JP3709956B2 - 電動式変速装置の変速制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動式変速装置の変速制御方法に係り、特に、ギアシフトおよびクラッチの断続を電気的に行なう電動式変速装置の変速制御方法に関する。さらに具体的に言えば、車両が略停車状態のときに変速操作が行なわれると、クラッチの接続状態を解除してギアチェンジした後、クラッチを素早く接続するようにした電動式変速装置の変速制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
クラッチペダル(あるいはクラッチレバー)およびシフトチェンジレバーの双方を操作してギアシフトを行なう従来の変速装置に対して、ギアシフトをモータによって電気的に行なう電動式変速装置が、特開平5−39865号公報に開示されている。上記した従来技術では、駆動モータによりシフトドラムを双方向に間歇回転させ、これによって所望のシフトフォークを作動させてギアシフトを行なっている。これに対して、クラッチの断続もモータにより同時に行なうことが考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような場合、従来の手動式変速装置を考えると、ギアがスムーズにシフトしない場合であっても、シフト操作を繰り返すことで最終的にはシフトチェンジを完了させることができる。また、シフトチェンジ後におけるクラッチ接続がスムーズに行なえるか否かも、ドライバのクラッチ操作に大きく依存する。
【0004】
このように、従来の手動式変速装置では、シフト操作を繰り返すことなくシフトチェンジを完了させられるか否か、あるいはクラッチ接続をスムーズに行なえるか否かといった操作性の良否の多くが、ドライバの操作方法に大きく依存している。換言すれば、ドライバの学習効果によって良好な操作性を得ることができる。
【0005】
これに対して、クラッチおよびシフトチェンジレバーの双方をモータで駆動する場合は、ドライバの操作内容に依存する部分がない。したがって、ギアシフトができない場合や、クラッチ接続がスムーズ、またはドライバの意思に応じて行なわれないと、ドライバに違和感を与えてしまう可能性があった。
【0006】
例えば、接続解除されたクラッチを接続する際、車両走行中であれば、変速ショックを和らげるためにクラッチを低速で接続することが望ましい。しかしながら、車両停止中であれば変速ショックが生じないので速やかに接続することが望ましい。
【0007】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決し、良好な操作性が得られる電動式変速装置の変速制御方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明では、クラッチの断続が、モータ駆動される変速軸の回動に連動して行なわれる電動式変速装置の変速制御方法において、車両が略停車状態のときに変速操作が行なわれると、クラッチの接続状態を解除してギアチェンジした後、クラッチを素早く接続するようにした点に特徴がある。上記した構成によれば、車両走行中の変速ショックを防止しながら、車両停車状態では速やかなクラッチ接続が可能になる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の電動式変速装置が搭載される車両の操作部の平面図である。
【0010】
操作部には、電動変速用のシフトアップスイッチ51およびシフトダウンスイッチ52と、前照灯の向きを切り換えるディマースイッチ53と、前照灯の点灯/非点灯を切り換えるライティングスイッチ54と、エンジンのスタートスイッチ55およびストップスイッチ56とが設けられている。本実施形態では、前記各シフトスイッチ51、52を押下してオン操作するごとに、シフトポジションがそれぞれ1段づつ上下にシフトする。
【0011】
図2は、本発明の一実施形態である電動式変速装置の駆動系の主要部の構成を示した部分断面図である。
【0012】
電気アクチュエータとしての駆動モータ1は、減速ギア機構2を介してシフトスピンドル3を正逆転方向へ回動させる。シフトスピンドル3の回転位置(角度)は、その一端に設けられたアングルセンサ28によって検知される。シフトスピンドル3から垂直に伸びたクラッチアーム6の一端には、シフトスピンドル3の回転運動を直進運動に変換する変換機構8が設けられている。変換機構8は、駆動モータ1によってシフトスピンドル3がニュートラル位置から回動されると、その回動方向とは無関係に、変速クラッチ5の接続を回動過程で解除し、再びニュートラル位置まで逆向きに回動される過程で接続状態に戻す。クラッチアーム6および変換機構8は、シフトスピンドル3が予定角度(例えば、±6度)まで回動された時点で変速クラッチ5の接続が解除されるように構成されている。
