JP3668094B2 - 管継手 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油井管、土木杭管継手等の大径テーパネジ継手において、テーパ、ネジ山高さ、ネジの切り込み位置などを適正化することによりジャンプアウト抵抗を向上させた管継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
油井管、土木杭管継手等には大径テーパネジ継手が使用されており、APIバットレス継手や、ネジ締め付け時に大径テーパネジ継手に起こり易いクロススレッド(ネジかみ合わせのずれ)防止の観点から、粗いネジピッチ(3山/in)と急峻テーパ(1/7.5)の併用により、スタビング性の良好な特殊ネジ継手が広く使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の大径テーパネジ継手においては、解決すべき以下の問題を有していた。
即ち、現行のAPIバットレス継手においては、継手強度が低く、改良の余地を残している。
また、特殊ネジにおいても、ネジ山高さがAPIバットレス継手のネジ山高さより高く、ネジ列の管端切り込み深さがAPIバットレス継手の切り込みより深いなどのため、APIバットレス継手に比較して耐ジャンプアウト抵抗(ネジが抜ける現象)は優れていると思われるが、材料の降伏比(耐力/引張強さ)が小さく、かつ一様伸びの大きい、頻繁に適用されるK55グレードなどに対しては、後述するように耐ジャンプアウト抵抗の観点からは適正なネジ設計になっていない。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、降伏比が低く、かつ一様伸びが大きい材料のためにジャンプアウトが懸念される大径テーパネジ継手においても、耐ジャンプアウト抵抗を高く維持できるネジ緒元から構成される大径用油井管、土木杭継手に使用する管継手を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記目的に沿う第1の発明に係る管継手は、管端部に1条もしくは多条のテーパ雄ネジが加工されたピンと、ピンに螺合するテーパ雌ネジが短管の両側の内面に加工されたカップリングとからなる管継手において、ネジ山の形状が角ネジ、台形ネジ、又はバットレスタイプであって、管の外径をD=340mm(=13−3/8in)〜661mm(=26in)、管の肉厚をt(mm)、管の外表面からのネジの管端切り込み深さをx(mm)、ネジのテーパをT=1/12〜1/10、ネジ山高さをH(mm)、ネジピッチをp(n山/in)とした時、以下の関係式を満足する。
H>(p/4)/0.8
x>0.00575×D+1.6×t×T−(2/3)×H
【0006】
前記目的に沿う第2の発明に係る管継手は、管端部に1条もしくは多条のテーパ雄ネジが加工されたピンと、短管の内側にピンに螺合するテーパ雌ネジが加工され、他の管端部に溶接されたボックスとからなる管継手において、ネジ山の形状が角ネジ、台形ネジ、又はバットレスタイプであって、管の外径をD=340mm(=13−3/8in)〜661mm(=26in)、管の肉厚をt(mm)、管の外表面からのネジの管端切り込み深さをx(mm)、ネジのテーパをT=1/12〜1/10、ネジ山高さをH(mm)、ネジピッチをp(n山/in)とした時、以下の関係式を満足する。
H>(p/4)/0.8
x>0.00575×D+1.6×t×T−(2/3)×H
従って、第1の発明及び第2の発明に係る管継手においては、ジャンプアウトの生じやすい340〜661mm直径の大径で、かつ伸びの大きいK55グレード等の材料でも、継手効率がほぼ80%に向上する。
【0007】
ここで、テーパ雄ネジをカップリング又はボックスに締め込んだ時、テーパ雄ネジの先端が当接するストッパーをカップリングの中央又はボックスの奥に備えることもできる。これによって、各種の管継手に適用できる。
