JP3688724B2 - 平面型磁気素子 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、平面インダクタや平面トランス等の平面型磁気素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種電子機器の小形化が盛んに進められている。しかし、電子機器の電源部の小形化はそれに比較して遅れている。このため、電源部が機器全体に占める容積比率は増大する一方である。電子機器の小形化は、各種回路のLSI化によるところが大であるが、電源部に必須であるインダクタやトランス等の磁気部品については、このような小形化や集積化が遅れており、これが容積比率の増大の主因となっている。
【0003】
このような問題を解決するために、平面コイルと磁性体とを組み合わせた平面型の磁気素子が提案され、その高性能化の検討が進められている。これらに用いられる磁性薄膜には、1MHz以上の高周波数領域において、低損失でかつ高飽和磁化であることが要求される。今後、磁気素子の動作周波数が 10MHz〜100MHzへと推移していくにつれ、高周波での低損失と高飽和磁化の両立はより一層重要な問題になってくると考えられる。
【0004】
上述したような高周波励磁では、磁性膜面内に一軸磁気異方性を付与し、磁化困難軸励磁により回転磁化過程を利用する必要がある。また、透磁率を制御するためには、一軸磁気異方性を制御する必要がある。さらに、高周波励磁では、渦電流損失が顕著になるため、低損失化のためには磁性膜の積層化や磁性膜自身の高抵抗率化が必要になる。そして、インダクタンス密度やエネルギー密度を高めるためには、高飽和磁化が必要である。
【0005】
また、薄膜磁気ヘッド等においても、記録密度の増大と媒体の高保磁力化、高エネルギー積化、および動作周波数の高周波化に伴い、高周波数領域において低損失かつ高飽和磁化を兼ね備えた磁性薄膜が有効なのは言うまでもない。これらの要求は、その他の磁気素子においても一般に共通することである。
【0006】
上述した要求を満たす材料として、従来の遷移金属系合金単相膜では抵抗率が低すぎ、積層等の複雑な構造が必要となり、製造工程や製造コスト等の点から十分とは言えない。また、高抵抗率を有するソフトフェライト等の酸化物系材料は、飽和磁化が低く、小形化・高出力化には不向きである。
【0007】
これらの従来材料の欠点を克服するため、最近、Fe系の微結晶膜の研究開発が行われている。しかし、Fe基微結晶膜では優れた特性を示す軟磁性膜が得られているものの、より高い飽和磁化が期待される Fe-Co基の微結晶膜では低保磁力と高飽和磁化とを高度に両立させた軟磁性薄膜は得られていないのが現状である。その大きな理由の一つとして、Fe基より大きな磁歪定数、そしてこれに起因する局所磁気異方性の増大等が挙げられる。
【0008】
例えば、超小形薄膜インダクタンス素子等においては、特定の大きさの面内一軸磁気異方性が必要である。 Fe-Co基において単に磁歪定数低減により軟磁性を獲得した磁性膜では、磁気異方性の十分な制御性を得ることは困難である。また、一般に磁歪定数の低減に添加元素による効果等を利用することが行われるが、これでは磁歪定数の低減が同時に飽和磁化の減少を招き、高度な高飽和磁化軟磁性膜の実現を拒んでいる。特に、 Fe-Co基結晶質系では、高飽和磁化が期待される組成領域において、方位によらず正の磁歪定数を有することから、単純な磁性膜の配向性制御だけでは軟磁性の十分な改善も期待できない。
【0009】
上記したように、高飽和磁化を維持したまま十分な軟磁性と面内一軸磁気異方性の制御性を獲得するためには、 Fe-Co基において小さくない磁歪定数が存在する高飽和磁化組成領域を有効に活用する必要がある。しかし、 Fe-Co基の大きな磁歪定数を積極的に利用して、磁気異方性の付与・制御や軟磁性獲得を意図した研究はほとんど見受けられない。そこで、面内一軸磁気異方性の付与・制御により、所望の磁化困難軸励磁透磁率が獲得でき、かつ高飽和磁化と軟磁性とを満たす軟磁性膜が切望されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、小形化対応等の平面型磁気素子には、高周波数領域において高飽和磁化を満足する軟磁性体が求められていることから、面内一軸磁気異方性の制御性と磁化困難軸方向の軟磁性を保ちつつ、高飽和磁化を有することが軟磁性薄膜の必須条件となる。
【0011】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、面内一軸磁気異方性を付与・制御し、高飽和磁化と磁化困難軸方向の軟磁性を両立させた軟磁性薄膜を用いることによって、小形化および高性能化等を図った平面型磁気素子を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段と作用】
