JP3678329B2 - 長尺プラスチック光学素子の成形金型 - Google Patents

長尺プラスチック光学素子の成形金型 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチックレンズ等の光学素子の製造技術に関し、より詳しくは、長尺レンズ等の長尺プラスチック光学素子成形用金型に関する。
【0002】
【従来の技術】
射出成形法などによって得られる内部に光を透過させるレンズ等のプラスチック光学素子は、形状精度のほかに成形時の残留応力などによって起きる光学的歪み、具体的には、複屈折現象などが前記光学素子の使用上問題となる。
【0003】
このような光学歪みを解消するようにした発明として、特開平3−193322号公報に記載されるプラスチック成形用金型に関するものがある。この発明は、レンズ厚肉部を成形する側とレンズ薄肉部を形成する側の熱伝導率に差を持たせるようにしたものであるが、所詮、偏肉かつ軸対称形状のプラスチックレンズにおける発明であって、本発明の対象となる長尺形状のプラスチック光学素子において光学歪みを解消するものとは異なるものである。
つまり、長尺形状の光学素子では、その長さゆえに成形時に樹脂が長手方向に緩和しにくいために、最も冷却が速い部分、すなわち均一肉厚形状や凸形状ではその端部近傍、極端な凹形状ではその中央部に光学的な歪みが大きく現れ、複屈折干渉縞として観察されるのであるが、仮に、前記発明を利用し、さらに成形時の冷却サイクルを工夫するなどにより、成形品全体の残留応力及び光学歪みの低減を図ったとしても長尺形状物において顕著に発生する光学的な歪みを実用上十分なレベルまでは解消できず、結局、長尺形状のプラスチック光学素子の光学的歪みの問題点を大きく改善するものは本発明以前には見当らない。
そして、近年光学特性上高精度な長尺プラスチック光学素子が求められるにつれて、この問題はさらに顕著となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
発明者らは既述の問題点を解決するために、まず、プラスチック光学素子の光学特性は、成形時の内部応力に関連し、該内部応力は温度分布と関連することを念頭に、主に長尺直方体の成形品(図3(A))について成形実験及びCAEによる温度分布解析を繰り返し行い、成形中のキャビティ内の温度分布と成形品の光学的歪みの関係を詳しく調べた。
【0005】
その結果、成形品の寸法を全長X,幅Y,厚みZ(但し、X≫Y,Z)、長手方向の光学的有効範囲をX′とした場合、キャビティ表面近傍の樹脂温度がガラス転移点付近である段階でのキャビティ内樹脂の温度分布について、長手方向中心軸上の中央部X′の範囲内の温度分布が、直交する短手幅方向の中央部(0.9X′/X)×Yの範囲の温度分布あるいは直交する短手厚み方向の中央部(0.9X′/X)×Zの範囲の温度分布に比べて小さい場合において、全体の温度分布がある程度大きくても光学的歪みが強く発生しやすい部分、すなわち均一肉厚形状や凸形状ではその端部近傍、極端な凹形状ではその中央部の光学的歪みを少なくし、全体として光学特性上十分なレベルの光学素子が得られるという非常に興味深い結果を得ることができた。この中心軸上の温度分布については中心部で極小値をもち、その両端で温度が高くなるような温度分布であるとさらに光学的な歪みを低減することができた。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、長尺プラスチック光学素子の成形において、前記金型に構成されるキャビティ構成部の温度を成形冷却段階で前記プラスチック光学素子において上述のような分布状況となるように制御する長尺プラスチック光学素子の成形方法、成形金型及び成形金型の設計方法を提供することである。
【0007】
その第2の目的は、ヒーター交換以外の型修正をすることなく、容易に最適な温度分布を持つ金型に修正することができ、時間及び製作コストを大幅に低減することができる長尺プラスチック光学素子の成形金型及び同成形金型の設計方法を提供することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、固定側金型及び移動側金型からなり、これら金型で構成されるキャビティ構成部内にプラスチック光学素子用材料を充填する長尺プラスチック光学素子成形用金型において、前記キャビティ構成部のプラスチック光学素子光学機能面に接する部分又はその近傍の少なくとも一部に、前記部分又は前記その近傍の少なくとも一部以外の部分に比べ高熱伝導率の材料を使用するとともに、前記キャビティ構成部の長手方向に平行な少なくとも2つ以上のヒーター取り付け穴を前記キャビティ構成部の周囲に有し、前記キャビティ構成部近傍のうち最も冷却が速い部分に対応する領域においてより発熱量が多い発熱分布を有する棒状ヒーターを、前記ヒーター取り付け穴に配置する長尺プラスチック光学素子成形用金型である。
【0021】
請求項の発明は、請求項の発明において、前記棒状ヒーターは内部のヒーター線の巻き数が部分的に密または粗である構造である長尺プラスチック光学素子成形用金型である。
【0022】
請求項の発明は、請求項の発明において、前記棒状ヒーターは内部が少なくとも2つ以上の発熱素子に分割され、かつ、距離をおいて配置された構造である長尺プラスチック光学素子成形用金型である。
【0023】
請求項の発明は、固定側金型及び移動側金型からなり、これら金型で構成されるキャビティ構成部内にプラスチック光学素子用材料を充填する長尺プラスチック光学素子成形用金型において、前記キャビティ構成部のプラスチック光学素子光学機能面に接する部分又はその近傍の少なくとも一部に、前記部分又は前記その近傍の少なくとも一部以外の部分に比べ高熱伝導率の材料を使用するとともに、前記キャビティ構成部の長手方向に平行な少なくとも2つ以上のヒーター取り付け穴を前記キャビティ構成部の周囲に有し、内部に独立して通電可能な少なくとも2つ以上に分割された発熱素子を有する棒状ヒーターを前記ヒーター取り付け穴に配置し、各発熱素子への供給電力を調整する長尺プラスチック光学素子成形用金型である。
【0024】
請求項の発明は、請求項の発明において、前記2つ以上に分割された発熱素子を2つ以上にグループ化し、各グループ毎に制御装置を接続し、全てに同一の温度サイクル設定とするか、あるいは前記キャビティ近傍のうち最も冷却が速い部分に対応する発熱素子グループの温度を他に比べ高く設定することで前記供給電力の調整を行う長尺プラスチック光学素子成形用金型である。
【0025】
