JP3721196B2 - 新生物疾患および自己免疫疾患の治療または予防のためのマグネシウムベースの製品の使用 - Google Patents
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Description
マグネシウムは、生物(特に哺乳動物)に広く分布している天然の元素であり、骨における濃度が最も高いことは知られている。ヒトでは全マグネシウム量の約60%が骨組織に、約34%が軟組織にそして約5%が細胞間間隙に貯蔵されている。また、マグネシウムは血漿の正常成分でありカルシウムのアンタゴニストであるため、筋肉収縮機構に関与し、多くの酵素の作用に必須であることもよく知られている。
ヒトの1日当たりのマグネシウム必要量は、体重1kg当たり5〜10mgの範囲であり、通常は食物、特に野菜により供給される。生体のマグネシウムの欠乏は、筋肉の異常な興奮およびけいれんに関係がある。これは母親がすでに自身のマグネシウム貯蔵量が欠乏している時または乳児へのマグネシウム供給が不足している時に、または乳児自身の体から多量のマグネシウムが消失した時に、出産時の乳児に発生する。マグネシウム欠乏が思春期、成人期または老年期に起きると、一般的にストレス、慢性中毒または疾患、吸収不良、アルコール耽溺または薬物耽溺の原因となり、長期のマグネシウム欠乏を引き起こすホルモン疾患の原因となる。さらに詳しくは、供給不足に起因するマグネシウム欠乏は、例えば、成長、妊娠、授乳、食欲不振、嘔吐、カルシウム、ビタミンD、リン、アルカリ性製品の取りすぎ、または食物繊維の取りすぎ、低カロリーダイエット、アルコール症などにより引き起こされる。マグネシウム代謝の欠陥に起因するマグネシウム欠乏は、例えば、ストレスまたはノイローゼ、神経疾患または内分泌代謝障害により起きることもある(ジェイ・ヅーラック(J.Durlach)、"IL magnesio nell pratica clinica"、118頁以後、IPSA、パレルモ(Palermo)(1988))。
血中のマグネシウムレベルは、前述の貯蔵部位での存在と相関していないため、生体のマグネシウム欠乏または過剰は、絶対値として定量化できない。一般的に体のマグネシウム含量を検出する手段には、患者の血漿もしくは血清中のマグネシウム血中レベルの検出(この値が異常な場合は、マグネシウム代謝の障害を意味し、さらに普通はより詳しい一連の検査のための出発点である)、尿中のマグネシウムレベルの検出(これは尿からのマグネシウムの排泄の尺度であり、普通タンパク質摂取に関連しており、尿中のMg/尿素比はほぼ一定である)、髄液中のマグネシウムレベルの検出、赤血球マグネシウムの検出(これは造血が起きている時に骨髄に含有されているマグネシウムの量を示し、従ってこれはマグネシウムに関する間接的な骨髄探査を可能にするが、赤血球マグネシウムレベルは、赤血球の年齢の関数であり、従って急速な赤血球の更新は赤血球マグネシウム増加に関係があるが、マグネシウム過剰には関係がない)、リンパ球マグネシウムの検出、25Mgによる核磁気共鳴(これはマグネシウムの細胞内分画中および異なる化学物理的構造中の修飾を示す)、そして最後に患者の骨および筋肉中のマグネシウム含量の検出がある。
現在の医学的意見では、マグネシウムの投与は確立された固形腫瘍の増殖を促進し、一般的に自己免疫疾患を悪化させる(例えば、ジェイ・ヅーラック(J.Durlach)、215−216頁、前述)。この意見は、腫瘍が進展している時または慢性の疾患(例えば、肝硬変)が悪性の変化を示す時、または自己免疫疾患が再発する時に、赤血球のマグネシウムが増加するという知見に基づく。さらに赤血球のマグネシウムレベルは、疾患が緩解している時は低下するであろう。
具体的には、腫瘍または自己免疫疾患が発症する時、生体内でマグネシウムの欠乏が発生し、同時にマグネシウムは骨髄から新たに生成する赤血球に移動し、この赤血球により腫瘍領域または自己免疫疾患により影響を受けた領域に運搬される。すべての場合に血液中のマグネシウムの増加が検出される。これらの点から、現在の医学的意見では、マグネシウムは腫瘍または自己免疫疾患が進行するために使用される「燃料」である。
