JP3693121B2 - 遠心または斜流ターボ機械 - Google Patents
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Description
この発明は、液体を圧送するための遠心または斜流形の液体ポンプや気体を圧縮するためのブロアまたはコンプレッサーを含むターボ機械に関連し、特に、子午面2次流れを抑制するための流体力学的改良の施された羽根形状の羽根車を備えたターボ機械に関するものである。
背景技術
従来、これらの遠心または斜流形ターボ機械の羽根車流路内において、流路に沿って流れる主流は、流路内の静圧力勾配等に起因して、壁面の境界層内の低エネルギー流体の移動により発生する2次流れに影響される。この現象は、流路内に渦や速度の不均一な流れを形成し、それが羽根車内ばかりでなくその下流のディフューザ、ガイドベーン等での大きな流体エネルギーの損失を引き起こす原因となっていた。
この2次流れは主流に垂直な速度成分を有する流れとして定義されている。そして、2次流れにより生ずるエネルギー損失全体は2次流れ損失と呼ばれている。2次流れ作用により流路の特定領域に集積された境界層内の低エネルギー流体は、大規模な流れの剥離を誘起し、右上がり揚程特性曲線を生じせしめ、ターボ機械の安定な運転を妨げる。
こうしたターボ機械の2次流れを抑制する方策として2つのものが知られていて、その1つは羽根車の特殊な流路形状によるアプローチであり、他の1つは外部からのエネルギー供給によるアプローチである。
特殊な流路形状を用いた2次流れ抑制のためのアプローチの例としては、軸流ターボ機械の羽根車において羽根を周方向あるいは吸い込みや吐き出し方向に傾斜させる構成(L. H. Smith and H. Yeh, "Sweep and Dihedral Effects in Axial Flow Turbomachinery", Trans. of the ASME, Journal of Basic Engineering, Vol.85, No.3. 1963, pp.401-416)、半径流ロータにおいて羽根がスパン方向に湾曲し凸面をなす羽根圧力面や凹面状の羽根負圧面を有するようにした構成(GB2224083A)、タービン翼列において翼を周方向へ傾斜又は湾曲させる構成(W. Zhougqi, et al.,"Ar. Experimental Investigation into the Reasons of Reducing Secondary Flow Losses by Using Leaned Blades in Rectangular Turbine Cascades with Incidence Angle", ASME Paper 88-GT-4)がある。適切に適用されれば、これらはいずれも流路内部の2次流れに好適な影響を与えうることが知られている。
しかしながら、これらの公知例では、翼キャンバ線あるいは翼断面形状が2次流れに及ぼす影響を本質的には把握できていなかったことから、翼キャンバ線あるいは翼断面形状を実質的に変化させることなしに、羽根傾斜あるいは湾曲の効用を所定の制約下で活用していたにすぎない。また、特開昭63−10281号には、ターボ機械のハブ面と羽根面とのコーナー部に隆起部を設け、2次流れ損失を低減する構成が開示されているが、このような流路形状は非軸対称なハブ面を有する特殊な羽根形状であるために羽根車の製作が困難である。
いずれの公知例においても、効用の普遍性を確保するための取り組みが不十分であった。
設計条件が変化する場合や機種が相違する場合において、2次流れを抑制するための、普遍的手法を確立するには至っていない。このため期待した効用が得られなかったり、あるいは、逆に効用の減退を招くなどの不都合があった。その結果、今日まで、このような羽根車の特殊な流路形状により、2次流れを低減させるアプローチにあっては、その設計基準が不明であり、試行錯誤的に羽根車の3次元形状を設計して、2次流れを抑制する上での最適形状を模索するしか方策がなかった。
一方、外部からのエネルギー供給を用いた2次流れ抑制のためのアプローチとしては、翼列入口部への流体吹き込みによりタービン翼列内の2次流れを制御する構成(T.E.Biesinger and D.G.Gregory-Smith, "Recuction in Secondary Flows and Losses in a Turbine Caxcade by Upstream Boundary Layer Blowing",ASME Paper 93-GT-114)や、羽根車入口部における噴流吹き込みにより羽根車内部の2次流れを制御し、ターボ機械の不安定特性を回避する構成(PCT/JP92/01280)が提案されているが、これら提案の構成は、噴流を吹き込むためのエネルギー源と付帯的な装置が必要になるという難点を伴っている。また、これらの構成には、2次流れを抑制するのに定常的なエネルギー消費を伴うという問題点もある。
本発明は、上述の2つのアプローチのうち、前者の特殊な流路形状を用いる方のアプローチを採用するものである。ところで、こうした羽根車内の2次流れは、流線の曲りと羽根車の回転により生じるコリオリ力の作用により発生することが、2次流れ理論により明らかにされている。羽根車内の2次流れは、シュラウド面あるいはハブ面に沿って生じる翼間2次流れと、羽根の圧力面あるいは負圧面に沿って生じる子午面2次流れに大別される。
翼間2次流れは羽根の形状を後方湾曲させることで、抑制可能であることが知られている。もう一方の子午面2次流れは、流路の3次元形状の詳細な最適化が必要であり、容易に弱めたり打ち消したりすることができない。本発明の目的は、遠心または斜流ターボ機械の子午面2次流れを抑制することである。
本発明の適用される典型的なターボ機械の羽根の一例として、クローズド形羽根車の3次元形状を、シュラウド面の大部分が割愛された状態で模式的に図示したものが図1(A)(B)である。図1(A)の部分断面斜視図中のA−A’矢視図断面としての子午面断面が図1(B)に表されている。図1(A)(B)において、回転軸1を中心軸とした円錐体の外表面様の湾曲面をもって円盤様に延在するハブ面2上には、該面に対して、植設された羽根3の複数枚が、回転軸1を中心にハブ面2の半径方向に延び、該ハブ面の円周方向に等間隔で配列されている。複数枚の羽根3の上端面3aには、図1(B)に示されるように、シュラウド面4が覆い被せられていて、左右2枚の羽根3と、下方のハブ面2と、上方のシュラウド面4とで囲まれた空間により流路が構成され、羽根車6の回転軸1近傍の羽根入口6aから該羽根車の出口6bに向けて、流体が通過する。羽根車6が回転軸1を中心に回転角速度ωで回転することで、羽根車入口6aから流路に流入した流体が、羽根車出口6bに向けて移送される。この場合、羽根3の回転方向に向う面が圧力面3bとなり、これと反対の面3bが負圧面3cとなる。なお、オープン形羽根車の場合には、シュラウド面4を形成するための独立の部材は存在していないが、羽根車6を囲む図外のケーシングが機能的にシュラウド面4を兼ねている。流体力学的な基本構成において、子午線2次流れの発生と抑制の点では、クローズド形羽根車と差異がないので、以降の説明は、クローズド形羽根車の例示の下で進められる。
このような複数個の羽根3から成る羽根車6を中核的な構成要素として組み込んで、回転軸1を回転駆動源に連結し、吸込管など経由で流体を羽根入口6aに導入し、羽根出口6bからの流体を吐出管など経由で機外に導出することにより、ターボ機械が構成されるものである。
このようなターボ機械を構成する羽根車における未解決の深刻な課題として、それの抑制が本発明の対象となっているところの子午面2次流れの発生メカニズムは以下のように説明されている。
即ち、図1(B)に示されるように、羽根流路内の相対流れに関しては、主流に対する流線の曲率による遠心力W2/Rの作用と、羽根車の回転によるコリオリ力2ωWθの作用とにより、相対圧力場p*(=p−0.5ρu2)が定まる。ここに、Wは流れの相対速度、Rは流線の曲率半径、ωは羽根車の回転角速度、WθはWの回転軸1に対する周方向の速度成分である。そして、p*は相対圧力場であり、pは静圧、ρは流体の密度、uは回転軸1からの所定の半径位置における周速度である。相対圧力場p*の分布は、図1(B)中のハブ側へと向かう遠心力W2/Rとコリオリ力2ωWθとに対してバランスするように、ハブ側で高く、シュラウド側で低い分布となる。
羽根面に沿う境界層内部では、相対速度Wが壁面の影響により減少しているので、境界層内部の流体に作用する遠心力W2/Rとコリオリ力2ωWθが小さくなる。その結果、上述の主流の圧力場p*とバランスすることができないので、境界層内の低エネルギー流体は相対圧力p*の小さな領域へと向かい、子午面2次流れを生ずるのである。
つまり、図1(A)中で、羽根3の圧力面3b上の破線矢印、負圧面3c上の実線矢印にて示されているように、羽根3の圧力面3bないし負圧面3c上で、ハブ側からシュラウド側に向けての羽根面に沿う流体の移動が子午面2次流れである。
子午面2次流れは、羽根3の負圧面3cと圧力面3bの両壁面で生じうるが、一般に負圧面3c上の境界層の方が厚いので、負圧面3c上での2次流れの発生がターボ機械の性能特性に与える影響が大きいことが知られている。本発明は、こうした羽根の負圧面上の子午面2次流れの抑制を目的するものである。