請求項の発明は、請求項の発明において、前記各棒状ヒーター内の各発熱素子を同一の制御装置にそれぞれ抵抗を介して並列接続し、該抵抗の抵抗値を調整することで前記供給電力の調整を行う長尺プラスチック光学素子成形用金型である。
【0026】
請求項の発明は、固定側金型及び移動側金型からなり、これら金型で構成されるキャビティ構成部内にプラスチック光学素子用材料を充填する長尺プラスチック光学素子成形用金型において、前記キャビティ構成部のプラスチック光学素子光学機能面に接する部分又はその近傍の少なくとも一部に、前記部分又は前記その近傍の少なくとも一部以外の部分に比べ高熱伝導率の材料を使用するとともに、前記キャビティ構成部の長手方向に平行な少なくとも2つ以上のヒーター取り付け穴を前記キャビティ構成部の周囲に有し、該ヒーター取り付け穴に両方向から棒状ヒーターを挿入して、前記キャビティ構成部近傍のうち最も冷却が速い部分に対応する領域において発熱量がより多くなるように配置する長尺プラスチック光学素子成形用金型である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について述べる。
具体的な説明の前に、図3に本発明の成形方法、成形用金型及び金型設計方法が有効である成形品形状の例を示す。プラスチック光透過板(図3(A))、プラスチック凸レンズ(図3(B))、プラスチック凹レンズ(図3(C))とも長尺であり、いずれも光学機能面Aを有し、内部に光を透過させる部品で、成形品の幅Y及び厚みZはいずれも長さXの半分以下である。この条件を満たさないものは主に長尺形状に起因する光学的な歪みはあまり問題にならない。以下の実施例1〜6では図8に示すような長さX:85mm、幅Y:10mm及び厚みZ:8mmで光学的有効範囲X′が75mmである均一肉厚形状の光透過板について成形を実施した。
また、以下の各実施例で使用した成形用金型全体の基本形を図1に、また射出成形の成形サイクルパターンを図2に示す。
【0030】
即ち、図1はこのような光学素子を成形するための金型のパーティングラインに直交する断面であり、金型1は、固定側金型2と、図示しない油圧シリンダにより移動させられる移動側金型2′とからなり、これら金型2及び2′のパーティングラインPL内にはそれぞれ光学機能面構成部4,4′、端面構成部5,5′及び側面構成部(表示せず)が嵌合されてキャビティ6を構成する。なお、以後の説明において、ダッシュ(′)なしの数字は固定側金型の構成部材、ダッシュ(′)付の数字は移動側金型の構成部材を表わすものとする。前記キャビティ6には、図示されない射出ノズルより成形材料が射出され、成形品が得られる。金型全体は温調管7,7′により温度制御され、金型自体には特に指定しない限り鋼が使用される。
【0031】
このときの温度制御は、図2に示すように、まず、前記金型1を170℃に保温し、キャビティ6内に270℃のポリカーボネート樹脂を射出充填する。そして、樹脂緩和のために金型1を170℃に3分間保持した後、1℃/分程度のペースで金型を冷却し、キャビティ6中央部近傍の温度が130℃になったところで、金型を開き成形品を取り出す。
以下に説明する各実施例では、この冷却過程においてキャビティ内の温度分布を直接あるいは間接に制御することで、成形品の特に端部の光学的歪みの低減効果を得ている。
なお、各実施例で説明に使用している温度分布図は成形中の温度測定結果を反映させた形で金型及び樹脂部の熱伝導解析を実施して得たものである。
【0032】
(実施例1)
以下、まず本発明の実施例1について具体的に説明する。
図4において、10はキャビティ構成部で、該キャビティ構成部10の特徴は、固定金型側及び移動金型側のそれぞれに端面構成部15,15′、光学機能面を構成することになる入れ駒17,17′及びこれら入れ駒17,17′を支持する入れ駒支持部18,18′を備え、この光学機能面近傍にある入れ駒支持部18,18′が大きな体積を占めることである。そして、この入れ駒支持部18,18′には熱伝導率の高い材質(例えば、銅合金)を使用し、通常冷却が他の部分に比べ遅れるキャビティ16中央部の冷却を促進する。
【0033】
図5は、実施例1の結果の比較用として、光学機能面近傍部(入れ駒支持部)に金型の他の部分と同じ鋼を使用した場合、すなわち通常の徐冷パターンでの成形結果及び温度分布解析結果を示す(温度分布図については0.5℃間隔で等温線表示した)。図5(A)は、全長X、光学的有効長X′、幅Y及び厚さZ(図示されず)を有するプラスチック光透過板を光学機能構成面上方向から見たもので、001はそこに生じる複屈折干渉縞の観察パターンを示している。該干渉縞のパターン001は、冷却速度を遅くすることにより、ある一定レベルまでは複屈折量は低減するが、パターン自体は、図5(A)に示すように、菱形をしており、最も先に冷却される長さX方向の端部に近いほど縞の間隔が狭く光学的な歪みが多いという傾向は変わらない。つまり、光学特性上の不良範囲(図5(A)にNGにて示す)の拡大につながっている。
なお、側面方向から見た場合もその程度は成形品の厚みにより異なるが、ほぼ同様のパターンとなる。
さらに、このときのキャビティ内の温度分布の解析結果をみると、キャビティ表面が樹脂のガラス転移点付近約145℃となる段階の成形品長手方向の断面S′における温度分布パターンは、図5(B)002で、また長手方向ライン(P0→P1)及び短手厚み方向ライン(P0→P′2)におけるそれぞれ温度分布004,005は、図5(C)に示すとおりである。このように長手及び短手方向軸上の温度分布を同じグラフで比べてみるとほぼ同じ分布をしていることがわかる。ここでは前記断面部全体の温度差は2℃弱である。
【0034】
ここで、図6を参照して上記した及び以後の説明に使用するキャビティ断面の位置関係について付言する。
図6(A)は、成形品を模型的に示しており、それぞれ長さX,幅Y及び厚さZの中心での切断部位を示している。図6(B)は、各切断平面S及びS′において長手方向中心軸(P0→P1)、短手幅方向中心軸(P0→P2)及び短手厚み方向中心軸(P0→P′2)及び成形品の光学的有効範囲X′を示す。
【0035】