従来の治療法では、自己免疫疾患の治療に免疫抑制剤を、そして腫瘍の治療には抗新生物化学療法剤を用いる。すなわち、薬物を使用して、増加している細胞分裂活性を低下することを目的としている。これらの薬剤は実際に細胞の代謝を低下させる(すなわち、健康な細胞より疾患のある細胞により一層作用する)が、生体の劇的なマグネシウム欠乏も引き起こす。
生体のマグネシウム含量を欠失させて固形腫瘍を退行させるという理論は、1974年にパーソン(Parson)と仲間達(エフ・エム・パーソン(F.M. Parson)ら、「食事と血液透析により誘導されるマグネシウムとカリウム欠乏における悪性腫瘍の退行」、The Lancet, 16.02.1974)の知見により確認され、かれらは、数人の「末期」患者で強制的に体内のマグネシウム欠乏を引き起こして、新生物病変の部分的退行を得た。この欠乏は、ほとんどマグネシウムを含まない食事と血液透析を組合せて得られ、こうして毎日多量のマグネシウムが患者から排除された。
この試み以後この治療法の正当性は確認されていないようである。しかし現在の医学界の主要な意見は、マグネシウムを新生物疾患や自己免疫疾患に関して陰性の元素であると考えている。
本発明の基礎になっている理論によれば、前記とは反対に、ヒトや動物におけるマグネシウム欠乏は、免疫応答の過剰および低下の両方を引き起こす疾患の原因であることが見いだされている。よく知られているように、過剰な免疫応答において、生体は反応性の変化を示し、これが自己免疫疾患抗体(同じ生体のいくつかの成分に対する抗体)の原因となり、自己免疫疾患を引き起こしている。一方この応答がない場合、生物が破壊することができない腫瘍、またはウイルス、細菌、寄生体もしくは真菌の疾患が発生する。
本発明において、マグネシウムの欠乏した生物が、前述の第1または第2の反応を示すか否かは、単一の固体のゲノムの多様性に依存する。この多様性が、固体の体質により、免疫系を過小にまたは過度に反応するようにする。しかしいずれの場合も疾患の発症または進行(これは、不十分な免疫応答の結果である)は、マグネシウム欠乏がその出発点となっている。
具体例として新生物疾患を考えると、ヒトまたは動物は平均して毎日20個の腫瘍細胞を生成していることが知られている。この細胞は、その変化した遺伝子配列の検出に基づき、通常免疫系により異種物質として認識され、従って排除される。マグネシウム欠乏のためにこれが起きずに免疫系が低下しているかまたは無効になっている場合、悪性の細胞(分化が不十分であるかまたは全く分化していないが、非常に攻撃的であり、細胞間結合物質が存在しないため互いに結合している)が成長し、その生存が非常に高い分化レベルの細胞の遺伝の維持に依存する宿主生物の能力を無くす。
自己免疫疾患の腫瘍疾患との差は、自己免疫疾患(これは、前述のように個体のゲノムの差により腫瘍の代わりに起きる)では、免疫系は低エネルギー性であると言うよりも、高活性が生体の防御することに向けられていなく、異種として認識された自己のいくつかの成分に対して向けられているという事実にある。
この機構は、必ず自己の成分を障害することになる。
いずれの場合もマグネシウム欠乏により疾患の潜伏が起きるか否かは、全身的なまたはマグネシウム制御に特異的な、体質的なまたは後天的なホメオスタシス機構の性質に依存する。この性質は個人毎に異なり、慢性のマグネシウム欠乏に対する耐性は、マグネシウムホメオスタシスの性質に従って症例毎に異なることは明らかである。いずれにしても症状の発現を引き起こすには代償不全因子が必要であるというのが医学界の全体的な意見である。
以上より、本発明において腫瘍および自己免疫疾患の防止および治療に、マグネシウムまたは任意の生理学的に許容されるMg++イオンの供給源を使用することが提唱される。
