JP3700829B2 - ベルト式無段変速機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車の動力伝達装置に用いられるベルト式無段変速機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ベルト式無段変速機は、平行に配した入力側および出力側の各回転軸に、軸線方向に不動である固定フランジと軸線方向に往復動可能な可動フランジとから成る入力側および出力側のプーリを備え、両プーリを動力伝達用のベルトで連結した構成になっている。このとき、各プーリは、両フランジの相対向する滑動面がテーパ状を成しており、両フランジ間にベルトを収容するV型の溝を形成している。そして、ベルト式無段変速機は、両プーリおよびベルトを介して入力側回転軸の回転を出力側回転軸に伝達し、この際、両プーリの溝幅が反比例的に変化するように各々の可動フランジを往復動させることにより、入力側と出力側とでベルトの巻き掛け位置をプーリの半径方向にスライドさせて、変速比を無段階的に変化させるものとなっている。
【0003】
また、上記のベルト式無段変速機では、一方のプーリの外周側にベルトが位置しているときには他方のプーリの中心側にベルトが位置するというように、両プーリに対するベルトの巻き掛け位置が変化し、この際、ベルトが固定フランジのテーパ状の滑動面を基準にしてスライドするため、両プーリの固定フランジと可動フランジの配置を互いに逆にして、各固定フランジに対してベルトが同一方向にスライドするようにし、両プーリ間でベルトの大きな芯ずれが生じないようにしている。このようなベルト式無段変速機は、例えば特開昭56−80551号公報に記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記したような従来のベルト式無段変速機にあっては、各プーリに対してベルトがスライドする際に、同ベルトが固定フランジの滑動面の傾斜分だけ回転軸の軸線方向にも移動することとなり、このような動作が個々の可動フランジの往復動により行われること、入力側と出力側とでプーリとベルトとの接触面積が変化することなどにより、両プーリ間でベルトの小さな芯ずれが発生するという問題点があり、このような問題点を解決することが課題となっていた。なお、ベルトの芯ずれは、その量が僅かであってもベルトに発生する応力が高くなり、偏摩耗の発生や耐久性の低下などの原因となる。
【0005】
【発明の目的】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたもので、入力側および出力側の各回転軸に設けた可変幅のプーリをベルトで連結したベルト式無段変速機において、変速時における両プーリ間でのベルトの芯ずれを防止することができ、ベルトの偏摩耗の防止や耐久性の維持を実現することができるベルト式無段変速機を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わるベルト式無段変速機は、請求項1として、平行に配した入力側および出力側の回転軸に、軸線方向に不動である固定フランジと軸線方向に往復動可能な可動フランジとから成る入力側および出力側のプーリを備えると共に、両プーリをベルトで連結したベルト式無段変速機において、少なくとも一方の回転軸を軸線方向に移動可能に保持すると共に、その回転軸およびプーリに対して、可動フランジの往復動に伴って両プーリ間で発生するベルトの芯ずれ量に対応した範囲で回転軸およびプーリを軸線方向に移動させるカム機構を備え、カム機構が、回転軸に対して軸線方向に不動であり且つ回転軸に対して軸線回りに回転自在であるカム部材を備え、可動フランジの往復動に伴ってカム部材を回転させるとともにカム部材および回転軸を軸線方向に移動させる機構である構成とし、請求項2として、回転軸に対して軸線方向に不動であり且つ回転軸に対して軸線回りに回転自在である第1カム部材と、回転軸を保持するケースに対して回転軸の軸線方向に不動である第2カム部材を備え、可動フランジと第1カム部材との間に、可動フランジの往復動に伴って第1カム部材を回転させる第1カム機構を備えると共に、第1カム部材と第2カム部材との間に、第1カム部材の回転に伴って同第1カム部材および回転