JP3678470B2 - 液晶組成物及び液晶表示素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は液晶組成物及び、液晶表示素子に関する。特に、非液晶性化合物の添加によって液晶の抵抗を調節した液晶組成物及びその液晶組成物を用いた液晶素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示素子はツイストネマティック(TN)の素子、スーパーツイステッドネマティック(STN)の素子などに代表されるように、軽量で、薄く、さらに小型でも使用が可能であるなどの特徴を有する。その最大の特徴は低電圧駆動が可能であり、消費電力が小さいことである。このような特徴が、液晶表示素子が、例えば、携帯用情報端末や移動電話等の表示部品として、また、ワープロやパソコンの表示部品として広く用いられている要因である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
液晶表示素子は上記のように、低電圧、低電力で駆動できる特徴を有する。しかし、そのため、静電気等の目的としない予想外の電圧の印加に対しても、容易に動作する。さらに、それが非点灯部の液晶にまで及ぶと、そこが非点灯部であるが故に、液晶を印加前の初期の配向状態に戻すことがなかなか困難となる。例えば、電圧無印加時の初期配向状態に戻るまでには、例えばパネル製造時の検査工程や、製造時、使用時に限らず、パネルの汚れを布等で落とす作業の際、その作業の障害となるほどの許容できない長い時間を要する。
【0004】
このような問題は、特公昭64−7640公報に示されるように、液晶の比抵抗を低下させることで緩和できる。つまり、たとえ一時的な静電気の印加があって液晶が動作しても、液晶は素速く電圧無印加時の初期の配向状態に緩和する。そして、液晶の動作が非点灯部に及ぶことはない。
【0005】
例えばTN素子を例にあげて説明する。通常液晶の比抵抗は一般的に1012Ωcm〜1011Ωcmであるが、これを1010Ωcmに低下させると、上記の緩和が通常の使用において問題のないレベルの速さとなり、その効果を発現させることができる。109 Ωcmでは上記緩和は非常に速くなり、たとえ一時的な静電気の印加があって液晶が動作しても、液晶は素速く電圧無印加時の初期の配向状態に緩和するため、問題の現象が観測者に意識されることはない。
【0006】
液晶の比抵抗を低下させる方法としては、イオン性の物質を液晶に添加することが一般的である。しかし、そのような場合には液晶セルに液晶を導入する際、注入口付近に、イオン性物質によるものと推定される吸着現象が現れた。そのため、液晶パネルの表示に異常が発生し、表示の均一性を低下させるという問題を有していた。
【0007】
また、特開昭51−68483において、液晶にエチレングリコール又はプロピレングリコールあるいは、これらの共重合体の1種又は2種以上を添加する事により、前記の目的を達成する方法が開示された。例えばエチレングリコールを液晶に対して重量比で0.5%、液晶に添加すると、液晶のネマチック/アイソトロピック相転移温度(Tc)がおよそ1℃低下する。
【0008】
比抵抗の低下効果を評価すると、添加前に比抵抗が2×1012Ωcmであった液晶が添加によって9×1011Ωcmまでしか低下せず、効果はあるが非常に弱い。液晶比抵抗を1010Ωcmのオーダーに下げようとすると5%程度の添加が必要となるものと推定される。この場合、液晶セルとしての信頼性に関連する液晶のネマチック/アイソトロピック相転移温度の許容できない低下が起きる。
【0009】
また、特開平2−311594において、化1に示す15−クラウン−5と呼ばれるクラウンエーテルを液晶に添加することにより、前記の目的を達成する方法が示された。しかし、クラウンエーテルは人間の皮膚や目に対して強い刺激性を有するなど、その人体に対する毒性が問題としてある化合物である。そのため工場における液晶表示素子の生産において、例えば液晶を液晶セルの空セルに注入する工程などで、作業者の作業の安全性の確保に問題を生じる可能性がある。
【0010】
【化1】