有機または無機塩の形またはマグネシウムイオン錯体の形のマグネシウム含有化合物は、すでに治療、おもに制酸剤、緩下剤および下剤としてのみでなく、代謝制御物質、抗けいれん剤および鎮静剤としても使用されている。しかし当然ながら、マグネシウムイオンを含有するすべての活性化合物において、マグネシウムイオンが真の治療効果を示す訳ではないことに注意すべきである。例えば硫酸マグネシウムの場合、緩下作用は、マグネシウムイオンの性質によるものではなく、使用される溶液の浸透圧作用によるものであり、および硫酸塩陰イオンの典型的な機能によるものである。従って吸収できる形のMg++イオンを生物に供給でき、本発明の企図する活性と相容れない治療活性は示さないマグネシウム化合物を用いることにより、本発明の新しい医学的効用を実施することができる。
すなわち本発明は、固形新生物疾患の治療用および自己免疫疾患の治療用および/または予防用薬剤の製造のための、薬剤学的に許容されるマグネシウム塩もしくは錯体の使用を提供する。
従って本発明において、マグネシウム治療の新しい適応症であると考えられる疾患は、新生物疾患分野では、固形新生物(すなわち、臓器新生物)、ならびに自己免疫疾患分野では、正式にそう呼ばれる疾患、および自己免疫機構を示す任意の疾患がある。いわゆる自己免疫疾患には、リウマチ様関節炎、局所的および全身的硬皮症、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、皮膚ループス、皮膚筋炎、および多発性筋炎、シェーグレン症候群、結節性汎動脈炎、自己免疫腸疾患、増殖性糸球体腎炎、活動性慢性肝炎、および多腺性欠損自己免疫症候群1型および2型がある。何らかの自己免疫機構が関与する疾患には、多発性硬化症、尋常性天疱瘡、天疱瘡、乾癬および類乾癬、腸炎症性疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、およびクローン病)、白斑およびサルコイドーシスがある。
上記の疾患の通常の治療法は、多岐に渡り、手術から放射線照射や生理的治療法まで、そして多くの場合、多くの異なる活性物質(特に、コルチゾン、免疫抑制剤、インターフェロンおよびコルチコステロイド)を用いる化学療法まである。一方本発明では、上記疾患のすべては、多少ともマグネシウム欠乏に関連しており、これが異常に弱いかまたは異常に強い免疫応答を引き起こしている。すなわち、随時従来の治療法と組合せた正しいマグネシウム治療法は、生体の免疫系の正しい機能を回復させ、従って上記疾患を防御する。
この作用機構については、マグネシウム治療法は最適なマグネシウムレベルを回復させ、免疫系にT−ヘルパーリンパ球のTh1亜集団の産生を増加させ、その結果細胞性免疫応答を上昇させると考えられている。実際Th1リンパ球は主にインターロイキン2とガンマインターフェロンを分泌し、これらのサイトカインが細胞性応答を刺激し、生体から感染した成分を排除することは、知られている(モスマンとコフマン(Mossmann and Coffmann)、DNAX研究所、カリホルニア州パロアルト)。
本発明の治療に使用されるマグネシウムベースの化合物は、化学量論的な塩またはマグネシウムイオン錯体(すなわち、経口投与された時吸収を増強する物質)の形でもよい。また塩は、有機の塩、例えば、乳酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウムもしくは酢酸マグネシウム、または無機の塩、例えばピロリン酸マグネシウムでもよい。ピロリン酸マグネシウム(マグネシウムピドレートとしても知られている)は、本発明の好適な化合物であり、神経系抑制剤として、および過度の興奮性、筋肉収縮およびけいれんに対してすでに使用されている。
本発明の新生物疾患または自己免疫疾患の治療におけるマグネシウムベースの化合物の投与は、経口または非経口的に行われ、非経口投与の場合筋肉内注射または静脈内注射により行うことができる。ある場合には、以下に説明するように皮膚または粘膜投与も有効である。
前述のように、マグネシウムは単独でも、または関係する疾患に対する通常の薬剤と組合せて使用することもできる。後者の場合、正常な免疫応答を回復するために、マグネシウム治療は従来の治療法の前、同時または後に行われる。
