JP3679691B2 - 新規なピリリウム化合物、その製造方法、それを含む核酸染色剤、および標識核酸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なピリリウム化合物とその製造方法、ならびに前記ピリリウム化合物を標識物質として、標識を施した核酸類に関する。より具体的には、本発明は、標的核酸を光学的手段により検出する際、その標識物質として利用することのできる新規なピリリウム化合物およびその製造方法、ならびに、かかるピリリウム化合物を用いて標識を施した核酸類に関する。
【0002】
【従来の技術】
生物試料中に標的とする核酸が存在するか否かを検出する方法として、蛍光色素を標識物質として利用する手段が広く用いられている。この核酸の標識物質として蛍光色素を利用する手段においては、該蛍光色素と生物試料とを混合し、その混合物を、核酸と蛍光色素とが相互作用し、また分子結合する環境下におく。該生物試料が標的とする核酸を含んでいる場合には、この相互作用に伴い、蛍光色素の持つ分光学的な特性が変化し、この変化を検出することにより、試料中に核酸が存在することを確認することができる。さらには、試料中に含まれる核酸の量を定量することも可能である。前記の核酸と蛍光色素との相互作用としては、例えば、核酸が二本鎖である場合には、核酸塩基対の間に蛍光色素が入り込むタイプのもの(インターカレート)、二重らせんの溝に沿うように蛍光色素が入り込むタイプのもの(グルーブバインド)の二種が従来からよく利用されている。
【0003】
また、前記相互作用に伴う蛍光色素の持つ分光学的な特性の変化としては、吸収スペクトル中のピーク波長の長波長側または短波長側へのシフト、吸収強度の変化(増大または減少)、蛍光強度の変化(増大または減少)などが挙げられる。特に、蛍光色素を標識物質として利用して、標的とする核酸を検出する場合には、蛍光強度の変化(増大または減少)などを利用することが多い。上記したような核酸類との相互作用を行うことが従来より知られている色素として、アクリジンオレンジ、プロフラビン、エチジウムブロマイド、ドーノマイシン、アクチノマイシン、ピリリウム塩などを挙げることができる。例えば、ピリリウム塩は、核酸類との相互作用をした際、吸収スペクトルの長波長側へのシフト量(ストークスシフト)が大きく、加えて、遊離状態のピリリウム塩による蛍光と比較して、核酸類との相互作用をさせた際の蛍光強度は、十分に大きい。前記の二点は、核酸類に対する蛍光標識を施す際、有用であり、核酸染色剤、蛍光標識剤として、注目されている。核酸類と相互作用するピリリウム塩は、これまで多くのものが提案され、合成された、それぞれのピリリウム塩化合物の特性が調べられている。
【0004】
ピリリウム塩の持つ優れた特徴の一つとして、色素の光吸収帯が可視光領域にある点を挙げることができる。例えば、本発明者らは、特開平 9−40661号公報において、水系溶媒中では、例えば、550nm付近の可視光領域に吸収ピークが存在し、励起光波長を前記可視光領域に選択することができるようなピリリウム化合物を開示している。一方、ピリリウム塩を除く、上記する種々の蛍光色素化合物の大部分は、蛍光を発せさせるために、励起光波長を紫外線領域に選択する必要がある。生物試料自体が生きている細胞、細菌などである場合、これら細菌、細胞内に含まれる核酸類の検出に蛍光色素を利用する際、励起光波長を紫外線領域に選択すると、例えば、細類の多くでは、紫外線照射により細胞自体にダメージを与える恐れがある。励起光波長を可視光領域に選択することができるピリリウム塩は、前記の紫外線照射による細胞損傷等を回避できる点でも、有用性はより高いといえる。
【0005】
ところで、上記のピリリウム塩化合物は、核酸染色剤、蛍光標識剤として注目されているものの、核酸類との相互作用には、核酸塩基対の間に蛍光色素が入り込むタイプ(インターカレート)、二重らせんの溝に沿うように蛍光色素が入り込むタイプ(グルーブバインド)のいずれかの分子間結合を利用するものが大半である。なお、本発明者らは、前記特開平 9−40661号公報において、上記したピリリウム化合物を用いた標的二本鎖核酸の特異的検出に関わる技術をも開示しており、その中では、当該ピリリウム化合物と核酸とを化学結合させてプローブとして利用することも記載している。具体的には、例えば、下記式(3)や式(4):
【0006】
【化3】
【0007】
【化4】
【0008】
に示す化合物の様に、4−N,N−ジメチルアミノフェニル基二つがピリリウム環上に置換し、加えて、官能基としてカルボキシル基がフェニレン基を介してピリリウム環に結合しているという構造を有するピリリウム化合物では、一本鎖核酸類の末端や一部をアミノ基により修飾した一本鎖核酸に対して、そのカルボキシル基と前記アミノ基との間でアミド結合を形成することによって、ピリリウム化合物を一本鎖核酸に結合させ、標識プローブとするというものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、この種のピリリウム化合物と一本鎖DNAとを結合させた標識プローブが備えていることが好ましい特性の1つは、DNAとの結合によってもピリリウム化合物本来の吸光能や発光能がそのまま、もしくはそのままに近い状態で維持されていることである。この観点で、上記先行技術、例えば、特開平 9−40661号公報に開示されているプローブを検討したところ、標的核酸の特異的な検出という点では、核酸と結合する前のピリリウム化合物と遜色のない性能を示すものの、結合させる標的核酸の長さ等によっては、吸光波長や蛍光発光波長のシフトが観察されるものがあることが判明した。そのため、結合させる標的核酸に応じて、蛍光検出装置の再設定が必要になる場合もあった。従って、一本鎖DNAと結合させ、標識プローブとした際、かかる標識プローブと結合させる標的核酸の長さ等によって、吸光波長や蛍光発光波長のシフトがない、あるいは、極僅かのシフトであり、結合させる標的核酸に応じて、蛍光検出装置の再設定を要しないような新規なピリリウム化合物の提案が望まれるものである。