さらに、ジャンプアウト抵抗に影響しない範囲で、テーパ雄ネジのテーパを同一テーパでネジ終端までランアウトさせないで、完全ネジ部と不完全ネジ部の境界、又はその途中からテーパを大きくして不完全ネジ部を短くし、対応するテーパ雌ネジもテーパ雄ネジのネジ底切り上がり部に相当する位置のネジ山頂面を、ピンのネジ底に当たらないようにテーパ雄ネジの底テーパに沿って切り落とすこともできる。これによって、ピンに対応するカップリング又はボックスのネジの長さを短くできる。
【0008】
本発明者等は、以下の要領によって、本発明に関する知見を得、発明を完成するに至った。
まず、APIバットレス継手に関する継手強度式から、大径テーパネジ継手の継手強度の問題点を抽出し、次に、ジャンプアウト現象の解析に基づく耐ジャンプアウト強度推定式を決定し、その後、継手強度を目標値80%以上に決めたときのネジ緒元を算出した。
【0009】
まず、大径テーパネジ継手の継手強度の問題点について検討する。
以下に示す(1)式は、API Bul5C3に定められたAPI規格バットレス継手管体ネジ強度算出式である。
Pj=0.95・Ap・Up・[1.008−0.00156・(1.083−Yp/Up)・D] ・・・・(1)
ここで、Pj:最小ジョイント強さ
Ap:プレーンエンド管の断面積
Yp:管材料の最小耐力
Up:管材料の最小引張強さ
D:管の呼び径(又は外径)
【0010】
この(1)式は、100本を超える実継手の統計解析から求められており、APIバットレス継手形状に対しては十分な回帰式である。この式から読み取れる物理的意味は2つある。第一は、大径ほど継手効率(母管に対する継手強度比)が落ちること、第二は、材料の降伏比(耐力/引張強さ)が小さい程、やはり継手効率が落ちることである。油井管は深い場所に埋設されるものほど地層圧に耐えるためと、パイプ自重を地表で支えるために高強度材が必要である。本発明で扱う井戸浅部に適用する大径(外径340mm以上で外径661mm未満)油井管は低強度材料の適用が中心である。具体的にはK55、L80、N80などのグレードが大部分を占める。一般に鋼は低強度ほど降伏比が小さくなる性質があり、前記グレードを使用した大径テーパネジ継手は、径が大きい上、降伏比も小さいという2重の継手効率低下の要因を負っていることが判る。従って、前記グレードを使用した大径テーパネジ継手においては、継手強度を高い水準に保つための形状設計が必要である。
【0011】
続いて、ジャンプアウト現象のメカニズムを解明し、この現象の解析に基づいて耐ジャンプアウト強度の推定式を決定する。
(継手強度決定メカニズム)
油井管ネジ継手の引張試験を行うと、油井管ネジ継手は雄ネジ破断、雌ネジカップリング破断、母管破断、ジャンプアウト(雄ネジがカップリングから抜ける破損)の4通りの破損形態を示す。前3者については、継手効率はほぼ100%で問題ないが、ジャンプアウトの場合は継手効率が低下することがある。つまり、このジャンプアウトが(1)式の形で継手強度を低下させている原因と考えられる。そこで、このジャンプアウトのメカニズムを解明し、それを起こしにくい継手の形状設計を検討する。
【0012】
図6、図7にジャンプアウトした大径テーパネジ継手の雄ネジ断面形状を示す。図6、図7から、ジャンプアウトに至る過程を推察すると、まず母管部70が縮管(又は縮径71)し、ある程度縮径71が進むとネジ山72の嵌合が外れだし、それが徐々にテーパネジ列先端部73に進行する。嵌合ネジの残りが少なくなるとネジ山72は、図7の拡大図に示すように、ネジ面圧に耐えられず結局雄ネジ山の雌ネジ山上の滑りとネジ山72の剪断を伴って抜けてしまう。符号74はネジ山嵌合外れ部を、符号75はネジ山嵌合外れ部74のネジ底応力集中によるくびれを、符号76はジャンプアウト時の残留ネジ嵌合部を表している。
この過程を念頭に置いて、ジャンプアウト強度推定式を以下の手順で導く。
【0013】
図2にネジ形状の模式図を示す。図中、xはネジ列の切り込み深さを、yは縮管時の半径方向変位を、Hはネジ山高さを、Tはネジ列のテーパを表している。