成人の平均マグネシウム必要量は、6mg/kg体重/日であり、異化段階(例えば、疾患)の間にその必要量が大幅に(この2倍まで)増加することを考慮すると、このような場合の経口投与用の治療投与量は、マグネシウム2〜12mg/kg体重/日であり、好ましくは8〜10mg/kg体重/日である。ピロリン酸マグネシウムを使用する場合、この量は25〜148mg/kg体重/日、好ましくは95〜123mg/kg体重/日に等しい。しかし最適量は、Mg++9mg/kg体重/日、すなわちピロリン酸マグネシウム111mg/kg体重/日である。
経口投与があまり許容されない場合、例えば下痢を引き起こす場合、または吸収不良、嘔吐および昏睡が起きる場合、または患者が麻酔下にある時などには、非経口投与が使用され、マグネシウム投与量は2〜30mg/kg体重/日であり、ピロリン酸マグネシウム25〜368mg/kg体重/日に相当する。多くの場合、マグネシウム量は8〜10mg/kg体重/日(すなわち、ピロリン酸マグネシウム98〜123mg/kg体重/日)で充分である。
経口投与または非経口投与された同量のマグネシウムは、新生児、乳児、小児および青少年にも一般的に有効である。いずれにしても、投与量は体重のみでなく、患者の年齢もしくは耐性および疾患のステージに依存する。前記疾患の最も重症の場合(例えば、局所的転移または複製転移のある腫瘍)、24時間の連続的点滴により、最大量が投与量される。マグネシウムの1日量は、静脈内注射で希釈され、1時間当たりのマグネシウム量は80〜100mg以下を生体に供給する。
薬物動力学的投与量での非経口投与および経口投与治療は、いずれも患者の血漿マグネシウムレベル、脈拍、動脈圧、骨腱反射、心電図、呼吸リズムを追跡しなければならないことを考慮すべきである。
経口経路または静脈内経路が使用できるまで、2〜4mg/kg体重/日のMg++(ピロリン酸マグネシウム25〜45mg/kg体重/日に等しい)を1回または2回に分けて筋肉内に注射して、静脈内投与の代わりに筋肉内経路を使用してもよい。
本発明で示唆されるマグネシウム治療法により、以下の結果が得られる:
・血中マグネシウムレベルが1.5ミリモル/l未満の時、マグネシウム過剰は隠される、
・血中マグネシウムレベルが1.5ミリモル/lを越える時、低血圧、一過性頻脈そして次に徐脈があり、吐き気、嘔吐および頭痛が起きることもある、
・血中マグネシウムレベルが2ミリモル/lを越える時、腱反射が低下し、筋肉緊張低下や眠気、乏尿、心電図のP−RおよびQ−Tの延長が起きる、
・血中マグネシウムレベルが4ミリモル/lを越える時、腱反射が全くなくなり、筋肉痺痲、特に呼吸麻痺、その後低温性昏睡および心臓停止が起きる。
マグネシウムの過剰は、カルシウム、浸透圧性利尿薬の静脈内投与、抗コリンエステラーゼ剤、覚睡剤および配糖体強心剤の投与、および多くの重症の場合では人工呼吸や透析により治療できることに注意すべきである。
経口投与または非経口投与マグネシウム治療法の禁忌は、運動板に対してクラーレ麻痺作用を有する薬物(抗生物質ではゲンタマイシン、ストレプトマイシン、アミカシン、トブラマイシン、抗不整脈剤ではキニジンベースの薬剤、抗けいれん剤ではヒダントイン、鎮静剤ではジアゼパムおよびフェノチアジンなど);呼吸センターを抑制する高用量の睡眠薬およびバルビツール酸塩;肺浮腫および心筋虚血を促進するコルチコトロピン療法剤やベースミメティックス(betamimetics)の同時投与である。一時的禁忌は、リン−アンモニウム−マグネシウム塩の沈殿を引き起こす可能性のある尿路感染であり、従ってマグネシウム治療を開始する前に尿路感染症は治療しておく必要がある。
本発明のマグネシウム治療はまた、疾患の経過の中で現れた局所的皮膚または粘膜症状を治療するために、前述のように入浴、洗浄、軟膏などを用いて、皮下または粘膜投与により行われる。Mg++濃度と投与頻度は、疾患のタイプや患部により異なる。
