JP3696118B2 - ノイズ可視化システムにおける電波暗箱 - Google Patents

ノイズ可視化システムにおける電波暗箱 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子部品や電子回路から放射されるノイズの可視化を行うノイズ可視化システムにおける電波暗箱に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、電子機器等の製品の内部にはプリント回路基板が配置されているが、製品の本体や製品内の他の基板等との容量結合、電磁結合又は外来電磁波等の外部からの妨害によって、プリント回路基板上の回路が誤動作する場合がある。 自動車のエンジン制御ユニットに用いられるようなプリント回路基板等において、このような回路の誤動作の発生は回避しなければならない。
【0003】
したがって、重要な機能を担っているプリント回路基板等では、事前に外部からの妨害によって誤動作が発生しないように確認する必要があり、回路が誤動作する可能性が見出された場合には、この誤動作が発生しないように設計変更等を行う必要がある。プリント回路基板等がこのような外部からの妨害によって性能劣化することなく、これらに耐えることができる能力のことはイミュニティ、又はEMS(Electromagnetic Susceptibility)と呼ばれ、最近このような耐性を測定するためのイミュニティ試験が行われるようになってきている。
【0004】
ここで、イミュニティ試験の1つの方法であるTEMセル法を図1を用いて説明する。
図1にはTEMセル法による試験装置10が図示されている。図1において、12は金属製の筐体からなる固定シールド、13は入力、14は終端抵抗、15はドア(ドアの図示は省略し、開口部のみが示されている)、16はソケットパネル、17は絶縁体、18はプリント回路基板等の試験対象物、19はソケットパネル16と試験対象物18を接続するワイヤ・ハーネスである。所定の入力装置(図示せず)から試験装置10の入力13に電力が供給されることによって、シールド12内に所定の電界が生じるように構成されている。
【0005】
試験対象物18はドア15を通して内部の絶縁体17上に設置され、ドア15を閉じてもワイヤ・ハーネス19とソケットパネル16を通じて外部の図示しない測定装置に接続されるように構成されている。ソケットパネル16を経由して試験対象物18へは、試験対象物18を動作させるための電力が供給され、また試験対象物18が通常動作する場合の入力信号を送ることができ、さらに試験対象物18からの出力信号を検出できるように構成されている。
【0006】
TEMセル法では、試験対象物18をシールド12内で動作させながら、シールド12内に種々の電界を発生させ、この電界に試験対象物18及びワイヤ・ハーネス19が晒されるようにしている。そして、TEMセル法では、このような外部からの妨害が存在する状況で、試験対象物18の動作状態を外部の測定装置により観察して、試験対象物18の耐性を測定している。
【0007】
しかしながら、TEMセル法では、試験対象物18が誤動作をした場合に、設計者が誤動作内容を知る手段としては、外部の測定装置に入力される誤動作信号の情報しかなく、試験対象物18のどの部分が原因で誤動作をしているのかを特定することが難しかった。
一方、イミュニティ試験の別の方法として、アンテナ照射法がある。図2を用いてアンテナ照射法について説明する。
【0008】
図2に示すように、電波暗室20内にはアンテナ21と試験対象物22が配置されている。23は電波吸収材料からなる突起であり、電波暗室20内の床を除いた全ての面に隙間無く配置されている。また、24は試験対象物22の設置台である。アンテナ21は図示しない所定の設置台に固定されており、所定の入力装置(図示せず)によって電磁放射を行うように構成されている。また、試験対象物22は電波暗室20の外部にある測定装置(図示せず)とワイヤ・ハーネス25で接続されており、このワイヤ・ハーネス25を通じて、試験対象物22を動作させるための電力の供給、試験対象物22の通常動作用の入力信号の供給、及び、試験対象物22からの出力信号の検出を行うことができる。
【0009】
アンテナ照射法では、アンテナ21から種々の電磁放射を行い、電磁放射に試験対象物22及びワイヤ・ハーネス25が晒される。そして、このような外部からの妨害が存在する状況で、試験対象物22の動作状態を観察して、試験対象物22の耐性を測定している。
ところが、このアンテナ照射法でも、汎用の電波暗室20を用いて測定を行うことから、TEMセル法と同様に、試験対象物22が誤動作をした場合に、試験対象物22のどの部分が原因で誤動作をしているのかを特定することが難しかった。
【0010】