【0010】
本発明は前記の課題を解決するもので、本発明の目的は、ピリリウム化合物自体の特長である、色素の光吸収帯が可視光領域にあり、また、蛍光を発するという光学的な特性を維持し、1本鎖核酸と結合させたときにも、その光学的な特性(吸光特性や蛍光特性など)が変化し難い新規なピリリウム化合物、ならびにその製造方法を提供することにある。さらには、本発明は、かかるピリリウム化合物を標識色素として結合させた標識核酸の提供をも、その目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を進め、先ず、上記式(3)や式(4)に示す化合物のように、フェニレン基を介してカルボキシル基をピリリウム環に結合させてなるピリリウム化合物と一本鎖核酸とを結合させた際、その光学特性の変化が認められる場合があるが、その光学特性の変化が生じる理由について検討を行った。その検討の結果、4−N,N−ジメチルアミノフェニル基二つが置換しているピリリウム環に、前記カルボキシル基の存在するベンゼン環、具体的には、前記ピリリウム環と共役系を形成できるような、p−フェニレン基、2−(p−フェニレン)ビニル基が直接結合している構造を持つため、結合する核酸の種類によっては、ピリリウム色素本来の光学特性に影響を与えているものと推測された。本発明者らは、係る知見と考察に基づき更に研究を進め、4−N,N−ジメチルアミノフェニル基2つが結合してなるピリリウム環に、メチレン基などの非共役系を介してカルボキシル基を結合させた一連のピリリウム化合物を新たに合成し、この新規な一連のピリリウム化合物の性質を調べた。その結果、この一連のピリリウム化合物は、ピリリウム化合物自体の特長である、色素の光吸収帯が可視光領域にあり、また、蛍光を発するという光学的な特性を維持しており、加えて、一本鎖核酸の結合によっても前記ピリリウム環の共役電子状態に実質的な影響を与えることがないためか、DNA結合前のピリリウム化合物が本来的に有する光学特性、例えば蛍光特性を保持していることを、本発明者らは見出し、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の新規ピリリウム化合物は、下記一般式(I):
【0013】
【化5】
【0014】
(式中、XはOまたはSを表し、Y-は一価のアニオン種を表し、nは2〜3の整数を表し、Mは水素又は一価のカチオン種を表す)で示されるピリリウム化合物である。なお、前記一般式(I)において、Xが、Oである際には、Y-として、ヨウ化物イオンまたは過塩素酸イオンを選択するピリリウム化合物とすると、かかるピリリウム化合物は二本鎖核酸に対するインターカレート型の標識色素としても好ましいものである。
【0015】
また、本発明のピリリウム化合物の製造方法は、上記一般式(I)で示されるピリリウム化合物のうち、なかでも、XがOであるピリリウム化合物を製造する方法として、下記する手段を提供している。すなわち、本発明のピリリウム化合物の製造方法は、上記一般式(I)においてXがOであるピリリウム化合物の製造方法であって、
下記一般式(II):
【0016】
【化6】
【0017】
(式中、nは2または3の整数を表す)で示される環状無水物と4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノンとを縮合・環化反応させることによりピリリウム環を形成する工程を有することを特徴とするピリリウム化合物の製造方法である。
【0018】
加えて、本発明の核酸染色剤は、上記本発明のピリリウム化合物を含むことを特徴とする核酸染色剤である。
【0019】
一方、本発明の標識核酸は、上記本発明のピリリウム化合物と、前記ピリリウム化合物が有するカルボキシル基と反応可能な官能基を有する核酸とが、前記官能基とカルボキシル基との反応によって結合し、前記ピリリウム化合物による標識がなされていることを特徴とする標識核酸である。なお、本発明の標識核酸においては、カルボキシル基と反応可能な官能基がアミノ基であることを特徴とする標識核酸とすることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の標的二本鎖核酸の有無を確認する方法は、上記本発明のピリリウム化合物を核酸標識試薬として用い、試料中の標的二本鎖核酸の有無を確認する方法であって、
(i)前記標的二本鎖核酸が含まれている可能性のある試料を調製する工程;
(ii)請求項1または2に記載のピリリウム化合物と前記試料とを含む混合液を形成する工程;
(iii)二本鎖核酸にインターカレートした際に前記ピリリウム化合物が示す吸収極大波長に略等しい波長を含む光を前記混合液に照射し、標的二本鎖核酸にインターカレートしている前記ピリリウム化合物を励起する工程;ならびに
(iv)前記の励起に伴い、前記混合液から発する蛍光を観測し、その蛍光中から標的二本鎖核酸にインターカレートしている前記ピリリウム化合物が発する蛍光の有無を検出し、それによって試料中の前記標的二本鎖核酸の有無を確認する工程とを有することを特徴とする標的二本鎖核酸の有無を確認する方法である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明のピリリウム化合物とその合成する方法について、より具体的に説明する。加えて、このピリリウム化合物を利用する核酸の標識方法、ならびに、かかる核酸を標識した際、本発明のピリリウム化合物が示す分光学的な特性についても、より具体的に説明する。
【0022】
(新規ピリリウム化合物)