(半径方向変位y)
まず、負荷荷重Wから雄ネジの縮径量を計算する。今、パイプ(又は管、管体とも呼ぶ)断面積をApとすれば、図1に示す応力歪み線図から、負荷荷重W=σ* ・Apとなる。管体が負荷荷重W下においてどれだけ縮径するかは、塑性変形材料の体積一定則を適用すれば、εr=−1/2εz(ただし、εθ=εrと仮定する)となるので、伸びεzが材料の応力歪み線図のσ* との関係で定まれば、図2に示すように、内側への半径方向変位y=D/2・(1/2・εz* )=D/4・εz* となる。
【0014】
(嵌合が外れたネジ長さLs)
つぎに、図2に示す嵌合が外れたネジ長さLsを求める。APIバットレス継手のようなランアウトタイプの継手(不完全ネジ部を含むテーパT=一定で管表面までネジを切った雄ネジを有する継手)では、ネジ山高さHを超える半径方向変位yが生じて初めて完全ネジ部のネジ嵌合が外れ始める。従って、嵌合が外れたネジ長さLs=(D/4・εz* −H)・(2/T)となる。
ここで、テーパTは軸方向単位長さ当たりの直径(又はD)の変化を、ΔLtはネジ長さLtの変化を表している。
【0015】
(残留ネジ長さLr)
図2に示すネジの形状において、完全ネジ長さをLtとすれば、残留ネジ長さLr=Lt−Ls=Lt−(D/4・εz* −H)・(2/T)となる。
(必要ネジ長さLn)
引張荷重の増加に伴い残留ネジ山が減ってきたとき、嵌合の外れたネジ部の中で最低のネジ底断面がその引張負荷に耐えて、しかもネジ山がネジ剪断力Sに対して持たなければ、ネジ列は剪断を伴い抜けてしまう。負荷荷重W=σ* ・Apが作用したときそれに耐えられる必要ネジ長さLnは以下の式で表される。
W=π/4・(Do2 −Di2 )・σ* =πDo・(Ln/2)・(σB /2)
ここで、Do=管外径、Di=管内径、σB =引張強さとし、材料の剪断強度τB は引張強さσB の1/2とし、σB /2と仮定した。この式を必要ネジ長さLnで表わすと、Ln=4・(σ* /σB )・tとなる。ここで、tは肉厚を表しており、管外径Do及び管内径Diは、管肉厚tに比べて遙に大きく、Do=Di=Dと見做せると仮定している。
【0016】
(ジャンプアウト評価指数I)
ある負荷荷重Wでジャンプアウトを起こすかどうかは、残留ネジ長さLrが必要ネジ長さLnより長いかどうかで決まる。つまり、両者の比をI=Lr/Lnとすれば、I>1ならばジャンプアウトは発生しない。I<1ならすでにより低荷重負荷の段階でジャンプアウトしてしまっていることを示す。ジャンプアウト荷重はI=1の場合の負荷荷重Wを探せばよいことになる。このIをジャンプアウト評価指数と定義する。
今、ある負荷荷重でジャンプアウトしたとすると、I=1であるので、以下の関係が成立する。
Ln=4・(σ* /σB )・t=Lt−(D/4・εz* −H)・(2/T)=Lr
この式をσ* /σB で整理すると、(2)式となる。
σ* /σB ={Lt−(D/4・εz* −H)・(2/T)}/(4t)
・・・・・(2)
(2)式は、継手効率η(=σ* /σB )を表わしている。
σ* とεz* には、図1に示す応力歪み線図から(3)式の関係がある。
εz* =F(σ* ) ・・・・・(3)
継手効率ηは、(2)式と(3)式との連立方程式を解くことで求まる。(3)式を(2)式に代入すると、
η=σ* /σB ={Lt−(D/4・F(σ* )−H)・(2/T)}/(4t) ・・・・・(4)
が得られる。
【0017】
(4)式にてジャンプアウト強度を求める一般式が決定されたので、次は(4)式に基づいて、ジャンプアウト強度を高めるためのネジ緒元がどうあるべきかを述べる。今、材料特性を既知とすれば、(4)式中の変数は、Lt、H、Tである。なお、(4)式中のD、tはネジ設計のための変数ではなく所与の値である。このLt、H、Tを如何に決めれば、最も高いジャンプアウト強度が得られるかが問題となる。図2に、Lt、H、Tの関係が示されている。図より、完全ネジ長さLtはネジ列のテーパTとネジ列の切り込み深さxで決まる。半径方向変位yに着眼してジャンプアウト強度式を求めたので、ネジ緒元の決定も半径方向変位yに対してどこまでネジが嵌合した状態まで抜けずに我慢できるかに拘わるxの適正値から考えることにする。