本発明の平面型磁気素子は、基板上に形成された軟磁性薄膜を有する平面型磁気素子において、前記軟磁性薄膜は、Sn、Sb、Bi、InおよびPbから選ばれる少なくとも1種のM1元素を1at.%以上10at.%未満の範囲で含有すると共に、平均結晶粒径が5nm以下のFe-Co基微結晶粒を主構成要素とし、かつ前記軟磁性薄膜の成膜後の熱処理時における前記基板にクランプされた前記 Fe-Co 基微結晶粒からの前記 M1 元素の分離により誘起された面内一軸磁気異方性を有すること、さらに前記軟磁性薄膜の面内一軸磁気異方性は方向性規則配列による磁気異方性を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜は、 Fe-Co基結晶質相を微結晶化した Fe-Co基微結晶粒を主構成要素とするものである。 Fe-Co系は、Feリッチ側で結晶質遷移金属合金中で最大級の飽和磁化を示す材料であり、さらにFe系より大きい磁歪定数を有する。これは、磁歪を介して磁気弾性エネルギーに関連した磁気異方性を誘導する上で有効である。具体的には、磁場中成膜、磁場中熱処理等により、異方性が誘導される。なお、弾性率や熱膨張率に一軸的異方性を有する基板上へ成膜、歪を導入した状態の基板への成膜、成膜後の基板または磁性膜への歪の誘導等の単独または複合の処理等の併用も、本発明の軟磁性薄膜に有効な異方性制御方法である。
【0014】
上述したような点から、 Fe-Co基結晶質相中のFeとCoの組成比は、Coの比率を x(Fe1-x Cox )とした場合に、 xの値が 0< x< 0.5を満足する範囲とすることが好ましい。さらに、遷移金属元素当りの磁気モーメントや磁歪定数を考慮すると、 0.1≦ x≦ 0.3の範囲とすることが望ましい。
【0015】
これらに加えて、 Fe-Co系は高いキュリー温度を示す系である。例えば、薄膜磁気インダクタンス素子は、一般に扱う電力の単位体積密度が高く、十分低損失化した磁性薄膜を使用した場合にも、ある程度の温度上昇が見込まれる。一般に、磁化を代表とする各種磁気特性は、温度依存性を持つため、動作状態によって素子特性が変化する場合がある。これを低減するためには、キュリー温度が高い方が一般に有利であり、要求に応じてキュリー点を調整できることは実用上有効である。
【0016】
本発明に用いる軟磁性薄膜の主構成要素となる Fe-Co基微結晶粒は、Sn、Sb、Bi、InおよびPbから選ばれる少なくとも 1種の元素(M1元素)を 1at.%以上10 at.%未満の範囲で含有するものであり、具体的には Fe-Co基微結晶粒にM1元素を固溶させる。これにより、飽和磁化の低減を最小限に抑えつつ、面内一軸磁気異方性の付与とその制御、および磁化困難軸方向の軟磁性化が可能となる。特にSnは、Fe系に固溶する際に自発磁化の希釈効果が緩やかであり、一方磁歪低減等には単純希釈以上の効果を呈するため、ある程度局所磁気異方性を抑制しつつ、高飽和磁化を維持する添加元素として好適である。このようなことから、M1元素の添加組成は、少なくともSnを含む 1種または複数種以上の元素とすることがより好ましい。
【0017】
上記したM1元素の含有量は、 1at.%以上10at.%未満の範囲とする。M1元素の含有量が 1at.%未満では、上記効果を十分に得ることができず、また10at.%以上となると十分な高飽和磁化が得られなくなる。また、SnおよびSbは、作製方法によっては 3〜 5at.%程度まで Fe-Co系に安定に固溶させることができるため、熱処理後の磁気異方性制御にも有効に作用する。
【0018】
本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜中の Fe-Co基微結晶粒は、その平均結晶粒径を 5nm以下とすることが好ましい。このように Fe-Co基結晶質相を微結晶化することは、軟磁性の獲得等に有効に作用する。この Fe-Co基結晶質相の微結晶化方法は、特に限定されるものではなく、成膜条件の制御や元素添加等により微結晶化することができる。例えば、上述したM1元素も平衡状態においては、SnとSb以外はほとんど Fe-Co系に固溶せず、よって微結晶化に寄与する。また、よく知られているように、4A族元素および5A族元素から選ばれる少なくとも 1種の元素(M2元素)や、 B、 Cおよび Nから選ばれる少なくとも 1種の元素(M3元素)を適量添加することにより、微結晶化や熱処理時の粒成長の抑制が可能である。これらの添加元素は特性を劣化させない程度、例えばM2元素は10at.%以下、M3元素は20at.%以下の範囲で添加することが好ましい。
【0019】
また、軟磁性薄膜の成膜方法は、成膜条件により微結晶膜が得られれば特に限定されるものではないが、一般的にはRFスパッタ法、DCスパッタ法、イオンビームスパッタ法等のスパッタ法が適している。ただし、蒸着法等のその他の物理的成膜法、ロール法、化学的成膜法等を適用することも可能である。
【0020】
次に、本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜の具体的な成膜方法、およびその後の熱処理について述べる。
【0021】
まず、例えばFe、Co、M1元素を適量含むターゲットを用いて、スパッタ法により成膜を行う。微結晶化のために、上述したようなM2元素やM3元素を、ターゲット中に適量添加してもよい。スパッタ雰囲気は、不活性ガス雰囲気、 N2 等の反応性雰囲気、あるいはこれらの混合ガス雰囲気でもよい。この成膜によって、図1に示すように、適量のM1元素を含有する Fe-Co基微結晶粒1を有する磁性膜2が得られる。なお、本発明においては、成膜直後に Fe-Co基微結晶相が生成していることが好ましいが、一部非晶質化していてもよい。図中3は基板である。また上記成膜によって、 Fe-Co基微結晶粒1において、バルクの純 Fe-Coよりも大きな格子定数が得られる。これは、バルクの Fe-Coよりも原子半径が大きいM1元素が Fe-Co基微結晶粒1に主に置換形で固溶するためである。M1元素の固溶量は、バルクの平衡状態の固溶限を超えてもよいのは当然である。
