JP3719038B2 - 路車間通信の通信エリア設定方法および路側通信装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、路車間通信を行うために走行ルートに設置される通信装置の通信エリアの適切な設定方法に関する。また、本発明は、そのような適切な通信エリアを有する通信装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
交通システムには、都市間を結ぶような大規模なものから、施設内に設置される小規模のものまで、種々のシステムがある。典型的には、交通システムを構成する車両は、予め決められた走行ルートを走行し、走行ルートに設定された停車地点(駅等)で停止する。走行ルートは、当該交通システムの対象車両だけが走行する専用線でもよいし、そうでなくてもよい。
【0003】
また最近は、運転者が車両をマニュアル操作で運転しないでも自動的に走行する無人運転タイプの交通システムが提案されている。制御技術の発展を背景として、旅客を輸送する交通システムにおいても自動走行タイプのシステムが提案されている。
【0004】
交通システムでは、走行ルート上の車両に対して走行制御等に関する情報を提供し、あるいは車両から情報を入手するために、路車間通信(走路と車両の間で行われる通信)を行うことが好適である。例えば、特開昭61−285168号公報では、停車中の車両に発進を指示するために、発車OK信号が車両に送られる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
路車間通信は、広域通信およびスポット通信で行うことができる。広域通信では、多くの車両を含む広い通信エリアが設定され、通信エリア内の車両と遠距離通信が行われる。一方、スポット通信では、走行ルート上に狭い限定的な通信エリアが設定される。通信エリアに設置された路側通信装置と、通信エリア内に位置する車両との間で近距離通信が行われる。広域通信とスポット通信は、交通システムの形態や伝達情報に応じて使い分けられる。本発明では、主として後者のスポット通信に着目する。
【0006】
スポット通信では、走行ルート上の特定の場所(狭い通信エリア)にいる車両のみとの通信が容易に行える。従って、適切な場所で有用な情報を、その情報を必要とする車両に提供することが容易である。さらに、スポット通信エリアごとに通信情報を変えるだけで、各エリアに位置する車両と容易に個別の通信ができる。従って、各車両との個別通信処理を簡単に行うことができ、路側通信設備の簡略化を図ることができる。
【0007】
このようなスポット通信の利点を活かすためには、走行ルート上に通信エリアが適切に設定されることが重要である。通信エリアが短すぎると適切な通信ができないし、逆に通信エリアが長すぎても混信等により適切な通信ができない。そして、通信装置の機能、通信エリアでの車両の走行形態および走行制御等に応じて、すなわち、車両が通信エリアで何をするか、車両がどんな状態にあるときに通信を行うかなどに応じて、通信エリアが適切に設定されることが望まれる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、通信エリアを適切に設定する方法、および、適切な通信エリアをもつ路側通信装置を提供することにある。
【0009】
本発明の目的の一つは、通信エリア内で停止および発進する車両との通信に適した通信エリアの設定方法を提供することにある。
【0010】
また本発明の目的の一つは、隊列を構成する車両との個別通信に適した通信エリアの設定方法を提供することにある。
【0011】
また本発明の目的の一つは、隊列を構成する車両が停車駅等の通信エリア内で停止および発進するときの個別通信に適した通信エリアの設定方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、路車間通信を行うために走行ルートに設置される通信装置の通信エリア設定方法に関する。
【0013】
(1)上記目的を達成するため、本発明は、"通信エリアに進入した車両に停止指示を提供する通信に要する時間の移動距離"と、"停止指示を受け取った車両が停止するまでの移動距離"との合計値以上に通信エリアの長さを設定する。すなわち、停止指示の通信と車両の減速停止の間の全移動距離以上に通信エリアの長さが設定される。車両は通信エリア内で確実に停止でき、停止車両と走行ルート側の通信装置が通信可能である。停車中の通信により発進指示等の次の指示を車両に送ることができる。
【0014】
このように、本発明によれば、停車指示の通信と停車中の通信とを一つの通信エリア内で確実に行える。従って、通信エリア内で停止および発進する車両との通信に適した通信エリアを設定できる。
