JP3672630B2 - 分子ポンプ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は極高真空を得るための排気に用いられる磁気軸受方式の分子ポンプに関し、特にベーキング温度を高くして超高真空あるいは極高真空まで排気できるようにしたターボ分子ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
高真空用ターボ分子ポンプにおいては、ロータやステータ等の表面に吸着した気体分子を除去するために、排気の途中工程でベーキング処理を行っている。
【0003】
このベーキング処理とは、ケーシング、ステータ及びロータを、これ等の全部又は一部の素材であるアルミニウム合金の脱ガス効果が十分で、しかも強度限界の120℃程度に迄加熱するものである。この温度はステンレス製のケーシングに対してはベーキング温度として不十分であるが、アルミニウム合金製ケーシングの場合この処理によりターボ分子ポンプは高真空の排気を行うことができる。
【0004】
このベーキング処理は、ターボ分子ポンプのケーシングの外側から加熱を行うと共に、この熱をステータ側からロータ側へと熱伝達させるのが一般であり、このため静翼及び動翼にセラミックコーティングを施して両者間の放射熱伝達を高める工夫が一部で行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
分子ポンプにより排気される真空容器は一般にステンレス製であり、又、排気を行う分子ポンプのケーシングは一般にステンレス製又はアルミニウム合金製が使用されている。
【0006】
アルミニウム合金製ケーシングの分子ポンプにおいてベーキング処理を行う場合に、ステンレスとアルミニウム合金との熱膨張率の相違によって両者のフランジ接続部に気密不良部を生じ、該気密不良部より洩れを発生する恐れがあった。又、該分子ポンプのアルミニウム合金製ケーシングの接続フランジ面は硬い皮膜で覆ってあるが、この膜厚は一般に薄いので傷がつき易く、該傷部より洩れを発生する恐れがあった。
【0007】
これに対し、ケーシングの材料をステンレス製として前記の熱膨張率の問題や接続フランジ面の強度の問題を解決しても、今度はステンレスのベーキング処理には200℃以上の温度が必要であり、もしケーシングを200℃程度に加熱すると内部のロータもそれと同程度の温度にまで昇温することから、ロータの強度劣化が著しくなるという不具合がある。
【0008】
結局ステンレス製のケーシングを用いた場合でもベーキング温度は120℃程度にしなければならず、従ってケーシングの脱ガスが充分に行えないという問題点があった。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解消し、ロータ劣化の恐れがなくベーキング処理を行うことができる分子ポンプを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の目標を達成するべく、1端部に吸気口を有し他端部に排気口を有するケーシングと、該ケーシング内に回転可能に支持され多数の動翼を多段に突設したロータと、前記ケーシング内壁に固定され多数の静翼を多段に内方に突設したステータとからなるターボ分子ポンプにおいて、前記ケーシングの外周部の上流側に加熱手段を設置すると共に同外周部の下流側には加熱及び冷却手段を設置したことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施の形態を図1により説明する。
【0012】
図1は本発明を適用した磁気軸受型ターボ分子ポンプの縦断面図を示し、吸気口A即ち上流側より吸気して排気口B即ち下流側に排気をする。
【0013】
ステンレス製のケーシング1の外周部の上流側には加熱手段の電熱ヒータ2が設置されており、同外周部の下流側には加熱及び冷却手段としてジャケット3が設置されている。
【0014】
尚、2aは電熱ヒータ2へのリード線であり、又、C及びDはそれぞれジャケット3を環流する高温又は低温の熱媒体の流れの方向を示す。
【0015】
該ケーシング1の内側にはステータ4があり、該ステータ4は内方に突設した多数の静翼4a…及び4b…を多段に有すると共に各段の静翼は静翼押さえリング4c…4d及び4e…によりケーシング1の内周部に取付けられている。
【0016】
静翼4a…はアルミ合金製でステータ4の上流側を形成しており、静翼4b…もアルミ合金製で熱放射率を高めるコーティング例えばSiO2 系又はAl23 系のセラミックコーティングを外面に施してあると共にステータ4の下流側を形成している。
【0017】
静翼押さえリング4e…は前記静翼4b…をケーシング1へ固定する環状体で、又静翼押さえリング4c…は前記静翼4aをケーシング1へ固定する環状体である。
【0018】
又、静翼押さえリング4dは断熱性の高いセラミックス等の材料で作成された環状体で、該静翼押さえリング4dは電熱ヒータ2とジャケット3の領域の境界部に配置されている。
【0019】
ロータ5は外周に突出した多数の動翼5a…及び5b…を多段に有すると共にシャフト5cに固定されており、該シャフト5cはモータ5dによって駆動されると共にジャーナル磁気軸受6a、6b及びスラスト磁気軸受6cによって支承されている。
【0020】