【0022】
なお、本発明の効果は、 Fe-Co基結晶質相の特定の配向面でなければ得られないものではなく、 (110)配向やその他の面の配向、あるいは無配向でもよい。
【0023】
次に、静磁場中で熱処理を行う。図1に示したように、磁場の印加方向(図中矢印Aで示す)は、面内に平行で磁化容易軸(図中矢印Bで示す)を形成したい方向に設定するものとする。この熱処理により、過剰に固溶したM1元素の少なくとも一部を Fe-Co基微結晶粒1内から分離させる。また、M1元素の置換サイトと遷移金属サイトとの間の異方的な配列を実現し、方向性規則配列による面内一軸磁気異方性を誘導する。このような処理の結果、以下の現象が生じる。
【0024】
すなわち、M1元素の脱離により平均の単位胞体積が減少する。その結果、 Fe-Co基微結晶粒1の格子定数が減少する。その際、磁性膜2をある程度薄くすると、図2の模式図に示すように、 Fe-Co基微結晶粒1が基板3にクランプされる効果により、面直方向(図中矢印aで示す)の格子定数の減少が面内方向(図中矢印bで示す)の格子定数の減少より顕著になる効果が生ずる。なお、 Fe-Co基微結晶1は、磁歪定数λ100 、λ111 が共に正であるため、面内における比較では印加磁場方向(図中矢印Aで示す)の格子定数よりも印加磁場に直交する方向(図中矢印Cで示す)の格子定数の方が減少しやすい。これらの効果は、微結晶膜の結晶方位の配向によらず、平均的に生ずる。なお、図2中、1aは Fe-Co基微結晶粒の当方的な体心格子を、1bは統計的に平均した収縮後の Fe-Co基微結晶粒(格子定数の収縮)を示している。
【0025】
上述した処理で得られる膜は、完全に等方的な格子定数に比較して面直方向で短く、面内で長く、特に印加磁場方向に長くなる。その場合、上記した磁歪の正負を考慮すると、磁気弾性エネルギーによって面直方向に対して面内を磁化容易面とし、面内では熱処理時印加磁場方向を磁化容易軸とする磁気異方性が誘導される。また、規則配列効果によっても、面内で熱処理時磁場印加方向を容易軸とするような磁気異方性が誘導される。さらに、膜形状に起因する形状磁気異方性効果も面内を容易面となすように働く。よって、軟磁性を阻害する垂直磁化成分の発生を回避し、面内一軸磁気異方性の誘導が可能となる。
【0026】
Fe-Co基結晶質相の微結晶化とM1元素の添加によるある程度の磁歪定数の低減に起因する局所磁気異方性の低下が得られることで、本発明に用いられる Fe-Co基微結晶膜は、磁気的結合領域の拡大による軟磁性化が生じ、さらに上記した面内で一様な巨視的面内一軸磁気異方性が導入されることで、さらに磁化困難軸励磁による軟磁性化が促進される。このように、本発明によれば、 Fe-Co基微結晶膜において磁化困難軸方向の軟磁性と一様な面内一軸磁気異方性が実現できる。また、一軸磁気異方性の制御は、熱処理条件やM1元素の添加量制御で行うことができる。なお、熱処理は 1段階熱処理に限らず、多段階の熱処理で本発明に用いる Fe-Co基微結晶膜を処理してもよい。例えば、 2段階の熱処理に分離し、最初の高温恒温過程でM1元素の脱離量を制御し、格子定数をほぼ確定させて、面内と面直の差を生成させ、続いて低温恒温過程により面内の異方性を成長・制御させてもよい。熱処理温度やM1濃度が面内一軸磁気異方性の制御因子を担い、所望の磁化困難軸飽和磁場に対応した磁気異方性エネルギー制御ができる。
【0027】
本発明においては、 Fe-Co基微結晶膜における Fe-Co基微結晶粒内の添加元素とその軟磁性化と異方性誘導機構に特徴を有するものであり、粒界生成物や複数相分散膜等の分散構造等に制限されるものではない。例えば、高周波低損失化の観点から高抵抗率材料との分散構造膜による高抵抗率化や、積層による実効的な高周波損失の低減化等を図ってもよい。
【0028】
本発明の平面型磁気素子は、上述したような Fe-Co基微結晶膜からなる軟磁性膜を有するものであり、例えばこの軟磁性膜と平面コイルとを組合せた平面インダクタや平面トランス、さらには薄膜磁気ヘッド等に適用することができる。そして、本発明に用いる Fe-Co基微結晶膜では、高飽和磁化を維持したまま面内一軸磁気異方性を付与・制御することができ、高周波励磁に適した磁化困難軸方向における軟磁性化が実現できる。これにより、平面型磁気素子の高エネルギー密度化、高インダクタンス密度化、高動作周波数化、高効率化等を達成することが可能になる。
【0029】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0030】
実施例1
RFマグネトロンスパッタリング法によって、 Fe-Co-Sn-Ta-N系薄膜を作製した。基板とターゲット間の距離は 170mmとし、ターゲットにはFe75Co25合金ターゲット(5インチφ×1mmt)を用いた。また、各添加元素の添加のために、チップを併用した。出発原料組成比はFe69.9Co23.3Sn5.8 Ta1 とした。表1に成膜条件の詳細を示す。
【0031】
【表1】
上述した成膜条件により、60nmの膜厚の薄膜試料を作製した。なお、成膜直前の前処理として、所定の真空度に到達した後に、ターゲットのプレスパッタ(スパッタリングパワー:400W× 600秒)を実施した。