【0013】
シフトスピンドル3に固定されたマスターアーム7の一端は、シフトドラム軸8に設けられたクラッチ機構9と係合し、駆動モータ1によってシフトスピンドル3が回動されると、その回動方向に応じた方向へシフトドラム10を回動させる。マスターアーム7およびクラッチ機構9は、シフトスピンドル3がニュートラル位置からいずれかの方向へ回動されたときはシフトスピンドル3と係合してシフトドラム10を回動し、ニュートラル位置へ戻る方向へ回動されたときは、係合状態を解除してシフトドラム10を当該位置にとどめるようなクラッチ機構を構成する。
【0014】
各シフトフォーク11の先端は、図4に関して後述する各スリーブ30の外周溝31に係合し、シフトドラム10の回動に応じて各シフトフォーク11が軸方向に平行移動されると、シフトドラム10の回転方向および回転角度に応じて、いずれかのスリーブがメーンシャフト4上で平行移動する。
【0015】
図4は、前記スリーブ30の斜視図であり、メーンシャフト(図示省略)に対して軸方向に摺動可能な状態で挿貫されている。スリーブ30の外周側面には、前記シフトフォークの先端が係合される溝31が円周方向に沿って形成されている。スリーブ30の軸穴の外周部には、図5に関して後述するギア40の凹側ダボ42と係合する複数の凸側ダボ32が、環状フランジ33と共に一体的に形成されている。
【0016】
図5は、前記ギア40の斜視図であり、メーンシャフト(図示省略)上の所定位置に回転自在に軸支されている。ギア40の軸穴の外周部には、前記スリーブ30の凸側ダボ32と係合する複数の凹側ダボ42が、環状フランジ43と一体的に形成されている。図3は、前記スリーブ30およびギア40が各ダボ32、42によって相互に係合した状態を示した概念図である。
【0017】
一方、図9、10は、それぞれ従来のスリーブ38およびギア48の斜視図であり、スリーブ38では、複数の凸側ダボ39が、ギアの軸穴と同軸状にそれぞれ独立して設けられている。しかしながら、各凸側ダボ39を独立的に構成しようとすると、十分な強度を確保するためには各凸側ダボ39の底面積を比較的大きくしなければならない。このため、従来技術では凸側ダボ39およびギア40のダボ穴49の回転方向に関する幅の占める割合が大きくなり、凸側ダボ39は、図示したように、4つ程度を設けていた。
【0018】
図12は、従来のスリーブ38の凸側ダボ39とギア48のダボ穴49との相対的な位置関係を模式的に表現した図であり、ダボ穴49の回転方向の幅D2は凸側ダボ39の幅D1の約2倍程度であった。このため、凸側ダボ39がダボ穴49内に係合(ダボイン)できない期間Taが、ダボインできる期間Tbに比べて長かった。
【0019】
これに対して、本実施形態では各凸側ダボ32が環状フランジ33によって一体的に形成されているので、図13に示したように、十分な強度を保ったまま凸側ダボ32の回転方向の幅D3およびギア40の凹側ダボ42の幅D4を十分に短くすることができる。このため、凸側ダボ32をダボ穴46にダボインできない期間Taを、ダボインできる期間Tbに比べて短くすることができ、ダボインできる確率を向上させることが可能になる。
【0020】
また、本実施形態では、ダボ穴46の回転方向の幅D5と凸側ダボ32の幅D3との差を狭くすることができるので、両者の係合後における遊びを小さくすることができ、変速ショックや変速ノイズの低減が可能になる。
【0021】
さらに、本実施形態では、図6に示したように、凸側ダボ32のテーパを凸状に湾曲させる一方で、図7に示したように、凹側ダボ42のテーパを直線状にしたので、図8に示したように、各ダボ32、42を軸方向に線接触させることができる。このため、応力の集中を防止することができ、ダボ強度を実質的に向上させると共に、耐久性や耐摩耗性の向上が可能になる。
【0022】
このような構成において、前記スリーブ30がシフトフォーク11によって予定位置まで平行移動され、スリーブ30の凸側ダボ32がギア40のダボ穴46にダボインすると、良く知られるように、メーンシャフト4に対して空転状態で支持されていたギアがスリーブによって当該メーンシャフト4に係合されて同期回転する。この結果、クラッチシャフトからカウンタシャフト(共に図示せず)に伝達された回転力が、当該ギアを介してメーンシャフト4に伝達される。
