JP3686467B2 - マット状花苗及びその生産方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は芝草と草花を混植したマット状花苗に関する。詳しくは、芝生の緑と草花の両方を楽しめる張芝様の花苗に関する。
【0002】
【従来の技術】
道路の法面などには芝生などの植生工事が施されているが、近年、景観としては草花の植生も望まれている。草花を利用する場合は、直接種子を播種する方法が一般的であるが、条件によって発芽状態が均一にならないことがしばしばある。例えば、法面工事において洋芝種子と治山用種子(草本類又は木本類)を張芝帯に混播することが従来技術としてあるが、草本類の発芽条件を洋芝の発芽に合わせることが難しいという問題があった。この問題を解決するための技術として、例えば特開平6−205603に記載の方法がある。この発明は、張芝帯の縦方向に洋芝の種子と草木本類の種子又は草花の種子を適宜間隔で交互かつ筋状に播種し、さらにこの張芝帯の横方向に、洋芝の種子のみを適宜間隔で筋状に播種したものであって、洋芝の種子筋を格子状にし、この格子筋で囲まれた部分に、草木本類の種子または草花の種子面を形成している。これにより、洋芝帯と草花帯をすみ分けて両者の発芽条件の差異に対応させている。
【0003】
芝生植生の場合は張芝工の方法があり、この方法では芝生種子の発芽不良や不揃いに対応することが可能である。しかしながら、草花の場合は、芝草のように根が絡みあって出荷時に崩れないようなマット状にするのが難しく、仮にマット状にできたとしても非常に時間と労力がかかる。これを解決して草花をマット状にする手段として、天然、人工の繊維からなるマットが種々市販されており、これに草花の種子を播種し生育させる方法が知られている。このようなマットとしては、例えば、特開平6−303850に記載の植物育成用マットなどを利用することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特開平6−205603に記載の発明は、芝草と草花の生育する空間を棲み分けることによって、同時に生育させることを目的にしているが、この場合、芝生部分と草花部分が別々の場所に生育しストライプ状になるので、均一で自然な修景にはなりにくいし、草花が芝草に被圧されることがある。
【0005】
また、植物育成用マットを使用した場合、マット状の草花苗を得ることはできるが、草花が枯死した後は一年草の場合は新たなマットを敷設しなければならないし、多年草であっても次年の生育までは不毛の状態になる。更に、その構造上、敷設場所の土壌と馴染みにくく、土壌のエロージョン防止の点ではあまり効果的ではない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、一度張れば草花が楽しめるだけでなく、それが枯れた後も張り替えることなく植生として利用できるマット状花苗を提供することにある。この目的のために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、生育の旺盛な寒地型芝草の洋芝ではなく、生育の緩慢な芝草の張芝に草花の種子を播種することによって、芝生と草花を共生させることができることを発見し本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明によれば、生育した日本芝、バミューダグラス及びセンチピードグラスなどの暖地型芝草及びケンタッキーブルーグラスなどの生育の遅い寒地型芝草から選ばれる芝草の張芝苗と、その張芝苗に播種し定着した草花苗からなることを特徴とするマット状花苗が提供される。
【0008】
以下、本発明を説明する。本発明で、張芝苗に用いる芝草としては、地上部の生育が緩慢で草丈の伸びが遅く、且つその上に定着させる草花の生育を抑制しない種類を用いることが重要である。生育の旺盛な種類、例えば、ペレニアルライグラス、トールフェスク及びベントグラスなどの生育の早い寒地型芝草を使用すると、芝草との生育競合に草花が負け、日光が当たらなかったり、仮に草花がある程度定着しても、芝草の伸びが早いため、刈り取りが必要となり、草花までも刈り取らなければならなくなる。従って、本発明で用いる芝草は生育速度の遅い種類で、地上及び地下ほふく茎の発達したものが、苗の崩れが少なく草花の生育初期での出荷も可能なため適している。これらの観点から、本発明では、芝草として日本芝、バミューダグラス及びセンチピードグラスなどの暖地型芝草及びケンタッキーブルーグラスなどの生育の遅い寒地型芝草から選ばれる芝草を用いる。日本芝の例としては、コウライシバ、ノシバなどが挙げられる。これらの中でも、コウライシバは葉が細く草丈の伸びが遅く且つ草花の生育抑制が少ないので好ましい。コウライシバには、ヒメハコウライ、チュウバコウライ、ヒメコウライ、ホソバコウライなどの種類があり、いずれも本発明で使用することができる。
