JP3663243B2 - Fas抗原の免疫学的測定法及び測定用キット - Google Patents
Fas抗原の免疫学的測定法及び測定用キット Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Fas抗原の免疫学的測定法及び測定用キットに関する。
【0002】
【従来の技術、及び発明が解決しようとする課題】
多細胞生物においては個体発生の過程において多くの細胞が細胞死により除去される。この細胞死は、あらかじめ決められたプログラムによって起こっていると推測されている。また、成体においても、一方で細胞分裂により細胞数が増えると、他方で細胞死が起こり、全体の細胞数のバランスを保っていると考えられる。ワイリー(Wyllie)らは、死につつある細胞の形態を電子顕微鏡で観察し、細胞死を形態学的に2種類(即ちネクローシスとアポトーシス)に分類した(Wyllie A.H. et al. Int.Rev.Cytol., 第68巻、251-306頁、1980年)。
【0003】
ネクローシスの場合には、初期の段階で細胞膜の透過性が増大し、核やミトコンドリアなどの細胞内小器官が膨潤し、やがてライソゾームの破壊が起き、放出した蛋白分解酵素などにより細胞が破壊する。一方、アポトーシスの場合には、ミトコンドリアやライソゾームの構造には大きな変化は認められず、初期の段階で核内で染色体が凝縮し、細胞質も収縮する。同時に核がいくつかの部分に断片化されたり、細胞表面に泡のような構造が生じた後、アポトーティックボディーと呼ばれるミニ細胞に分かれることもある。
【0004】
外的原因によって起こる、いわば受動的な死は、主としてネクローシスによって起こるのに対し、発生や分化あるいは組織のターンオーバーの過程で見られるあらかじめプログラムされた細胞死は、アポトーシスによって起こると考えられている。
【0005】
アポトーシスあるいはプログラム細胞死と呼ばれる細胞死の制御に深く関連すると考えられている生体構成細胞表層に存在するタンパクは、Fas抗原と呼ばれ、細胞膜の脂質二重層を1回貫通する疎水性ペプチド配列を有し、全体として細胞外領域、膜貫通領域及び細胞内領域の3つの主領域から構成される膜貫通タンパクである。マウス及びヒトFas抗原のアミノ酸配列、及びアミノ酸配列をコードするcDNA配列は既に明らかにされている(Cell、第66巻、233頁−243頁、1991年、イトウナオトら、J. Immunol. 、第148巻、第4号、1274頁−1279頁、1992年、ワタナベ(フクナガ)リエら、J. Biol. Chem. 、第267巻、第15号、10709−10715頁、1992年、エーム(Alexander Oehm)ら、J. Exp. Med. 、第169巻,1747−1756頁、1989年、ヨネハラシンら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、9620−9624頁、1990年、コバヤシノブユキら、Science、第245巻、301−305頁、1989年、トラウス(Bernhard C. Trauth)ら、J. Immunol. 、第149巻、第10号、3166−3173頁、1992年、ダイン(Jeas Dein)ら、The Lancet. 第335巻、497−500頁、1990年、デバティン(Klaus-Michael Debatin)ら、J. Immunol.、第149巻、第11号、3753−3758頁、1992年、ミヤワキトシオら、Genomics、第14巻、179−180頁、1992年、リヒター(Peter Lichter)ら等参照)。
【0006】
米原らは、ヒトFS−7細胞の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体を作製し、抗Fas抗体を得たが、この抗体はFas抗原を発現している細胞を殺す活性を示した(J. Exp. Med. 、第169巻、1747−1756頁、1989年)。また、その細胞死は電子顕微鏡による観察からアポトーシスの特徴を示したことからFas抗原はアポトーシスによる細胞死を媒介すると結論された。これとは別に、トラウス(Trauth)らは、抗Fas抗体に良く似た性質を持ち、細胞を殺す活性を示すモノクローナル抗体、APO−1抗体を得た(SCIENCE、第245巻、301−305頁、1989年)。この二つの抗体は、細胞死を誘導するという点で共通なだけではなく、抗原の分布や分子量など極めて良く似ており、同じものであることが明らかにされている。