軸を軸線方向に移動させる第2カム機構を備えた構成とし、請求項3として、第1カム部材が、可動フランジを往復動させるための圧力室を形成するピストンであると共に、第2カム部材が、回転軸を回転自在に且つ軸線方向に移動可能に保持するホルダである構成とし、請求項4として、第1カム機構が、回転軸の軸線方向に対して傾斜したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせであると共に、第2カム機構が、回転軸の周方向に対して屈曲したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせである構成とし、請求項5として、第1カム機構が、回転軸の軸線方向に対して屈曲したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせであると共に、第2カム機構が、回転軸の周方向に対して傾斜したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせである構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
なお、上記の請求項4および5において、第1カム機構は、可動フランジおよび第1カム部材のいずれか一方にカム溝を設けると共に、他方にカムピンを設けるものとし、第2カム機構は、第1カム部材および第2カム部材のいずれか一方にカム溝を設けると共に、他方にカムピンを設けるものとする。また、各カム溝は、直線形状や直線を組合わせた屈曲形状に限定されることはなく、変速時に発生するベルトの芯ずれ量に応じて、全体を曲線としたもの、曲線と直線を組合わせたもの、部分的に傾斜角度や屈曲角度が異なるものなども含まれる。
【0008】
【発明の作用】
本発明の請求項1に係わるベルト式無段変速機では、各プーリおよびベルトを介して入力側回転軸の回転を出力側回転軸に伝達する。このとき、各プーリは、従来技術と同様に、入力側と出力側とで固定フランジと可動フランジの配置を互いに逆にしてあると共に、両フランジの相対向する滑動面がテーパ状を成しており、両フランジ間にベルトを収容するV型の溝を形成したものとなっている。したがって、回転伝達を行っているときに、両プーリの溝幅が反比例的に変化するように各々の可動フランジを往復動させれば、入力側と出力側とでベルトの巻き掛け位置がプーリの半径方向にスライドし、変速比が無段階的に変化することとなる。
【0009】
ここで、この種のベルト式無段変速機では、各プーリに対してベルトがスライドするときには、同ベルトが固定フランジの滑動面の傾斜分だけ回転軸の軸線方向にも移動するのであるが、例えばLOW側からHIGH側に至る変速が行われる際、つまり、入力側プーリの可動フランジを固定フランジに対して前進させてベルトを入力側プーリの中心側から外周側にスライドさせ、且つ出力側プーリの可動フランジを固定フランジに対して後退させてベルトを出力側プーリの外周側から中心側にスライドさせる際に、両プーリ間でベルトの芯ずれ(最大で0.8mm程度)が発生する。このベルトの芯ずれ量は、スライド開始前は零であり、スライド開始とともに増大してほぼ中間位置で最大となり、その後減少してスライド終了で零になる。
【0010】
このようなベルトの芯ずれに対して、当該ベルト式無段変速機では、少なくとも一方の回転軸を軸線方向に移動可能に保持し、その回転軸およびプーリに対して、ベルトの芯ずれ量に対応した範囲で回転軸およびプーリを軸線方向に移動させるカム機構、より具体的には、回転軸に対して軸線方向に不動であり且つ回転軸に対して軸線回りに回転自在であるカム部材を備え、可動フランジの往復動に伴ってカム部材を回転させるとともにカム部材および回転軸を軸線方向に移動させるカム機構を備えているので、一方のプーリの可動フランジを一方向に移動させてベルトをスライドさせる間に、カム機構の働きによりカム部材とともに回転軸およびプーリをベルトの芯ずれ量だけ軸線方向に移動させ、これにより両プーリ間のベルトの芯ずれを回避する。この際、ベルトの芯ずれ量は、先述の如くスライド開始からスライド終了に至る間に増減することから、カム機構は、可動フランジが一方向に移動する間にカム部材とともに回転軸およびプーリを最大芯ずれ量に対応した範囲で往復動させるものとなっており、これによりベルトの芯ずれが防止される。