【0023】
なお、図示は省略するが、本発明が制御対象とする電動式変速装置の搭載される車両のエンジンは4サイクルであり、クランクシャフトからメインシャフトへの動力伝達系には、クランク軸上の遠心クラッチおよびメインシャフト上のクラッチを介してエンジンの動力が伝達される。したがって、エンジン回転数が所定値以下の場合は、遠心クラッチがメインシャフト上のクラッチへの動力伝達をカットしている。したがって、車両停止中であればギアを何速へもシフトすることが可能になる。
【0024】
図14は、本発明の一実施形態である電動式変速装置の制御系の主要部の構成を示したブロック図であり、図15は、図14に示したECU100の構成例を示したブロック図である。
【0025】
図14において、ECU100のMOTOR(+)端子およびMOTOR(−)端子には前記駆動モータ1が接続され、センサ信号端子S1,S2,S3には、それぞれ車速を検知する車速センサ26、エンジン回転数を検知するNe センサ27および前記シフトスピンドル3の回転角度を検知する前記アングルセンサ28が接続されている。変速指令端子G1,G2には、前記シフトアップスイッチ51およびシフトダウンスイッチ52が接続されている。
【0026】
バッテリ21は、メインヒューズ22、メインスイッチ23およびヒューズボックス24を介してECU100のMAIN端子に接続されると共に、フェールセーフ(F/S)リレー25およびヒューズボックス24を介してVB端子にも接続されている。フェールセーフ(F/S)リレー25の励磁コイル25aはRELAY端子に接続されている。
【0027】
ECU100内では、図15に示したように、前記MAIN端子およびRELAY端子が電源回路106に接続され、電源回路106はCPU101に接続されている。前記センサ信号端子S1,S2,S3は、インターフェース回路102を介してCPU101の入力端子に接続されている。前記変速指令端子G1,G2は、インターフェース回路103を介してCPU101の入力端子に接続されている。
【0028】
スイッチング回路105は、それぞれ直列接続されたFET▲1▼,FET▲2▼およびFET▲3▼,FET▲4▼を相互に並列接続して構成され、並列接続の一端は前記VB端子に接続され、他端はGND端子に接続されている。FET▲1▼,FET▲2▼の接続点はMOTOR(−)端子に接続され、FET▲3▼,FET▲4▼の接続点はMOTOR(+)端子に接続されている。各FET▲1▼〜FET▲4▼は、CPU101によってプリドライバ104を介して選択的にPWM制御される。CPU101は、メモリ107に記憶された制御アルゴリズムに基づいて各FET▲1▼〜FET▲4▼を制御する。
【0029】
次いで、本発明の電動変速装置による変速制御方法を、図16〜21のフローチャートおよび図22の動作タイミングチャートを参照して説明する。
【0030】
ステップS10では、いずれかのシフトスイッチがオン操作されたか否かが判定され、オン操作されたと判定されると、ステップS11では、オン操作されたシフトスイッチが、シフトアップスイッチ51およびシフトダウンスイッチ52のいずれであるかが判定される。ここで、シフトアップスイッチ51がオン操作されたと判定されるとステップS13へ進み、シフトダウンスイッチ52がオン操作されたと判定されると、ステップS12において、エンジン回転数Ne を変数Ne1として記憶した後にステップS13へ進む。
【0031】
ステップS13では、オン操作されたシフトスイッチに応じて、ECU100内の前記スイッチング回路105を構成する各FETが、図22の時刻t1 から選択的にPWM制御される。すなわち、シフトアップスイッチ51がオン操作されていれば、FET▲1▼、▲3▼を遮断したまま、FET▲2▼、▲4▼が100%のデューティー比でPWM制御される。この結果、駆動モータ1はシフトアップ方向への回動を開始し、これに連動してシフトスピンドル3もシフトアップ方向への回動を開始する。
【0032】
一方、シフトダウンスイッチ52がオン操作されていれば、FET▲2▼、▲4▼を遮断したまま、FET▲1▼、▲3▼が100%のデューティー比でPWM制御される。この結果、駆動モータ1は、前記シフトアップ方向とは逆向きのシフトダウン方向へ回動を開始し、これに連動してシフトスピンドル3もシフトダウン方向への回動を開始する。