ロータ5及び動翼5a…5b…はアルミ合金製で、動翼5b…は熱放射率を高めるコーティング例えばSiO2 系又はAl23 系のセラミックコーティングを外面に施されており、ロータ5の下流側に配置されている。動翼5a…にはセラミックコーティングは施されておらず、ロータ5の上流側に配置されている。
【0021】
尚、これら動翼及び静翼のセラミックコーティングを施したものの割合は、それぞれ全数の50%乃至70%程度となっている。
【0022】
又、前記ジャケット3は、これらセラミックコーティングを施した動翼5b…及び静翼4b…の上をカバーするように形成されている。
【0023】
次に本第1の実施の形態のターボ分子ポンプの作用について説明する。
【0024】
ターボ分子ポンプの吸気口A側を超高真空にしようとする真空容器(図示せず)へ接続し、ロータ5を高速回転させて排気を行う。
【0025】
この際、排気中の気体分子の一部がケーシング1やステータ4やロータ5の表面に吸着され、流路内が高真空となるにつれてこれらの気体分子が該表面から遊離してくるので、なかなか超高真空が得られない。
【0026】
そこでベーキング処理を行なって、これら吸着した気体分子を放出させる作業を行なう。
【0027】
ベーキング処理は電熱ヒータ2及びジャケット3によりケーシング1を外周から加熱することによる。
【0028】
該ケーシング1はステンレス製なので、200℃程度のベーキング温度が必要であるのに対し、ロータ5や動翼5a…5b…等はアルミ合金製であり、且つ高速回転によって高い遠心力を受けているため、120℃程度の温度でベーキングを行なう必要がある。
【0029】
該ロータ5とステータ4との間は真空で且つ非接触であるから、両者間の熱伝達は放射熱伝達によるもののみとなっている。
【0030】
従って、ステータ4の下流側の静翼4b…とロータ5の下流側の動翼5b…とは高放射率コーティングを施され、相互に熱的に結合されているので、ステータ4の下流側の温度を制御することによって動翼5b…及びこれに繋がる動翼5a…を含んだロータ5全体の温度を制御することができる。
【0031】
そこで、ケーシング1の上流側はヒータ2によって200℃以上に加熱すると共に、ケーシング1の下流側ではステータ4の下流側を介してロータ5の温度が120℃程度となるように、ジャケット3へ供給する熱媒体の温度及び流量を制御する。
【0032】
かくてロータ5の強度を劣化させることなくケーシング1、ステータ4及びロータ5のベーキングを行うことができる。
【0033】
ケーシング1からの放出ガスの内、到達圧力に影響するものはケーシング1の上流部からの放出ガスであるから、該上流部のベーキングが充分行われることは超高真空を実現する上で重要なファクターとなる。
【0034】
更に、ベーキング終了後にはジャケット3に冷却した熱媒体を環流させてロータ5の温度を常温以下に冷却することによりロータ周辺からのガス放出が一層抑えられるので、前記到達圧力が一層低下し、容易に極高真空を得ることができる。
【0035】
更に、ケーシング1が前記真空容器と同材質のステンレス製であることから、両者間に熱膨張の差による洩れが発生しにくく、又、ケーシング1の吸入口A側のフランジ面も従来のアルミ合金製のものに比較してはるかに丈夫なので、洩れの元となるような傷がつく恐れが少ない。
【0036】
又、凝縮性気体を排気する時は、ジャケット3への熱媒体の温度を高くしてステータ4及びロータ5の温度を昇温させ、該ステータ4及びロータ5への凝着を防止するこもできる。
【0037】
本発明の第2の実施の形態を図2により説明する。
【0038】
図2は本発明を適用した磁気軸受型ターボ分子ポンプの縦断面図を示し、第1の実施の形態の電熱ヒータ2の代りにジャケット3aを設けた点が第1の実施の形態と異なっている。
【0039】
該ジャケット3aにおいて、高温又は低温の熱媒体がE矢印の方向より流入してジャケット3a内を環流しF矢印の方向に流出する。
【0040】
本第2の実施の形態の作用について説明する。
【0041】
前記ベーキング処理時等にジャケット3aに高温の熱媒体を環流させると、電熱ヒータを使用した時よりも均一にケーシング1を加熱できる。
【0042】
又、低温の熱媒体に切り換えることによって、素早くケーシング1を冷却することができる。
【0043】
ジャケット3及びジャケット3aに冷却した熱媒体を循環させることによってケーシング1、ステータ4及びロータ5の温度を下げ、放出ガスを抑えて、より低い到達圧力の達成ができる。
【0044】
この冷却温度は低い程良いが、−10℃程度でもかなりの効果が得られる。
【0045】
本発明の第3の実施の形態を図3により説明する。
【0046】
図3は本発明を適用した磁気軸受型複合分子ポンプの縦断面図を示し、本実施の形態は第1の実施の形態のターボ分子ポンプ部の後流側にねじ溝分子ポンプ部7を設置してある。
【0047】
該ねじ溝分子ポンプ部7はロータ7aの内外周面を挟むステータ7bのロータ7aに対向する面にねじ溝を有し、僅少の間隙をもってロータ7aがステータ7b内で回転する式のポンプであり、該ロータ7aは前記ロータ5に固定されて一緒に高速回転をするように形成されている。
【0048】
本第3の実施の形態の効果は、ターボ分子ポンプ単体の時よりも高い圧縮比を得ることができるので、より低い到達圧力の達成が可能となる。
【0049】