これに対して、実施例1により成形した長尺プラスチック光透過板ついて、複屈折干渉縞パターンと温度分布パターンそれに前記各中心軸方向における温度分布をそれぞれ図7(A),図7(B)及び図7(C)に示す。光学機能面上方向からの複屈折率干渉縞の観察パターン101(図7(A))は明らかに鋼を使用した従来金型を用い通常徐冷の場合と異なり、菱形ではなくほぼ長手方向に平行な縞となり、図5(A)では狭くなってNGレベルである端部での縞の間隔が広くなっている。この場合の断面Sの温度分布パターン102(図7(B))をみると、長手方向中心軸の温度分布はP1近くまで均一を保って分布しており、さらに、長手方向中央部0.9X′の範囲の温度分布104(図7(C))における温度差が短手厚み方向中央部(0.9X′/X)×Yの範囲の温度分布105(図7(C))にくらべ明らかに小さいことがわかる。しかも、この成形例では熱伝導率の高い材料を一部使用したことにより通常徐冷時より冷却速度が10%程度速くなり、そのため断面部の温度分布は全体では約3℃の温度差が生じており、先の徐冷時より大きくなったにも拘らず、光学的な歪みが改善されていることが特に注目される。図7(A)で良好範囲(図7(A)にOKにて示す)はこの状況を示している。これは全体の温度分布において温度差が大きければ光学的な歪みは悪化するという従来の常識を覆す画期的なものである。
図8に、本発明の実施によって成形した長尺プラスチック光透過板の形状と具体的寸法を示す。図から明らかなように、光透過板の幅Y,厚みZはいずれも長さXの半分以下である。
【0036】
(実施例2)
本発明の実施例2を図9に基いて説明する。
図9は、本発明のキャビティ構成部のパーティングライン面に平行する断面図であり、固定金型側を見たものである。移動金型の構成については固定金型側と対称的であるため原則として同一であるので重複説明を避けるため、説明を省略する。図9に示すように前記キャビティ構成部20において、キャビティ26の側面構成部を、直接面を構成する入れ駒27とこれを支持する入れ駒支持部28とから構成し、該入れ駒支持部28の体積を大きくし、かつ熱伝導率の高い金属、例えば、銅合金を使用して、通常冷却の部分に比べ遅れるキャビティ26の中央部の冷却を促進する。
【0037】
図10(A),図10(B),図10(C)は、上記のような本発明の実施例2によって得られた光透過板について、それぞれ干渉縞パターン201、光透過板の短手幅軸方向における温度分布パターン203及びその温度分布204,205を示す。
図10(A)から明らかなように、光学機能面上方向からの複屈折干渉縞の観察パターン201は実施例1の場合と同様に、菱形ではなくほぼ長手方向に平行な縞となり、これも端部での縞の間隔が広くなっている。これは側面方向から見ても同様であった。また、この場合の光学機能面に平行な断面Sの温度分布パターン203(図10(B))をみると、長手方向中央部0.9X′の範囲の温度分布204における温度差が短手厚み方向中央部(0.9X′/X)×Zの範囲の温度分布205にくらべ明らかに小さくなっている(図10(C))。
したがって、光学機能面あるいはその近傍に高熱伝導材料を使用して通常冷却が他の部分に比べ遅れるキャビティ中央部の冷却を速めキャビティ内樹脂の光学的有効範囲内の温度分布を短手方向より長手方向で温度差を小さくすることにより、成形品端部での光学的な歪みの低減効果が得られるが、キャビティ側面あるいは該キャビティ側面近傍に高熱伝導材料を使用しても同様な効果が得られることがわかる。
【0038】
(実施例3)
本発明の実施例3は、前記キャビティ構成部に温調管を配するものである。
図11は、前記キャビティ構成部のパーティングラインに平行する断面図であり、図9と同様固定金型をみている。移動金型側も同じ構成であるので説明は省略する。図11において、キャビティ構成部30は、キャビティ端面構成部39及びキャビティ側面構成部38によってキャビティ36を形成する。そして、キャビティ側面構成部38には、冷却用の温調管37を配置し、これにより、直接的に通常冷却が他の部分に比べ遅れるキャビティ中央部の冷却を促進する。
このような構成による金型によって成形されたプラスチック光透過板の干渉縞パターン、温度分布解析の結果は、図10に示したものとほぼ同様であった。
したがって、通常冷却が他の部分に比べ遅れるキャビティ中央部の冷却を促進することにより、キャビティ内樹脂の長手方向光学的有効範囲の中央部90%程度の範囲内で温度分布を短手方向より長手方向で温度差を小さくすることができれば、金型構造に拘らず成形品の特に端部での光学的な歪みの低減効果が得られることがわかる。
【0039】
また、本実施例3において、冷却あるいは加熱を行う温度域を変えて成形実験を行ったところ、本発明成形方法で述べた温度分布を実現するのに最も有効な温度域は、ポリカーボネート樹脂の場合、140℃〜155℃程度であり、少なくとも145〜150℃付近で実現する必要があることがわかった。これはポリカーボネート樹脂の大気圧下のガラス転移点145℃の+10〜−5℃程度にあたる。実際には樹脂内は大気圧以上であるので、ガラス転移点は上昇しているため、キャビティ表面がこの温度域にあるときはちょうど内部で樹脂が冷却固化しているものと考えられる。したがって、この温度域でのキャビティ内温度分布が光学的な歪に影響を与えるのは、冷却固化の際に発生する応力が主な原因と考えれば理解できることである。
【0040】
(実施例4)
図12は、本発明の実施例4を示すものであり、図12(A)はキャビティ構成部のパーティングラインに平行な断面図であり、固定金型側をみたもの、また、図12(B)は該キャビティ構成部をパーティングライン及びキャビティ長手方向に直交する断面図で固定及び移動の両金型をみたものであるが説明は固定金型について述べる。該キャビティ構成部40の特徴は、図12(A)及び図12(B)において、キャビティ側面構成部46が直接該側面を構成する体積の小さい入れ駒48とこれを支持する部分44とからなり、これら入れ駒48に熱伝導率の高いアルミ合金を使用し、キャビティ表面長手方向の温度分布の均一化を図っていることである。
複屈折干渉縞パターン及び温度分布解析結果も図10とほぼ同様であり、成形品端部の光学的な歪みの低減効果が得られた。
したがって、キャビティ表面あるいは近傍の長手方向の熱伝導性を良くすることによっても、キャビティ内樹脂の長手方向光学的有効範囲の中央部90%程度の範囲内で温度分布を短手方向より長手方向で均一化することができ、その結果成形品端部での光学的な歪みの低減効果が得られることがわかる。なお、この実施例4では直接側面に接する部分に高熱伝導率材料を使用したが、長手方向の熱伝導性を良くすることさえできれば、他材料を使用した薄い面形成部を挟んでもいいし、あるいは光学機能面に接する部分あるいはその近傍に高熱伝導材料を使用しても同様の効果が期待できる。
【0041】
(実施例5)
図13は、本発明の実施例5を示すものであり、キャビティ構成部50は、固定金型側及び移動金型側のそれぞれにおいて、キャビティ端面構成部59,59′のうちキャビティ端面近傍に電気ヒーター57,57′を設置し、これにより通常最も冷却が速いキャビティ端部の温度制御を直接行い、キャビティ端部の冷却を遅らせる。
