JP3694827B2 - 金属イオンの選択的吸着能をもつ金属酸化物薄膜 - Google Patents

金属イオンの選択的吸着能をもつ金属酸化物薄膜 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属イオンの選択的吸着能を有し、金属イオンの分離・検出に有用な金属酸化物薄膜に関する。特に、固体表面に金属イオンの選択的吸着能を持つ金属酸化物薄膜を製造するための新規な技術、詳しくは、様々な金属錯体の構造を金属酸化物薄膜の中に記憶させることによって得られる、金属イオンの選択的吸着能を持つ金属酸化物薄膜の製造技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属イオンの分離・検出技術が基礎研究から工学的応用まで幅広い範囲で重要な意味を持つことは言うまでもない。溶液からの抽出法は、高価な金属イオンの分離・精製技術として利用されており、有害な金属イオンを溶液中から除去することも環境問題や原子炉における排水処理などの解決手段として重要性が高い。
生体組織中の金属イオンの検出は、生理学的な診断に不可欠となっており、また、生体中の特定金属の濃度を調節することは、極めて大きな臨床的意義を持つ。
【0003】
これまでの金属イオンの選択的な分離法としては、クロマトグラフィー、溶媒抽出、膜分離、電析法、種々の析出法など、多くの方法が知られており、分離の目的や金属イオンの特性、溶液状態に応じた方法が採用されている。しかしながら、特性の似通った金属イオンの混合溶液から特定の金属イオンだけを分離することは難しく、現在も様々な研究機関でその分離法の研究開発が行われている。
クラウンエーテルやこれに類似した大環状化合物などが示す金属イオン選択性を種々の分離法と組み合わせる方法は、特に溶媒抽出やクロマトグラフィー法における選択性の向上に優れた成果を挙げている。しかしながら、選択性の高い大環状化合物を多くの金属イオンに対して有機合成化学的に得ることは容易ではない。また、従来の技術では、分離操作に多大の時間が必要なものが多く、高選択的で且つ迅速な分離技術の開発が強く望まれている。
【0004】
分子インプリント法は、分子形状を物質内部に記憶させることで分子の選択的な結合を可能にする。近年、このような分子インプリント法が金属イオンにも適用されており、金属イオンの選択性のある抽出分離が可能となっている。しかしながら、この場合の選択性は、必ずしも高いものではない。その理由として、金属イオンの構造を記憶させるための配位性化合物とマトリックスの組み合わせが十分なものとは言えないことが挙げられる。
【0005】
分子インプリント法のマトリックスとしては、様々なものが研究させている。
ジビニルモノマーとビニルモノマーとの共重合により3次元化高分子を作る方法、高分子微粒子の表面に配位性化合物を固定化する方法、無機微粒子の表面にゾルゲル法で金属酸化物薄膜をコートする方法などが知られている。これらの場合、マトリックス中での金属イオンの拡散速度が遅いという共通の問題がある。取りこみ速度を高めるために、ミセルやミクロエマルジョンの表面を利用する分子鋳型法や多孔質材料の内表面に金属イオンの構造をインプリントする手法も開発されている。しかしながら、これらの研究は、取り込み速度の評価に固/液、液/液界面での抽出を基礎としており、必ずしも迅速な取りこみが達成されているわけではない。
【0006】
一方、溶液中の金属イオンの検出法としては、イオン選択性電極が知られている。この手法は、電極表面への金属イオンの特異的な吸着に基づく電位差測定に基づいているが、性質の似た金属イオンを見分けるのが難しく、また応用できる金属イオンの種類も限られている。最近、ハライドイオンの存在下で電極表面に導電性高分子を電解析出させ、後にハライドイオンを取り除くことで、ハライドイオンのインプリントに成功した事例が報告されている。しかしながら、この研究が金属イオンに拡張された報告例はない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上の通り、所望の金属イオンを間便且つ迅速に分離・検出する方法として満足が行くものは、これまで開発されるに至っていない。そこで本発明は、迅速で効率よく、所望の金属イオンを選択的に吸着しうる金属酸化物薄膜を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意研究を行った結果、空間配置が固定されている配位子を有する金属酸化物ゲルからなる薄膜材料であって、前記配位子は少なくとも1種の金属イオンを選択的に配位させることができ、前記薄膜材料の炭素含量が15〜55重量%であり、密度が0.6〜2.6g/cm3である薄膜材料(以下「第一発明」という)によれば、上記目的を達成しうることを見出した。本発明は、配位子を有する金属酸化物ゲルからなり、炭素含量が15〜55重量%であり、密度が0.6〜2.6g/cm3である薄膜材料であって、前記金属酸化物ゲルは、金属イオン溶液に接触させることにより該金属イオンを金属酸化物ゲル中に導入しさらに導入した金属イオンを洗浄により取り除く操作を1回以上施すことによって、該金属に対する選択的吸着能を持つようになる構造を有している前記薄膜材料(以下「第二発明」という)も提供するものである。
【0009】
これらの本発明の薄膜材料は、厚みが0.5〜100nm、炭素含量が25〜45重量%、密度が1.1〜2.1g/cm3であることが好ましい。また、前記配位子を有しない金属酸化物薄膜と、前記配位子を有する配位性金属酸化物薄膜から構成されることが好ましく、中でも前記金属酸化物薄膜の上に前記配位性金属酸化物薄膜が形成されている構造、特に前記配位性金属酸化物薄膜の上下に前記金属酸化物薄膜が形成されている構造を有することが好ましい。さらに、本発明の薄膜材料は固体(特に金属アルコキシド基に対する反応性基を表面に有する固体)上に化学吸着されていることが好ましい。
【0010】
また本発明は、金属アルコキシド基を有する化合物、水酸基もしくは金属アルコキシド基と結合し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基を併せ持つ金属化合物、金属イオンの3成分からなる金属化合物複合体を形成させ、これを金属アルコキシド基に対する反応性基を有する固体表面に接触させることにより該金属化合物複合体を化学吸着させ、次いで、過剰の金属化合物複合体を除去した後、上記固体表面に存在する金属化合物複合体を加水分解して金属酸化物複合体薄膜を形成させ、さらに必要に応じて形成された金属酸化物複合体薄膜の表面上に上記金属酸化物複合体薄膜を形成させる操作を1回以上施した後、上記金属イオンを洗浄により取り除く(以下「方法A」という)ことにより製造される、前記金属イオンに対する選択的吸着能をもつ材料を提供する。
【0011】