【0007】
Fas抗原はその構造解析の結果、腫瘍壊死因子(TNF)レセプターや神経成長因子(NGF)に良く似た構造をしていること、外部からのシグナルを受けて細胞死を起こす新しい種類のレセプターであることが明らかにされ、TNF/NGF受容体ファミリーを形成する受容体の一つとされている。
【0008】
最近において、自己免疫の症状を呈するマウス(MRL/lprマウス)においてFas遺伝子の異常が認められることや、HIV感染者において高いレベルのアポトーシスがリンパ球に起こっていることと、Fas抗原が関連していることが示唆されるようになり、Fas抗原の発現と自己免疫疾患等の疾患との関係が注目されるようになった。
【0009】
チェンら(Chengt. J. et al., Science、 第263巻、1759−1762頁、1994年)は、これらFas抗原の転写の異常と自己免疫疾患の関連を調べるために、自己免疫疾患(リウマチ(Rheumatoid Arthritis;RA)、SLE(Systemic Lupus erythematosus))患者及び健常人から細胞内のcDNAを取り出し、調べたところ、どちらにもFas抗原の全長をコードする通常の1167bpのcDNAの他に、1104bpの小さなcDNAが見られることを発見した。さらにこの1104bpの小さなcDNAについて1167bpのcDNAと比較したところ、疎水性の膜貫通部位(TM、 transmembrane domain) を欠いていることから、この小さなcDNA(Fas△TMと呼ばれる)は、血液、血清、血漿、尿、唾液及び骨髄等の体液に可溶性のFas抗原(以下、「可溶性Fas抗原」という)をコードしていることが明らかにされた。
【0010】
チェン(Chengt)らは、マウスを可溶性Fas抗原で処理することにより胸腺細胞中のCD4、CD8単独陽性細胞及びダブルネガティブの細胞が増加し、ダブルポジティブの細胞が減少すること、脾臓細胞の総細胞数が増加すること、さらにSLE患者においては血清中の可溶性Fas抗原の量が健常人に比して2倍程度に増加していること等から、可溶性Fas抗原の過剰産生により胸腺や末梢組織でのアポトーシスが阻害され、自己反応性のリンパ球クローンの適切な排除が行われないために、自己免疫疾患の発症が誘引されるとの病因論を展開した。
【0011】
このことから、血清等の体液中における可溶性Fas抗原の量を測定することは、自己免疫疾患等のFas抗原の動態が関与していると考えられる種々疾患の予知、診断及び治療方針の確立、治療の効果の判定に有用であり、該測定法及び測定用試薬(キット)の確立が熱望されている。
【0012】
血清等の体液中における可溶性Fas抗原を検出、測定する方法としては、ウェスタンブロット法(Western Blot technique、W.B.法)、放射免疫測定法(Radioimmunoassay、RIA法)、酵素免疫測定法(Enzyme Immunoassay、EIA法あるいは Enzyme-linked Immunosorbent Assay、ELISA法)等の適用を考えることができる。しかしながら、W.B.法では感度が高く特異性が高いものの、定量性に欠け、大量の検体を一時に処理するには不向きである。また、RIA法では放射性物質を標識物質として用いることから、管理された施設において資格を有する者にしか扱うことができないという欠点を有している。一般的にEIA法あるいはELISA法は前記のような問題がなく簡便に感度良く測定することが可能であるが、これまでそのような方法を用いた血清等の体液中の可溶性Fas抗原の高精度かつ十分な感度を有した簡便な測定法は知られていない。
【0013】
また、Fas抗原のうち、完全なFas抗原は疎水性の膜貫通部位をはさんで親水性の細胞内領域と細胞外領域を持ち、可溶性Fas抗原は膜貫通領域が欠如しているが、細胞外に分泌されるFas抗原としてはこのほかに酵素的に切断されて細胞外領域のみを有する分子が存在することも考えられる。この酵素的に切断された分子はFas抗原の定量性に影響を及ぼさないことが望ましい。
【0014】
更に、血清等の体液中に含有される可溶性Fas抗原を測定(定量)するためには、その測定法の感度あるいは精度の確認や測定値から間接的に可溶性Fas抗原の含量を割り出すための検量線の作成のために、標準物質(スタンダード)として精製された可溶性Fas抗原を入手する必要がある。ところが、精製された可溶性Fas抗原を量産する技術はこれまでのところ確立されていない。
