JP3673957B2 - 印刷物の識別法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、銀行券、株券、債券等の有価証券、切手等の偽造変造防止を必要とする印刷物を形成する印刷インキ中に含まれる樹脂や顔料等を、非破壊により測定し、真偽判別を行う印刷物の識別法に関するものである。ケモメトリックスとは、スウェーデンUmeo大学のWoldが、1972年に彼の論文のなかで初めて使った、化学を示すChemistry と計量を示すMetrics で構成され、化学の諸問題を数学的手法及び統計学的手法で解明する学問分野として定義される。
【0002】
【従来の技術】
一般に、印刷物を形成する印刷インキから印刷物を識別する場合、有機物をフーリエ変換法を用いて分析し、得られた赤外スペクトルやラマンスペクトルを解析する方法を応用した解析法がある。しかし、印刷物の場合、反射法を用いて測定されたスペクトルからは、印刷物上に形成された印刷インキ中に含まれる樹脂とともに、前記印刷インキ中に含まれる無機及び有機顔料と、更に前記印刷インキのインキ皮膜下の、基材としての、例えば紙等のバックグランドが大きな吸収スペクトルとなって重なってくるので、前記得られた反射スペクトルから、印刷物上に形成された印刷インキに含まれる樹脂や顔料のみを解析するのは非常に困難であった。
【0003】
また、印刷物を形成する印刷インキの膜厚などがわずかに変化しただけでも分析装置の感度が高すぎて、反対にスペクトル形状が大きく異なることとなるため、この方法により印刷物を形成する印刷インキ中に含まれる樹脂や顔料等を識別するのは非常に難しい技術である。そのため、実際には印刷物を形成する印刷インキの一部をかき取り、前記かき取った試料をアセトンやクロロホルムなどの有機溶媒に浸し、印刷インキ中の樹脂や顔料のみを抽出した後、赤外分光分析又はラマン分光分析装置にかけて、赤外スペクトルやラマンスペクトルを得て解析を行う必要があったが、印刷インキ中に含まれる樹脂や顔料の抽出操作や、得られたスペクトルの解析にはかなりの熟練を必要とし、多くの時間も必要とした。また、この方法は印刷部分から試料をかき取る必要があるため、非破壊の状態で分析を行わなければならない場合には適用ができないという欠点があった。
【0004】
更に、その他の識別方法としては、特殊な物質、例えば特定波長領域において反射及び吸収を示す樹脂や顔料を用いて印刷した印刷物を、積分球により反射測定のできる分光光度計を用いて、紫外領域から近赤外領域までの分光反射率曲線を得ることによって、非破壊的に判別する方法がある。しかし、前記分光反射率曲線による判別方法では、前記特殊な物質を用いた印刷物の識別には効果があるが、一般的にインキに使用されている樹脂、例えばアルキド樹脂、アクリル樹脂、アクリレート樹脂などを用いて印刷した印刷物の分光反射率曲線は、ほとんど同じであり識別するのは困難であった。
【0005】
また、本発明に関係している近赤外領域(4,500〜10,000cmー1)のスペクトルの一般的な特徴としての、(1)近赤外スペクトルの吸収ピークは、赤外領域の吸収ピークに比べ1/1000で非常に弱い、(2)水素結合や分子間の相互作用によって特定のバンドにシフトが起こるが、該シフトの大きさは、赤外バンドの場合に比べはるかに大きい、(3)赤外領域の倍音や結合音によるバンドが重なり合ったり、フェルミ共鳴によるバンドが多く観測される、というような理由から、バンドの帰属は赤外スペクトル以上に困難である。
【0006】
また、従来の近赤外分析装置は、干渉フィルターや回折格子を用いた波長分散型であるため、一回の測定で得られたスペクトルのS/Nはあまり良くないため、データの統計処理手法を適用することができなかった。そのため、利用される用途は限られ、印刷物を形成する印刷インキなどのように、類似した樹脂が少量しか含まれていず、なおかつ、基材として、例えば紙などのバックグランドの吸収が大きい試料に対して、従来の近赤外分析装置を用いて、印刷インキ中の樹脂の種類を識別することは殆ど不可能であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、コンピュータの進歩に伴い、フーリエ変換型の近赤外分析装置が開発され、データの統計処理手法を利用したパターン認識が可能となったため、医薬品や食料品の分野において、液体、ペースト又は粉体試料に対する品質管理や特性分析等に該装置が利用されるようになってきた。