JP3692395B2 - ベクターモノカリオンを用いた紫紋羽病菌に対するゲノムが2本鎖rnaである糸状菌に寄生するウイルスを導入する新規方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、担子菌にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入する方法に関し、より詳細には、担子菌に該ウイルスを導入し得るベクターモノカリオン及びこれを用いる担子菌への該ウイルス導入法に関する。
【0002】
【従来の技術】
紫紋羽病は果樹をはじめとする木本植物及び草本植物に発生する病害である。本病の病原糸状菌である紫紋羽病菌ヘリコバシディウム・モンパ(Helicobasidium mompa)は土壌中に生息し、植物の根に感染して腐敗させる。根が腐敗すると、水分及び養分の吸収が不十分となるため、植物の地上部は衰弱し、やがて枯死に至る。紫紋羽病菌は寄主範囲が広く、45科104種の植物に寄生することが知られている。果樹類ではリンゴ、ナシ、ビワ、カンキツ、ブドウ、モモ、アンズ、ウメ、カキ、イチジク等、ほとんど全てに寄生するが、特に、リンゴでは紫紋羽病の発生が多く、重要病害となっている。紫紋羽病は宿主を衰弱・枯死させるため、リンゴのような永年性作物に発生した場合は経済的な被害が非常に大きい。
【0003】
リンゴにおける紫紋羽病菌の防除は、発病樹を掘り上げて行う根の洗浄・殺菌、発病樹周囲土壌への農薬注入、土壌改良資材の投入による発病抑制、苗木植え付け前の予防的な土壌消毒等の対策が行われてきたが、いずれも非常に労力を必要とする上、十分な防除効果は上がっていない。また、防除資材として、農薬の他に拮抗微生物の探索とその利用も検討されてきたが、圃場レベルでは十分な防除効果は上がっていない。このように、紫紋羽病菌の防除については様々な試みがなされてきたが、未だ十分な効果を有する防除技術は確立されていない。
【0004】
一方、クリ胴枯病は欧米のクリ栽培を脅かしてきた重要病害であるが、本病の病原糸状菌であるクリ胴枯病菌(Cryphonectria parasitica)において弱病原株が発見されている(Grente, J., 1971, “La lutte biologique contre le chancre du chataignier par hypovirulence contagieuse”, Ann. Phytopathol. , 3, 409-413)。クリ胴枯病菌における弱病原性は菌株間を伝達することが明らかにされ(Van Alfen, N. K., Jaynes, R. A., Anagnostakis, S. L. and Day, P.R., 1975, “Chestnut blight: Biological control by transmissible hypovirulence in Endothia parasitica”, Science, 189, 890; Day, P. R., Dodds, J. A., Elliston, J. E., Jaynes, R. A. and Anagnostakis, S. L., 1977, “Double-stranded RNA in Endothia parasitica”, Phytopathology, 67, 1393-1396)、さらに、二本鎖RNA(double-stranded RNA)からなるゲノムを有する菌寄生ウイルスが弱病原性の原因であることが明らかとなっている(Shapira, R., Choi, G. H. and Nuss, D. L., 1991, “Virus-like genetic organization and expression strategy for a double-stranded RNA genetic element associated with biological control of chestnut blight”,The EMBO Journal, 10, 731-739)。本ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスは欧米においてクリ胴枯病の防除に利用されている(Anagnostakis, S. L., 1982, “Biological control of chestnut blight. Science”, 215, 466-471)。
【0005】
紫紋羽病菌においても弱病原性株からゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが発見され(岡部郁子・勝又治男・中村 仁・植竹ゆかり・須崎浩一・吉田幸二・松本直幸,1999, 「紫紋羽病菌(Helicobasidium mompa)の保有する二本鎖RNA」, 日本植物病理学会報,65,378(講演要旨))、その塩基配列の一部が決定された(大崎秀樹・兼松聡子・岡部郁子・松本直幸・大津善弘,1999, 「紫紋羽病菌Helicobasidium mompaの弱病原性分離株から分離された二本鎖RNAの検出と塩基配列」, 日本植物病理学会報,65,338(講演要旨))。
【0006】
一方、紫紋羽病菌をはじめとする高等な糸状菌においては個体性があることが知られている。子のう菌類、担子菌類のように高等な糸状菌における個体の異同は、栄養菌糸不親和性、すなわち種レベルで同じ糸状菌の異なる菌株を培地上で対峙培養したときに、両菌株の菌糸間に生じた菌糸融合部位における細胞の衰退の有無によって識別される(Todd, N. K. and Rayner, A. D. M., 1980, “Fungal individualism”, Sci. Prog. Oxf. 66, 331-354)。ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスは、自然界においては、主として糸状菌同士の菌糸融合を通じて伝搬することが知られており(Lemke, P. A. and Nash, C. H., 1974, “Fungal viruses”, Bacteriological Reviews, 38, 29-56)、高等な糸状菌における個体性の存在は、糸状菌における該ウイルス伝搬に対する障壁の役割をしていると考えられている(Todd, N. K. and Rayner, A. D. M., 1980, “Fungal individualism”, Sci. Prog. Oxf. 66, 331-354)。
【0007】
例えば、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを保持している糸状菌と保持していない同種の糸状菌をシャーレ上で対峙培養した場合、対峙する菌株の栄養菌糸親和性が同一であれば、菌糸融合を通じて菌株間を該ウイルスが移行するのに対し、栄養菌糸親和性の異なる菌株間では、菌糸融合後に融合部位において細胞死が起こり、これが障壁となって該ウイルスが菌株間を移行できない。実際に、圃場における病原菌の個体分布の多様性は、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを防除に用いる上での大きな問題となっている(MacDonald, W. L. and Fulbright, D. W., 1991, “Biological control of chestnut blight: use and limitation of transmissible hypovirulence”, Plant Dis., 75, 656-661)。例えば、クリ胴枯病の防除にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスはすでに利用されているが、地域によってその防除効果に違いがみられる(Anagnostakis, S. L., 1983, “Conversion to curative morphology of Endothia parasitica and its restriction by vegetative compatibility”, Mycologia, 75, 777-780; Anagnostakis, S. L. and Kranz, J., 1986, “Diversity of vegetative compatibility groups of Cryphonectria parasitica in Connecticut and Europe”, Plant Dis., 70, 536-538)。これは、地域によってクリ胴枯病菌の個体分布の多様性に差異がみられることに起因している。