【0011】
本発明の請求項2に係わるベルト式無段変速機では、一方のプーリの可動フランジを一方向に移動させると、可動フランジと第1カム部材との間に設けた第1カム機構により、回転軸に対して第1カム部材が軸線回りに回転する。このとき、第1カム部材は、回転軸に対して軸線方向に不動であるから、可動フランジとともに移動することはない。また、第1カム部材が回転すると、第1カム部材と第2カム部材の間に設けた第2カム機構により、第1カム部材が回転軸およびプーリとともに軸線方向に移動する。つまり、第2カム部材は回転軸を保持するケースに対して回転軸の軸線方向に不動であるから、第2カム機構は第1カム部材の回転に伴って同第1カム部材を移動させることとなり、また、第1カム部材は回転軸に対して軸線方向に不動であるから、第1カム部材、回転軸およびプーリ(固定および可動のフランジ)が一体となって軸線方向に移動することとなる。
【0012】
したがって、第1カム機構と第2カム機構の協働による軸線方向の移動量を変速時のベルトの芯ずれ量に対応させておけば、変速時にプーリが移動してベルトの芯ずれが防止されることとなる。なお、第1および第2のカム部材は回転軸やプーリとともに回転しているので、例えば回転軸に対して第1カム部材が回転するということは、双方の間に相対的な回転が生じることを意味する。
【0013】
本発明の請求項3に係わるベルト式無段変速機では、第1カム部材が、可動フランジを往復動させるための圧力室を形成するピストンであると共に、第2カム部材が、回転軸を回転自在に且つ軸線方向に移動可能に保持するホルダであり、換言すれば、個々の機能を有するピストンおよびホルダにカムの機能を付加しているので、第1および第2のカム部材として専用の部材を用いる必要がなく、構造がコンパクトなものになる。
【0014】
本発明の請求項4に係わるベルト式無段変速機では、第1カム機構として、可動フランジおよび第1カム部材のいずれか一方に、回転軸の軸線方向に対して傾斜したカム溝を設けると共に、他方に、カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンを設けることとなり、可動フランジが一方向に移動すると、互いに係合するカム溝とカムピンとの相対的な移動により、回転軸に対して第1カム部材が一方向に回転する。つまり、軸線方向に傾斜したカム溝の長さと傾斜角度により、第1カム部材の回転量が決定される。
【0015】
また、第2カム機構として、第1カム部材および第2カム部材のいずれか一方に、回転軸の周方向に対して屈曲したカム溝を設けると共に、他方に、カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンを設けることとなり、第1カム部材が回転すると、互いに係合するカム溝とカムピンとの相対的な移動により、第2カム部材に対して第1カム部材が回転軸の軸線方向に往復動する。つまり、周方向に対して屈曲したカム溝の長さと屈曲角度により、第1カム部材の軸線方向の往復動範囲すなわちベルトの芯ずれを補正するためのプーリの移動範囲が決定される。
【0016】
本発明の請求項5に係わるベルト式無段変速機では、第1カム機構として、可動フランジおよび第1カム部材のいずれか一方に、回転軸の軸線方向に対して屈曲したカム溝を設けると共に、他方に、カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンを設けることとなり、可動フランジが一方向に移動すると、互いに係合するカム溝とカムピンとの相対的な移動により、回転軸に対して第1カム部材が往復回転する。つまり、軸線方向に対して屈曲したカム溝の長さと屈曲角度により、第1カム部材の往復の回転量が決定される。
【0017】
また、第2カム機構として、第1カム部材および第2カム部材のいずれか一方に、回転軸の周方向に対して傾斜したカム溝を設けると共に、他方に、カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンを設けることとなり、第1カム部材が往復回転すると、互いに係合するカム溝とカムピンとの相対的な移動により、第2カム部材に対して第1カム部材が回転軸の軸線方向に往復動する。つまり、周方向に対して傾斜したカム溝の長さと傾斜角度により、第1カム部材の往復動範囲すなわちベルトの芯ずれを補正するためのプーリの移動範囲が決定される。