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前述の問題を解決すべくなされたものであり、第1の態様は、トリス(ポリオキシアルキレン)アミンを少なくとも1種含むことを特徴とする液晶組成物を提供する。
また、第2の態様は、トリス(ポリオキシアルキレン)アミンを液晶組成物全体に対して0.01〜2wt%含むことを特徴とする液晶組成物を提供する。
また、第3の態様は、第1又は第2の態様の液晶組成物を用いたことを特徴とする液晶表示素子を提供する。
【0012】
本発明において、上記のトリス(ポリオキシアルキレン)アミンとは、具体的には化2に示すような構造を分子内に有する物であることが好ましい。
【0013】
【化2】
{R5 −(O−CR’R3 −CR2 R4 −)n }3 N
【0014】
化2でnは繰り返し数であり、3つのnは各々異なっていてもよい。nは2以上の整数であり、2〜20が適当で、2〜10が好ましい。R1 〜R4 はそれぞれ、水素原子、1価の炭化水素基、置換基を有する1価の炭化水素基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。R5 はそれぞれ、水素原子、1価の炭化水素基、置換基を有する1価の炭化水素基を表す。また、R1 とR2 、あるいはR3 とR4 は結合して炭化水素環を形成してもよい。
【0015】
1価の炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基などがある。それらの炭素数は20以下、特に10以下が好ましい。好ましい1価の炭化水素基は炭素数4以下のアルキル基であり、特にメチル基とエチル基が好ましい。置換基を有する1価の炭化水素基としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有する上記1価の炭化水素基が好ましく、特にヒドロキシ基や炭素数4以下のアルコキシ基を有するアルキル基が好ましい。
【0016】
置換基を有していてもよいアミノ基としてはアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基などがあり、アミノ基、及び炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルアミノ基やジアルキルアミノ基が好ましい。結合して炭化水素環を形成する場合はシクロヘキサン環を形成するものが好ましい。
【0017】
3つのR5 は互いに異なっていてもよいが、好ましくは同一であり、また、R5 としては特に水素原子と炭素数4以下のアルキル基が好ましい。R1 〜R4 としては全てが水素原子であるか、1つが炭素数4以下のアルキル基で他の3つが全て水素原子であることが好ましい。
【0018】
この発明によって、液晶パネルに静電気等によって、目的としない予想外の電圧の印加があり、液晶が動作しても、液晶は素速く電圧無印加時の初期の配向状態に緩和するため、液晶の動作の有無が観測者に意識されることはない。若しくは許容できる程度に緩和を素速くすることができる。
【0019】
本発明においては、液晶パネルに予想外の電圧の印加があって、電荷が液晶層を挟持している基板上に局在化しても異常状態の発生が抑制される。つまり、不要な電界中に液晶が置かれた状態になったとしても、液晶の比抵抗が所望の範囲に設けられており、その局在化した電荷は液晶中を通ってすみやかに分散する。従って、電界は初期電圧印加状態に戻ることができる。
【0020】
本発明によれば、従来例に見られた問題は解消される。例えばイオン性の物質を添加した液晶を液晶セルに導入する際、注入口付近に、イオン性物質によるものと推定される吸着現象は起きない。
【0021】
また、添加による比抵抗低下効果も、後述するように、エチレングリコール等に対して遥かに強く、極少量の添加で希望の比抵抗に液晶を制御でき、液晶セルとしての信頼性に関わる液晶のネマチック/アイソトロピック相転移温度の許容できない低下は起きない。
【0022】
また、人体に対する毒性も無く、工場での使用も問題なく行うことができる。この発明によって、なぜ液晶の比抵抗が低下し、かつ、液晶を液晶セル中に導入する際、注入口付近に、イオン性不純物によるものと推定される吸着現象が起こらないのか、その理由は明らかではないが、おおよそ次のように考えられる。
【0023】