それには、まず目標とする継手効率ηを設定する。表1は、API規格に基づく前記(1)式(即ち、APIバットレス継手強度式)から安全率0.95を取り除いた式において、API汎用鋼種であるK55とN80について、外径毎に平均継手効率を計算した結果である。
【0018】
【表1】
Figure 0003668094
【0019】
この表から、継手効率を全サイズに対して80%以上にすることを大径テーパネジ継手の改良目標とする。従って、この80%の効率とは、管(又は鋼管)の半径方向変位y、さらに溯って鋼管の引張荷重(又は負荷荷重)W下の軸方向歪みの値でいくらまで耐える管継手であればよいのかを求めることになる。
図3は、過去の製造実績に照らして平均的伸びを示した各種油井管材料の応力歪み線図である。K55グレードは他グレード(N80、C95、P110)に比べ降伏比が小さく、一様伸びが大きい特徴を示す。この図から、K55の引張強さの80%フローストレスに対応する歪みの値を、2.3%と見積もる。図2では、材料(管又鋼管)が2.3%伸びた状態は破線で示されている。
【0020】
この時、剪断荷重に耐えているネジ長さは残留ネジ長さLrであるが、安全側に設計するため、完全にネジが嵌合している長さ、即ち、完全残留ネジ長さLroと、完全には嵌合していない長さ(Lr−Lro)の2/3の長さとに剪断荷重が作用すると考える。完全残留ネジ長さLroは先の必要ネジ長さLnに対応する。従って、Lro=4・(σ* /σB )・tとなる。今、η=σ* /σB =0.8に設定したので、Lro=3.2tとなる。13−3/8" (340mm)以上で、使用頻度の多い鋼管のうち肉厚最小のものは、11.05mmである。従って、Lroは最低でも3.2×11.05=35.4mmは必要である。以上の根拠から、最小の切り込み深さxは以下の範囲にあるべきである。
【0021】
x>0.023×0.5×(D/2)+Lro×(T/2)−(2/3)×H
整理すると(5)式となる。
x>0.00575・D+17.7・T−(2/3)×H・・・・・・(5)
肉厚tを考慮すれば、(6)式となる。
x>0.00575・D+1.6t・T−(2/3)×H・・・・・・(6)
(5)式から切り込み深さxとテーパTは互いに従属関係にあることが判る。図2より、x値の内訳でネジ外表面10から点Pまでの距離は、テーパTの大小に拘わらず母管の縮径量、即ち半径方向変位yである。これは、(5)式の0.00575・Dに相当する。P点からネジ先端側のネジが嵌合しているところは、テーパTに依存する所で、(5)式の17.7・Tに相当する。
【0022】
ここで、本発明の大径テーパネジ継手の設計指針を決めるには、切り込み深さx又はテーパTに関して、これまで述べてきた考え方以外の条件を持ち込み、切り込み深さx又はテーパTを固定する必要に気づく。製造の観点から、切り込み深さxは容易に変えられるが、テーパTを肉厚、外径毎に変えることは刃物準備、ゲージワークの点から得策でない。従って、テーパTを固定する。その為に考慮すべき条件は以下である。
1)残留嵌合部の抜け易さ及びネジ強度。
2)ネジ先端部の残留厚み
3)加工に要す完全ネジ長さLt
4)ネジ締め付け時の締結時間
【0023】
テーパTに当たりを付けるため、T=1/12、1/10、1/7.5についてネジ先端部厚み(t−x)と完全ネジ長さLtを計算し、その計算結果を表2及び表3に示す。この時、H=2.9mmとした。
【0024】
【表2】
Figure 0003668094
【0025】
【表3】
Figure 0003668094
【0026】