【0018】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係わるベルト式無段変速機によれば、入力側および出力側の各回転軸に設けた可変幅のプーリをベルトで連結したベルト式無段変速機において、少なくとも一方の回転軸を軸線方向に移動可能に保持し、可動フランジの往復動に伴って回転するカム部材とともに回転軸およびプーリを軸線方向に移動させるカム機構を備えたことから、比較的簡単で且つコンパクトな構造であるうえに、変速時に両プーリ間で発生するベルトの芯ずれを確実に防止することができ、これによりベルトの偏摩耗や騒音などを防止することができると共に、ベルトの耐久性を良好に維持することができ、ひいては無段変速機の性能をより高めることができる。
【0019】
本発明の請求項2に係わるベルト式無段変速機によれば、請求項1と同様の効果を得ることができるうえに、第1および第2のカム部材と第1および第2のカム機構を採用したことにより、可動フランジを一方向に移動させる間にプーリ全体が軸線方向に往復動するので、とくに、変速時に増減するベルトの芯ずれ量にプーリの移動を一致させることができ、両プーリ間でのベルトの芯ずれをより確実に防止することができる。
【0020】
本発明の請求項3に係わるベルト式無段変速機によれば、請求項2と同様の効果を得ることができるうえに、第1カム部材と可動フランジ駆動用のピストンを同一部材で構成すると共に、第1カム部材と回転軸を保持するホルダを同一部材で構成することにより、部品点数やコストの削減、構造の簡略化ならびにコンパクト化を実現することができる。
【0021】
本発明の請求項4に係わるベルト式無段変速機によれば、請求項2および3と同様の効果を得ることができるうえに、第1カム機構として傾斜したカム溝とカムピンを採用すると共に、第2カム機構として屈曲したカム溝とカムピンを採用したことにより、きわめて簡単な構造でプーリを確実に軸線方向に移動させることができ、ベルトの調芯動作の信頼性を非常に高めることができる。
【0022】
本発明の請求項5に係わるベルト式無段変速機によれば、請求項2および3と同様の効果を得ることができるうえに、第1カム機構として屈曲したカム溝とカムピンを採用すると共に、第2カム機構として傾斜したカム溝とカムピンを採用したことにより、きわめて簡単な構造でプーリを確実に軸線方向に移動させることができ、ベルトの調芯動作の信頼性を非常に高めることができる。
【0023】
【実施例】
以下、図面に基づいて、本発明に係わるベルト式無段変速機の一実施例を説明する。
【0024】
図1(a)に概略を示すベルト式無段変速機は、自動車のエンジン側に連結する入力側回転軸S1と車軸側に連結する出力側回転軸S2とを平行に備えると共に、各回転軸S1,S2に、一体成形により軸線方向に不動である固定フランジ1,3と、軸線方向に往復動可能な可動フランジ2,4とから成る入力側および出力側のプーリP1,P2を備えており、両プーリP1,P2を動力伝達用のベルトBで連結した構成になっている。
【0025】
各プーリP1,P2は、固定フランジ1,3と可動フランジ2,4の相対向する滑動面1a〜4aがテーパ状を成しており、両フランジ間で外周側に向けて間隔が漸次増大するV型のベルト収容溝5,6を形成している。また、両プーリP1,P2は、固定フランジ1,3と可動フランジ2,4の配置を互いに逆向きとしている。
【0026】
そして、この実施例のベルト式無段変速機は、入力側回転軸S1を軸線方向に移動可能に保持すると共に、入力側の回転軸S1およびプーリP1に対して、可動フランジ2の往復動に伴って両プーリP1,P2間で発生するベルトBの芯ずれ量に対応した範囲で入力側の回転軸S1およびプーリP1を軸線方向に移動させるカム機構を備えている。
【0027】
図1(b)は、ベルト式無段変速機の入力側の構成を示す図である。入力側回転軸S1は、図1中右側の一端部寄りに固定フランジ1が一体成形してあると共に、同じく一端部にエンジン側とスプライン結合する連結部7が設けてあり、ベルトBの芯ずれを補正するために軸線方向に移動しても、連結部7のスプライン結合によってエンジン側との連結を確実に維持するようになっている。