図14に干渉縞パターン及び温度分布解析結果を示す。光学機能面上方向からの干渉縞の観察パターン501(図14(A))は菱形ではなくなり、中央部ではわずかにくびれた形となっているものの、図7(A)のそれに比べるとさらに端部での縞の間隔が広く、良好範囲(図14(A)にOKで示す)が広がって光学的な歪みが改善している。また、側面方向から見ても同様のパターンであった。
【0042】
この場合の断面Sの温度分布パターン503(図14(B))をみると、これも長手方向中央部0.9X′の範囲の温度分布504(図14(C))が短手幅方向中央部(0.9X′/X)×Yの範囲の温度分布505(図14(C))にくらべ温度差が小さくなっている(△T1<△T2)。
特徴的なのは前記温度分布パターン503において、通常最も冷却が遅く高温となる中央部よりも端部寄りで高温になっており、温度分布は中央部で極小値となっていることである。このことにより端部でより樹脂が緩和しやすく、しかも、長手方向でより温度分布の均一化がなされ、端部の光学的な歪みがさらに改善されることになる。
なお、電気ヒーター57に与える熱量を減少させた場合は、温度分布及び複屈折干渉縞パターンともほぼ図5に示したものと同様になったが、いずれにしても成形品端部の光学的な歪みの低減効果が認められる。つまり、本実施例5では加熱媒体で直接的に端部の温度制御を行っているので、若干構造が複雑になるという欠点はあるが、成形結果を見ながら加熱量の設定を変えることができるので温度分布ひいては複屈折干渉縞のパターンをさらに調整していくことができるという利点がある。
なお、加熱手段として電気ヒーターを使用したが、上記の温度分布が実現できるパワーさえあれば、温調管などの加熱手段を採ることは任意である。
また、本実施例5においても、実施例3と同じように上記温度分布を実現するのに最も有効な温度域は、ポリカーボネート樹脂の場合、140℃〜155℃程度であり、少くとも145℃〜150℃付近で実現する必要があることを確めた。このことは、本発明の他の実施例でも共通することである。
【0043】
(実施例6)
図15は、本発明の実施例6を示すもので、キャビティ構成60は、固定金型側及び移動金型側のそれぞれにおいて、キャビティ端面構成部69,69′のうちキャビティ端面近傍にセラミック断熱板67,67′を配置し、これにより通常最も冷却が速いキャビティ端部の冷却を遅らせる。
本実施例6による干渉縞パターン及び温度分布解析の結果は、図10に示したものとほぼ同様であり、実施例5と同様に通常最も冷却が速いキャビティ端部の冷却を遅らせることにより、成形品端部の光学的な歪みの低減効果が確認された。
なお、実施例6においてはセラミックの断熱板を使用したが、これは熱伝導を低くしてキャビティ端部の冷却を遅くするのが目的であるので、この目的さえ達することができれば、他の低熱伝導性材料あるいは断熱材料を使用しても良いし、あるいは空隙を設けて断熱効果を持たせてもよい。この部分の断熱効果を高めれば、図14に示したような干渉縞パターン及び温度分布も実現できる。
【0044】
(実施例7)
実施例7は、前記キャビティ構成部に冷却用の温調管を配するものであり、ここで得られる成形品は図16に示す長さ85mm,幅10mm,中央部厚み12mm及び端部厚み5mmで、光学的有効範囲が75mmの偏肉形状長尺プラスチック凸レンズである。
図17は、前記キャビティ構成部のパーティングラインに直交する断面図であり、キャビティ構成部70の光学機能面構成部78,78′に冷却用の温調管77,77′を配置し、これにより、直接的に通常冷却が他の部分に比べ遅れるキャビティ中央部の冷却を促進する。なお、偏肉形状の凸レンズを成形するために、移動側金型の入れ駒に偏肉形状をもたせている。
このようにして得られた偏肉形状長尺レンズの干渉縞パターン並びに温度分布解析結果を図18(A),図18(B),図18(C)に示す。
【0045】
図18(A)において光学機能面上方向からの複屈折干渉縞の観察パターン701は菱形ではなくほぼ長手方向に平行な縞となり、この場合も通常最も冷却が速い端部での縞の間隔が広くなっている。側面方向から見た場合も端部での縞の幅は広くなり光学的な歪みの低減効果が認められた。
この場合の光学機能面に直交する断面S′の温度分布703(図18(B))をみると、長手方向中央部0.9X′の範囲の温度分布704(図18(C))における温度差が短手厚み方向中央部(0.9X′/X)×Zの範囲の温度分布705(図18(C))にくらべ小さくなっている。なお、偏肉形状の成形品であるため、ここでは長手方向の中心軸は曲線となる。
【0046】
(実施例8)
さらに、本発明の実施例8について述べる。ここで得られる成形品も実施例7と同形状の偏肉形状長尺凸レンズである。
図19は、該偏肉形状の長尺凸レンズを成形する金型のキャビティ構成部をパーティングラインに直交する方向からみたものである。
図19において、キャビティ構成部80は、固定金型及び移動金型のそれぞれにおいて光学機能面を構成する入れ駒87,87′、該入れ駒87,87′を支持する入れ駒支持部84,84′を備え、それぞれキャビティ端面構成部85,85′とそれぞれ前記入れ駒87,87′と図示されないキャビティ側面構成部によりキャビティ86を構成する。
そして、キャビティ端面構成部85,85′のキャビティ端面近傍に電気ヒーター89,89′を設置する。
このような構成において、前記電気ヒーター89により直接キャビティ端部の温度制御を行い、通常最も冷却が速いキャビティ端部の冷却を遅らせる。
【0047】
このようにして成形を行った偏肉形状の凸レンズについての干渉縞パターンと温度分布解析結果を図20(A),図20(B),図20(C)に示す。
図20(A)において光学機能面上方向からの複屈折干渉縞の観察パターン801は菱形ではなくなり、中央部ではわずかにくびれた形となっているものの通常最も冷却が速い端部の縞の間隔が広く、光学的な歪みが改善している。側面方向から見た場合も同様に端部の縞の間隔が広くなっていた。
この場合の断面Sの温度分布パターン803(図20(B))をみると、これも長手方向中央部0.9X′の範囲の温度分布804(図20(C))における温度差が短手幅方向中央部(0.9X′/X)×Yの範囲の温度分布805(図20(C))にくらべ小さくなっており、さらに長手方向温度分布においては通常最も冷却が速く高温となる中央部よりも端部寄りで高温になって、温度分布は中央部で極小値となっている(△T1<△T2)。
【0048】
(実施例9)
本発明の実施例9は、前記キャビティ構成部に冷却用の温調管を配するものであり、ここで得られる成形品は図21に示す長さ85mm,幅10mm,端部厚み12mm及び中央部厚み4mmで、光学的有効範囲が75mmの偏肉形状長尺プラスチック凹レンズである。
