JP3708874B2 - 柱状構造物及びその構築方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は橋脚や基礎などの柱状構造物の構造及びその構築方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
プレキャストコンクリートブロックをフーチング上に積重して構築する柱状構造物において、柱状構造物の柱体をフーチング上に仮組立し、縦シース内にモルタル等のグラウトを注入し、グラウトが硬化する前に鉄筋又はPC鋼材を上方から縦シース内に挿入して、柱状構造物を構築する技術がある。このような技術は、柱体として高品質のプレキャストコンクリートブロックを用いるので、信頼性に富み、品質が安定するメリットがある。さらに現場で型枠の組立、撤去作業等を必要とせず、またプレキャストコンクリートブロックを積重する工程でブロック1個ごとに縦主鉄筋を強固に連結して積重する手間を省略することができ、高能率施工が可能となる。
【0003】
しかしながら、このような柱状構造物の構築方法は、柱状構造物の力学的に最も重要なフーチング近傍の柱体基部の縦主鉄筋を格別な構造にすることが容易でなく、この部分が力学的に弱点となるという問題がある。例えば、地震時に柱状構造物の基部もしくは地盤中に損傷が生じ、鉄筋のかぶり部分のコンクリートが剥離・剥落して破壊に至った場合に、それと同時にシース内のグラウト材にも鉄筋から発生した「くし歯」状のクラックが生じ、グラウト材の耐力が減少する。構造物が地震等によって被災した後、シース周囲のかぶりコンクリートは巻き立てることにより補強可能であるが、シース内のグラウト材は補強することが難しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はプレキャストコンクリートブロックにシースを内蔵させて予めダクトを形成し、プレキャストコンクリートブロックの積重後、グラウト材をダクト中に注入し、このダクト中に高強度鉄筋を挿入するコンクリートブロックの接合方法を対象とする。
【0005】
本発明は、上述のような縦主鉄筋をあとから挿入する柱状構造物の構築工程の利点を生かした工法及び構造物にさらに改善を加えて、力学的に合理的な構造とし、その信頼性を高める技術を提供するものである。すなわち、地震による被害を受けた場合にもシース内のグラウト材に鉄筋から発生した「くし歯」状のクラックが生じたとしても混入された短繊維の架橋効果により、耐力が減少するのを防止し、従来の問題点を解決した技術を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記問題点を解決するために開発されたもので、その技術手段は高強度鉄筋を縦主鉄筋とし、フーチング及びその上方に積重したコンクリートブロックの下端近傍のシース内に短繊維混入充填材充填部を形成し、柱状構造物の基底部における力学的弱点を解消すると共に、地震等による被災後もグラウトの補強不要な構造としたことを特徴とする柱状構造物である。この場合、前記短繊維混入充填材がコンクリートブロックの下端から上方に柱状構造物の水平断面の長辺寸法より大きい高さ区間に亘って充填されていると好適である。
【0007】
上記本発明に係る柱状構造物は、次の方法によって構築することができる。すなわち、本発明方法は、柱状構造物を形成すべきプレキャストコンクリートブロックを仮結合しながら順次フーチング上に積重し、積重したプレキャストコンクリートブロックの下端部近傍及びフーチングのシース内に短繊維混入充填材を注入し、該短繊維混入充填材より上方のシース内に普通モルタルを注入し、次いで、モルタル硬化前に高強度縦主鉄筋を該シース内に上方から挿入し、柱状構造物の柱体基礎部と縦主鉄筋との結合部の靱性を高め、地震等による被災後もグラウトの補強不要な構造としたことを特徴とする柱状構造物の構築方法である。この方法において、短繊維混入充填材は、例えばポリビニルアルコール繊維を混入したモルタルとすれば好適である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記、シース内の補強に関する解決手段として、グラウト材に短繊維を混入し靱性を向上させ、ひび割れ発生後も耐力を維持できるようにし、地震等による被災後もグラウトの補強を必要としない構造としたものである。短繊維混入充填材(短繊維混入グラウト材)を充填する範囲は、例えば橋脚であれば、柱状構造の下端から上方に、基部付近の橋脚の幅寸法以上の高さの区間およびフーチング内とする。また基礎であれば、この範囲は曲げモーメント最大区間とすればよい。グラウト材中に短繊維を混入することにより、短繊維の架橋効果によってグラウト材に生ずるクラックの幅の進展を抑制し、グラウト材の耐力を保持するものである。
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は実施例の柱状構造物1の模式的斜視図である。フーチング2上にプレキャストコンクリートブロック3が積重されており、縦シース4内に縦主鉄筋が配筋されている。
【0010】