本発明にかかるピリリウム化合物は、下記一般式(I):
【0023】
【化7】
【0024】
(式中、XはOまたはSを表し、Y-は一価のアニオン種を表し、nは2〜3の整数を表し、Mは水素又は一価のカチオン種を表す)で示されるものである。なお、上記式中、Mは、水素又は一価のカチオン種であるが、なかでも、水素原子、アルカリ金属(例えばNa、K等)、アンモニウムや有機アンモニウムなど、生体試料に添加した際、影響を与えないものが好適に利用される。加えて、Mには、共存する一価のアニオン種Y-と、不水溶性の塩化合物、あるいは、難水溶性の塩化合物を形成することのない一価のカチオン種が利用され、かかるピリリウム化合物を水溶液とする際、容易にイオン解離するものが好適に利用される。従って、Mには、水素又はアルカリ金属(特には、Na、K)を選択するとより好ましい。また、Xは酸素原子(O)または硫黄原子(S)であり、それぞれ、ピリリウム環またはチオピリリウム環を与える。一方、Y-は一価のアニオン種であるが、例えば、ヨウ素イオン(I−)や過塩素酸塩(ClO4 -)等が挙げられる。なお、上記一般式(I)で示される化合物において、XがOであるとき、Y-で表す一価のアニオン種として、ヨウ化物イオン(I-)または過塩素酸イオン(ClO4 -)を選択することが好ましい。
【0025】
次に、本発明のピリリウム化合物が示す分光学的な特性について、より詳細に説明する。
【0026】
本発明にかかるピリリウム化合物は、下記一般式(I’):
【0027】
【化8】
【0028】
(式中、Xは、OまたはSを表す)で示される4,6−ビス−(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム環(またはチオピリリウム環)を発色団として含む化合物であり、ピリリウム環(またはチオピリリウム環)の2位に、ω−カルボキシル基置換のアルキル基が置換してなる構造を有する。従って、本発明にかかるピリリウム化合物は、従来のピリリウム化合物と同様に、二本鎖核酸類に対して、インターカレート型の核酸染色剤として作用させることもできる。
【0029】
例えば、上記一般式(I)において、XにOを選択し、Y-で表す一価のアニオン種として、ヨウ化物イオン(I-)または過塩素酸イオン(ClO4 -)を選択すると、下記一般式(III):
【0030】
【化9】
【0031】
(式中、Y-は、I-またはClO4 -を表し、nは、2〜3の整数を表し、Mは、水素又は一価のカチオン種を表す)で示されるピリリウム塩化合物となるが、この一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物は、二本鎖核酸類との共存下で、例えば波長が470nmの青色の励起光を照射すると、630nm付近に強い蛍光を発する。一方、二本鎖核酸類が存在しない状況では、この一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物単独からの蛍光は、前記の二本鎖核酸類の存在下での蛍光と比較すると、極僅かである。この一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物の蛍光特性は、本発明者らは特開平 9−40661号公報に記載したピリリウム化合物、例えば、2−メチル−4,6−ビス−(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム塩化合物の蛍光特性と遜色のないものであり、インターカレート型の核酸染色剤としても、十分な機能を維持している。従って、二本鎖核酸の特異的な検出に極めて有効に利用することができ、核酸染色剤として優れた特性を有しているということができる。
【0032】
なお、この一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物のピリリウム環をチオピリリウム環に置き換えたピリリウム類似塩化合物(チオピリリウム塩化合物)においても、同様に、可視の励起光を照射した際、二本鎖核酸類の存在下では強い蛍光を発するが、二本鎖核酸類が存在しない状況では、ピリリウム類似塩化合物単独からの蛍光は、極僅かである。つまり、一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物と同様に、酸素がイオウに置き換わった類似構造のピリリウム類似塩化合物(チオピリリウム塩化合物)も、インターカレート型の核酸染色剤として利用する上で、十分な機能を維持している。従って、上記一般式(I)で示される本発明のピリリウム化合物は、核酸染色剤としての機能を保持しつつ、分子内にカルボキシル基の導入を果たしたものである。
【0033】
(核酸の標識)
前記一般式(I)で示されるピリリウム化合物は、そのカルボキシル基を用いて、一本鎖核酸分子内の官能基と結合させることによって、核酸の標識を容易に行うことができる。そして、前記核酸の標識において、カルボキシル基を用いた、アミド結合やエステル結合を形成した際にも、上記式(I’)で示される発色団との間とはアルキレン差で連結されており、そのピリリウム化合物の光学特性は殆ど影響を受けない。そのため、この標識色素が発する蛍光を測定する蛍光検出装置の設計や設定が容易であり、また、得られた標識核酸をプローブとして採取される標的核酸の正確な検出やその定量に極めて有効に用いられることが期待される。
【0034】
一般式(I)で示されるピリリウム化合物を用いた、一本鎖核酸の標識は、例えば、一般式(I)で示されるピリリウム化合物の分子内に存在するカルボキシル基と、核酸類の一部に存在する官能基とを反応させ、結合させることによって達成される。従って、本発明にかかる標識核酸は、一般式(I)で示されるピリリウム化合物の分子内に存在するカルボキシル基と、核酸分子の一部に結合している官能基との間で縮合反応を行わせ、両者を化学結合で繋いだものであり、換言すれば、一般式(I)で示されるピリリウム化合物を用いた化学修飾がなされた核酸類である。