【0015】
好ましくは、通信エリアの長さは上記の合計移動距離と等しく設定され、あるいは、合計移動距離に所定値を加えた大きさに設定される。このような設定により、通信エリアを無駄に長く設定することが回避され、それに付随する不利も回避される。
【0016】
好ましくは、本発明は、個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの隊列長さ以上に通信エリアの長さを設定する。すなわち、上述の合計移動距離と、隊列長さの長い方が下限距離になる。本発明によれば、隊列を構成する全車両が通信エリア内で停止する。従って、停車中に全車両に同一情報(発進指示等)を一斉に送ることができ、便利である。
【0017】
ここでも好ましくは、通信エリア長さは、合計移動距離と隊列長さの長い方と等しく設定され、あるいは、長い方の値に所定値を加えた大きさに設定される。これにより、通信エリアを無駄に長く設定することが回避され、それに付随する不利も回避される。
【0018】
(2)また本発明は、(i)通信に要する時間の車両の移動距離以上であって、(ii)個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの車両長さと車間距離の合計値以下に、通信エリアの長さを設定する。(i)の条件により、確実な通信に必要な最低限の長さが確保される。(ii)の条件により、すなわち、「車両長さ+車間距離」以下にエリア長さを設定することにより、同時に2台の車両が通信エリア内に存在しない。従って、隊列を構成する複数の車両の送信信号を別々に受信できる。
【0019】
このように、本発明によれば、隊列を構成する各車両と個別通信を確実に行うことができ、混信を回避できる適切な通信エリアを設定できる。
【0020】
本発明では、例えば、車両の通過を検知するために車両から車両ID情報を受信するときに、複数の車両IDを別々に受信でき、従って車両通過を確実に検知できる。
【0021】
(3)また本発明は、(i)停車制御しながら瞬時に停止できる極低速度で通信エリアに進入した車両に停止指示を提供する通信に要する時間の移動距離と、停止指示を受け取った車両が停止するまでの移動距離との合計値以上であって、(ii)個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの車両長さと車間距離の合計値以下に、通信エリアの長さを設定する。(i)の条件により、車両は通信エリア内で確実に停止できる。また(ii)の条件により、通信エリア内に2台の車両が同時に存在しない。従って、隊列を構成する複数の車両の一台だけが通信エリア内で停止し、その車両との停車中の個別通信が確実に行える。
【0022】
このように、本発明によれば、隊列中の一台の車両だけを対象として、停車指示の通信と停車中の通信とを一つの通信エリア内で確実に行える。従って、隊列を構成する車両が停車駅等の通信エリア内で停止および発進するときの車両との個別通信に適した通信エリアを設定できる。
【0023】
好ましくは、隊列を構成する車両数以上の数の通信エリアが走路に沿って配列され、各通信エリアに停止した各車両と個別通信が行われる。例えば、駅などに複数の通信エリアが配置される。本発明に従って各通信エリアが設定されていれば、隊列の複数の車両は異なる通信エリアに停止し、すなわち、各通信エリアに1台の車両が停止する。従って、駅に停車中の複数の車両と個別の通信ができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態(以下、実施形態という)について、図面を参照し説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に適した交通システムの一例を模式的に示している。駅Xと駅Yの間は走行ルート1で結ばれている。走行ルート1は専用線であり、システムの車両だけが走行する。走行ルート1は基本的に単線3で構成されており、走行ルート1の途中には複数のすれ違い部5(複線部)が適当な間隔を開けて配置されている。
【0026】
車両は、運転者の運転操作なしで走行ルートを自動走行する。自動走行のために、走行制御コンピュータによりステアリング制御および車速制御が行われる。走行ルート1には等間隔で磁気マーカ(図示せず)が設置されている。車両は、磁気センサで磁気マーカを検出し、マーカを辿ることによって走行ルート1に沿って進む。
【0027】
各車両は、自動走行制御の下で以下のように走行する。複数の車両は隊列を形成する(プラトゥーン走行)。車両は機械的には前後の車両と連結されていないが、前後の車両と所定の車間距離を保って走行する。各車両は、隊列の他の車両とともに駅Xから駅Yへ、あるいは駅Yから駅Xへ進む。すれ違い部では対向車両がすれ違う。すれ違いをスムーズに行うために車速が調整される。次の駅が近づくと減速制御が行われる。そして、駅に到着すると、車両は駅の中の特定の位置に停止する。各車両の停止位置は予め指定されている。
