JP3724714B2 - 断熱被覆 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄筋コンクリート、プレキャストコンクリート、ALC、その他のセメントなどの建築部材を使用した内壁や天井の表面に形成する断熱被覆に関する。
【0002】
【従来の技術】
断熱被覆の吹き付け工法としては、硬質ポリウレタンフォームを用いるものと、ロックウールを用いるものが広く一般的に使用されている。
【0003】
硬質ポリウレタンフォーム吹き付け工法は、イソシアヌレート液とポリオール液をポンプによって吹き付けガンまで圧送し、この両液を1:1の割合で被覆面に吹き付けて発泡させ、断熱被覆層を形成する工法である。
【0004】
この硬質ポリウレタンフォーム吹き付け工法によって形成された断熱被覆層は、接着剤を介して石膏ボードを直貼りすることができるため、工期を短縮できるという利点を有する。
【0005】
また、図1は吹付けロックウール工法の説明図、図2は吹付けロックウール工法による吹付け部の拡大説明図である。この工法は、スラリー攪拌機20内にセメントと水を入れ、これらをスラリー攪拌機20内で十分に撹拌してセメントスラリーを作成し、スラリー攪拌機20内のセメントスラリーをスラリーポンプ22でセメントスラリー圧送ホース24を介してセメントスラリー吐出ノズル26に圧送し、このセメントスラリー吐出ノズル26から吐出させ、壁面4に吹き付ける。また、ルーツプロアー28を備えた吹き付け機30を用いてロックウールを、ロックウール圧送ホースを介してロックウール吐出口34まで空気圧送し、このロックウール吐出口34から吐出させ、壁面4の表面に吹き付ける。セメントスラリー吐出ノズル26で噴霧化されたセメントスラリーはロックウールと混合しながら壁面4の表面に吹き付けられ、ロックウールとセメントスラリーとからなる断熱被覆36が形成される。
【0006】
このロックウールの吹き付け工法は、ポリウレタンフォーム吹き付け工法で使用される吹付け機と比べて比較的簡単に扱うことができ、施工コストが安価である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
硬質ポリウレタンフォーム吹き付け工法は、機械の取り扱いに手数がかかり、プラント及び材料を施工部位近くまで移動する必要がある。従って、高層の建築物に使用する場合は、非常にコストが費かってしまうという問題がある。
【0008】
また、硬質ポリウレタンフォーム吹き付け工法は、イソシアヌレート液とポリオール液を吹き付けて発泡させる時に、大量のフロンガスを使用する。今日の環境問題を考慮すると、フロンガスを使用することは好ましくない。
【0009】
また、硬質ポリウレタンフォーム吹き付け工法によって形成した断熱被覆層は、易燃度が非常に高い。特に、火災の際には猛烈な勢いで燃え広がり、有毒ガスを大量に発生させるため、非常に危険である。
【0010】
また、硬質ポリウレタンフォームの被覆層は、その中に水分を取り込み蓄積させる性質を有するため、数年後には断熱性能をほとんど失ってしまうという問題を有する。
【0011】
一方、ロックウール吹き付け工法で形成した断熱被覆層は、断熱被覆層の表面にロックウールの残骸や粉塵が突出しているため、接着剤を塗布しても剥離してしまう。従って、ロックウールの断熱被覆層には石膏ボードを直貼りできないという問題がある。
【0012】
図5は、従来のロックウール吹き付け工法を示した工程図である。ロックウールの断熱被覆層に石膏ボードを取り付けるためには、断熱被覆層の表面に枠を設けてビス止めし、その枠に沿って石膏ボードを取り付けなくてはならない。施工場所が狭い範囲ならば、問題にはならないが、大規模な建築物の場合、作業量が多すぎて施工期間が長くなってしまったり、施工コストがかかってしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、上記した硬質ポリウレタンフォーム吹き付け工法及びロックウール吹き付け工法の利点を組み合わせ、互いの問題点を解決した断熱被覆構造を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る断熱被覆構造は、天井や内壁などの基壁に直接又は他の層を介して形成されたロックウール層とロックウール層に接して形成されたセメントスラリー硬化層とを有していることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記セメントスラリー硬化層は、0.1mm〜3mmの厚さが好ましい。前記セメントスラリー硬化層には、複数個の孔が設けられていてもよい。また、前記セメントスラリー硬化層には、セメントスラリー硬化層からロックウール層側に向かって凹む、複数のエンボスが形成されていてもよい。前記セメントスラリー硬化層には接着剤を介して例えば石膏ボードが取り付けられる。