マグネシウム輸送を改良するため、マグネシウムの血漿レベルを上昇させるため、そして尿からのマグネシウム排泄を低下させるために、マグネシウム治療法をいくつかのマグネシウム固定物質(例えば、ビタミンB6)と組合せると便利である。好ましくはビタミンB6は、ビタミンB6とMg++イオンの比が2:1〜3:1(最適比は2.5:1である)でこの目的のために使用される。
抗ストレス治療(例えば、清潔な生活行動または緩和な鎮静剤治療)、または過度のタンパク質摂取を避けること、またはカリウム保持性利尿剤(例えば、アミロリドまたはスピロラクトン)を使用することにより、尿を介するマグネシウム除去を低下させることができる。しかし、カリウム保持性利尿剤の使用は、尿を介するマグネシウムの除去が絶対値としても尿中の尿素含量の点でも非常に高い場合に限定される。
本発明に従って行われるマグネシウム治療により、3〜12カ月以内に前述の適応疾患から回復し、ここで「回復」とは、病変が消失するかおよび/または疾患の活動性指数が陰性の値にまで低下し、その組織病変が発生して「完全治癒」とならない時でも疾患の進行が停止することを伴う(例えば、間接性強直症、神経病変、筋肉への繊維形成作用など)。
完全な臨床的および分析的回復が得られると、マグネシウム治療は停止されるが、生理的量で毎年3月から6月まで、および9月から12月まで、Mg++を5〜6mg/kg体重/日(これは、ピロリン酸マグネシウム67〜71mg/kg体重/日に等しい)経口投与を繰り返すことが便利である。またこの場合、マグネシウム治療をビタミンB6投与と、B6/Mg++比を2.5:1で組合せることが便利である。この生理的量を使用する治療法は、前述の疾患の発症を防ぎたいと思う健常者でも勧められる。
本発明に関連して行われた試験および関連する臨床試験(そのいくつかの例は後述する)は、新生物疾患や自己免疫疾患においてマグネシウムの役割に関する仮説の作成を可能にする。その仮説を以下に要約する。
生体にマグネシウム欠乏が起きると、細胞間間隙におけるマグネシウムの血中レベルが低下し、細胞内のマグネシウムレベルも一緒に低下し、これが細胞膜の透過性を亢進する。続いて起きる脱分極が、細胞内カリウムを低下させ、細胞内カルシウムを増加させる。従ってこのようなイオン変動は、血液のカルシウムレベルを低下させ、血液のカリウムレベルを上昇させる。マグネシウム欠乏状態が続くと、細胞内カルシウムの過剰が、カルシウム、リンとマグネシウムの不溶性結晶を細胞内で沈殿させる。これらの塩は生理学的には重要ではないが、重症および長期のマグネシウム欠乏は、細胞内リン含量を増加させ、および逆説的に細胞内マグネシウム含量を増加させる。すでに報告したように、末期癌患者で誘導される重症のマグネシウム欠乏の作用として、パーソン(Parson)らが観察した一時的生体応答は、細胞内マグネシウムのこのような増加が原因と考えられる。
同様に、免疫抑制剤により誘導される生体における劇的なマグネシウム欠乏が前述のパターンに従い細胞内マグネシウム増加を引き起こし、同様の作用を及ぼす。
一方本発明の知見によれば、新生物疾患または自己免疫疾患の発症時に生体中の少ない貯蔵マグネシウムが、疾患と戦うため加速されたリズムおよびより多い量で使用される。時間の経過とともに、生体のマグネシウム保存量は充分回復しない場合は欠乏し、疾患が継続すると、これらの貯蔵量が枯渇するまで主要な保存場所(すなわち、骨組織)から引きだしてくる。
この点で赤血球が合成されるのは骨組織であり、赤血球はマグネシウムを持って障害された腫瘍部位に向かい、疾患の進展に対抗することは正しいことに注意すべきである。マグネシウム治療を行わないと、マグネシウム貯蔵量は枯渇し、従って免疫系(特に、細胞性免疫)は弱くなる。
固形悪性腫瘍の周りに新たに形成される血管ネットワークは現在の医学界では健康な組織への浸潤を改良し加速するための、新生物により誘導されるそれ自身に有用な貫通因子として考えられているが、その大きさを考慮すると、反対に、それは適当な免疫活性物質がより迅速に病変部に到達して高用量で、より有効に腫瘍と戦うことを目的とした、新生物に対する生体の防御システムであると考えらる。