【0028】
入力側回転軸S1は、当該変速機のケース8に、ベアリング9を介して一端部が回転自在に保持され、同じくケース8に、ベアリング10およびホルダ11を介して他端部が回転自在に保持されている。このとき、入力側回転軸S1は、一端部において、ケース8とベアリング9との間に軸線方向の摺動を可能にする軸受け12が介装してあると共に、他端部において、ホルダ11と当該回転軸S1との間に同じく軸線方向の摺動を可能にする軸受け13が介装してあり、これによりケース8に対して軸線方向に移動可能に保持されている。
【0029】
ホルダ11は、入力側回転軸S1との間に先の軸受け13を介装したボス部14と、入力側回転軸S1の一端側に向けて開放した椀状部15を有し、ボス部14と入力側回転軸S1の双方に対して軸線方向に嵌合したキー16により入力側回転軸S1と一体的に回転する。このホルダ11は、後に詳述するカム機構をも構成するものであって、とくに、入力側回転軸S1を保持するケース8に対して軸線方向に不動である第2カム部材に相当する。
【0030】
可動フランジ2は、反固定フランジ側に、入力側回転軸S1に装着するボス部17と、外周側でボス部17と同心状を成すシリンダ部18とを一体成形したものであって、入力側回転軸S1との間に介装した多数のボールキー19により、入力側回転軸S1と一体的に回転すると共に、入力側回転軸S1の軸線方向に移動自在になっている。
【0031】
また、入力側回転軸S1において、可動フランジ2とホルダ11との間には、ピストン20が設けてある。ピストン20は、入力側回転軸S1の中間に設けた段部21およびリング22により位置決めされて、同回転軸S1に対して軸線方向に不動であると共に、同回転軸S1に対して回転自在である。このピストン20は、その外周端に、可動フランジ2におけるシリンダ部18の内周面との間を気密的に閉塞するシールリング23が装着してあって、可動フランジ2との間で圧力室24を形成している。
【0032】
つまり、可動フランジ2は、図示しない流路を通して圧力室24に作動油を加圧供給することにより、固定フランジ1に対して前進する。ここで、出力側プーリP2は、入力側と同様の可動フランジ4の駆動手段を備えており、入力側と出力側の各プーリP1,P2は、互いの溝幅が反比例的に変化するようにそれぞれの可動フランジ2,4を作動させる。したがって、出力側プーリP2の可動フランジ4を固定フランジ3に対して前進させる際に、入力側において圧力室24への作動油の圧力を解放すれば、入力側プーリP1の中心側にスライドしようとするベルトBの働きによって入力側の可動フランジ2が固定フランジ1に対して後退する。
【0033】
なお、ピストン20の反圧力室側に別の圧力室を設け、油圧により可動フランジ2を後退させる構成にすることも当然あり得る。さらに、ピストン20は、先のホルダ11とともにカム機構をも構成するものであって、とくに、入力側回転軸S1に対して軸線方向に不動である第1カム部材に相当する。
【0034】
カム機構は、可動フランジ2と第1カム部材であるピストン20との間に、可動フランジ2の往復動に伴ってピストン20を回転させる第1カム機構C1を備えると共に、ピストン20と第2カム部材であるホルダ11との間に、ピストン20の回転に伴って同ピストン20を入力側回転軸S1の軸線方向に移動させる第2カム機構C2を備えている。
【0035】
第1カム機構C1は、図2(a)に示すように、入力側回転軸S1の軸線方向に対して傾斜した直線状のカム溝25と同カム溝25に沿って摺動自在に係合するカムピン26との組合わせであって、この実施例では、可動フランジ2のボス部17の外周にカム溝25を形成すると共に、ピストン20の内周にカムピン26を一体的に設けている。
【0036】
第2カム機構C2は、図2(b)に示すように、入力側回転軸S1の周方向に対して屈曲したカム溝27と同カム溝27に沿って摺動自在に係合するカムピン28との組合わせであって、この実施例では、ピストン20の外周にカム溝27を形成すると共に、ホルダ11の椀状部15の内周にカムピン28を一体的に設けている。
【0037】