【0009】
コウライシバは冬期間地上部が休眠し、翌春の萌芽は関東地方平野部の場合4月上中旬頃から本格化するので、この時期以前または同時期に草花種子を播種すれば、草花の生育が芝草の生育に影響を受ける度合いを軽減することができる。芝草は通常の方法で張芝様に生育させたものを用いることができる。この場合、整地した圃場に直接播種して生育させたものでもよいし、土の圃場またはコンクリート、アスファルトの上に農業用ポリビニルシートやその他の市販のシート類などを敷き、その上に土・砂及びそれらの混合物など床土として通常使用される資材を敷き、そこに芝草の種子を播種して張芝状に生育させたものでもよい。本発明のマット状花苗の大きさは、生産業者、生産地によって若干異なるので特に制限されない。市販されている張芝の規格は、一般的に35×26cm、地下部分の厚さ約10〜20mm程度であり、これを使用することができるが、この大きさは、必要に応じて35×1,000cm、地下部分の厚さ50mm程度などのように適宜選択して生産することができる。長くすると圃場への張り付けの際に作業性が向上するし、厚くすると花苗の栽培中の水管理や移植後の活着はよくなるが、あまり長くしたり、厚くして剥ぎ取ると、芝苗自体が重くなり移動時のトラックへの積み込み、積み降ろし、圃場での敷設作業にリフトなどの機械が必要になるので好ましくない。また、あまり大きさが小さいと敷設する手間がかかるし、厚さが薄いと根系の強度が不十分で移動時にくずれやすくなる。従って、長さとして100cmくらいまで、厚さは通常10〜50mm、好ましくは20〜30mmの範囲の大きさのものを通常使用することができる。
【0010】
上記の芝草の種類にかかわらず、植え付け後、根系が十分発達したもの、例えば概ね6カ月以上経過して越夏したもので、剥ぎ取り後の運搬時にも形が崩れることなく移動、移植が可能な状態に生育した芝苗を用いることが好ましい。
【0011】
本発明に用いることのできる草花としては、花壇用草花やワイルドフラワーなど通常使用されるものが挙げられ、特に制限されない。例えば、ノコギリソウ、宿根アスター、タチアオイ、ローマンカモミール、セイヨウオダマキ、ヒナギク、ナツユキソウ、フランスギク、ジョチュウギク、ナツノコギク、オオキンケイギク、ダリア、ヒメナデシコ、トコナデシコ、カワラナデシコ、フジナデシコ、ジギタリス、ムラサキバレンギク、オオテンニンギク、ガザニア、宿根カスミソウ、リアトリス、宿根アマ、ルピナス、ヒルザキツキミソウ、ポピーオリエンタル、オミナエシ、キキョウ、ルドベキア、サルビア、サポナリア、クリーピングタイム及びバーベナなどの宿根草、アゲラタム、アスターカーペット、クレオメ、コスモス、センニチコウ、ヒマワリ、オシロイバナ、ペチュニア、マツバボタン、メキシカンハット、サルビア、サンビタリア、マリーゴールド、キンレンカ及びジニアなどの春まき1年草、ビジョナデシコ、ベニバナアマ、ツキミソウ及びポピーアイスランドなどの2年草、キンギョソウ、レンゲ、ナノハナ、ハナナ、ニオイアラセイトウ、クリサンセサム、ゴデチア、チドリソウ、ハナビシソウ、カスミソウ、ハナダイコン、ヒメキンギョソウ、キバナルピナス、レモンミント、ムラサキハナナ、ワスレナグサ、ネモフィラ、ポピーシャーレー、サクラギソウ、クリムソンクローバ、ヘアリーベッチ及びビオラなどの秋まき1年草、ヤグルマソウ、ハルシャギク、シナワスレナグサ、セイヨウセキチク、ディモルフォセカ、アリッサム、フロックス及びコマチソウなどの春秋まき1年草などが挙げられる。この他に、ヨモギ、カヤ、チガヤ、オオバコなどの野草、アーティーチョーク、アグリモニア、アニス、アルガネット、ウォームウッド、ウッドラン、オレガノ、キャットニップ、キャラウェイ、クミン、コリアンダー、サマーサボリ、シナモンバジル、ジャーマンダー、ジャスミン、スイートバジル、スイートマジョラム、スペアミント、セイジ、タラゴン、チャービル、チャイブ、デイル、ナスタチューム、ヒソップ、フェンネル、ペパーミント、ホップ、ホーリーバジル、ボリジ、ラベンダー、レモンバジルなどのハーブ、スティパエンジェルヘアー、シープフェスクなどのオーナメンタルグラスが挙げられる。これらの草花の種々の品種、変種なども用いることができる。また、これら草花は単独で使用してもよいし、複数種を適当に選択して混合して使用してもよい。
