JP3699990B2 - シリコン化合物超電導物質とその超電導体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、シリコン化合物超電導物質とその超電導体に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、高性能デバイスを作製するための新素材として有望な、シリコン化合物超電導物質とこれを含む超電導体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータ技術を支えている演算論理回路素子、記憶素子、光電変換素子等の半導体素子や光通信技術を担っているレーザー素子は、一般に、シリコン、ゲルマニウムやガリウム砒素等の化合物半導体を利用して作製されている。これらの素子の性能は、主として微細化技術により進展してきたが、エレクトロニクス分野のさらなる発展には、上記半導体と相性がよく、しかもこれまでの電子材料素材とは大きく異なる物性を示す新素材の開発が、材料側に課せられる課題となっている。そのブレークスルーの一つとして、超電導特性を示すシリコン化合物が考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
シリコン化合物からなる超電導体には、従来、遷移金属を含む化合物が知られており、その多くは、臨界温度が2K程度以下であった。また、臨界温度がこれより高い、アルカリ土類金属を含むシリコン化合物もこれまでに幾つかは報告されているが、その作製は非常に複雑な工程を要し、現在の半導体素子の作製工程と相容れない。
【0004】
高性能デバイスを作製するための新素材としては、シリコンと相性がよいとともに、臨界温度が3K以上であり、しかも比較的簡単に作製することのできる超電導物質又はこれを含有する超電導体が望まれる。
【0005】
この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、高性能デバイスを作製するための新素材として有望な、シリコン化合物超電導物質とこれを含む超電導体を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、組成式がSr(Ga0.37Si0.63)2で示され、Ga原子とSi原子からなるハニカム格子とSr原子の六方格子とからなる結晶構造を有することを特徴とするシリコン化合物超電導物質(請求項1)を提供する。
【0007】
またこの出願の発明は、組成式がBa1.03(Ga0.39Si0.61)2で示され、Ga原子とSi原子からなるハニカム格子とBa原子の六方格子とからなる結晶構造を有することを特徴とするシリコン化合物超電導物質(請求項2)を提供する。
【0008】
以下、実施例を示しつつ、この出願の発明のシリコン化合物超電導物質とその超電導体についてさらに詳しく説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
この出願の発明のシリコン化合物超電導物質は、前記の通り、組成式が、Ax(B1-yCy)2(0.8<x<1.2、0<y<1、A=Ca、Sr、Ba、又はこれら元素の2種以上、B=Al、Ga、又はこれら元素の2種、C=Si)で示され、原子Bと原子Cからなるハニカム格子と原子Aの六方格子とからなる結晶構造を有し、臨界温度が3K以上である。
【0010】
前記組成式において、原子Aは周期律表の2族元素、原子Bは13族元素に属している。同族元素では、周期律表の第4周期にある元素を第3周期若しくは第5周期に置換しても、得られる化合物の結晶構造はほぼ保たれることが期待される。電子構造は、価電子数と結晶構造に大きく影響されるが、価電子数が同じで(つまり、同族元素で置換した場合には価電子数は変わらない)、結晶構造が同じ場合、電子構造はほとんど同一となり、したがって、得られる化合物の超電導特性はほぼ同一であると期待される。たとえば、原子AをSr1-zCaz(z<<1)の2種元素の混合物としても、電子構造に大きな変化はないと考えられ、各元素が1種のときと同様の超電導特性が得られると期待される。
【0011】
この出願の発明のシリコン化合物超電導物質は、金属であり、アーク溶解法等により作製することができる。たとえば、原子A、原子B、及び原子Cをx:2(1-y):2yのモル比に配合し、アルゴン雰囲気下でアーク溶解することにより、単相又は混合物として作製される。混合物として作製される場合には、前記所定組成を有する相のみをたとえば浮遊帯域溶融法を適用するなどして取り出し、使用することができる。また、混合物は、前記超電導物質を含有する超電導体としてそのまま使用することも可能である。
【0012】
この出願の発明のシリコン化合物超電導物質とその超電導体は、このように、アーク溶解法のような比較的簡単な方法により作製可能であるため、たとえば分子線エピタキシー法を適用し、薄膜の作製が有望視される。素子化の可能性が示唆される。
【0013】
この出願の発明のシリコン化合物超電導物質の結晶構造は、図1に示したように、原子Bと原子Cからなるハニカム格子と原子Aの六方格子とからなる。この結晶構造は、粉末X線回折及び電子顕微鏡観察により確認される。
【0014】