そこで、本発明者等は、従来より行われていた印刷物を形成する印刷インキをかき取って、該印刷インキ中の樹脂を有機溶剤で抽出するか、又は特殊な物質を用いて印刷した印刷物の分光反射率曲線を得て、非破壊的に測定するという限定された測定方法に対し、前記装置を用いることによって、従来より困難とされていた印刷物を形成する印刷インキに含まれる樹脂等の種類を、構造的に類似した場合においても、非破壊法で、短時間に識別できる方法を見いだしたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために本発明に係る印刷物の識別法は、光源からの光を干渉計により干渉光とし、光ファイバープローブを通して試料に干渉光を照射、受光し、検出器により得られた信号をフーリエ変換する手段と、前記フーリエ変換した波数4,500〜10,000cmー1の近赤外スペクトルを吸光度変換、微分処理及び標準化処理を任意に組み合わせて処理したデータを、ケモメトリックスにおける多変量解析を行うことでパターン認識を行う手段とを備えたフーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)において、前記光ファイバープローブを印刷物に直接接触させて測定することと、得られた近赤外スペクトルを波数範囲を5,400〜6,400cmー1に限定することを特徴とし、クリアコートした樹脂や樹脂と顔料を混合して塗布した印刷物を、非破壊により、予め作成された標準試料による既知の判別モデルに比較して判別あるいは識別し、真偽判別することを特徴とする。
【0009】
また、クリアコートした樹脂や樹脂と顔料を混合して塗布した印刷物を構成する印刷インキに含まれる樹脂の、少なくとも二種類以上を任意の割合で混合し塗布した印刷物を、前記請求項1の識別法を用いて識別することを特徴とする。
【0010】
更に、樹脂と種類の異なる同系色の顔料とを混合して塗布した印刷物を、前記請求項1の識別法を用いて識別することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の識別法は、得られた近赤外スペクトルを統計処理することでパターン認識のできるフーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)を用いて、該装置の光ファイバープローブを印刷物に密着し、密着部分の近赤外スペクトルをとり、前記近赤外スペクトルの波数を限定し、吸光度変換、微分処理及び標準化処理を任意に組み合わせたデータを統計処理することでパターン認識しているので、印刷物を破壊することなく、印刷物を形成する印刷インキ中の樹脂、あるいは顔料の識別を行うことにより真偽判別することを可能にしている。
【0012】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の識別法に用いるフーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)
の概略図であり、試料台(1)、光ファイバープローブ(3)、フーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)本体(4)、コンピュータ(5)より構成される。
【0014】
図2(a)は、本発明の一実施例に係る識別法の測定フローチャート図であり、図2(b)は解析フローチャート図である。
【0015】
まず、図2(a)の測定フローチャート図に従い測定する。試料台(1)の上に印刷物(2)をセットした後、試料台(1)を上昇させることにより印刷物表面を、固定した光ファイバープローブ(3)に密着させる。近赤外線は光源からの光を干渉計により干渉後、光ファイバープローブ(3)を通って印刷物(2)に照射される。印刷物表面で吸収、拡散反射又は正反射した光は、再び光ファイバープローブ(3)を通って、フーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)本体(4)の検出器により検出され、電気信号に変換することによって近赤外スペクトルを得る。
【0016】
次に、判別モデルを作成するために、前記測定フローチャート図に従って、紙に塗布した印刷インキ中の樹脂や顔料を混合した樹脂と顔料の種類を変えた何種類かの印刷物についてそれぞれ繰り返し実行し、それぞれの印刷物の近赤外スペクトルを測定する。
【0017】