【0008】
紫紋羽病菌では、リンゴ園における個体分布調査の結果、調査園の大部分は紫紋羽病菌の同一個体によって占有されており、個体分布は単純であることが明らかにされた(Katsumata, H., Ogata, T. and Matsumoto, N., 1996, “Population structure of Helicobasidium mompa in an apple orchard in Fukushima”,Ann. Phytopathol. Soc. Jpn., 62, 490-491)。このことは、園地を占有する紫紋羽病菌にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入することができれば、その大部分を占有する紫紋羽病菌を弱病原化できることを意味する。
【0009】
しかし、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを紫紋羽病防除に用いる際、該ウイルスを供与する側の紫紋羽病菌と、園地に生息する紫紋羽病菌の栄養菌糸親和性が同一であれば問題はないが、該ウイルス供与株と園地に生息する菌株の栄養菌糸親和性が異なる場合には、栄養菌糸親和性の異なる園地生息菌株に対して該ウイルスを導入するための手法が必要である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルス供与株とは栄養菌糸親和性の異なる担子菌株に該ウイルスを導入する方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、紫紋羽病菌モノカリオン(一核株)が、紫紋羽病菌におけるゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの運び屋、すなわちベクターとして利用可能であること、さらには、このモノカリオンを用いることにより、該ウイルス供与株とは栄養菌糸親和性の異なる紫紋羽病菌に対し該ウイルス導入が可能であることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、担子菌にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入する方法であって、該ウイルスを導入しようとする担子菌と同じ種に属するモノカリオンをベクターとして用いることを特徴とする前記方法を提供する。前記担子菌は、好ましくは異型担子菌類に属するものであり、より好ましくは紫紋羽病菌である。前記モノカリオンは、好ましくは紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)又は紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)である。
【0013】
さらに、本発明は、担子菌にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入する方法であって、該ウイルスを導入しようとする担子菌と、該担子菌と同じ種に属し、該ウイルスを含むモノカリオンとを対峙培養する工程を含む前記方法を提供する。前記担子菌は、好ましくは異型担子菌類に属するものであり、より好ましくは紫紋羽病菌である。前記モノカリオンは、好ましくは紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)又は紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)である。
【0014】
さらに、本発明は、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入しようとする担子菌と同じ種に属するモノカリオンからなる、担子菌に該ウイルスを導入するためのベクターを提供する。前記担子菌は、好ましくは異型担子菌類に属するものであり、より好ましくは紫紋羽病菌である。前記モノカリオンは、好ましくは紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)又は紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)である。
さらに、本発明は、紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)及び紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)からなる郡より選択されるモノカリオンを提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、担子菌にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入する方法に関し、該方法は、該ウイルスを導入しようとする担子菌と同じ種に属するモノカリオンをベクターとして用いることを特徴とする。
【0016】
本明細書において、「ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルス」とは、糸状菌に寄生するウイルスであって、そのゲノムが2本鎖RNA(double-stranded RNA)であるものをいう。糸状菌に寄生するウイルスのゲノムは、そのほとんどが2本鎖RNAからなっている。他の核酸構成の糸状菌ウイルスも報告されているが、非常に少数である。本発明に用いられるゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスは、上記のようなものであればいずれのものであってもよく、該ウイルス導入の目的に応じて選択することができる。例えば、該ウイルス導入の目的が病原菌の病原性低下であれば、そのような作用を有する該ウイルスを用いることができ、紫紋羽病菌では、その病原性を低下させることが知られている、配列番号1で表される塩基配列を有するゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを用いることができる。
【0017】
本明細書において、「モノカリオン」とは、一核株、すなわち1つの細胞中に1個の核を有する担子菌株をいう。紫紋羽病菌、食用きのこ等が属する担子菌類は、自然界では通常は細胞当たり半数体の核を2個保持しており(二核株、ダイカリオン)、生殖の際にこの2個の核同士の交配によって子孫を殖やす。モノカリオンは、通常は担子胞子の発芽によって生じるが、培養中に自然に生じる場合もあり、また、薬剤処理、プロトプラスト化等による人為的な処理によって得ることもできる。モノカリオンは遺伝的に不安定であるため、同種の菌から菌糸融合を通じて核を取り込みやすい性質を持つ。
【0018】
本明細書において、モノカリオンを指して「ベクター」というときは、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの伝搬を媒介する生物、又は該ウイルスを保持し、該ウイルスを他の個体に導入することのできる生物を意味する。また、本明細書において、「ベクターモノカリオン」とは、ベクターとして用いられるモノカリオンを意味し、「モノカリオンベクター」とは、モノカリオンから構成されるベクターを意味する。
【0019】
本発明の方法における担子菌、すなわち本発明の方法によるゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入の対象とし得る担子菌は、菌糸融合することができ、かつ、自然界において菌糸細胞あたり2個の半数体の核を含むものであればいずれの担子菌であってもよく、特に制限されないが、好ましくは異型担子菌類に属するものであり、より好ましくは紫紋羽病菌である。
【0020】
本明細書において、「菌糸融合」とは、伸長してきた菌糸が互いに融合し、細胞質同士がつながることをいい、高等な糸状菌で観察される現象である。菌糸融合には、完全融合及び不完全融合の2つがある。完全融合は互いの菌糸が同一個体に由来するときにみられ、融合後も互いの菌糸は伸長を続ける。不完全融合は互いの菌糸が異なる個体に由来するときにみられ、融合部位を起点として菌糸の衰弱死がみられる。不完全融合は、病原性低下因子を含む核外遺伝子の異なる個体から個体への移行の障壁と考えられている。完全融合及び不完全融合はともに種レベルで同一の糸状菌間でみられ、種レベルで異なる糸状菌間では菌糸融合は起こらない。また、ある糸状菌株が他の株の菌糸との間で完全融合を起こす性質を「栄養菌糸親和性」という。例えば、完全融合を起こす場合には、両菌株の栄養菌糸親和性が同一である、又は栄養菌糸親和性であるといい、そうでない場合、すなわち不完全融合を起こす場合には、両菌株の栄養菌糸親和性が異なる、又は栄養菌糸不親和性であるという。