また本発明は、金属アルコキシド基に対する反応性基を有する固体表面に、金属アルコキシド基を有する化合物を接触させることにより該金属アルコキシドを有する化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の金属アルコキシドを有する化合物を除去した後、上記固体表面に存在する金属アルコキシドを有する化合物を加水分解して金属酸化物薄膜を形成させ、さらに、必要に応じて形成された金属酸化物薄膜の表面上に上記金属酸化物薄膜を形成させる操作を1回以上施した後、表面層を構成する金属酸化物薄膜に、該金属酸化物薄膜表面の水酸基に結合し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基とを併せ持つ金属化合物と金属イオンとの金属化合物複合体を接触させることにより該金属化合物複合体を化学吸着させ、次いで、過剰の金属化合物複合体を除去した後、上記固体表面に存在する金属化合物複合体を加水分解して金属酸化物複合体薄膜を形成させ、さらに、必要に応じて形成された金属酸化物複合体薄膜の表面上に上記金属酸化物薄膜を形成させる操作を1回以上施した後、上記金属イオンを洗浄により取り除く(以下「方法B」という)ことにより製造される、前記金属イオンに対する選択的吸着能をもつ材料を提供する。中でも、前記金属酸化物複合体薄膜の表面上に、さらに前記金属酸化物複合体薄膜の形成操作を少なくとも1回以上施した上で、金属イオンを洗浄により取り除く工程を経て製造されるものが好ましい。
【0012】
また本発明は、金属アルコキシド基に対する反応性基を有する固体表面に、金属アルコキシド基を有する化合物を接触させることにより該金属アルコキシドを有する化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の金属化合物を除去した後、上記固体表面に存在する金属アルコキシドを有する化合物を加水分解して金属酸化物薄膜を形成させ、さらに、必要に応じて形成された金属酸化物薄膜の表面上に上記金属酸化物薄膜を形成させる操作を1回以上施した後、表面層を構成する金属酸化物薄膜に、該金属酸化物薄膜表面の水酸基に結合し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基とを併せ持つ金属化合物を接触させることにより該金属化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の金属化合物を除去した後、上記固体表面に存在する金属化合物を加水分解して金属酸化物薄膜を形成させる(以下「方法C」という)ことにより製造される材料を提供する。
また本発明は、当該材料の金属酸化物薄膜の表面上に前記金属酸化物薄膜を形成させる操作を1回以上施した後、金属イオン溶液に接触させることにより該金属イオンを酸化物薄膜中に導入し、上記金属イオンを洗浄により取り除き、さらに必要に応じて上記金属イオンの導入操作と除去操作を1回以上施し、金属イオンの吸着能を持つ金属酸化物薄膜を形成させることにより製造される、前記金属イオンに対する選択的吸着能をもつ材料も提供する。
【0013】
なお、水酸基もしくは金属アルコキシド基と結合し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基を併せ持つ前記金属化合物、あるいは、金属酸化物薄膜表面の水酸基に結合し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基とを併せ持つ前記金属化合物としては、アミノ基を有する金属アルコキシド化合物を用いることが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下において、本発明の薄膜材料等について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
【0015】
本発明の第一発明に係る薄膜材料は、空間配置が固定されている配位子を有する金属酸化物ゲルからなる薄膜材料であって、前記配位子は少なくとも1種の金属イオンを選択的に配位させることができ、前記薄膜材料の炭素含量が15〜55重量%であり、密度が0.6〜2.6g/cm3である。第一発明に係る薄膜材料は、特定の金属イオンに対する選択的吸着能が高く、該金属イオンを迅速で効率よく吸着することができる。このため、該金属イオンの分離・検出に極めて有用である。
【0016】
また、本発明の第二発明に係る薄膜材料は、配位子を有する金属酸化物ゲルからなり、炭素含量が15〜55重量%であり、密度が0.6〜2.6g/cm3である薄膜材料であって、前記金属酸化物ゲルは、金属イオン溶液に接触させることにより該金属イオンを金属酸化物ゲル中に導入しさらに導入した金属イオンを洗浄により取り除く操作を1回以上施すことによって、該金属に対する選択的吸着能を持つようになる構造を有していることを特徴とする。第二発明に係る薄膜材料は、第一発明に係る薄膜材料を提供するための前駆材料の一つであり、選択的吸着能を持たせたい金属イオンについて上記操作を施すことによって所望の金属イオンに対する選択的吸着能を持たせることが可能である。
【0017】
これらの薄膜材料は、固体上に化学吸着した状態で用いることが好ましい。固体の種類は、その表面に化学吸着した薄膜材料を形成させることができるものであれば特に限定されない。本発明の薄膜材料は金属アルコキシド基を有する化合物を用いて製造することが好ましいことを考慮すれば、金属アルコキシド基に対する反応性基を表面に有する固体を用いることが望ましい。金属アルコキシド基に対する反応性基としては、水酸基やカルボキシル基が好ましく、水酸基が特に好ましい。固体を構成する材料は特に限定されず、例えば有機物、無機物、金属等の様々な材料を用いることができる。具体的な代表例としては、ガラス、酸化チタン、シリカゲル等の無機物よりなる固体、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、セルロース、フェノール樹脂等の有機物よりなる固体、表面が酸化され易い特性を有する鉄、アルミニウム、シリコン等の金属を挙げることができる。
【0018】
表面に反応性基を持たない固体(例えば硫化カドミウム、ポリアニリン、金等)に本発明の薄膜材料を形成する場合には、該固体表面に水酸基またはカルボキシル基を導入しておくことが推奨される。水酸基の導入は、公知の方法が特に制限なく採用される。例えば、金の表面には、メルカプトエタノールなどの吸着により水酸基を導入することができる。
【0019】
上記固体表面に存在させる反応性基の量は、その上に形成される本発明の薄膜材料の密度に影響を及ぼす。このため、良好な薄膜材料を形成するためには、固体表面に存在する反応性基(特に水酸基またはカルボキシル基)は、一般には5.0×1013〜5.0×1014当量/cm2、好ましくは、1.0×1014〜2.0×1014当量/cm2の範囲が適当である。
【0020】
