JP3669825B2 - 金型内で結晶化するポリイミド樹脂からなるスラストワッシャー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は表面平滑性に優れ、摺動特性も良好かつ後アニールの必要がなく、製造コストが著しく低下するスラストワッシャーに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品、事務機器部品、コンプレッサー部品その他の摺動部に用いられるスラストワッシャーは近年、金属の代替として樹脂が用いられるようになってきており、使用環境温度及び摺動条件がますます厳しくなってきている。
こういった高温で使用できる高分子材料としてポリイミド樹脂が挙げられる。従来開発されたスラストワッシャーとして、特開昭62−236858号、特開昭62−253655号に開示されているように熱可塑性ポリイミド樹脂を用いるものが挙げられるが、結晶化速度が遅いため射出成形時の金型内で結晶化した状態で取り出すことが困難で、非晶状態のまま使用せざるを得ず、そのため、ポリイミド樹脂特有の耐熱性を十分に発揮しているとはいえなかった。耐熱性を十分に発揮させるためには結晶化という手段がある。該ポリイミド樹脂はオーブン等を用いて後結晶化させることが可能であるが、手間がかかるとか、後結晶化させる時に結晶化に伴う寸法変化がおこるとか、後結晶化に伴い表面粗度が悪くなり、スラストワッシャー材としての性能が十分でない等の問題点があり、これらの問題点を解決するために射出成形時に金型内で結晶化する材料が求められていた。そこでさらに本発明者等は特開平07−190369号に開示したように熱可塑性ポリイミドに特定のグラファイトを添加することで結晶化速度を著しく改良できることを見出した。それにより金型内で結晶化したポリイミド樹脂を得ることができたが、金型温度が非常に高く、金型のかじり及び突き出し時の製品の変形等種々の問題があり、まだ実用的には不十分であり、スラストワッシャーの材料としては満足のいくものではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題点を解決した、表面平滑性に優れ、摺動特性も良好かつ後アニールの必要がなく、製造コストが著しく低下するスラストワッシャーを得ることを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等はこれらの課題を解決するために各種の汎用プラスチック及びエンジニアプラスチック製スラストワッシャーを種々検討した結果、金型内で結晶化する熱可塑性結晶性ポリイミド樹脂を含む樹脂組成物を用いて、射出成形により金型内で結晶化させたスラストワッシャーが最適であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(5)に記載した事項により特定される。
【0005】
(1) 一般式(1)(化2)
【0006】
【化2】
の繰り返し構造単位を有し、対数粘度(ηinh)が0.1〜3.0dl/gの範囲である結晶性ポリイミド樹脂からなるスラストワッシャー。
【0007】
(2) 一般式(1)(化2)の繰り返し構造単位を有し、対数粘度(ηinh)が0.1〜3.0dl/gの範囲である結晶性ポリイミド樹脂100重量部に対し、繊維状補強材5〜100重量部含有する繊維強化樹脂組成物からなる、スラストワッシャー。
【0008】
(3) 一般式(1)(化2)の繰り返し構造単位を有し、対数粘度(ηinh)が0.1〜3.0dl/gの範囲である結晶性ポリイミド樹脂を射出成形するに際して、金型内で結晶化させることを特徴とするスラストワッシャーの製造方法。
【0009】
(4) 一般式(1)(化2)の繰り返し構造単位を有し、対数粘度(ηinh)が0.1〜3.0dl/gの範囲である結晶性ポリイミド樹脂100重量部に対し、繊維状補強材5〜100重量部含有する繊維強化樹脂組成物を射出成形するに際して、金型内で結晶化させることを特徴とするスラストワッシャーの製造方法。
(5)請求項3又は請求項4に記載した製造方法により得られたスラストワッシャー。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のスラストワッシャーに供される樹脂組成物は金型内で結晶化が達成される。金型内で結晶化が達成されることによりポリイミド樹脂本来の耐熱性が発揮され、かつ後結晶化等の手法による寸法変化等の少ない成形品を得ることができる。
本発明で用いられるポリイミド樹脂は一般式(2)(化3)で表されるジアミン
【0011】
【化3】
と一般式(3)(化4)で表されるテトラカルボン酸二無水物
【0012】
【化4】
とを脱水共縮合して得られる。
【0013】
該ポリイミドの分子量は対数粘度(ηinh)で0.1〜3.0dl/gの範囲である。好ましくは0.2〜2.0dl/gの範囲、より好ましくは0.3〜1.5dl/gの範囲、最も好ましくは0.4〜1.0dl/gの範囲である。0.1dl/g未満では分子量が低く、成形品としての強度を十分に発揮できない。3.0dl/gを超えると分子量が高すぎ、射出成形等の溶融成形が困難になる。
なお、本発明における対数粘度(ηinh)は、p−クロロフェノール/フェノール(重量比9/1)混合溶媒100mlにポリイミド粉0.50gを加熱溶解した後、35℃において測定した値である。
該ポリイミド樹脂の製造方法は、公知のイミド化反応を適用できる。
【0014】
原料化合物の使用量は、通常ジアミン1当量に対してテトラカルボン酸二無水物を0.90当量〜0.99当量の範囲である。好ましくは0.93〜0.985、より好ましくは0.95〜0.98の範囲である。0.90当量未満では分子量が十分に高くないため、得られるポリマーの機械物性が十分でない場合がある。0.99を超えると分子量が高くなりすぎて流動性が損なわれるという問題が生じる。