【0028】
好ましくは本実施形態では閉塞制御が行われる。2つのすれ違い部の間の単線部は、一つの閉塞区間である。すれ違い部を構成する2本の線の各線も閉塞区間である。
【0029】
このような自動走行制御は、管制センター7の制御の下で行われる。各車両は通信機能をもち、管制センター7は通信により各車両に指示を与える。例えば、停止・発進の指示が送られ、その他の走行に必要な情報が送られる。また管制センター7は各車両から必要な情報を入手する。例えば、車両ID、車両の位置、車速などの情報が入手される。
【0030】
管制センター7と車両の間ではスポット通信が行われる。すなわち、走行ルート上には、狭い限られた通信エリアをもつ路側通信装置が設置され、この通信装置が管制センター7に使用される。
【0031】
図2は、本実施形態の通信装置である誘導磁界式通信装置(高周波磁界式通信装置)を示している。路側通信装置は、走行ルート上に設置(埋設)された長方形の路側ループコイル11を有する。車載通信装置は、車体の下面に設置された受信ループコイル13および送信ループコイル15を有する。これらのループコイルは通信アンテナとして機能する。
【0032】
路側から車側への送信では、路側ループコイル11に送信データに応じた電流が流されると、路側ループコイル11に磁界が発生する。そして、路側ループコイル11の上方にある受信ループコイル13に、送信データに応じた電流が流れる。一方、車側から路側への送信では、送信ループコイル15に電流が流される。送信ループコイル15に磁界が発生し、路側ループコイル11に電流が流れる。
【0033】
図2には、さらに、路側ループコイル11に発生する磁界の強度分布が示されている。この強度分布は、車両の受信ループコイル13の信号受信レベルの分布と一致する。また、この分布は、走路方向(車両走行方向)に沿ってみたときのものである(垂直方向も同様)。図示のように、このタイプの通信装置は特有の受信レベルの分布をもち、ループ内部で受信レベルが一定であり、ループ端部で受信レベルが高く、ループ外では受信レベルが殆どゼロである。従って、路側ループコイルの形状が通信エリアと一致する。
【0034】
本実施形態の通信装置は同報通信のみを行う。図3を参照すると、すべての車両との通信において、路側ループコイル11から受信ループコイル13への送信では、周波数f1(路to車)が使用される。また、すべての車両が、送信ループコイル15から路側ループコイル11への送信のために共通の周波数f2(車to路)を使用する。
【0035】
従って、複数の車両が通信エリアに存在するとき、複数の車両が同時にデータを送信することはできない。混信が発生するからである。しかし、路側通信装置が複数の車両に一つのデータを送信することは可能である。
【0036】
以上に説明した本実施形態で採用されている同報通信装置は、構造が比較的簡単であり、かつ、通信エリアの限定が容易であり、従って路車間スポット通信に適している。
【0037】
図1に戻り、走行ルート1上には、スポット通信エリアA1、A2、A3が設定されている。すべての通信装置の基本構成は同じで、上記の誘導磁界式装置が採用されている。しかし、通信エリアA1、A2、A3は長さが異なっている。以下に説明するように、エリア長さは、通信装置の機能、通信の目的、通信エリアでの車両の状態および走行制御等に応じて、すなわち、“車両が通信エリアで何をするか”、“車両がどんな状態にあるときに通信を行うか”などに応じて、本実施形態の通信装置が好適な通信を行えるように設定されている。
【0038】
(1)「停止/発進指示用の通信エリアA1」
ここでは、走路上で停止および発進する車両(隊列)との通信に適した通信エリアが設定される。
【0039】
(通信装置の機能)
通信エリアA1では進入してきた車両に停止指示が送られ、車両は停止指示に応えて停止する。次に、車両に発進指示(発車信号)が送られ、車両は発進する。発進指示は、隊列を形成する全車両に対して送られる。
【0040】
図1に示すように、本実施形態では通信エリアA1はすれ違い部に設けられている。通信装置は停車車両に対し、発進指示とともに、次にすれ違いを行うべき地点についての指示を送る。すなわち、通信装置は、幾つ先のすれ違い部で対向車と会うかを示す情報を送る。さらに通信装置は、次のすれ違い場所でのすれ違い時刻(到着目標時刻)を車両に送る。
【0041】
(通信エリアA1の設定方法)
車両は、通信エリアA1に入ってから停止指示を受け取り、そして停止する。停止完了までに車両はある程度の距離を移動する。車両が通信エリア内で止まれず、通信エリアより先に停止すると、次の指示が車両に送れなくなる。