固体の形状や表面状態は、特に制限されない。即ち、本発明の薄膜材料は、固体表面に金属酸化物複合体や金属酸化物を接触させてこれらを化学吸着せしめることにより製造することができるため、該固体表面は平滑である必要がない。このため、繊維状、ビーズ状、粉末状、薄片状など様々な形態の固体表面、あるいはチューブの内壁やフィルターや多孔質の内部表面から壁等の大面積のものまで多様な固体表面に本発明の薄膜材料を形成することができる。
【0021】
これらの固体表面に本発明の薄膜材料を形成する方法は特に制限されないが、好ましい形成方法として上記方法A〜Cを挙げることができる。
方法A〜Cで用いる「金属アルコキシド基を有する化合物」としては、金属アルコキシド基を有する公知の化合物が特に制限なく使用される。代表的な化合物を例示すれば、チタンブトキシド(Ti(OnBu)4)、ジルコニウムプロポキシド(Zr(OnPr)4)、アルミニウムブトキシド(Al(OnBu)4)、ニオブブトキシド(Ni(OnBu)5)等の金属アルコキシド化合物;メチルトリメトキシシラン(MeSi(OMe)4)、ジエチルシエトキシシラン(Et2Si(OEt)2)等、2個以上のアルコキシド基を有する金属アルコキシド;BaTi(OR)xなどのダブルアルコキシド化合物などの金属アルコキシド類が挙げられる。
【0022】
方法A〜Cで用いる「水酸基もしくは金属アルコキシド基と結合し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基を併せ持つ金属化合物」、あるいは「水酸基に結合し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基とを併せ持つ金属化合物」としては、このような特性を持つ公知の化合物が特に制限なく使用される。代表的な化合物を例示すれば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン3−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、ビス(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、(N,N−ジエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、N−(ヒドロキシエチル)−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、N−(トリエトキシシリルプロピル)ダンシルアミン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−[5−(トリメトキシシリル)−2−アザ−1−オキソフェニル]カプロラクタム、N−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を配位子として有し、2個以上のアルコキシド基を有する金属アルコキシド類;3−アミノプロピルジイソプロピルエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、ジメチルアミノエトキシシラン等のアミノ基を配位子として有し、1個のアルコキシド基を有する金属アルコキシド類;アミノプロピルシラントリオール等のアミノ基を配位子として有し、2個以上の水酸基を有するシラン化合物類;(N,N−ジメチルアミノ)ジメチルクロロシラン、フェニルビス(ジメチルアミノ)クロロシラン、トリス(ジメチルアミノ)クロロシラン等のアミノ基を配位子として有し、1個以の塩素を有する有機シラン化合物類;2−[2−(トリクロロシリル)エチル]ピリジン、4−[2−(トリクロロシリル)エチル]ピリジン等のピリジル基を配位子として有し、1個以の塩素を有する有機シラン化合物類;ジエチルホスフェートエチルトリエトキシシラン等のリン酸基を配位子として有し、2個以上のアルコキシド基を有する金属アルコキシド類;3−トリヒドロキシシリルプロピルメチルホスフォン酸等のリン酸基を配位子として有し、2個以上の水酸基を有するシラン化合物類;メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の硫黄原子を配位子として有し、2個以上のアルコキシド基を有する金属アルコキシド類;(ファーファリロオキシメチル)トリエトキシシラン等の酸素原子を配位子として有し、2個以上のアルコキシド基を有する金属アルコキシド類などが挙げられる。
【0023】
また、本発明では、上記金属アルコキシド類の他に、該金属アルコキシドに少量の水を添加し、部分的に加水分解、縮合させて得られるアルコキシドゲルの微粒子、複数個あるいは複数種の金属元素を有する二核あるいはクラスター型のアルコキシド化合物、酸素原子を介して一次元に架橋した金属アルコキシド化合物に基づく高分子などを使用することも可能である。
上記の金属化合物は、必要に応じて二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
方法Aおよび方法Bにおいて用いる「金属イオン」としては、金属イオンと結合し得る基を併せ持つ上記金属化合物と結合しうる金属イオンが特に制限なく採用される。例えば、アミノ基を配位子として有する金属アルコキシドを金属化合物として用いる場合、Cu2+イオン、Zn2+イオンなどが好適である。該金属化合物と効率良く結合させることが可能であれば、金属イオンの価数、対アニオンの種類には特に制限されない。また、該金属化合物と効率良く結合させることが可能であれば、オキソバナジウムイオン(VO2+)のような金属原子と酸素からなるイオンや水中で安定な金属ハライド化合物なども好適である。
【0025】
方法Aおよび方法Bでは、上記金属化合物と金属イオンを複合化して用いる。上記金属化合物と金属イオンの複合化は、例えば、上記金属化合物を有機溶媒に溶解させた溶液に、金属イオンを含む金属塩を添加し、必要に応じて少量の水を添加することにより得られる。また、金属アルコキシド基を有する化合物と上記金属化合物を有機溶媒に溶解させた溶液に、金属イオンを含む金属塩を添加し、必要に応じて少量の水を添加することで3成分からなる金属化合物複合体を形成させることも可能である。また、上記金属化合物のみを用いて形成された金属酸化物薄膜の表面に、必要に応じて金属酸化物薄膜を形成させる操作を1回以上施した後、金属イオン溶液を接触、吸着させることによっても金属化合物と金属イオンを複合化させることが可能である。
【0026】
これらの材料を用いて、固体表面に化学吸着を行うことができる。方法Aでは、まず、金属アルコキシド基を有する化合物、水酸基もしくは金属アルコキシド基と結合し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基を併せ持つ金属化合物、金属イオンの3成分からなる金属化合物複合体を形成させ、これを金属アルコキシド基に対する反応性基を有する固体表面に接触させることにより該金属化合物複合体を化学吸着させる。これによって、固体表面に金属酸化物複合体薄膜が形成される。方法Bおよび方法Cでは、金属アルコキシド基を有する化合物を、金属アルコキシド基に対する反応性基を有する固体表面に接触させることにより、該金属アルコキシドを有する化合物を化学吸着させる。これによって、固体表面に金属酸化物薄膜が形成される。