【0015】
該ポリイミドの合成においては、分子の反応末端を無水フタル酸等で封止するのが望ましい。反応末端を封止することによって、熱安定性が格段に向上する。反応は、有機溶媒中で行うのが特に好ましい。ここで使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメトキシアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2−(2−メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ピロリン、ピコリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチル尿素ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−クロロフェノール、アニソール、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。また、これらは単独でも2種類以上混合して用いても良い。
【0016】
反応温度は通常室温〜250℃の範囲、好ましくは140℃〜200℃の範囲である。反応圧力は特に限定されず、常圧で十分実施できる。反応時間は溶媒の種類及び反応温度によって異なるが、通常4〜24時間である。
更にイミド化の方法としては、前駆体であるポリアミド酸を100〜300℃に加熱してイミド化するか、または無水酢酸等のイミド化剤を用いて化学イミド化することにより、所望のポリイミド樹脂が得られる。
【0017】
該樹脂組成物を使用する場合、金型温度は180〜280℃の範囲である。好ましくは190〜270℃の範囲、より好ましくは200〜265℃の範囲、最も好ましくは210〜260℃の範囲である。280℃を超える金型温度では成形品の離型ができない場合がある。180℃未満の金型温度では結晶性ポリイミド樹脂の結晶化が十分に進まず、そのままではポリイミド樹脂特有の高温での耐熱性が発揮できない。非晶の状態で成形品を取り出し、後結晶化させる場合は後結晶化に伴い変形が大きくなり、使用に耐える形状を保持できない場合がある。
【0018】
本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を目的に応じて適当量配合することも可能である。配合することのできる熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、及びその他の熱可塑性ポリイミドなどがあげられる。
【0019】
また、熱硬化性樹脂、充填材を発明の目的を損なわない程度で配合することも可能である。熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。充填材としては、ケイ石粉、二硫化モリブデン、フッ素樹脂等の耐摩耗性向上材、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、カーボンウィスカー、アスベスト、金属繊維、セラミック繊維等の補強材、三酸化アンチモン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の難燃性向上材、クレー、マイカなどの電気的特性向上材、アスベスト、シリカなどの耐トラッキング向上材、硫酸バリウム、シリカ、メタケイ酸カルシウム等の耐酸性向上材、鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、銅粉等の熱伝導度向上材、その他ポリベンゾイミダゾール樹脂、シリコン樹脂、ガラスビーズ、タルク、ケイ藻土、アルミナ、シラスバルン、水和アルミナ、金属酸化物、着色料、離型剤、各種安定剤、可塑剤等である。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、通常公知の方法により製造できるが特に次に示す方法が好ましい。
(1) 結晶性ポリイミド樹脂粉末、炭素繊維等の繊維状補強材、その他添加剤を乳鉢、ヘンシャルミキサー、ドラムブレンダー、タンブラーブレンダー、ボールミル、リボンブレンダーなどを利用して予備混合し、ついで通常公知の溶融押出機、溶融混合機、熱ロールなどで混練した後、ペレットまたは粉状にする。
【0021】
(2) 結晶性ポリイミド樹脂粉末、その他添加剤を予め有機溶媒に溶解または懸濁させ、この溶液あるいは懸濁液に炭素繊維等の繊維状補強材を浸漬し、然る後、溶媒を熱風オーブン中で除去した後、ペレット状または粉状にする。
【0022】
この場合、使用される溶媒としては例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2−(2−メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ピリジン、ピコリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド等があげられる。またこれらの有機溶媒は、単独でもあるいは2種以上混合しても差し支えない。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、トランスファー成形法などの公知の成形法により成形され実用に供される。
本発明のスラストワッシャーは射出成形時に金型内で結晶化することで後アニールしたものと比べて表面性が著しく改良されている。この表面性の改良はスラストワッシャーの特性、すなわち摩擦摩耗特性を著しい改良につながる。従来技術の非晶のスラストワッシャーと比較しても表面性は明らかに金型内結晶化したもののほうが優れている。
【0024】