T=1/12は、現行APIバットレス継手のテーパ(表3中C)を、T=1/7.5は、継手嵌合時のクロススレッドを防止することを目的にテーパを急峻にしたテーパ(表2中A)を、T=1/10はその中間値(表2中B)を表している。表2及び表3から、現行のAPI継手のテーパを採用した場合(C)、実際のAPI継手(表3中D)より第一ネジ山が肉厚中心方向に深い位置から始まり、その分ネジが長くなることがわかる。API継手もここまでネジを深く切り込んでおけば、表1より高い継手効率が得られる筈である。一方、テーパT=1/7.5にすると(A)、更にネジの切り込みは深くなるが、完全ネジ長さLtは現行API(D)と同様、短くて済む。中間のT=1/10(B)は、ネジの切り込み深さxは(C)と同等で、かつネジ長さも(C)ほどは長くない。
【0027】
発明の趣旨から、上述の評価のポイントは、加工し易さより継手効率及び抜けにくさ、先端の圧縮強度などの機械的強度に置く。もちろん、ネジの締め付け時間なども重要な商品性能であるが、租ネジピッチ(本出願人の出願した特願平10−322170号に記載されているように、ネジ山頭頂面を斜めに切る加工を施し、スタビング性を改善する技術)を利用することで補える。ネジ先端部厚み(t−x)については、ジャンプアウト特性を得るための最低必要な量として(C)を基準とする。もちろん、テーパTを1/12以下にすれば、図2のΔx(切り込み深さ修正量と呼ぶ)は小さくできるが、反面完全ネジ長さLtが長くなり、たとえ強度重視といえども不必要にネジ加工を長くすべきでない。ネジ先端部厚み(t−x)の最低値は、表3に示すように、T=1/12では8.47mm、表2に示すように、T=1/7.5では7.58mm、T=1/10では8.17mmとなる。
【0028】
これらの数値は、僅かな差のように思えるが、実際にパイプを加工するには、肉厚公差(API規格では公称の87.5%まで許容)もあり、これらの値よりさらに1.3mm薄くなる場合もある。そうなれば、各々7.17(8.47−1.3)mm、6.28(7.58−1.3)、mm、6.87(8.17−1.3)mmとなる。また、これらの寸法にはネジ山高さHも入っているので、後述の適正ネジ山高さHt=2.9mmを差し引けば、各々4.27(7.17−2.9)mm,3.38(6.28−2.9)mm,3.97(6.87−2.9)mmとなる。つまり、2.9mmの高さのネジ山が、このネジ底厚みに支えられていることを想像すれば、雄ネジ残留ネジ部の剛性、ネジ切り加工時のワーク剛性、先端強度などの面から3者の差は大きい。本発明では、ネジ先端部厚み(t−x)は4.27〜3.97mmとし、ネジ山高さHより充分大きな厚みを確保する方針とする。つまり、テーパTは1/12〜1/10の範囲を採択する。ネジ山高さHを低くしてネジ先端部厚み(t−x)を確保する方法もあるが、それは後述するようにネジピッチpを狭くする必要があり、大径サイズでは、クロススレッドの問題から妥当ではない。
【0029】
最後に、ネジ山高さHの決定根拠について説明する。
ネジ山については、根元が剪断で切れることと同時に、引張荷重を受けるロードフランク面の面圧にも配慮が必要である。つまり、ジャンプアウト荷重に対して残留ネジの総ロードフランク面で受ける負荷は、ネジ山が「だれない」程度が望ましい。ネジ山がだれる面圧を予測するのは難しいが、接触面の摩擦を考慮すると材料の降伏点以上で、かつ材料の引張強さσB 以下である。
【0030】
短柱の圧縮試験における変形抵抗の式、Y=σy{1+μ(d/3h)}から適当な値を設定する。ここで、Yは変形抵抗応力、σyは材料の降伏応力、μは摩擦係数、dは短柱の直径、hは短柱の高さである。ロードフランク面とdとの関連については、引張負荷時、ネジ円周方向には雄、雌ネジ間に相対滑りが少ないと思われるので、ネジ山方向の滑りのみを考える。ネジ山は片側のみ開放されているので、ネジ山高さHの2倍が短柱の直径(円柱底面径)dに相当すると考える。短柱の高さhはネジの幅に相当する。従って、d/3hを、APIバットレスネジの幅・高さ比のネジ山から割り出すと1.575×2/3/2.54=0.4の水準となる。ここで、μ=0.2とすれば、Y=1.08σyとなる。また、管体は0.8σB のダメージを受けているので、ネジ部の変形抵抗が摩擦の働きで8%程強化されていることも加味して、ネジ部も2.3%程度の塑性歪みの範囲では管体と同じ応力を受けてもよいと考える。