このように、この出願の発明のシリコン化合物超電導物質とその超電導体は、構成元素にシリコンを有することから、前述の半導体素子やレーザー素子に利用されている化合物半導体との相性がよいと考えられる。しかも比較的簡単な方法により作製可能であり、臨界温度が3K以上であることから、この出願の発明のシリコン化合物超電導物質とその超電導体は、エレクトロニクス分野のさらなる発展を担う高性能デバイスに有望な新素材となり得ると期待される。
【0015】
【実施例】
(実施例1)
モル比1:1のSrSi2とGaをアルゴン雰囲気下でアーク溶解した。得られた化合物は、組成式Sr8Ga10Si36で示される化合物と組成式Sr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物の混合物であった。次いで、アルゴン雰囲気下で浮遊帯域溶融法を適用し、上記混合物からSr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物のみを取り出した。このSr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物の粉末X線回折パターン、高分解能電子顕微鏡像は、図2、図3にそれぞれ示した通りであった。これらの粉末X線回折パターン及び高分解能電子顕微鏡像より、得られたSr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物は、Ga原子とSi原子からなるハニカム格子とSr原子の六方格子とからなる図1に示したような結晶構造を有することが確認された。
【0016】
また、このSr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物は金属であり、図4に示した臨界温度の測定結果から臨界温度3.5Kの超電導物質であることも確認された。
(実施例2)
モル比4:3:5のSr、Ga、及びSiをアルゴン雰囲気下でアーク溶解した。得られた化合物は、光学顕微鏡観察及び粉末X線回折からほぼ単相であることが確認された。粉末X線回折パターンは図5に示した通りである。単相部分の組成は、Srが31.4at%、Gaが25.6at%、Siが43.0at%であり、実施例1の化合物の組成式Sr(Ga0.37Si0.63)2にほぼ一致していた。この単相部分の化合物の結晶構造は、実施例1の化合物の結晶構造と同様に、Ga原子とSi原子からなるハニカム格子とSr原子の六方格子とからなることがX線回折から確認された。
(実施例3)
モル比4:3:5のBa、Ga、及びSiをアルゴン雰囲気下でアーク溶解した。得られた化合物は、X線回折及び光学顕微鏡観察からほぼ単相であることが確認された。単相部分の組成は、Baが34.0at%、Gaが25.5at%、Siが40.5at%であり、組成式はBa1.03(Ga0.39Si0.61)2と示される。この単相部分の化合物の結晶構造は、実施例1の化合物の結晶構造と同様に、Ga原子とSi原子からなるハニカム格子とBa原子の六方格子とからなることがX線回折から確認された。また、得られた化合物は、金属であり、臨界温度4.2Kを示した。
【0017】
この出願の発明は、以上の実施例によって限定されることはない。具体的な組成及び組成比、また、作製方法及び作製条件等の細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0018】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、金属素材であり、半導体素子やレーザー素子と相性がよく、作製が比較的容易で、臨界温度3K以上のシリコン化合物超電導物質とこれを含む超電導体が提供される。高性能デバイスを作製するための新素材として有望視される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この出願の発明のシリコン化合物超電導物質の結晶構造の概要を示した模式図である。
【図2】 実施例1で得られたSr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物の粉末X線回折パターンである。
【図3】 実施例1で得られたSr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物の図面に代る高分解能電子顕微鏡像である。図中(a)が[110]方向からの高分解能電子顕微鏡像であり、(b)は[001]方向からの高分解能電子顕微鏡像である。
【図4】 実施例1で得られたSr(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物の臨界温度測定の結果を示した相関図である。
【図5】 実施例2で得られたSr0.92(Ga0.37Si0.63)2で示される化合物の粉末X線回折パターンである。
Claims (2)
- 組成式がSr(Ga0.37Si0.63)2で示され、Ga原子とSi原子からなるハニカム格子とSr原子の六方格子とからなる結晶構造を有することを特徴とするシリコン化合物超電導物質。
- 組成式がBa1.03(Ga0.39Si0.61)2で示され、Ga原子とSi原子からなるハニカム格子とBa原子の六方格子とからなる結晶構造を有することを特徴とするシリコン化合物超電導物質。
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