JP3713032B2 - 低アレルゲンスギ選抜に関する簡便なCryj1免疫測定法 - Google Patents
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Description
本発明は、アレルゲンの少ないスギの選抜に有用な新たなスギ花粉アレルゲンのイムノアッセイ法に関する。
スギ花粉症は、スギ花粉を原因とするアレルギーで、近年、患者数の増加とともに大きな社会問題になっている。この花粉症患者が増加した理由には、車社会の発達によって増加したディーゼル排出粒子にアジュバント作用があることや、都市化に伴って生活環境が衛生になったため、人間の免疫防御システムが変化し、アレルギーになりやすくなったなどが考えられている。
また、直接的な原因としてスギ飛散花粉の増加が考えられる。国内では、1950年代から70年代にかけて、木材生産を向上させるためにスギの造林が急増した。現在、これらのスギが開花樹齢に達してスギの飛散花粉が増加し始めている。
林業サイドからのスギ花粉症対策として、花粉の少ないスギの選抜に関する研究が始まっっている。秋田県を含む東北地方では13系統が選抜され、中でも、生長、病虫害抵抗性などを考慮して多数の候補木から選抜した精英樹から生産される種子が広く植林に供給されている。
これまでは、スギ種子生産の採種園には種子生産性と遺伝的多様性を高めるために花粉生産性が高い系統を積極的に用いてきた。しかし、スギ花粉症との関係で花粉量とアレルゲン量を総合して考えれば、花粉が多くてもアレルゲンが少ない、あるいは花粉が少なくかつアレルゲンが少ない精英樹が選抜されれば、花粉症対策として有効と考えられる。
スギ花粉症の原因物質であるアレルゲンは、花粉の表面と内部に存在する2種類のタンパク質Cryj1(非特許文献1)とCryj2(非特許文献2)である。このスギ花粉症アレルゲンに関する研究により、Cryj1含量とCryj2含量には1%水準で有意な相関が認められることが報告されている(非特許文献3)。このことは、Cryj1あるいはCryj2のいずれか一方を測定対象とすることによって、低アレルゲンスギの選抜が可能となることを示している。
スギ花粉アレルゲンの定量は、免疫測定法の一種であるサンドイッチELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)によって行われることが一般的である。しかしながら、これまでの方法では、スギ花粉アレルゲンを特異的に認識することのできる2種類の異なる抗体の準備が必要であった。
これに対して、本発明者らは、ただ一種類の抗スギ花粉アレルゲン抗体を用いてスギ花粉アレルゲンであるCryj1を検出することのできる方法を開発した(非特許文献4)。この方法(以下、これを簡便法と称する)では、抗スギ花粉アレルゲン抗体ではなく検出目的であるスギ花粉アレルゲン自体を直接マイクロプレートなどの固相に吸着させ、ここに該アレルゲンを特異的に認識する抗体を添加して反応させて、固相に吸着したスギ花粉アレルゲンを検出、定量する方法である。
Yasueda,H.,Yui,Y.,Schimizu,T.and Shida,T.J.Allergy Cli.Immunol.71:77−86(1983)
Sakaguchi,M.,Inoue,S.,Taniai.M.,Ando.S.,Usui.M.and Matsuhasi,T.、Allergy 45:309−312(1990)
佐々木義則,谷口美文,正山征洋、大分県研究時報22:8〜12(1996)
佐々木揚,堀田康雄、2002年林学会講演要旨集、第329頁、2002年4月
上記の簡便法によるスギ花粉アレルゲンの定量は、2種類以上の抗スギ花粉アレルゲン抗体の調製を不要とする点などにおいて従来のサンドイッチイムノアッセイに比べて有利な方法ではあるが、所要時間は通常のサンドイッチイムノアッセイと殆ど変わらず、低アレルゲンスギの選抜作業にあってはいまだ迅速性に改善の余地を有している。
本発明は、既に報告した簡便法をさらに改良して、より短時間で正確なスギ花粉アレルゲンの定量を可能にする方法に関する。
すなわち本発明は、スギ花粉抽出液を添加した固相を加熱処理することを特徴とする、スギ花粉アレルゲンを特異的抗体で検出するイムノアッセイに関する。
