JP3690028B2 - ポリエステルの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ほぼ等モル当量の多価カルボン酸とポリオールのエステル化反応を、水系で加水分解酵素を触媒として行うことを特徴とするポリエステルの製造方法に関する。更に詳しくは、ポリエステルを、水系で加水分解酵素のエステル合成反応によって、高温に加熱することなく合成する製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルは、ジカルボン酸とジオールから200℃以上の高温と真空下で合成するのが一般的な製造方法である。また、カルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて有機溶剤中でポリエステルを合成する方法も知られている。さらに、酵素を用いてカルボン酸とジオールから有機溶剤中でポリエステルを得る方法も示されている(S. Kobayashi and H. Uyama, Macromol. Chem. Rapid Commun., 14, 841 (1993)及び H. Uyama and S. Kobayashi, Chem. Lett., 1687 (1994))。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ほぼ等モル当量の多価カルボン酸とポリオールから、水系、あるいは水分散系で加水分解酵素を作用させて、比較的低温でしかも安価にポリエステルを製造する方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、水に難溶あるいは不溶の多価カルボン酸及びポリオールのほぼ等モル当量を、該多価カルボン酸が水に分散した懸濁液中でリパーゼを触媒として縮合させるポリエステルの製造方法に関する
【0005】
更に本発明は、多価カルボン酸が2価のカルボン酸であり、ポリオールが2価のポリオールである上記ポリエステルの製造方法を提供する。
【0006】
更に本発明は、ポリエステルの縮合度が10〜1,000,000である上記ポリエステルの製造方法を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のポリエステルの製造方法における多価カルボン酸は、1分子中にカルボキシル基を2個以上含有する化合物である。
このうち、2価のカルボン酸は1分子中にカルボキシル基を2個含有する化合物であり、例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマール酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−カルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロルフタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸等を挙げることができる。
また、2価のカルボン酸以外の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等を挙げることができる。
【0009】
本発明のポリエステルの製造方法においては、上記の多価カルボン酸のうち、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等を用いることが好ましい。これらの多価カルボン酸は水に難溶あるいは不溶であるため、多価カルボン酸が水に分散した懸濁液中でエステル合成反応が進行する。
【0010】
本発明のポリエステルの製造方法におけるポリオールは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。
このうち、2価のポリオールは1分子中に水酸基を2個含有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール等を挙げることができる。
また、2価のポリオール以外のポリオールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミン等を挙げることができる。
【0011】
本発明のポリエステルの製造方法においては、上記のポリオールのうち、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の2価のポリオールを用いることが好ましい。これらのポリオールは水に難溶あるいは不溶であるため、ポリオールが水に分散した懸濁液中でエステル合成反応が進行する
【0012】
本発明のポリエステルの製造方法は、加水分解酵素が触媒するエステル合成反応を利用することを特徴としている。したがって、本発明に使用される加水分解酵素は、エステル合成反応を触媒するものであれば特に制限はない。
本発明における加水分解酵素としては、例えば、カルボキシエステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アセチルエステラーゼ、ペクチンエステラーゼ、コレステロールエステラーゼ、タンナーゼ、モノアシルグリセロールリパーゼ、ラクトナーゼ、リポプロテインリパーゼ等のEC(酵素番号)3.1群(丸尾・田宮監修「酵素ハンドブック」朝倉書店 (1982) 等参照)に分類されるエステラーゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、キシロシダーゼ等のグリコシル化合物に作用するEC3.2群に分類される加水分解酵素、エポキシドヒドラーゼ等のEC3.3群に分類される加水分解酵素、アミノペプチダーゼ、キモトリプシン、トリプシン、プラスミン、ズブチリシン等のペプチド結合に作用するEC3.4群に分類される加水分解酵素、フロレチンヒドラーゼ等のEC3.7群に分類される加水分解酵素等を挙げることができる。
【0013】
上記のエステラーゼのうち、グリセロールエステルを加水分解し脂肪酸を遊離する酵素を特にリパーゼと呼ぶが、リパーゼは有機溶媒中での安定性が高く、収率良くエステル合成反応を触媒し、さらに安価に入手できることなどの利点がある。したがって、本発明のポリエステルの製造方法においても、収率やコストの面からリパーゼを用いることが望ましい。
【0014】
リパーゼには種々の起源のものを使用できるが、好ましいものとして、シュードモナス(Pseudomonas )属、アルカリゲネス(Alcaligenes )属、アクロモバクター(Achromobacter )属、カンジダ(Candida )属、アスペルギルス(Aspergillus )属、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール(Mucor )属等の微生物から得られるリパーゼ、植物種子から得られるリパーゼ、動物組織から得られるリパーゼ、さらに、パンクレアチン、ステアプシン等を挙げることができる。このうち、シュードモナス属、カンジダ属、アスペルギルス属の微生物由来のリパーゼを用いることが望ましい。
本発明のポリエステルの製造方法においては、2種類以上の加水分解酵素を混合して用いても良く、また、酵素の安定化や反応後の回収を容易にするために、公知の方法で固定化した酵素を用いることも可能である。
【0015】
本発明のポリエステルの製造方法は、水系で反応を行うものであるが、反応収率の向上や多価カルボン酸及びポリオールの分散性向上の目的で、有機溶剤を添加することも可能である。添加する有機溶剤としては、水に溶解するか水分散性の良い有機溶剤が好ましい。水溶性溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルオキシド、ホルムアミド、ピリジン、ジメチルセルソルブ、ジエチルセルソルブ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネート、アセトン等を挙げることができる。また、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル等の水溶性高分子化合物を用いることも可能である。