トリス(ポリオキシアルキレン)アミンはそれ自身が中性分子(イオン性置換基を持たない)である場合、直接液晶の比抵抗を低下させることはない。しかし、J. Org.Chem.1985年 vol 50、3717〜3721頁(著者 G.Soula)に記載されているように、この物質はイオン性物質との強い相互作用が可能であるという性質を有し、相間移動触媒として高い性能を持つことが一般に知られている。そのために常にイオン性不純物を自身で保持しているものと推定される。
【0024】
よって、液晶にトリス(ポリオキシアルキレン)アミンを液晶に混合する際、同時にイオン性物質も液晶に不純物として混合されてしまうと推定される。このときイオン性不純物はトリス(ポリオキシアルキレン)アミンに強く相互作用しており、その相互作用力は液晶を挟持している基板表面のそれより強い。そして、トリス(ポリオキシアルキレン)アミンを含む液晶組成物を液晶セル内に導入する際、基板表面に邪魔されることなく、つまり吸着しないで、トリス(ポリオキシアルキレン)アミンと一緒に、液晶セル内に液晶同様均一に分散する。従って、注入口付近の吸着現象は起こらない。なおかつ、液晶の比抵抗は低下する。
【0025】
そしてさらに、もともと液晶の導入前から基板表面に不純物として吸着して、存在するが自由な動きをし得ないため液晶の比抵抗の低下原因としては不活性化していたイオン性不純物を、液晶中にあるトリス(ポリオキシアルキレン)アミンの有する強い相互作用力により、液晶中に引き込み、液晶の比抵抗低下の作用を起こさせるものと推定される。
【0026】
つまり、この発明の最大の特徴は、トリス(ポリオキシアルキレン)アミンによって、イオン性不純物の基板表面への吸着を抑え、なおかつそのイオン性物質が導電性に関わるイオンとしての性質を損なわないように調整され、その結果、所望の値に比抵抗を制御した液晶組成物および液晶表示素子を提供することである。
【0027】
本発明に用いるトリス(ポリオキシアルキレン)アミンを用いて、添加後の液晶の比抵抗を109 Ωcm程度にするなら液晶に対し、0.2〜5wt%を、1010Ωcm程度にするなら0.01〜0.2wt%を添加すればよい。本発明において、液晶の等方性状態への転移点を著しく低下させない、若しくは液晶性を喪失させない程度の量のトリス(ポリオキシアルキレン)アミンを添加することが好ましい。液晶の比抵抗を調整し、かつLCDとして機能せしめるには上述したように0.01〜2wt%とすればよい。通常、各種のLCDに実際に用いられる液晶との組み合わせから、0.2〜1.2wt%とすることが好ましい。
【0028】
本発明の液晶組成物はトリス(ポリオキシアルキレン)アミンが油状物である場合、液晶に添加し、混合すれば得られる。必要な場合には、加熱し、混合物を一度等方性状態にすることで素早く均一に混合することができる。また、トリス(ポリオキシアルキレン)アミンが結晶である場合には、液晶に添加後加熱し、混合物を一度等方性状態にすることによって、均一な液晶組成物となる。
【0029】
本発明は、TNモード、STNモード、さらには、2色性色素を併用したゲストホストモード、液晶/高分子分散型液晶などの電界効果型液晶素子、及び、熱書き込み液晶表示素子などに用いることができる。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
化3に示す分子構造を有するトリス{2−(2−メトキシエトキシ)エチル}アミンを5mg、液晶(セイミケミカル社製の商品名AMC973)に混合し1gとした。これを加熱して混合物を等方性状態にして、均一にし、液晶組成物1を得た。この組成物のTcは105.7℃であり、AMC973のTc(106.7℃)と比べると1℃低下したが、液晶の信頼性上の問題はなかった。
【0031】
(実施例2)
{2−(2−メトキシエトキシ)エチル}アミンを10mg、液晶(セイミケミカル社製の商品名AMC973)に混合し1gとした。これを加熱して混合物を等方性状態にして、均一にし、液晶組成物2を得た。この組成物のTcは104.7℃であり、AMC973のTc(106.7℃)と比べると2℃低下したが、液晶の信頼性上の問題はなかった。
【0032】
【化3】
(CH3 OCH2 CH2 OCH2 CH2 )3 N
【0033】
(実施例3)