このような極端な凹形状となると、通常の成形では中央部が最も速く冷却固化するため、中央部に光学的な歪みが大きく発生して光学特性上問題となるので、中央部において長手方向での樹脂緩和が必要となる。
図22は、前記キャビティ構成部のパーティングラインに直交する断面図であり、キャビティ構成部90の端面構成部95,95′に冷却用の温調管97,97′を配置し、これにより、該形状の場合冷却が遅くなるキャビティ端部の冷却を促進し、長手方向温度分布の均一化を図る。なお、偏肉形状の凹レンズを成形するために移動側金型の入れ駒に偏肉形状をもたせている。
【0049】
図23は、実施例1の結果と比較用として、温調管に何も流さない場合、すなわち通常の徐冷パターンでの成形結果及び温度分布解析結果を示す。光学機能面上方向からの複屈折干渉縞の観察パターン901は、図23(A)に示すように、最も先に冷却される中央部において縞の間隔が狭くなっており、光学的な歪みが多く光学特性上不良となっている。この場合の光学機能面に平行な断面Sの温度分布903(図23(B))をみると、長手方向中央部0.9X′の範囲の温度分布904(図23(C))が短手厚み方向中央部(0.9X′/X)×Zの範囲の温度分布905(図23(C))に比べ小さくなっている(△T1>△T2)。
【0050】
これに対して、実施例9により成形した長尺プラスチック凹レンズについて、干渉縞パターンと温度分布解析結果を図24(A),図24(B),図24(C)に示す。
図24(A)において光学機能面上方向からの複屈折干渉縞の観察パターン906は、図23(A)に示した干渉縞パターンよりも長手方向に平行になっており、通常冷却だと最も冷却が速い中央部における縞の間隔が広くなっていて、光学特性上も良品となっている。側面方向から見た場合も中央部での縞の幅は広くなり光学的な歪みの低減効果が認められた。
この場合の光学機能面に平行な断面Sの温度分布907(図24(B))をみると、長手方向中央部0.9X′の範囲の温度分布908(図24(C))における温度差が短手厚み方向中央部(0.9X′/X)×Zの範囲の温度分布909(図24(C))に比べ小さくなっていることがわかる(△T1<△T2)。
【0051】
実施例7,8,9より、成形品長手方向中心軸上の中央部の温度分布における温度差がガラス転移点付近である段階で短手幅方向又は厚み方向の中央部の温度分布より小さいという本発明で実現する温度分布が、偏肉形状の長尺凸レンズ及び凹レンズにおいても光学的な歪み低減の効果があることがわかる。
ただし、偏肉形状であるがゆえにキャビティの場所ごとの冷却パターン及びキャビティの温度分布も複雑に変化するので、成形品形状ごとに熱伝導解析を行い成形品形状に合わせた最適な金型構造あるいはヒーターの加熱量などをあらかじめ求めると良い。
【0052】
以上で説明した実施例においては、成形品の形状変更あるいは所望の温度分布が得られない等の理由から、温度分布を変更する場合には型の修正が必要となり、時間とコストがかかるという問題がある。
そこで、次に、本発明の第2の目的である、ヒーターの交換以外の型修正を要することなく、容易に最適な温度分布を得ることができる長尺プラスチック光学素子の成形金型について説明する。
この成形金型は、応答性が良く、型製作及び交換が容易で安価な棒状の電気ヒーターを複数本キャビティ長手方向に平行に配置し、(1)予め発熱分布を最適化してあるヒーターを使用し、長手方向の温度分布を補正する、あるいは、(2)内部が分割され、1本のヒーター内に複数の発熱素子を有する分割ヒーターを使用し、成形時供給電力を調整することで、発熱分布を最適化し、長手方向の温度分布を補正するものである。これにより、通常最も冷却の速い部分の冷却を遅らせ、最適な温度分布を保つことができる。また、発熱分布の異なるヒーターへ交換する、あるいは各発熱素子への供給電力を再調整する等により、ヒーター交換以外の型修正をすることなく、容易に最適な温度分布を保つ金型に修正することができ、時間及びコストを大幅に低減することができる。
【0053】
以下で説明する実施例10乃至13はいずれも本発明の前記第2の目的を達成する長尺プラスチック光学素子用金型に関するものであって、いずれもキャビティ周辺にキャビティ長手方向と平行にヒーター取り付け用穴を4本設け、そこにヒーターを配置した金型を使用(斜視図:図25,断面図:図26)した。
また、使用したヒーターは1本当たり300Wで直径15mm,長さ120mmで両端10mmずつは発熱無効部である。
いずれも図8(A)に示す均一肉厚形状の光透過板の成形を実施し、成形後光学的な歪み等を評価した。
【0054】
(実施例10)
本発明の実施例10において、通常の棒状ヒーターは、ヒーター内の一定範囲に一定の密度でヒーター線が巻かれた構造であり、発熱分布及び発熱に伴うヒーター近傍の長手方向温度分布はそれぞれ図27(B),図27(C)に示すように中央部は平坦かあるいは極大値となる高い温度分布になっている。したがって、前記ヒーター取り付け穴111に通常の棒状ヒーター110を取り付け成形を行った場合は、通常最も冷却が遅れるキャビティ中央部において、さらに冷却が遅れ、キャビティ長手方向の温度分布はかえって増大してしまうことになる。
これに対し、実施例10ではヒーター線が中央部に比べ両端部において密に巻かれた構造となっているヒーター(図27():ヒーター1)を4本前記ヒーター取り付け穴に配置した。
これらのヒーターの発熱分布及び発熱に伴うヒーター近傍の長手方向温度分布はそれぞれ図28(B),図28(C)に示すように、中央が低い温度分布になっており、明らかに図27(B),図27(C)比べ温度分布における温度差が明らかに減少していることがわかる。
このヒーターを使用して温度制御を行うことにより、成形品の複屈折干渉縞パターン及び温度分布解析結果も図10に示すものとほぼ同様となり、成形品端部の光学的な歪みの低減効果が得られることが確認された。
【0055】
また、ヒーター線の巻き方の粗密度が異なるヒーター(ヒーター2)を使用した場合についても成形実験を行った。このヒーターの発熱分布及びヒーター近傍の長手方向温度分布はそれぞれ図28(B),図28(C)における破線グラフのようになっていて、長手方向中央部において温度が低く極小値をとっている。このヒーターを使用した場合は、成形品の複屈折干渉縞パターン及び温度分布解析結果は図14とほぼ同様となり、これについても成形品端部の光学的な歪みの低減効果が得られた。
なお、本ヒーターでは粗密のパターンを3領域で変えたヒーターを使用したが、領域数は2つ以上であればいくつでもよく、また連続的に変えてもよい。