【0015】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、酵素的に切断されたFas抗原の影響を受けずに感度良くしかも大量の検体を簡便に測定するFas抗原の免疫学的測定法及び測定用キットを提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段、発明の実施の形態、及び発明の効果】
本発明の第1は、Fas抗原の測定法であって、Fas抗原の細胞内領域又は細胞外領域のうちの一方と特異的に結合可能な抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体に標準物質としての細胞抽出Fas抗原を反応せしめた後、前記a)にてFas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体を用いた場合は、Fas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を標識化した標識化抗体を反応させ、前記a)にてFas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体を用いた場合は、Fas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を標識化した標識化抗体を反応させ、反応生成物の標識量を測定することにより検量線を作製する工程、及び、前記固相化抗体に検体を反応せしめた後、前記標識化抗体を反応させ、反応生成物の標識量を測定し、前記検量線から検体中に含まれるFas抗原を定量する工程、を含むことを特徴とするものである。
【0017】
本発明の第2は、抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体と、
抗Fas抗体を標識化した標識化抗体と、標準物質としての細胞抽出Fas抗原とを含むFas抗原の免疫学的測定用キットであって、前記固相化抗体及び標識化抗体のうちいずれか一方は、Fas抗原の細胞内領域と特異的に結合する抗Fas抗体を用いて作製したものであり、他方は、Fas抗原の細胞外領域と特異的に結合する抗Fas抗体を用いて作製したものであることを特徴とする。
【0018】
ここで、固相化抗体としてFas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を用いる場合には、標識化抗体としてFas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を用いる。逆に、固相化抗体としてFas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を用いる場合には、標識化抗体としてFas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を用いる。
【0019】
また、固相化抗体に用いる不溶性支持体としては、例えばポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等のプラスチックや、ガラスといった水に不溶性の物質であれば、特に限定されない。この不溶性支持体への担持は単なる物理吸着でもよいし、化学的な結合であってもよい。
【0020】
本発明において、Fas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体は、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に反応する抗Fas抗体であることが好ましい。また、Fas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体は、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列に特異的に反応する抗Fas抗体であることが好ましい。また、標準物質としての細胞抽出Fas抗原は、WR19L−12a細胞由来のFas抗原であることが量産する上で好ましい。尚、WR19L−12a細胞の作製法は例えばイトウら(Cell、第66巻、233-243頁、1991年)によって報告されている。また、標識化抗体は、放射性元素を標識物質として標識化した抗Fas抗体を用いてもよいがこの場合には有資格者が管理された施設において取り扱う必要があるため、取扱いの容易さを考慮すると、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びビオチンからなる群から選ばれる標識物質で標識された抗Fas抗体であることが好ましい。