簡便法は、一般的なサンドイッチイムノアッセイと同様に、スギ花粉からの抽出液あるいはその希釈液を加熱処理してから、スギ花粉アレルゲンをマイクロプレート等の固相に吸着させる方法である。この方法では、スギ花粉アレルゲンの固相への吸着に要するインキュベーション時間は最低でも一夜(12時間)。すなわち、1夜未満のインキュベーション時間では、特異抗体を用いたイムノアッセイによるスギ花粉アレルゲンの検出感度は実質上0に近く、スギ花粉アレルゲンの定量を行うことは出来なかった。その結果、スギ花粉からの抽出液の調製に始まり、スギ花粉アレルゲンを定量するまでに2日もの時間が必要であった。
本発明では、スギ花粉からの抽出液あるいはその希釈液をそのままマイクロプレートなどの固相に加えた後に、固相ごとスギ花粉アレルゲンの加熱処理を行うものである(以下、本発明の方法をダイレクト法と称する)。驚くべきことに、この改良によってスギ花粉アレルゲンの固相への吸着時間は著しく改善される。実際には、スギ花粉アレルゲンの固相への吸着に要する時間はわずか数分で測定可能となる。
特に予想外なことには、固相の加熱処理時間とCryj1の検出感度について特徴的な関係が認められた。具体的には、処理温度80℃の場合、2〜4分間の間にスギ花粉アレルゲンの検出感度にピークが存在していた。このことは、加熱処理自体も極めて短時間で済むことを意味し、Cryj1を高感度かつ迅速に測定するという目的において、より好適な特徴の一つである。
(発明の効果)
本発明の方法により、スギ花粉アレルゲンの測定に要する抗スギ花粉アレルゲン抗体は1種類のみで足りることに加え、スギ花粉アレルゲンの固相への吸着が3分間と短時間であるなど、極めて簡便かつ短時間に測定を行うことができる。また、後に示す試験例から明らかなように、様々な共雑物を含有するスギ花粉抽出液を用いても、該抽出液中のスギ花粉アレルゲンの量を正確に定量することができ、アレルゲンの少ないスギを的確かつ簡便に選別することができる。
本発明の方法により、スギ花粉アレルゲンの測定に要する抗スギ花粉アレルゲン抗体は1種類のみで足りることに加え、スギ花粉アレルゲンの固相への吸着が3分間と短時間であるなど、極めて簡便かつ短時間に測定を行うことができる。また、後に示す試験例から明らかなように、様々な共雑物を含有するスギ花粉抽出液を用いても、該抽出液中のスギ花粉アレルゲンの量を正確に定量することができ、アレルゲンの少ないスギを的確かつ簡便に選別することができる。
(発明の実施の形態)
スギ花粉からのアレルゲンの抽出は、例えば後藤ら(後藤陽子、近藤禎二、井手 武、山本恵三、稲岡 心、安枝 浩、2002年林学会講演要旨集、第330頁)の方法に基き、あるいはその他当業者に公知の方法によって抽出すればよく、本発明を実施するに当たり格別の操作は要しない。
スギ花粉からのアレルゲンの抽出は、例えば後藤ら(後藤陽子、近藤禎二、井手 武、山本恵三、稲岡 心、安枝 浩、2002年林学会講演要旨集、第330頁)の方法に基き、あるいはその他当業者に公知の方法によって抽出すればよく、本発明を実施するに当たり格別の操作は要しない。
また、本発明に言う固相は、蛋白質、特にスギ花粉アレルゲンを吸着し得る容器、プレート、粒子等を意味するが、典型的にはイムノアッセイを一度に大量に行うために汎用されるマイクロプレートである。
本発明で使用される抗体の種類には特別の制限はなく、スギ花粉アレルゲン、例えばCryj1あるいはCryj2をそれぞれ特異的に認識することのできる抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fab等のフラグメントなど何れも使用することができる。特に、Cryj1において複数のサブタイプ(表1)の存在が報告されていることから、Cryj1を対象としてスギ花粉アレルゲンを確実に測定することを考慮すれば、Cryj1サブタイプ間で保存されているアミノ酸配列部分を認識することのできる抗体の利用が好ましい。
具体的には、Cryj1サブタイプ間で保存されているアミノ酸配列からなるペプチドあるいはかかるペプチドと他の蛋白質との結合体を抗原として動物に投与し、通常の操作によって該抗原に特異的な抗体を調製すればよい。
また、本発明で使用する抗体としては、スギ花粉タンパク質Cryj1のアミノ酸配列FTGHDDAYSDDKSMKVTで表される抗原決定基を認識し結合する抗体として株式会社エル・エス・エルから市販されている抗スギ花粉タンパク質Cryj1モノクローナル抗体である「Anti(MAP)Cryj1」が好適である。