また、この方法によれば、温度分布をさらに修正したい場合は発熱分布を最適化したヒーターを交換するだけでよいので、型修正に要する時間及びコストを大きく低減することができる。また、後述の実施例12,13で使用する分割ヒーターに比べ、配線等が少なく簡易な構造で温度分布を制御できる利点がある。
【0056】
(実施例11)
本発明の実施例においては、図29(A)に示すように、内部を2つの発熱素子110Aに分割し、かつ、距離をおいて設置した構造のヒーターを4本前記ヒーター取り付け穴に配置した金型で成形を実施した。
このヒーターの発熱分布及びヒーターの近傍の長手方向温度分布は、それぞれ図29(C),図29(D)に示すグラフのようになっていて、長手方向中央部において温度が低く極小値をとり全体に温度分布が減少している。
したがって、このヒーターを使用した場合、成形品の複屈折干渉パターン及び温度分布解析結果は図14とほぼ同様となり、成形品端部の光学的な歪みの低減効果も確認された。
なお、2つの発熱素子間の距離及び発熱素子の長さを変えることにより、発熱分布をより最適化することができる。
また、図29(B)に示すように、ヒーター取り付け穴の両方向からヒーターを1本づつ挿入し、適切な発熱分布となるよう配置しても同様の効果が得られた。
【0057】
(実施例12)
本発明の実施例12では、図30(A)に示すように、内部が独立に通電可能な3つの発熱素子に分割された構造となっているヒーター110を4本前記ヒーター取り付け穴111に配置した金型で成形を実施した。
このヒーター111は、各発熱素子110Aに同じ電力を供給した時の発熱分布が図30(B)のようになっており、供給電力を変えることにより各領域で独立して発熱量を変えることができる。
【0058】
実施例12では、この分割ヒーター110をキャビティ112上下の2本ずつのセットにわけ、各セット内において、図31に示すように、両端部の計4つの発熱素子をコントローラ(1)130Aへ、中央部の計2つの発熱素子をコントローラ(2)130Bへ接続した。そしてコントローラは接続されている発熱素子のうちの1つの発熱素子の近傍にて、例えば、熱電対120によって検知した温度とコントローラ上の温度設定に基づき金型の温度制御を行っている。これにより、コントローラ(1)130A及び(2)130Bとも同じ温度設定とした温度設定1では、ヒーター近傍の長手方向の温度分布が図30(C)の実線グラフのようになり、温度分布制御が必要な中央約85mmの範囲では図27(C)に比べ温度分布における温度差が明らかに減少する。
このとき、コントローラ1及び2とも同じ温度設定であるが、個別に制御しているので、通常放熱が少ないために冷却が遅れるキャビティ中央部に近い発熱素子への供給電力量は両端部の発熱素子に比べ少なくなっている。
このように温度制御を行うことにより、成形品の複屈折干渉縞パターン及び温度分布解析結果は図10とほぼ同様となり、成形品端部の光学的な歪みの低減効果が確認された。
【0059】
また、両端部の温度設定を中央部より高くした温度設定2では、ヒーター近傍の長手方向の温度分布が図30(C)の破線グラフのようになり、温度分布制御が必要な中央約85mmの範囲では図27(C)に示したものに比べ温度分布における温度差が明らかに減少し、また中央部で極小値を持っている。
このような温度の場合、成形品の複屈折干渉縞パターン及び温度分布解析結果は、図14とほぼ同様となり、この場合についても成形品端部の光学的な歪みの低減効果が得られた。
【0060】
なお、この方法は、ヒーターからの配線及びコントローラ数が増え、若干装置が複雑化するが、各コントローラの温度設定の変更をするだけでヒーターの発熱分布を変更できるので、成形トライを繰り返す中で温度分布の最適化を実施することができる。したがって、通常型修正に要する時間及びコストを大きく低減することができ、また、成形品の形状変更等にも容易に対応できる。
【0061】
(実施例13)
本発明の実施例13は、前記実施例12におけると同様に、図30(A)に示すように、内部が独立に通電可能な3つの発熱素子に分割された構造となっているヒーター110を4本前記ヒーター取り付け穴111に配置した金型で成形を実施した。
本施例では、各ヒーターについて、図32に示すように、可変抵抗器140を介して各発熱素子を同一のコントローラ130に接続している。この可変抵抗器140は両端部の発熱素子への供給電力が中央部の発熱素子への電力より多くなるように予め調整されている。そしてコントローラ130はヒーター中央部近傍にて検知した温度とコントローラ上の温度設定に基づき金型の温度制御を行っている。
これにより、抵抗値設定1ではヒーター110近傍の長手方向の温度分布が図30(C)の実線グラフのようになり、温度分布制御が必要な中央約85mmの範囲では図27(C)に比べ温度分布における温度差が明らかに減少する。
このような設定で温度制御を実施した場合、成形品の複屈折干渉縞パターン及び温度分布解析結果は図10とほぼ同様となり、成形品端部の光学的な歪みの低減効果が得られた。
【0062】
また、異なる抵抗値設定2ではヒーター近傍の長手方向の温度分布が図30(C)の破線グラフのようになり、温度分布制御が必要な中央約85mmの範囲では図27(C)に示すものに比べ温度分布における温度差が明らかに減少し、また中央部で極小値を持っている。
この設定で温度制御を行った場合は、成形品の複屈折干渉縞パターン及び温度分布解析結果は図14とほぼ同様となり、これについても成形品端部の光学的な歪みの低減効果が得られた。
この方法は抵抗値を変更することでヒーターの発熱分布の変更が容易であるので、成形トライを繰り返す中で温度分布の最適化を実施でき、通常型修正に要する時間及びコストを大きく低減することができる。したがって、成形品の形状変更等にも容易に対応できる。
なお、実施例12及び13で使用したヒーターは内部を3分割したものを使用しているが、分割数は3つに限るものではなく、必要な温度分布が実現できるのであればいくつでも良い。
【0063】
上記の実施例10乃至13では、1つのキャビティ112につきヒーター取り付け穴111を4本設けているが、必要な温度分布が得られるのであれば、本数は自由であり、例えば図26(B)のように周囲に6本取り付け穴を設け、ヒーターを設置しても良い。
また、実施例10乃至13では光透過板についての成形例を示したが、成形品形状はこれに限るものではなく、図3(B),図3(C)に示すような凸レンズあるいは凹レンズ等の長尺光学素子の成形においても、各ヒーターの発熱分布や配置あるいは各コントローラの温度設定や各抵抗値の設定を最適化することにより、請求項6記載の成形方法を実施し、良好な成形品を得ることができる。