かくて、境界層内の低エネルギー流体がハブ側からシュラウド側に移動すると、これに応じて、その移動による流量を補うように翼間の中央部では逆にシュラウド側からハブ側に向かって流れが生じる。その結果、図2(A)の部分断面斜視図中のB−B’矢視断面図である図2(B)に模式的に明示されるように、羽根間の流路内に、旋回方向の異なる1対の渦が形成されることになる。このような渦は2次渦と呼ばれるが、この渦によって流路内の低エネルギー流体が、羽根車内のある特定の場所(相対圧力p*の低い領域)に蓄積されてしまい、これが流路内で正常に流れている流体と混合して大きな流れ損失を生ずる原因となる。
また、相対速度が低い(低損失)流体と、相対速度が高い(高損失)流体とが十分に混合せずに生じた不均一な流れが、羽根の下流の流路に放出されると、これらが混合する際に、大きな流れ損失を生ずる原因となる。
こうした不均一な羽根車出口流れは、ディフューザ入口部での速度三角形を不適切なものとし、羽根付きディフューザで流れを分離し、羽根無しディフューザ内で逆流を生じ、ターボ機械全体の性能を著しく低下させる原因となる。
さらに、上述の流路内部の特定の場所に集積した低エネルギー流体の領域では、大規模な逆流が発生しやすくなるので、右上がりの不安定な揚程特性を生じ、サージング、振動、騒音などを誘起し、ターボ機械の安定な運転を阻害する原因となる。
従って、遠心または斜流形ターボ機械の性能を向上させ、その安定な運転を実現するためには、この2次流れを極力抑制するように流路の3次元形状の設計を行ない、2次渦や、不均一な流れの発生及び、大規模な流れの剥離などを防止する必要がある。
発明の開示
本発明は、上記の背景技術に基づくターボ機械の羽根車における子午面2次流れの抑制の不徹底に起因する損失の増大や運転の安定性の欠如という問題点に鑑み、下記列挙の4つの設計上のアスペクトに従って、上記問題点を解決することで、ターボ機械の損失を低減し、運転の安定性を向上させることを課題とするものである。
(1) 本発明の第1のアスペクトは、羽根の負圧面上でのハブ側とシュラウド側間の相対圧力差ΔCp(又は相対速度のマッハ数の差ΔM)の子午面長さに対する分布によって特徴付けられるものであり、無次元子午面長さ0(羽根車入口)と無次元子午面長さ1.0(羽根車出口)との間において、羽根車出口方向に向うにつれて、相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)が顕著な減少傾向を呈するように設計されていることである。又、羽根車入口と羽根車出口との間において、羽根車出口方向に向うにつれて、相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)が略ゼロとなるか、あるいは、さらに羽根車出口方向に向うにつれて、ΔCp(又はΔM)の極性反転を呈するように設計されていることである。
このように相対圧力差ΔCpの分布を設計することにより、相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)が顕著な減少傾向を呈する羽根位置において、子午面2次流れが顕著に抑制され、結果的に、羽根車全体の子午面2次流れが効果的に抑制されるように作用する。この場合、相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)の顕著な減少傾向の度合いとそれが生ずる羽根位置が最適であれば、子午面2次流れの抑制作用が最大化される。
そして、顕著な減少傾向の度合いに関しては、相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)の極小値を得る無次元子午面長さmの位置から無次元子午面長さ0.4を差し引いた位置において得られる相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)と、該極小値の差が0.20(又は、相対速度のマッハ数において0.15)以上であれば最適であり、顕著な減少傾向の生ずる羽根位置に関しては、無次元子午面長さm=0.4〜1.0の範囲内の羽根位置であれば最適である。ここに、無次元子午面長さは、図1(B)に示される羽根の子午面断面において、シュラウド側に関しては、子午面内の羽根車入口6a位置からシュラウド面沿いの任意の羽根位置までの距離1Sと、該羽根車入口6a位置からシュラウド面沿いの末端の羽根車出口6b位置までの距離lT,Sとの比lS/lT,Sにより定義され、さらにハブ面に関しても、同様に、羽根車入口6a位置からハブ面沿いの任意の羽根位置までの距離lHと、末端の羽根車出口6b位置までの距離lT,Hとの比lH/lT,Hにより各別に定義される無次元量であり、m=0が羽根車入口6a位置に対応し、m=1.0が羽根車出口6b位置に対応する。
相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)の差が略ゼロとなる羽根位置、または極性反転の生ずる羽根位置が、無次元子午面長さm=0.6以上であれば好適であるが、特に無次元子午面長さm=0.65〜0.9の範囲内(羽根出口付近)であれば最適であり、その場合に、子午面2次流れの抑制作用が最大化される。
なお、液体ポンプなどにおける非圧縮性流体に対しては、相対圧力差ΔCpが採用されるのに対して、コンプレッサーなどにおける圧縮性流体に対しては、相対速度のマッハ数の差ΔMが採用されるが、これらは流体力学上、2次流れの発生に及ぼす影響が動的に等価であるので、以降、相対圧力差ΔCpの方のみを用いて説明を進める。
(2) 本発明の第2のアスペクトは、羽根車内の半径rと、その位置における流体の絶対速度Vの平均周方向成分
との積
の、子午面長さ方向の変化率
の子午面長さに対する分布、すなわち、翼面負荷分布によって特徴付けられるものである。
ここにおいて、rは図1(B)に示すように、円筒極座標系の半径座標であり、
は絶対速度Vの周方向速度成分Vθを周方向平均した値を示す。すなわち、羽根のシュラウド側の翼面負荷分布
の最大値が、羽根前半部で生じ、羽根のハブ側の翼面負荷分布
の最大値が、羽根後半部で生じるように設計されていることである。
又、m=0の羽根車入口近傍では、羽根のシュラウド側の翼面負荷分布δ
値の方が、羽根のハブ側の翼負荷分布
値よりも大きく、m=1の羽根車出口近傍では、シュラウド側の翼面負荷分布
値の方が、ハブ側の翼面負荷分布
値よりも小さくなり、結局、m=0〜1の羽根車入口と羽根車出口との間でシュラウド側の翼面負荷分布
値とハブ側の翼面負荷分布
値とに大小関係の逆転を呈するように設計されていることである。
このような、翼面負荷分布
の分布の特徴を実現するように羽根車を設計することにより、羽根車入口側では、シュラウド側での翼負荷を大きくする半面、ハブ側での翼負荷を小さくし、一方、羽根車出口側では、これとは逆に、シュラウド側での翼負荷を小さくする半面、ハブ側での翼負荷大きくすることができる。このことは、結局、本発明の第1のアスペクトに反映して、羽根車入口側では、比較的大きな相対圧力差ΔCpを実現し、羽根車出口側では、著しく小さな相対圧力差ΔCpを実現することになるので、結果的に、羽根車入口と羽根車出口との間で相対圧力差ΔCpの顕著な減少を生じ、子午面2次流れを効果的に抑制するように作用する。
この場合、シュラウド側の翼面負荷分布
値とハブ側の翼面負荷分布
値との大小関係の逆転を生ずる羽根位置が最適であれば、子午面2次流れの抑制作用が最大化される。そのような羽根位置としては無次元子午面長さがm=0.5以上が好適であり、特に無次元子午面長さm=0.55〜0.85の範囲内が最適である。シュラウド側における
が最大値を羽根前半部で示す位置としてはm=0〜0.3が望ましく、またハブ側における
が最大値を羽根後半部で示す位置としてはm=0.6〜1.0が望ましい。
(3) 本発明の第3のアスペクトは、羽根車出入口間の全体あるいは羽根車出口側の後半部において、羽根車の外周側から見た場合の羽根形状に関し、羽根車のハブ側が羽根車のシュラウド側に対して羽根車の外周沿いに羽根車の回転方向に先行するような円周方向の羽根傾斜を施して設計されていて、しかも、羽根傾斜角度γが一定ではなく羽根車出口に向かうにつれて減少傾向を呈するように設計されているということである。ここにおいて、羽根傾斜角度γは、羽根車の流路断面上において、羽根車の翼断面の中心線がシュラウド面に対して成す角度として定義され、図11(C)は図10のE−E’矢視の羽根車出口での流路断面上での羽根傾斜角度γを示す。さらに羽根車入口側から見た場合の羽根形状に関し、羽根車出口位置における羽根の翼断面の中心線が羽根車の外周の接線に対して成す角度として定義される羽根出口角度αTE(図11(C))の値がハブ上での値αTE,Eからシュラウド上での値αTE,Sへと減少し、しかも、羽根車入口側から見た場合のハブ面上での翼断面の中心線が、任意の羽根位置における羽根車の円周の接線に対して成す角度として定義される羽根角度αH(図11(C))が羽根車出口側で最大値または極大値を呈するように設計されているのが好適である。
結局、このことは、羽根車の入口側から見た場合のハブ面上の羽根形状に関し、羽根車出口側の羽根位置後半部において、羽根車が回転方向の後方に向けて湾曲する度合いを弱め、羽根車出口に向かうにつれてハブ側の羽根角度αHをシュラウド側の羽根角度αSとの相対において大きくし、その結果、羽根のハブ側が相対的に羽根のシュラウド側に対して、羽根車の回転方向に向けて先行するような羽根形状が実現されることを意味する。
