JP3722059B2 - 溶融還元炉の操業方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融還元炉の操業方法に係わり、特に、炭素系固体還元剤の充填層に高温の酸素富化空気を吹き込む上下少なくとも二段に設けられた羽口を有する溶融還元炉において、金属酸化物を含有する粉粒状原料を溶融還元して溶融金属を製造する溶融還元炉の操業方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
粉粒状の金属酸化物含有原料を溶融還元し、金属を回収する手段として、竪型炉タイプの溶融還元炉が特公昭59−18452号公報に開示されている。この溶融還元炉は、炉下部に設置された上下二段の羽口のうち、少なくとも上段の羽口から粉粒状の金属酸化物含有原料を高温空気とともに炉内に吹き込み、炉内に充填した炭素系固体還元剤を燃焼させて溶融還元するものである。つまり、上段羽口および下段羽口を有する竪型炉では、上段羽口と下段羽口との間に充填している炭素系固体還元剤が燃焼して高温が発生する。したがって、上段羽口から吹きこまれる粉粒状の金属酸化物含有原料は、加熱されて溶融し、充填層を滴下する間に固体炭素で直接還元されて溶融状態の金属およびスラグとなって炉底部に溜まるのである。
【0003】
このような溶融還元炉の操業では、上段羽口に吹き込まれた粉粒状の金属酸化物含有原料を上段羽口前の空間部(以下、レースウェイという。〉において溶融することが不可欠となるため、上段羽口のレースウェイの温度を高温に維持することが必要となる。そのため、上段羽口に粉粒状の金属酸化物含有原料と共に吹き込まれる高温空気の酸素富化率を、下段羽口に吹き込まれる高温空気の酸素富化率より高くすることにより、上段羽口のレースウェイで粉粒状の金属酸化物含有原料の溶融が可能になる温度を確保する方向で操業が行われている。しかし、上記のように上段羽口での酸素富化率を増加していった場合、炉頂から装入した炭素系固体還元剤の降下が停止する現象、いわゆる棚吊が発生するという問題が生じる。棚吊が発生すると、上部から低温の装入物が供給されないため、炉頂温度が過剰に上昇することになる。また、棚が落ちた際の衝撃により炉内状況変化、炉体設備損傷等の影響が出ることも懸念される。さらに、装入物が一気に入ってくるために、急激に炉頂温度が低下するという問題も発生するため、棚吊発生時には、上下段の羽口から炉内に吹き込む送風量を低下して装入物の降下を促進するアクションをとらざるを得なくなるため、減産につながることになる。
【0004】
このような問題を解消するため、操業の管理指標を上段レースウェイの温度として、この温度を一定範囲にして操業することが考えられる。実際に測温方法について検討を行ったところ、接触式の温度計を用いて測定することが困難であった。そのため、羽口覗き窓から放射温度計や二色温度計のような非接触式の温度計で測定する方法を試みた。ところが、この場合も、炉内へ吹き込まれる原料が邪魔になり、正確な温度を測定できなかった。
【0005】
そこで、本出願人は、先に特願2001−097618号(平成13年3月29日提出)にて、レースウェイ温度(以下上段TFTと称す)を計算により求め、その上段レースウェイ温度を目標範囲内に管理して棚吊を防止する操業方法を提案した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この特願2001−097618号による提案技術も、棚吊りを完全に防止するには不十分であった。上段レースウエイ温度を計算で求める際には、幾つかの操業条件を一定と仮定するが、表1に示すように、計算温度が実際の温度と著しく離れてしまうことがあるからである。
【0007】
【表1】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、上段レースウェイの温度を従来より正確に把握して安定操業を可能にする溶融還元炉の操業方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記目的を達成するため測温方法について鋭意研究し、その成果を本発明に具現化した。