ここで、請求項1の分子ポンプにおいて、前記ケーシングの外周部の上流側に加熱手段を設置すると共に同外周部の下流側には加熱及び冷却手段を設置したので、該ケーシングの上流側と下流側とを個別に温度調節することができると共に、該ケーシングの下流側だけを冷却することができる。
【0050】
請求項2の分子ポンプにおいて、前記ケーシングをステンレス製として前記の真空容器と同材料としたので、両者の熱膨張率の差がなくなり、両者の接続部からの洩れの恐れがない。
【0051】
請求項3の分子ポンプにおいて、下流側の複数段の各動翼及び静翼に 系又はAl 系のセラミックコーティングを施したので、両者間の放射熱伝達が高まると共に熱的に結合され、前記ケーシング外周部の下流側に設置した加熱及び冷却手段によって前記ロータの温度を調節することができる。
【0052】
請求項4の分子ポンプにおいて、上流側の加熱手段は電熱式のヒータとし、下流側の加熱及び冷却手段には高温又は低温の熱媒体を環流させるジャケットを設置したので、前記ケーシングの上流側と下流側とを個別に温度調節することができると共に、該熱媒体の温度を調節することによって容易に前記ロータの温度を調節することができる。
【0053】
請求項5の分子ポンプにおいて、前記ケーシングの上流側及び下流側にそれぞ高温又は低温の熱媒体を環流させるジャケットを設置したので、該ケーシングの上流側と下流側の温度を容易に個別に調節することができると共に、下流側のジャケットの熱媒体の温度を調節することによって容易に前記ロータの温度を調節することができる。
【0054】
請求項6の分子ポンプにおいて、前記上流側の加熱手段と前記下流側の加熱及び冷却手段との境界部に位置する静翼押さえリングをセラミックスの材料で製作したので、該静翼押さえリングを挟んで上流側のステータ段と下流側のステータ段との間の熱伝達量を減少させることができる。
【0055】
請求項7の分子ポンプにおいて、ターボ分子ポンプ部の後流側にねじ溝分子ポンプ部を設置して複合分子ポンプとしたので、ターボ分子ポンプ単体よりも高い圧縮比を得ることができる。
【0056】
【発明の効果】
このように本発明によれば、ステンレス製の真空容器との接続部から洩れを生ずる恐れがないと共に、充分なベーキング処理を行って該真空容器を容易に超高真空にする分子ポンプを提供できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の磁気軸受型ターボ分子ポンプの縦断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の磁気軸受型ターボ分子ポンプの縦断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態の磁気軸受型複合分子ポンプの縦断面図である。
【符号の説明】
1 ケーシング
2 電熱ヒータ
3、3a ジャケット
4、7b ステータ
4a、4b 静翼
4c、4d、4e 静翼押さえリング
5、7a ロータ
5a、5b 動翼
7 ねじ溝ポンプ部
A 吸気口
B 排気口

Claims (7)

  1. 1端部に吸気口を有し他端部に排気口を有するケーシングと、該ケーシング内に回転可能に支持され多数の動翼を多段に突設したロータと、前記ケーシング内壁に固定され多数の静翼を多段に内方に突設したステータとからなるターボ分子ポンプにおいて、前記ケーシングの外周部の上流側に加熱手段を設置すると共に同外周部の下流側には加熱及び冷却手段を設置したことを特徴とする分子ポンプ。
  2. 前記ケーシングをステンレス製としたことを特徴とする請求項1に記載の分子ポンプ。
  3. 前記のロータ及びステータの下流側の複数段の各動翼及び静翼に 系又はAl 系のセラミックコーティングを施したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分子ポンプ。
  4. 前記ケーシング外周部の上流側に設置した加熱手段は電熱ヒータ方式とし、又、同外周部の下流側に設置した加熱及び冷却手段はジャケット方式とし、該ジャケット部に高温又は低温の熱媒体を環流させて加熱又は冷却を行うようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の分子ポンプ。
  5. 前記ケーシング外周部の上流側の加熱手段、及び同外周部の下流側の加熱及び冷却手段は共にジャケット方式とし、該ジャケット部に各々高温又は低温の熱媒体を環流させて加熱又は冷却を行うようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の分子ポンプ。
  6. 前記ステータは各段毎に静翼押さえリングを用いて前記静翼を前記ケーシングの内周部に取付けていると共に、前記上流側の加熱手段と前記下流側の加熱及び冷却手段との境界部に位置する該静翼押さえリングは、セラミックスの材料で作成されたことを特徴とする請求項1又は4又は5に記載の分子ポンプ。
  7. 前記ケーシングの外周部の上流側に加熱手段を有し同下流側には加熱及び冷却手段を有するターボ分子ポンプ部の後流側にねじ溝分子ポンプ部を設置して複合分子ポンプとしたことを特徴とする請求項1又は4又は5に記載の分子ポンプ。
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