【0033】
このように、デューティー比を100%に設定すると、シフトスピードを速くすることができ、クラッチを素早く切り離すことができる。なお、本実施形態では、シフトスピンドルが5〜6度だけ回動するとクラッチが切れるように設計されている。
【0034】
ステップS14では、第1タイマ(図示せず)が計時を開始し、ステップS15では、前記シフトスピンドル3の回動角度θ0 が前記アングルセンサ28によって検知される。ステップS16では、検知された回動角度θ0 が第1基準角度θREF (本実施形態では、±14度)を超えた(+14度以上または−14度以下;以後、単に±××度以上と表現する)か否かが判定される。
【0035】
ここで、回動角度θ0 が±14度以上と判定されると、シフトフォーク11によって平行移動されたスリーブが正規の挿嵌(ダボイン)位置まで達している可能性が高いのでステップS17へ進むが、±14度以上に達していないと、スリーブが正規の挿嵌位置まで達していないと判断できるので、後述するステップS30へ進む。
【0036】
スリーブが正規の挿嵌位置まで平行移動されことが、時刻t2 において、前記回動角度θ0 に基づいて検知されると、ステップS17では前記第1タイマがリセットされる。ステップS18では、回動中の駆動モータ1に制動をかけるために、オン操作されたシフトスイッチに応じて、前記スイッチング回路105の各FETが選択的にPWM制御される。
【0037】
すなわち、シフトアップ中であれば、FET▲2▼、▲3▼は遮断したまま、FET▲1▼、▲4▼が100%のデューティー比でPWM制御される。一方、シフトダウン中であれば、FET▲1▼、▲3▼は遮断したまま、FET▲2▼、▲4▼が100%のデューティー比でPWM制御される。この結果、駆動モータ1が短絡されて回転負荷となるので、シフトスピンドル3のシフトアップ方向またはシフトダウン方向への駆動トルクに制動作用が働き、シフトスピンドル3がストッパに当接する際の衝撃を弱めることができ、強度的にもノイズ的にも有利になる。なお、ストッパに当接する際のシフトスピンドル3の回転角度は18度である。
【0038】
図17のステップS19では、制動時間を規定するための第2タイマが計時を開始し、ステップS20では、第2タイマの計時時間が15msを超えたか否かが判定される。第2タイマの計時時間が15ms超えるまではステップS21へ進み、後に詳述するエンジン回転数(Ne )制御が実行される。その後、時刻t3 において、計時時間が15msを超えると、ステップS22へ進んで第2タイマがリセットされる。
【0039】
ステップS23では、オン操作されたシフトスイッチに応じて前記スイッチング回路105の各FETが選択的にPWM制御される。すなわち、シフトアップ中であれば、FET▲1▼、▲3▼を遮断したまま、FET▲2▼、▲4▼が70%のデューティー比でPWM制御される。一方、シフトダウン中であれば、FET▲2▼、▲4▼を遮断したまま、FET▲1▼、▲3▼が70%のデューティー比でPWM制御される。この結果、スリーブがギア側へ比較的弱いトルクで押し付けられるので、ダボインまでに各ダボに加わる負荷が軽減されるうえ、ダボイン状態を確実に保持できるようになる。
【0040】
ステップS24では第3タイマが計時を開始し、ステップS25では、第3タイマの計時時間が70msを超えたか否かが判定される。計時時間が70msを超えていなければ、ステップS26へ進んでNe 制御が実行される。また、計時時間が70msを超えていると、ステップS27では前記第3タイマがリセットされ、ステップS27では、時刻t4 において、後述するクラッチON制御が開始される。
【0041】
なお、本実施形態における前記第3タイマのタイムアップ時間は、前記図13に関して説明した、ダボインできない期間Taに基づいて決定されている。すなわち、上記タイムアップ時間(70ms)は、少なくとも期間Taが経過する時間は押し付け制御が実行されるように設定されている。この間、凸側ダボと凹側ダボとが当接されることになるが、デューティー比が70%まで減ぜられているので、各ダボに加わる負荷は小さく、強度的に有利になる。
【0042】
また、第3タイマのタイムアップ時間は固定値に限らず、例えばギアが1〜3速の範囲であれば70msでタイムアップし、4〜5速の範囲であれば90msでタイムアップするといったように、ギアの関数として可変的に設定されるようにしても良い。