このように、円周方向の羽根傾斜を施して設計することにより、シュラウド側での相対圧力p*を上昇させることで、ここでの圧力係数Cpを減少させる半面、ハブ側での相対圧力p*を低下させることで、ここでの圧力係数Cpを増大させることができる。このことは、結局、本発明の第1のアスペクトに反映して、羽根車入口と羽根車出口との間で羽根車出口に向うにつれて出現する翼負圧面上の相対圧力差ΔCpの減少傾向を強調するように作用する。
この場合、円周方向の羽根傾斜の形状が適切であれば、子午面2次流れの抑制作用が最大化される。適切な羽根傾斜においては、羽根車の入口側から見た場合の羽根形状に関し、ハブ面上の羽根角度αHが最大となった後に回転方向後方に対する凸湾曲へと転ずる変曲点位置が、無次元半径位置r*=(r−r1H)/(r2H−r1H)=0.6以上、または無次元子午面長さがm=0.7以上であり、また、羽根形状の、羽根車出口へ向かう後方湾曲の程度は、ハブ側よりもシュラウド側で顕著となり(図11(C))、{d(rθ)/dr}S>{d(rθ)/dr}Hが成り立つ。ここに、rおよびθは、曲座標における半径座標と角度座標を示す。ここに角度座標θは羽根車の回転方向と逆方向に測った場合に正の値を持つとして定義する。そして、この場合、羽根形状全体の傾斜の度合いを示す指数として、羽根傾斜比S=(θTE,S−θTTE,H)/(θTE,M−θLE,M)が定義されるが、この羽根傾斜比Sが0.14以上であることが望ましい。ここに、θTE,Sは、羽根車のシュラウド側における羽根車出口が該円周方向の基準位置に対して成す角度を示し、θTE,Hは、羽根車のハブ側における羽根車出口が該基準角度に対して成す角度を示し、θTE,Mは、羽根車のシュラウド側とハブ側の中間点、すなわち、シュラウドとハブの中間点における羽根車出口が該基準位置に対して成す角度を示し、θLE,Mは、該中間点における羽根車入口が該基準位置に対して成す角度を示している(図11(C))。
抑制対象となる子午面2次流れが強い場合には、本発明のかかる第3のアスペクトのみにより、本発明の第1のアスペクトにおけるシュラウド側のハブ側での相対圧力差ΔCpの顕著な減少傾向を実現して、子午面2次流れを効果的に抑制しようとすると、必要な円周方向羽根傾斜の度合いが強くなり、製作上の困難を伴う。こうした場合にも、本発明の第3のアスペクトは、本発明の第2のアスペクトとの協調作用により、製作上の困難を伴わない形状で子午面2次流れの抑制作用を有効に発揮する。
(4) 本発明の第4のアスペクトは、ハブ側の羽根角度βHからシュラウド側の羽根角度差βSを差し引いて得られる羽根角度差βH−βSの無次元羽根子午面長さに対する分布によって特徴付けられる。すなわち、羽根車入口と羽根車出口との間において羽根車出口方向に向うにつれて、羽根角度βH−βSが顕著な増大傾向を呈するように設計されているということである。
ここに、羽根角度は、羽根車をハブ面又はシュラウド面の湾曲沿いに平面視した翼間流面上の羽根形状に関し、羽根の回転軸を中心とした円周方向の角度であり、羽根角度βHは、羽根車のハブ側の翼断面の中心線が該回転軸からの任意の半径r位置における円周方向接線に対して成す角度を示し、羽根角度βSは、羽根のシュラウド側の翼断面の中心線が該円周方向接線に対して成す角度を示している(図12(B)(C))。
このような羽根角度差βH−βSの分布を設計することにより、羽根車出口方向に向うにつれて、ハブ側の羽根角度βHが大きくなり、その結果ハブ側での翼負荷を羽根車出口方向に向うにつれて大きくすることができる。一方羽根出口方向に向うにつれて、シュラウド側の羽根角度βSを小さくすることで、シュラウド側での翼負荷を羽根車出口方向に向うにつれて小さくすることができる。このことは、結局、本発明の第1のアスペクトに反映して、羽根車出口側で、著しく小さな相対圧力差ΔCpを実現することになる。すなわち、羽根車入口と羽根車出口との間において現われる相対圧力差ΔCpの顕著な減少を通じて、子午面2次流れを効果的に抑制できる。
この場合、羽根角度差βH−βSの極大値又は最大値と、その極大値又は最大値が現われる羽根位置が最適であれば、子午面2次流れの抑制作用が最大化されるのであり、極大値又は最大値に関しては、20度以上の値が最適であり、また、無次元子午面長さm=0〜0.2の羽根車入口部における平均羽根角度差に対して10度以上大きな値が望ましい。極大値または最大値の現われる羽根位置に関しては、無次元子午面長さm=0.5以上が好適であり、特にm=0.7〜1.0の範囲が最適である。
なお、羽根角度差βH−βSが羽根車出口に向かって顕著な増大傾向を示す前に、部分的に減少傾向を呈する場合もあるが、βH−βSの顕著な増大傾向が子午面2次流れを抑制する効果には基本的に変わりがない。
【図面の簡単な説明】
図1〜図2は背景技術に関するものである。図1は、クローズド形羽根車の3次元形状における子午面2次流れを示す説明図であり、図1(A)は部分断面斜視図、図1(B)は図1(A)のA−A’矢視子午面断面図である。
図2は、クローズド形羽根車の子午面2次流れによる2次渦を示す説明図であり、図2(A)は部分断面斜視図、図2(B)は図2(A)のB−B’矢視断面図である。図3〜図14は本発明の最良の実施形態に関連するものである。図3〜図6は、横軸に無次元子午面長さmを配置し、縦軸に圧力係数Cpを配置した圧力係数曲線、図7〜図8は、横軸に無次元子午面長さmを配置し、縦軸に
すなわち、羽根車内の半径rと、その位置における流体の絶対速度Vの平均周方向成分
との積
の無次元子午面長さm方向の変化率を配置した翼面負荷分布
曲線、図9〜11は円周方向の羽根傾斜を示す説明図であり、図9(A)は羽根車の斜視図、図9(B)は図9(A)のC−C’矢視断面図、図10は羽根車の子午面断面図、図11は図10のD−D’及びE−E’矢視図で、図11(A)は従来設計の羽根車、図11(B)は羽根傾斜を有する従来設計の羽根車、図11(C)は本発明の羽根傾斜を有する羽根車を対比して示す。図12は翼間面上で定義する羽根角度を示す説明図であり、図12(A)は羽根車の斜視図、図12(B)は図12(A)のハブ面2の平面でのF矢視平面断面図、図12(C)は図12(A)のシュラウド面4の平面でのG矢視平面断面図である。図13は横軸に無次元子午面長さmを配置し、縦軸に羽根角度を配置した羽根角度曲線であり、図13(A)はハブ面の羽根角度βH曲線、図13(B)はシュラウド面の羽根角度βS曲線、図14はハブ面の羽根角度βHとシュラウド面の羽根角度βSとの間の羽根角度差βH−βS曲線である。
図15〜図74は本発明の最良の実施形態の実証データ例を示すものである。図15〜図26は低比速度遠心ポンプに関するものであり、図15、図18、図21、図24は圧力係数Cp曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュラウド面の曲線)、図16、図19、図22、図25は翼面負荷分布
曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュラウド面の曲線)、図17、図20、図23、図26は2次流れベクトル線図であり、図15〜図17は従来設計例、図18〜図20は本発明による円周方向の羽根傾斜のみを指向した設計例、図21〜図23は本発明による円周方向の羽根傾斜と翼面負荷分布
との組み合わせを指向した設計例、図24〜図26は本発明による翼面負荷分布
のみを指向した設計例である。
図27〜図38は中比速度斜流ポンプの羽根車の実証データを示し、図27、図30、図33、図36は圧力係数Cp曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュウラド面の曲線)、図28、図31、図34、図37は翼面負荷分布
曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュラウド面の曲線)、図29、図32、図35、図38は2次流れベクトル線図であり、図27から図29は従来設計例、図30〜図32は本発明による円周方向の羽根傾斜のみを指向した設計例、図33〜図35は本発明による円周方向の羽根傾斜と翼面負荷分布
との組み合わせを指向した設計例、図36〜図38は本発明による翼面負荷分布
のみを指向した設計例である。
図39〜図50は遠心コンプレッサーの羽根車の実証データを示し、図39、図42、図45、図48はマッハ数M曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュラウド面の曲線)、図40、図43、図46、図49は翼面負荷分布
曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュラウド面の曲線)、図41、図44、図47、図50は2次流れベクトル線図であり、図39〜図41は従来設計例、図42〜図44は本発明による円周方向の羽根傾斜のみを指向した設計例、図45〜図47は本発明による円周方向の羽根傾斜と翼面負荷分布
との組み合わせを指向した設計例、図48〜図50は本発明による翼面負荷分布
のみを指向した設計例である。
図51〜図62は斜流コンプレッサーの羽根車の実証データを示し、図51、図54、図57、図60はマッハ数M曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュラウド面の曲線)、図52、図55、図58、図61は翼面負荷分布