【0042】
また、車両が通信エリアの先に停止したために、すれ違い部の閉塞区間内に設定された安全領域の外に位置したとする。このとき、すれ違い部に進入してくる対向車両にとって停止車両は障害物とみなされ、対向車両は障害物検知機能に従って停止する。その結果、いわゆる単線上のデッドロックが生じ得る。
【0043】
また、通信エリアA1では、同報機能を利用して路側から隊列全体に対して発進指示を同時に送ることが好適である。しかしながら、隊列の一部が通信エリアA1の外で停止すると、全車両に対して発進指示を送れなくなる。
【0044】
本実施形態は、これらの点を考慮して、走行ルート上で停止および発進する車両の動きに適した通信エリアの設定方法を提供する。
【0045】
図4(a)を参照すると、停止/発進指示用の通信エリアA1の形状は、路側ループコイルの形状と等しい。通信エリアA1の走路に沿ったエリア長さL1は、下式の2つの確定条件を同時に満たすように設定される。
【0046】
【数1】
L1 ≧ (V2/2α) + t1・V + t2・V ・・・(1−1)
【数2】
L1 ≧ x・Lc + Lt・(x−1) ・・・(1−2)
式(1−1)において、Vは、通信エリアに進入する車両の最大走行速度である(確実性を考慮して最大値が採用されている)。αは車両の最大減速度であり、雨天および雪(融雪装置がない場合)等の悪条件を想定して設定されている。
【0047】
t1は通信確定時間、すなわち、車両が通信エリアに入ってから通信が確定するまでの時間である(最大値)。通信確定は、必要な情報の通信が適正に行われることをいう。通信確定時間t1は、通信品質等により決まる必要な通信時間長の最大値と車速から計算される。なお、通信確定時間t1が経過しても通信が確定しないと、通信機故障と判定することができる。t2は減速度発生時間、すなわち、減速度αを発生するのにかかる時間であり、例えば原動機およびブレーキの制御にかかる時間を含む。式(1−1)は、空走時間t(車両が走行速度Vで通信エリアに入ってから減速度αが発生するまでの時間、t1とt2を含む)を用いて表されてもよい。このときは、(t1・V+t2・V)が(t・V)に置き換えられる。
【0048】
式(1−1)の右辺第1項(V2/2α) は、減速度αで車両が停止するまでの走行距離である。第2項(t1・V)は、通信確定までの走行距離である。第3項(t2・V)は、通信確定から減速度発生までの走行距離である。従って、式(1−1)の右辺は、車両が通信エリアに入ってから停止するまでの移動距離である。エリア長さL1はこの移動距離以上に設定される。従って、車両は確実に通信エリア内で停止できる。
【0049】
次に、式(1−2)について説明する。xは最大隊列車両数、すなわち、本システムで形成される最大の隊列の車両数である。Lcは車両全長であり、Ltは車間距離(停止時)の設定値である。従って、式(1−2)の右辺は、最大の隊列の長さを表す。この条件が満たされれば、隊列の全車両が走行エリア内で停止できる。従って、全車両に対して次の指示を送ることができる。
【0050】
式(1−1)と式(1−2)は、いずれもエリア長さL1の最小値を規定する。従って、式(1−1)の右辺と式(1−2)の右辺の大きい方が、エリア長さL1の適切な最小値である。
【0051】
好ましくは、エリア長さL1を上記最小値と等しく設定する。あるいは、上記最小値に所定値を加算した大きさに設定される。これにより、通信エリアを無駄に長く設定することが回避され、それに付随する不利も回避される。
【0052】
(通信装置等の動作)
路側通信装置は、上記の条件を満たす通信エリア(路側ループコイル)を有する。図4(b)を参照すると、複数の車両a,b,cの隊列がすれ違い部に進入する。先頭車両aが通信エリアA1に入ると、車両に停止指示が送られる。図4(c)に示すように、車両は、停止指示を受け取り、走行装置を制御し、停止する。停止までの移動距離以上の長さを通信エリアが有するので、車両は通信エリア内で確実に停止する。
【0053】
隊列の2台目以降の車両は、先行車両と停止時車間距離Ltを開けて停止する。このとき、通信エリアは隊列長さ以上の長さを有するので、全車両が通信エリア内で停止できる。路側通信装置は、これらの停車車両に次の指示を送る。次の指示は、前述したように、発進指示、すれ違い場所、すれ違い時刻などである。
【0054】
車両の走行速度が低いときには停止距離は短くできる。しかしながら、先頭車両aの停止距離が短いと、後続車両が通信エリアに入れない。そこで、先頭車両aは、通信エリアの開始点から隊列長さ以上先の地点に停止するように制御される。この制御は、例えば、車両の位置検出機能と通信エリアマップを用いて行われる。車両の位置は、走行ルート上の絶対位置マーカからの走行距離に基づいて求められる。そしてマップ上の決められた位置に先頭車両aが停止する。