【0032】
次に、上記薄膜試料に対して面内方向に 15kOe の磁場を印加しながら、 450℃の温度で 180分の磁場中熱処理を施した。
【0033】
このようにして得た薄膜の構造および特性を以下に示す要領で測定、評価した。薄膜の結晶構造は、X線回折(θ-2θ走査法、 Cu-Kα線)により特定した。膜構造(粒径)は、透過型電子顕微鏡(加速電圧:400kV)により観察および測定した。磁気測定は、振動試料型磁力計を用いて、最大印加磁場 10kOe で行った。磁性膜の面内一軸磁気異方性は、磁化曲線から積分面積HdIを算出し、磁化容易軸方向と磁化困難軸方向の差で評価した。それらの結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
表中のPArは成膜時のAr分圧、PN2は N2 分圧を示す。なお、表2に示す全試料で、 (110)配向性が強いX線回折ピークが得られた。面に垂直方向の面間隔 d110 は、2.02〜2.04オングストロームの値が得られた。 Fe-Co基微結晶膜にSnが 4〜 5at.%程度固溶した場合、完全な立方晶においては、d110 として 2.047〜 2.050オングストロームが期待されるため、面直方向の格子定数は若干縮小していると言える。
【0035】
また、表2中のEa は面内一軸磁気異方性エネルギーであり、熱処理時磁場印加方向に磁化容易軸が生成した場合を正に定義した。また、Hc は磁化困難軸方向の保磁力である。飽和磁化としては 1.9〜 2.2の値が得られた。表4に示すように、薄膜インダクタに適した大きさの磁気異方性が誘導され、磁化困難軸励磁において回転磁化過程が得られた。また、 Fe-Co基微結晶粒の粒径は 2.5〜 5.0nmが得られた。なお、表1の成膜時ガス圧力を 6〜 8×10-3Torrに増加させた場合には粒径が増大し、10〜20nmに達した。このように、成膜時ガス圧力は低く保つことが望ましい。
【0036】
次に、上記実施例と同一条件で、図3に示す薄膜インダクタ11の磁性膜部分(Fe-Co基微結晶膜12)を作製し、その後実施例と同一条件で磁場中熱処理を施した。ここで、図3に示す薄膜インダクタ11は、ダブルレクタンギュラー型の平面コイル13の両主面に、 Fe-Co基微結晶膜12、12を積層形成して構成したものである。なお、図6中14は電極であり、また矢印Aは磁化容易軸を、矢印Dは磁束を示す。この実施例の薄膜インダクタは、 50MHzまでほぼ平坦なインダクタンスを示し、品質係数Qが 8以上と良好な特性が得られた。
【0037】
比較例1
出発原料組成比をFe74.2Co24.8Ta1 とする以外は、実施例1と同一条件で成膜および熱処理を行って、薄膜試料を作製した。これら薄膜試料の特性を実施例1と同様にして測定した。その結果を表3に示す。また、 Fe-Co基微結晶粒の粒径は、実施例1とほぼ同じ範囲に分散した。
【0038】
【表3】
表3から明らかなように、Snを添加していない比較例1による各薄膜試料では、十分に小さい磁化困難軸方向の保磁力は得られなかった。また、巨視的な面内一軸磁気異方性の誘導量が不十分であり、磁化困難軸励磁において、明確な回転磁化過程を示さなかった。これは、M1元素の不在により、局所磁気異方性分散量が実施例に比べて低減されていないことと、巨視的磁気異方性制御ができなかったことにより、十分な軟磁性が得られなかったものである。
【0039】
比較例2
出発原料組成比をFe65.2Co21.8Sn12Ta1 とする以外は、実施例1と同一条件で成膜および熱処理を行って、薄膜試料を作製した。この薄膜試料のX線回折を行ったところ、Fe3 Snに類似した回折ピークが観察された。また、自発磁化は1.8T未満に減少し、十分な高飽和磁化が得られなかった。このように、M1元素を過剰に添加すると、高度に磁気特性がバランスした磁性膜が得られなくなる。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の平面型磁気素子によれば、面内一軸磁気異方性を付与・制御し、高飽和磁化と磁化困難軸方向の低保磁力(軟磁性)を両立させた軟磁性薄膜を用いているため、平面型磁気素子の高性能化や小形化等に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜の構造を模式的に示す図である。
【図2】 本発明に用いる軟磁性薄膜の格子定数の伸縮を模式的に示す図である。
【図3】 本発明の一実施例で作製した薄膜インダクタの構成を示す図であって、(a)はその平面図、(b)はそのX−X線に沿った断面図である。
【符号の説明】
1……M1元素を含有する Fe-Co基微結晶粒
1a… Fe-Co基微結晶粒の当方的な体心格子
1b…統計的に平均した収縮後の Fe-Co基微結晶粒
2……磁性膜( Fe-Co基微結晶膜)
3……基板
11…薄膜インダクタ
12… Fe-Co基微結晶膜
13…ダブルレクタンギュラー型平面コイル
A……磁場中熱処理時磁場印加方向
B……磁化容易軸
【産業上の利用分野】
本発明は、平面インダクタや平面トランス等の平面型磁気素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種電子機器の小形化が盛んに進められている。しかし、電子機器の電源部の小形化はそれに比較して遅れている。このため、電源部が機器全体に占める容積比率は増大する一方である。電子機器の小形化は、各種回路のLSI化によるところが大であるが、電源部に必須であるインダクタやトランス等の磁気部品については、このような小形化や集積化が遅れており、これが容積比率の増大の主因となっている。