【0064】
実施例10乃至13のように、ヒーター110を使用して温度分布を制御する場合においても、予め熱伝導解析を実施して、最適なヒーター穴111の配置,発熱素子の長さ及び配置あるいはヒーターの発熱分布を求めておくことにより、型修正の回数を大きく減らし、型の開発期間を大幅に短縮し、開発コストを大きく低減することができる。
【0065】
(実施例14)
本発明の実施例14は、これまでに述べた実施態様の温度分布を得るための金型の設計に関する。
即ち、本発明の金型を設計する場合、予め金型部と樹脂部とを含めた形で冷却時の熱伝導解析を行う。
これにより成形時に適切な温度分布になっているか予め確認し、解析結果を設計にフィードバックさせるのである。
具体的には、キャビティの配置、使用する材料の材質、配置に加え、加熱及び冷却媒体の配置、時間に対する具体的温度制御方法等、あるいはヒーターの配置及びヒーターの内部構造を条件設定し、その条件を変えながら熱伝導解析を繰り返す。
そして、本発明の各実施例で述べた温度分布が最小コストあるいは最小成形サイクルで実現できるように金型構造を決める。
上記各実施例の中で使用した金型も全てこの手法により設計したものであり、熱伝導解析の結果と成形時における金型各部の温度測定の結果はほぼ一致することを確認している。
【0066】
以上で説明してきた実施例において、全体の温度分布における温度差は若干大きくても、キャビティ内光学素子材料の長手方向光学的有効範囲の中央部90%程度での温度分布における温度差を、短手方向より長手方向で小さくすることができれば、長尺成形品の中で最も冷却が速い部分の歪を低減できる。即ち、均一肉厚形状や凸形状ではその端部近傍、極端な凹形状ではその中央部の光学的歪みを低減できる。
これは短手方向の温度差に起因する応力の短手方向成分は、その後の冷却過程で、近くの応力の正反対方向成分とある程度相殺されて緩和されるのに対し、長手方向の温度差に起因する応力の長手方向成分はほとんど緩和されずに残留してしまうからであって、長手方向の温度分布制御が最終成形品の光学的歪みの低減に対して特に重要である。
【0067】
本発明の前記各実施例で述べた温度分布は、これまでの通常の金型冷却方法では実現されるものではなく、前記温度分布になるよう意識して金型作成及び金型温度制御を行う必要がある。
したがって、本発明の前記各実施例においては、具体的な温度制御方法及び金型について説明したが、本発明の技術思想を逸脱しない限りどのような制御方法及び金型によってもよい。例えば、金型構造は単独で実施してもよいが、組み合わせて使用することも可能である。更に、先の各実施例においては、簡易な構造となるよう板状あるいは直方体の材質を使用するなどしたが、複数の材質の部材を使用したりあるいはより複雑な形状の部材を配置するなどして、キャビティ内温度分布をより最適化すればより高品質の成形品を得ることができる。
金型の使用材質についても、実験過程においては、高熱伝導性材料として銅合金またはアルミ合金を、断熱材料にセラミックを、そしてその他の部分に鋼を使用したが、必要な熱伝導特性を満たせばこれらに限定されるものではない。
【0068】
また、各実施例では射出成形について述べているが、本発明は射出成形に限るものではなく、ガラス転移点以上の温度の樹脂をガラス転移点以下に冷却する過程を含む全てのプラスチック光学素子成形方法に対して適用できるものである。したがって、例えば、特開平4−163119号公報に記載のような予め略最終形状に加工されたプラスチック母材をキャビティに充填して加熱溶融後冷却する成形方法においても本発明は有効である。
さらに、実施例ではポリカーボネート樹脂を使用しているが、樹脂もプラスチック光学素子用として使用しうるものであればよく、ポリカーボネート樹脂に何ら限定されるものではない。
なお、以上の実施例は内部に光が透過する光学素子についての成形例を示しているが、光学的な歪みが少ないということは成形品内の残留応力が少ないことを意味するので、本成形方法及び成形金型は成形品の形状精度を保つ点でも効果がある。したがって、本発明はミラー等の光を透過させず高精度な形状精度を要求する長尺プラスチック部品にも有効である。
【0081】
【発明の効果】
請求項に対応する効果:長尺プラスチック光学素子の中で通常最も冷却が速い部分、すなわち均一肉厚形状や凸形状ではその端部近傍、極端な凹形状ではその中央部に生じる光学歪みを低減させた長尺プラスチック光学素子を容易に成形することができる。また、ヒーターを交換するだけで通常最も冷却が速い部分の冷却を遅らせて金型の温度分布を最適化することができ、型修正の回数を大幅に減らし、開発コスト及び時間を大きく低減できる。
【0082】
請求項に対応する効果:巻き線を粗密にしたヒーターを変えることによって、温度分布を容易に最適化することができる。
請求項に対応する効果:発熱素子間の間隔の距離及び長さを変えることによって、温度分布を容易に最適化することができる。
【0083】
請求項に対応する効果:供給電力を調整するだけで通常最も冷却が速い部分の冷却を遅らせて金型の温度分布を最適化することができ、型修正の回数を大幅に減らし、開発コスト及び時間を大きく低減できる。
【0084】
請求項に対応する効果:分割ヒータと制御装置により、金型の温度制御を個別に制御することにより、温度分布を容易かつ確実に最適化することができる。
請求項に対応する効果:抵抗値を変更することにより、成型トライを繰り返す中で温度分布の最適化を実施でき、金型修正に要する時間及びコストを大幅に削減することができる。従って、成形品の形状変更等にも容易に対応することができる。
【0085】
請求項に対応する効果:ヒーターを交換するだけで、通常最も冷却が速い部分の冷却を遅らせて金型の温度分布を最適化することができる。従って、型修正の回数を大幅に減らし、開発コスト及び時間を大きく低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例における金型断面図。
【図2】 本発明の実施例における成形サイクルパターン。
【図3】 本発明の実施例により成形される成形品形状図。
【図4】 本発明のキャビティ構成部のPL面に直交する断面図。
【図5】 通常のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図6】 キャビティ断面図の位置関係説明図。
【図7】 本発明のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図8】 本発明の実施例により成形される成形品寸法図。
【図9】 本発明のキャビティ構成部のPL面に平行する断面図。