種々の新生物疾患と自己免疫疾患に対する本発明の治療の有効性を示すいくつかの臨床例を以下に示す。
下腹部異常と頻繁な(時に、血の混じる)下痢(1日4〜5回)に、直腸テネスムスを伴う74才の男性。ジャックナイフ位で3時で肛門辺縁から6cmの位置の局所的腫瘍を、直腸検査そして次に直腸鏡検査により診断した。腫瘍は、柔組織のようなの堅さのナッツ様の塊であり、下の平面に移すことができなかった。生検の結果は以下の通りである:浸潤している潰瘍形成した腺癌の断片。
断層撮影は、腫瘍が直腸壁をこわして、筋層を1cm越えて接触転移を示すが、離れた部位の転移は証明されなかった。さらに直腸壁の肥厚が、新たに形成される狭窄性突起とともに観察された。
患者は1カ月間治療を拒否し、その後マグネシウム治療を開始し、6gのピロリン酸マグネシウムを含む生理的溶液を毎日500cm3投与した(すなわち1日当たりMg++489g、これは、約9.7mg/kg体重/日に相当)。点滴速度は1時間当たり80mgのマグネシウムイオンで約6時間、患者に与えた。さらに4回の別の投与で1200mgのビタミンB6を一緒に与えた(ビタミンB6:Mg++=2.5:1)。細胞によるマグネシウム摂取を改良するために、ビタミンB6は、マグネシウム治療とともに使用し、尿からのマグネシウムの過剰な消失は検出されなかった。
静脈内投与で1カ月治療後、経口投与で毎日ピロリン酸マグネシウム6g(すなわち1日当たりMg++488g、これは、Mg++約9.7mg/kg体重/日に相当)と、1200gのビタミンB6を数回に分けて治療を継続した。
マグネシウム治療の3カ月目の最後に、直腸の検査と直腸鏡検査により、ジャックナイフ位3時に直径1.5cmの領域がまだ残っており、堅く、不規則な形をしており壊死が進んでいる以外は、直腸周辺から以前の腫瘍組織が消失したことを示していた。4カ月目の治療の最後に、腫瘍領域はさらに縮小しており、治療の5カ月目の最後に直腸鏡検査をしたときは完全に消失していた。5カ月目の最後に再度行なった直腸鏡検査と断層撮影では、異種形成組織は消失しており、正常な直腸組織が存在していた。
35才の女性は、1年前から手首、上腕肩甲骨、足の甲の関節に急性移動性関節炎の症状を示した。患者は、2カ月前から橈骨手根骨、中手骨、脛骨−足根骨関節の痛みそして膝の痛みを訴えた。膝は熱を持ち腫れているようであった。臨床検査値は、ESRの上昇(55、正常値は1〜15)、ルーム試験値(rheuma test)の上昇(105、正常値は0〜40)、PCRの上昇(15、正常値は0〜6)、およびフィブリノゲンの上昇(550、正常値は123〜170)を示し、ワーラーローズ反応は陽性(正常値は陰性)であった。正色素性貧血も示し、ANA抗体は陽性であった。しかし骨病変も関節病変も検出されなかった。従って、リウマチ様関節炎と診断された。
疾患緩解の間隔で開始したマグネシウム治療では、ピロリン酸マグネシウム6g(489mgのMg++に等しい、Mg++8.1mg/kg体重/日に相当)を、50cm3の生理的溶液で点滴した。点滴速度は、Mg++を1時間80mgに調整して約6時間供給した。マグネシウム摂取を改良するために、ビタミンB6はマグネシウムに対して、2.5:1の比で(すなわち、1日1200mgを数回に分けて)投与した。関節痛を緩和するために、適当な鎮痛剤および抗炎症剤(FANS)を処方した。
マグネシウムベースの治療の1カ月目の最後に、朝の関節の中程度のこわばりは残ったが、患者の患部関節の痛みは少し低下し、関節の腫れが減少した。臨床検査値は、ESR(42)、および他の検査値ともに良好な値を示した。
この時点で非経口投与を中止し、経口投与を以下の投与量で開始した:6gのピロリン酸マグネシウムを1日数回に分け(すなわち、1日488mgのMg++、Mg++8.1mg/kg体重/日に相当)、ビタミンB61200gを経口投与でこれも数回に分けて投与した。