これらのカム機構C1,C2は、入力側回転軸S1の軸線回りにおいて、等間隔の複数箇所に設けてある。また、ピストン20とホルダ11との間には、後記するベルトBの芯ずれ量に対応して軸線方向の隙間Sが形成してある。さらに、第2カム機構C2におけるカム溝27は、ベルトBの芯ずれ量に対応した屈曲幅Wを有するものとなっている。
【0038】
次に、上記構成を備えたベルト式無段変速機の動作を説明する。
【0039】
ベルト式無段変速機は、両プーリP1,P2およびベルトBを介して、入力側回転軸S1の回転を出力側回転軸S2に伝達し、この際、両プーリP1,P2の溝幅が互いに反比例的に変化するようにそれぞれの可動フランジ2,4を往復動させることにより、ベルトBをプーリP1,P2の半径方向にスライドさせて変速比を無段階的に変化させる。この際、ベルトBは、図1中の矢印A1,A2で示すように、入力側と出力側において、各固定フランジ1,3の滑動面1a,3aを基準にして同一方向にスライドし、各滑動面1a,3aの傾斜分だけ各回転軸S1,S2の軸線方向にも移動することとなる。
【0040】
ここで、この種のベルト式無段変速機では、個々の可動フランジ2,4の往復動によってベルトBの両端をスライドさせることから、各プーリP1,P2に対するベルトBの巻き掛け位置が互いに回転軸S1,S2の軸線方向にずれる芯ずれ(最大で0.8mm程度)が発生する。
【0041】
この芯ずれは、例えばLOW側からHIGH側に至る変速を行う過程、つまり入力側プーリP1の可動フランジ2を固定フランジ1に対して前進させ、ベルトBをプーリP1の中心側から外周側にスライドさせる過程において、図2に示すように、可動フランジ2の移動前は零であり、可動フランジ2の移動量とともに増大してほぼ中間で最大となり、その後減少して可動フランジ2の移動終了で零になる。
【0042】
このようなベルトBの芯ずれに対して、当該ベルト式無段変速機では、入力側プーリP1において、図1および図2中の矢印A3で示すように可動フランジ2を前進方向に駆動すると、第1カム機構C1を構成するカム溝25とカムピン26との相対的な移動により、ピストン20が図3中に示す矢印A4方向に回転する。このとき、第1カム機構C1では、カム溝25が直線状であるから、図4に示すように、可動フランジ2の移動に伴ってピストン20の回転角度が直線的に増大する。
【0043】
また、ピストン20が回転すると、第2カム機構C2を構成するカム溝27とカムピン28との相対的な移動により、ピストン20が図2中の矢印A5で示す方向に往動し、その後、矢印A6に示す反対方向に復動する。つまり、ピストン20との間で第2カム機構C2を構成するホルダ11がケース8に対して軸線方向に不動(図2においてカムピン28が不動)であるから、ピストン20が回転とともに軸線方向に往復動する。
【0044】
このとき、当該ベルト式無段変速機では、ピストン20がカム溝27の屈曲幅WすなわちベルトBの芯ずれ量に対応した範囲で往復動し、また、ピストン20が入力側回転軸S1に対して軸線方向に不動であると共に、入力側回転軸S1が軸受け12,13により軸線方向に移動可能であるから、図1中の矢印A5,A6および図5に示すように、ピストン20の回転とともに入力側回転軸S1およびプーリP1が全体的にベルトBの芯ずれ量に対応した範囲で往復動する。
【0045】
つまり、入力側プーリP1の可動フランジ2が固定フランジ1に対して前進すると、図6に示すように入力側プーリP1が往復動することになり、このときの入力側プーリP1の移動量の増減が図3に示すベルトBの芯ずれ量の増減に対応したものとなるので、結果として変速時に両プーリP1,P2間で発生するベルトBの芯ずれが補正される。これにより、ベルトBの偏摩耗や騒音も防止され、ベルトBの耐久性が良好に維持されることとなる。なお、入力側プーリ1が後退する際にも同様の補正が行われる。
【0046】
図7は、本発明に係わるベルト式無段変速機の他の実施例を説明する図であって、この実施例では、第1および第2のカム機構C1,C2を構成するカム溝35,37が先の実施例と異なるものになっている。
【0047】
第1カム機構C1は、図7(a)に示すように、入力側回転軸S1の軸線方向に対して屈曲したカム溝35と同カム溝35に沿って摺動自在に係合するカムピン26との組合わせであって、可動フランジ2にカム溝35を形成すると共に、ピストン(第1カム部材)20にカムピン26を設けている。