【0055】
以上のように、本実施形態によれば、通信エリアの長さが、“通信エリアに進入した車両に通信で停止指示を提供する間の移動距離”と、“停止指示を受け取った車両が停止するまでの移動距離”との合計値以上に設定されるので、車両は通信エリア内で確実に停止できる。従って、最初の停車指示の通信と、後の停車中の通信と、を一つの通信エリア内で確実に行える。停車中の車両に次の指示を与えられないといった事態を回避できる。
【0056】
さらに、本実施形態によれば、通信エリアの長さが隊列長さ以上に設定されるので、隊列を構成する全車両が通信エリア内で停止できる。従って、同報機能を効果的に利用して、停車中の全車両に指示を一斉に送ることができる。
【0057】
(2)「車両通過検知用の通信エリアA2」
ここでは、隊列を構成する車両との個別通信に適した通信エリアが設定される。同報機能をもつ通信装置を使うにもかかわらず個別通信が好適に実現される。個別通信の例として車両検知を取り上げる。
【0058】
(通信装置の機能)
通信エリアA2では通信装置を利用して車両検知が行われる。各車両は固有の車両IDを有し、通信エリアA2を通過するときに車両IDを送信する。車両IDは路側通信装置に受信され、管制センターに送られる。これにより、管制センターは、車両通過検知のための路車間通信区間内の車両の存在を検知できる。要するに、どの車両が通信エリアA2を通過したか知ることができる。隊列をつくる複数の車両は通信エリアA2を次々と通過し、これらの車両のIDが順次管制センターへ送られる。
【0059】
図5に示すように、本実施形態では、すれ違い部の入口と出口にそれぞれ通信エリアA2が設置されている。従って、すれ違い部に入った車両と出た車両を検知することができ、閉塞区間への車両の出入りが分かる。また、前述の停止/発進指示用の通信エリアA1が動作すべきタイミングが分かる。
【0060】
(通信エリアA2の設定方法)
本実施形態の路車間通信装置は同報通信のみを行うので、複数の車両が通信エリア内にいても同時に個別通信を行うことはできない。逆に、複数の車両が通信エリア内で車両IDを送信すると、混信が発生し、車両検知が適正に行われない。特に、本実施形態では隊列走行を採用しているために、混信が発生しやすい。複数の車両が短い車間距離で次々と通るからである。
【0061】
混信を避けるためには通信エリアを短くすることが効果的である。しかし、通信エリアが短かすぎると、通信が確定する前に車両が通信エリアを出てしまい、車両検知ができない。
【0062】
本実施形態は、これらの点を考慮して、隊列を構成する車両との通信に適した通信エリアの設定方法を提供する。
【0063】
図5(a)を参照すると、車両通過検知用の通信エリアA2の形状は、路側ループコイルの形状と等しい。通信エリアA2の走路に沿ったエリア長さL2は、下式の2つの確定条件を同時に満たすように設定される。
【0064】
【数3】
L2 < Lc + Ltmin ・・・(2−1)
【数4】
L2 ≧ Ttmax・V ・・・(2−2)
式(2−1)において、Lcは車両全長であり、Ltminは最小車間距離である。Ltminは、走行中および停止時のばらつきを考慮した車間距離の最小値である。通信アンテナ(ループコイル)が車両の1カ所に搭載され、全車両で同一位置にアンテナが搭載されていれば、アンテナ同士は「車両全長Lcと車間距離Ltminの合計値」以内に接近することはない。従って、式(2−1)の条件が満たされれば、同時に複数の車両のアンテナが通信エリア内に存在することはない。
【0065】
次に、式(2−2)において、Vは車両の最大走行速度である(前述)。Ttmaxは通信確定時間の最大値であり、式(1−1)のt1と同等である。従って式(2−2)の右辺は通信確定までの走行距離である。式(2−2)が満たされていれば、車両が通信エリアを通過する前に車両IDの通信が終了する。さらには、この設定により十分な通信時間が確保されるので、仮に通信が確定しなかった場合には通信機故障が発生したと判断することができる。
【0066】
通信エリアA2のエリア長さは、式(2−1)で表される最大値未満であり、式(2−2)で表される最小値以上に設定される。ただし、両式を満たす通信エリアが存在しない場合、すなわち式(2−1)の右辺が式(2−2)の右辺より小さい場合、通信速度や最大通過速度等を再設定する。
【0067】
(通信装置等の動作)
路側通信装置は、上記の条件を満たす通信エリアA2(路側ループコイル)を有する。図5(b)を参照すると、隊列を構成する3台の車両a、b、cが通信エリアA2を通過中である。ここでは、全車両の先端部にアンテナコイルが搭載されているとする。
