最終仕上げ焼鈍前の脱炭焼鈍工程が重要であることが特開昭54−160514号公報、特開昭59−35624 号公報、特開昭59−185725号公報、特開昭60−121222号公報、特開昭61−48529 号公報、特開平2−274817号公報などで指摘されている。
【0004】
そのなかでも特開昭59−35624 号公報には脱炭焼鈍時に鋼板表面に生成する酸化物層すなわち内部酸化層の性質が磁気特性に大きな影響を与えることが指摘されている。
従って、脱炭焼鈍時に生成する内部酸化層を制御することが重要であるが、最終仕上げ焼鈍後の最終製品の磁気特性あるいは被膜特性により脱炭焼鈍条件の良否を判定したのでは、最終仕上げ焼鈍のように脱炭焼鈍以降の工程に1〜3週間の日時を要する場合、脱炭焼鈍条件の変動に起因する最終製品の磁気特性あるいは被膜の不良を見いだすまでに1〜3週間以上の日時を要するので、その間脱炭焼鈍条件が不適のままで通板される量は膨大なもので、多額の損失に結び付くことも有り得る。そのため、工程途中での迅速な材質チェック方法の確立が以前から強く要望されていた。
【0005】
脱炭焼鈍板の材質チェックの方法としては、特開昭59−185725号公報に開示されているように内部酸化層の酸素量を化学分析する方法があるが、分析にはある程度の時間が必要なため迅速なチェックができない。また、この方法では板厚方向の質の変化がわからず、酸素量に差異がなくても、製品特性が全く異なることがある。
【0006】
内部酸化層の板厚方向変化を知るには電子顕微鏡による断面観察などの手段もあるが、これは微小領域の情報であり、定量評価もできず、試料採取から観察までの工数もかかることから製品の途中工程で定常的に実施することは実際的でない。
また、特開昭54−161519号公報では脱炭焼鈍処理された鋼板より試料を切り出し、これを水溶液系腐食液中に浸漬し、同時に浸漬してある比較対極との間に生ずる電極電位あるいは電流を測定して、脱炭焼鈍処理条件を判定する方法が開示されているが、この方法では同一条件で処理した試料でも、結果の再現性に問題があった。
【0007】
その理由としては、▲1▼比較対極は予め硝酸水溶液で表面酸化物を除去した同一試験片であり、これを腐食液中に浸漬するため同時に侵されること、▲2▼腐食液中での試料極と比較対極での反応は全く個別に進行し、互いに関連がないこと、▲3▼腐食液中での試料極の反応速度あるいは反応形態などは全く制御されていないので、腐食液の時間による劣化や腐食反応の発熱により液温の変動によって反応速度が無秩序に変動すること、などが挙げられる。
【0008】
また、これらの材質チェック方法を利用した脱炭焼鈍方法としては、特開平2-274817号公報報に開示されているように内部酸化層の酸素量を計測しながら焼鈍する方法、または特開平6-25749 号公報、特開平6-100938号公報に開示されているように内部酸化層中の鉄系酸化物(FeO)量を測定し、その結果を基にして焼鈍条件を決定する方法があるが、いずれの場合も内部酸化層の定量的な評価のみをもとにして焼鈍条件を決定するため、内部酸化層の性状の変化には対応できない。すなわち、酸素量には差異がなくても内部酸化層の性状の違いによって磁気特性が劣化する場合には役にたたない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来の方法では、脱炭焼鈍工程で生成する内部酸化層の性状を迅速に把握し、それを直ちに脱炭焼鈍処理条件に反映させる方法がなかった。
本発明の目的は、方向性けい素鋼板の製造過程における脱炭焼鈍において、脱炭焼鈍工程で生成する内部酸化層の性状を迅速に把握し、それを直ちに脱炭焼鈍処理条件に反映させることができる方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、方向性けい素鋼板の製造過程における脱炭焼鈍において、脱炭焼鈍後の鋼板より試料を切出し、その片面を電解質溶液に接触させ試料極とし、該電解質溶液内で試料極から一定の距離にある対極との間に電解質濃度が0.5wt %NaCl水溶液で、試料極の面積を50〜100mm2としたとき50〜100mAとなるような定電流を流し、その際に生じる、電圧が急激に下がる第1領域と、該第1領域における電圧降下より緩やかな電圧がやや急激に下がる第2領域と、該第2領域に続く電圧がほぼ水平に変化する第3領域と、該第3領域に続いて電圧がやや急激に下がる第4領域からなる電圧の経時変化を求め、この経時変化の第3領域における電圧変化量V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲になるように、電解脱脂条件、脱炭焼鈍露点、脱炭時の加熱温度および脱炭時の通板速度の少なくとも一つを制御することを特徴とする方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍方法である。
【0011】
ただし、
V34=(第3領域の終わりの電圧値)−(第3領域の始まりの電圧値)
であり、第3領域の始まりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V未満でかつそれが連続して2秒以上続き始める時の電圧値であり、第3領域の終わりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V以上でかつそれが連続して4秒以上続き始める時の電圧値である。
【0013】
【作用】
本発明者らは、上記課題を達成するためについて鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