曲線(図中の実線はハブ面の曲線、破線はシュラウド面の曲線)、図53、図56、図59、図62は2次流れベクトル線図であり、図51〜図53は従来設計例、図54〜図56は本発明による円周方向の羽根傾斜のみを指向した設計例、図57〜図59は本発明による円周方向の羽根傾斜と翼面負荷分布
との組み合わせを指向した設計例、図60〜図62は本発明による翼面負荷分布
のみを指向した設計例である。
図63〜図74は、羽根角度曲線に関し、従来設計例と、本発明による円周方向の羽根傾斜のみを指向した設計例と、本発明による円周方向の羽根傾斜と翼面負荷分布
との組み合わせを指向した設計例と、本発明による翼面負荷分布
のみを指向した設計例とを対比して示す。図63〜図65は低比速度遠心ポンプの羽根車に関するものであり、図63はハブ面の羽根角度βH曲線、図64はシュラウド面の羽根角度βS曲線、図65は羽根角度差βH−βS曲線である。
図66〜図68は中比速度斜流ポンプの羽根車に関するものであり、図66はハブ面の羽根角度βH曲線、図67はシュラウド面の羽根角度βS曲線、図68は羽根角度差βH−βS曲線である。
図69〜図71は遠心コンプレッサーの羽根車に関するものであり、図69はハブ面の羽根角度βH曲線、図70はシュラウド面の羽根角度βS曲線、図71は羽根角度差βH−βS曲線である。
図72〜図74は斜流コンプレッサーの羽根車に関するものであり、図72はハブ面の羽根角度βH曲線、図73はシュラウド面の羽根角度βS曲線、図74は羽根角度差βH−βS曲線である。
図75は羽根車形状に対する円周方向の羽根傾斜の外観上の相違を示す斜視図であり、図75(A)は本発明による円周方向の羽根傾斜のみを指向した設計例、図75(B)は本発明による円周方向の羽根傾斜と翼面負荷分布
との組み合わせを指向した設計例である。
図76は、本発明のターボ機械に関する実証データの採取に際して採用された3次元逆解法の数値計算のフローの概略を示すフローチャートである。
発明を実施するための最良の形態
本発明の第1のアスペクトに関する最良の形態を説明すれば以下のとおりである。
羽根車流路内の相対流れの主流では、粘性の影響が無視できるので、液体ポンプなどにおける非圧縮性流れに対しては次式が近似的に成立する。
PTrel=p*+0.5ρW2=constant
ここにPTrelは、羽根車上流での相対全圧である。
次に、羽根面上の相対圧力p*(reduced static pressure)の無次元量として次式で圧力係数Cpを定義する。
Cp=(PTrel−p*)/(0.5ρU2)=(W/U)2
ここに、Uは羽根車外周での周速度である。
図3は無次元子午面長さmに対する圧力係数Cpの分布を、羽根車のハブ側と羽根車のシュラウド側について示したものである。Cpの定義式から明らかなように、相対圧力p*が低いシュラウド側では圧力係数Cpの値が大きく、相対圧力p*が高いハブ側では、圧力係数Cpの値が小さい。先に述べたように,羽根負圧面上の子午面2次流れは相対圧力p*の高い羽根車のハブ側から羽根車の負圧面沿いに相対圧力p*の低い羽根車のシュラウド側へと向かうので、この両者の圧力差ΔCpを小さくすることにより、子午面2次流れが抑制できることが期待される。なお、圧力係数Cpは非圧縮性流れを前提として定義され、相対速度Wの無次元量の2乗(W/U)2に等しいが、コンプレッサーなどの圧縮性流れにおいては、2次流れの挙動と密接に関連する物理量は相対速度のマッハ数であることが知られている。すなわち、以下の説明では簡単のため圧力係数Cpの分布について記述するが、非圧縮性流れにおける圧力係数Cpの分布が子午面2次流れに及ぼす影響は、圧縮性流れにおいて相対速度のマッハ数Mが子午面2次流れに及ぼす影響と等価である。
羽根車流路壁面に沿って発達する羽根面境界層は、羽根車入口から羽根車出口に向かって、累積的に厚みを増すので、本発明では、羽根車の後半部での圧力係数Cpの分布形状に着目して、羽根車の負圧面上の子午面2次流れを抑制するための構成を提案する。すなわち、羽根車の負圧面上で、ハブ側とシュラウド側間の圧力差ΔCpが羽根車出口に向かって顕著な減少傾向を示すような、図4に示される特徴的な圧力分布となるように羽根形状を設計するということである。こうした圧力差ΔCpが羽根車出口に向かって著しく減少するような羽根面圧力分布は、
(a) 図5に示されるようにハブ側における翼負荷、すなわち、羽根車の圧力面と負圧面間の圧力差を、羽根車出口に向かって著しく増大させたもの、
(b) 図6に示されるようにシュラウド側における翼負荷を、羽根車出口に向かって著しく減少させたもの、
(c) 上記(a)(b)の両者を組み合わせた構成のものとする。
結局のところ、図4に示されるように、羽根車の負圧面上での圧力差ΔCpが羽根車出口に向かって著しく減少する羽根面圧力分布とすることが要点である。
数多くの実証データについて検討を加えた結果、上記の顕著な減少傾向の程度としては、相対圧力差ΔCp(又は相対速度のマッハ数の差ΔM)を得る無次元子午面長さ位置から無次元子午面長さ0.4を差し引いた位置において得られる相対圧力差ΔCp(又はマッハ数の差ΔM)と上記極小値の差が0.2以上(相対速度のマッハ数の差ΔMでは0.15以上)が最適であることが明らかになった。また顕著な減少傾向の生じる羽根位置に関しては、無次元子午面長さがm=0.4〜1.0の範囲内の羽根位置であれば最適であることが明らかになった。
遠心羽根車や低比速度の斜流羽根車では、羽根車出口の幅が狭く、羽根車出口近傍ではハブ面とシュラウド面との間の圧力差が少なくなるので、通常、図4の羽根車出口、すなわち無次元子午面長さm=1.0の位置において、圧力差ΔCpが小さくなる。一方で、羽根車入口ではシュラウド側の圧力係数Cpはハブ側の圧力係数Cpよりも高い値を示す。従って、一般に、遠心羽根車や比速度の小さな斜流羽根車の負圧面上での圧力差ΔCpは、羽根車出口に向かうにつれ減少するという図4の特徴を本来的に継承しているものである。しかしながら、こうした羽根車において2次流れを抑制するためには、羽根車出口側で圧力差ΔCpがほとんどなくなるか、または、圧力差ΔCp<0、すなわち、ハブ側の圧力係数Cpがシュラウド側のそれよりも大きくなるように、さらに圧力差ΔCpの減少傾向を高めるよう配慮する必要がある。数多くの実証データについて検討を加えた結果、こうした圧力差ΔCpが略ゼロとなるか又は極性反転を生ずる羽根位置としては、無次元子午面長さがm=0.6以上の羽根位置(羽根車出口側)であれば好適であり、無次元子午面長さがm=0.65〜0.90の範囲内の羽根位置では最適であることが明らかになった。従来設計では、こうした特別な配慮が全く行われていないので、子午面2次流れを有効に抑制することはできなかった。
続いて本発明の第2のアスペクトに関する最良の形態を説明すれば以下のとおりである。
上記の相対圧力p*分布を実現するものとして、本発明では、羽根車が流体に及ぼす周方向平均角運動量
の無次元子午面長さm方向への変化率を規定することで、羽根形状を決定するための構成を提案する。
一般にターボ機械の羽根車の翼負荷、すなわち、羽根の圧力面の圧力p*(+)と負圧面の圧力p*(−)の間の圧力差p*(+)−p*(−)は次式で示される。
ここにWb1は翼面位置での相対速度、Bは羽根枚数であり、▽は微分演算子で空間座標に対する一次微分を意味する。
は、後述の図12(C)においてシュラウド上での翼間流れに対して例示する絶対速度Vの周方向速度成分Vθを周方向に平均したものである。この式から圧力面と負圧面の間の圧力差は、流路内での半径rとその位置での絶対速度の周方向速度成分Vθを周方向に平均した値との積
(角運動量)の子午面長さm方向の変化率に密接に関係していることがわかる。
従って、上述の図5、6に示されるように、翼負荷すなわち相対圧力係数のCpを増大あるいは減少させるには、角運動量
の変化率を適正に設定すればよいことが分かる。そこで本発明では角運動量
を以下のように与える。
まずハブ面上の
分布を、図7(A)に示されるように、羽根車入口側で低く押さえ、羽根車出口側で最大値を有するように与える。このようにすることにより、羽根後半部でのハブ面上の翼負荷p*(+)−p*(−)を増大させ、羽根前半部での翼負荷を減少できる。次に、シュラウド面上の
分布を、図7(B)に示されるように、羽根車入口側で最大値を有し、羽根車出口側で低い値を有する分布となるように与える。このようにすることにより、羽根前半部でのシュラウド面上の翼負荷p*(+)−p*(−)を増大させ、羽根後半部での翼負荷p*(+)−p*(−)を減少できる。図8には、ハブ面とシュラウド面上の
分布を組み合わせることで、子午面長さ方向の変化率
を羽根車入口側でシュラウド側がハブ側より高く、羽根車出口側で、ハブ側がシュラウド側より高くなるように定めることが示されている。この時、ハブ面上とシュラウド面上の
は、無次元子午面長さm=0〜1.0間で大小関係の逆転を呈し、両曲線は交差する。こうした分布を採用することにより、羽根車の負圧面上では、羽根前半部での比較的大きな圧力差ΔCpの値から、羽根後半部の小さな圧力差ΔCpの値へと、圧力差ΔCpの羽根車出口に向かう子午面長さ方向の減少傾向を大きくできるので、羽根車の負圧面上の子午面2次流れを効果的に抑制することが可能になる。数多くの実証データについて検討を加えた結果、両曲線の交差位置としては無次元子午面長さ0.5以上が好ましく、特に無次元子午面長さm=0.55〜0.85の範囲内で交差する場合が最も効果的であることが明らかになった。シュラウド側における