【図10】 本発明のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図11】 本発明のキャビティ構成部のPL面に平行する断面図。
【図12】 本発明のキャビティ構成部の断面図。
【図13】 本発明のキャビティ構成部のPL面に直交する断面図。
【図14】 本発明のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図15】 本発明のキャビティ構成部のPL面に直交する断面図。
【図16】 本発明の実施例により成形される成形品寸法図。
【図17】 本発明のキャビティ構成部のPL面に直交する断面図。
【図18】 本発明のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図19】 本発明のキャビティ構成部のPL面に直交する断面図。
【図20】 本発明のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図21】 本発明の実施例により成形される成形品寸法図。
【図22】 本発明のキャビティ構成部のPL面に直交する断面図。
【図23】 通常のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図24】 本発明のキャビティ構成による成形時の干渉縞パターン、温度分布を表わす。
【図25】 本発明の実施例における金型のヒーターの配置を説明する斜視図。
【図26】 本発明の実施例における金型の断面図。
【図27】 本発明の実施例における金型のヒーターの構造及びその発熱量及び温度分布を説明する図。
【図28】 本発明の実施例における金型のヒーターの構造及びその発熱量及び温度分布を説明する図。
【図29】 本発明の実施例における金型のヒーターの構造及びその発熱量及び温度分布を説明する図。
【図30】 本発明の実施例における金型のヒーターの構造及びその発熱量及び温度分布を説明する図。
【図31】 本発明の実施例における金型のヒーターによる加熱構造を示す図。
【図32】 本発明の実施例における金型のヒーターによる加熱構造を示す図。
【符号の説明】
1…金型、2…固定側金型、2′…移動側金型、4,4′…光学機能面構成部、5,5′…端面構成部、6,16,26,36,86,112…キャビティ、7,7′37,37′,77,77′,97,97′…温調管、10,20,30,40,50,60,70,80,90…キャビティ構成部、15,15′…端面構成図、17,17′,27,27′,48,48′,87,87′…入れ駒、18,18′28,28′,44,44′84,84′…入れ駒支持部、38,38′,46,59,59′,69,69′…キャビティ側面構成部、39,85,85′,95,95′…キャビティ端面構成部、57,57′,89,89′…電気ヒーター、67,67′…セラミック断熱板、78,78′…光学機能面構成部、110…ヒーター、110A…発熱素子、111…ヒーター取り付け穴、120…熱電対、130,130A,130B…コントローラ(制御装置)、140…可変抵抗器、PL…パーティングライン、S,S′…断面。

Claims (7)

  1. 固定側金型及び移動側金型からなり、これら金型で構成されるキャビティ構成部内にプラスチック光学素子用材料を充填する長尺プラスチック光学素子成形用金型において、前記キャビティ構成部のプラスチック光学素子光学機能面に接する部分又はその近傍の少なくとも一部に、前記部分又は前記その近傍の少なくとも一部以外の部分に比べ高熱伝導率の材料を使用するとともに、前記キャビティ構成部の長手方向に平行な少なくとも2つ以上のヒーター取り付け穴を前記キャビティ構成部の周囲に有し、前記キャビティ構成部近傍のうち最も冷却が速い部分に対応する領域においてより発熱量が多い発熱分布を有する棒状ヒーターを、前記ヒーター取り付け穴に配置することを特徴とする長尺プラスチック光学素子成形用金型。
  2. 前記棒状ヒーターは内部のヒーター線の巻き数が部分的に密または粗である構造であることを特徴とする請求項1記載の長尺プラスチック光学素子成形用金型。
  3. 前記棒状ヒーターは内部が少なくとも2つ以上の発熱素子に分割され、かつ、距離をおいて配置された構造であることを特徴とする請求項1記載の長尺プラスチック光学素子成形用金型。
  4. 固定側金型及び移動側金型からなり、これら金型で構成されるキャビティ構成部内にプラスチック光学素子用材料を充填する長尺プラスチック光学素子成形用金型において、前記キャビティ構成部のプラスチック光学素子光学機能面に接する部分又はその近傍の少なくとも一部に、前記部分又は前記その近傍の少なくとも一部以外の部分に比べ高熱伝導率の材料を使用するとともに、前記キャビティ構成部の長手方向に平行な少なくとも2つ以上のヒーター取り付け穴を前記キャビティ構成部の周囲に有し、内部に独立して通電可能な少なくとも2つ以上に分割された発熱素子を有する棒状ヒーターを前記ヒーター取り付け穴に配置し、各発熱素子への供給電力を調整することを特徴とする長尺プラスチック光学素子成形用金型。
  5. 前記2つ以上に分割された発熱素子を2つ以上にグループ化し、各グループ毎に制御装置を接続し、全てに同一の温度サイクル設定とするか、あるいは前記キャビティ近傍のうち最も冷却が速い部分に対応する発熱素子グループの温度を他に比べ高く設定することで前記供給電力の調整を行うことを特徴とする請求項4記載の長尺プラスチック光学素子成形用金型。
  6. 前記各棒状ヒーター内の各発熱素子を同一の制御装置にそれぞれ抵抗を介して並列接続し、該抵抗の抵抗値を調整することで前記供給電力の調整を行うことを特徴とする請求項4記載の長尺プラスチック光学素子成形用金型。
  7. 固定側金型及び移動側金型からなり、これら金型で構成されるキャビティ構成部内にプラスチック光学素子用材料を充填する長尺プラスチック光学素子成形用金型において、前記キャビティ構成部のプラスチック光学素子光学機能面に接する部分又はその近傍の少なくとも一部に、前記部分又は前記その近傍の少なくとも一部以外の部分に比べ高熱伝導率の材料を使用するとともに、前記キャビティ構成部の長手方向に平行な少なくとも2つ以上のヒーター取り付け穴を前記キャビティ構成部の周囲に有し、該ヒーター取り付け穴に両方向から棒状ヒーターを挿入して、前記キャビティ構成部近傍のうち最も冷却が速い部分に対応する領域において発熱量がより多くなるように配置することを特徴とする長尺プラスチック光学素子成形用金型。
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