【0016】
水不溶性有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ヘキサン、石油エーテル、クロロホルム、ニトロベンゼン等を挙げることができる。また、菜種油、オリーブ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、紅花油等の植物油を用いることも可能である。
これら、有機溶剤の使用量は、反応後の精製分離を考慮し30重量%以下が好ましいが、より好ましくは10重量%以下である。また、2種類以上の有機溶剤を添加しても良い。
【0017】
本発明のポリエステルの製造方法においては、多価カルボン酸1.0モルに対して、ポリオールは0.9〜1.1モル当量使用することが望ましい。反応温度は−10〜100℃が好ましく、特に好ましくは20〜60℃が望ましい。
反応系への加水分解酵素の添加量は、用いる加水分解酵素のエステル合成能により適宜加減すれば良いが、好ましくは多価カルボン酸とポリオールの合計量に対し0.1〜1000重量%、さらに好ましくは1〜100重量%とすれば良い。このとき、酵素を大量に使用しても副反応は生じず、得られたポリエステルの精製操作に支障を来たすことはない。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0019】
(実施例1)
50ml容の試験管に、
セバシン酸 0.202g
1,4−ブタンジオール 0.090g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.058g(収率20%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は12,500(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約90であった。
【0020】
(実施例2)
50ml容の試験管に、
セバシン酸 0.202g
1,8−オクタンジオール 0.146g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.167g(収率48%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は14,200(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約85であった。
【0021】
(実施例3)
50ml容の試験管に、
セバシン酸 0.202g
1,12−ドデカンジオール 0.202g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.210g(収率52%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は15,600(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約80であった。
【0022】
(実施例4)
50ml容の試験管に、
セバシン酸 0.202g
ジエチレングリコール 0.106g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.040g(収率13%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は10,300(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約70であった。
【0023】
(実施例5)
50ml容の試験管に、
アジピン酸 0.146g
1,12−ドデカンジオール 0.202g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.056g(収率16%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は18,300(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約110であった。
【0024】
(実施例6)
50ml容の試験管に、
1,10−デカンジカルボン酸 0.230g
1,12−ドデカンジオール 0.202g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.196g(収率45%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は17,800(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約85であった。
【0025】
(実施例7)
50ml容の試験管に、
1,12−ドデカンジカルボン酸 0.258g
1,12−ドデカンジオール 0.202g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.188g(収率40%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は19,000(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約85であった。
【0026】
(実施例8)
50ml容の試験管に、
テレフタル酸 0.166g
1,12−ドデカンジオール 0.202g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.130g(収率35%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は8,900(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約50であった。
【0027】
(実施例9)
50ml容の試験管に、
ピロメリット酸 0.254g
1,12−ドデカンジオール 0.202g
蒸留水 10.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.092g(収率20%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は10,100(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約45であった。
【0028】
(実施例10)
50ml容の試験管に、
セバシン酸 0.202g
1,12−ドデカンジオール 0.202g
蒸留水 10.0ml
キシレン 1.0ml
リパーゼ(シュードモナス属の微生物由来) 0.100g
を入れ、45℃のウォーターバス中で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を十分量のメタノールに滴下し、得られた固体をガラスフィルターでろ過した後、真空乾燥して、固形物0.280g(収率69%)を得た。GPCを用いて分子量測定した結果、得られた固形物の数平均分子量は23,400(ポリスチレン換算)であり、縮合度は約120であった。
【0031】
【発明の効果】
本発明は、ほぼ等モル当量の多価カルボン酸とポリオールからポリエステルを製造する方法であり、水中で加水分解酵素を触媒として反応させることで、ポリエステルを得ることができる。
加水分解酵素によるエステル合成反応を利用する本発明の縮合方法を用いることで、比較的低温でしかも安価にポリエステルを得ることが可能である。

Claims (3)

  1. 水に難溶あるいは不溶の多価カルボン酸及びポリオールのほぼ等モル当量を、該多価カルボン酸が水に分散した懸濁液中でリパーゼを触媒として縮合させるポリエステルの製造方法。
  2. 多価カルボン酸が2価のカルボン酸であり、ポリオールが2価のポリオールである請求項1記載のポリエステルの製造方法。
  3. ポリエステルの縮合度が10〜1,000,000である請求項1又は2記載のポリエステルの製造方法。
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