が最大値を羽根前半部で示す羽根位置としてはm=0〜0.3が望ましく、またハブ側における
が最大値を羽根後半部で示す羽根位置としてはm=0.6〜1.0が望ましい。
ところで、以上のように、翼面負荷分布
の適正な形状が定まれば、これを実現するための羽根車の3次元形状は、流れ解析手法を用いて羽根形状を試行錯誤に従って修正することにより得ることが出来る。しかしながら、より能率的には、こうした形状は、規定された翼面負荷分布を実現する羽根形状を数値解析により決定する手法として公知の3次元逆解法により決定可能である。3次元逆解法の数値解析手法としては、Zangeneh, M., 1991, "A Compressible Three Dimensional Blade Design Method for Radial and Mixed Flow Turbonachinery Blades" , International Jouenal of Numerical Methods in Flouids, Vol. 13 pp.599-624.、又はBorges, J.E., 1990, "Thoree-Dimensional Inverse Method for Turbomachinery: Part I-Thory" , Transaction of the ASME, Journal of Turbomachinery, Vol.112, pp.346-354又はYang, Y. L., Tan, C.S. and Hawthorne, W. R., 1992, "Aerodynamic Design of Turbonachinery Blading in Three-Dimensional Flow: An Application to Radial Inflow Turbines", ASME Paper 92-GT-74、又はDang, T.Q., 1993, "A Fully Three-Dimensional Inverse Method for Turbonachinery Blading in Transonic Flows", Transactions of the ASME, Journal of Turbonachiner, Vol.115, pp.354-36など多くの提案が成されている。本発明で採用された、上記Zangeneh, M. (1991)の3次元逆解法では、羽根を翼キャンバー線上に分布させた渦の層で表現し、個々の渦強さは平均旋回速度
と半径rの積
を規定することにより決定する。
は本発明で規定する翼面負荷分布
と子午面形状が定まれば、
を子午面長さm方向に積分することにより容易に求めることができる。本発明において、こうした
分布、ひいては翼面負荷分布
を実現する羽根形状は、渦が流れ場に誘起する速度が羽根面を横切らないという条件により決定できる。このような3次元逆解法による数値計算のフロー概要を示すのが図76であり、以下にその概要を解説する。
(STEP 1) 規定した翼面負荷分布
を羽根車の無次元子午面長さmに沿って積分し、
分布を計算する。
(STEP 2) 子午面方向の速度成分Vmを、設計質量流量と規定した子午面の流路不断面積から推定する。
(STEP 3) 周方向速度成分
を、各位置での
を半径rにより除算することにより求める。この時点で求まった速度場は、羽根形状の影響が正確には含まれていないので初期の近似値である。
(STEP 4) 求まった速度場と相対流れが羽根面に沿うという条件から、各位置での羽根形状を計算する。羽根形状は一次の双曲形の偏微分方程式を解くことにより決定され、従って積分のための初期値として、羽根車の出口に沿ってのθ分布を規定することにより羽根傾斜を与えることが可能である。
(STEP 5) 羽根領域における速度分布を STEP1で求めた
分布とSTEP4で求めた現時点での羽根形状から計算する。
(STEP 6) STEP5で求めた速度分布とSTEP4で求めた羽根形状を用いて、支配偏微分法的式を解くことにより速度場を計算する。
(STEP 7) STEP6において再計算された速度場をもってSTEP4へと戻り、翼形状の変化が一定の誤差範囲内となるまでSTEP4からSTEP7までの工程を反復する。
続いて本発明の第3のアスペクトに関する最良の形態を説明すれば以下のとおりである。
本発明では、羽根車内部の相対圧力p*の分布の適正化を図るべく、羽根車のハブ側が羽根車のシュラウド側に対して、羽根車の回転方向に先行するように、周方向に羽根を傾斜させるようにした円周方向の羽根傾斜を施している。図9(A)は、図1(A)と同様のクローズド形羽根車の3次元形状を模式的に図示した部分断面斜視図であり、図9(B)は、図9(A)中のC−C’矢視断面図である。ここで、図9(A)(B)中の各符号は、図1(A)において、同一の符号が付されている部材とそれぞれ同一のものを示している。
図9(B)に模式的に図解されているように、羽根車3に対しては、圧力面3b と負圧面3c間の圧力差により、羽根面にほぼ垂直に流体力が作用しており、流体に対しては、その反作用として羽根負圧面3cにほぼ垂直に向かう力が働く。図9(B)中に破線で示されるように、羽根車に円周方向の羽根傾斜が施されていない場合には、流体に作用する力は周方向へと向かい、ハブ面あるいはシュラウド面の法線に対して直交する方向への力の成分を持たない。
これに対し、図9(B)に示されるように、羽根車3のハブ面側3cHが羽根車3のシュラウド面側3cSとの相対において羽根車回転方向に先行するように羽根を傾斜させると、流体には、シュラウド面に垂直に向かう成分を持った力が作用する。その結果、かかるシュラウド面へと向かう力の成分に対してバランスすべく、流路内に相対圧力場が発生し、羽傾斜のない場合との比較において、シュラウド面側で高い相対圧力p*を生じ、ハブ面側で低い相対圧力p*を生じるようになる。従って、図3に示す圧力係数Cpのハブ面とシュラウド面間の差異としての圧力差ΔCpが減少し、図4に示すような2次流れ抑制に適した圧力場を形成することができる。
こうした円周方向の羽根傾斜の子午面2次流れへの影響は、従来の軸流ターボ機械における研究により定性的には検討されていたが、羽根形状が2次流れに及ぼす影響を本質的・定量的には把握できていなかったことから、羽根形状を実質的に変化させることなしに、シュラウド側の羽根を単に周方向へとずらしたり、翼断面をスパン方向へ湾曲させて積み重ねるなどして、羽根傾斜の効用を所定の制約下で活用していたにすぎない。
図10は、クローズド形羽根車の子午面断面を模式的に示したものであり、同図中のD−D’矢視図、すなわち、羽根車入口6a側から見た羽根内周の平面図と、同図中のE−E’矢視図、すなわち、羽根車出口6b側から見た羽根外周の平面図とを併画したものがそれぞれ図11(A)(B)(C)である。従来設計の羽根車であって、羽根形状の特別な工夫を施すことなしに、公知例の特開昭55−134798に示されるように単にシュラウド側の羽根を円周方向にずらしただけの羽根傾斜が施されたものは、図11(B)の平面図に示されるような羽根形状の羽根車を備えている。この場合には、ハブ面2上において、羽根車が回転方向の後方に向けて湾曲を開始する羽根位置である変曲点qの位置が図11(A)の従来設計の羽根車の場合と同じであり、また図11(B)上段において、シュラウド面4と羽根3の断面の中心線との成す角度として定義される羽根傾斜角度γが、羽根車出口近傍では羽根車出口に向かって略一定値に留まっている。
これに対し、本発明の第3のアスペクトは、より積極的に羽根車のハブ側の形状を変化させ、羽根車出口側の羽根位置の後半部において羽根車が回転方向の後方に向けて湾曲する度合いを弱め、結果的に後述の羽根車出口に向かってのハブ側の羽根角度αHを大きくし、シュラウド側との相対においてハブ側を羽根車の回転方向に先行させるように羽根流路形状を設計することである。この場合、羽根の翼キャンバ線の変曲点qの位置が図11(C)に示されるように、従来設計(図11(B))との相対において羽根車出口位置に移動する。又、羽根車出口に向かっての後方湾曲の程度{d(rθ)/dr}に関し、シュラウド側でより大きな値を呈し、{d(rθ)/dr}S>{d(rθ)/dr}Hとなるように設計することでもある。ここにおいて、添字Sはシュラウド面上の値、添字Hはハブ面上の値を示す。
また羽根傾斜角度γに関しては、図11(C)に示されるように、羽根車出口に向かうにつれ、羽根傾斜角度γが減少傾向を呈するように設計するのが好適である。ここで、羽根傾斜角γが一定値に保たれている必要はない。この場合、入口付近では、羽根車の羽根傾斜角γが相対的に大きな値となり、羽根傾斜からの影響が小さくなるので、相対圧力差ΔCpが相対的に高めに保たれ、そして、出口に向うにつれて、そこでは羽根車の羽根傾斜角γが小さな値となり、羽根傾斜からの影響が大きくなるので、相対圧力差ΔCpが低下し、このようにして、相対圧力差ΔCpの顕著な減少傾向が得られるのである。さらに図11(C)に示されるように、羽根車入口側から見た羽根形状において、羽根出口角度αTEが、ハブ面2上での角度αTE,Sからシュラウド面4上での角度αTE,Sへと減少する傾向を呈し、また羽根車出入口間のハブ面2上の羽根角度αHが、羽根車出口側において最大値あるいは極大値を示すように設計するのが望ましい。