【0043】
一方、図16の前記ステップS16において、回転角度θ0 が第1基準値未満であると判定されると、当該処理は図18のステップS30へ進む。ステップS30では、前記第1タイマによる計時時間が200msを超えたか否かが判定され、初めは超えていないと判定されるので、ステップS31でNe 制御を実行した後に図16のステップS16へ戻る。
【0044】
その後、第1タイマの計時時間が200msを超え、今回のシフトチェンジが失敗に終ったと判断されると、ステップS32において第1タイマがリセットされる。ステップS33では、後述する再突入カウンタのカウント値が参照され、リセット状態(=0)であれば、再突入制御が未実行であると判断されてステップS34へ進み、後述する再突入制御が初めて実行される。これは、シフトチェンジに時間がかかると運転者に違和感を抱かせる場合があるからである。
【0045】
一方、再突入カウンタがセット状態(=1)であれば、再突入制御を実行したにもかかわらずシフトチェンジが成功しなかったものと判定され、シフトチェンジを行なうことなくクラッチを接続するためにステップS35へ進む。ステップS35では再突入カウンタがリセットされ、ステップS36では、後述するクラッチON制御が実行される。
【0046】
次いで、図19のフローチャートを参照して前記再突入制御の制御方法を説明する。再突入制御とは、シフトフォークによって軸方向へ平行移動されるスリーブが正規の嵌合位置まで移動できなかった場合に、移動トルクを一時的に減じた後で再び所定トルクを加えて再移動(突入)を試みる処理である。
【0047】
ステップS40では、PWM制御下にあるFET、すなわちシフトアップ中であればFET▲2▼、▲4▼、シフトダウン中であればFET▲1▼、▲3▼のデューティー比が20%に減じられる。この結果、シフトフォーク11によってスリーブに加えられる駆動トルクが弱まる。
【0048】
ステップS41では第4タイマが計時を開始し、ステップS42では、第4タイマの計時時間が20msを超えたか否かが判定される。計時時間が20msを超えていなければ、ステップS43へ進んでNe 制御が実行される。また、計時時間が20msを超えると、ステップS44では第4タイマがリセットされ、ステップS45では、前記再突入カウンタがセットされる。その後、当該処理は図16の前記ステップS13へ戻り、駆動モータ1が再び100%のデューティー比でPWM制御されるので、スリーブには当初の大きなトルクが加えられることになる。
【0049】
本実施形態では、上記したようにシフトチェンジが正常に行われないと、スリーブの押しつけトルクを一時的に弱めた後、再び強いトルクで押し付けるようにしたので、スリーブの再突入が容易に行えるようになる。
【0050】
次いで、前記Ne 制御およびクラッチON制御の動作を詳細に説明する前に、各制御の趣旨および概略動作を、図23、24を参照して説明する。
【0051】
図22に示したように、本実施形態では、時刻t1 でシフトスピンドルの回動を開始すると、時刻t11でクラッチの接続が解除され、時刻t3 でシフトスピンドルの回動が完了する。その後、時刻t4 まで押しつけ制御を実行した後、クラッチの接続制御へ移行する。
【0052】
このとき、変速ショックを和らげるためにはクラッチを低速で接続する、換言すればシフトスピンドル3の回転速度を遅くする必要がある。一方、変速速度はシフトスピンドル3の回転速度に依存するため、素早い変速を実現するためには、シフトスピンドル3の回転速度を早くする必要がある。
【0053】
そこで、本発明では上記した2つの条件を同時に満足すべく、図22に示したように、時刻t4 からt5 までの、クラッチ接続される角度範囲の近傍まではシフトスピンドル3を高速回転させ、時刻t5 以降の、クラッチが接続状態へ至る角度範囲ではシフトスピンドル3を低速回転させることにした。このような2段リターン制御により、本実施形態では変速ショックの低減と変速時間の短縮とを両立している。
【0054】
さらに、本実施形態では各ドライバのアクセル操作に応じて、クラッチの接続タイミングを最適なタイミングに制御している。図23、24は、それぞれシフトアップおよびシフトダウン時に実行されるクラッチON制御およびNe 制御によってシフトスピンドル位置θ0 およびエンジン回転数Ne が変化する様子を示した図である。
【0055】