【0035】
より具体的には、例えば、上記一般式(I)で示される本発明のピリリウム化合物において、XがOであるとき、Y-で表す一価のアニオン種として、ヨウ化物イオン(I-)または過塩素酸イオン(ClO4 -)を選択するピリリウム塩のいずれかと、カルボキシル基と反応して化学結合を形成することが可能な官能基を所定の位置、例えば、5’末端に有する一本鎖核酸分子とを用い、前記カルボキシル基と官能基との反応により結合させることにより、一般式(I)で示される本発明のピリリウム化合物に由来する発色団による標識を施した核酸などが、好ましい一例として挙げられる。なお、このカルボキシル基と反応可能な官能基としては、エステル結合を形成するヒドロキシル基、アミド結合を形成するアミノ基などを挙げることができるが、所望の部位に標識を行う際に、より選択的に核酸分子の主鎖中に予め導入しておくことができるアミノ基を用いることが好ましい。
【0036】
従って、上記一般式(I)で示される本発明のピリリウム化合物による核酸の標識は、例えば、カルボキシル基と縮合反応により化学結合を形成することができる種々の官能基、具体的には、アミド結合を形成できるアミノ基により修飾されている一本鎖DNAを用意し、ピリリウム化合物のカルボキシル基と一本鎖DNAのアミノ基との間でアミド結合を形成させることにより、両者を結合することができる。核酸類、例えば、一本鎖DNAなどは、一般の有機溶媒に対する溶解度は高くないので、一般式(I)で示される本発明のピリリウム化合物のカルボキシル基を予め活性エステル化した上で、水系の溶媒中で、アミノ基で修飾されている核酸類に前記活性エステル化体を作用させ、アミド結合を形成するのがより好ましい。
【0037】
前記の方法で標識を施した核酸類は、一般式(I’)に示される4,6−ビス−(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム環(またはチオピリリウム環)に特有の可視光領域吸収を検出することで、標識を施した核酸類のみを識別することが可能である。すなわち、前記の方法で標識を施した核酸類において、特定の塩基配列を有する一本鎖DNAに色素標識を施したものとすれば、色素標識を施したDNAプローブとして利用することができる。この種のDNAプローブにおいては、特定の塩基配列を有する一本鎖DNAは、例えば、固相合成法による通常のDNA自動合成機を用いて、所望の塩基配列DNA断片を合成したものを使用することが多い。
【0038】
上述するとおり、本発明の一般式(I)で示されるピリリウム化合物は、二本鎖核酸類に対して、インターカレート型の核酸染色剤としての機能をも維持している。例えば、4,6−ビス−(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム環骨格のため、前記のピリリウム環構造に起因する非常に高いモル吸光係数を持つので、インターカレート型の核酸染色剤として用いる場合、高い溶解度は必要としない。しかしながら、従来の親水性官能基を持たないピリリウム塩化合物は、水系の溶媒に比較的に溶解し難く、多くの核酸染色剤に採用される手法、具体的には、サンプル調製の際に、10%程度の有機溶媒を添加した水系の溶媒を利用することが一般的である。それに対して、本発明の一般式(I)で示されるピリリウム化合物は、高い親水性を示すカルボキシル基を持つので、水溶性が増している。そのため、有機溶媒を10%程度まで添加しなくとも、水系の溶媒にも比較的に容易に溶解させることができる。
【0039】
有機溶媒の添加は、生物試料中に含まれる二本鎖核酸類において、その二重らせん構造の安定性を少なからず損なったり、あるいは、二本鎖DNAが、A型、B型、Z型といった基本的な構造とは異なる立体構造に変位する可能性を増す要因となる。加えて、有機溶媒の種類によっては、生物試料が生存している細胞、細菌などである場合には、細胞自体に何らかのダメージを与える可能性がある。しかし前記一般式(I)で示されるピリリウム化合物は、高い親水性を示すカルボキシル基を持つので、溶解度を補うための有機溶媒添加量を抑制できる。その結果として上述する有機溶媒添加に伴う様々な影響を緩和し、あるいは回避することもできる。
【0040】
本発明の一般式(I)で示されるピリリウム化合物において、好ましい化合物は、具体的には、上記の一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物とそれに対応する下記一般式(IV):
【0041】
【化10】
【0042】
(式中、Y-は、I-またはClO4 -を表し、nは、2〜3の整数を表す)で示されるチオピリリウム塩化合物である。
【0043】
(一般式(I)で示されるピリリウム化合物の合成方法)
上記一般式(I)においてXがOである、本発明にかかるピリリウム塩化合物を製造する際、nが3である場合には、4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノンと無水グルタル酸とを、また、nが2である場合には、4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノンと無水コハク酸とを反応させて、縮合・環化してピリリウム環を形成することができる。一方、上記一般式(I)においてXがSである、本発明にかかるチオピリリウム塩化合物を製造するには、前記の方法で合成するピリリウム塩化合物のピリリウム環中に存在する酸素を、アルカリ金属水硫化物を作用させて、イオウに置き換えてチオピリリウム環にすることができる。
【0044】