このように、シュラウド側の羽根を、反回転方向に単純にずらすだけでなく、ハブ側の羽根形状に対しても、上記のような特別な配慮を施すことにより、羽根傾斜の作用を一層効果的なものとすることができる。多くの実証データについて検討を加えた結果、ハブ面上の羽根形状が、羽根角度αHが極大となる変曲点を経て後方湾曲へと転じる羽根位置に関しては、無次元半径位置r*=(r−r1H)/(r2H−r1H)が0.6以上の場合または無次元子午面長さmが0.7以上の場合が好適であり、また、羽根傾斜の度合いに関しては、羽根傾斜比S=(θTE,S−θTE,H)−(θTE,M−θLE,M)が0.14以上の場合が好適であることが明らかになった。ここに、r1H及びr2Hは、図10に示すように、ハブ面上の羽根車入口半径及び出口半径、また図11(C)に示されるように、θは羽根の周方向角度位置、添字TEは羽根車出口位置、すなわち羽根後縁での値、添字LEは羽根車入口位置、すなわち羽根前縁での値、添字Sはシュラウド面4上での値、添字Mは羽根高の中間点での値、添字Hはハブ面2上での値を示す。
ところで、軸流ターボ機械よりもはるかに強い2次流れを生じるような、遠心または斜流ターボ機械内部の子午面2次流れを、従来の羽根傾斜により完全に抑制しようとする試みは、必要となる周方向への羽根の傾斜が過大となって、製作上の困難を伴うので、構造強度上も問題があるなどの理由から実用されていなかった。そこで、本発明では、先に記述した第2のアスペクトである翼面負荷分布
の適正化を羽根傾斜と併用することにより、製作上あるいは構造強度上問題の無い羽根形状とし、かつ子午面2次流れを最も効果的に抑制する構成を提案している。
続いて本発明の第4のアスペクトに関する最良の形態を説明すれば以下のとおりである。
本発明における翼面負荷分布
の適正化、あるいは羽根を周方向へ傾斜させる円周方向の羽根傾斜、さらには両者の組み合わせに対して、図76のフロー概要に基づく3次元逆解法により3次元羽根形状を求めたところ、子午面2次流れを効果的に抑制する羽根車は特徴的な羽根角度分布を有していることが明らかになった。すなわち、本発明の第4のアスペクトは、以下のような羽根角度分布を有する羽根車を設計することである。
(a)ハブ面側の無次元子午面長さに対する羽根角度分布が、図13(A)に示されるように、羽根車出口に向かって著しく増大する。
(b)シュラウド面側の無次元子午面長さに対する羽根角度分布が、図13(B)に示されるように、羽根出口に向かって著しく減少する。
(c)無次元子午面長さに対する羽根角度分布の、ハブ面とシュラウド面との角度差が、図14に示されるように、羽根出口に向かって著しく増大する。
この場合、羽根角度差の極大値または最大値の羽根位置は、無次元子午面長さm=0.5以上で、特に無次元子午面長さm=0.7〜1.0の範囲が最適であり、角度差の極大値が20度以上となると、子午面2次流れの抑制効果が顕著になることが、多くの実証データにより確認されている。また、上記羽根角度差が、無次元子午面長さm=0〜0.2の範囲において得られる羽根角度差の平均値よりも10度以上大きくなることが明らかになった。ここに言う羽根角度を説明するための説明図が図12であり、図12(A)は図1(A)に対応するクローズド形羽根車の部分断面斜示図である。図12(A)中のF矢視図である図12(B)は、ハブ面2の湾曲面上沿いに平面視した場合のハブ2側における羽根形状を表しており、ハブ2側の羽根角度βHは、羽根車のハブ2側の翼キャンバ線が回転軸1からの任意の半径r位置における円周方向接線に対して成す角度である。図12(A)中のG矢視図である図12(C)は、シュラウド面4の湾曲面沿いに平面視した場合のシュラウド4側における羽根形状を表しており、シュラウド側の羽根角度βSは、羽根のシュラウド4側の翼キャンバ線が回転軸1からの任意の半径r位置における円周方向接線に対して成す角度である。角度差βH−βSは、ハブ2側の羽根角度βHとシュラウド4側の羽根角度βHとの角度差である。こうした羽根角度の特徴的な分布形状の物理的な意味は、図4に示されているところの子午面2次流れ抑制の基本構成と照らし合わせることにより理解できる。周方向から定義した羽根角度が大きくなるほど、羽根車を出た流体の流れは大きな旋回速度を有し、従って流れに対して大きな羽根車作用を及ぼす。その際、羽根車作用を与える羽根の負圧面と圧力面間の圧力差も増大しており、結果的に翼負荷が増大する。すなわち、図13(A)に示されるように羽根出口に向かってハブ面上の羽根角度を増大することは、図5に示されるように、ハブ面の翼負荷(同図中で実線と破線とにより囲まれた部分の面積)が羽根車出口に向かって増大することに対応する。一方、図13(B)に示されるように羽根車出口に向かってシュラウド面上の羽根角度が減少することは、図6に示されるように、シュラウド面の翼負荷が羽根車出口に向かって減少することに対応する。その結果、こうした羽根角度分布を有する羽根車により、子午面2次流れ抑制効果に優れた羽根面圧力分布が実現されることが理解できる。図4に基づく説明から明らかなように、子午面2次流れの抑制効果はハブ面とシュラウド面の圧力分布の差で定まることから、羽根角度分布においても、図14に示されるように、ハブ面とシュラウド面間の羽根角度差が物理的に重要であり、子午面2次流れ抑制に有利な羽根車の羽根形状の特徴を普遍的に促えている。
なお、羽根角度差βH−βSが、羽根車出口に向かって顕著な増大傾向を呈する以前に、無次元子午面長さm=0〜0.1の間で部分的に減少傾向を示す場合があるが、羽根車出口に向かうβH−βSの顕著な増大傾向が子午面2次流れの抑制に有効であることには変わりがない。
さらに、こうした羽根角度の特徴的な分布形状は、本発明の第3のアスペクトに反映して、特徴的な周方向羽根傾斜の形態を実現する。図11(C)において、本発明の第3のアスペクトを特徴付けるハブ面上の羽根形状を規定する変曲点の位置は、半径方向への(rθ)の変化が極小となる点、すなわちd(rθ)/drが極小となる点で与えられる。一方、図12(B)に示されている羽根角度βHはtanβH={dm/d(rθ)}Hで与えられる。ここで、
の関係があり、(dm/dr)Hは羽根車の子午面形状が定まれば従属的に定まる値であるので、結局、{d(rθ)/dr}Hが極小となる位置は、βが極大となる位置と密接に関係することになる。その結果、本発明の第3のアスペクトである羽根傾斜における特徴的なハブ面上での羽根形状の変曲点の位置に関しては、βHの極大値が現われる無次元子午面長さm=0.7以上、又は無次元半径位置r*=0.6以上であれば好適であることが理解できる。
続いて以上の実施例を確定するための実証データについて言及しておこう。
図15〜26および図27〜38はポンプ羽根車の実証データであり、前者が低比速度の遠心羽根車、後者が中比速度の斜流羽根車に関するものを例示している。図39〜50及び図51〜62はコンプレッサー羽根車の実証データであり、前者が遠心羽根車、後者が斜流羽根車に関するものを開示している。子午面2次流れの抑制効果を把握するのに、3次元粘性解析(Dawes, W.N., 1988, "Development of a 3D Navier-Stokes Solver for Application to all Types of Turbonachinery" ASME Paper No.88-GT-70.)による数値解析結果を用いている。図17,20,23,26,29,32,35,38,41,44,47,50,53,56,59,62は、こうした数値解析により推定され、子午面平面上に投影された羽根負圧面近傍の流速ベクトルによって、羽根負圧面に沿う境界層内部の2次流れの様子を表現している。
図15から図26に基づいて、低比速度の遠心ポンプ羽根車に関する実証データに基づいて、本発明を以下に詳細に説明する。従来設計の羽根車では、2次流れ抑制のための配慮が一切なされていなかったので、図15に示されるように、相対圧力Cpの無次元子午面長さに対する分布は、羽根車出口近傍まで、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間の相対圧力差ΔCpが大きく、2次流れを抑制するに足るだけの減少傾向を示していない。また、このときの翼面負荷分布
は、図16に示されるように、シュラウド面上およびハブ面上でともに概ね平坦な分布を示しており、本発明の第2のアスペクトに関連する既述の2次流れ抑制上有利な分布形状とは異なっている点で、翼面負荷分布において、2次流れに対する配慮がなされていないことが確認できる。その結果、図17の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上において、ハブ側からシュラウド側へと向かう、強い2次流れが発生している点で、好ましくないフローパターンを示している。
これに対し、本発明の第3のアスペクトの特徴点を指向した場合の、図18から図20に示される実証データでは、周方向への羽根傾斜の効果により本発明の第1のアスペクトが実現され、図18に示されるように、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間の相対圧力差ΔCpが羽根車出口に向かって顕著な減少傾向を示し、無次元子午面長さ約0.7において極性反転を伴っている点で、2次流れを抑制するに足る特徴的な傾向を示している。この実証データでは、図19に示される翼面負荷分布は、シュラウド面上での翼面負荷分布の最大値が羽根前半部に位置している半面、ハブ面上での翼面負荷分布の最大値は羽根後半部に位置していない点で、本発明の第2のアスペクトの特徴点を充分には満足していない。しかしながら、この実証データでは、羽根傾斜比をS=0.142とすることで、本発明の第3のアスペクトの特徴点を最大限に作用させており、これにより図18に示されるような、好ましい相対圧力の分布が得られている。その結果、図20の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上において、ハブ側からシュラウド側へと向かう2次流れが完全に抑制されている点で、好ましいフローパターンを示している。