【0021】
本明細書において、「紫紋羽病菌」とは、紫紋羽病の病原糸状菌であるヘリコバシディウム・モンパ(Helicobasidium mompa)をいう。紫紋羽病菌は土壌中に生息し、植物の根に感染して腐敗させる。根が腐敗することによって水分及び養分の吸収が不十分になるため、植物の地上部は衰弱し、やがて枯死に至る。
本発明の方法において使用するモノカリオンは、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入しようとする担子菌と同じ種に属するものであればよく、特に制限されない。このような担子菌のモノカリオンについては、以下のような知見がある。
【0022】
担子菌類は自然界では通常半数体の核を菌糸細胞当たり二個含んでいる(ダイカリオン)。例えば、紫紋羽病菌は担子菌類に属し、菌糸には細胞当たり二個の核が含まれることが知られている(Ito, K., 1949, “Studies on “Murasaki-mompa” disease caused by HelicobasidiumMompa TANAKA”, 林業試験場報告)。上述のように、担子菌のモノカリオンは、通常は担子胞子の発芽によって生じるが、培養中に自然に生じる場合もあり、また、薬剤処理、プロトプラスト化等による人為的な処理によって得ることもできる。前記薬剤処理に用いる薬剤としては、例えば、胆汁末、コール酸、重金属イオン等が挙げられる。例えば、ナメコ(Pholiota nameko)においては、継代培養中に自然にモノカリオンが生じる事例(Arita, I., 1979, “The mechanism of spontaneous dedikaryotization in hyphae of Pholiota nameko”, Mycologia, 71, 603-611; 熊田 淳,竹原太賀司,青野 茂, 1995, 「ナメコ(Pholiota nameko)菌床栽培における子実体の発生不良現象」, 木材学会誌,41, 114-119; 熊田 淳,竹原太賀司,青野茂, 1995, 「ナメコ(Pholiota nameko)発生不良株に生じたセクターの消長と不発芽の関係について」, 木材学会誌,41, 1158-1164)が知られている。また、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)においては、変異株同士の交配によって二倍体のモノカリオンが生じ、このモノカリオンは表現型が半数体モノカリオンと類似したことが報告されている(Koltin, Y. and Raper, J. R., 1968,“Dikaryosis: Genetic determination in Schizophyllum”, Science, 160, 85-86)。
【0023】
上記のような知見から、本発明に用いるモノカリオンを取得することができる。取得した担子菌株がモノカリオンであることは、例として紫紋羽病菌について以下に詳述するように、核に含まれる染色体を特異的に染色する色素であるDAPI(4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)、アクリジンオレンジ(3,6-ビス[ジメチルアミノ]アクリジン)等の水溶液を用いて該担子菌株の核を染色し、顕微鏡観察によって1つの細胞に含まれる核の数を計数することにより確認することができる。このようにして、当業者であれば本発明に用いるモノカリオンを取得することができるが、紫紋羽病菌にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入するためのモノカリオンとしては、例えば、紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)、紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)等を挙げることができる。これらの紫紋羽病菌モノカリオン(一核株)は、PDA培地(ディフコ社製)上で数回継代培養を繰り返すことによって生じたものと考えられている。
【0024】
なお、上記の紫紋羽病菌No.1株及びNo.3株は、それぞれ、識別表示#1M及び#3Mとして、FERM P−17908及びFERM P−17909の寄託番号で、工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)に平成12年6月19日付けで寄託されている。
本発明の好ましい実施形態では、上記方法は、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入しようとする担子菌と、該担子菌と同じ種に属し、該ウイルスを含むモノカリオンとを対峙培養する工程を含む。
【0025】
本明細書において、「対峙培養」とは、属、種、系統など遺伝的に異なる菌を、寒天平板培地上で互いの菌叢どうしが接触するように培養することをいう。この対峙培養は、例として紫紋羽病菌について以下に詳述するように、1つの寒天平板培地上で2種の菌株を同時に培養することによって行うことができる。
【0026】
ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを含むモノカリオンは、導入しようとする該ウイルスを予め含んでいるモノカリオンであってもよいし、あるいは、導入しようとする該ウイルスを含んでいないモノカリオンに該ウイルスを導入することにより調製してもよい。モノカリオンへのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入は、当業者に公知の方法により行うことができる。
【0027】
あるいは、モノカリオンは他の菌株との菌糸融合の際に融合部位を起点とする菌糸の衰弱死を起こさないため、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを保持している菌株との対峙培養によって該ウイルスをモノカリオンへ導入してもよい。この場合には、本発明は、該ウイルスを保持する担子菌株(以下「ウイルス供与株」という。)から該ウイルスを保持していない同種の担子菌株(以下「ウイルス受容株」という。)へ該ウイルスを導入する方法であって、(i)前記ウイルスを保持する担子菌株から該ウイルスを保持していない同種のモノカリオン(以下「ベクターモノカリオン」という。)へ該ウイルスを導入する工程;及び(ii)該ウイルスを保持するベクターモノカリオンから前記ウイルスを保持していない同種の担子菌株へ該ウイルスを導入する工程;を含む前記方法を提供するものということができる。ここで、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入する具体的手法としては、上記の対峙培養が好ましい。
【0028】
上記ウイルス供与株としては、上述のような、目的に応じたゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを含有するものであればいずれのものを用いてもよい。例えば、紫紋羽病菌では、病原性が低下した、配列番号1で表される塩基配列を有するゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを含む紫紋羽病菌No.70株を用いることができる。なお、紫紋羽病菌No.70株は、識別表示NMV-70、受託番号FERM P−17536として、工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)に、平成11年8月27日付けで寄託されている。
【0029】
本発明の好ましい具体的手順は、(i)ウイルス供与株、ベクターモノカリオン及びウ イルス受容株の核数確認;(ii)導入されるゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが供与株のみに含まれ、ベクターモノカリオン及びウイルス受容株には含まれないことの確認;(iii)対峙培養によるウイルス供与株からベクターモノカリオンへの該ウイルス導入及びベクターモノカリオンからの該ウイルスの検出;(iv)対峙培養による該ウイルス含有ベクターモノカリオンからウイルス受容株へのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入及びウイルス受容株からの該ウイルスの検出;の各工程を含む。以下、例として紫紋羽病菌に関して、これらの工程を分説する。