図23に示したように、シフトアップ時は、アクセルを戻してシフトアップスイッチ51をオン操作し、その後、変速動作が実行されてクラッチが再接続された後でアクセルを開けることが一般的であるが、その際のエンジン回転数Ne は実線aで示した通りに変化する。このとき、シフトスピンドルは実線A,Bで示した通りに制御される。
【0056】
しかしながら、ドライバによっては、アクセルを戻すことなくシフトアップスイッチ51を操作したり、クラッチが再接続される前にアクセルを開ける場合も考えられ、このような場合、ドライバは速やかなシフトチェンジを望んでいるのでクラッチを素早く接続することが望ましい。
【0057】
そこで、本実施形態では、エンジン回転数Ne が実線bのように変化した場合には、ドライバがアクセルを戻すことなくシフトアップスイッチ51を操作したと判定し、また、エンジン回転数Ne が実線cのように変化した場合には、クラッチが接続されるタイミングよりも早くアクセルが開かれたと判定し、それぞれ、実線C,Dで示したように、クラッチを直ちに接続するクイックリターン制御を実行するようにした。
【0058】
一方、図24に示したように、シフトダウン時もアクセルを戻してシフトダウンスイッチ52をオン操作し、その後、変速動作が実行されてクラッチが再接続された後でアクセルを開けることが一般的であり、その際のエンジン回転数Ne は実線aで示した通りに変化する。このとき、シフトスピンドルは実線A,Bで示した通りに2段制御される。
【0059】
しかしながら、シフトダウン時にエンジンが空吹かしされる場合もあり、このような場合には、クラッチを素早く接続してもシフトショックが少ないので、素早くクラッチ接続することが望ましい。
【0060】
そこで、本実施形態では、エンジン回転数Ne が実線b,cのように変化した場合には、ドライバがエンジンが空吹かししたと判定し、それぞれ、実線C,Dで示したようなクイックリターン制御を実行するようにした。
【0061】
次いで、上記した2段リターン制御およびクイックリターン制御を実現するNe 制御およびクラッチON制御の動作を詳細に説明する。図20は、前記ステップS21、S26、S31、S43で実行されるNe 制御の制御方法を示したフローチャートである。
【0062】
ステップS50では、今回のエンジン回転数Ne が計測される。ステップS51では、これまでに計測されたエンジン回転数Ne のピークホールド値Nepおよびボトムホールド値Nebが、前記今回のエンジン回転数Ne に基づいて更新される。ステップS52では、シフトアップ中およびシフトダウン中のいずれであるかが判定され、シフトアップ中であればステップS56へ進み、シフトダウン中であればステップS53へ進む。
【0063】
ステップS56では、前記ステップS50で検知された今回のエンジン回転数Ne と前記ステップS51で更新されるボトムホールド値Nebとの差分(Ne −Neb)が50rpm 以上であるか否かが判定される。
【0064】
当該判定は、シフトアップ時にアクセルが閉じられているか否かの判定であり、前記差分が50rpm 以上であれば、ドライバがアクセルを戻すことなくシフトアップスイッチ51を操作したか、あるいはクラッチが接続されるタイミングよりも早くアクセルが開かれたものと判定される。この場合は、クラッチを直ちに接続すべくステップS55へ進み、クイックリターンフラグFをセットした後に当該処理を終了する。また、差分が50rpm 未満であれば、通常の制御を継続すべく、クイックリターンフラグFをセットすることなく、当該エンジン回転数制御を終了する。
【0065】
一方、前記ステップS52においてシフトダウン中と判定されると、ステップS53では、前記今回のエンジン回転数Ne と前記ステップS12で記憶されたエンジン回転数Ne1との差(Ne −Ne1)が300rpm 以上であるか否かが判定され、前記差分が300rpm 以上であれば、さらにステップS54において、前記ステップS51で更新されるピークホールド値Nepと今回のエンジン回転数Ne との差(Nep−Ne )が50rpm 以上であるか否かが判定される。
【0066】
当該判定は、シフトアップ時にドライバがエンジンを空吹かししたか否かの判定であり、前記ステップS53、54の判定がいずれの肯定であると、シフトアップ時にドライバが空吹かしをしたと判定されてステップS55へ進み、前記クイックリターンクフラグFをセットした後に当該処理を終了する。
【0067】
図21は、前記ステップS28、S36で実行されるクラッチON制御の制御方法を示したフローチャートである。
【0068】