【0003】
このような問題を解決するために、平面コイルと磁性体とを組み合わせた平面型の磁気素子が提案され、その高性能化の検討が進められている。これらに用いられる磁性薄膜には、1MHz以上の高周波数領域において、低損失でかつ高飽和磁化であることが要求される。今後、磁気素子の動作周波数が 10MHz〜100MHzへと推移していくにつれ、高周波での低損失と高飽和磁化の両立はより一層重要な問題になってくると考えられる。
【0004】
上述したような高周波励磁では、磁性膜面内に一軸磁気異方性を付与し、磁化困難軸励磁により回転磁化過程を利用する必要がある。また、透磁率を制御するためには、一軸磁気異方性を制御する必要がある。さらに、高周波励磁では、渦電流損失が顕著になるため、低損失化のためには磁性膜の積層化や磁性膜自身の高抵抗率化が必要になる。そして、インダクタンス密度やエネルギー密度を高めるためには、高飽和磁化が必要である。
【0005】
また、薄膜磁気ヘッド等においても、記録密度の増大と媒体の高保磁力化、高エネルギー積化、および動作周波数の高周波化に伴い、高周波数領域において低損失かつ高飽和磁化を兼ね備えた磁性薄膜が有効なのは言うまでもない。これらの要求は、その他の磁気素子においても一般に共通することである。
【0006】
上述した要求を満たす材料として、従来の遷移金属系合金単相膜では抵抗率が低すぎ、積層等の複雑な構造が必要となり、製造工程や製造コスト等の点から十分とは言えない。また、高抵抗率を有するソフトフェライト等の酸化物系材料は、飽和磁化が低く、小形化・高出力化には不向きである。
【0007】
これらの従来材料の欠点を克服するため、最近、Fe系の微結晶膜の研究開発が行われている。しかし、Fe基微結晶膜では優れた特性を示す軟磁性膜が得られているものの、より高い飽和磁化が期待される Fe-Co基の微結晶膜では低保磁力と高飽和磁化とを高度に両立させた軟磁性薄膜は得られていないのが現状である。その大きな理由の一つとして、Fe基より大きな磁歪定数、そしてこれに起因する局所磁気異方性の増大等が挙げられる。
【0008】
例えば、超小形薄膜インダクタンス素子等においては、特定の大きさの面内一軸磁気異方性が必要である。 Fe-Co基において単に磁歪定数低減により軟磁性を獲得した磁性膜では、磁気異方性の十分な制御性を得ることは困難である。また、一般に磁歪定数の低減に添加元素による効果等を利用することが行われるが、これでは磁歪定数の低減が同時に飽和磁化の減少を招き、高度な高飽和磁化軟磁性膜の実現を拒んでいる。特に、 Fe-Co基結晶質系では、高飽和磁化が期待される組成領域において、方位によらず正の磁歪定数を有することから、単純な磁性膜の配向性制御だけでは軟磁性の十分な改善も期待できない。
【0009】
上記したように、高飽和磁化を維持したまま十分な軟磁性と面内一軸磁気異方性の制御性を獲得するためには、 Fe-Co基において小さくない磁歪定数が存在する高飽和磁化組成領域を有効に活用する必要がある。しかし、 Fe-Co基の大きな磁歪定数を積極的に利用して、磁気異方性の付与・制御や軟磁性獲得を意図した研究はほとんど見受けられない。そこで、面内一軸磁気異方性の付与・制御により、所望の磁化困難軸励磁透磁率が獲得でき、かつ高飽和磁化と軟磁性とを満たす軟磁性膜が切望されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、小形化対応等の平面型磁気素子には、高周波数領域において高飽和磁化を満足する軟磁性体が求められていることから、面内一軸磁気異方性の制御性と磁化困難軸方向の軟磁性を保ちつつ、高飽和磁化を有することが軟磁性薄膜の必須条件となる。
【0011】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、面内一軸磁気異方性を付与・制御し、高飽和磁化と磁化困難軸方向の軟磁性を両立させた軟磁性薄膜を用いることによって、小形化および高性能化等を図った平面型磁気素子を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段と作用】
本発明の平面型磁気素子は、基板上に形成された軟磁性薄膜を有する平面型磁気素子において、前記軟磁性薄膜は、Sn、Sb、Bi、InおよびPbから選ばれる少なくとも1種のM1元素を1at.%以上10at.%未満の範囲で含有すると共に、平均結晶粒径が5nm以下のFe-Co基微結晶粒を主構成要素とし、かつ前記軟磁性薄膜の成膜後の熱処理時における前記基板にクランプされた前記 Fe-Co 基微結晶粒からの前記 M1 元素の分離により誘起された面内一軸磁気異方性を有すること、さらに前記軟磁性薄膜の面内一軸磁気異方性は方向性規則配列による磁気異方性を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜は、 Fe-Co基結晶質相を微結晶化した Fe-Co基微結晶粒を主構成要素とするものである。 Fe-Co系は、Feリッチ側で結晶質遷移金属合金中で最大級の飽和磁化を示す材料であり、さらにFe系より大きい磁歪定数を有する。これは、磁歪を介して磁気弾性エネルギーに関連した磁気異方性を誘導する上で有効である。具体的には、磁場中成膜、磁場中熱処理等により、異方性が誘導される。なお、弾性率や熱膨張率に一軸的異方性を有する基板上へ成膜、歪を導入した状態の基板への成膜、成膜後の基板または磁性膜への歪の誘導等の単独または複合の処理等の併用も、本発明の軟磁性薄膜に有効な異方性制御方法である。