【0030】
(i)紫紋羽病菌の核数の確認
ウイルス供与株、モノカリオンベクター及びウイルス受容株の核数の確認は、以下のようにして行うことができる。ウイルス供与株としては、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを含む紫紋羽病菌、例えば、上述の紫紋羽病菌No.70株を用いることができる。モノカリオンベクターとしては、例えば、紫紋羽病菌No.1株、No.3株等を用いることが好ましい。さらに、ウイルス受容株としては、いずれの菌株を用いてもよく、特に制限されない。
【0031】
紫紋羽病菌の核数の確認は、例えば、核に含まれる染色体を特異的に染色する色素を用いて行うことができる。このような色素としては、当業者に公知のものを用いることができるが、例えば、DAPI(4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)、アクリジンオレンジ(3,6-ビス[ジメチルアミノ]アクリジン)等を用いることができる。このような色素による染色は、例えばアクリジンオレンジを用いる場合は、冷蔵庫中で遮光保存している1%アクリジンオレンジ水溶液を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で10倍希釈して調製した染色液に、1%素寒天上で約1ヶ月培養して伸長させた菌糸の先端を寒天ごと約5mm角に切り出した試料を暗所で約60分間浸漬することによって行うことができる。染色の終了した試料は、先にアクリジン水溶液の希釈に用いたものと同じリン酸ナトリウム緩衝液で数回洗浄し、過剰の染色液を洗い落としてから落射蛍光装置の付属した光学顕微鏡を用いて核数を確認することができる。この場合には、蛍光装置光源から青色フィルターを通過した励起光を染色済みの試料に照射することによって、緑色に発光した核が可視化され、細胞あたりの核数を数えることが可能になる(例えば、図1を参照されたい)。顕微鏡観察は400倍(対物レンズ40倍、接眼レンズ10倍)下で行うとよい。
【0032】
(ii)導入されるゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが供与株のみに含まれ、ベクターモノカリオン及びウイルス受容株には含まれないことの確認
紫紋羽病菌ウイルス供与株のみに導入されるべきゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが含まれ、ベクターモノカリオン及びウイルス受容株には含まれないことの確認は、例えば、ウイルス供与株、ベクターモノカリオン及びウイルス受容株の培養増殖、これらの各菌株からのdsRNA 分子の抽出及び精製、精製されたdsRNA 分子からのcDNA合成、並びにcDNAの塩基配列決定によって行うことができる。
【0033】
上記紫紋羽病菌株の培養増殖は次の方法で行うことができる。まず、シャーレ上で固めたオートミール寒天培地上であらかじめ培養された紫紋羽病菌を、無菌的に、200ml容三角フラスコ中に調製したオートミール液体培地(100ml)に接種し、例えば、25℃、暗所下で10日間培養を行い、菌体を増殖させる。なお、菌体の増殖を促すために、培養中の三角フラスコは毎分約150回転で旋回振とうを行うことが好ましい。増殖した紫紋羽病菌株は、吸引ろ過によって菌体と培地を分別することにより、菌体のみを回収することができる。回収された菌体は凍結乾燥機中で乾燥し、乾燥菌体をdsRNA 分子抽出に供することができる。
【0034】
dsRNA 分子の抽出・精製は公知の方法(Morris, T. J. and Dodds, J. A., 1979,“Isolation and analysis of double-stranded RNA from virus-infected plant and fungal tissue”, Phytopathology, 69, 854-858)、すなわちフェノール-クロロホルム抽出とセルロースカラムクロマトグラフィーを組み合わせた方法によって行うことができる。
【0035】
次いで、乾燥菌体は、乳鉢中で液体窒素を用いて再凍結し、粉末になるまで磨砕する。粉末化された菌体に核酸抽出用緩衝液を加えて十分に振とうし、混和する。核酸抽出用緩衝液としては、当業者に公知のものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、0.2Mグリシン、0.1Mリン酸水素二ナトリウム、0.6M塩化ナトリウム、1%ドデシル硫酸ナトリウム、0.1%2-メルカプトエタノールからなるもの(pH9.5)を用いることができる。さらに、純水で飽和させたフェノール及びクロロホルムの等量混合液を、先に加えた核酸抽出用緩衝液と等量加え、再び十分に振とうして混和した後、遠心分離によって、粗核酸抽出液を上澄み液として回収することができる。
【0036】
ここで得られる粗核酸抽出液は、DNA、ssRNA(一本鎖RNA)、dsRNA 分子を含む混合物であるため、次いでセルロースカラムクロマトグラフィーによってdsRNA 分子の精製を行う。粗核酸抽出液に対し、最終15%となるように99.5%エタノールを加え、十分に混和する。この溶液にセルロース粉末を最終5%になるよう加え、dsRNA 分子を該セルロース粉末へ吸着させる。セルロース粉末としては、好ましくはCF-11セルロース粉末(ワットマン社製)を用いる。この際に、氷中で10分間穏やかに振とうし、セルロース粉末へのdsRNA 分子吸着を促進することが好ましい。このように、15%エタノール存在下でセルロース粉末と混合することにより、dsRNA 分子はDNA及びssRNAよりも強くセルロース粉末に吸着する。dsRNA 分子を吸着したセルロース粉末は、遠心分離によって沈殿物として回収することができる。回収されたセルロースは、例えば、15%エタノール及び100mM塩化ナトリウム、10mMトリス塩酸、1mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムからなる緩衝液(15%エタノール/STE緩衝液、pH8.0)に再懸濁し、該懸濁液をガラス製カラム、例えば、ガラス製カラム(内径1cm×長さ25cm、バイオラッド社製)に注ぎ入れる。このカラムに100ml以上の同緩衝液を通過させ、dsRNA 分子以外の吸着成分を洗い流す。セルロースカラムに吸着されたdsRNA 分子は、例えば、エタノールを含まないSTE緩衝液10mlをカラムに通過させることによって回収することができる。以上の処理によって得られる液体試料から、アルコール沈殿によって精製dsRNA試料を得ることができる。
【0037】
上記のセルロースカラムクロマトグラフィーでは粗核酸抽出液に混入するDNA、ssRNAを完全には除去できないため、さらに高度な精製を行うことが好ましい。例えば、セルロースカラムクロマトグラフィーで除去されなかったDNA、ssRNAは酵素的に分解除去することができる。この場合には、dsRNA試料中に残存するDNAは、DNA分解酵素、例えば、DNase I(ファルマシア社製)を用いて分解除去することができ、dsRNA試料中に残存するssRNAは、濃度0.5M以上の塩化ナトリウム存在下でRNA分解酵素、例えば、RNase A(ニッポンジーン社製)を用いて、あるいは一本鎖核酸分解酵素、例えば、S1 Nuclease(宝酒造社製)、Mung Bean Nuclease(宝酒造社製)等を用いて分解除去することができる。これらの酵素による分解処理は、各酵素に添付の取扱書に基づいて行うことができる。
【0038】