4カ月目の最後に、関節の腫脹は消失し、患者は関節痛も朝の関節のこわばりも口にしなかった。検査値は以下の通りであった:
ESR 10(正常値:1〜15)
ルーム試験 21(正常値:0〜40)
反応性Cタンパク質 2(正常値:0〜6)
ワーラーローズ反応 陰性(正常値:陰性)
フィブリノゲン 232(正常値:123〜370)
ANA抗体 陰性(正常値:陰性)
32才の患者は、3年前から尋常性天疱瘡に罹り、顔や頭皮に柔らかい水泡ができた。水泡はできた後に破裂し、円形のくぼみとなり、これが後にかさぶたで覆われた。次にこの症状が胴体や口の粘膜にも現れた。
この疾患は長い間コルチコステロイドで治療されていたが、2年後重症の背骨の骨粗鬆症と膝の骨粗鬆症が検出された。これらの症状はコルチコステロイドの使用に関連していたため、この治療を中止し、免疫調節剤、インターフェロン、カルシトニンによる治療に切り替えた。マグネシウム治療を開始する前に、患者は胴体と頭皮に紅斑とかさぶたを示し、四肢にまれに水泡を示し、上肢と下肢の両方に筋肉発育不全を示した。
治療は、1日9gのピロリン酸マグネシウム(すなわち、Mg++733mg、9.16mg/kg体重/日のマグネシウムイオンに相当)を500cm3の生理的溶液に溶解して投与した。点滴速度は1時間当たりMg++80mgに調整して約9時間行った。マグネシウム摂取を改良するために、1800g/日のビタミンB6を数回に分けて、静脈内マグネシウム治療とともに使用した。
1カ月の治療後、治療の最後に患者の関節痛は減少し、非紅斑皮膚の皮下病変も減少した後、経口投与治療を開始し、1日9gのピロリン酸マグネシウム(すなわち、Mg++733mg/日、Mg++9.15mg/kg体重/日に相当)を数回に分けて投与した。さらに1800mg/日のビタミンB6を数回に分けて、毎日投与した。
治療の4カ月目の最後に、胴体と四肢のかさぶたの病変が消失したが、頭皮にわずかに病変が残った。患者は、まだ弱い関節痛を訴えた。治療の6カ月目の最後に、関節痛は完全に消失し、皮膚は正常な外観を呈したが、いくつかの軽い傷は残った。
27才の女性は、潰瘍性大腸炎に罹っていることが判明し、従来法で治療した。治療終了の数年後、痛みと下痢が再発したため、患者をまずコルチコステロイドで治療し、次に免疫抑制剤で治療した。
疾患が一時的に緩解している時、患者にマグネシウム治療を行なった(その前に、大腸鏡検査を含むすべての検査を行なった)。検査により最後の50cmに過度の出血性の大腸粘膜が発見され、触るだけで出血し、微小潰瘍性病変を示した。組織学的検査では、隠れた膿瘍が発見され、粘膜と粘膜下組織に炎症性好中球の浸潤が見られた。
治療は、1日6gのピロリン酸マグネシウム(すなわち、Mg++489mg、Mg++8.89mg/kg体重/日に相当)を500cm3の生理的溶液に希釈して投与した。点滴速度は1時間当たりMg++80mgに調整して約6時間行なった。マグネシウム摂取を改良するために、1200g/日のビタミンB6を数回に分けて投与した。
2カ月の治療後、患者の腹痛は消失し、下痢は1日2回に減っていた。大腸鏡検査の結果は、以下の通りである:大腸粘膜の最後の50cmは、過度に出血性でもなく出血もなく、微小潰瘍性病変もなかった。組織学的検査では、まだ大腸粘膜に炎症性好中球の浸潤が存在していた。マグネシウム治療をビタミンB6治療と組合せて、同じ投与量でさらに1カ月継続した。この期間の最後には、患者は腹痛も下痢も訴えなかった。大腸粘膜の最後の50cmは、大腸鏡検査では正常であり、組織学的検査では、大腸粘膜と粘膜下組織は正常であり、炎症性浸潤が消失していることが確認された。
本発明をいくつかの好適な実施態様を参照して開示したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、その修飾および変更が可能であることは理解すべきである。
Claims (24)
- 固形新生物疾患の治療用の、薬剤学的に許容されるマグネシウム塩又は錯体(ただし、マグネシウムセネゲナートを除く)を単独の活性成分として含有する薬剤。