次に、図21から図23は、本発明の第3のアスペクトの特徴点と第2のアスペクトの特徴点を組み合わせた場合の実証データを示す。第3のアスペクトの特徴点である周方向への羽根傾斜の効果と、第2のアスペクトの特徴である翼面負荷分布の相乗効果により、図21に示されるように、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間の相対圧力差ΔCpが羽根車出口に向かって顕著な減少傾向を示し、無次元子午面長さm=約0.75において極性反転を伴っている点で、2次流れを抑制するに足る特徴的な傾向を示している。その結果、図23の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上において、ハブ側からシュラウド側へと向かう2次流れが抑制されている点で、好ましいフローパターンを示している。この実証データでは、第3のアスペクトの特徴点と第2のアスペクトの特徴点とを組み合わせることにより、第3のアスペクトの特徴点だけを指向した図18〜図20の実証データとの対比において、ほぼ半分の円周方向の羽根傾斜比S=0.078となっている点で、羽根車の製作上より好ましい3次元流路形状を実現している。
さらに本発明の第2のアスペクトの特徴点を指向した場合の、図24から図26に示される実証データにあっては、図25に示されるような好ましい翼面負荷分布δ
を指向することにより、従来設計と比較して、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面との間の相対圧力差ΔCpが羽根車出口に向かってより顕著な減少傾向を示し、2次流れ抑制上、好ましい傾向を示している。これにより、図24に示されるような好ましい相対圧力Cpの分布が得られている。その結果、図26の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上において、ハブ側からシュラウド側へと向かう2次流れが、図17に示した従来設計の場合との対比において、十分に抑制される傾向を示している。しかしながら、図18と図24の対比から明らかなように、図24における羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間の相対圧力差ΔCpの減少傾向が、図18の場合ほど顕著ではなく、その結果、図20と図26の対比から明らかなように、先に示された第3のアスペクトの特徴点を指向した実証データの場合ほど効果的に2次流れを抑制するには至っていない。
そして、図27〜図38は、斜流ポンプ羽根車における実証データであり、上述の遠心ポンプ羽根車における実証データの図15〜図26の各々に対応している。これらの実証データによれば、上記同様の2次流れ抑制効果が認められるので、本発明が斜流ポンプ羽根車に対しても有効であることが確認できる。
次に、図39から図50に基づいて、遠心コンプレッサー羽根車に関する実証データについて、以下に詳細に説明する。既述のように、圧縮性流れでの、2次流れの挙動に密接に関連するものとして、本発明の第1のアスペクトにおいて取り扱う物理量は相対速度のマッハ数である。従来設計の羽根車では、2次流れ抑制のための配慮が一切なされていなかったので、図39に示されるように、相対速度のマッハ数Mの無次元子午面長さに対する分布は、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間でマッハ数の十分な減少傾向を示していない。また、このときの翼面負荷分布は、図40に示されるように、シュラウド面上、ハブ面上ともに平坦になっており、2次流れ抑制上有利な分布とは異なっている点で、翼面負荷分布において、2次流れに対する配慮がなされていないことが確認できる。その結果、図41の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上の羽根車出口近傍において、ハブ側からシュラウド側へと向かう2次流れが発生している。
これに対し、本発明の第3のアスペクトの特徴点を指向した場合の、図42から図44に示される実証データでは、周方向への羽根傾斜の効果により本発明の第1のアスペクトが実現され、図42に示されるように、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間のマッハ数の差ΔMが羽根出口に向かって顕著な減少傾向を示し、無次元子午面長さ約0.85において極性反転を伴っている点で、2次流れを抑制するに足る特徴的な傾向を示している。この実証データでは、図43に示されている翼面負荷分布は、シュラウド面上での翼面負荷分布の最大値が羽根車出口側の後半部に位置している点で、本発明の第2のアスペクトの特徴点を充分には満足していない。しかしながら、この実証データでは、本発明の第3のアスペクトの特徴点を最大限に作用させており、これにより、図42に示されるような好ましい相対速度のマッハ数分布が得られている。その結果、図44の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上において、ハブ側からシュラウド側へと向かう2次流れが完全に抑制されている。
次に、図45から図47は、本発明の第3のアスペクトの特徴点と第2のアスペクトの特徴点を組み合わせた場合の実証データを示す。第3のアスペクトの特徴点である周方向への羽根傾斜の効果と、第2のアスペクトの特徴点である翼面負荷分布の相乗効果により、図45に示されるように、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間のマッハ数の差ΔMが羽根出口に向かって顕著な減少傾向を示し、無次元子午面長さm=約0.75において極性反転を伴っている点で、2次流れを抑制するに足る特徴的な傾向を示している。その結果、図47の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上において、ハブ側からシュラウド側へと向かう2次流れが抑制されている点で、好ましいフローパターンを示している。この実証データでは、第3のアスペクトの特徴点だけを指向した図42〜図44の実証データとの対比において、ほぼ同程度の羽根の周方向傾斜を採用しているが、本発明の第2のアスペクトの特徴点を併用することにより、図42と図45との対比から明らかなように、マッハ数の差ΔMの減少傾向を一層顕著なものとすることに成功している。
さらに、図48から図50は、本発明の第2のアスペクトの特徴点を指向した場合の実証データを示す。この実証データでは、図49に示されるような好ましい翼面負荷分布
を指向することにより、羽根負圧面上でのハブ面とシュラウド面間のマッハ数の差ΔMが、図48に示されるように、羽根車出口に向かって顕著な減少傾向を示し、無次元子午面長さm=約0.90においてΔmがほぼゼロとなっている点で、2次流れ抑制上、好ましい分布となっている。その結果、図50の数値解析の結果から明らかなように、羽根負圧面上において、ハブ側からシュラウド側へと向かう2次流れが、完全に抑制されている点で、好ましいフローパターンを示している。
そして、図51〜図62は、斜流コンプレッサー羽根車における実証データであり、上述の遠心コンプレッサー羽根車における実証データの図39〜図50の各々に対応している。これらの実証データによれば、上記同様の2次流れ抑制効果が認められるので、本発明が斜流コンプレッサーの羽根車に対しても有効であることが確認できる。
図63〜図74は、ポンプの羽根車における本発明の第4のアスペクトの特徴的な羽根角度分布の実証データであり、図15〜38に示されている数値解析による子午面2次流れの推定結果と対比することにより、本発明の第4のアスペクトにおける羽根角度分布の特徴が顕著になるにつれて、子午面2次流れの抑制効果も増大する様子が明瞭に確認できる。
すなわち、遠心ポンプの羽根車に対する数値解析による子午面2次流れの予測によれば、図20、図23、図26の順に2次流れ抑制効果の増大が見られるが、図65の羽根角度差分布の比較では、子午面2次流れの抑制効果に対応する羽根角度差分布の順に、羽根車出口へ向かう角度差増大傾向が顕著になっている点で、本発明の第4のアスペクトの特徴点の有効性が明瞭に確認できる。この場合、ハブ面上の羽根角度βH及びシュラウド面上の羽根角度βSは、図13(A)及び(B)に関連して説明済みの本発明の第4のアスペクトの特徴点を備えている。
斜流ポンプの羽根車に対する実証データである図66〜図68においても、遠心ポンプの羽根車における場合と同様の羽根角度βH、βSを示しており、図68に示される第4のアスペクトの特徴点が、図32、図35、図38に示されるような2次流れの抑制効果の程度と良好に対応していることが確認できる。