コンピュータ(5)によって、前記得られた近赤外スペクトルのデータ処理を図2(b)に示す解析フローチャート図に従って行う。まず、波数4,500〜10,000cmー1の近赤外スペクトルを5,400〜6,400cmー1の波数範囲に限定する。これは、4,700、5,100、6,400〜7,200cmー1には、紙そのものの吸収ピークが大きなバックグランドとして確認されること、また、9,100、9,700cmー1にはCH伸縮振動の倍音の大きなピークがあるが、このピークはどの樹脂にも大きく現れるために判別用には用いられない、という理由から紙のピークとできるだけ重ならず、樹脂間のわずかな違いを示す5,400〜6,400cmー1に波数範囲を限定する。
【0018】
次に、吸光度変換法、微分処理法(一次微分法又は二次微分法)及び標準化法などの処理法を任意に組み合わせて最適なモデルを作成する。吸光度変換法は、ランバート・ベールの法則に従って、スペクトルをピーク面積から定量的に評価することができる。微分処理法は、重なり合ったバンドの分離とベースライン補正を行う。その中で一次微分法は、スペクトル形状から傾き成分を抽出して重なり合ったバンドを分離する。二次微分法は、下向きのピークは元のスペクトルの上向きピークに対応し、重なり合ったピークが別々のピークとしてはっきり現れ、ベースラインも一定となる。実際には、微分処理により印刷物を形成する印刷インキ中の樹脂の膜厚のばらつきを補正することができる。標準化法は、スペクトルの中で最大のピーク強度のポイントを1、最小のピーク強度のポイントを0として補正するもので、この処理により印刷物と光ファイバープローブとの密着性のばらつきを補正できる。
【0019】
次に、得られたデータを変数どうしの相関を利用し、情報損失量が最小になるよう互いに無相関な小数の主成分に情報を要約し、主成分得点の大きさにより試料間の関係を調べる主成分分析を行い、主要因子(主成分)に分解する。そして、主成分空間における各スペクトル間の距離や類似度に基づき試料を分類し、グループに分けるクラスター分析などのパターン認識用の判別モデルを作成する。
【0020】
以上のような操作手順により、前もって各種の既知の樹脂あるいは顔料により印刷された印刷物について、パターン認識用の判別モデルを作成しておく。次に、実際に識別したい印刷物を同様の方法で測定し、前記標準判別モデルの許容範囲内にあるかどうかパターン認識することにより、偽造品の真偽判別や樹脂等の種類の判別を行う。
【0021】
(実施例1) 図3は、アルキド樹脂、エポキシ樹脂及びアクリレート樹脂を、それぞれ70重量部と、フタロシアニンブルーの顔料を30重量部とを混合した3種類の印刷インキを調整し、紙に印刷して得られた印刷物の波数4,500〜10,000cmー1の近赤外スペクトルを示したものである。得られた前記3種類の印刷物を形成する印刷インキのスペクトルから樹脂の種類を見分けることは困難であるので、紙のバックグランドの吸収の影響を除くため、図4に示すようにデータ処理範囲を5,400〜6,400cmー1に狭め、前記データ処理の中から吸光度変換と一次微分処理を行って得たスペクトルを図5に示す。この図から各樹脂間に違いがあるのは確認できるが、実際には、これらの違いの中には測定誤差やサンプリング誤差などが含まれるため構造的に大きく異なり、特徴的なスペクトルパターンとなる成分は判別できるが、構造的に類似した成分の判別分析には利用できない。そこで、得られたデータを主要因子に分解する主成分分析を行った後、各樹脂をグループに分けるクラスター分析を行うことにより判別モデルを作成する。
【0022】
図6は、クラスター分析による判別モデルを示したものである。この図から、アルキド樹脂(6)、エポキン樹脂(7)及びアクリレート樹脂(8)にグループ分けが行われているのが分かる。このように、それぞれの樹脂の許容半径により描いた円が、樹脂どおしの間で重なっていなければ、樹脂の判別に利用できるので、印刷物に塗布された印刷インキに含まれる樹脂が未知の場合には、同様の方法により測定し、どの樹脂の円内に存在するかによって樹脂の判別を行う。
【0023】
(実施例2) SBR(スチレンーブタジエン共重合体)とNBR(アクリロニトリルーブタジエン共重合体)を段階的に混合し、紙にクリアコートを行う。次に、FTNIRを用いてクリアコート面の反射測定を行い、実施例1と同じ方法により判別モデルを作成する。図7は、樹脂の混合割合の違いにより作成した判別モデルを示したものである。表に図7に示す9〜13のそれぞれのグループの樹脂の混合割合を示す。
【表】
【0024】