そこで、本発明者らはこれらの従来技術における不具合を克服し、試験対象物のどの部分が外部からの妨害に対して弱いのかを容易に特定することができるイミュニティ試験を模擬したノイズ可視化システム及び方法を既に提案した。本発明者らが提案したノイズ可視化システムは、TEMセル法やアンテナ照射法のように試験対象物全体を所定の環境下に置かず、試験対象物に直接高周波ノイズを注入することにより、試験対象物の誤動作周波数を外部に設けた測定装置で確認しながら、注入されたノイズが試験対象物のどの部分から多く発生しているかをこの測定装置で可視化するシステムである。
【0011】
図3は、このノイズ注入法によるイミュニティ試験を模擬したノイズの可視化システム30である。31は制御用パーソナルコンピュータ、32は信号発生器、33は信号増幅器、34はスペクトラム・アナライザであり、信号発生器32、信号増幅器33及びスペクトラム・アナライザ34は、バス35を介して制御用パーソナルコンピュータ31によって制御されている。
【0012】
41はノイズ可視化用パーソナルコンピュータ、42はスペクトラム・アナライザ、43は複数の微小アンテナ素子を備えたアンテナである。アンテナ43はバス45によってノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41に接続されると共に、通信ケーブル48によりスペクトラム・アナライザ42と接続されている。アンテナ43はバス45を通じてアンテナの切換制御等が行われ、その出力は通信ケーブル48によりスペクトラム・アナライザ42に入力される。また、スペクトラム・アナライザ42は、バス44を介してノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41によって制御される。
【0013】
アンテナ43の上には、ノイズ可視化測定の試験対象物であるプリント回路基板38が置かれており、プリント回路基板38のインタフェース39には少なくとも特定の信号ラインと接続されたワイヤ・ハーネス40が接続されている。
プリント回路基板38とそのインタフェース39を介して接続されたワイヤ・ハーネス40には、モニタ・プローブ36及びインジェクション・プローブ37が接続されている。さらに、モニタ・プローブ36とスペクトラム・アナライザ34、及びインジェクション・プローブ37と信号増幅器33はそれぞれ通信線46,47で接続されている。
【0014】
なお、制御用パーソナルコンピュータ31、信号発生器32、信号増幅器33及びスペクトラム・アナライザ34、またノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41及びスペクトラム・アナライザ42から構成される測定設備Mと、プローブ36,37、プリント回路基板38、ワイヤ・ハーネス40及びアンテナ43から構成される試験設備Tとは、測定の信頼性向上のために、互いに隔離された場所に配置する。そして、試験設備Tはインジェクション・ブローブ37やプリント回路基板38からの放射電波が他の測定設備に影響を与えないように、金属や金網で覆われたシールドルームや固定シールド箱の中に設置されている。
【0015】
図4は、アンテナ43上に設置されたプリント回路基板38を上方から見た図であり、プリント回路基板38はアンテナ43のスキャンエリアS上に配置されている。スキャンエリアSには、複数の微小アンテナ素子がマトリクス状に配置されて設けられており、それぞれがプリント回路基板38から放射される高周波ノイズを検出できるように構成されている。バス45と通信ケーブル48はまとめて1本の線でアンテナ43に接続されている。
【0016】
ノイズの可視化システム30では、まず、信号発生器32によって発生された高周波信号(20〜1000MHz)が信号増幅器33によって増幅され、インジェクション・プローブ37に印加され、電磁誘導により、印加された高周波信号に応じた高周波ノイズがハーネス40に重畳される。重畳された高周波ノイズは、ワイヤ・ハーネス40、及びインタフェース39を介してプリント回路基板38内に注入される。ワイヤ・ハーネス40に重畳された高周波ノイズはモニタ・プローブ36によって検出され、スペクトラム・アナライザ34を介して制御用パーソナルコンピュータ31で確認される。
【0017】
プリント回路基板38内に高周波ノイズが注入されると、所定の回路パターン、電子部品等を介して高周波ノイズが外部へ放射され、この外部へ放射された高周波ノイズが、アンテナ43の微小アンテナ素子によって検出される。検出された高周波ノイズは、検出信号としてスペクトラム・アナライザ42及びバス44を介してノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41へ送られる。ノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41では、受取った検出信号に所定の処理を施すことによって、そのモニタ(図示せず)上、又はこれに接続されたプリンタによる印刷によって、プリトント基板38からのノイズ(外来電磁波の汚染経路)が可視化される。