【0016】
ここで、前記セメントスラリーは、接着剤を含有していてもよい。また、前記セメントスラリー層が硬化して形成されたセメントスラリー硬化層には接着剤を介して例えば石膏ボードを貼り付けられる。
【0017】
【発明の実施の形態】
図3は、本発明に係る断熱被覆構造2の一実施例を示した説明図である。本発明に係る断熱被覆構造2は、天井や内壁などの基壁に直接又は他の層を介して形成されたロックウール層6と、このロックウール層6に接して形成されたセメントスラリー硬化層8とを有していることを特徴とする。
【0018】
ここで、ロックウール層6とは、ロックウールと、ロックウールを固めているセメントからなる層を指す。このセメントとしては、例えばポルトランドセメント(JIS R 5210)、高炉セメント(JIS R 5211)、白色セメントを使用することができる。中でも、早強ポルトランドセメント(JIS R 5210)を使用すれば、適度な強度に達するまでの硬化時間が、他のセメントに比べて3倍以上も早いため、施工期間を短縮することができる。
【0019】
また、このセメントは液体状の接着剤を含有していても良い。この液体状の接着剤としては、瀝青系の接着剤又は合成樹脂系の接着剤を使用することができるが、適宜設定すれば良い。また、この接着剤の含有割合(重量)は0.1〜5重量%が好ましい。この範囲より少ないと接着力が足らず、この範囲を超えると断熱被覆の耐火性能が低下してしまう。また、ロックウールとセメントの割合(重量)は、1:0.18〜0.54が好ましい。
【0020】
また、本発明に係る断熱被覆構造2は、ロックウール層6に接してセメントスラリー硬化層8を設けたことにより、ロックウールの残骸や、粉塵などが突出しているロックウール層6の表面を、接着剤14が塗布できる面にすることができ、石膏ボード16を直貼りすることができる。
【0021】
このセメントスラリー硬化層8で使用するセメントは、ロックウール層6で使用したセメントと同一であっても良いし、他のものであっても良い。
【0022】
また、このセメントスラリー硬化層8は厚さが、0.1mm〜3mmであることを特徴とする。セメントスラリー硬化層8の厚さが前記した範囲より薄いと、ロックウール層6の表面に突出しているロックウールの残骸や粉塵などが残ってしまい、接着剤14を塗布することができず、石膏ボード16を直貼りできない。また、セメントスラリー硬化層8の厚さが前記範囲を超えてしまうと、セメントスラリー硬化層8が固くなりすぎて、ロックウール層6内部の調湿性が失われてしまうため、結露が発生してしまい断熱性能を損ねてしまう。
【0023】
また、本発明に係る断熱被覆構造2は、後述するセメントスラリー硬化層8に形成された複数のエンボスの底部からロックウール層内に嵌入する複数個の孔10が設けられていることを特徴とする。孔10の大きさは適宜設定すれば良いが、0.1〜3.0mm程度が好ましい。この範囲より小さい孔10は、水蒸気が良好に通過できないため、ロックウール層6内部に結露を発生させてしまう。また、この範囲より大きい孔10は、ロックウールの残骸や粉塵も通過してしまうため、接着剤14の粘着力を低下させるだけでなく、粉塵が飛散して健康に影響が出てしまう。
【0024】
また、孔10の深さとしては5mm以内で、1立方センチメートルあたり1個以上空けるのが良い。この孔10を設けることにより、ロックウールの有する断熱効果や吸音効果などを損ねずに、適度な通気性を有することができる。
【0025】
また、本発明に係る断熱被覆構造2は、セメントスラリー硬化層8を硬化前に部分的に押し付け且つロックウール層6の一部を凹ませることによって形成された、セメントスラリー硬化層8からロックウール層6側に向かって凹む、複数のエンボス12が形成されていることを特徴とする。
【0026】
エンボス12を形成すると、セメントスラリー硬化層8の表面積が約1.5倍〜2倍程度増加するため、接着剤14を塗布したときの接着面積が増加する。従って、剥離強度が強まり、石膏ボード16を良好に張り付けすることができる。また、空気との接触面が増加するため、吸音面積が増加して吸音効果も増加することができる。
【0027】
このエンボス12の形成手段や方法は特に限定しないが、図4に示されている突起18を有する鏝を使用しても良い。この鏝を使用すると、エンボス12を形成すると同時に孔10を形成することができるものである。
【0028】