精製されたdsRNA 分子が目的のdsRNA 分子であることは、例えば、寒天ゲル電気泳動(Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, book 1, Cold Spring Harbor Laboratory Press)によって確認することができる。このような寒天ゲル電気泳動によって、dsRNA 分子はその分子量に従って分画される。電気泳動に用いられる寒天ゲルは、例えば、濃度1〜1.5%になるように、40mM酢酸、40mMトリス及び1mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムからなる緩衝液(TAE緩衝液)中で溶解し、型枠に流し込んで固めることにより調製することができる。このように調製された寒天ゲルを、TAE緩衝液を張った泳動槽中に沈め、ゲルの一端に一列複数個作られた小孔に精製されたdsRNA試料を注入する。この寒天ゲルに、例えば、定電圧50Vで約1〜1.5時間通電することによりdsRNA 分子を分画する。寒天ゲル内で分画されたdsRNA 分子は、例えば、臭化エチジウム水溶液(例えば、臭化エチジウム10μg/100ml)中で10〜15分間染色した後、ゲルに紫外線を照射することにより可視化することができる。さらに、分画されたdsRNA 分子は、電気泳動における特性の知られている他の核酸分子、例えば、分子量と泳動度の知られている核酸分子を複数含む分子量マーカーとの比較によって特定することができる。このような方法に従う場合には、寒天ゲル電気泳動によってウイルス供与株から得られたdsRNA 分子の分子量とベクターモノカリオン及びウイルス受容株から得られたdsRNA 分子の分子量が異なる、あるいはベクターモノカリオン及び受容株からdsRNA 分子が検出されなければ、ベクターモノカリオン及び受容株に供与株と同じdsRNA 分子は含まれないことを確認することができる。
【0039】
供与株から抽出・精製されたdsRNA 分子からのcDNA合成及び塩基配列決定は、次のような方法で行うことができる。まず、精製されたdsRNA 分子を、例えば、99℃で10分間処理した後に氷中で急冷することにより一本鎖に解離させた後、目的のdsRNA 分子の塩基配列に基づいて設計された特異的プライマー及びRNA PCRキット Ver. 2.1(宝酒造製)を用いてRNAからcDNAを合成する。ここで用いる特異的プライマーの長さは特に制限されるものではないが、好ましくは20塩基以上とする。cDNA合成の手順はキット添付の説明書に従えばよい。合成されたcDNAは、増幅産物を濃度1.5%のSeaKem GTGアガロース(FMC社製)を用いた寒天ゲル電気泳動で分画した後、カミソリでcDNA画分の含まれる寒天を切り出し、例えば、QIAquick GelExtraction キット(キアゲン社製)を用いて回収することができる。cDNA回収はキット添付の説明書に従えばよい。回収されたcDNAは、例えば、pGEM-Tベクターシステム(プロメガ社製)を用い、添付の説明書に従ってpGEM-Tにライゲーションし、この反応産物を大腸菌JM109株(宝酒造社製)に導入して形質転換することができる(中山広樹・西方敬人, 1995, 細胞工学別冊「目で見る実験ノートシリーズ バイオ実験イラストレイテッド」第2巻,秀潤社)。大腸菌内で増殖したcDNAの組み込まれたプラスミドベクターは、例えば、QIAprep Spin Miniprepキット(キアゲン社製)を用いて抽出・精製することができる。プラスミドベクター抽出の手順はキット添付の説明書に従えばよい。調製されたプラスミドベクターから、例えば、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(PEアプライドバイオシステムズジャパン社製)、dRhodamine TerminatorCycle Sequencing Ready Reactionキット(PEアプライドバイオシステムズジャパン社製)等を用いてダイデオキシ法によるシーケンス反応を行い、反応産物からオートシーケンサー(ABI PRISM 310 Genetic Analyze;PEアプライドバイオシステムズジャパン社製)を用いて上記cDNAの塩基配列を決定することができる。決定された塩基配列は、遺伝子解析ソフト(例えば、GENETYX-MAC;ソフトウェア開発社製)を用い、目的のdsRNA 分子の塩基配列と比較することにより両者の異同を確認することができる。
【0040】
(iii)対峙培養によるウイルス供与株からベクターモノカリオンへのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入及びベクターモノカリオンからの dsRNA 分子の検出
ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入のための、ウイルス供与株とベクターモノカリオンの対峙培養は、例えば、以下の方法によって行うことができる。
【0041】
まず、ウイルス供与株とベクターモノカリオンを、シャーレ内で固めたオートミール寒天培地で前培養する。オートミール寒天培地は、市販の既製培地又は市販オートミールを用いて調製したもの等、いずれのものを用いてもよい。培養条件は、当業者であれば適切に選択できるため、特に制限されないが、例えば、25℃、暗所下で約14日間とすることができる。なお、ウイルス供与株中に目的のdsRNA 分子が含まれ、ベクターモノカリオンに供与株と同一のdsRNA 分子が含まれないことは、上記(ii)に記載の寒天ゲル電気泳動法によって確認することができる。
【0042】
次いで、ウイルス供与株及びベクターモノカリオンの前培養物において、伸長した菌糸の先端を含むように約5mm角の寒天培地を移植刀又は白金耳を用いて切り出し、これらを新しいオートミール寒天培地を含む1個のシャーレ上に置床する。この際、ウイルス供与株及びベクターモノカリオンを含む各寒天は、互いに約1cm間隔で培地中央に置床するとよい。ウイルス供与株とベクターモノカリオンを置床した寒天培地を含むシャーレは、乾燥防止のためにパラフィルムあるいはビニールテープで封じた後、例えば、25℃、暗所下で約10日間インキュベートし、ウイルス供与株及びベクターモノカリオンから新たな菌糸が伸長し、菌叢同士が互いに接触したことを肉眼で確認する(例えば、図3を参照されたい)。その後、例えば、25℃、暗所下で約30日間インキュベートする。約30日後に恒温器からシャーレを取り出し、ベクターモノカリオン菌叢のシャーレ縁側末端から移植刀又は白金耳を用いて約5mm角の菌糸を含む寒天片を切り出し、新しいオートミール寒天培地上に置床して培養増殖する。培養条件は、当業者であれば適切に選択できるため、特に制限されないが、例えば、25℃、暗所下で約14日間とすることができる。
【0043】
なお、ベクターモノカリオンにゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが導入されたことは、ベクターモノカリオンから抽出したdsRNA 分子についての、電気泳動法による供与株dsRNA 分子との分子量比較、あるいはベクターモノカリオンから抽出されたdsRNA 分子の塩基配列決定と供与株dsRNA 分子との塩基配列比較によって確認することができる。これらの電気泳動法による分子量比較、並びに塩基配列決定及び塩基配列比較は、上記(ii)に記載の方法に従って行うことができる。
【0044】
また、ベクターモノカリオン菌叢にウイルス供与株菌糸が混入していないことは、ベクターモノカリオンの核数観察によって確認される。前述のとおり紫紋羽病菌は自然界では通常細胞あたり二個の核を持つことが明らかにされている。一方、ベクターモノカリオンは細胞当たり一個の核しか持たない。ウイルス供与株は自然界に通常に存在する株であるため核を二個持っている。ウイルス供与株とベクターモノカリオンを対峙培養すると互いの菌糸が伸長し接触した部位で両株の菌糸融合が起こり、ウイルス供与株からベクターモノカリオンへゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが移るが供与株からベクターモノカリオンへの核の移行は伴わない。従って、ベクターモノカリオンの核数は変化せず、ダイカリオンとはならない。ウイルス供与株は先に述べたとおりダイカリオンのため、ウイルス供与株がベクターモノカリオン側に混入しないことは、核数観察によってベクターモノカリオン側菌糸の核数が細胞当たり1個であることが確認できればよい。このような核数の確認は、上記(i)に記載の方法に従って行うことができる。
【0045】
(iv)対峙培養によるベクターモノカリオンからウイルス受容株へのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入及びウイルス受容株からの dsRNA 分子の検出
ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入のための、ベクターモノカリオンとウイルス受容株の対峙培養は、例えば、上記(iii)に記載の方法に従って行うことができる。すなわち、ベクターモノカリオンとウイルス受容株を約10日間対峙培養し菌叢同士の接触を確認したのち、次いで約30日間対峙培養を行いベクターモノカリオンから受容株へゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入することができる。