【0027】
金属化合物複合体や金属アルコキシド基を有する化合物と固体との接触は、これらの材料を該固体表面に飽和吸着させる方法が特に制限なく採用される。一般には、金属化合物複合体や金属アルコキシド基を有する化合物を有機溶媒に溶解させた溶液に、固体を浸漬するか、該溶液をスピンコート等の方法により固体表面に塗布する方法が好適に用いられる。ここで用いる溶媒は、特に制限されない。例えば、メタノール、エタノール、トルエン、プロパノール、ベンゼン等を単独で或いはこれらを混合して用いることができる。
【0028】
また、上記溶液中の金属化合物の濃度は、1〜100mM程度が好適であり、金属イオンの濃度は、1〜10mM程度が好適である。さらに、接触時間及び温度は、使用する金属化合物複合体や金属アルコキシド基を有する化合物の吸着活性によって異なり、一概に限定することはできないが、一般には、3〜20分の時間で、0〜100℃の範囲内で決定すればよい。更にまた、上記化学吸着の際、酸や塩基などの触媒を用いることで、これらの工程に必要な時間を大幅に短縮することも可能である。
【0029】
上記の接触操作により、固体表面には、その表面の水酸基またはカルボキシル基等の反応性基に対して飽和吸着量の金属化合物複合体または金属アルコキシド基を有する化合物と、物理吸着による金属化合物複合体または金属アルコキシド基を有する化合物とが存在する。均一で一様な薄膜を得るためには、上記過剰に吸着する金属化合物複合体や金属アルコキシド基を有する化合物を除去することが必要になる場合がある。即ち、過剰に存在する金属化合物複合体や金属アルコキシド基を有する化合物を除去することにより、固体表面に化学吸着している物質の層の上にさらに金属化合物複合体や金属アルコキシド基を有する化合物等からなる薄膜を形成することが可能になる。
【0030】
上記過剰の金属化合物複合体や金属アルコキシド基を有する化合物の除去方法は、これらを選択的に除去することができる方法であれば特に制限されない。例えば、前記有機溶媒により洗浄する方法が好適に用いられる。洗浄は、該有機溶媒に、浸漬洗浄する方法、スプレー洗浄する方法、蒸気洗浄する方法等が好適に採用される。また、洗浄温度は、前記接触操作における温度が好適に採用される。
【0031】
上記洗浄除去後、方法A〜Cでは加水分解を行う。かかる加水分解により、金属化合物複合体または金属アルコキシド基を有する化合物が縮合し、金属酸化物複合体薄膜または金属酸化物薄膜が形成される。
【0032】
上記加水分解は、公知の方法が特に制限なく採用される。例えば、金属化合物複合体または金属アルコキシド基を有する化合物を吸着させた固体を水に浸漬する操作が最も一般的である。該水としては、不純物等の混入を防止し、高純度の金属酸化物を生成するために、イオン交換水を用いることが好ましい。また、加水分解において、酸や塩基などの触媒を用いることにより、これらの工程に必要な時間を大幅に短縮することも可能である。また、金属化合物複合体または金属アルコキシド基を有する化合物を吸着させた固体を少量の水を含んだ有機溶媒に浸漬することでも加水分解を行うことが可能である。また、金属化合物のうち水との反応性が高いものについては、空気中の水蒸気と反応させることによって加水分解を行うこともできる。
【0033】
加水分解後は、必要により、窒素ガス等の乾燥用ガスにより表面を乾燥させる。これによって、金属酸化物複合体薄膜または金属酸化物薄膜が得られる。
【0034】
方法A〜Cにおいて、形成される金属酸化物複合体薄膜または金属酸化物薄膜については、上記の一連の操作を1回以上繰り返して施すことにより、ナノメートルレベルで膜厚の調整を行うことが可能である。即ち、金属酸化物複合体薄膜または金属酸化物薄膜における膜厚の調整は、加水分解によって形成された表面薄膜に存在する水酸基を利用して、金属化合物複合体または金属アルコキシド基を有する化合物との接触による化学吸着、過剰の吸着物質の除去、及び加水分解の操作を繰り返して行うことによって達成される。
【0035】
本発明の薄膜材料は、方法A〜C以外の方法によっても形成することが可能である。例えば、金属アルコキシド基を有する化合物、水酸基もしくは金属アルコキシド基と結合し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基を併せ持つ金属化合物から上記操作により金属酸化物薄膜を作成した後、該薄膜を表面に有する固体を金属イオン溶液に接触させることにより該金属イオンを酸化物薄膜中に導入し、金属酸化物複合体薄膜を形成させることもできる。ここでの金属イオン溶液との接触操作は、前記した金属化合物またはその複合体と固体との接触方法と同様の方法が制限なく採用できる。一般には、金属塩を水に溶解させた溶液に固体を浸漬する方法が好適である。また、上記溶液中の金属イオンの濃度は、10〜100mM程度が好適である、さらに、接触時間及び温度は、一般には、5〜20分の時間で0〜100℃の範囲内で決定すればよい。
【0036】
本発明の薄膜材料を調製するために、金属酸化物複合体薄膜や金属酸化物薄膜を形成する回数や形成の順番については特に制限されない。即ち、該金属酸化物薄膜の表面には該金属酸化物薄膜を再び形成させることが可能であり、また、該金属酸化物薄膜の表面には該金属酸化物複合体薄膜を形成させることも可能である。さらに該金属酸化物複合体薄膜の表面には該金属酸化物薄膜を形成することが可能であり、該金属酸化物複合体薄膜の表面に該金属酸化物複合体薄膜を再び形成することも可能である。ただし、金属イオンが配位しうる薄膜は必ず形成しなければならない。好ましいのは、金属酸化物薄膜の表面に金属酸化物複合体薄膜を形成する操作を含む場合であり、より好ましいのは金属酸化物薄膜の表面に金属酸化物複合体薄膜を形成し、さらに該金属酸化物複合体薄膜の表面に金属酸化物複合体薄膜を形成した操作を含む場合である。これらの形成方法の詳細については、方法A〜Cの態様や後述する実施例の態様を参考にすることができる。
【0037】
以上により作成された金属イオンを含む金属酸化物複合体薄膜から金属イオンを除去することによって、該金属イオンに対する選択的吸着能を持った配位性金属酸化物薄膜を得ることができる。金属イオンの除去は、該薄膜を適切な溶媒に浸漬して金属イオンを溶かし出すことにより行うことができる。溶媒としては、金属イオン物質に対し適度の可溶化能力を持つものであれば特に制限はない。一般にイオン交換水、希薄アンモニア水溶液、希薄水酸化ナトリウム水溶液、希薄塩酸水溶液などを単独であるいはこれらを混合して使用することができる。例えば、上記金属化合物としてアミン基を有する有機アルコキシド化合物、金属イオンとして銅イオンを用いた場合、酸性の水に浸漬することで、銅イオンのみを取り除くことができる。
【0038】