より具体的に述べれば、上記一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物は、含まれるアルキレン基−(CH2)n−の炭素数nに応じて、対応するアルキレン基−(CH2)n−を内部に含む上記一般式(II)に示す無水カルボン酸を原料に選択する。従って、n=2の場合には無水コハク酸を、n=3の場合には無水グルタル酸をそれぞれ原料に用いる。そして、4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノンと前記一般式(II)の環状酸無水物とを濃硫酸中において、加熱して、縮合・環化反応を行い、ピリリウム環構造を形成する。例えば、濃硫酸中において、120℃程度に加熱して、縮合・環化反応を行い、ピリリウム環構造を形成する。次いで、必要に応じて、アニオンY-の交換を行い目的のピリリウム塩化合物を合成することができる。一方、対応する一般式(IV)で示されるチオピリリウム塩化合物は、対応する一般式(III)で示されるピリリウム塩化合物を中間原料とし、水硫化ナトリウムなどを作用させ、ピリリウム環構造の酸素原子を硫黄原子に交換することで、チオピリリウム環構造を得ることができる。同じく、必要に応じて、アニオンY-の交換を行い目的のチオピリリウム塩化合物を合成することができる。なお、Mの変換は、対応するカルボキシル基の水素(プロトン)を、所望の一価のカチオン種と交換し、その後、再結晶化することで目的の塩とすることができる。
【0045】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて、本発明のピリリウム化合物、その製造方法、ならびに核酸染色剤としての機能に関連する分光学的特性について、より具体的に説明する。なお、これら実施例は、本発明の最良の実施の形態を示す一例ではあるものの、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1) 2−(3−カルボキシプロピル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム アイオダイド
下記の式(10):
【0047】
【化11】
【0048】
で示される標記化合物3を、下記する方法で合成した。
【0049】
原料の4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノン163mgと無水グルタル酸456mgを、氷冷下で濃硫酸3mlに加え、溶解させた。この溶液を、オイルバスにて120℃まで加熱し、約3時間攪拌した。その後、室温にて放冷した。この反応液を水100mlに加え、攪拌した。この液に、クロロホルム50mlを加え、抽出操作により、未反応原料の洗浄・除去を行い、水層を回収した。このクロロホルムによる洗浄を計4回繰り返し、未反応原料4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノンを除去した。
【0050】
回収した水層に、ヨウ化ナトリウム1.50gを加え、攪拌した後、一晩冷蔵庫にて冷却放置した。析出する黒色の沈澱物を濾別、回収して、標記化合物の粗結晶を得た。得られた粗結晶を適量の水で再結晶し、標記化合物3:2−(3−カルボキシプロピル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム アイオダイドの黒色結晶66mgを得た。
【0051】
(分析結果)
1H−NMR(400MHz,DMSO)
δppm:12.175(1H,s),8.403(1H,s),8.306(2H,d,J=9.03Hz),8.193(2H,d,J=9.04Hz),7.873(1H,s),6.933(2H,d,J=7.02Hz),6.910(2H,d,J=6.53Hz),3.186(6H,s),2.987(2H,m),2.411(2H,t,J=7.03Hz),2.054(2H,t,J=7.78Hz)
IR(KBr)νcm-1:2361,2340,1646,1611,1589,1505,1383,1275,1201,1169,944,820,723
上記の回収した水層に、ヨウ化ナトリウムに代えて、過塩素酸水溶液を加え、以後同様の操作を行い、対応する過塩素酸塩、すなわち、下記式(11)で示されるピリリウム塩(化合物4)を得ることができた。
【0052】
【化12】
【0053】
(実施例2) 2−(3−カルボキシプロピル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)チオピリリウム アイオダイド
下記の式(12):
【0054】
【化13】
【0055】
で示される標記化合物5を、下記する方法で合成した。
【0056】
上記実施例1に記載の方法で調製される2−(3−カルボキシプロピル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム アイオダイド50mgをDMSO1mlに溶解した。得られた溶液に水硫化ナトリウム(15%)0.3mlを加えて、室温にて5分間攪拌した。攪拌後、ヨウ化水素酸0.04ml加え、さらに5分間攪拌した。
【0057】
以下、定法に従い、ジクロロメタン抽出、シリカゲルカラム精製を行った後、エタノール/エーテル混合液(容積比1:4)で再結晶させ、標記化合物5:2−(3−カルボキシプロピル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)チオピリリウム アイオダイド(化合物5)の結晶28mgを得た。構造が類似する実施例1と同様に前記の化合物であることを、NMR、IR等の測定により同定できる。
【0058】
(実施例3) 2−(2−カルボキシエチル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム アイオダイド