【0046】
なお、受容株にベクターモノカリオンからゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが導入されたことは、受容株からdsRNA 分子についての、電気泳動法による供与株dsRNA 分子との分子量比較、あるいは受容株から抽出されたdsRNA 分子の塩基配列決定と供与株dsRNA 分子との塩基配列比較によって確認することができる。これらの電気泳動法による分子量比較、並びに塩基配列決定及び塩基配列比較は、上記(ii)に記載の方法に従って行うことができる。
【0047】
また、受容株菌叢にベクターモノカリオン菌糸が混入していないことは、上記(iii)と同様に、ベクターモノカリオンと受容株の核数比較によって確認される。受容株は供与株同様ダイカリオンのため、ベクターモノカリオンが受容株側に混入していないことは、核数観察によってベクターモノカリオン側菌糸の核数が細胞当たり1個であり、かつ、受容株側菌糸の核数が細胞当たり2個であることが確認できればよい。このような核数の確認は、上記(i)に記載の方法に従って行うことができる。
【0048】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
〔実施例1〕
(1)紫紋羽病菌の核数の確認
ウイルス供与株として紫紋羽病菌No.70株、モノカリオンベクターとして紫紋羽病菌No.1株及びNo.3株、ウイルス受容株として紫紋羽病菌No.18株を材料として用いた。なお、ウイルス供与株及びモノカリオンベクターの各株は福島県で採集され、ウイルス受容株は北海道で採集された。
【0049】
紫紋羽病菌の核数は、次のようにして確認した。まず、冷蔵庫中で遮光保存しておいた1%アクリジンオレンジ水溶液を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で10倍に希釈し、これを染色液とした。一方で、上記の各菌株を1%素寒天上、25℃で約1ヶ月間培養した。伸長した菌糸の先端を寒天ごと約5mm角に切り出し、これを暗所で約60分間にわたって上記染色液に浸漬した。染色の終了した試料は、先にアクリジン水溶液の希釈に用いたものと同じリン酸ナトリウム緩衝液で数回洗浄し、過剰の染色液を洗い落とした。この試料を落射蛍光装置の付属した光学顕微鏡に乗せ、蛍光装置光源から青色フィルターを通過した励起光を照射することによって緑色に発光した核を可視化し、細胞あたりの核数を数えた。顕微鏡観察は400倍(対物レンズ40倍、接眼レンズ10倍)で行った。
【0050】
その結果を図1に示した。図1において、Aはウイルス供与株(No.70株)、Bはベクター株(No.3株)、Cはウイルス受容株(No.18株)を示す。図1によれば、ウイルス供与株(No.70株)及びウイルス受容株(No.18株)は、1つの細胞中に2つの核を含有していたが、ベクター株(No.3株)は、1つの細胞中に1つの核を含有していた。ベクター株(No.1株)もまた、1つの細胞中に1つの核を含有していた(写真は示さない)。
【0051】
(2)ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが供与株のみに含まれ、ベクターモノカリオン及びウイルス受容株には含まれないことの確認
紫紋羽病菌ウイルス供与株のみにゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが含まれ、ベクターモノカリオン及びウイルス受容株に含まれないことは、以下のように、ウイルス供与株、ベクターモノカリオン及びウイルス受容株の培養増殖、これらの各菌株からのdsRNA 分子の抽出及び精製、精製されたdsRNA 分子からのcDNA合成、並びに該cDNAの塩基配列決定により確認した。
【0052】
上記紫紋羽病菌株の培養増殖は、次のようにして行った。シャーレ上で固めたオートミール寒天培地(ディフコ社製)上であらかじめ培養しておいた各菌株を、無菌的に200ml容三角フラスコ中に調製したオートミール液体培地(雪印社製)100mlに接種し、25℃、暗所下で10日間培養を行い、菌体を増殖させた。なお、菌体の増殖を促すために、培養中の三角フラスコは毎分約150回転で旋回振とうした。増殖した菌体を含む培養物は、吸引ろ過によって菌体と培地に分別し、菌体のみを回収した。回収された菌体は凍結乾燥し、乾燥菌体約0.5gをdsRNA 分子抽出に供した。
【0053】
dsRNA 分子の抽出・精製は公知の方法(Morris, T. J. and Dodds, J. A., 1979,“Isolation and analysis of double-stranded RNA from virus-infected plant and fungal tissue”, Phytopathology, 69, 854-858)、すなわち、フェノール-クロロホルム抽出とセルロースカラムクロマトグラフィーを組み合わせた方法により、以下の手順で行った。
【0054】
乾燥菌体は、乳鉢中で液体窒素を用いて再凍結し、粉末になるまで磨砕した。該粉末に、0.2Mグリシン、0.1Mリン酸水素二ナトリウム、0.6M塩化ナトリウム、1%ドデシル硫酸ナトリウム、0.1% 2-メルカプトエタノールからなる核酸抽出用緩衝液(GPS緩衝液、pH9.5)を加え、十分に振とうして混和した。さらに、純水で飽和させたフェノール及びクロロホルムの等量混合液を、先に加えたGPS緩衝液と等量加え、十分に振とうして混和した後、遠心分離(6,000×g、4℃、10分間)によって粗核酸抽出液を上澄み液として回収した。
【0055】
ここで得られた粗核酸抽出液は、DNA、ssRNA(一本鎖RNA)及びdsRNA 分子を含んでいるため、次のようにしてdsRNA 分子の精製を行った。該粗核酸抽出液に対し、エタノールの最終濃度が15%となるように99.5%エタノールを加え、十分混和した。この溶液に、CF-11セルロース粉末(ワットマン社製)を最終5%になるように加え、氷中で10分間穏やかに振とうし、dsRNA 分子をセルロース粉末へ吸着させた。dsRNA 分子を吸着させたセルロース粉末は、遠心分離(3,000×g、4℃、5分間)によって、沈殿として回収した。回収されたセルロースは、100mM塩化ナトリウム、10mMトリス塩酸及び1mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、並びに15%エタノールからなる緩衝液(15%エタノール/STE緩衝液、pH8.0)に再懸濁し、得られた懸濁液をガラス製カラム(内径1cm×長さ25cm、バイオラッド社製)に注ぎ入れた。このカラムに100ml以上の15%エタノール/STE緩衝液を通過させ、dsRNA 分子以外の吸着成分を洗い流した。セルロースカラムに吸着されたdsRNA 分子は、エタノールを含まないSTE緩衝液10mlをカラムに通過させ、得られた液体試料からエタノール沈殿によって、精製dsRNA試料として得ることができる。
【0056】
さらに、精製dsRNA試料中に残存するDNA及びssRNAを除去するために、これらを酵素的に分解除去した。dsRNA試料中に残存するDNAはDNA分解酵素(DNase I、ファルマシア社製)、ssRNAは濃度0.5M以上の塩化ナトリウム存在下でRNA分解酵素(RNase A、ニッポンジーン社製)を用いて、各酵素に添付の取扱書に従って分解除去した。
【0057】
精製されたdsRNA 分子が目的のdsRNA 分子であることを確認するために、寒天ゲル電気泳動(Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, book 1, Cold Spring Harbor Laboratory Press)を行った。電気泳動に用いられる寒天ゲルは、寒天を、終濃度1.0%になるように、40mM酢酸、40mMトリス及び1mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムからなる緩衝液(TAE緩衝液)中に溶解し、型枠に流し込んで固めることにより調製した。このように調製された寒天ゲルを、TAE緩衝液を張った泳動槽中に沈め、ゲルの一端に一列複数個作られた小孔に精製されたdsRNA試料を注入した。このように準備された寒天ゲルに定電圧50Vで約1時間通電することにより、dsRNA 分子を分画した。寒天ゲル内で分画されたdsRNA 分子を、臭化エチジウム水溶液(臭化エチジウム10μg/100ml)中で10〜15分間染色した後、ゲルに紫外線を照射することにより可視化した。