次に、液晶表示素子の一対の基板としてガラス基板上にITOなどの透明電極をスパッタで形成し、液晶表示用基板を得た。この一対の基板間に上記液晶組成物1を封入し、このセルの比抵抗を測定した。図1に示すような、トリス(ポリオキシアルキレン)アミンを液晶組成物全体に対し0.01〜2wt%含む液晶層5、透明電極3、偏光板1、配向膜4、基板2を備えた液晶表示素子である。
【0034】
(実施例4)
また、同様に上記の液晶組成物2を用いて、液晶セルを作成し、比抵抗を測定した。
【0035】
(比較例1)
また、比較例として、{2−(2−メトキシエトキシ)エチル}アミンを使用せず、AMC973のみとした液晶組成物を、上記の液晶組成物2と同様に準備し、同様に液晶セルを作成した。そしてそのセル比抵抗を測定した。
【0036】
液晶組成物1が封入されたセルの比抵抗は6×109 Ωcmであった。液晶組成物2が封入されたセルの比抵抗は4×109 Ωcmであった。比較例の液晶セルの比抵抗は4×1012Ωcmであった。
【0037】
(実施例5)
次に、液晶素子表示用の基板として、ガラス基板上に設けられたITOなどの透明電極をスパッタで形成し、その後、日立化成製ポリイミドLX−5800を成膜し、これをラビングして目的の液晶表示素子用の基板を得た。これに上記液晶組成物1を封入し、TNモードの液晶表示素子を組み立てた。
【0038】
この、液晶表示素子に5V(周波数60Hz)の矩形波を印加したところ、電圧のオン、オフに従って、セルの点滅、つまり液晶の動作が確認された。同様に、液晶組成物2を用いて、TNモードの液晶表示素子を組み立てた。この、液晶表示素子に5V(周波数60Hz)の矩形波を印加したところ、電圧のオン、オフに従って、セルの点滅、つまり液晶の動作が確認された。
【0039】
さらに、この静電気による異常表示現象の軽減効果を確認するために、上記TNモードの液晶表示素子に直流20Vを5秒間印加した後、異常表示が解消するまでの時間を測定したところ、{2−(2−メトキシエトキシ)エチル}アミンを添加しないAMC973よりなる液晶表示素子では解消時間が5分程度であるのに対し、液晶組成物1を用いた液晶表示素子では解消時間が3秒、液晶組成物2を用いた液晶表示素子では解消時間が1秒以下と、解消時間の軽減が確認された。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば静電気による異常表示現象を軽減するために、非液晶性化合物の添加によって液晶の比抵抗を未添加の液晶に対し低下するように調節し、なおかつ液晶セルへの導入時に注入口付近の不純物吸着を防ぐことができる。
【0041】
また、本発明において、製造の際における液晶組成物の取り扱いが容易となったため、従来例には見られなかった作業性と生産性の向上が得られた。
【0042】
また、本発明は、LCDパネルの表面の汚れを拭きとることが行われ得るような用途においてその効果が発現される。例えば、車載用のインスツルメンツパネルなどである。
【0043】
また、液晶表示素子の信頼性も良好であって、他の電気光学特性に影響を与えずに所望の性能を得ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液晶表示素子の構造を示す一部断面図。
【符号の説明】
1:偏光板
2:ガラス基板
3:透明電極(ITO)
4:配向膜
5:液晶層
Claims (4)
- トリス(ポリオキシアルキレン)アミンを少なくとも1種含むことを特徴とする液晶組成物。
- トリス(ポリオキシアルキレン)アミンを液晶組成物全体に対し0.01〜2wt%含むことを特徴とする請求項1に記載の液晶組成物。
- 請求項1又は2に記載の液晶組成物を用いたことを特徴とする液晶表示素子。
- 車載用のインスツルメンツパネルに用いられてなる請求項3に記載の液晶表示素子。
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1995
- 1995-08-31 JP JP22343495A patent/JP3678470B2/ja not_active Expired - Fee Related
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