下記式(13):
【0059】
【化14】
【0060】
で示される標記化合物6を、下記する方法で合成した。
【0061】
原料の4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノン163mgと無水コハク酸400mgを、氷冷下で濃硫酸3mlに加え、溶解させた。この溶液を、オイルバスにて120℃まで加熱し、約3時間攪拌した。その後、室温にて放冷した。この反応液を水100mlに加え、攪拌した。この液に、クロロホルム50mlを加え、抽出操作により、未反応原料の洗浄・除去を行い、水層を回収した。このクロロホルムによる洗浄を計4回繰り返し、未反応原料4−N,N−ジメチルアミノアセトフェノンを除去した。
【0062】
回収した水層に、ヨウ化ナトリウム1.50gを加え、攪拌した後、一晩冷蔵庫にて冷却放置した。析出する黒色の沈澱物を濾別、回収して、標記化合物の粗結晶を得た。得られた粗結晶を適量の水で再結晶し、標記化合物6:2−(2−カルボキシエチル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム アイオダイドの黒色結晶52mgを得た。
【0063】
(分析結果)
1H−NMR(400MHz,DMSO)
δppm:12.155(1H,s),8.395(1H,s),8.300(2H,d,J=9.03Hz),8.188(2H,d,J=9.03Hz),7.866(1H,s),6.928(2H,d,J=8.03Hz),6.908(2H,d,J=8.03Hz),3.185(6H,s),3.136(6H,s),2.984(2H,t,J=7.53Hz),2.410(2H,t,J=7.28Hz)
IR(KBr)νcm-1:2361,2341,1649,1609,1587,1499,1376,1272,1200,1164,944,820,720
上記の回収した水層に、ヨウ化ナトリウムに代えて、過塩素酸水溶液を加え、以後同様の操作を行い、対応する過塩素酸塩、すなわち、下記式(14)で示されるピリリウム塩(化合物7)を得ることができた。
【0064】
【化15】
【0065】
(実施例4) 2−(2−カルボキシエチル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)チオピリリウム アイオダイド
下記式(15):
【0066】
【化16】
【0067】
で示される標記化合物8を、下記する方法で合成した。
【0068】
上記実施例3に記載の方法で調製される2−(2−カルボキシエチル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム アイオダイド50mgをDMSO1mlに溶解した。得られた溶液に水硫化ナトリウム(15%)0.3mlを加えて、室温にて5分間攪拌した。攪拌後、ヨウ化水素酸0.04ml加え、さらに5分間攪拌した。
【0069】
以下、定法に従い、ジクロロメタン抽出、シリカゲルカラム精製を行った後、エタノール/エーテル混合液(容積比1:4)で再結晶させ、2−(2−カルボキシエチル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)チオピリリウム アイオダイド(化合物8)の結晶26mgを得た。構造が類似する実施例3と同様に前記の化合物であることを、NMR、IR等の測定により同定できる。
【0070】
(実施例5)
上記実施例1の方法で得た式(10)に記載の化合物3:2−(3−カルボキシプロピル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム アイオダイドを10mMリン酸緩衝液に溶解し、サンプル液IAとした。この調製したサンプル液IAの一部を用い、最終濃度が3×10-5Mとなるように希釈調製し、分光光度計にて吸収スペクトルを測定した。図1中、(A)に測定した吸収スペクトルを示す。
【0071】
定法に従い適正に精製処理したSalmon sparm DNA(Sigma社製)をDNA溶液とした。このDNA溶液の一部と前記サンプル液IAの一部とを混合して、DNAの最終濃度が50μg/ml、化合物3の最終濃度が3×10-5Mとなるように調製し、サンプル液IBとした。このサンプル液IBの一部を用い、分光光度計にて吸収スペクトルを測定した。図1中、(B)に測定した吸収スペクトルを示す。
【0072】
前記の化合物3自体の吸収スペクトル(図1の(A))とサンプル液IB中の化合物3に由来する吸収を比較すると、化合物3とDNAとの相互作用により、吸収ピークは、長波長側に30nmシフトし、また吸光度も減少している。この変化は、インターカレーターに典型的な性質である。
【0073】
上記サンプル液IAとサンプル液IBの一部を用い、両者において化合物3の濃度が同じ濃度となるように希釈し、蛍光スペクトルを定法に従い測定した。なお、励起光の波長は、550nmとした。図2中、(A)にサンプル液IAの蛍光スペクトルを、(B)にサンプル液IBの蛍光スペクトルを示す。両者を比較すると、DNAを含まないサンプル液IA(図2の(A))では、ほとんど蛍光を発しないが、DNAを含むサンプル液IB(図2の(B))では、640nm付近にピークを示す強い蛍光を発した。以上の結果から、本発明にかかるピリリウム化合物が二本鎖核酸の特異的な検出に用いることができることが分かった。
【0074】
(実施例6)