【0018】
この場合、1回のノイズ可視化測定では1つの高周波ノイズしか注入することができないので、ノイズ可視化測定は複数種類の高周波ノイズを注入するようにして行われる。
図5は、可視化用アンテナ43からの検出信号のうちプリント回路基板38の近傍のものを、ノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41が画像処理してモニタ上に得られた可視化サンプルである。図5では、可視化用アンテナ43の微小アンテナ素子の位置に対応つけて、検出した高周波ノイズの強度を3段階で表している。図3のノイズ可視化システム30では、このようなノイズ可視化測定を行うことができる。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らが提案したノイズ可視化システム及び方法では、前述のように、測定設備Mと試験設備Tとを互いに隔離しなければならず、試験設備Tは外部への電波漏洩を防止する目的で金属や金網で覆われたシールドルームや大型の固定シールド箱の中に設置しなければならず、試験場所が限られてその自由度がないという問題点があった。
【0020】
そこで、本発明は本発明者らが提案したノイズ可視化システム及び方法における電波漏洩の防止が不可欠な試験設備を小型化し、移動可能とすることで、被測定対象物の試験場所の自由度を向上させることができるノイズ可視化システムにおける電波暗箱を提供することを目的としている。
【0021】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成する本発明のノイズ可視化システムにおける電波暗箱は、試験対象物の近傍に配置したアンテナによってこの対象物から発生するノイズを検出し、制御装置によりノイズ分布を可視化するシステムに使用する電波暗箱であって、試験対象物とアンテナとを収容する第1の部屋と、試験対象物に接続される信号ラインを収容する第2の部屋、及び第1と第2の部屋の間の電波の往来を遮断する仕切壁とを備えた電波暗箱の本体、及び本体の上部に設けられ、第1と第2の部屋の上部からの電波の洩れを防止する上蓋とを備えることを基本構成としている。
【0022】
そして、本発明のノイズ可視化システムにおける電波暗箱はこの基本構成に対して、以下のような応用形態をとることができる。
(1) 第2の部屋内に、信号ラインに高周波信号を印加するための第1のプローブと、信号ラインの高周波信号を検出するための第2のプローブとを収容した形態。
(2) 電波暗箱の内面及び仕切壁の両面に、電波吸収体を貼付した形態。
(3) 仕切壁に、信号ラインを通過させるための貫通孔を設け、この貫通孔は仕切壁内を摺動する摺動片を移動させることにより、孔径が変更できるように構成した形態。
(4) 第2のプローブが第2の部屋内で、信号入力ラインに沿って移動できるように構成した形態。
(5) 信号ラインの電波暗箱からの引出し部にフィルタボックスを設け、このフィルタボックスには、電波暗箱の内側に位置して各ラインに接続する第1の端子郡と、電波暗箱の外側に位置して外部モニタに接続する第2の端子郡と、対応する第1の端子郡と第2の端子郡の各端子の間にそれぞれ位置させたフィルタ回路とを設けた形態。
(6) フィルタボックスの第1の端子郡の設置面と第2の端子郡の設置面に、それぞれ複数個の予備端子を設けた形態。
(7) 上蓋を電波暗箱の長手方向に取り付けた蝶番によって電波暗箱を開閉するように構成すると共に、上蓋の短手方向の両側に、上蓋の開閉力を緩和する開閉補助機構を取り付けた形態。
(8) 上蓋の第1の部屋に対応する上面に、特定の周波数の電波を遮断し、かつ、第1の部屋の内部を見通せる監視窓を設けた形態。
(9) 電波暗箱の下部に、この電波暗箱を用いた測定に使用する測定器の置き台を設けると共に、電波暗箱の高さを測定作業者の作業がし易い位置まで嵩上げする載置台を設けた形態。
(10) 電波暗箱の下部または載置台の下部に、この電波暗箱を移動可能にする移動機構を設けた形態。
(11) 移動機構を複数個のキャスタとした形態。
【0023】
本発明のノイズ可視化システムにおける電波暗箱によれば、試験設備の小スペース化が図れ、従来のシールドルームのみでなく、場所を選ばずにイミュニティやエミッション等の測定が可能となる。また、コスト的にも安価にノイズ可視化システムを構築することができると共に、高周波ノイズの注入部位、ワイヤ・ハーネス、暗箱形状による固有振動数等で発生する定在波の影響を極力抑えた測定が可能である。更に、ワイヤ・ハーネスの電波暗箱からの取り出し部に設けたフィルタにより、外部モニタの誤動作が防止できる。更に、上蓋に観測窓を形成しておけば、試験対象物に設けられたディスプレイ装置の誤動作を外部から容易に監視することができる。更にまた、電波暗箱の下部に載置台を追加することにより電波暗箱を作業者の測定作業がし易い位置に嵩上げすることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、図3の可視化システム30の構成部品で本発明の電波暗箱に内蔵されたり、接続されたりする部材には、同じ符号を付して説明する。