また、本発明に係る断熱被覆構造2は、セメントスラリー硬化層8に接着剤14を介してパネルが取り付けられていることを特徴とする。この接着剤14は、例えば粘土状の接着剤(吉野石膏株式会社 GLボンド)を使用するのが好ましいが、適宜設定すれば良い。
【0029】
以上が、本発明に係る断熱被覆構造2の説明であるが、本発明の目的を逸脱しない限り種々の設定や条件などは、変更が可能である。
【0030】
【実施例】
まず、撹拌装置付きのスラリー槽を用意し、このスラリー槽に水を50リットル、セメント25kg入れ、これらを10分間撹拌・混合してセメントスラリーを作成した。ここで、セメントは早強ポルトランドセメント(JIS R 5210)を、水は上水道水を用いた。
【0031】
次に、このセメントスラリー1リットルに対し接着剤14を3〜70ミリリットルの割合で各々加え、接着剤14入りのセメントスラリーを得た。ここで、接着剤14は合成樹脂系の接着剤14(商品名:ペガメントDK専用)を用いた。
【0032】
次に、吹き付け施工機械を用いて、ロックウールを上記セメントスラリー(液体状の接着剤入りのもの及び液体状の接着剤を含まないもの)と共に実験用のコンクリート壁面の表面に吹き付けた。
【0033】
ここで、吹き付け施工機械はロックウールをセメントスラリーと共に吹き付ける吹き付けガンと、吹き付けガンにロックウールを送る吹き付け機と、スラリー槽のセメントスラリーを吹き付けガンに送るスラリーポンプとを備えている。
【0034】
吹き付けガンのロックウール吹き出し口から吹き出されたロックウールは吹き出しガンのセメント吹き出し口で噴霧されたセメントスラリーに包まれながらコンクリート壁面の表面に衝突し、ロックウールはセメントスラリーの微粒によってコンクリート壁面の表面に付着堆積させられる。
【0035】
ここで、吹き出しガンから吹き出されるロックウールの吐出料は4kg/min、吹き出しガンから噴霧されたセメントスラリーの吐出量は6リットル/minとし、コンクリート壁の表面に厚さ25mmのロックウール層6を形成した。
【0036】
(実験1) 次に、ロックウール層6の表面に前記接着剤14入りのセメントスラリーを吹き付けガンで吹き付け、厚さを変えてセメントスラリー硬化層8を形成した試料を幾つか作成した。
【0037】
このセメントスラリー硬化層8の表面に、100mm×100mm×50mm程度の塊にした接着剤(GLボンド)14を塗布し、石膏ボード16を貼り付けて圧着した。この各試料の石膏ボード16の表面に引っ張り金具を取り付け、引っ張り強度を調べた。引っ張り金具は石膏ボード16への接着面が10cm×10cmの大きさのものを用いた。
【0038】
【表1】
Figure 0003724714
【0039】
各試料の引っ張り強度を調べてみると、セメントスラリー硬化層8が0.1mm以下の厚さの場合、接着剤(GLボンド)14が剥離してしまっていることが分かる。また、セメントスラリー層が0.1mm以下の場合、ロックウール層6の表面に突出していたロックウールの残骸や粉塵がセメントスラリー硬化層8の表面からも突出しており、そのため接着力が低下したと考えられる。
【0040】
また、セメントスラリー硬化層8の厚さが0.1mm以上の試料は引っ張り強度が満足できる結果に終わったが、厚さが3mmを超えると、ロックウール層6内部のに結露が発生していた。これは、セメントスラリー硬化層8が厚すぎるため、調湿性能が失われ、ロックウール層6内部の蒸気が移動できなくなったと考えられる。
【0041】
以上の結果から、セメントスラリー硬化層8の厚みは、0.1〜3mmのものが断熱被覆構造2に適していることが伺える。
【0042】
(実験2) 次に、前述と同様にしてロックウール層6を形成し、その表面に厚さ1mmのセメントスラリー硬化層8を形成し、孔10を形成した試料と、孔10を形成しない試料を用意した。ここで、孔10は1立方cmあたり1個以上形成した。
【0043】
この試料のセメントスラリー硬化層8の表面に、100mm×100mm×50mm程度の塊にした接着剤(GLボンド)14を塗布し、石膏ボード16を貼り付けて圧着した。
【0044】
次に、この試料の石膏ボード16側から、蒸気を1時間当て続けた後、3時間放置し、石膏ボード16を剥がして内部の様子を調べた。
【0045】
【表2】
Figure 0003724714
【0046】
その結果、孔10を開けていない試料はいずれもセメントスラリー硬化層8の表面に若干結露が発生していた。また、ロックウール層6の内部も調べてみると、ロックウール層6内部にも結露が発生しており、調湿性能が良好でないことが伺えた。
【0047】
これに対し、孔10を設けた試料はセメントスラリー硬化層8の表面に結露が発生していなかった。また、ロックウール層6の内部を調べた結果、孔10を設けた試料はロックウール層6内部にも結露が発生しておらず、調湿性能が良好であることが伺えた。