まず、測定法の概略を図1に示す。図1(a)、(b)は測定用の試料4の断面を示す模式図であり、地鉄4bの表面には内部酸化層4aが形成されている。試料の非測定面は図1(a)のように電気導通状態にしても、あるいは図1(b)のように内部酸化層があってもよい。そして、図1(c)に示すように内部酸化層4aの定面積が電解質溶液6に接するように試料4をセッティングする。電解質溶液6にはNaCl水溶液などを用いればよい。測定は例えば試料4を+極とし、−極をPtなどの対極5として定電流電源7より定電流を流して行い、電圧値の経時変化は電圧測定計8で測定し、測定によって得られる電圧変化の信号はレコーダー(図示せず。)等に入力して変化曲線を描かせればよいし、またパソコン10に入力してデータを処理し、データ処理結果出力計11から出力してもよい。また、銀−塩化銀電極などからなる参照電極9を参照電極用コード1を介して定電流電源7に接続して電圧値を測定してもよい。
【0014】
得られる電圧変化曲線は内部酸化層が表面から板厚方向に壊れていく過程を示している。実際、電解質溶液の濃度および定電流値を高くすると、測定終了後の測定面は地鉄が露出した状態になる。また、電解質溶液の濃度および定電流値を低くすると、測定終了後の測定面は内部酸化層の表層部のみが除去された状態になる。電解質溶液の濃度あるいは定電流値を適当に変えることによって、任意の深さまでの内部酸化層の性質を知ることができる。また、測定面積は試料が電解質溶液に接する面積を変えることで自由に変化させ得るので、微少な領域から大きな領域の情報まで任意に得ることができる。なお、測定に要する時間は数分であるので、結果は迅速に得ることができる。
【0015】
測定条件 0.5wt%NaCl水溶液、75mA定電流、試料の測定面積 78.5mm2(10mmφ)、試料極と対極間の距離は 110mmの場合に得られる電圧変化曲線の模式図を図2に示す。脱炭焼鈍処理条件によって、模式図の電圧経時変化のパターンはやや変化するが、電圧が急激に上がり次いで急激に下がる第1領域、やや急激に下がる第2領域、それに続くほぼ水平に変化する第3領域とそれに続いてやや急激に下がる第4領域に分けることができる。
【0016】
本発明者らは、この電圧経時変化のパターンを鋭意検討した結果、第3領域が酸素目付量に対応し、特に磁気特性の安定に対して重要なのは第3領域の始めと終わりの電圧差であることを見いだした。
なお、第3領域の始めと終わりの電圧差はV34として、次のように定義される。
【0017】
V34=(第3領域の終わりの電圧値)−(第3領域の始まりの電圧値)
また、第3領域の始まりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V未満でかつそれが連続して2秒以上続き始める時の電圧値であり、第3領域の終わりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V以上でかつそれが連続して4秒以上続き始めた時の電圧値である。
【0018】
図3は典型的な第3領域の電圧経時変化のパターンを示すもので、(a)の場合はV34が正(+)に、(b)の場合はV34が負(−)になる例を示している。本発明者らは、脱炭焼鈍後の試料の電圧経時変化の第3領域の始めと終わりの電圧差V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲になるとき、安定して良好な磁気特性が得られることを見いだした。
【0019】
例えば、図4はV34と板厚0.23mmの最終製品コイルの磁気特性(B8 :磁化力 800A/mでの磁束密度)を示したものである。V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲で、良好な磁気特性B8 が得られている。
また、図5は、最終製品コイルの板厚が0.30mmの場合だが、図4と同一な傾向を示していることが分かる。
【0020】
V34値が大きい試料の脱炭焼鈍板内部酸化層の電子顕微鏡による断面観察を行った結果、このような試料では内部酸化層中のシリカ粒子がやや粗大で、密度もやや疎になっている傾向が認められた。このように内部酸化層の保護性が低下したため、仕上げ焼鈍中にインヒビターの劣化が促進されて磁気特性が劣化したものと考えられる。従って、定電流電解法で得られるV34値は、このような内部酸化層の変化を反映しているため、磁気特性と良い相関が得られると推察される。
【0021】
次に、得られたV34値を基に脱炭焼鈍方法を決定できるようにするため、V34値に与える脱炭焼鈍条件の検討を行った。その結果、V34値が大きい場合はそれを低下させるために、
(1)冷間圧延後の電解脱脂条件を変更して電気量を弱くする。
(2)脱炭焼鈍露点を変更する。すなわち加熱帯または均熱帯の雰囲気酸化性を高くする(注水量を増やす)。
(3)脱炭時の加熱温度を変更して、昇温速度を遅くする。
(4)脱炭時の通板速度を遅くする(昇温速度を遅くすることに相当)。
というように脱炭焼鈍方法を変更すればよいことが分かった。
なお、V 34 値が小さい場合にはそれを増加させるために、上記した(1)〜(4)とは逆方向に脱炭焼鈍方法を変更すればよい。
【0022】
実際、工場の操業においては上記の方法を複数組み合わせて、酸素目付量等の品質は変動させずに、V34値のみを調整する方法を採ればよい。
その他、V34値が変動する要因として、脱炭焼鈍条件の変化以外にそれ以前の何らかの工程因子の影響による場合もある。そのような場合、脱炭焼鈍条件は変化していなくても、結果として生成する内部酸化層は変化していて、V34値が高い場合がある。このような場合でも、上述のようにV34値を低下させる方向に脱炭焼鈍条件を変更することで磁気特性の劣化を防ぐことができることが分かった。その結果の一例を図6に示す。この場合の最終製品板厚は0.22mmである。