縦主鉄筋は、シース4内にグラウト材(モルタル)を注入した後、柱状構造物の上方からシース4内に繰り込み挿入する。フーチング2内のシース及びフーチング2から上方の高さHまでのシース内に短繊維混入充填材5が充填されており、その上方のシース内に普通のグラウト材(モルタル)6が充填されている。短繊維混入充填材を充填する高さHは柱状構造物1の柱体の断面の長辺の長さDより大きくすればよい。この柱状構造物1が地震を受けたとき、短繊維混入充填材5は損傷しない。従って、柱状構造物1が地震によって被害を受けたとき最も問題となる柱状構造物基底部のシース内の短繊維混入充填材5には損傷を生じない。
【0011】
図2に普通モルタルを用いた従来の材料と本発明に係るポリビニルアルコール繊維2%混入高靱性セメント系複合材料(PVA−ECC)の曲げ試験成績の応力−曲げたわみ曲線を示した。曲線11は従来の成績を示し、曲線12は複合材料の成績を示している。試験片は幅60mm、厚さ10mmの平板とし、これをスパン180mmで支持し、両方の支持点からそれぞれ60mmの2点に垂直荷重を加えて曲げ試験を行った。弾性域においては両者は同一挙動を示すが、塑性域では曲線12は曲線11に比してたわみが10倍程度大きく、従って吸収歪エネルギーも著しく増大する。
【0012】
図3、図4、図5は本発明に係る短繊維混入充填材の靱性発現のメカニズムを説明する説明図である。図3は短繊維混入充填材で製作した試験片の引張応力と伸びの関係を示すグラフである。図3中に表示した(a)〜(f)の各点に対応する試験片21の状況をそれぞれ図4、図5の(a)〜(f)に模式的に示した。図4(a)は、高靭性型複合材の試験片21に引張応力21を加えた直後の状態を示している。引張応力が増加し、弾性限界を越えると、図4(b)に示すように試験片21には載荷軸に対してほぼ垂直に初期クラック23が発生する。このクラック23は架橋能力が高い補強繊維が架橋している。従って、初期クラック23がそのまま破壊につながることなく、図4(c)に示すように、近傍での微小クラック24を生ずる。図ではクラック23、24は試験片21を完全に横切っているように直線で模式的に示しているが、実際は局部的な微小クラックである。荷重の増加と伸びの進行に伴って、図5(d)に示すように、新しい微小クラック25、26が発生し、さらに歪の増加と共に図5(e)に示すように多数の微小クラック27が生ずる。これらの多数の微小クラックの発生により、試験片は見かけ上大きな引張歪みを生ずる。このため試験片は大きな歪エネルギーを貯えることができ、著しく大きな靱性を示す。図5(f)は応力集中により最後に複合材料が破断個所28で破壊することを示している。本発明に係る短繊維混入充填材は、このように靱性が非常に大きいので、地震等により柱状構造物の柱体の基底部近傍又はフーチングのコンクリートに破損が生じた場合でも充填材が破損することなく、従ってシース内を補修する必要がなくなる。
【0013】
【発明の効果】
本発明によれば、
(a)プレキャスト構造物自体の耐力が増加する
(b)高強度であるため縦主鉄筋の本数が減り、スペースに余裕ができ柱状構造物の断面を縮小することができる
(c)プレキャスト高強度コンクリートブロックの性能を有効に利用することができ、施工が簡略化されるため経済性が向上する
等の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の柱状構造物の模式的斜視図である。
【図2】短繊維混入充填材試験片の曲げ試験曲線である。
【図3】短繊維混入充填材試験片の引張試験曲線である。
【図4】短繊維混入充填材試験片の挙動を示す説明図である。
【図5】短繊維混入充填材試験片の挙動を示す説明図である。
【符号の説明】
1 柱状構造物
2 フーチング
3 プレキャストコンクリートブロック
4 シース
5 繊維混入充填材
6 普通グラウト材(モルタル)
11、12 曲線
21 試験片
22 引張応力
23 初期クラック
24 近傍での微小クラック
25、26、27 微小クラック
28 破断個所

Claims (3)

  1. 高強度鉄筋を縦主鉄筋とし、フーチング及びその上方に積重したコンクリートブロックの下端近傍のシース内に短繊維混入充填材充填部を形成し、柱状構造物の基底部における力学的弱点を解消すると共に、地震等による被災後もグラウトの補強不要な構造としたことを特徴とする柱状構造物。
  2. 前記短繊維混入充填材がコンクリートブロックの下端から上方に柱状構造物の水平断面の長辺寸法より大きい高さの区間に亘って充填されていることを特徴とする請求項1記載の柱状構造物。
  3. 柱状構造物を形成すべきプレキャストコンクリートブロックを仮結合しながら順次フーチング上に積重し、積重したプレキャストコンクリートブロックの下端部近傍及びフーチングのシース内に短繊維混入充填材を注入し、該短繊維混入充填材より上方のシース内に普通モルタルを注入し、次いで、モルタル硬化前に高強度縦主鉄筋を該シース内に上方から挿入し、柱状構造物の柱体基礎部と縦主鉄筋との結合部の靱性を高め、地震等による被災後もグラウトの補強不要な構造としたことを特徴とする柱状構造物の構築方法。
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