【0014】
上述したような点から、 Fe-Co基結晶質相中のFeとCoの組成比は、Coの比率を x(Fe1-x Cox )とした場合に、 xの値が 0< x< 0.5を満足する範囲とすることが好ましい。さらに、遷移金属元素当りの磁気モーメントや磁歪定数を考慮すると、 0.1≦ x≦ 0.3の範囲とすることが望ましい。
【0015】
これらに加えて、 Fe-Co系は高いキュリー温度を示す系である。例えば、薄膜磁気インダクタンス素子は、一般に扱う電力の単位体積密度が高く、十分低損失化した磁性薄膜を使用した場合にも、ある程度の温度上昇が見込まれる。一般に、磁化を代表とする各種磁気特性は、温度依存性を持つため、動作状態によって素子特性が変化する場合がある。これを低減するためには、キュリー温度が高い方が一般に有利であり、要求に応じてキュリー点を調整できることは実用上有効である。
【0016】
本発明に用いる軟磁性薄膜の主構成要素となる Fe-Co基微結晶粒は、Sn、Sb、Bi、InおよびPbから選ばれる少なくとも 1種の元素(M1元素)を 1at.%以上10 at.%未満の範囲で含有するものであり、具体的には Fe-Co基微結晶粒にM1元素を固溶させる。これにより、飽和磁化の低減を最小限に抑えつつ、面内一軸磁気異方性の付与とその制御、および磁化困難軸方向の軟磁性化が可能となる。特にSnは、Fe系に固溶する際に自発磁化の希釈効果が緩やかであり、一方磁歪低減等には単純希釈以上の効果を呈するため、ある程度局所磁気異方性を抑制しつつ、高飽和磁化を維持する添加元素として好適である。このようなことから、M1元素の添加組成は、少なくともSnを含む 1種または複数種以上の元素とすることがより好ましい。
【0017】
上記したM1元素の含有量は、 1at.%以上10at.%未満の範囲とする。M1元素の含有量が 1at.%未満では、上記効果を十分に得ることができず、また10at.%以上となると十分な高飽和磁化が得られなくなる。また、SnおよびSbは、作製方法によっては 3〜 5at.%程度まで Fe-Co系に安定に固溶させることができるため、熱処理後の磁気異方性制御にも有効に作用する。
【0018】
本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜中の Fe-Co基微結晶粒は、その平均結晶粒径を 5nm以下とすることが好ましい。このように Fe-Co基結晶質相を微結晶化することは、軟磁性の獲得等に有効に作用する。この Fe-Co基結晶質相の微結晶化方法は、特に限定されるものではなく、成膜条件の制御や元素添加等により微結晶化することができる。例えば、上述したM1元素も平衡状態においては、SnとSb以外はほとんど Fe-Co系に固溶せず、よって微結晶化に寄与する。また、よく知られているように、4A族元素および5A族元素から選ばれる少なくとも 1種の元素(M2元素)や、 B、 Cおよび Nから選ばれる少なくとも 1種の元素(M3元素)を適量添加することにより、微結晶化や熱処理時の粒成長の抑制が可能である。これらの添加元素は特性を劣化させない程度、例えばM2元素は10at.%以下、M3元素は20at.%以下の範囲で添加することが好ましい。
【0019】
また、軟磁性薄膜の成膜方法は、成膜条件により微結晶膜が得られれば特に限定されるものではないが、一般的にはRFスパッタ法、DCスパッタ法、イオンビームスパッタ法等のスパッタ法が適している。ただし、蒸着法等のその他の物理的成膜法、ロール法、化学的成膜法等を適用することも可能である。
【0020】
次に、本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜の具体的な成膜方法、およびその後の熱処理について述べる。
【0021】
まず、例えばFe、Co、M1元素を適量含むターゲットを用いて、スパッタ法により成膜を行う。微結晶化のために、上述したようなM2元素やM3元素を、ターゲット中に適量添加してもよい。スパッタ雰囲気は、不活性ガス雰囲気、 N2 等の反応性雰囲気、あるいはこれらの混合ガス雰囲気でもよい。この成膜によって、図1に示すように、適量のM1元素を含有する Fe-Co基微結晶粒1を有する磁性膜2が得られる。なお、本発明においては、成膜直後に Fe-Co基微結晶相が生成していることが好ましいが、一部非晶質化していてもよい。図中3は基板である。また上記成膜によって、 Fe-Co基微結晶粒1において、バルクの純 Fe-Coよりも大きな格子定数が得られる。これは、バルクの Fe-Coよりも原子半径が大きいM1元素が Fe-Co基微結晶粒1に主に置換形で固溶するためである。M1元素の固溶量は、バルクの平衡状態の固溶限を超えてもよいのは当然である。
【0022】
なお、本発明の効果は、 Fe-Co基結晶質相の特定の配向面でなければ得られないものではなく、 (110)配向やその他の面の配向、あるいは無配向でもよい。
【0023】