【0058】
上記電気泳動の結果を図2に示す。図2において、レーンMはλ/HindIII分子量ラダーを示し、レーンDはウイルス供与株(紫紋羽病菌No.70株)由来の試料を示し、レーンVはベクター株(紫紋羽病菌No.3株)由来の試料を示し、レーンRは受容株(紫紋羽病菌No.18株)由来の試料を示す。各レーンにおいて最も移動度の小さいバンドはDNAである。dsRNA 分子のバンドには、白抜きの三角印を付した。
【0059】
図2によれば、ウイルス供与株として用いた紫紋羽病菌No.70株からは、導入に用いられる目的のdsRNA 分子が確認された。ベクター株として用いたNo.3株はdsRNA 分子を保持していなかった。受容株として用いたNo.18株にはdsRNA 分子が含まれていたが、該dsRNA 分子は、供与株のdsRNA 分子とは分子量が異なるため、導入に用いる目的のdsRNA 分子とは異なると考えられる。
【0060】
以上のようにして供与株から得られた目的のdsRNA 分子からのcDNA合成及びその塩基配列決定は、次の手順で行った。まず、精製されたdsRNA 分子を、99℃で10分間インキュベートした後に、氷中で急冷して解離させ、一本鎖RNAとした。既に大崎ら(大崎秀樹・兼松聡子・岡部郁子・松本直幸・大津善弘,1999, 「紫紋羽病菌Helicobasidium mompaの弱病原性分離株から分離された二本鎖RNAの検出と塩基配列」, 日本植物病理学会報,65,338(講演要旨))によって決定されている供与株(No.70株)dsRNA 分子の塩基配列(配列番号1)に基づいて、以下の配列を有する特異的プライマーを設計した;
フォワードプライマー:5’-TACCACGCGACGAGTTCTATC-3’(配列番号3);
リバースプライマー:5’-TTGGGTTGTTGGTGATGTGCGT-3’(配列番号4)。
【0061】
上記一本鎖RNAを鋳型とし、上記プライマーを用いて、RNA PCRキット Ver. 2.1(宝酒造社製)によりcDNAを合成した。cDNA合成の手順はキット添付の説明書に従った。合成されたcDNAは濃度1.5%のSeaKem GTGアガロース(FMC社製)を用いた寒天ゲル電気泳動で分画した後、カミソリでcDNA画分の含まれる寒天を切り出し、QIAquick Gel Extractionキット(キアゲン社製)を用いてcDNAを回収した。cDNA回収の手順はキット添付の説明書に従った。回収されたcDNAを、pGEM-Tベクターシステム(プロメガ社製)を用い、添付の説明書に従ってpGEM-Tにライゲーションした。この反応産物を大腸菌JM109株(宝酒造社製)に導入し、形質転換した(中山広樹・西方敬人, 1995, 細胞工学別冊「目で見る実験ノートシリーズ バイオ実験イラストレイテッド」第2巻,秀潤社)。
【0062】
次いで、大腸菌内で増殖したcDNAの組み込まれたプラスミドベクターを、QIAprep Spin Miniprepキット(キアゲン社)を用いて抽出・精製した。プラスミドベクター抽出の手順はキット添付の説明書に従った。調製されたプラスミドベクターについて、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(PEアプライドバイオシステムズジャパン社製)を用いて、ダイデオキシ法によるシーケンス反応を行い、反応産物からオートシーケンサー(ABI PRISM 310 Genetic Analyze;PEアプライドバイオシステムズジャパン社製)を用いて塩基配列を決定した。
【0063】
このようにして決定した塩基配列(配列番号2)を、遺伝子解析ソフト(GENETYX-MAC;ソフトウェア開発社製)を用い、すでに決定済みである供与株dsRNA 分子の塩基配列(配列番号1)と比較した結果、前者は後者の一部と同一であることが確認された。
【0064】
(3)対峙培養によるウイルス供与株からベクターモノカリオンへのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入及びベクターモノカリオンからの dsRNA 分子の検出
ウイルス供与株からベクターモノカリオンへのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入は、以下のように、両者を対峙培養することにより行った。
【0065】
まず、ウイルス供与株(No.70株)及びベクターモノカリオン(No.3株)を、オートミール寒天培地(ディフコ社製)上で別々に前培養(25℃、暗所下で約14日間)した。それぞれの培養物において伸長した菌糸の先端を含むように約5mm角の寒天培地を移植刀又は白金耳を用いて切り出し、これらを新しいオートミール寒天培地を含む同じシャーレ上に置床した。このとき、ウイルス供与株とベクターモノカリオン各々を含む寒天は、約1cmの間隔で培地中央に置床した。ウイルス供与株とベクターモノカリオンを置床した寒天培地を含むシャーレは、乾燥防止のためにパラフィルムで密閉した後、恒温器中、25℃、暗所下で約10日間インキュベートし、ウイルス供与株及びベクターモノカリオンから新たな菌糸が伸長し、菌叢同士が互いに接触したことを肉眼で確認した(図3)。その後、そのシャーレを、再び恒温器中、25℃、暗所下で約30日間インキュベートした。恒温器からシャーレを取り出し、ベクターモノカリオン菌叢のシャーレ縁側末端から移植刀又は白金耳を用いて約5mm角の菌糸を含む寒天片を切り出し、新しいオートミール寒天培地上に置床し、培養(25℃、暗所下で約14日間)して増殖させた。
【0066】
次いで、ベクターモノカリオンからdsRNA 分子を抽出し、該dsRNA 分子について、電気泳動法による供与株dsRNA 分子との分子量比較、並びに塩基配列決定及び供与株dsRNA 分子との塩基配列比較を行うことによって、ベクターモノカリオンにdsRNA 分子が導入されたことを確認した。ここで、電気泳動法による分子量比較及び塩基配列決定は、上記(2)に記載の方法に従って行った。
【0067】
上記電気泳動の結果を図4に示す。図4において、レーンMはλ/HindIII分子量ラダーを示し、レーンDはウイルス供与株(紫紋羽病菌No.70株)由来の試料を示し、レーンV+は供与株との対峙培養を行ったベクター株由来の試料を示し、レーンVは供与株との対峙培養を行っていないベクター株元株(紫紋羽病菌No.3株)由来の試料を示す。各レーンにおいて最も移動度の小さいバンドはDNAである。
【0068】
図4によれば、供与株との対峙培養を行ったベクター株からは、ベクター株の元株では検出されなかった新たなdsRNA 分子が検出された(白抜きの三角印)。また、この新たなdsRNA 分子の分子量は、供与株のdsRNA 分子の分子量と一致していた。さらに、これらのdsRNA 分子の塩基配列(配列番号2)は完全に一致していた。従って、供与株からベクター株にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが移行したものと考えられた。
【0069】
また、上記対峙培養においてベクターモノカリオン菌叢にウイルス供与株菌糸が混入していないことは、ベクターモノカリオンの核数観察によって確認した。ここで、核数観察は上記(1)に記載の方法に従って行った。その結果、ベクターモノカリオン側菌糸の核数が細胞あたり1個であることが観察され、従って、ウイルス供与株がベクターモノカリオン側に混入していないことが確認された。
【0070】
(4)対峙培養によるベクターモノカリオンからウイルス受容株へのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入及びウイルス受容株からの該ウイルスの検出
ベクターモノカリオンからウイルス受容株へのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入は、上記(3)で得られたベクターモノカリオンとウイルス受容株(No.18株)を対峙培養することにより行った。ここで、対峙培養は上記(3)に記載の方法に従って行った。
【0071】
次いで、受容株からdsRNA 分子を抽出し、該dsRNA 分子について、電気泳動法による供与株dsRNA 分子との分子量比較、並びに塩基配列決定及び供与株dsRNA 分子との塩基配列比較を行うことによって、受容株にdsRNA 分子が導入されたことを確認した。ここで、電気泳動法による分子量比較及び塩基配列決定は、上記(2)に記載の方法に従って行った。