金属イオンの除去操作における浸漬時間及び温度は、金属イオンと金属イオンが配位している金属化合物の組み合わせにより異なり、一概に限定することはできないが、一般には1〜20分の時間で0〜100℃の範囲内で決定すればよい。また攪拌や超音波照射により金属イオンの除去工程に要する時間を大幅に短縮することもできる。
【0039】
このような金属イオン除去操作により、金属イオンが除かれた空隙が金属酸化物薄膜内に生じる。その空隙の構造は、金属イオンのサイズ、電荷、配位構造を反映している。いかなる理論にも拘泥するものではないが、このように金属イオンの構造を反映した空隙が形成されるのは、以下の原理に基づくものと考えられる。
【0040】
すなわち、金属化合物複合体薄膜を加水分解し、金属イオンを含んだ酸化物薄膜を形成したとき、該酸化物薄膜中の金属イオンは、アミン等の金属イオンと配位し得る基と結合している。即ち、酸化物薄膜を構成する金属酸化物の共有結合のネットワークは、金属イオンを取りこんだ形で固定化されている。この共有結合ネットワークの基本骨格は、金属イオンが除去されても保持されており、該金属イオンのサイズ、電荷、あるいは配位構造を反映したものとなる。このため、金属イオンが除かれた金属酸化物層を表面に持つ固体を、金属イオンの溶液中に浸漬すると、金属イオンは金属酸化物薄膜内に生じた空隙に取り込まれる。空隙の構造は鋳型として用いた金属イオンの構造を反映しているので、金属イオンの特性に応じて結合量が変化し、それらの選択的吸着や分離・検出が可能になる。
【0041】
なお、本明細書において「選択的吸着」とは、特定の金属イオンの吸着能が他の金属イオンの吸着能に比べて有意に高いことを意味する。選択的に吸着される金属イオンの種類は特に制限されず、その数は1種であっても2種以上であってもよい。
【0042】
このようにして金属イオンのサイズ、電荷、あるいは配位構造が刷り込まれた金属酸化物薄膜を、金属イオンの水溶液に浸漬すると、記憶されたサイズ、電荷、あるいは配位構造に応じて異なる速度、異なる結合量で取りこみが起こり、金属イオンの選択的な吸着が可能となる。したがって、この性質を利用すれば金属イオンの分離や検出が可能になる。
【0043】
例えば、水晶振動子上に作製した該擦り込み薄膜を金属イオンの溶液に浸漬すると、金属イオンの結合に伴う重量変化を反映して、振動子の共鳴振動数が低振動数側へと変化する。金属イオンの刷り込みによって生じた空隙が金属イオンのサイズ、電荷、あるいは配位構造を記憶しているため、鋳型として用いた金属イオンに対する結合量が大きくなり、金属イオンの選択的吸着が可能となる。また、鋳型として用いた金属イオンを水晶振動子の振動数変化から検出することが可能となる。
金属イオンの選択的吸着を行う際の浸漬時間及び温度は一概に限定することはできないが、一般には1〜30分の時間で室温〜100℃の範囲内で行うことができる。
【0044】
本発明の薄膜材料の厚みは、0.1〜250nmであることが好ましく、0.1〜150nmであることがより好ましく、0.5〜100nmであることが特に好ましい。薄膜材料の厚みは薄いほど金属イオン除去後の再結合効率は高くなる。
また、本発明の薄膜材料の炭素含量は、15〜55重量%であることが好ましく、25〜45重量%であることがより好ましい。
さらに、本発明の薄膜材料の密度は、0.6〜2.6g/cm3であることが好ましく、1.1〜2.1g/cm3であることがより好ましい。
さらに、本発明の薄膜材料の配位子含量は、5〜50重量%であることが好ましく、20〜35重量%であることがより好ましい。ここでいう配位子含量とは、金属酸化物ゲル中の配位性基を有する分子の重量比を意味する。但し、使用した配位性基を有する分子が金属酸化物ゲルと結合している場合、その結合に関与している酸素原子等の原子は、配位子基を有する分子の重量に含まれる。具体的には、後述する実施例に記載される計算方法を参照することができる。
【0045】
本発明の薄膜材料の主な特徴並びに産業上の用途は、次の通りである。
本発明の薄膜材料は超薄膜であるため、鋳型となる金属イオンの除去が極めて容易であり、また徹底的に行うことができる。これまでの報告において、金属イオンを鋳型として用いた金属イオンの分離能を有する材料が有機高分子をマトリックスとして用いて製造されている例がニ三見られる。しかしながら、従来の方法ではいずれも得られた固体を粉砕して用いている。そのため、粉砕された粒子内部の金属イオンの除去には長時間を必要とし、且つ完全に行われないものも多い。本発明では、金属イオンの結合部位が超薄膜内に作製されているため、金属イオンの拡散が容易であり、空隙からの金属イオンの除去並びに空隙への金属イオンの結合がきわめて速やかであるという特徴を有する。
【0046】
以上のように、本発明は、簡便で且つ適用範囲の広い金属イオンの分離・検出法として非常に有用である。また、金属イオンの刷り込みを行うマトリックスとして金属酸化物を用いていることは、化学的、熱的、力学的に安定な優れた分離材料を作製する技術であると考えられる。
さらに溶液からの吸着に基づく本発明の薄膜製造は、穏和な条件下且つ簡単な操作で、あらゆる形状の表面や大面積の基板に金属イオンの分離能を付与することができる。また、生産性も高く、高価な製造設備は必ずしも必要としない。
【0047】
また、本発明の薄膜材料は、固体表面に飽和吸着させることにより調製することができるため、金属化合物や金属イオンの濃度、洗浄や加水分解の温度、時間等を厳密に設定しなくても十分に精密な金属イオンの選択的吸着能をもつ金属酸化物薄膜を作製することができる。
また、本発明は、金属イオンのサイズ、電荷、あるいは配位構造などをマトリックス中に刷り込むことで金属イオンの選択的吸着能を創出しているため、金属イオンと結合する基を有機合成化学的手法により合成する必要がない。即ち、金属イオンと結合するような多くの基を準備しなくても、幅広い金属イオンに対して選択的吸着能を有する金属酸化物薄膜を製造することが可能である。
上記に示すような技術上の特徴があるため、本発明の薄膜材料は、化学、医学、工学などの分野の重要な基盤技術となる。
【0048】
【実施例】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0049】
以下の実施例および比較例では、金属イオンを含んだ金属酸化物複合体薄膜が逐次、一定量で積層化されていることを示すために、水晶振動子上への金属酸化物複合体薄膜の作成を行い、金属イオンの除去または金属イオンの再吸着を水晶振動子の振動数変化から評価した。水晶振動子は、マイクロバランスとして知られ、振動数変化よりその電極表面上に形成された薄膜の重さを10-9gの精度で測定できるデバイスである。
水晶振動子は、金電極で被覆したものをピラナ溶液(96%の硫酸と30%の過酸化水素水溶液の3:1混合溶液)で洗浄し、純水で十分に洗浄後、10mMのメルカプトエタノール溶液に12時間浸漬し、表面に水酸基を導入した後、エタノールで洗浄後、窒素ガスを吹き付けて十分に乾燥させたものを用いた.