【0068】
図5(b)は、2番目の車両bの先端にあるアンテナが通信エリアに入った直後である。このとき、車両aのアンテナは通信エリアA2の外にあるので、混信は発生しない。
【0069】
図5(c)では、車両bの先端のアンテナが通信エリアA2の終端部にある。エリア長さが通信確定距離以上なので、車両IDの通信は終わっている。車両cの先端はまだ通信エリアA2に入っていない。従って、混信が発生することなく、車両bの検知が確実に行われる。
【0070】
以上のように、本実施形態によれば、通信エリアの長さが、(i)通信確定までの車両移動距離以上であって、(ii)車両長さと車間距離の合計値以下に設定される。従って、確実な通信を行うためのエリア長さが確保され、かつ、同時に2台の車両が通信エリア内に存在することがない。言い換えれば、通信確定前に車両が通信エリアから出ることがなく、かつ、2台の車両との同時通信による混信が発生しない(複数の車両が同時に通信を行えない)。従って、隊列中の各車両からの信号を別々に受信でき、個別通信を確実に行うことができる。しかも、同報機能をもつ通信装置を使って確実に個別通信を行うことができる。
【0071】
本実施形態では、車両検知用の通信装置に本発明が適用された。しかし、本発明はこのような構成には限定されない。各車両から個別の情報、固有の情報を受信し、または各車両に個別に情報を送信する任意の通信装置に本発明を好適に適用できる。
【0072】
(3)「駅内通信用の通信エリアA3」
次に、隊列を構成する車両が通信エリア内で停止および発進するときの個別通信に適した通信エリアの設定方法を説明する。ここでも同報機能をもつ通信装置を使うにもかかわらず個別通信が好適に実現される。通信エリアの例として、停車駅内に設けられる通信エリアを取り上げる。
【0073】
(通信装置の機能)
通信エリアA3は駅内に設けられる。通信エリアA3では、停止/発進指示用の通信エリアA1と同様に停止指示および発進指示等が送られる。ただし、個別通信を実現するために、複数の通信エリアA3が配列され、各車両に一つの通信エリアが割り当てられる。
【0074】
図6を参照すると、隊列(この例では3台の車両)が駅へ進入する。各車両は、前の停車駅で駅内の路側通信装置から与えられた停止位置を記憶している。各車両はこの停止予定位置に向かって進む。各車両は停止制御しながら入ってくるので、停止予定位置に近づくときには、極低速で走行している。
【0075】
各車両の停止位置には、通信エリアA3・1〜A3・3を有する路側通信装置が設置されている。各車両は車両IDを送る。路側通信装置は、対象車両のIDを受信すると停止指示(最終停止命令)を送る。車両は停止指示に応えて停止する。停車中の車両に対して次の指示が送られる。次の指示は、発進指示、次の停車駅での停車位置、その他の走行制御に必要な情報を含む。
【0076】
駅内に複数の通信装置が設けられている理由は、各車両と個別通信を行いたいからである。すなわち、本実施形態のループコイル式通信装置は基本的に同報通信のみを行う。従って、個別通信のためには、各車両に一つの通信装置(通信エリア)を割り当てる必要がある。そこで、最大の隊列の車両数と同じ数の通信装置が駅に設けられている。
【0077】
(通信エリアA3の設定方法)
通信エリアA3が長すぎると、1台の車両が近隣の複数の通信装置から同時に信号を受信する可能性がある。また、1つの路側通信装置のアンテナが、隊列中の複数の車両から同時に信号を受信する可能性がある。このような事態が発生すると、混信が発生して通信ができない。
【0078】
混信を避けるためには通信エリアを短くすることが効果的である。しかし、通信エリアが短かすぎると車両は通信エリア内で停止できず、その結果として車両は停止時に通信不能になり、次の指示を車両に送れなくなる。
【0079】
本実施形態は、これらの点を考慮して、通信エリアの長さを適切に設定する方法を提供する。
【0080】
図6を参照すると、車両通過検知用の通信エリアA3の形状は、路側ループコイルの形状と等しい。通信エリアA3の走路に沿ったエリア長さL3は、下式の2つの確定条件を同時に満たすように設定される。
【0081】
【数5】
L3 < Lc + Ltmin ・・・(3−1)
【数6】
L3 ≧ Ttmax・Vsmax + (Vsmax2/2αs) ・・・(3−2)
式(3−1)においてLcは車両全長であり、Ltminは最小車間距離であり、式(3−1)は前述の式(2−1)と同等である。従って、式(3−1)の条件が満たされれば、同時に複数の車両のアンテナが通信エリア内に存在することはない。
【0082】