【0072】
上記電気泳動の結果を図5に示す。図5において、レーンMはλ/HindIII分子量ラダーを示し、レーンDはウイルス供与株(紫紋羽病菌No.70株)由来の試料を示し、レーンV+は供与株との対峙培養を行ったベクター株(紫紋羽病菌No.3株)由来の試料を示し、レーンR+はベクター株との対峙培養を行った受容株由来の試料を示し、レーンRはベクター株との対峙培養を行っていない受容株元株(紫紋羽病菌No.18株)由来の試料を示す。各レーンにおいて最も移動度の小さいバンドはDNAである。
【0073】
図5によれば、ベクター株との対峙培養を行った受容株からは、受容株の元株では検出されなかった新たなdsRNA 分子が検出された(白抜きの三角印)。また、この新たなdsRNA 分子の分子量は、供与株のdsRNA 分子の分子量と一致していた。さらに、これらのdsRNA 分子の塩基配列(配列番号2)は完全に一致していた。従って、ベクター株から受容株にゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが移行したものと考えられた。
【0074】
また、上記対峙培養において受容株菌叢にベクターモノカリオン菌糸が混入していないことは、ベクターモノカリオンと受容株の核数比較によって確認した。ここで、各菌株の核数観察は、上記(1)に記載の方法に従って行った。その結果、ベクターモノカリオン側菌糸の核数が細胞あたり1個であり、かつ、受容株側菌糸の核数が細胞あたり2個であることが観察され、ベクターモノカリオンが受容株側に混入していないことが確認された。
【0075】
(5)まとめ
上記(2)、(3)及び(4)において決定された、供与株から検出されたdsRNA 分子、並びにベクター株及び受容株から新たに検出されたdsRNA 分子からの増幅断片の塩基配列のアラインメントを図6に示す。図6において、3段の塩基配列のうち、上段は供与株におけるゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスからの増幅断片の塩基配列を示し、中段はベクター株に導入された該ウイルスからの増幅断片の塩基配列を示し、下段は受容株に導入された該ウイルスからの増幅断片の塩基配列を示す。下段の下に示した「*」(アステリスク)は、3段の塩基が全て一致したことを示す。
その結果、これらの塩基配列は全配列において一致し、ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスが供与株からベクター株を経て受容株に移行したことが明らかとなった。
【0076】
【発明の効果】
ベクターモノカリオンを用いることにより、従来不可能と思われていた、ウイルス供与株とは栄養菌糸親和性の異なる担子菌へのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの導入が可能となる。これにより、病原性担子菌に対するゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの弱病原化能の比較及び該ウイルス導入による病原性担子菌の弱病原化が可能となる。例えば、紫紋羽病菌に対する該ウイルスの弱病原化能の比較及び該ウイルス導入による紫紋羽病菌の弱病原化が可能になることから、リンゴ園地における紫紋羽病の防除に大きな効果を発揮すると考えられる。
【0077】
【配列表】
【0078】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:病原性低下紫紋羽病菌から分離されたdsRNAウイルス由来RNA依存的RNAポリメラーゼをコードするRNA
配列番号2:病原性低下紫紋羽病菌から分離されたdsRNAウイルス由来RNA依存的RNAポリメラーゼをコードするRNAの部分的cDNA
配列番号3及び4:プライマー
【図面の簡単な説明】
【図1】 ウイルス供与株(A)、ベクター株(B)及びウイルス受容株(C)の核型を示す顕微鏡写真である。
【図2】 ウイルス供与株、ベクター株及びウイルス受容株の各元株からのdsRNA 分子検出結果を示す電気泳動写真である。
【図3】 オートミール寒天培地上での、ウイルス供与株(紫紋羽病菌No.70株)及びベクター株(紫紋羽病菌No.3株)の対峙培養を示す図である。
【図4】 ウイルス供与株からベクター株へのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの移行を示す電気泳動写真である。
【図5】 ベクター株からウイルス受容株へのゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスの移行を示す電気泳動写真である。
【図6】 ウイルス供与株から検出されたdsRNA 分子、並びにベクター株及びウイルス受容株から新たに検出されたdsRNA 分子に対する部分cDNAの塩基配列のアラインメントを示す図である。
Claims (17)
- ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを保持する担子菌株から該ウイルスを保持していない同種の担子菌株へ該ウイルスを導入する方法であって、(i)前記ウイルスを保持する担子菌株から該ウイルスを保持していない同種のモノカリオンへ該ウイルスを導入する工程;及び(ii)該ウイルスを保持する同種のモノカリオンから前記ウイルスを保持していない同種の担子菌株へ該ウイルスを導入する工程;を含む前記方法。
- 前記担子菌が、異型担子菌類に属するものである請求項1記載の方法。
- 前記担子菌が紫紋羽病菌である請求項2記載の方法。
- 前記モノカリオンが、紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)又は紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)である請求項3記載の方法。
- ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを担子菌に導入する方法であって、該ウイルスを導入しようとする担子菌と同じ種に属するモノカリオンをベクターとして用いることを特徴とする前記方法。
- 前記担子菌が、異型担子菌類に属するものである請求項5記載の方法。
- 前記担子菌が紫紋羽病菌である請求項6記載の方法。
- 前記モノカリオンが、紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)又は紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)である請求項7記載の方法。
- ゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを担子菌に導入する方法であって、該ウイルスを導入しようとする担子菌と、該担子菌と同じ種に属し、該ウイルスを含むモノカリオンとを対峙培養する工程を含む前記方法。
- 前記担子菌が、異型担子菌類に属するものである請求項9記載の方法。
- 前記担子菌が紫紋羽病菌である請求項10記載の方法。
- 前記モノカリオンが、紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)又は紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)である請求項11記載の方法。
- 担子菌に保持されているゲノムが2本鎖RNAである糸状菌に寄生するウイルスを導入しようとする担子菌と同じ種に属するモノカリオンからなる、担子菌に該ウイルスを導入するためのベクター。
- 前記担子菌が、異型担子菌類に属するものである請求項13記載のベクター。
- 前記担子菌が紫紋羽病菌である請求項14記載のベクター。
- 前記モノカリオンが、紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)又は紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)である請求項15記載のベクター。
- 紫紋羽病菌No.1株(FERM P−17908)及び紫紋羽病菌No.3株(FERM P−17909)からなる群より選択されるモノカリオン。
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