【0010】
すなわち、本発明は、炭素系固体還元剤の充填層に高温の酸素富化空気を吹き込む上下少なくとも二段に設けられた羽口を有する溶融還元炉で、粉粒状の金属酸化物含有原料を少なくとも上段羽口から吹き込み、溶融金属を製造する溶融還元炉の操業方法において、前記上段羽口前のレースウェイ温度を、上段羽口への前記原料吹込みを一時的に停止して非接触式温度計で測定すると共に、その測定値が予め定めた目標値以下になるように、上段羽口への供給熱量を下段羽口から吹き込む熱風の酸素富化量を変更して調整することを特徴とする溶融還元炉の操業方法である。
【0011】
この場合、前記測定を、前記原料吹込み停止から5分以内に行ったり、及び/又は前記目標値を2000℃とするのが好ましい。
【0012】
本発明では、操業条件を一定に仮定した計算を行わず、上段羽口前のレースウエイ温度の実測値を用いるようにしたので、操業管理が行い易くなる。その結果、装入物の棚吊り頻度が従来より減少し、溶融還元炉を安定させて操業できるようになった。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
まず、本発明に係る溶融還元炉の操業方法を実施する炉は、図2に示すように、上段羽口1u及び下段羽口1sを有する竪型の溶融還元炉1であって、その他に、該溶融還元炉1内で充填層を形成する炭素系固体還元剤3を投入するためのホッパ2、上下段の羽口1u,1sから炉内に粉粒状の金属酸化物含有原料を吹き込むための原料吹込装置4、上下段羽口1u、1sから炉内に高温の空気を吹き込むための熱風炉5、熱風炉5から上下段羽口1u、1sに送られる高温空気に酸素を供給するための酸素供給源6及び出銑口7が備えられている。
【0015】
ここで、本発明者等は、このように二段羽口1u,1sを有する炭剤充填層型溶融還元炉1でのSiの移行反応について考察を重ねた結果、以下のことを知見した。すなわち、溶融還元炉1において、上段羽口1uから炉内に吹き込まれた粉粒状の金属酸化物含有原料が溶融還元される際の炉内温度が高い場合、溶副還元炉1の安定操業を阻害する下記(1)式に示す反応が生じるため、コークスアッシュ中および生成したスラグからSiOガスが揮発することになる。
【0016】
SiO2+C→SiO+CO …(1)
この場合、炉内温度が高いほどこの反応速度が大きくなるため、SiO2の蒸発量が大きくなってより多くのSiOガスが発生することになる。上段羽口1uで生成したSiOガスは炉頂に向かって上昇していくが、途中のシャフト部において温度の低下に伴い、SiO2として凝縮することになる。そして、この凝縮量が多くなると、これらがコークス間およびコークスと炉壁とを接着することになり、その結果、炭素系固体還元剤の降下が妨げられ、棚吊が発生すると考えられる。よって、溶融還元炉1の安定操業の阻害を抑制するための棚吊の防止については、上段羽口1uでのSiO2の蒸発を抑制できるように上段羽口1u前のレースウェイ温度を管理すれば良いと考えられる。そして、具体的には、酸素供給源6から上段羽口1u側に供給される酸素の量を調整して、棚吊の発生しない安定した溶融還元炉の操業を確保するようにしている。なお、上段羽口1u側に供給する酸素量を減少させる際には、溶融還元炉の総熱量の低下に至ることがあり、その場合には、上段羽口1u側で減少させた酸素を下段羽口1s側の増分酸素として加える操業を行う。
【0017】
次に、特願2001−097618号に記載した技術に基づき発明者が計算で求めたレースウェイ温度(以下、上段TFTという)を管理指標にして操業し、その間に生じた棚吊り頻度を度数分布として図3に示す。
【0018】
図3から明らかなように、上段TFTが2000℃を超えた場合に棚吊が頻発している。これにより、上段TFTを2000℃以下に保つことにより、上段羽口1uでのSiO2の蒸発が抑制されて該棚吊の発生を防止できると考えられる。ところが、上段TFTを2000℃以下に設定してさらに操業を続けると、まだ棚吊りが起きる日があった。これは、上段TFTの目標値を2000℃に設定したこと、あるいは計算で求めた上段TFTが正しく評価できていないことのいずれかに原因があると考えられた。