次に、静磁場中で熱処理を行う。図1に示したように、磁場の印加方向(図中矢印Aで示す)は、面内に平行で磁化容易軸(図中矢印Bで示す)を形成したい方向に設定するものとする。この熱処理により、過剰に固溶したM1元素の少なくとも一部を Fe-Co基微結晶粒1内から分離させる。また、M1元素の置換サイトと遷移金属サイトとの間の異方的な配列を実現し、方向性規則配列による面内一軸磁気異方性を誘導する。このような処理の結果、以下の現象が生じる。
【0024】
すなわち、M1元素の脱離により平均の単位胞体積が減少する。その結果、 Fe-Co基微結晶粒1の格子定数が減少する。その際、磁性膜2をある程度薄くすると、図2の模式図に示すように、 Fe-Co基微結晶粒1が基板3にクランプされる効果により、面直方向(図中矢印aで示す)の格子定数の減少が面内方向(図中矢印bで示す)の格子定数の減少より顕著になる効果が生ずる。なお、 Fe-Co基微結晶1は、磁歪定数λ100 、λ111 が共に正であるため、面内における比較では印加磁場方向(図中矢印Aで示す)の格子定数よりも印加磁場に直交する方向(図中矢印Cで示す)の格子定数の方が減少しやすい。これらの効果は、微結晶膜の結晶方位の配向によらず、平均的に生ずる。なお、図2中、1aは Fe-Co基微結晶粒の当方的な体心格子を、1bは統計的に平均した収縮後の Fe-Co基微結晶粒(格子定数の収縮)を示している。
【0025】
上述した処理で得られる膜は、完全に等方的な格子定数に比較して面直方向で短く、面内で長く、特に印加磁場方向に長くなる。その場合、上記した磁歪の正負を考慮すると、磁気弾性エネルギーによって面直方向に対して面内を磁化容易面とし、面内では熱処理時印加磁場方向を磁化容易軸とする磁気異方性が誘導される。また、規則配列効果によっても、面内で熱処理時磁場印加方向を容易軸とするような磁気異方性が誘導される。さらに、膜形状に起因する形状磁気異方性効果も面内を容易面となすように働く。よって、軟磁性を阻害する垂直磁化成分の発生を回避し、面内一軸磁気異方性の誘導が可能となる。
【0026】
Fe-Co基結晶質相の微結晶化とM1元素の添加によるある程度の磁歪定数の低減に起因する局所磁気異方性の低下が得られることで、本発明に用いられる Fe-Co基微結晶膜は、磁気的結合領域の拡大による軟磁性化が生じ、さらに上記した面内で一様な巨視的面内一軸磁気異方性が導入されることで、さらに磁化困難軸励磁による軟磁性化が促進される。このように、本発明によれば、 Fe-Co基微結晶膜において磁化困難軸方向の軟磁性と一様な面内一軸磁気異方性が実現できる。また、一軸磁気異方性の制御は、熱処理条件やM1元素の添加量制御で行うことができる。なお、熱処理は 1段階熱処理に限らず、多段階の熱処理で本発明に用いる Fe-Co基微結晶膜を処理してもよい。例えば、 2段階の熱処理に分離し、最初の高温恒温過程でM1元素の脱離量を制御し、格子定数をほぼ確定させて、面内と面直の差を生成させ、続いて低温恒温過程により面内の異方性を成長・制御させてもよい。熱処理温度やM1濃度が面内一軸磁気異方性の制御因子を担い、所望の磁化困難軸飽和磁場に対応した磁気異方性エネルギー制御ができる。
【0027】
本発明においては、 Fe-Co基微結晶膜における Fe-Co基微結晶粒内の添加元素とその軟磁性化と異方性誘導機構に特徴を有するものであり、粒界生成物や複数相分散膜等の分散構造等に制限されるものではない。例えば、高周波低損失化の観点から高抵抗率材料との分散構造膜による高抵抗率化や、積層による実効的な高周波損失の低減化等を図ってもよい。
【0028】
本発明の平面型磁気素子は、上述したような Fe-Co基微結晶膜からなる軟磁性膜を有するものであり、例えばこの軟磁性膜と平面コイルとを組合せた平面インダクタや平面トランス、さらには薄膜磁気ヘッド等に適用することができる。そして、本発明に用いる Fe-Co基微結晶膜では、高飽和磁化を維持したまま面内一軸磁気異方性を付与・制御することができ、高周波励磁に適した磁化困難軸方向における軟磁性化が実現できる。これにより、平面型磁気素子の高エネルギー密度化、高インダクタンス密度化、高動作周波数化、高効率化等を達成することが可能になる。
【0029】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0030】
実施例1
RFマグネトロンスパッタリング法によって、 Fe-Co-Sn-Ta-N系薄膜を作製した。基板とターゲット間の距離は 170mmとし、ターゲットにはFe75Co25合金ターゲット(5インチφ×1mmt)を用いた。また、各添加元素の添加のために、チップを併用した。出発原料組成比はFe69.9Co23.3Sn5.8 Ta1 とした。表1に成膜条件の詳細を示す。
【0031】
【表1】
上述した成膜条件により、60nmの膜厚の薄膜試料を作製した。なお、成膜直前の前処理として、所定の真空度に到達した後に、ターゲットのプレスパッタ(スパッタリングパワー:400W× 600秒)を実施した。
【0032】
次に、上記薄膜試料に対して面内方向に 15kOe の磁場を印加しながら、 450℃の温度で 180分の磁場中熱処理を施した。
【0033】
このようにして得た薄膜の構造および特性を以下に示す要領で測定、評価した。薄膜の結晶構造は、X線回折(θ-2θ走査法、 Cu-Kα線)により特定した。膜構造(粒径)は、透過型電子顕微鏡(加速電圧:400kV)により観察および測定した。磁気測定は、振動試料型磁力計を用いて、最大印加磁場 10kOe で行った。磁性膜の面内一軸磁気異方性は、磁化曲線から積分面積HdIを算出し、磁化容易軸方向と磁化困難軸方向の差で評価した。それらの結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