【0012】
本発明のマット状花苗は、平地に日本芝、バミューダグラス及びセンチピードグラスなどの暖地型芝草及びケンタッキーブルーグラスなどの生育の遅い寒地型芝草から選ばれる芝草の張芝苗を敷設し、その上に少なくとも一種の草花の種子を播種し、播種した草花種子を覆土し、該草花種子を発芽せしめ定着させることによって生産することができる。具体的には、次の方法で生産することができる。まず、張芝苗を敷設する平地を用意する。例えば、畑地、ハウス内の地面をローラーなどで鎮圧し、表面の凹凸をある程度無くし平地にする。この場合多少の凹凸が残っても構わない。コンクリートやアスファルトなどの平面を利用するとこの鎮圧作業が不要であるので便利である。あらかじめ別の圃場で栽培した張芝苗をこの平地上に筋状または全面に目地張またはベタ張する。張芝苗を敷設する前に、平地上に防根シートや市販のシート類、例えば農業用ポリビニール、ブルーシートなど化学的または物理的に芝草・草花の根が地面に侵入しないよう遮断できる、または侵入を極力抑えることが可能なシート状製品を必要な面積敷設してもよい。シート状製品を使用した方が、栽培したマット状花苗を平地から容易に剥がせるので作業性がよく、また、出荷時に根を切ることが無いため、芝草および草花の移植時のストレスが軽減され、移植後の活着がよいので好ましい。この播種の基盤となる張芝苗は、通常の張芝苗を生産する方法で栽培することができるし、また、市販のものを使用することもできる。
【0013】
この張芝苗に肥料を適量施し、草花種子を芝苗上に筋状または全面に播種する。肥料は必要に応じて施用すればよく、草花種子の発芽後、追肥してもよい。更に、砂、土、有機質土壌改良材、無機質土壌改良材、堆肥などを、播種した草花種子の上から覆土する。これらの覆土資材は単品を順次覆土してもよいし、適量混合後覆土してもよい。次に、素手あるいはブラシ、ほうきなどを用いて草花種子と覆土資材を芝苗に擦り込む。この後、草花種子が発芽するまでは乾燥しないように十分に散水する。草花種子が発芽し定着したことが確認されたら必要に応じて適宜散水する。このようにして本発明のマット状花苗を生産することができる。この後、草花苗の生育状況を見て適宜マット状花苗を平地から剥がして所望の場所へ移設して使用することができる。防根シート等を使用する場合は、そのシートからマット状花苗を剥がして使用する。
【0014】
草花種子の播種量については、播種する草花の種類や発芽率、複数種播種する場合の混合割合によって当然異なるが、概ね0.2〜14g/m2 、0.3〜112ml/m2 の範囲で播種することができる。草花種子を張芝苗に播種する時期は、基本的には、播種し定着させる草花の播種適期に行なうが、ハウスなどの施設内や受注生産などの場合、適期以外に播種することもできるので制限されない。
【0015】
【発明の実施の形態】
【0016】
【実施例1】
あらかじめローラーで鎮圧し表面の凹凸を無くした栽培圃場に、農業用ビニールシート(三菱化成ビニル(株)製、厚さ0.075mm)を敷き、その上にコウライシバの張芝苗を置く。この張芝苗は縦横の寸法が330mm×250mmで、厚さは土の部分が10mm、その上の芝草の茎葉部分が10mmの合計20mmで、重量は620gであった。また、この張芝苗は、土の部分に芝草の根とほふく茎が生育しそれらが交絡した状態を形成し、対辺の2辺の端あるいは1辺の端のみを持ち上げても形状が変化しない強度を保持している。
【0017】
この張芝苗の上から、コスモスの種子0.2g、培土(粒径1〜2mmの細粒の赤玉土)150g、山砂(粒径0.2〜1.0mm)100g及び粒状化成肥料2g(肥料成分はN:P:K=12:12:12)からなる混合物を散布した。播種する植物の播種量は、その標準播種量から張芝苗面積当たりの量を計算した。覆土となる培土と山砂は、種子の周囲に0.5〜1.5mmの厚さで培土が覆われる量を、施肥量は標準施肥量から張芝苗面積当たりの量をそれぞれ算出した。