【0031】
従って、管体に0.8σB の荷重が作用し、継手はジャンプアウト寸前で、ネジ底は剪断寸前で、ネジロードフランク面も限界面圧に達している状態にするためには、ネジ山高さHは以下の2式を等しく置いて得られる値以上とする。
ネジの剪断強度=Ln/2・πD・σB /2
ネジロードフランク面の耐圧力=Ln/p・πD・H・0.8σB
ここで、pはネジピッチ
上式から、ネジ山高さH=(p/4)/0.8となる。
故に、ネジ山高さHの条件は以下となる。
H>(p/4)/0.8 ・・・・・・・(7)
【0032】
ここまでで、大径、K55グレードに対し80%以上の耐ジャンプアウト抵抗を得る為のネジの切り込み深さx、テーパT、ネジ山高さHの各条件が決定できたので、実際に適用する13−3/8" 〜26" の薄肉油井管に上記条件式の下限値を代入して、管の外径D=340〜661mm、ネジのテーパをT=1/12〜1/10という前提条件で継手効率が80%になるか検証した。
(2)式右辺のεz* に0.023を、Hに(2/3)×H(剪断荷重は完全嵌合したネジと不完全嵌合部の2/3の長さで持たせると仮定する)を代入すると、全外径について、0.8以上となり、目標の継手効率となった。
【0033】
条件式の下限値
1)外径D=13−3/8" (340mm)〜26" (661mm)(肉厚:最薄肉と最厚肉)
2)テーパT=1/10
3)ネジピッチp=3山/in
4)ネジ山高さH=2.65
5)ネジの切り込み深さx=0.00575D+0.16t−(2/3)×H
【0034】
ここまで、継手効率80%以上を目標とした本発明の大径テーパネジ継手のネジ緒元の決定根拠を説明してきたが、次にこれに加え、加工時間も考慮した継手デザインについて説明する。テーパネジ継手は、雄ネジ先端のネジ山位置を深く切り込めば耐ジャンプアウト抵抗は上昇するが、一方でネジ長さが切り込み深さxに比例して長くなる欠点があるので、このネジ長さを短くする方法を説明する。
【0035】
ジャンプアウト強度は、ある荷重負荷に対し、完全に嵌合したネジがどれだけあるかを問題にした。しかし、ネジ嵌合が実際に外れると、そのネジ底断面に直接荷重がかかることになるので(図6のくびれ75)、そのネジ底断面が母管に対して占める割合が雄ネジ破断の継手効率となる。今、18−5/8" の肉厚t=11.05mmが最小であるので、ジャンプアウト抵抗80%を期待したときの当該ネジ底は、y=0.023÷2×(473/2)=2.7mmだけ鋼管の外表面10から半径方向中心側に変位している(図2を参照)。この時のネジ底断面/母管断面=(11.05−2.7)/11.05=0.76となる。この値は、80%より小さいが、ネジ部の管軸に垂直な断面は円周の半分がネジ山部で、残り半分がネジ底部なので、単純な環状溝よりネジ溝の方が引張強度は高い筈である。従って、上記効率0.76は実際には0.80以上あると考えられる。
【0036】
さらに、図4に示すように、雄ネジ不完全ネジ部で、ネジ底が2.7mm未満のところを同一テーパTでネジ終端までわざわざランアウトして長くネジ加工しなくても、どうせ引張荷重下で縮管するときに外れるのであれば、ネジ加工時、ネジ底11が管体12の外表面10から2.7mmの深さに達したところからテーパを大きくして切り上げてしまい、不完全ネジ部を短くする方法が考えられる。対応するテーパ雌ネジもテーパ雄ネジのネジ底切り上がり部に相当する位置のネジ山頂面を、ピンのネジ底に当たらないようにテーパ雄ネジの底テーパに沿って切り落としている。こうすれば、対応するテーパ雌ネジを備えたカップリング(又はボックス)27も短く出来るメリットもある。しかし、ネジ先端の切り込み深さxが深く、ジャンプアウト抵抗が高く取れている継手にこの方法を適用すると、ジャンプアウトより雄ネジ底破断によって継手効率を低下させてしまうので、適用に当たっては注意が必要である。テーパネジを切り上げる位置は、ジャンプアウト強度から管体12の縮径量(又は半径方向変位y)を算出し、それに相当するネジ底を有する不完全ネジ部が目安となる。