【0025】
図6は本発明のノイズ可視化システムにおける電波暗箱5の一実施例の全体構成を示すものであり、(a) は上蓋60を閉じた状態で電波暗箱5を背面側から見たものであり、(b) は上蓋60を開いた状態で電波暗箱5を正面側から見たものである。この実施例の電波暗箱5は、電波暗箱本体50と、この電波暗箱本体50の上部を開閉する上蓋60、及び上蓋60を伴った電波暗箱本体50の移動機構70とから構成される。
【0026】
まず、電波暗箱本体50の構成について説明する。電波暗箱本体50は、図3で説明した試験対象物38とアンテナ43とを収容する第1の部屋51と、第1のプローブであるインジェクション・プローブ37と第2のプローブであるモニタ・プローブ36とを収容する第2の部屋52、及び第1と第2の部屋51,52を区画する仕切壁53を備えている。この実施例では第1の部屋51の長さよりも第2の部屋52の長さの方が長く形成されている。仕切壁53には後述するワイヤ・ハーネスを挿通するための貫通孔54がある。また、第2の部屋52の仕切壁53に対向する壁にはワイヤ・ハーネスを外部に引き出すための引出し孔56がある。更に、電波暗箱本体50には、第2の部屋52の側面に前述のプローブが接続するコネクタ58があり、第1の部屋51の側面にワイヤ・ハーネスを引き出すための取り出し孔59がある。
【0027】
電波暗箱本体50の上部に設けられて第1の部屋51と第2の部屋52の上部を開閉する上蓋60は、電波暗箱本体50の長手方向の一辺に図示しない蝶番を介して取り付けられている。上蓋60は平板状ではなく凹部を備えているので、閉じた時に本体側の仕切壁53に密着して第1の部屋51と第2の部屋52の間の電波の漏洩を防止するための仕切壁63が設けられている。また、上蓋60の正面側には上蓋60の開閉を容易に行わせるための把手61が設けられている。上蓋60はかなりの重量があるので、複数の人で上蓋60が開閉できるように、把手61は上蓋60の長手方向に長く形成されている。また、上蓋60の開閉を少ない力で行うことができるように、電波暗箱本体50と上蓋60の両側には開閉補助装置として油圧式のダンパ7が取り付けられている。このダンパ7は、電波暗箱本体50の側面に取り付けられたブラケット57と上蓋60の側面に取り付けられたブラケット67の間に掛け渡されている。このダンパ7により、上蓋60が急に閉じず、また、上蓋60がロック状態かアンロック状態かを外部から確認することができる。
【0028】
そして、電波暗箱本体50と上蓋の内側、及び、仕切壁53,63の両面には、外部への電波の漏洩を防止するために、全面に渡って電波吸収体6が貼付されている。この電波吸収体6は、この実施例では、板厚が6mm程度のフェライトタイルが使用されている。
一方、電波暗箱5の下部には、この電波暗箱5を移動可能にする移動機構70が設けられている。この実施例の移動機構70は、電波暗箱本体50の底面に取り付けられた台枠71と、この台枠71に取り付けられた6個のキャスタ72とから構成される。キャスタ72は360度回転できる双輪タイプのものであり、ストッパ機構が付いているものである。なお、キャスタ72の個数は6個に限定されるものではない。
【0029】
更に、電波暗箱本体50のワイヤ・ハーネスの引出孔56には、ワイヤ・ハーネスに重畳されたノイズで外部の測定機器が誤動作しないように、フィルタボックス80がその取付フランジ83を介して取り付けられる。フィルタボックス80にはその端子部82に複数個の端子があるが、フィルタボックス80の内部構成については後述する。
【0030】
図7(a) は図6(b) に示した電波暗箱本体50内に、図3で説明した試験設備Tを配置して測定設備Mに接続した状態を示すものである。第1の部屋51には、ノイズ可視用アンテナ43が設置されており、このアンテナ43の上に微小アンテナ素子によるスキャンエリアSが形成されている。そして、このスキャンエリアSの上に試験対象物であるプリント回路基板38が載置されている。プリント回路基板38の上の回路はインタフェース39を介してワイヤ・ハーネス40Aに接続され、このワイヤ・ハーネス40Aは仕切壁53の貫通孔54を通って第2の部屋52内に導かれる。このワイヤ・ハーネス40Aの他端は電波暗箱本体50の端部に取り付けられたフィルタボックス80に接続しており、このフィルタボックス80を経由して外部のワイヤ・ハーネス40に接続されている。
【0031】