【0018】
このようにして種子と培土の混合物を張芝苗に散布した後、張芝表面をブラシで5回程度なでて、張芝苗の土表面と種子と培土との混合物をすり込み密着させた。その後培土と張芝苗の土が適度に湿る程度に適宜散水を続け、本発明のマット状花苗を栽培した。発芽後30日後における生育率と芝草の草丈を測定した。ここで、生育率は、播種した種子粒数に対する生育した種子数の百分率で示した。結果を表1に示す。
【0019】
【実施例2〜3】
草花として使用する植物をマリーゴールド及びサルビアをそれぞれ用いた以外は実施例1と同様の方法で本発明のマット状花苗を栽培し、植物の生育率と草丈を測定した。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【実施例4】
草花として使用する植物を宿根草であるフランスギクを用いた以外は実施例1と同様の方法で本発明のマット状花苗を栽培し、植物の生育率と草丈を測定した。さらに、これらの植物は播種から開花までに1年以上の期間を要することから、より長期間の生育を見るため200日後の生育率も測定した。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
表1及び表2から、芝草及び播種植物の生育基盤が張芝苗の根系の部分のみであっても、両者が生育でき、長期の栽培期間を要する宿根草にも利用できることがわかる。
【0023】
【実施例5】
傾斜地における定着試験
実施例1で生産したマット状花苗を35度の傾斜角を有する地盤に静置した。この傾斜地盤は主に関東ロームを主成分とする畑土と山砂とが3:1の混合割合で構成される土壌である。静置後、適宜散水しながら生育を観察し、開花期間と静置80日後の根の生育を測定した。その結果を表3に示す。
【0024】
【比較例1】
実施例5の傾斜地に隣接する同じ条件の傾斜地に、実施例5で使用した草花と同じコスモスを直接播種して実施例5と同様に観察し、開花期間と静置80日後の根の生育を測定した。その結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
【実施例6】
傾斜地における定着試験
実施例4で生産したマット状花苗を実施例5と同様に試験し、静置60日後の根の生育を測定した。その結果を表4に示す。
【0027】
表3及び表4から、ビニールシート上で育成された本発明のマット状花苗が、静置後、速やかに基盤土壌に活着し、その後芝草と植物が両者共存しながら順調に生育するものであることがわかる。
【0028】
【表4】
【0029】
【発明の効果】
本発明のマット状花苗は、以下の利点がある。使用する芝草の生育が草花に比べて緩慢なため最初に草花が生育するので、開花期間は花植生として利用でき、その後草花が枯れても地上部を低刈りすれば芝生植生として利用できる。また、張芝状であるので運搬、移植が容易な花苗を提供でき、直接草花種子を播種するに比べて施工後開花までの期間が短い。また、必要に応じて開花したマットを移植すれば、開花した草花を施工することができる。従って、播種に比べて施工後開花までの気候条件に左右されにくいため、開花期間が把握しやすく、各種イベント会場などで利用できる。さらにポット苗の移植に比べて、面で移植できるので施工コストの低減になるし、道路法面のように傾斜した立地でも、必要に応じて目串などを使用して張ることができる。また、野草種子を混播することによって、野原の草花のような自然な情景も演出できる。これらの他に、芝草によるマット状の花苗が施工土壌表面を覆うので、施工後現場土壌に起因する雑草の発生が少ないという利点もある。
Claims (2)
- 生育した日本芝、バミューダグラス及びセンチピードグラスなどの暖地型芝草及びケンタッキーブルーグラスなどの生育の遅い寒地型芝草から選ばれる芝草の張芝苗と、その張芝苗に播種し定着した草花苗からなることを特徴とするマット状花苗。
- 平地に日本芝、バミューダグラス及びセンチピードグラスなどの暖地型芝草及びケンタッキーブルーグラスなどの生育の遅い寒地型芝草から選ばれる芝草の張芝苗を敷設し、その上に少なくとも一種の草花の種子を播種し、播種した草花種子を覆土し、該草花種子を発芽し定着させることを特徴とするマット状花苗の生産方法。
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