【0048】
第2カム機構C2は、図7(b)に示すように、入力側回転軸S1の周方向に対して傾斜した直線状のカム溝37と同カム溝37に沿って摺動自在に係合するカムピン28との組合わせであって、ピストン20にカム溝37を形成すると共に、ホルダ(第2カム部材)11にカムピン28を設けている。
【0049】
また、この実施例では、ピストン20に形成したカム溝37において、入力側回転軸S1の軸線方向に対するカムピン37との相対的移動範囲LがベルトBの芯ずれ量に対応したものとなっている。
【0050】
上記構成を備えたベルト式無段変速機では、入力側プーリP1の可動フランジ2が固定フランジ1に対して前進すると、第1カム機構C1のカム溝35とカムピン26が相対的に移動し、このときカム溝35が屈曲状であるから、ピストン20が図7中の矢印A7で示す方向に回転し、その後図7中の矢印A8で示す反対方向に逆回転する。この場合、可動フランジ2の移動量に対応するピストン20の回転角度は、図4中の破線で示すように増減する。
【0051】
また、ピストン20が矢印A7方向に回転すると、第2カム機構C2のカム溝37とカムピン28との相対的な移動により、同ピストン20が図7中の矢印A9で示す方向に往動し、その後、ピストン20が矢印A8方向に逆回転すると、同ピストン20が図7中の矢印A10で示す方向に復動する。つまり、可動フランジ2が前進する過程において、入力側プーリP1が図1中の矢印A9,A10で示すように往復動する。そして、入力側プーリP1の往復動範囲は、カム溝37におけるカムピン28との相対的移動範囲LすなわちベルトBの芯ずれ量に対応するものとなるから、変速時に両プーリP1,P2間で発生するベルトBの芯ずれが補正される。
【0052】
なお、本発明に係わるベルト式無段変速機では、ピストンと別の第1カム部材を採用し、ホルダと別の第2カム部材を採用することも可能であるが、上記各実施例のように、ピストンと第1カム部材を兼用し、ホルダと第2カム部材を兼用した構成とすれば、その分部品点数が少なくなり、構造も簡単でコンパクトなものになる。また、上記各実施例では、可動フランジおよびピストンにカム溝を設け、ピストンおよびホルダにカムピンを設けた構成としたが、カム溝とピストンを設ける部位を逆の関係にすることも当然可能である。
【0053】
さらに、カム機構においては、ベルトの芯ずれ量や方向に応じて、カム溝の長さ、傾斜角度や傾斜方向、および屈曲角度や屈曲方向を適宜選択することで、ピストンの回転範囲や往復動範囲すなわちプーリの往復動範囲および駆動方向を設定することができる。
【0054】
さらに、カム溝は、直線形状や直線を組合わせた屈曲形状に限定されることはなく、芯ずれ量の増減の度合い等に応じて、全体を曲線としたもの、曲線と直線を組合わせたもの、部分的に傾斜角度や屈曲角度が異なるものなどにすることができる。例えば、可動フランジのカム溝を湾曲状にした場合には、図8に示すようにピストンの回転角度の変化がカム溝の湾曲形状に対応したものとなり、図9に示すようにピストンの回転角度の変化に対応したプーリの往復動が行われ、図10に示すように可動フランジの前進過程においてプーリが往復動する。この場合においても、プーリの移動量の増減は図3に示すベルトの芯ずれ量の増減に対応したものとなる、つまり、変速時に両プーリ間で発生するベルトの芯ずれが補正される。
【0055】
さらに、上記各実施例では、入力側の回転軸およびプーリに対して、回転軸およびプーリを軸線方向に移動させるカム機構を備えたものとしたが、このカム機構を出力側の回転軸およびプーリに対して設けたり、入力側および出力側の両方に対して設けたりすることができ、両方に対して設けた場合には、両プーリの往復動範囲の合計がベルトの芯ずれ量に対応するようにし、芯ずれを打ち消す方向に両プーリを往復動させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わるベルト式無段変速機の一実施例を説明する図であって、無段変速機を概略的に示す断面図(a)、および入力側の断面図(b)である。