第2の部屋52内のワイヤ・ハーネス40Aに重畳された高周波ノイズを検出するモニタ・プローブ36は仕切壁53の近傍に固定されており、その検出出力は第2の部屋52内にある通信線46A、コネクタ58、及び電波暗箱本体50の外部でこのコネクタ58に接続する通信線46を通じてスペクトラム・アナライザ34に入力される。一方、第2の部屋52内のワイヤ・ハーネス40Aに高周波ノイズを注入するインジェクション・プローブ37は、第2の部屋52内を、ワイヤ・ハーネス40Aに沿って移動できるようになっている。
【0032】
図7(b) はこのインジェクション・プローブ37の移動方法の一例を示すものである。この例では、インジェクション・プローブ37は車輪9Aの付いた移動台9の上に固定されており、移動台9は第2の部屋52の底面に敷設したレール8の上を移動できるようになっている。移動台9の移動の際は、インジェクション・プローブ37とワイヤ・ハーネス40Aとの係合は解除される。インジェクション・プローブ37には、信号増幅器33からの高周波ノイズが、通信線47、コネクタ58、及び、第2の部屋52内にある通信線47Aを通じて供給され、この高周波ノイズがインジェクション・プローブ37からワイヤ・ハーネス40Aに注入される。
【0033】
このように、インジェクション・プローブ37の位置を第2の部屋52内で変更するのは、ワイヤ・ハーネス40Aに注入する高周波ノイズの周波数によってモニタ・プローブ36で検出される周波数別のノイズレベルが異なるためであり、インジェクション・プローブ37の位置を変更することによって、第1の部屋51内にあるプリント回路基板38に注入するノイズレベルを補正するためである。このために、第2の部屋52の全長の方が、第1の部屋51の全長よりも長くなっている。
【0034】
第1の部屋51内のアンテナ43で検出された出力は、取り出し孔59を貫通するワイヤ・ハーネス49を通じて電波暗箱本体50の外部に引き出され、バス45を通じてノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41に入力されると共に、通信ケーブル48、スペクトラム・アナライザ42、及びバス44を経由してノイズ可視化用パーソナルコンピュータ41に入力される。電波暗箱本体50の外部にある測定設備の構成及び動作は図3で説明したものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0035】
ところで、図6(b) で説明した仕切壁53に設けられた貫通孔54は、この実施例では、貫通孔54を挿通するワイヤ・ハーネス40Aの太さに応じてその大きさを可変することができるようになっている。これは貫通孔54の空隙部分をできるだけ小さくして第1の部屋51と第2の部屋52との間の電波の漏洩を防止するためである。貫通孔54の大きさを可変する機構の一例が図8(a) に示される。図8(a) に示すように、この実施例では貫通孔54の上方に貫通孔54の方向に摺動できる摺動片55が第2の部屋52側に設けられている。この摺動片55には、貫通孔53側に湾曲した凹部55Aが設けられており、その反対側には引掛孔55Bが設けられており、引掛孔55Bを介して手動で摺動片55を矢印で示す上下方向に摺動させることができるようになっている。よって、貫通孔54を挿通させたワイヤ・ハーネス40Aが細い場合には、摺動片55を下降させることにより、貫通孔55の大きさを小さくすることができる。即ち、貫通孔55の大きさは、貫通孔55を通るワイヤ・ハーネス40Aの太さに合わせて可変することができる。なお、図8(b) は(a) のX−X線における断面を示している。この断面から分かるように、仕切壁53はアルミ板53Aの両側に電波吸収体6を張り付けて構成されている。
【0036】
図9は図6で説明した上蓋60と電波暗箱本体50との合わせ部を部分的に拡大して示すものである。上蓋60の内側と電波暗箱本体50の内側にはフェライトタイル6が電波吸収体として隙間なく貼り付けられている。そして、上蓋60の電波暗箱本体50との合わせ部には、内側にほぼ直角に折り曲げられてL字状をした金属製のシールド接続プレート62が取り付けられている。更に、電波暗箱本体50の上蓋60との合わせ部には、上蓋60が閉じられた時に、金属製のシールド接続プレート62の折り曲げ部に接触するシールドガスケット64が、ガスケット受け65に保持されて設けられている。よって、上蓋60が閉じた状態では、フェライトタイル6に接触するシールド接続プレート62がシールドガスケット64に接触し、このシールドガスケット64がガスケット受け65を通じて電波暗箱本体50側のフェライトタイル6に接続するので、上蓋60と電波暗箱本体50が電気的に導通し、シールド効果が保持される。
【0037】