また、本発明で使用する抗体には、適当なプローブ分子、例えばストレプトアビジンなどの低分子化合物、あるいはアルカリホスファターゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼなどの様な酵素を標識として結合させることが出来、そのような標識抗体は当業者に周知の方法により調製することができる。この標識化抗スギ花粉アレルゲン抗体の使用は、本発明における方法の実施を容易にするものとして好ましい態様である。
以下、非限定的な実施例を示して、本発明をさらに詳述する。
(実施例)
スギ精英樹より採取し4℃で冷蔵保存したスギ花粉20mgに、1mLの0.125M NaHCO3を加えて4℃で1時間インキュベートし、15,000rpm、10分の遠心分離を行った。得られた花粉抽出液9μLと脱気した0.125M NaHCO391μLを96穴マイクロプレートのウェルに分注し、ウォーターバスを用いて80℃で3分間の加熱処理を行った。
スギ精英樹より採取し4℃で冷蔵保存したスギ花粉20mgに、1mLの0.125M NaHCO3を加えて4℃で1時間インキュベートし、15,000rpm、10分の遠心分離を行った。得られた花粉抽出液9μLと脱気した0.125M NaHCO391μLを96穴マイクロプレートのウェルに分注し、ウォーターバスを用いて80℃で3分間の加熱処理を行った。
加熱処理後のウェルに200μLの5%BSA(アルブミンフリー)/TBSを加えて、37℃1時間あるいは一昼夜ブロッキング処理を行い、さらにTBSで3回洗浄した。抗体としては、0.2%BSAを含むTBSで500倍に希釈したウサギモノスペシフィックポリクローナル抗体Anti(MAP)Cryj1(LSL)100μLを、37℃で1時間反応させた。その後、TTBS(0.05% Tween 20を含むTBS)で3回、さらにTBSで3回洗浄後、0.2%BSAを含むTBSで1,000倍希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ウサギヤギIgG抗体(Cappel)を、37℃で1時間反応させた。
その後、TTBS(0.05% Tween 20を含むTBS)で3回、TBSで3回洗浄後、BluePhosキット(KPL)で発色および発色反応を停止させたのち、655nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Model 550,Biorad)で測定した。
その後、TTBS(0.05% Tween 20を含むTBS)で3回、TBSで3回洗浄後、BluePhosキット(KPL)で発色および発色反応を停止させたのち、655nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Model 550,Biorad)で測定した。
花粉抽出液を添加したマイクロプレートを加熱処理しない場合にはCryj1は殆ど測定されないが、上記の加熱処理によりCryj1が測定可能となり、また加熱時間により検出感度が変化し、2〜4分の加熱処理時間に検出感度のピークが存在し、6分でほぼ定常状態となった(図1)。
<試験例1>
1)ダイレクト法と簡便法との比較
スギ精英樹8個体から、実施例1の方法に従ってCryj1を測定した。一方、ダイレクト法と比較するため、従来の簡便法によって同じスギ精英樹8個体を用いて、Cryj1を以下のように測定した。
1)ダイレクト法と簡便法との比較
スギ精英樹8個体から、実施例1の方法に従ってCryj1を測定した。一方、ダイレクト法と比較するため、従来の簡便法によって同じスギ精英樹8個体を用いて、Cryj1を以下のように測定した。
花粉抽出液9μLと0.125M NaHCO391μLを96穴マイクロプレートのウェルに分注し、1晩マイクロプレートを4℃でインキュベートした。その後、ウェルに200μLの5%BSA(アルブミンフリー)/TBSを加えて、37℃1時間ブロッキング処理を行い、さらにTBSで3回洗浄した。
抗体としては、0.2%BSAを含むTBSで500倍に希釈したウサギモノスペシフィックポリクローナル抗体Anti(MAP)Cryj1(LSL)100μLを、37℃で1時間反応させた。その後、TTBS(0.05% Tween 20を含むTBS)で3回、さらにTBSで3回洗浄後、0.2%BSAを含むTBSで1,000倍に希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ウサギヤギIgG抗体(Cappel)を、37℃で1時間反応させた。TTBSで3回、さらにTBSで3回洗浄後、BluePhosキット(KPL)で発色および発色反応を停止し、655nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Model 550,Biorad)で測定した。