表中のPArは成膜時のAr分圧、PN2は N2 分圧を示す。なお、表2に示す全試料で、 (110)配向性が強いX線回折ピークが得られた。面に垂直方向の面間隔 d110 は、2.02〜2.04オングストロームの値が得られた。 Fe-Co基微結晶膜にSnが 4〜 5at.%程度固溶した場合、完全な立方晶においては、d110 として 2.047〜 2.050オングストロームが期待されるため、面直方向の格子定数は若干縮小していると言える。
【0035】
また、表2中のEa は面内一軸磁気異方性エネルギーであり、熱処理時磁場印加方向に磁化容易軸が生成した場合を正に定義した。また、Hc は磁化困難軸方向の保磁力である。飽和磁化としては 1.9〜 2.2の値が得られた。表4に示すように、薄膜インダクタに適した大きさの磁気異方性が誘導され、磁化困難軸励磁において回転磁化過程が得られた。また、 Fe-Co基微結晶粒の粒径は 2.5〜 5.0nmが得られた。なお、表1の成膜時ガス圧力を 6〜 8×10-3Torrに増加させた場合には粒径が増大し、10〜20nmに達した。このように、成膜時ガス圧力は低く保つことが望ましい。
【0036】
次に、上記実施例と同一条件で、図3に示す薄膜インダクタ11の磁性膜部分(Fe-Co基微結晶膜12)を作製し、その後実施例と同一条件で磁場中熱処理を施した。ここで、図3に示す薄膜インダクタ11は、ダブルレクタンギュラー型の平面コイル13の両主面に、 Fe-Co基微結晶膜12、12を積層形成して構成したものである。なお、図6中14は電極であり、また矢印Aは磁化容易軸を、矢印Dは磁束を示す。この実施例の薄膜インダクタは、 50MHzまでほぼ平坦なインダクタンスを示し、品質係数Qが 8以上と良好な特性が得られた。
【0037】
比較例1
出発原料組成比をFe74.2Co24.8Ta1 とする以外は、実施例1と同一条件で成膜および熱処理を行って、薄膜試料を作製した。これら薄膜試料の特性を実施例1と同様にして測定した。その結果を表3に示す。また、 Fe-Co基微結晶粒の粒径は、実施例1とほぼ同じ範囲に分散した。
【0038】
【表3】
表3から明らかなように、Snを添加していない比較例1による各薄膜試料では、十分に小さい磁化困難軸方向の保磁力は得られなかった。また、巨視的な面内一軸磁気異方性の誘導量が不十分であり、磁化困難軸励磁において、明確な回転磁化過程を示さなかった。これは、M1元素の不在により、局所磁気異方性分散量が実施例に比べて低減されていないことと、巨視的磁気異方性制御ができなかったことにより、十分な軟磁性が得られなかったものである。
【0039】
比較例2
出発原料組成比をFe65.2Co21.8Sn12Ta1 とする以外は、実施例1と同一条件で成膜および熱処理を行って、薄膜試料を作製した。この薄膜試料のX線回折を行ったところ、Fe3 Snに類似した回折ピークが観察された。また、自発磁化は1.8T未満に減少し、十分な高飽和磁化が得られなかった。このように、M1元素を過剰に添加すると、高度に磁気特性がバランスした磁性膜が得られなくなる。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の平面型磁気素子によれば、面内一軸磁気異方性を付与・制御し、高飽和磁化と磁化困難軸方向の低保磁力(軟磁性)を両立させた軟磁性薄膜を用いているため、平面型磁気素子の高性能化や小形化等に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の平面型磁気素子に用いる軟磁性薄膜の構造を模式的に示す図である。
【図2】 本発明に用いる軟磁性薄膜の格子定数の伸縮を模式的に示す図である。
【図3】 本発明の一実施例で作製した薄膜インダクタの構成を示す図であって、(a)はその平面図、(b)はそのX−X線に沿った断面図である。
【符号の説明】
1……M1元素を含有する Fe-Co基微結晶粒
1a… Fe-Co基微結晶粒の当方的な体心格子
1b…統計的に平均した収縮後の Fe-Co基微結晶粒
2……磁性膜( Fe-Co基微結晶膜)
3……基板
11…薄膜インダクタ
12… Fe-Co基微結晶膜
13…ダブルレクタンギュラー型平面コイル
A……磁場中熱処理時磁場印加方向
B……磁化容易軸
Claims (2)
- 基板上に形成された軟磁性薄膜を有する平面型磁気素子において、
前記軟磁性薄膜は、Sn、Sb、Bi、InおよびPbから選ばれる少なくとも1種のM1元素を1at.%以上10at.%未満の範囲で含有すると共に、平均結晶粒径が5nm以下のFe-Co基微結晶粒を主構成要素とし、かつ前記軟磁性薄膜の成膜後の熱処理時における前記基板にクランプされた前記 Fe-Co 基微結晶粒からの前記 M1 元素の分離により誘起された面内一軸磁気異方性を有することを特徴とする平面型磁気素子。 - 請求項1記載の平面型磁気素子において、
前記軟磁性薄膜の面内一軸磁気異方性は、方向性規則配列による磁気異方性を含むことを特徴とする平面型磁気素子。
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