図10(a) ,(b) は図6(a) に示したフィルタボックス80の具体的な実施例を示すものである。フィルタボックス80は、その取付フランジ83によって電波暗箱本体50に設けられた引出し孔56に取り付けられるものであり、電波暗箱本体50の内部側に第1の端子群81があり、電波暗箱本体50の外側に露出する部分に第2の端子群82がある。第1の端子群81には図7で説明したワイヤ・ハーネス40Aの一端に設けられたコネクタが接続されるコネクタ84と、複数個の予備端子89がある。また、第2の端子群82には、コネクタ84と複数個の予備端子89にそれぞれフィルタボックス80内で接続されるコネクタ85と複数個の予備端子88が設けられている。
【0038】
フィルタボックス80は、電波暗箱本体50の内部のワイヤ・ハーネス40Aを、外部の測定装置へのワイヤ・ハーネス40に接続するものであり、ワイヤ・ハーネス40Aによって送られるノイズ成分が重畳している信号を、ノイズ成分を除去してワイヤ・ハーネス40に伝えるものである。図11(a) は図10のフィルタボックス80の内部回路の一例を示すものであり、第1の端子群81にあるコネクタ84と第2の端子群82にあるコネクタ85の間のフィルタ回路を示している。コネクタ84,85のそれぞれの端子間には、2つの貫通型コンデンサ86とインダクタ87が直列接続されたフィルタ回路が接続されている。また、図10の予備端子88,89の対応するものの間にも2つの貫通型コンデンサ86とインダクタ87が直列接続されたフィルタ回路、或いは、他のフィルタ回路がそれぞれ接続されている。
【0039】
このように、ワイヤ・ハーネス40Aの電波暗箱5からの取り出し部に設けたフィルタボックス80により、電波暗箱5から外部モニタヘのワイヤ・ハーネス40にノイズが載らなくなり、外部モニタの誤動作が防止できる。また、以上のように構成された電波暗箱5では、形状を直方体としたので、コスト的にも安価にノイズ可視化システムを構築することができると共に、内部全体に貼付した電波吸収体の重量を含めて、電波暗箱5が微小な振動に耐えうる重量となっているので、高周波ノイズの注入部位、ワイヤ・ハーネス、暗箱形状による固有振動数等で発生する定在波の影響を極力抑えた測定が可能である。
【0040】
図12は、図6に示した電波暗箱本体50の移動機構70の別の実施例の載置台73を示すものであり、(a) は電波暗箱本体50を載置台73に載置した状態の正面図、(b) は底面図、(c) は上蓋を開けた状態の側面図を示している。この実施例の載置台73は、天板73aと底板73bが所定長さの8本の支柱73cで接続され、底板73bの底面に6個のキャスタ72が取り付けられて構成されている。天板73aと底板73bの長さは電波暗箱本体50の長さよりも長く形成されており、天板73aの上に電波暗箱本体50を載置した時には、電波暗箱本体50のフィルタボックス80が取り付けられる側の載置台73に、測定機器等の置き台76が形成されるようになっている。
【0041】
また、図12(c) に示すように把手61によって上蓋60を開けた時に、上蓋60の重量により装置全体が転倒しないように、ダンパ7で上蓋60の開度を調整している。なお、載置台73の高さは、この上に電波暗箱本体50を載置した時に、作業者がプリント回路基板等の試験対象物の設置作業を行い易い高さとなっている。
【0042】
図13及び図14は、図6に示した電波暗箱本体50の移動機構70の更に別の実施例の載置台74を示すものであり、図13(a) は電波暗箱本体50を載置台74に載置した状態の平面図、図13(b) は正面図、図14(a) は上蓋を開けた状態の側面図、図14(b) は上蓋を閉じた状態の側面図を示している。この実施例の載置台74は、天板74aと天板74aを支える所定長さの8本の支柱74b、隣接する支柱74bの間を接続する2本の横木74c、及び、支柱74bの底面にそれぞれ取り付けられた大型のキャスタ75から構成されている。この実施例のキャスタ75には、電波暗箱本体50の荷重(約200kg)に耐えうるように、直径が10cm程度の大型のものが採用されている。この実施例でも天板74aの長さは電波暗箱本体50の長さよりも長く形成されており、天板74aの上に電波暗箱本体50を載置した時には、電波暗箱本体50のフィルタボックス80が取り付けられる側の載置台74に、測定機器等の置き台76が形成されるようになっている。
【0043】
更に、この実施例では、図13(a) に示すように、上蓋60の試験対象物が設置される第1の部屋51の上に、第1の部屋51の内部を見通せる監視窓66が設けられている。この監視窓66には第1の部屋51から放射される可能性のある1GHz程度の周波数の電波を遮断する金網が、ガラスの中、或いはガラスに重ねて取り付けられている。このように、上蓋60に監視窓66を形成しておけば、試験対象物に設けられたディスプレイ装置の誤動作を外部から容易に監視することができる。
【0044】