【図2】可動フランジと第1カム機構を説明する側面図(a)、およびピストンと第2カム機構を説明する側面図(b)である。
【図3】可動フランジの移動量とベルトの芯ずれ量との関係を示すグラフである。
【図4】可動フランジの移動量とピストンの回転角度との関係を示すグラフである。
【図5】図4に続いてプーリの補正移動量とピストンの回転角度との関係を示すグラフである。
【図6】図5に続いて可動フランジの移動量とプーリの補正移動量との関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係わるベルト式無段変速機の他の実施例における可動フランジと第1カム機構を説明する側面図(a)、およびピストンと第2カム機構を説明する側面図(b)である。
【図8】本発明に係わるベルト式無段変速機のさらに他の実施例において、可動フランジの移動量とピストンの回転角度との関係を示すグラフである。
【図9】図8に続いてプーリの補正移動量とピストンの回転角度との関係を示すグラフである。
【図10】図9に続いて可動フランジの移動量とプーリの補正移動量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
B ベルト
C1 第1カム機構
C2 第2カム機構
P1 入力側プーリ
P2 出力側プーリ
S1 入力側回転軸
S2 出力側回転軸
1 3 固定フランジ
2 4 可動フランジ
8 ケース
11 ホルダ(第2カム部材)
20 ピストン(第1カム部材)
25 35 第1カム機構のカム溝
26 第1カム機構のカムピン
27 37 第2カム機構のカム溝
28 第2カム機構のカムピン
Claims (5)
- 平行に配した入力側および出力側の回転軸に、軸線方向に不動である固定フランジと軸線方向に往復動可能な可動フランジとから成る入力側および出力側のプーリを備えると共に、両プーリをベルトで連結したベルト式無段変速機において、少なくとも一方の回転軸を軸線方向に移動可能に保持すると共に、その回転軸およびプーリに対して、可動フランジの往復動に伴って両プーリ間で発生するベルトの芯ずれ量に対応した範囲で回転軸およびプーリを軸線方向に移動させるカム機構を備え、カム機構が、回転軸に対して軸線方向に不動であり且つ回転軸に対して軸線回りに回転自在であるカム部材を備え、可動フランジの往復動に伴ってカム部材を回転させるとともにカム部材および回転軸を軸線方向に移動させる機構であることを特徴とするベルト式無段変速機。
- 回転軸に対して軸線方向に不動であり且つ回転軸に対して軸線回りに回転自在である第1カム部材と、回転軸を保持するケースに対して回転軸の軸線方向に不動である第2カム部材を備え、可動フランジと第1カム部材との間に、可動フランジの往復動に伴って第1カム部材を回転させる第1カム機構を備えると共に、第1カム部材と第2カム部材との間に、第1カム部材の回転に伴って同第1カム部材および回転軸を軸線方向に移動させる第2カム機構を備えたことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
- 第1カム部材が、可動フランジを往復動させるための圧力室を形成するピストンであると共に、第2カム部材が、回転軸を回転自在に且つ軸線方向に移動可能に保持するホルダであることを特徴とする請求項2に記載のベルト式無段変速機。
- 第1カム機構が、回転軸の軸線方向に対して傾斜したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせであると共に、第2カム機構が、回転軸の周方向に対して屈曲したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせであることを特徴とする請求項2または3に記載のベルト式無段変速機。
- 第1カム機構が、回転軸の軸線方向に対して屈曲したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせであると共に、第2カム機構が、回転軸の周方向に対して傾斜したカム溝と同カム溝に沿って摺動自在に係合するカムピンとの組合わせであることを特徴とする請求項2または3に記載のベルト式無段変速機。
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