【0037】
また、ジャンプアウトを防止する常套手段には、バットレス形状ネジのロードフランク面を管軸に垂直な面に対して通常のネジとは逆向きに傾け、ネジの嵌合が外れにくくしたインバースネジ(あるいはフックネジと呼ぶ)の適用がある。本発明にこのインバースタイプのネジを適用すれば、母管の縮径に対してネジの嵌合が、幾分食い止めらるので、ジャンプアウト抵抗をさらに向上させることができる。その場合でも、基礎のネジ緒元として管の外径D=340〜661mm、ネジのテーパをT=1/12〜1/10という範囲が適当である。
さらに、大径テーパネジ継手では締込み作業が大変になるので、多条ネジを利用して締込み回転数を減らすことが行われるが、本発明は、図2にも示したようにネジ緒元の肉厚断面内の配置で決定されるものであるので、断面形状が同じであればネジの条数に関係なく本発明は適用できる。
ネジの山形状については、バットレス形状について説明したが、これに限定されず、角ネジ又は台形ネジでも適用できる。
【0038】
【発明の実施の形態】
表4に、本発明による大径テーパネジ継手の実施の形態を示す。
【0039】
【表4】
Figure 0003668094
【0040】
選択した外径範囲は、サーフェースケーシング、コンダクターケーシングの汎用サイズで、低強度材が比較的よく使用され、本発明がカバーする全範囲である。肉厚tは、雄ネジのネジ先端部厚み(t−x)が薄くなって、ネジ設計上クリティカルとなる薄肉厚tminを対象とした。xは、雄ネジ先端のネジの切り込み深さを指し、本発明の下限値である。
【0041】
図5(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ本発明に係る管継手の継手プロファイルの説明図である。(a)、(c)はそれぞれ短管を用いたカップリングタイプの管継手15、22を、また(b)、(d)はそれぞれ短管を用いずに雌ネジ部を管端に溶接したピン、ボックスタイプの管継手18、26を示す。(a)は前記ネジ緒元にカップリング13の中央にピン14のテーパ雄ねじの先端が当接するストッパー(又はネジ込み止め)のない管継手15を、(b)はボックス16の奥ににピン17のテーパ雄ねじの先端が当接するストッパー(又はネジ込み止め)のない管継手18を示す、また、(c)はカップリング19の中央にピン21のテーパ雄ねじの先端が当接するストッパー20を設けた管継手22を、(d)はボックス23の奥にピン25のテーパ雄ねじの先端が当接するストッパー24を設けた管継手26を示す。
【0042】
【発明の効果】
請求項1〜4記載の管継手においては、テーパ雄ネジがテーパ雌ネジから引き抜けるジャンプアウトに対する抵抗を高める為にネジのテーパ、テーパ雄ネジの先端でのネジの切り込み深さ、及びネジ山高さを管外径又はネジピッチに応じて適切に設定することができるので、ジャンプアウトの生じ易い外径が340〜661mmの大径で、かつ伸びの大きいK55グレード等の材料でも、耐ジャンプアウト抵抗を高く維持でき、従来の大径側では60%台に低下していた継手効率をほぼ80%に高めることができる。
特に、請求項3又は4記載の管継手においては、テーパ雄ネジを締め込んだ時、テーパ雄ネジの先端が当接するストッパーをカップリングの中央又はボックスの奥に設けているので、ネジの位置決めが容易となり、接続作業が軽減される。
【0043】