また、載置台74の高さは、この上に電波暗箱本体50を載置した時に、作業者が、図14(b) に示す上蓋60が閉じられた状態から図14(a) に示すような上蓋60を開く作業、及び、プリント回路基板等の試験対象物の設置作業を行い易い高さとなっている。図14(a) に示すように把手61によって上蓋60を開けた時に、上蓋60の重量により装置全体が転倒しないように、ダンパ7で上蓋60の開度を調整している点は図12に示した実施例と同じである。
【0045】
なお、図12と図13に示される実施例において、電波暗箱本体50の第1の部屋51の側面に、取出孔59に並んで設けられているもう1つの取出孔59Aは、例えば、モニタ装置を伴った回路基板のイミュニティ測定を行う場合に、第1の部屋51の中に収容する回路基板と、電波暗箱本体50の外部に置くモニタ装置とを接続するワイヤ・ハーネスを挿通するためのものである。この取出孔59Aは、使用しない時は電波を漏洩しない蓋で封止されている。
【0046】
また、上蓋60の開閉機構に、上蓋60が開いた状態を検出できるスイッチを設け、このスイッチにより上蓋60が開けられた時には、インジェクション・プローブ37への高周波ノイズの供給を停止させるようにして、上蓋60が開いた時にその開口部から電波が外部に洩れないようにすることができる。
更に、以上説明した実施例では、電波暗箱本体50自体のサイズとして、その長さを1600mm、幅を600mm、高さを400mmとしたが、電波暗箱本体50のサイズはこのサイズに限定されるものではない。また、キャスタ72を備えた載置台73や、キャスタ75を含む載置台74を電波暗箱本体50の下部に取り付けた場合は、電波暗箱本体50の高さが1000mm程度となり、作業者が作業をし易くなっている。
【0047】
更にまた、以上説明した実施例においては、イミュニティ試験を前提として電波暗箱5の構成及び動作を説明したが、本発明の電波暗箱5は、イミュニティ試験に使用される用途だけに限られるものではなく、電子部品が自ら放出するノイズを測定するエミッション試験にも使用することができる。この場合は、信号ラインに高周波を印加する第1のプローブ37や信号ラインの高周波を検出する第2のプローブ36は不要である。
【0048】
【発明の効果】
このように、本発明のノイズ可視化システムに使用する電波暗箱によれば、
(1)試験設備の小スペース化が図れ、従来のシールドルームのみでなく、場所を選ばずにイミュニティの測定が可能となる、
(2)コスト的にも安価にノイズ可視化システムを構築することができると共に、高周波ノイズの注入部位、ワイヤ・ハーネス、暗箱形状による固有振動数等で発生する定在波の影響を極力抑えた測定が可能である、
(3)ワイヤ・ハーネスの電波暗箱からの取り出し部に設けたフィルタにより、外部モニタの誤動作が防止できる、及び
(4)上蓋に監視窓を形成しておけば、試験対象物に設けられたディスプレイ装置の誤動作を外部から容易に監視することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術における試験方法の概略を示す図である。
【図2】別の従来技術における試験方法の概略を示す図である。
【図3】本発明者らが提案したノイズ可視化システムの概略を示す図である。
【図4】図3のノイズ可視化システムの一部を拡大した図である。
【図5】図4のアンテナから得られたノイズ可視化データの一例を示す図である。
【図6】 (a) は本発明のノイズ可視化システムにおける電波暗箱を上蓋を閉じた状態で背面から見た斜視図、(b) は本発明のノイズ可視化システムにおける電波暗箱を上蓋を開いた状態で正面から見た斜視図である。
【図7】 (a) は本発明のノイズ可視化システムにおける電波暗箱の本体内に試験設備を配置して測定設備に接続した状態の平面図、(b) は(a) のインジェクション・プローブの移動方法の一例を示す説明図である。
【図8】 (a) は図6の仕切壁に設けられた貫通孔の径を、この貫通孔を通るワイヤ・ハーネスの太さに合わせて可変する機構の一例を示す図、(b) は(a) のX−X線における断面図である。
【図9】図6の上蓋と本体との合わせ部の部分拡大断面図である。
【図10】 (a) は図6のフィルタボックスの具体的な実施例を示す平面図、(b) は(a) の正面図である。
【図11】 (a) は図10のフィルタボックスの内部回路の一例を示す回路図、(b) は図10の予備端子間に設けられたフィルタ回路の一例を示す回路図である。
【図12】図6のノイズ可視化システムにおける電波暗箱の移動機構の別の実施例を示すものであり、(a) はノイズ可視化システムにおける電波暗箱を移動機構に載置した状態の正面図、(b) は底面図、(c) は上蓋を開けた状態の側面図である。
【図13】図6のノイズ可視化システムにおける電波暗箱の移動機構の更に別の実施例を示すものであり、(a) はノイズ可視化システムにおける電波暗箱を移動機構に載置した状態の平面図、(b) は側面図である。