【0019】
そこで、発明者は、上段TFTの計算では、前記表1に示したような操業条件の仮定に基づく問題を抱えていることから、以前には失敗している該上段TFTの非接触式温度計による実測を再度検討することにした。そして、種々の試みを行った結果、図1に示すように、上段羽口から吹き込む金属酸化物含有原料の吹き込みを一次停止し、その停止から5分間以内までに測温すると、測定に際し外乱のない信頼できる上段TFTが得られることがわかった。管理値として使用できれば良いので、測定値が正確な温度である必要がないと考えたのである。
【0020】
引き続き、発明者は、この方法で測定した上段TFTを用い、実際に目標温度を2000℃に設定して試験操業を行った。その結果、棚吊りの発生が皆無になったので、これを要件に本発明を完成した。
【0021】
【実施例】
金属酸化物含有原料の処理量が30トン/日規模の溶融還元炉を用いた操業を行った。使用した金属酸化物含有原料は、電気炉工場から発生する電気炉ダストであり、鉄、亜鉛等の金属酸化物を含む。上段羽口前理論燃焼温度を2000℃以下で操業を継続した際の上段TFTの計算値及び棚吊回数の推移を図4(b)及び図4(a)に示す。図4より、この期間では時々柵吊が発生しており、期間平均の棚吊発生率は0.5回/日であることが明らかである。
【0022】
次に、粉体吹き込みを一時的に停止させて、上段羽口温度を2色光温度計により測定した。その温度は、2030℃であった。そこで、上段羽口への富化酸素量を310Nm3/hrから270Nm3/hrまで低下させて操業した。この変更後、上段羽口温度を2色光温度計により測定したところ1950℃であった(図5(b)参照)。なお、溶融還元炉トータルでの供給熱量低下が懸念されるため、下段羽口への富化酸素量を50Nm3/hrから90Nm3/hrに増加させた。この条件下では、図5(a)に示すように、10日間の操業において一度も棚吊が発生しなかった。また、出銑状況、炉内圧力も安定しており、操業上の問題は全く発生しなかった。
【0023】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、溶融還元炉の上段羽口前レースウエイの温度を、実測で従来より正確に把握できるようになる。その結果、操業が棚吊を恐れることなく円滑に実施できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】上段TFTを非接触式温度計で実測した結果を示す図である。
【図2】本発明に係る操業方法を実施する溶融還元炉の一例を示す図である。
【図3】上段羽口の計算によるレースウェイ温度(TFT)と棚吊発生頻度との関係を示す図である。
【図4】上段羽口の計算によるレースウエイ温度(TFT)を管理基準とした操業結果を示す図であり、(a)は棚吊り回数、(b)はTFTの設定値である。
【図5】本発明の実施結果を示す図であり、(a)は棚吊り回数、(b)はTFTの設定値である。
【符号の説明】
1…溶融還元炉
1u…上段羽口
1s…下段羽口
2…炭素系固体還元剤の投入用ホッパー
3…炭素系固体還元剤の充填層
4…原料吹込装置
5…熱風炉
6…酸素供給源
Claims (3)
- 炭素系固体還元剤の充填層に高温の酸素富化空気を吹き込む上下少なくとも二段に設けられた羽口を有する溶融還元炉で、粉粒状の金属酸化物含有原料を少なくとも上段羽口から吹き込み、溶融金属を製造する溶融還元炉の操業方法において、前記上段羽口前のレースウェイ温度を、上段羽口への前記原料吹込みを一時的に停止して非接触式温度計で測定すると共に、その測定値が予め定めた目標値以下になるように、上段羽口への供給熱量を下段羽口から吹き込む熱風の酸素富化量を変更して調整することを特徴とする溶融還元炉の操業方法。
- 前記測定を、前記原料吹込み停止から5分以内に行うことを特徴とする請求項1記載の溶融還元炉の操業方法。
- 前記目標値を2000℃とすることを特徴とする請求項1又は2記載の溶融還元炉の操業方法。
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