請求項5記載の管継手においては、ジャンプアウト抵抗に影響しない範囲で、テーパ雄ネジのテーパを同一テーパでネジ終端までランアウトさせないで、完全ネジ部と不完全ネジ部の境界、又はその途中からテーパを大きくして不完全ネジ部を短くし、対応するテーパ雌ネジもテーパ雄ネジのネジ底切り上がり部に相当する位置のネジ山頂面を、ピンのネジ底に当たらないようにテーパ雄ネジの底テーパに沿って切り落としているので、ピンに対応するカップリング又はボックスのネジ長さを短くでき、その結果、ネジ切り作業時間が短縮されると共に、ネジ切り作業費を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】材料の応力歪み線図である。
【図2】テーパネジ列の管断面内のレイアウト図である。
【図3】各種油井管材料の応力歪み線図である。
【図4】ネジ切り上げ要領を示す説明図である。
【図5】(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ本発明に係る管継手の継手プロファイルの説明図である。
【図6】ジャンプアウトを生じたテーパネジ継手のテーパ雄ネジの断面図である。
【図7】同要部拡大図である。
【符号の説明】
10:外表面、11:ネジ底、12:管体(管)、13:カップリング、14:ピン、15:管継手、16:ボックス、17:ピン、18:管継手、19:カップリング、20:ストッパー、21:ピン、22:管継手、23:ボックス、24:ストッパー、25:ピン、26:管継手、27:カップリング(ボックス)

Claims (5)

  1. 管端部に1条もしくは多条のテーパ雄ネジが加工されたピンと、該テーパ雄ネジに螺合するテーパ雌ネジが短管の両側の内面に加工されたカップリングとからなる管継手において、
    ネジ山の形状が角ネジ、台形ネジ、又はバットレスタイプであって、
    前記管の外径をD=340〜661(mm)、前記管の肉厚をt(mm)、前記管の外表面からのネジの管端切り込み深さをx(mm)、前記ネジのテーパをT=1/12〜1/10、ネジ山高さをH(mm)、ネジピッチをp(n山/in)とした時、以下の関係式を満足することを特徴とする管継手。
    H>(p/4)/0.8
    x>0.00575×D+1.6×t×T−(2/3)×H
  2. 管端部に1条もしくは多条のテーパ雄ネジが加工されたピンと、短管の内側に該テーパ雄ネジに螺合するテーパ雌ネジが加工され、他の管端部に溶接されたボックスとからなる管継手において、
    ネジ山の形状が角ネジ、台形ネジ、又はバットレスタイプであって、
    前記管の外径をD=340〜661(mm)、前記管の肉厚をt(mm)、前記管の外表面からのネジの管端切り込み深さをx(mm)、前記ネジのテーパをT=1/12〜1/10、ネジ山高さをH(mm)、ネジピッチをp(n山/in)とした時、以下の関係式を満足することを特徴とする管継手。
    H>(p/4)/0.8
    x>0.00575×D+1.6×t×T−(2/3)×H
  3. 請求項1記載の管継手において、前記テーパ雄ネジを前記カップリングに締め込んだ時、前記テーパ雄ネジの先端が当接するストッパーを前記カップリングの中央に備えていることを特徴とする管継手。
  4. 請求項2記載の管継手において、前記テーパ雄ネジを前記ボックスに締め込んだ時、前記テーパ雄ネジの先端が当接するストッパーを前記ボックスの奥に備えていることを特徴とする管継手。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の管継手において、ジャンプアウト抵抗に影響しない範囲で、前記テーパ雄ネジのテーパを同一テーパでネジ終端までランアウトさせないで、完全ネジ部と不完全ネジ部の境界、又はその途中からテーパを大きくして前記不完全ネジ部を短くし、対応する前記テーパ雌ネジも前記テーパ雄ネジのネジ底切り上がり部に相当する位置のネジ山頂面を、前記ピンのネジ底に当たらないように前記テーパ雄ネジの底テーパに沿って切り落としたことを特徴とする管継手。
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