式(3−2)において、Vsmaxは通信エリアA3(駅内通信コイル)への進入最大速度である。車両は停車制御しながら駅に入ってくるので、Vsmaxは瞬時に停止できる程度の極低速度であり、例えば時速5kmから10kmである。また、αsは駅停止の際の減速度である。αsは、極低速度Vsmaxの車両がスムーズに停止するのに適した値に設定されている。
【0083】
またTtmaxは通信確定時間の最大値であり、式(1−1)のt1と同等である(式(2−2)でも同様)。停止/発進指示用の通信エリアA1の設定では、減速度αの発生に要する時間t2が考慮されていたが、この通信エリアA3に関しては同様の時間が考慮されていない。車速が低いので必要な減速度が瞬時に発生し、かつ、この期間の走行距離は短く、従って減速度発生時間は無視できる。
【0084】
式(3−2)は基本的には式(1−1)と同様の原理に基づく。右辺第1項(Ttmax・Vsmax)は通信確定までの走行距離である。右辺第2項(Vsmax2/2αs)は、減速度αsで車両が停止するまでの走行距離である。従って、式(3−2)の右辺は、車両が通信エリアに入ってから停止するまでの移動距離である。式(3−2)を用いて、エリア長さL3はこの移動距離以上に設定される。従って、車両は確実に通信エリア内で停止する。
【0085】
通信エリアA3のエリア長さは、式(3−1)で表される最大値未満であり、式(3−2)で表される最小値以上に設定される。
【0086】
(通信装置等の動作)
路側通信装置は、上記の条件を満たす通信エリア(路側ループコイル)を有する。図7(a)を参照すると、隣合う通信エリアの距離は、車両全長と駅内停車用に設定された車間距離との合計値に等しい。また隣合う通信エリアは、互いに重ならないように設定されている。また、上記の2つの条件を満たすように、通信エリアの長さが設定されている。
【0087】
図7(a)では、隊列を構成する3台の車両a、b、cが駅内を極低速度で走行中である。アンテナは全車両の先端部に搭載されているとする。各車両は車両IDを送る。車両の先端が通信エリアに入ると、車両IDが駅通信装置に受信される。通信装置は、自分の通信エリアで停車すべき車両のIDを受信すると、停止指示(最終停止命令)を車両に送る。車両は停止指示に応えて停止する。
【0088】
停止までの移動距離以上の長さを通信エリアが有するので、図7(b)に示すように各車両は確実に通信エリア内で停止する。各通信エリアに1台の車両(アンテナ)のみが位置するので、混信も発生しない。この状態で停車中の通信が行われ、各種の指示が車両に送られる。
【0089】
以上のように、本実施形態によれば、通信エリアの長さが適切に設定されるので、車両は通信エリア内で確実に停止でき、かつ、通信エリア内に2台の車両が同時に存在しない(2台の車両が同時に通信を行えない)。すなわち、隊列を構成する複数の車両の一台だけが一つの通信エリア内で停止する。従って、混信の発生なしに、隊列中の対象車両だけに対して、最初に停車指示を送り、さらに停車中に通信を行うことができる。
【0090】
また本実施形態では、隊列の車両数以上の通信エリアが設けられ、各通信エリアの長さは本発明の方法に従って設定される。従って、隊列の全車両が、個別通信により別々の通信エリアで停止指示を受け取り、停止する。
【0091】
このように、本実施形態によれば、隊列を構成する車両が通信エリア内で停止および発進するときに個別通信を確実に行える適切な通信エリアを設定することができる。しかも、同報機能をもつ通信装置を使って個別通信を確実に行うことができる。
【0092】
本実施形態では駅内通信用の通信装置に本発明が適用されたが、本発明はこのような構成には限定されず、停車駅以外に設けられる通信装置にも本発明を好適に適用できる。
【0093】
以上に本発明の好適な実施形態を説明した。ただし、本発明は上記構成には限定されず、本発明の範囲内での変形が可能である。例えば、交通システムは上記の構成に限定されない。走行ルートは単線ではなく、複線でもよい。また、走行ルートは専用線ではなくてもよい。走行ルートが一般道路で、交通システムの対象車両と他の一般車両が一緒に走行してもよい。
【0094】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、通信装置の機能や通信エリア内での車両の動きに応じた適切な通信エリアを設定することができる。同報通信機能をもつ通信装置を用いた場合でも好適な路車間通信を行うことが可能な通信エリアを設定できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に適した交通システムを示す図である。
【図2】 図1のシステムに設けられた路車間通信用のスポット通信装置を示す図である。
【図3】 図1のシステムに設けられた路車間通信用のスポット通信装置を示す図である。