ステップS70では、車速が略0であるか否かが判定される。本実施形態では、車速が3km/h以下であれば略0と判定してステップS72へ進み、シフトスピンドル3の目標角度θT にニュートラル位置をセットした後にステップS73へ進む。これは、車両が略停止した状態でのシフトであり、このような場合にはシフトショックが生じないことから、素早くシフトチェンジする方が望ましいためである。
【0069】
また、前記ステップS70において、車速が3km/h以上と判定されると、ステップS71において、シフトスピンドル3の回動がストッパによって制限される角度(本実施形態では、±18度)から6度だけ戻った第2基準角度(すなわち、±12度)を目標角度θT にセットした後にステップS73へ進む。ステップS73では、アングルセンサ28によって現在のシフトスピンドル3の回転角度θ0 が検知され、ステップS74では、前記Ne 制御が実行される。
【0070】
ステップS75では、比例積分微分(PID)制御用のPID加算値が求められる。すなわち、前記ステップS73で検知された現在の回転角度θ0 および目標角度θT の差分(θ0 −θT )として表される比例(P)項、P項の積分値である積分(I)項およびP項の微分値である微分(D)項が、それぞれ求められて加算される。ステップS76では、前記求められたPID加算値に基づいて、PWM制御のデューティー比が決定され、ステップS77において、PWM制御が実行される。
【0071】
図25は、前記PID加算値とデューティー比との関係を示した図であり、PID加算値の極性が正であれば、その値に応じて正のデューティー比が選択され、PID加算値の極性が負であれば、その値に応じて負のデューティー比が選択される。ここで、デューティー比の極性は、PWM制御されるFETの組み合わせを示し、例えば50%のデューティー比とは、FET▲2▼,FET▲4▼が50%のデューティー比でPWM制御されることを意味し、−50%とデューティー比とは、FET▲1▼,FET▲3▼が50%のデューティー比でPWM制御されることを意味する。
【0072】
ステップS78では、第6タイマの計時時間が100msを超えたか否かが判定され、最初は第6タイマが計時を開始していないのでステップS79へ進む。ステップS79では、第5タイマの計時が開始される。ステップS80では、第5タイマの計時時間が10msを超えたか否かが判定され、初めは超えていないのでステップS73へ戻り、前記ステップS73〜S80の各処理が繰り返される。
【0073】
その後、図22の時刻t5 において、第5タイマの計時時間が10msを超えると、ステップS81では第5タイマがリセットされ、ステップS82では、クイックリターンクフラグFがセット状態にあるか否かが判定される。ここで、クイックリターンクフラグFがセット状態にあると、ステップS83では、クイックリターン制御を実行すべく、現在の目標角度から2ないし4度だけ減じた角度が新たな目標角度として登録され、クイックリターンクフラグFがセット状態ではないと、ステップS84において、現在の目標角度から0.2度だけ減じた角度が新たな目標角度として登録される。
【0074】
ステップS85では、目標角度がニュートラル角度に近いか否かが判定され、目標角度がニュートラル角度に十分に近付くまで前記ステップS73〜S85の処理が繰り返される。その後、目標角度がニュートラル角度に十分に近付くと、ステップS86では、目標角度としてニュートラル角度が登録され、ステップS87では、第6タイマが計時を開始する。
【0075】
一方、前記ステップS78において、第6タイマの計時時間が100msを超えたと判定されると、ステップS90では、第6タイマがリセットされる。ステップS91では、クイックリターンクフラグFがリセットされ、ステップS92では、スイッチング回路105のPWM制御が終了される。
【0076】
なお、高速走行時または高エンジン回転時にギアがニュートラル状態からシフトされると、比較的大きなエンジンブレーキが作用してエンジンに過大な負荷が加わる。そこで、本実施形態では車速が10km/h以上またはエンジン回転数が3000rpm以上であると、シフトアップスイッチ51がオン操作されても前記図16の制御を阻止する変速禁止システムが設けられている。
【0077】
図11は、前記変速禁止システムの機能ブロック図である。ニュートラル検知部81は、ギアがニュートラル位置にあると“H”レベルの信号を出力する。車速判定部82は、車速が10km/h以上であると“H”レベルの信号を出力する。エンジン回転数判定部83は、エンジン回転数が3000rpm以上であると“H”レベルの信号を出力する。