- 自己免疫疾患の予防用および/または治療用の、薬剤学的に許容されるマグネシウム塩又は錯体を単独の活性成分として含有する薬剤。
- 自己免疫疾患は、正当に自己免疫疾患と呼ばれる疾患または典型的な自己免疫機構を示す任意の疾患である、請求の範囲第2項に記載の薬剤。
- 正当に自己免疫疾患と呼ばれる疾患は、リウマチ様関節炎、局所的および全身的硬皮症、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、皮膚ループス、皮膚筋炎、および多発性筋炎、シェーグレン症候群、結節性汎動脈炎、自己免疫腸疾患、増殖性糸球体腎炎、活動性慢性肝炎、および多腺性欠損自己免疫症候群1型および2型よりなる群から選ばれる、請求の範囲第3項に記載の薬剤。
- 典型的に自己免疫機構を示す疾患は、多発性硬化症、尋常性天疱瘡、天疱瘡、乾癬および類乾癬、腸炎症性疾患、白斑およびサルコイドーシスよりなる群から選ばれる、請求の範囲第3項に記載の薬剤。
- 腸炎症性疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、請求の範囲第5項に記載の薬剤。
- マグネシウム塩または錯体は、薬剤学的に許容される無機マグネシウム塩である、請求の範囲第1項に記載の薬剤。
- 無機マグネシウム塩はピロリン酸マグネシウムである、請求の範囲第7項に記載の薬剤。
- マグネシウム塩または錯体は、薬剤学的に許容される有機マグネシウム塩である、請求の範囲第1項に記載の薬剤。
- 経口投与用の、請求の範囲第1項及び第7〜9項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 非経口投与用の、請求の範囲第1項及び第7〜9項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 皮下および/または粘膜投与用の、請求の範囲第1項及び第7〜9項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 薬剤はまたビタミンB6も含む、請求の範囲第1項及び第7〜12項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 薬剤中のビタミンB6対Mg++の比は、3:1〜2:1重量比の範囲である、請求の範囲第13項に記載の薬剤。
- 獣医学的用途のための薬剤である、請求の範囲第1項に記載の薬剤。
- マグネシウム塩または錯体は、薬剤学的に許容される無機マグネシウム塩である、請求の範囲第2項〜6項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 無機マグネシウム塩はピロリン酸マグネシウムである、請求の範囲第16項に記載の薬剤。
- マグネシウム塩または錯体は、薬剤学的に許容される無機マグネシウム塩である、請求の範囲第2項〜6項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 経口投与用の、請求の範囲第2項〜6項及び第16項〜18項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 非経口投与用の、請求の範囲第2項〜6項及び第16項〜18項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 皮下および/または粘膜投与用の、請求の範囲第2項〜6項及び第16項〜18項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 薬剤はまたビタミンB6も含む、請求の範囲第2項〜6項及び第16項〜21項のいずれか一項に記載の薬剤。
- 薬剤中のビタミンB6対Mg++の比は、3:1〜2:1重量比の範囲である、請求の範囲第22項に記載の薬剤。
- 獣医学的用途のための薬剤である、請求の範囲第2項または3項に記載の薬剤。
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