また、射出成形時に金型内で結晶化することで後アニールしたものと比べて寸法精度を予測しやすく、実際に寸法精度が正確に制御できる。
成形品の外観については極めて良好である。
金型内で結晶化することにより、後アニールをして結晶化を完結させる必要はなく、加工コストを大きく低減させることは明らかである。
【0025】
【実施例】
以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。
[ポリイミド樹脂の合成例]
撹拌機、還流冷却器、及び窒素導入管を備えた容器に1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン204.4g(0.7モル)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物199.6g(0.679モル)、無水フタル酸6.22g(0.06モル)、m−クレゾール1480gを装入し、窒素雰囲気下で撹拌しながら200℃まで加熱昇温した。その後200℃で4時間反応させたところ、その間に約9mlの水の留出が確認された。反応終了後室温まで冷却し、約2000mlのトルエンを装入後、ポリイミド粉を濾別した。このポリイミド粉をトルエンで洗浄した後、窒素中で250℃/5時間乾燥してポリイミド粉を得た。得られたポリイミド粉のηinhは、0.9dl/gであった。
【0026】
[実施例1]
合成例で得られたポリイミド樹脂及び炭素繊維(東邦レーヨン製:HTA−C6−TX)を表1に示す割合で配合し混合した後、40mm径の押出機により410℃で溶融混練しペレットを得た。
得られたペレットを型締力100トンの射出成形機により、シリンダー温度410℃、金型温度210℃の条件で成形してASTM曲げ試験片及び鈴木式摩擦摩耗試験片及びスラストワッシャーの形状をした成形品を得た。外観は良好で光沢のあるスラストワッシャーが得られた。成形条件等は表1[表1]にまとめた。
【0027】
(1) 荷重たわみ温度
曲げ試験片を用いてASTM−D−648により測定した。
(2) 表面粗度
スラストワッシャー成形品を用いて表面粗さ計によりRaを求めた。スラストワッシャーを図1の様に取り付けた。試験条件はトランスミッションオイル中7時間の条件にて面圧力20kg/cm2、速度250m/minにてシャフトを回転させ試験前後の表面粗度を測定した。
(3) 摩擦係数、比摩耗量(無潤滑)
相手材としてSUS304、無潤滑7時間の条件にて面圧力5kg/cm2、速度50m/minにて鈴木式摩擦摩耗試験を行った。7時間経過後の摩擦係数及び比摩耗量を測定した。
(4)摩擦係数、比摩耗量(オイル中)
相手材としてSUS304、トランスミッションオイル中7時間の条件にて面圧力20kg/cm2、速度250m/minにて鈴木式摩擦摩耗試験を行った。7時間経過後の摩擦係数及び比摩耗量を測定した。
実験結果は表2[表2]にまとめた。
【0028】
[比較例1]
使用した樹脂を熱可塑性ポリイミド”AURUM PL450”(登録商標:三井化学株式会社製)に変えた以外は実施例1と同様に実験を行った。
実験結果等は表1[表1]、表2[表2]にまとめた。本比較例で得られる試験片はすべて非晶の状態で得られるので、260℃/10hさらに300℃/2hにて後アニールして結晶化させた。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【発明の効果】
以上のように、本願発明である金型内で結晶化する結晶性ポリイミド樹脂組成物を用いたスラストワッシャーはワッシャー材としての機能が著しく改良されており、無潤滑・オイル潤滑下のいずれでも使用できる。この時、摺動相手材としてsteel、FCD等の硬質金属、Al、Cu等の軟質金属のどちらにも使用できる。具体的には、自動車部品、事務機器部品、コンプレッサー部品その他摺動部材使用時に必要とされるスラストワッシャーに使用できる。
耐熱性が向上し、摩擦摩耗特性が向上する等、著しく高性能化しており、発明の意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例で使用したスラストワッシャー評価装置の構造を示した図である。
【符号の説明】
a;FCD(鋳鉄)45製シャフト。
(矢印は、回転する方向を示す。)
b;FCD(鋳鉄)45製治具。
c;スラストワッシャー。
(外径=60mm、内径=30mm、肉厚=2mm
オイル溝=片面当たり4箇所・計8箇所)
d;SUS304製相手摺動材。
e;トランスミッションオイル雰囲気。
P;圧力(面圧力=20kg/cm2)。
(矢印は、圧力を負荷する方向を示す。)
V;速度(速度=250m/分)。
(回転運動であり、矢印は、回転する方向を示す。)
Claims (5)
- 一般式(1)(化1)の繰り返し構造単位を有し、対数粘度(ηinh)が0.1〜3.0dl/gの範囲である結晶性ポリイミド樹脂100重量部に対し、繊維状補強材5〜100重量部含有する繊維強化樹脂組成物からなる、スラストワッシャー。
- 一般式(1)(化1)の繰り返し構造単位を有し、対数粘度(ηinh)が0.1〜3.0dl/gの範囲である結晶性ポリイミド樹脂を射出成形するに際して、金型内で結晶化させることを特徴とするスラストワッシャーの製造方法。
- 一般式(1)(化1)の繰り返し構造単位を有し、対数粘度(ηinh)が0.1〜3.0dl/gの範囲である結晶性ポリイミド樹脂100重量部に対し、繊維状補強材5〜100重量部含有する繊維強化樹脂組成物を射出成形するに際して、金型内で結晶化させることを特徴とするスラストワッシャーの製造方法。
- 請求項3又は請求項4に記載した製造方法により得られたスラストワッシャー。
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