【0048】
(実験3) 次に、前述と同様にしてロックウール層6を形成し、その表面に厚さ1mmのセメントスラリー硬化層8を形成し、エンボス12を形成した試料と、エンボス12を形成しない試料を用意した。ここで、エンボス12は1立方cmあたり1個以上形成した。
【0049】
この試料のセメントスラリー硬化層8の表面に、100mm×100mm×50mm程度の塊にした接着剤(GLボンド)14を塗布し、石膏ボード16を貼り付けて圧着した。
【0050】
この各試料の石膏ボード16の表面に引っ張り金具を取り付け、引っ張り強度を調べた。引っ張り金具は石膏ボード16への接着面が10cm×10cmの大きさのものを用いた。
【0051】
【表3】
Figure 0003724714
【0052】
その結果、いずれの試料も引っ張り強度は満足のいく結果を得ることができたが、エンボス12を形成した試料は、エンボス12を形成していない試料に比べて引っ張り強度が強かった。これは、セメントスラリー硬化層8と接着剤(GLボンド)14との接触面積が大きくなったため、引っ張り強度も強くなったと考えられる。
【0053】
以上の結果から、本発明による断熱被覆構造2は、調湿性能に優れ更に剥離強度も優れているため、家屋や建造物の内壁や天井などの断熱被覆としては好適であることがわかった。
【0054】
【発明の効果】
本発明に係る断熱被覆構造は、壁や天井といった基壁に直接又は他の層を介して形成されたロックウール層とこのロックウール層に接して形成されたセメントスラリー硬化層とを有しているため、接着剤を使用して石膏ボードを直貼りすることができ、断熱被覆工事の作業を簡略化することができる。
【0055】
更に、ロックウール層から突出しているロックウールの残骸や粉塵などをセメントスラリー硬化層によって閉じこめることができ、粉塵などを飛散を防止することができるため、健康に影響がない断熱被覆構造を提供することができる。
【0056】
また、本発明に係る断熱被覆構造は、セメントスラリー硬化層に形成された複数のエンボスの底部からロックウール層内に嵌入する複数個の孔が設けられているため、ロックウール層内部の水分を潤滑に移動でき、調湿性能に優れている。
【0057】
また、本発明に係る断熱被覆構造は、セメントスラリー硬化層に、セメントスラリー硬化層からロックウール層側に向かって凹む、複数のエンボスが形成されているため、接着剤との接着面が増加し、石膏ボードの剥離強度を強めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来のロックウール吹き付け工法を示した説明図である。
【図2】 従来のロックウール吹き付け工法による吹き付け部の拡大説明図である。
【図3】 本発明に係る断熱被覆構造の一実施例を示した断面図である。
【図4】 本発明に係る断熱被覆構造の孔及びエンボスを形成する鏝を示した説明図である。
【図5】 従来の断熱被覆工法の工程を示した工程図である。
【符号の説明】
2 断熱被覆構造
4 基壁
6 ロックウール層
8 セメントスラリー硬化層
10 孔
12 エンボス
14 接着剤
16 石膏ボード
18 突起
20 スラリー攪拌機
22 スラリーポンプ
24 セメントスラリー圧送ホース
26 セメントスラリー吐出ノズル
28 ルーツプロアー
30 吹き付け機
32 ロックウール圧送ホース
34 ロックウール吐出口
36 断熱被覆

Claims (3)

  1. 天井や内壁などの基壁に形成する断熱被覆構造であって、該基壁に直接又は他の層を介して形成されたロックウール層と、該ロックウール層に接して形成されたセメントスラリー硬化層と、該セメントスラリー硬化層の全面に亘って、該セメントスラリー硬化層を硬化前に部分的に押し付け且つ該ロックウール層の一部を凹ませることによって形成された複数のエンボスとを有し、該ロックウール層はセメントスラリーによって相互に結合させられたロックウールの繊維の集合体からなり、該セメントスラリー硬化層は0.1mm〜3mmの厚さを有し、該エンボスの底部には該ロックウール層内に嵌入する孔が各々形成されていることを特徴とする断熱被覆構造。
  2. 前記セメントスラリーは瀝青系又は合成樹脂系の接着剤を含有していることを特徴と請求項1に記載の断熱被覆構造。
  3. 前記セメントスラリー硬化層には接着剤を介して石膏ボードが取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の断熱被覆構造。
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