【0050】
(実施例1)
0.060gの硝酸銅(II)三水和物を12mlのエタノールに溶解し、0.112mlのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(密度:1.01g/ml)を加えて1時間攪拌し、トルエン12mlを加え、さらに0.045mlのイオン交換水を攪拌しながら加え、6時間攪拌させ、さらに0.0853mlのチタンブトキシド(Ti(OnBu)4、密度:0.998g/ml)を加えて12時間攪拌させた。この溶液に、上記方法により表面に水酸基を導入した水晶振動子を30℃で10分間浸漬させ、次いで、30℃の洗浄溶液(トルエン)に1分間浸漬して洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、次いで発振子電極表面の金属アルコキシドを加水分解するために水晶振動子の振動数が一定になるまで空気中で数分間放置した。以上の操作を繰り返して行い、金属酸化物複合体薄膜を逐次積層化させた。
表1には、実施例1の金属酸化物複合体薄膜の積層化に基づく水晶振動子の振動数変化(−ΔF)を示した。
【0051】
【表1】
Figure 0003694827
【0052】
表1に示されるように、水晶振動子の振動数は積層サイクル数に比例して減少した。この結果は、本実施例の方法によって、水晶発振子の電極表面に一定重量の金属酸化物複合体薄膜が逐次形成されていることを示している。7サイクル後の振動数変化の値から、膜厚は120nmであると計算された。
XPS測定から見積もられた薄膜組成は、元素組成で銅(2.24%)、酸素(37.81%)、チタニウム(9.96%)、窒素(7.31%)、炭素(39.01%)、ケイ素(3.67%)であった。この値から、該薄膜は、炭素含量が25重量%であり、配位子含量が27重量%であり、1つの配位子につき0.6個の銅イオンを含むことが示された。但し、XPS測定では、水素原子の定量を行うことができず、上記値は、数%の誤差を含む。なお、ここでの配位子の含有量は、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランにおいて、3つのメトキシ基からメチル基を取り除いた分子量として計算された。
【0053】
次に、上記で得られた金属酸化物複合体薄膜をpH4の塩酸水溶液に10分間浸漬して鋳型として用いた金属イオンを溶かし出し、次いで、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。水晶振動子の振動数は、金属イオンの除去により増加していた。この結果は、本実施例の方法によって、水晶振動子の電極表面に逐次形成された金属酸化物複合体薄膜から金属イオンが取り除かれていることを示している。振動数変化から見積もられた金属イオンの脱着量は、総吸着量の13%であった。一方、金属酸化物複合体薄膜の作成に用いた金属化合物複合体中の金属イオンの重量比(14%)と一致した。この結果は、上記洗浄操作により金属酸化物複合体薄膜中の金属イオンが完全に脱着していることを示している。
【0054】
この刷り込み膜に対する金属イオンの吸着選択性を示すために、Cu2+イオンとZn2+イオンの結合量を調べた。まず、前記金属イオンの除去操作後の水晶振動子を硝酸銅(II)三水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。次いで、Cu2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、pH4の塩酸水溶液に10分間浸漬してCu2+イオンを溶かし出し、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Cu2+イオンの除去を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、水晶振動子を硝酸亜鉛(II)六水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Zn2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。これらの吸着と脱着操作を繰り返し、Cu2+イオンとZn2+イオンの吸着選択性を比較した。
【0055】
表2には実施例1で形成した金属酸化物薄膜における金属イオンに吸着に基づく水晶発振子の振動数変化(−ΔF)を示した。また、Cu2+イオンとZn2+イオンの吸着操作を1サイクルとし、各サイクルでの鋳型金属イオンと参照金属イオンの結合量の比を分離係数(α)と定義し、表2の中に示した。
【0056】
【表2】
Figure 0003694827
【0057】
表2に示されるように、少なくとも3サイクルまではCu2+イオンに対する有意な選択性を示すことが確認された。
このようなCu2+イオンに対する選択性をさらに裏付けるために、Cu2+イオンとZn2+イオンの混合溶液から競争的な吸着を行い、導入された金属イオンのモル量をXPS測定から見積もった。具体的には、ガラス基板上に前述と同じ操作でCu2+刷り込み膜を作成し、これを硝酸銅(II)三水和物(5mM)と硝酸亜鉛(II)六水和物(5mM)のエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。XPS測定では、Zn2+イオンに対するCu2+イオンの結合選択性(1サイクル目)が7.5倍であることが示された。
【0058】
(実施例2)
0.074gの硝酸亜鉛(II)六水和物を12mlのエタノールに溶解し、この溶液に0.0853mlのチタンブトキシド(Ti(OnBu)4)を加え、さらに0.112mlのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを加え、さらに12mlのトルエンを加えて12時間攪拌させた。この溶液に、実施例1での方法により表面に水酸基を導入した水晶振動子を30℃で10分間浸漬させ、次いで、30℃の洗浄溶液(トルエン)に1分間浸漬して洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、次いで発振子電極表面の金属アルコキシドを加水分解するために水晶振動子の振動数が一定になるまで空気中で数分間放置した。以上の操作を繰り返して行い、金属酸化物複合体薄膜を逐次積層化させた。
表3には、実施例2の金属酸化物複合体薄膜の積層化に基づく水晶振動子の振動数変化(−ΔF)を示した。
【0059】
【表3】
Figure 0003694827
【0060】
表3に示されるように、水晶振動子の振動数は積層サイクル数に比例して減少した。この結果は、本実施例の方法によって、水晶発振子の電極表面に一定重量の金属酸化物複合体薄膜が逐次形成されていることを示している。
【0061】
次に、上記で得られた金属酸化物複合体薄膜をpH4の塩酸水溶液に10分間浸漬して鋳型として用いた金属イオンを溶かし出し、次いで、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。水晶振動子の振動数は、金属イオンの除去により増加していた。
【0062】
この刷り込み膜に対する金属イオンの吸着選択性を示すために、Zn2+イオンとCu2+イオンの結合量を調べた。まず、前記金属イオンの除去操作後の水晶振動子を硝酸亜鉛(II)六水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Zn2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、pH4の塩酸水溶液に10分間浸漬してZn2+イオンを溶かし出し、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Zn2+イオンの除去を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、水晶振動子を硝酸銅(II)三水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。次いで、Cu2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。これらの吸着と脱着操作を繰り返し、Zn2+イオンとCu2+イオンとの吸着選択性を比較した。
【0063】
表4には実施例2の金属酸化物薄膜における金属イオンに吸着に基づく水晶発振子の振動数変化(−ΔF)を示した。また、Zn2+イオンとCu2+イオンの吸着操作を1サイクルとし、各サイクルでの鋳型金属イオンと参照金属イオンの結合量の比を分離係数(α)と定義し、表4の中に示した。
【0064】
【表4】
Figure 0003694827