その結果、ダイレクト法と簡便法には有意な相関が認められ、ダイレクト法によってもCryj1の定量が可能であることが明らかになった。なお、ダイレクト法と簡便法の変動係数(CV)は、13.7%BSと9.7%BSであり、実用上において大きな差はなかった。
<試験例2>
スギ花粉抽出液にはCryj1以外のタンパク質や多糖類も含まれる。したがって、これらCryj1以外の物質が多ければ、定量精度に影響を与える可能性によって、実際に検出されていても正確に定量されていない可能性も十分考えられる。そこで、簡便法ELISAがCryj1の定量に有効かどうか、サンドイッチELISAとの相関を調べた。
スギ花粉抽出液にはCryj1以外のタンパク質や多糖類も含まれる。したがって、これらCryj1以外の物質が多ければ、定量精度に影響を与える可能性によって、実際に検出されていても正確に定量されていない可能性も十分考えられる。そこで、簡便法ELISAがCryj1の定量に有効かどうか、サンドイッチELISAとの相関を調べた。
1)簡便法
スギ精英樹14個体から上述の<試験例1>に従ってCryj1を測定した。
スギ精英樹14個体から上述の<試験例1>に従ってCryj1を測定した。
2)サンドイッチイムノアッセイ
TBS(20mM Tris−HCl(pH7.5)、500mM NaCl)で100倍に希釈した第一の抗体としての一次抗体(マウスモノクローナル抗体anti−Cry j 1 m Ab 026、Hayashibara製)100μLを、4℃で1晩マイクロプレートに吸着させた。ブロッキングは5%BSA(アルブミンフリー,Sigma製)を含む200μLのTBSで一昼夜行った。
TBS(20mM Tris−HCl(pH7.5)、500mM NaCl)で100倍に希釈した第一の抗体としての一次抗体(マウスモノクローナル抗体anti−Cry j 1 m Ab 026、Hayashibara製)100μLを、4℃で1晩マイクロプレートに吸着させた。ブロッキングは5%BSA(アルブミンフリー,Sigma製)を含む200μLのTBSで一昼夜行った。
TBSで3回洗浄後、0.125M NaHCO3で希釈した試料100μLをマイクロプレートに分注し、4℃で1晩おいた。TBSで3回洗浄後、第二の抗体としての二次抗体(ウサギモノスペフィックポリクローナル抗体Anti(MAP)Cryj1、LSL)を、TBSで500倍希釈した100μLを37℃で1時間、反応させた。
TTBS(0.05% Tween 20を含むTBS)で3回、さらにTBSで3回洗浄後、0.2%BSAを含むTBSで1,000倍希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ウサギヤギIgG抗体(Cappel)を、37℃で1時間反応させた。TTBSで3回、さらにTBSで3回洗浄後、BluePhosキット(KPL)で発色および発色反応を停止し、655nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで(Model 550,Biorad)で測定した。
その結果、サンドイッチイムノアッセイと簡便法には有意な相関が認められ、簡便法によって定量が正確であることが明らかになった。重要なこととして、Cryj1の含有量が低いスギの系統の場合、Cryj1が多い系統と比較して実測値とサンドイッチイムノアッセイ−簡便法の回帰直線から推定される予測値との差が小さいことがわかった。したがって、簡便法によるCryj1の定量法は、抽出液中のCryj1以外のタンパク質や多糖類による測定精度への影響は少ないことが確認された。この結果は、簡便法と明確な相関を有するダイレクト法にもそのまま反映される。
以上のことから、ダイレクト法は従来の簡便法よりもさらに迅速にCryj1を測定でき、低アレルゲンスギ選抜に関して極めて有効な手法であることが確認された。
Claims (2)
- NaHCO3水溶液を用いてCrj1を含み得るスギ花粉から調製したスギ花粉抽出液を添加した固相を80℃で2〜4分間処理することを特徴とする、スギ花粉アレルゲンCryj1を特異的抗体で検出するイムノアッセイ方法。
- 前記特異的抗体が、Anti(MAP)Cryj1である請求項1に記載の方法。
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