【図14】 (a) は図13に示した実施例のノイズ可視化システムにおける電波暗箱の上蓋を開けた状態の側面図、(b) は上蓋を閉じた状態の側面図である。
【符号の説明】
5…本発明の電波暗箱
6…電波吸収体
7…ダンパ(開閉補助機構)
8…レール
9…移動台
9A…レール
30…可視化システム
36…モニタ・プローブ
37…インジェクション・プローブ
38…プリント回路基板
40…ワイヤ・ハーネス
43…アンテナ
50…電波暗箱の本体
51…第1の部屋
52…第2の部屋
53…仕切壁
55…摺動片
60…上蓋
61…把手
63…仕切壁
66…監視窓
70…移動機構
72,75…キャスタ
73,74…載置台
80…フィルタボックス

Claims (12)

  1. 試験対象物の近傍に配置したアンテナによってこの対象物から発生するノイズを検出し、制御装置によりノイズ分布を可視化するシステムに使用する電波暗箱であって、
    前記試験対象物と前記アンテナとを収容する第1の部屋と、前記試験対象物に接続される信号ラインを収容する第2の部屋、及び前記第1と第2の部屋の間の電波の往来を遮断する仕切壁とを備えた電波暗箱の本体、及び
    前記本体の上部に設けられ、前記第1と第2の部屋の上部からの電波の洩れを防止する上蓋とを備えることを特徴とするノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  2. 前記第2の部屋内には、前記信号ラインに高周波信号を印加するための第1のプローブと、前記信号ラインの高周波信号を検出するための第2のプローブとを収容したことを特徴とする請求項1に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  3. 前記電波暗箱の内面及び前記仕切壁の両面には、電波吸収体を貼付したことを特徴とする請求項1に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  4. 前記仕切壁には、前記信号ラインを通過させるための貫通孔を設け、この貫通孔は前記仕切壁内を摺動する摺動片を移動させることにより、孔径が変更できるように構成したことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  5. 前記第2のプローブは前記第2の部屋内で、前記信号入力ラインに沿って移動できるように構成したことを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  6. 前記信号ラインの前記電波暗箱からの引出し部にフィルタボックスを設け、このフィルタボックスには、前記電波暗箱の内側に位置して前記各ラインに接続する第1の端子郡と、前記電波暗箱の外側に位置して外部モニタに接続する第2の端子郡と、対応する前記第1の端子郡と第2の端子郡の各端子の間にそれぞれ位置させたフィルタ回路とを設けたことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  7. 前記フィルタボックスの前記第1の端子郡の設置面と第2の端子郡の設置面にはそれぞれ複数個の予備端子を設けたことを特徴とする請求項6に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  8. 前記上蓋は前記電波暗箱の長手方向に取り付けた蝶番によって前記電波暗箱を開閉するように構成すると共に、前記上蓋の短手方向の両側には、上蓋の開閉力を緩和する開閉補助機構を取り付けたことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  9. 前記上蓋の前記第1の部屋に対応する上面に、特定の周波数の電波を遮断し、かつ、前記第1の部屋の内部を見通せる監視窓を設けたことを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  10. 前記電波暗箱の下部に、この電波暗箱を用いた測定に使用する測定器の置き台を設けると共に、電波暗箱の高さを測定作業者の作業がし易い位置まで嵩上げする載置台を設けたことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  11. 前記電波暗箱の下部または前記載置台の下部に、この電波暗箱を移動可能にする移動機構を設けたことを特徴とする請求項1から10の何れか1項に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
  12. 前記移動機構を複数個のキャスタとしたことを特徴とする請求項10に記載のノイズ可視化システムにおける電波暗箱。
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