(実施例3) アルキド樹脂70重量部と、青色顔料で種類の異なるスレンブルー(14)、フタロシアニンブルー(15)及びコバルトブルー(16)をそれぞれ30重量部とを混合し3種類の印刷インキを調整し、前記混合した印刷インキで用紙に印刷を行い、得られた印刷物をFTNIRにより反射測定を行い、実施例1と同じ方法により判別モデルを作成した。図8は、顔料の違いにより作成した判別モデルを示したものである。
【0025】
【発明の効果】
以上詳述したとおり、本発明は、類似した樹脂あるいは顔料を用いて印刷した印刷物等をFTNIRにより反射測定し、得られた近赤外スペクトルを、紙などのバックグランドの影響が少なく、類似した樹脂のわずかな違いを判別する領域として波数範囲を5,400〜6,400cmー1に限定し、吸光度変換法、微分法及び標準化法の処理を任意に組み合わせたデータを、統計的に処理するパターン認識法により、紙などのバックグランドの吸収を含んだ状態においても識別することができるので、本発明の識別法を用いることによって、分析技術などの特殊な技能及び経験を必要としないで、非破壊により印刷物を形成する印刷インキ中の樹脂や顔料の識別が可能となる。そのため、印刷物を形成する印刷インキ部分、例えば凹版インキ、平版インキ等を、本識別法を用いて識別することによって真偽判別に適用できる。また、印刷物を製造する段階で、印刷物のデザインに対して、印刷インキに含まれる樹脂あるいは顔料等の配合割合を部分的に変えて印刷することにより、真偽判別をより有効に発揮することもできるので、銀行券、株券、債券等の有価証券、切手等の付加価値の高い製品の迅速な真偽判別に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 フーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)を示す
【図2(a)】 測定フローチャート図を示す
【図2(b)】 解析フローチャート図を示す
【図3】 アルキド樹脂、エポキシ樹脂及びアクリレート樹脂を、それぞれ70重量部、フタロシアニンブルーの顔料を30重量部混合したインキにより印刷した印刷物の近赤外スペクトルを示す
【図4】 データ処理範囲を5,400〜6,400cm-1に狭めた図
【図5】 吸光度変換と一次微分処理を行ったスペクトルを示す
【図6】 図5のスペクトルデータを主成分分析後、クラスター分析を行うことにより作成した判別モデルを示す
【図7】 樹脂の混合割合の違いにより作成した判別モデルを示す
【図8】 顔料の違いにより作成した判別モデルを示す
【符号の説明】
1 試料台
2 印刷物
3 光ファイバーブローブ
4 フーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)本体
5 コンピュータ
6 アルキド樹脂
7 エポキシ樹脂
8 アクリレート樹脂
9 配合割合NBR100%、SBR0%
10 配合割合NBR75%、SBR25%
11 配合割合NBR50%、SBR50%
12 配合割合NBR25%、SBR75%
13 配合割合NBR0%、SBR100%
14 フタロシアニンブルー
15 スレンブルー
16 コバルトブルー
Claims (3)
- 光源からの光を干渉計により干渉光とし、光ファイバープローブを通して試料に干渉光を照射、受光し、検出器により得られた信号をフーリエ変換する手段と、前記フーリエ変換した波数4,500〜10,000cmー1の近赤外スペクトルを吸光度変換、微分処理及び標準化処理を任意に組み合わせて処理したデータを、ケモメトリックスにおける多変量解析を行うことでパターン認識を行う手段とを備えたフーリエ変換近赤外線分析装置(FTNIR)において、前記光ファイバープローブを印刷物に直接接触させて測定することと、得られた近赤外スペクトルを波数範囲を5,400〜6,400cmー1に限定することを特徴とし、クリアコートした樹脂や樹脂と顔料を混合して塗布した印刷物を、非破壊により、予め作成された標準試料による既知の判別モデルに比較して判別あるいは識別し、真偽判別することを特徴とする印刷物の識別法。
- クリアコートした樹脂や樹脂と顔料を混合して塗布した印刷物を形成する印刷インキに含まれる樹脂の、少なくとも二種類以上を任意の割合で混合し塗布した印刷物を、前記請求項1の識別法を用いて識別することを特徴とする印刷物の識別法。
- 樹脂と種類の異なる同系色の顔料とを混合して塗布した印刷物を、前記請求項1の識別法を用いて識別することを特徴とする印刷物の識別法。
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