【0078】
OR回路84は、車速判定部82またはエンジン回転数判定部83の出力が“H”レベルであると“H”レベルの信号を出力し、AND回路85は、OR回路84の出力およびニュートラル検知部81の出力が“H”レベルであると“H”レベルの信号を出力する。変速禁止部86は、AND回路85の出力が“H”レベルであると、シフトアップスイッチ51がオン操作されても前記図16の制御を阻止する。
【0079】
但し、1速からの加速中で、車速が10km/h以上あるいはエンジン回転数が3000rpm以上で誤ってニュートラルへシフトしてしまった場合は再加速に時間がかかってしまうので、上記した変速禁止システムを付加するのであれば、車速走行中(例えば、車速が3km/h以上)の場合にはニュートラルへのシフトを禁止するシステムを更に付加しても良い。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、車両が略停車状態のときに変速操作が行なわれると、クラッチの接続状態を解除してギアチェンジした後、クラッチが素早く接続されるので、車両走行中の変速ショックを防止しながら、車両停車状態では速やかなクラッチ接続が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電動式変速装置が搭載される車両の操作部の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態である電動式変速装置の駆動系の主要部の構成を示した部分断面図である。
【図3】スリーブとギアとが係合した状態の概念図である。
【図4】本発明のスリーブの斜視図である。
【図5】本発明のギアの斜視図である。
【図6】スリーブの凸側ダボ32の部分拡大図である。
【図7】ギアの凹側ダボ42の部分拡大図である。
【図8】凸側ダボ32と凹側ダボ42との係合状態を示した図である。
【図9】従来のスリーブの斜視図である。
【図10】従来のギアの斜視図である。
【図11】変速禁止システムの機能ブロック図である。
【図12】従来のスリーブとギアとの係合タイミングを模式的に示した図である。
【図13】本発明のスリーブとギアとの係合タイミングを模式的に示した図である。
【図14】本発明の一実施形態である電動式変速装置の制御系の主要部の構成を示したブロック図であ
【図15】図14に示したECU100の構成例を示したブロック図である。
【図16】本発明の一実施形態のフローチャート(その1)である。
【図17】本発明の一実施形態のフローチャート(その2)である。
【図18】本発明の一実施形態のフローチャート(その3)である。
【図19】本発明の一実施形態のフローチャート(その4)である。
【図20】本発明の一実施形態のフローチャート(その5)である。
【図21】本発明の一実施形態のフローチャート(その6)である。
【図22】本発明のよるシフトスピンドルの動作タイミングチェートである。
【図23】本発明のよるシフトスピンドルおよびエンジン回転数の動作タイミングチェート(シフトアップ時)である。
【図24】本発明のよるシフトスピンドルおよびエンジン回転数の動作タイミングチェート(シフトダウン時)である。
【図25】PID加算値とデューティー比との関係を示した図である。
【符号の説明】
1…駆動モータ
2…減速ギア機構
3…シフトスピンドル
5…変速クラッチ
10…シフトドラム
11…シフトフォーク
28…アングルセンサ
30…スリーブ
40…ギア
51…シフトアップスイッチ
52…シフトダウンスイッチ
Claims (1)
- 駆動モータによって回動される変速軸と、前記変速軸の回動に連動してクラッチを断続する伝達機構と、前記変速軸の回動に連動してギアを切り換える変速機構とを具備した電動式変速装置の変速制御方法であって、
前記変速軸をクラッチの解除位置から接続位置まで回動させる際、前記駆動モータによる変速軸の回転制御を、車速が略停車状態であると判定できる予定速度以上であれば第1の手順で実行し、車速が前記予定速度以下であれば、前記第1の手順とは異なる第2の手順で実行し、
前記第2の手順では、前記変速軸が第1の手順よりも短時間で接続位置まで回動されることを特徴とする電動式変速装置の変速制御方法。
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