【0065】
表4に示されるように、少なくとも3サイクルまではZn2+イオンに対する有意な選択性を示すことが確認された。
また、この刷り込み膜の表面を走査電子顕微鏡により観察した結果を、図1に示した。観察は、刷り込み膜を有する水晶振動子を切断し、2nmの白金コーティングを施し、加速電圧25kVで走査電子顕微鏡により行った。図1から明らかなように、刷り込み膜は、60nmの膜厚を有する。また、水晶振動子の振動数変化と走査電子顕微鏡による膜厚測定から、刷り込み膜の密度は、約1.7g/cm3と見積もられた。
【0066】
(比較例1)
12mlのエタノールに0.112mlのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを加えて1時間攪拌し、トルエン12mlを加え、さらに0.045mlのイオン交換水を攪拌しながら加え、6時間攪拌させ、さらに0.0853mlのチタンブトキシド(Ti(OnBu)4)を加えて12時間攪拌させた。この溶液に、実施例1に示した方法により表面に水酸基を導入した水晶振動子を30℃で10分間浸漬させ、次いで、30℃の洗浄溶液(トルエン)に1分間浸漬して洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、次いで発振子電極表面の金属アルコキシドを加水分解するために水晶振動子の振動数が一定になるまで空気中で数分間放置した。以上の操作を繰り返して行い、金属酸化物複合体薄膜を逐次積層化させた。
表5には、比較例1の金属酸化物複合体薄膜の積層化に基づく水晶振動子の振動数変化(−ΔF)を示した。
【0067】
【表5】
Figure 0003694827
【0068】
表5に示されるように、水晶振動子の振動数は積層サイクル数に比例して減少した。この結果は、水晶発振子の電極表面に一定重量のCu2+イオンやZn2+イオンを含まない金属酸化物複合体薄膜が逐次形成されていることを示している。
【0069】
この酸化物薄膜に対する金属イオンの吸着性を確認するために、Cu2+イオンとZn2+イオンの結合量を調べた。まず、水晶振動子を硝酸銅(II)三水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。次いで、Cu2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、pH4の塩酸水溶液に10分間浸漬してCu2+イオンを溶かし出し、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Cu2+イオンの除去を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、水晶振動子を硝酸亜鉛(II)六水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Zn2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。これらの吸着と脱着操作を繰り返し、Cu2+イオンとZn2+イオンの吸着選択性を比較した。
【0070】
表6には比較例1の金属酸化物薄膜における金属イオンに吸着に基づく水晶発振子の振動数変化(−ΔF)を示した。また、Cu2+イオンとZn2+イオンの吸着操作を1サイクルとし、各サイクルでのCu2+イオンとZn2+イオンの結合比を表6の中に示した。
【0071】
【表6】
Figure 0003694827
【0072】
表6で示されるように、Cu2+イオンの刷り込みを行わない場合、Zn2+イオンに対するCu2+イオンの結合比は、0.7〜1.2の値を示し、特に選択性が現れなかった。
【0073】
(実施例3)
刷り込み膜の膜厚に対する金属イオン取りこみの効率を評価するために、実施例3として、異なる厚みの刷り込み膜の作成を行った。
まず、0.060gの硝酸銅(II)三水和物を12mlのエタノールに溶解し、0.112mlのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを加えて1時間攪拌し、トルエン12mlを加え、さらに0.045mlのイオン交換水を攪拌しながら加え、6時間攪拌させ、さらに0.0853mlのチタンブトキシド(Ti(OnBu)4)を加えて12時間攪拌させた。この溶液に、実施例1に示した方法により表面に水酸基を導入した水晶振動子を30℃で10分間浸漬させ、次いで、30℃の洗浄溶液(トルエン)に1分間浸漬して洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、次いで発振子電極表面の金属アルコキシドを加水分解するために水晶振動子の振動数が一定になるまで空気中で数分間放置した。以上の操作を繰り返して行い、金属酸化物複合体薄膜を逐次積層化させた。
表7には、実施例3での上記吸着操作を10サイクル行った場合の金属酸化物複合体薄膜の積層化に基づく水晶振動子の振動数変化(−ΔF)を示した。
【0074】
【表7】
Figure 0003694827
10サイクル後の振動数変化の値から、膜厚は210nmであると計算された。
【0075】
次に、0.060gの硝酸銅(II)三水和物を12mlのエタノールに溶解し、0.112mlのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを加えて1時間攪拌し、トルエン12mlを加え、さらに0.045mlのイオン交換水を攪拌しながら加え、6時間攪拌させ、さらに0.0853mlのチタンブトキシド(Ti(OnBu)4)を加えて8時間攪拌させた。この溶液に、実施例1に示した方法により表面に水酸基を導入した水晶振動子を30℃で10分間浸漬させ、次いで、30℃の洗浄溶液(トルエン)に1分間浸漬して洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、次いで発振子電極表面の金属アルコキシドを加水分解するために水晶振動子の振動数が一定になるまで空気中で数分間放置した。以上の操作を繰り返して行い、金属酸化物複合体薄膜を逐次積層化させた。
表8には、実施例3での上記吸着操作を7サイクル行った場合の金属酸化物複合体薄膜の積層化に基づく水晶振動子の振動数変化(−ΔF)を示した。
【0076】
【表8】
Figure 0003694827
7サイクル後の振動数変化の値から、膜厚は72nmであると計算された。
【0077】
次に、0.060gの硝酸銅(II)三水和物を12mlのエタノールに溶解し、0.112mlのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを加えて1時間攪拌し、トルエン12mlを加え、さらに0.045mlのイオン交換水を攪拌しながら加え、6時間攪拌させ、さらに0.0853mlのチタンブトキシド(Ti(OnBu)4)を加えて12時間攪拌させた。この溶液に、実施例1に示した方法により表面に水酸基を導入した水晶振動子を30℃で10分間浸漬させ、次いで、30℃の洗浄溶液(トルエン:エタノール、1:1(v/v))に1分間浸漬して洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、次いで発振子電極表面の金属アルコキシドを加水分解するために水晶振動子の振動数が一定になるまで空気中で数分間放置した。以上の操作を繰り返して行い、金属酸化物複合体薄膜を逐次積層化させた。
表9には、実施例3での上記吸着操作を10サイクル行った場合の金属酸化物複合体薄膜の積層化に基づく水晶振動子の振動数変化(−ΔF)を示した。
【0078】
【表9】
Figure 0003694827
10サイクル後の振動数変化の値から、膜厚は3.2nmであると計算された。
【0079】
表7〜9に示したように、浸漬サイクルの回数や、浸漬溶液の攪拌時間、洗浄溶媒の選択により、異なる厚みの金属酸化物複合体薄膜を作成することが可能である。
【0080】
次に、上記で得られた3つの金属酸化物複合体薄膜をpH4の塩酸水溶液に10分間浸漬して鋳型として用いた金属イオンを溶かし出し、次いで、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。水晶振動子の振動数は、金属イオンの除去により増加していた。
実施例1に示した120nmの膜厚を有する金属酸化物複合体薄膜の場合、鋳型として用いた金属イオンを溶かし出すことで、1065Hzの振動数増加を示した。一方、実施例3での金属酸化物複合体薄膜の場合、210nmの薄膜で1550Hz、72nmの薄膜で421Hz、3.2nmの薄膜で47Hzの振動数増加を示す。なお、この結果は、上記洗浄操作により金属酸化物複合体薄膜中の金属イオンが完全に脱着していることを示している。