【0023】
【実施例】
50日に期間を区切って、最終製品板厚が0.23mmの方向性けい素鋼板を対象にして、5日おきに、一方を脱炭焼鈍時の電解脱脂条件、脱炭焼鈍露点、脱炭時の加熱温度および脱炭時の通板速度の少なくとも一つをV34が−0.2 〜0.3 Vの範囲(目標値はV34=0)になるように制御した。片方は従来通りの制御を行い、V34値に基づいた脱炭焼鈍条件の制御は実施しなかった。これらの期間のV34値の変動と得られた磁気特性の関係を、実施例は図7に、従来例は図8にそれぞれ示す。
【0024】
V34値に基づいた脱炭焼鈍条件の制御を実施した期間では、安定して良好な磁気特性の製品が得られているのが分かる。それに反して、V34値に基づいた制御を実施しなかった期間では、磁気特性がやや劣化している時があり、それはV34値がやや大きくなっている時期に対応しているのが分かる。
【0025】
【発明の効果】
本発明により、方向性けい素鋼板の製造過程の脱炭焼鈍において生成する内部酸化層の性状を制御するにあたり、脱炭焼鈍後の鋼板より試料を切出し、その片面を電解質溶液に接触させ試料極とし、該電解質溶液内で試料極から一定の距離にある対極との間に定電流を流し、その際に生じる電圧の経時変化を求め、この経時変化の第3領域における電圧変化量V34が−0.2 〜0.3 Vの範囲になるように、脱炭焼鈍時の電解脱脂条件、脱炭焼鈍露点、脱炭時の加熱温度および脱炭時の通板速度の少なくとも一つを制御することにより、安定して良好な磁気特性の製品が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の測定方法の概略を示す図。
【図2】本発明法で測定した電圧変化曲線の模式図。
【図3】本発明法で測定した典型的な第3領域の電圧経時変化のパターンを示すもので、(a)の場合はV34が正(+)に、(b)の場合はV34が負(−)になる例を示した模式図。
【図4】V34値と磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ(最終製品板厚0.23mm)。
【図5】V34値と磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ(最終製品板厚0.30mm)。
【図6】脱炭焼鈍条件の変更に伴うV34値と磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ。
【図7】本発明の実施例における製造日の経過に対応したV34値および磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ。
【図8】従来例における製造日の経過に対応したV34値および磁気特性(B8 )との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1 参照電極用コード
2 定電流通電用コード
3 電圧変化出力用コード
4 試料
5 対極
6 電解質溶液
7 定電流電源
8 電圧測定計
9 参照電極
10 パソコン
11 データ処理結果出力計
Claims (1)
- 方向性けい素鋼板の製造過程における脱炭焼鈍において、脱炭焼鈍後の鋼板より試料を切出し、その片面を電解質溶液に接触させ試料極とし、該電解質溶液内で試料極から一定の距離にある対極との間に電解質濃度が0.5wt %NaCl水溶液で、試料極の面積を50〜100mm2としたとき50〜100mAとなるような定電流を流し、その際に生じる、電圧が急激に下がる第1領域と、該第1領域における電圧降下より緩やかな電圧がやや急激に下がる第2領域と、該第2領域に続く電圧がほぼ水平に変化する第3領域と、該第3領域に続いて電圧がやや急激に下がる第4領域からなる電圧の経時変化を求め、この経時変化の第3領域における電圧変化量V34が−0.2〜0.3Vの範囲になるように、電解脱脂条件、脱炭焼鈍露点、脱炭時の加熱温度および脱炭時の通板速度の少なくとも一つを制御することを特徴とする方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍方法。
ただし、
V34=(第3領域の終わりの電圧値)−(第3領域の始まりの電圧値)
であり、第3領域の始まりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V未満でかつそれが連続して2秒以上続き始める時の電圧値であり、第3領域の終わりの電圧値とは1秒間の電圧降下量が0.01V以上でかつそれが連続して4秒以上続き始める時の電圧値である。
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-
1995
- 1995-02-14 JP JP02508095A patent/JP3727084B2/ja not_active Expired - Fee Related
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CN110512062A (zh) * | 2019-08-29 | 2019-11-29 | 马鞍山钢铁股份有限公司 | 一种获取轧钢加热炉钢坯加热过程中表面脱碳的试验方法 |
CN110512062B (zh) * | 2019-08-29 | 2020-11-24 | 马鞍山钢铁股份有限公司 | 一种获取轧钢加热炉钢坯加热过程中表面脱碳的试验方法 |
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