上記実施例1の方法で得た式(10)に記載の化合物3の40mgとN−ヒドロキシスクシイミド46mgを乾燥DMF1mlに溶解した。完全に溶解した後、氷浴に移し冷却した。この液に、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)80mgを加え、暗所にて24時間攪拌した。なお、前記の攪拌において、初めの2時間は、氷浴中にて行い、その後の22時間は、室温において攪拌を行った。その後、この反応液中に浮遊しているDCCウレアをメンブレンフィルターにて除去した後、約50mlのジエチルエーテル中に滴下した。析出した沈澱を集め、約50mlのジエチルエーテルで洗浄するという作業を数回繰り返した。得られた下記式(16)に示す化合物9の黒色粉末を、真空ポンプにより真空乾燥した。
【0075】
【化17】
【0076】
5’末端にアミノリンカーを結合した、下記の塩基配列(配列1)を有する18merのオリゴヌクレオチドをDNA自動合成機により合成した。
【0077】
配列1
5’-TGTAAAACGACGGCCAGT-3’
合成後、前記18merのオリゴヌクレオチドは、CPGサポートから切り出し、定法に従って、脱保護を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。
【0078】
上記5’末端にアミノリンカーを結合したオリゴヌクレオチド330μgを純水100μlに溶解し、1Mリン酸緩衝液(pH7.0)16μlを加えた。この液に、予め準備した化合物6の50mMアセトニトリル溶液60μlを加え、40℃で24時間反応させた。反応終了後、未反応物を除去するため、ファルマシア社製DNA用ゲル濾過カラムNAP−25を用いて粗精製を行い、HPLCにより精製した。HPLCによる精製後、上記のゲル濾過カラムを用いて、脱塩を行い、化合物3にて標識したDNAプローブ、すなわち下記一般式(17)で示されるDNAプローブの一つを得た。
【0079】
【化18】
【0080】
図3に、この化合物3にて標識した一般式(17)で示されるDNAプローブの一例の吸収スペクトルを示す。標識色素の化合物3自体の吸収スペクトルは、570nm、460nm付近にピークを有し、DNA自体の吸収スペクトルは、260nm付近にピークを有する。図3に示す吸収スペクトルにも、前記3つのピークとほぼ同じ波長付近にピークが見出され、また、各ピーク強度は、化合物3およびDNA自体のモル吸光係数から想定される吸収強度とほぼ一致している。この結果から、標識色素の化合物3とDNAが結合し、一般式(17)で示される構造のDNAプローブが合成されていることが確認された。これらの結果から、本発明にかかるピリリウム化合物は核酸との結合によっても光学特性の変化が殆ど観察されなかった。
【0081】
(実施例7)
上記実施例3の方法で得た式(13)に記載の化合物6:2−(2−カルボキシエチル)−4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウムアイオダイドを10mMリン酸緩衝液に溶解し、サンプル液IIAとした。この調製したサンプル液IIAの一部を用い、最終濃度が3×10-5Mとなるように希釈調製し、分光光度計にて吸収スペクトルを測定した。図4中、(A)に測定した吸収スペクトルを示す。
【0082】
定法に従い適正に精製処理したSalmon sparm DNA(Sigma社製)をDNA溶液とした。このDNA溶液の一部と前記サンプル液IIAの一部とを混合して、 DNAの最終濃度が50μg/ml、化合物8の最終濃度が3×10-5Mとなるように調製し、サンプル液IIBとした。このサンプル液IIBの一部を用い、分光光度計にて吸収スペクトルを測定した。図4中、(B)に測定した吸収スペクトルを示す。
【0083】
前記の化合物6自体の吸収スペクトル(図4の(A))とサンプル液IIB中の化合物6に由来する吸収を比較すると、化合物6とDNAとの相互作用により、吸収ピークは、長波長側に30nmシフトし、また吸光度も減少している。この変化は、インターカレーターに典型的な性質である。
【0084】
上記サンプル液IIAとサンプル液IIBの一部を用い、両者において化合物6の濃度が同じ濃度となるように希釈し、蛍光スペクトルを定法に従い測定した。なお、励起光の波長は、550nmとした。図5中、(A)にサンプル液IIAの蛍光スペクトルを、(B)にサンプル液IIBの蛍光スペクトルを示す。両者を比較すると、DNAを含まないサンプル液IIA(図5の(A))では、ほとんど蛍光を発しないが、DNAを含むサンプル液IIB(図5の(B))では、640nm付近にピークを示す強い蛍光を発した。
【0085】
(実施例8)
上記実施例3の方法で得た式(13)に記載の化合物6の38mgとN−ヒドロキシスクシイミド46mgを乾燥DMF1mlに溶解した。完全に溶解した後、氷浴に移し冷却した。この液に、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)80mgを加え、暗所にて24時間攪拌した。なお、前記の攪拌において、初めの2時間は、氷浴中にて行い、その後の22時間は、室温において攪拌を行った。その後、この反応液中に浮遊しているDCCウレアをメンブレンフィルターにて除去した後、約50mlのジエチルエーテル中に滴下した。析出した沈澱を集め、約50mlのジエチルエーテルで洗浄するという作業を数回繰り返した。得られた下記式(18)に示す化合物10の黒色粉末を、真空ポンプにより真空乾燥した。
【0086】
【化19】
【0087】
5’末端にアミノリンカーを結合した、下記の塩基配列(配列1)を有する18merのオリゴヌクレオチドをDNA自動合成機により合成した。
【0088】
配列1
5’-TGTAAAACGACGGCCAGT-3’
合成後、前記18merのオリゴヌクレオチドは、CPGサポートから切り出し、定法に従い、脱保護を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。
【0089】