【図4】 停止/発進指示用の通信エリアの設定方法を示す図である。
【図5】 車両通過検知用の通信エリアの設定方法を示す図である。
【図6】 駅内通信用の通信エリアの設定方法を示す図である。
【図7】 駅内通信用の通信エリアの設定方法を示す図である。
【符号の説明】
1 走行ルート、3 単線部、5 すれ違い部、7 管制センター、11 路側ループコイル、13 受信ループコイル、15 送信ループコイル、A1,A2,A3 通信エリア、L1,L2,L3 エリア長さ。
Claims (11)
- 路車間通信を行うために走行ルートに設置される通信装置の通信エリア設定方法において、
通信エリアに進入した車両に停止指示を提供する通信に要する時間の移動距離と、停止指示を受け取った車両が停止するまでの移動距離との合計値以上に通信エリアの長さを設定し、
前記停止指示により車両は通信エリア内で停止し、走行ルート側の通信装置と停車中に通信できるようにしたことを特徴とする通信エリア設定方法。 - 請求項1に記載の通信エリア設定方法において、
さらに、個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの隊列長さ以上に通信エリアの長さを設定し、隊列を構成する全車両に停車中に同一情報を送れるようにしたことを特徴とする通信エリア設定方法。 - 路車間通信を行うために走行ルートに設置される通信装置の通信エリア設定方法において、
通信に要する時間の車両の移動距離以上であって、
個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの車両長さと車間距離の合計値以下に、
通信エリアの長さを設定し、隊列を構成する複数の車両の送信信号を別々に受信できるようにしたことを特徴とする通信エリア設定方法。 - 路車間通信を行うために走行ルートに設置される通信装置の通信エリア設定方法において、
停車制御しながら瞬時に停止できる極低速度で通信エリアに進入した車両に停止指示を提供する通信に要する時間の移動距離と、停止指示を受け取った車両が停止するまでの移動距離との合計値以上であって、
個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの車両長さと車間距離の合計値以下に、
通信エリアの長さを設定し、隊列を構成する複数の車両の一台だけが通信エリア内で停止するようにしたことを特徴とする通信エリア設定方法。 - 路車間通信を行うために走行ルートに設置される路側通信装置であって、
通信エリアに進入した車両に停止指示を提供する通信に要する時間の移動距離と、停止指示を受け取った車両が停止するまでの移動距離との合計値以上の長さの通信エリアを有し、前記停止指示により通信エリア内で停止した車両との通信が可能であることを特徴とする路側通信装置。 - 請求項5に記載の路側通信装置において、
さらに、個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの隊列長さ以上の長さの通信エリアを有し、隊列を構成する全車両に停車中に同一情報を送れることを特徴とする路側通信装置。 - 請求項5に記載の路側通信装置において、
停車車両との停車中の通信により、停車車両に対して発進指示を送ることを特徴とする路側通信装置。 - 路車間通信を行うために走行ルートに設置される路側通信装置であって、
通信に要する時間の車両の移動距離以上であって、個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの車両長さと車間距離の合計値以下の長さの通信エリアを有し、隊列を構成する複数の車両の送信信号を別々に受信可能であることを特徴とする路側通信装置。 - 請求項8に記載の路側通信装置において、
車両の通過を検知するために、通信エリアを通過する車両から車両ID情報を受信することを特徴とする路側通信装置。 - 路車間通信を行うために走行ルートに設置される路側通信装置であって、
停車制御しながら瞬時に停止できる極低速度で通信エリアに進入した車両に停止指示を提供する通信に要する時間の移動距離と、停止指示を受け取った車両が停止するまでの移動距離との合計値以上であって、個々に通信機能をもつ複数の車両が隊列を作るときの車両長さと車間距離の合計値以下の長さの通信エリアを有し、隊列を構成する複数の車両の一台だけが通信エリア内で停止するようにしたことを特徴とする路側通信装置。 - 請求項10に記載の路側通信装置において、
隊列を構成する車両数以上の数の通信エリアが走路に沿って配列され、各通信エリアに停止した各車両と個別通信が行われることを特徴とする路側通信装置。
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