上図には、破線にて、従来設計手法により設計された羽根車の羽根角度分布が併記されているので、本発明との差異が明瞭である。なお、遠心または斜流ポンプの羽根車の従来設計手法では、例えばA.J. Stepanoff, "Centrifugal and Axial Flow Pumps ",2nd ed., John Wiley & Sons, New York, 1957, pp.95-104あるいはJ.L. Dicmas,"Vertical Turbine, Mixed Flow and Propeller Pumps " MacGraw-Hill, New York, 1989, pp.305-311に記述されているように、羽根車入口と羽根車出口での羽根角度が設計仕様から定まると、羽根車出口と羽根車入口間の羽根角度分布は両者を単調に変化する滑らかな曲線で結んだ上で、羽根車の3次元形状を設計することが一般的であり、本発明のような2次流れ抑制効果を実現するための羽根角度分布上の配慮は一切なされていない。実証データの図63〜図68の中に破線にて表示されている従来羽根車の羽根角度分布は、上述のようにして設計されたごく一般的なものである。この結果、2次流れが抑制されないことは、図65および図68中の破線に対応して得られた子午面2次流れの数値解析予測結果である図17及び図29において確認することができる。図69〜図74は、コンプレッサーの羽根車における本発明の第4のアスペクトの特徴的な羽根角度分布の実証データである。図44、図47、図50、図56、図59、図69に示されている数値解析による子午面2次流れの推定結果と対比することにより、ポンプの羽根車の場合と同様に、本発明の第4のアスペクトにおける羽根角度分布の特徴が顕著になるにつれ、子午面2次流れの抑制効果も増大する様子が明瞭に確認できる。なお、図69〜図74の破線で示す従来羽根車の羽根角度分布としては典型的なコンプレッサーのものを示している。コンプレッサーでは、シュラウド面に沿う流れの減速を羽根前半部で完了しており、摩擦損失を低減するためにポンプの羽根車とは異なる羽根角度分布となっているが、本発明のように子午面2次流れに対する配慮が全く払われていないので、子午面2次流れを抑制することができないことは、対応する2次流れの推定結果である図41及び図53において確認できる。
図75は、本発明の第3のアスペクトの特徴点である羽根傾斜と、第2のアスペクトの特徴点である翼面負荷分布を組み合わせた場合の効果についての実証データであり、斜流ポンプの羽根車の設計事例を示す。本発明の第3のアスペクトの特徴点だけを使用した場合の羽根車形状は、図75(A)に示されるように、羽根傾斜比がS=0.217で周方向への羽根傾斜が著しく、羽根傾斜角度γが極めて小さくなっている点で、製作しにくい形状となっている。これに対し、本発明の第2のアスペクトの特徴点を併用して設計した場合の羽根車では、羽根傾斜比がS=0.10に半減し羽根傾斜角度γも増大しているので、図75(B)に示されるように、より製作性の良好なものとなっている点で、本発明の有効性が確認できる。
産業上の利用可能性
以上のように、本発明は、(1)相対圧力差ΔCp(又は相対速度のマッハ数の差ΔM)の無次元子午面長さに対する分布の顕著な減少傾向、(2)羽根車内の半径rと、その半径r位置での流体の絶対速度Vの平均周方向速度成分
との積
の子午面長さに対する変化率
の無次元子午面長さに対する分布における羽根のシュラウド上の値と羽根のハブ上の値の大小関係、(3)羽根のハブ側が羽根のシュラウド側に対して羽根車の回転方向に先行する円周方向の羽根傾斜、(4)羽根のハブ上と羽根のシュラウド上での羽根角度差βH−βSの無次元子午面長さに対する分布における顕著な増大傾向という、設計上の第1〜第4のアスペクトにより特徴づけられる。
これらの設計上のアスペクトに従えば、従前には、有効に抑制され得なかった子午面2次流れを有効に抑制することができるので、ターボ機械とその下流流路で発生する損失を軽減し、右上がりの揚程特性の出現を回避して、運転の安定性を向上させるという点で、産業上の利用価値は絶大である。そして、本発明の上述の4つのアスペクトに関して、その妥当性が公知の逆転法解析及び流れ解析手法による実証データにより裏付けられているので、本発明は、産業上利用可能に実施できるものである。
Claims (8)
- ハブ面2上に、該ハブの円周方向に間隔を置いて配置された複数枚の羽根3と、該羽根を覆って、隣接する2枚の羽根3間の流線を確定するための流路中の流体の流れに対する外周境界を形成するシュラウド面4とを備えた羽根車6であって、上記羽根車6は、羽根3の負圧面3c上でのハブ面2とシュラウド面4間の相対圧力差ΔCpまたは相対速度のマッハ数Mの差ΔMが、流路中での子午面2次流れ成分の抑制に有効な程度の、無次元子午面長さmの増加につれての減少傾向を無次元子午面長さm=0の羽根車位置(羽根車入口6a)と無次元子午面長さm=1の羽根車位置(羽根車出口6b)との間において呈するように設計されており、該減少傾向は、上記相対圧力差ΔCpの極小値を得る無次元子午面長さ位置から無次元子午面長さ0.4を差し引いた位置において得られる相対圧力差ΔCpと該極小値の差が0.2以上、または、上記相対速度のマッハ数Mの差ΔMの極小値を得る無次元子午面長さ位置から無次元子午面長さ0.4を差し引いた位置において得られる相対速度のマッハ数Mの差ΔMと該極小値との差が0.15以上であり、かつ、羽根3のハブ2側での圧力面3b上の圧力係数またはマッハ数Mと、羽根3のハブ2側での負圧面3c上の圧力係数またはマッハ数Mとの間の差が、羽根車6の後半部における無次元子午面長さm=1.0(羽根車出口6b)の極近傍でのみ零になることを特徴とする遠心または斜流ターボ機械。
- 羽根3のシュラウド4側での圧力面3b上の圧力係数Cpまたはマッハ数Mと、羽根3のシュラウド4側での負圧面3c上の圧力係数Cpまたはマッハ数Mとの差が、羽根車6の後半部における無次元子午面長さm=1.0(羽根車出口6b)の極近傍でのみ零になる請求項1記載の遠心または斜流ターボ機械。
- 羽根車6内の半径rと、該半径rの位置における羽根車6流路内の流体の絶対速度Vの平均周方向成分
との積
の子午面方向の羽根車位置mに沿う変化率
に関し、羽根車6のシュラウド側での分布が、羽根車6の前半部であって、子午面2次流れ成分を抑制するために必要な羽根車6の無次元子午面長さ位置において、最大値を呈し、該シュラウド側での分布が、羽根車6の後半部における無次元子午面長さm=1.0の位置(羽根車出口6b)でのみ最小値の零を呈し、羽根車6のハブ側での分布が、羽根車6の後半部であって、子午面2次流れを抑制するために必要な羽根車6の無次元子午面長さ位置において、最大値を呈し、該ハブ側での分布が、羽根車6の後半部における無次元子午面長さm=1.0の位置(羽根車出口6b)でのみ最小値の零を呈する請求項1または2記載の遠心または斜流ターボ機械。 - 羽根車内の半径rと、該半径位置における羽根車流路内の流体の絶対速度Vの平均周方向成分
との積
の子午面方向の羽根車位置に沿う変化率、即ち
に関し、無次元子午面長さmが0に近い羽根車位置領域(羽根車入口側)において、羽根車のシュラウド側の値が羽根車のハブ側の値よりも大きく、無次元子午面長さmが1.0に近い羽根車位置領域(羽根車出口側)において、該シュラウド側の値が該ハブ側の値よりも小さくなり、無次元子午面長さm=0の羽根車位置(羽根車入口)と無次元子午長さm=1.0の羽根車位置(羽根車出口)との間において、該シュラウド側の値と該ハブ側の値とに大小関係の逆転を呈するように設計されたことを特徴とする遠心または斜流ターボ機械。 - 無次元子午面長さm=0の羽根車位置(羽根車入り口)と無次元子午面長さm=1.0の羽根車位置(羽根車出口)との間において、羽根車のハブ側が羽根車のシュラウド側に対して、羽根車の回転方向に先行するような、円周方向の羽根傾斜を有し、羽根車出口に向うにつれて、羽根車の流路断面上において、羽根車の翼断面中心線がシュラウド面に対して成す角度として定義される、羽根傾斜角度γが減少傾向を呈するような羽根車を備えた遠心または斜流ターボ機械。
- 無次元子午面長さm=0の羽根車位置(羽根車入り口)と無次元子午面長さm=1.0の羽根車位置(羽根車出口)との間において、羽根のハブ側が羽根のシュラウド側に対して羽根車の回転方向に先行するような円周方向の羽根傾斜が施され、羽根車出口に向うにつれて、羽根が回転方向の後方に向けて湾曲する度合いがシュラウド側で顕著になり、{d(rθ)/dr}S>{d(rθ)/dr}Hが成立するような羽根車を備えた遠心または斜流ターボ機械。
- 無次元子午面長さmに対する羽根角度分布に関し、ハブ面上の羽根角度βHからシュラウド面上の羽根角度βSを差し引いて得られる羽根角度差βH−βSが、無次元子午面長さm=0の羽根車位置(羽根車入口)と無次元子午面長さm=1.0の羽根車位置(羽根車出口)との間において、無次元子午面長さmの増加につれて、顕著な増大傾向を呈するように設計されたことを特徴とする羽根車を備えた遠心または斜流ターボ機械。
- 無次元子午面長さmに対する羽根角度分布に関し、ハブ面上の羽根角度βHからシュラウド面上の羽根角度βSを差し引いて得られる羽根角度差βH−βSが、無次元子午面長さm=0の羽根車位置(羽根車入口)と無次元子午面長さm=1.0の羽根車位置(羽根車出口)との間の一部分において、減少傾向を呈した後、顕著な増大傾向を呈するように設計されたことを特徴とする羽根車を備えた遠心または斜流ターボ機械。
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