上記5’末端にアミノリンカーを結合したオリゴヌクレオチド330μgを純水100μlに溶解し、1Mリン酸緩衝液(pH7.0)16μlを加えた。この液に、予め準備した化合物10の50mMアセトニトリル溶液60μlを加え、40℃で24時間反応させた。反応終了後、未反応物を除去するため、ファルマシア社製DNA用ゲル濾過カラムNAP−25を用いて粗精製を行い、HPLCにより精製した。HPLCによる精製後、上記のゲル濾過カラムを用いて、脱塩を行い、化合物9にて標識したDNAプローブ、すなわち下記一般式(19)で示されるDNAプローブの一つを得た。
【0090】
【化20】
【0091】
図6に、この化合物6にて標識した一般式(19)で示されるDNAプローブの一例の吸収スペクトルを示す。標識色素の化合物6自体の吸収スペクトルは、570nm、460nm付近にピークを有し、DNA自体の吸収スペクトルは、260nm付近にピークを有する。図6に示す吸収スペクトルにも、前記3つのピークとほぼ同じ波長付近にピークが見出され、また、各ピーク強度は、化合物6およびDNA自体のモル吸光係数から想定される吸収強度とほぼ一致している。この結果から、標識色素の化合物6とDNAが結合し、一般式(19)で示される構造のDNAプローブが合成されていることが確認される。
【0092】
【発明の効果】
本発明によると、標識色素の発色団となるピリリウム環またはチオピリリウム環、具体的には、4,6−ビス(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)ピリリウム環またはチオピリリウム環自体の分光学的特性を保持しつつ、非共役系を介してカルボキシル基が導入された新規な構造のピリリウム化合物とするので、導入された親水性のカルボキシル基を利用して、種々の核酸類と化学結合させることができる。すなわち、本発明のピリリウム化合物により、色素標識を施された核酸類、例えば、色素標識を施されたDNAプローブを容易に調製できる利点を持つ。加えて、二本鎖核酸類に対しては、インターカレート型の核酸染色剤として用いることもできる。導入された親水性のカルボキシル基のため、水溶性が高まり、従来、核酸染色剤に用いる色素化合物の乏しい水溶性を補う目的で、水系溶媒に相当量の有機溶剤、例えば、10%程度の量を添加していたが、本発明のピリリウム化合物を用いる際には、有機溶剤の添加量を抑えることができる利点をも有する。
【0093】
【配列表】
SEQUENCE LISTING
<110> CANON INC.
<120> Novel Pyrylium Compounds, Process for Preparation of those, Agents Comprising those for Staining DNA, and DNA Labelled with those
<130> 4261017
<160> 1
<170> Microsoft Word
<210> 1
<211> 18
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Primer for PCR multiplication
<400> 1
tgtaa aacga cggcc agt 18
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のピリリウム化合物の一つ、式(10)で示される化合物単独の吸収スペクトル(A)と、二本鎖DNAを共存させ、DNAと相互作用する化合物の吸収スペクトル(B)とを対比する図である。
【図2】本発明のピリリウム化合物の一つ、式(10)で示される化合物3単独の蛍光スペクトル(A)と、二本鎖DNAを共存させ、DNAと相互作用する化合物の蛍光スペクトル(B)とを対比する図である。
【図3】本発明のピリリウム化合物の一つ、式(10)で示される化合物3を用いて、標識を施したDNAプローブの吸収スペクトルを示す図である。
【図4】本発明のピリリウム化合物の一つ、式(13)で示される化合物6単独の吸収スペクトル(A)と、二本鎖DNAを共存させ、DNAと相互作用する化合物6の吸収スペクトル(B)とを対比する図である。
【図5】本発明のピリリウム化合物の一つ、式(13)で示される化合物6単独の蛍光スペクトル(A)と、二本鎖DNAを共存させ、DNAと相互作用する化合物の蛍光スペクトル(B)とを対比する図である。
【図6】本発明のピリリウム化合物の一つ、式(13)で示される化合物6を用いて、標識を施したDNAプローブの吸収スペクトルを示す図である。
Claims (5)
- 請求項1に記載する一般式(I)において、
Xは、Oであり、
Y-は、ヨウ化物イオンまたは過塩素酸イオンである
ことを特徴とする請求項1に記載のピリリウム化合物。 - 請求項1または2に記載のピリリウム化合物を含むことを特徴とする核酸染色剤。
- 請求項1または2に記載のピリリウム化合物を核酸標識試薬として用い、試料中の標的二本鎖核酸の有無を確認する方法であって、
(i)前記標的二本鎖核酸が含まれている可能性のある試料を調製する工程;
(ii)請求項1または2に記載のピリリウム化合物と前記試料とを含み、有機溶媒は含まない混合液を形成する工程;
(iii)二本鎖核酸にインターカレートした際に前記ピリリウム化合物が示す吸収極大波長に略等しい波長を含む光を前記混合液に照射し、標的二本鎖核酸にインターカレートしている前記ピリリウム化合物を励起する工程;ならびに
(iv)前記の励起に伴い、前記混合液から発する蛍光を観測し、その蛍光中から標的二本鎖核酸にインターカレートしている前記ピリリウム化合物が発する蛍光の有無を検出し、それによって試料中の前記標的二本鎖核酸の有無を確認する工程とを有することを特徴とする標的二本鎖核酸の有無を確認する方法。
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