【0081】
これらの刷り込み膜に対するCu2+イオンの再吸着量を調べるために、前記金属イオンの除去操作後の水晶振動子を硝酸銅(II)三水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。次いで、Cu2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。
表10には実施例3での金属酸化物薄膜におけるCu2+イオンの脱着ならびにCu2+イオンに再吸着に基づく水晶発振子の振動数変化(−ΔF)を示した。また、実施例1でのデータを合わせて示した。また、脱着量に対する再結合量をパーセント表記し、再結合比として表10中に示した。
【0082】
【表10】
Figure 0003694827
【0083】
表10に示されるように、Cu2+イオンの再結合量は、膜厚に比例しない。3.2nmの薄膜では、100%の再結合比を示すのに対し、72nmの薄膜では27%しか再結合できない。さらに膜厚が厚くなると、Cu2+イオンの再結合量が減少する。これらの結果は、薄膜の表面近傍だけが金属イオンの再結合に寄与していることを示すとともに、超薄膜構造の高効率な金属イオンの補足能を示すものである。
【0084】
(実施例4)
次に、水酸基もしくは金属アルコキシド基と結合し得る基ならびに金属イオンと配位し得る基を併せ持つ金属化合物を変えて、本発明の薄膜材料を調製した。
0.060gの硝酸銅(II)三水和物を12mlのエタノールに溶解し、0.310gのビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(62wt%、メタノール溶液)を加えて1時間攪拌し、トルエン12mlを加え、さらに0.045mlのイオン交換水を攪拌しながら加え、6時間攪拌させ、さらに0.0853mlのチタンブトキシド(Ti(OnBu)4)を加えて12時間攪拌させた。この溶液に、上記方法により表面に水酸基を導入した水晶振動子を30℃で10分間浸漬させ、次いで、30℃の洗浄溶液(トルエン)に1分間浸漬して洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、次いで発振子電極表面の金属アルコキシドを加水分解するために水晶振動子の振動数が一定になるまで空気中で数分間放置した。以上の操作を繰り返して行い、金属酸化物複合体薄膜を逐次積層化させた。
表11には、実施例4の金属酸化物複合体薄膜の積層化に基づく水晶振動子の振動数変化(−ΔF)を示した。
【0085】
【表11】
Figure 0003694827
【0086】
表11に示されるように、水晶振動子の振動数は積層サイクル数に比例して減少した。この結果は、本実施例の方法によって、水晶発振子の電極表面に一定重量の金属酸化物複合体薄膜が逐次形成されていることを示している。5サイクル後の振動数変化の値から、膜厚は98nmであると計算された。
【0087】
次に、上記で得られた金属酸化物複合体薄膜をpH4の塩酸水溶液に10分間浸漬して鋳型として用いた金属イオンを溶かし出し、次いで、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。水晶振動子の振動数は、金属イオンの除去により735Hz増加した。
【0088】
この刷り込み膜に対する金属イオンの吸着選択性を示すために、Cu2+イオンとZn2+イオンの結合量を調べた。まず、前記金属イオンの除去操作後の水晶振動子を硝酸銅(II)三水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。次いで、Cu2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、pH4の塩酸水溶液に10分間浸漬してCu2+イオンを溶かし出し、イオン交換水で十分洗浄後、3分間pH10の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、2分間イオン交換水で洗浄後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Cu2+イオンの除去を水晶振動子の振動数変化から見積もった。次いで、水晶振動子を硝酸亜鉛(II)六水和物を溶解した10mMエタノール溶液に10分間浸漬し、エタノールで90秒間洗浄後、乾燥窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。Zn2+イオンの結合量を水晶振動子の振動数変化から見積もった。これらの吸着と脱着操作を繰り返し、Cu2+イオンとZn2+イオンの吸着選択性を比較した。
【0089】
表12には実施例5の金属酸化物薄膜における金属イオンに吸着に基づく水晶発振子の振動数変化(−ΔF)を示した。また、Cu2+イオンとZn2+イオンの吸着操作を1サイクルとし、各サイクルでの鋳型金属イオンと参照金属イオンの結合量の比を分離係数(α)と定義し、表12の中に示した。
【0090】
【表12】
Figure 0003694827
【0091】
表12に示されるように、少なくとも3サイクルまではCu2+イオンに対する有意な選択性を示すことが確認された。
【0092】
【発明の効果】
以上詳しく説明したように、本発明の薄膜材料は、ナノメートル厚みの金属酸化物薄膜をベースとして、金属イオンと結合する空隙を鋳型により記憶させるものである。このため、本発明の薄膜材料は、様々な金属イオンの選択的吸着に応用することができる。このような薄膜材料は、穏和な条件下で簡単な操作によって、あらゆる形状の基板もしくは固体表面に形成することができ、生産性も高い。このような他に類を見ない特徴を有する本発明の薄膜材料は、様々な分離機能膜を設計、製造する手段として、金属イオンのセンサーを構築する手段として、医学的な各種疾患の診断手段として、生体内の特定金属イオンを除去することによる疾患の治療手段として、有機反応における触媒イオンを除去する手段として、金属イオンの高効率な分離手段として、金属イオンの濃縮による固体表面への無機物析出の手段として、様々な対応の複合超薄膜材料を設計、製造する手段として、各種の分野に幅広く応用されることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2の金属酸化物複合体薄膜表面の走査型電子顕微鏡による撮影像を示す図である。

Claims (11)

  1. 空間配置が固定されている配位子を有する金属酸化物ゲルからなる薄膜材料であって、
    前記配位子は少なくとも1種の金属イオンを選択的に配位させることができ、
    前記薄膜材料の炭素含量が15〜55重量%であり、密度が0.6〜2.6g/cm3である薄膜材料。
  2. 配位子を有する金属酸化物ゲルからなり、炭素含量が15〜55重量%であり、密度が0.6〜2.6g/cm3である薄膜材料であって、前記金属酸化物ゲルは、金属イオン溶液に接触させることにより該金属イオンを金属酸化物ゲル中に導入しさらに導入した金属イオンを洗浄により取り除く操作を1回以上施すことによって、該金属イオンに対する選択的吸着能を持つようになる構造を有している前記薄膜材料。
  3. 配位子含量が5〜50重量%である請求項1または2に記載の薄膜材料。
  4. 厚みが0.5〜100nmである請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜材料。
  5. 前記炭素含量が25〜45重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜材料。
  6. 前記密度が1.1〜2.1g/cm3である請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜材料。
  7. 前記配位子を有しない金属酸化物薄膜と、前記配位子を有する配位性金属酸化物薄膜から構成される請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜材料。
  8. 前記金属酸化物薄膜の上に、前記配位性金属酸化物薄膜が形成されている構造を有する請求項7に記載の薄膜材料。
  9. 前記配位性金属酸化物薄膜の上下に、前記金属酸化物薄膜が形成されている構造を有する請求項8に記載の薄膜材料。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の薄膜材料が固体上に化学吸着されている材料。
  11. 前記固体が、金属アルコキシド基に対する反応性基を表面に有する固体である請求項10に記載の材料。
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