【0021】
本発明の免疫学的測定法及び測定用キットでは、固相化抗体及び標識化抗体のうちいずれか一方を細胞内領域と特異的に結合する抗Fas抗体を用いて作製し、いずれか他方を細胞外領域と特異的に結合する抗Fas抗体を用いて作製する。このため、本発明によれば、完全なFas抗原(即ち、疎水性の膜貫通部位をはさんで親水性の細胞内領域と細胞外領域を持つFas抗原)及び可溶性Fas抗原(即ち、完全なFas抗原から膜貫通領域が欠如したもの)を測定することが可能である。尚、Fas抗原が酵素的に切断されて細胞外領域のみとなったものは、本発明の測定系により検出されないため、かかる細胞外領域のみとなったものにより定量値が影響を受けることはない。
【0022】
以上の本発明のFas抗原の免疫学的測定法及び測定用キットによれば、酵素的に切断されたFas抗原の影響を受けずに感度良くしかも標準物質を量産できるため大量の検体を簡便に測定できるという効果が得られる。また、検体中のFas抗原を定量することにより、自己免疫疾患の予知、診断及び治療方針の確立、治療の効果の判定を行うことができるため、有用である。
【0023】
【実施例】
完全なFas抗原の構造を摸式的に示せば図1のようになる。ここで、アミノ酸のN末端から数えたペプチドの番号17〜33、54〜72、321〜335はアミノ酸分析の結果から親水性の領域であって抗原決定基の存在する可能性のある領域である。
【0024】
発明者らは、完全なFas抗原(細胞外領域、膜貫通領域、細胞内領域を含むもの)と可溶性Fas抗原(完全なFas抗原から膜貫通領域を欠いたもの)を特異的に測定するために、Fas抗原の細胞内領域及び細胞外領域に対する抗体を別々に作製し、これらの抗体を用いていわゆるサンドイッチELISA法により測定すべきであると考えた。
[実施例1]Fas抗原の細胞内領域に対する抗体の作製
[1−1]合成ペプチドの作製
Fas抗原の細胞内領域に対する抗体としては、抗Fasポリクローナル抗体を用いることとした。即ち、発明者らは伊藤、米原らの文献(Cell、第66巻、233-243頁、 1991年)に発表されているヒトFas抗原のアミノ酸配列を基にFas抗原の疎水マッピングを行い、細胞内領域にあるC末端のアミノ酸321〜335番目の親水性領域(配列表の配列番号1参照)を選択し、合成ぺプチドを作製した。合成ペプチドは全自動合成装置を用いてFmoc法を用いた固相法により作製した(合成法の詳細は秀潤社刊、細胞工学別冊「抗ペプチド抗体実験プロトコール」参照)。実際の合成ペプチドには、この合成ペプチドを高分子担体に結合させる際に有利なように、N末端側にヒトFasとは無関係なシステイン残基を一つ付加した(下式参照)。
【0025】
【化1】
【0026】
[1−2]合成ペプチドと高分子担体との結合
実施例1−1で作製した合成ペプチド(上式参照)はアミノ酸16個と比較的小さく、このような低分子化合物(ハプテンと呼ぶ)の場合にはそのままでは抗原性が弱く抗体ができにくいため、免疫の際には抗原性を高めるために高分子担体に結合させる必要がある。このような高分子担体としてはウシ血清アルブミン(BSA)、スカシガイヘモシアニン(KLH)等が用いられるが、ここではKLHを用いた。
【0027】
KLHとの結合法としては、一般的にはグルタルアルデヒド法、カルボジイミド法、ジアゾ縮合法、マレイミドベンゾイルオキシサクシニミド(MBS)法などがあるが、MBS法以外は非特異的な結合であるため合成ペプチドが化学的に修飾されてしまう可能性がある。MBS法はKLHと合成ペプチドが持つシステイン残基の間をMBSで架橋して結合させる方法であり、この方法によれば合成ペプチドの化学的修飾が避けられ、高い質のペプチド抗体を作製することが可能とされている。このため、ここではMBS法により実施例1−1で作製した合成ペプチドと高分子担体とを結合させた(結合の具体的な方法は前出の「抗ペプチド抗体実験プロトコール」48〜52頁参照)。
[1−3]免疫
実施例1−2で得た結合体(合成ペプチドとKLHとの結合体)を用いて、ウサギ(日本白色メス 3.5kg)に対し、1回/週で10箇所ほど皮下免疫を行い、5回免疫後に耳下静脈より少量の採血を行い、血清を分離しELISA法により抗体価をチェックした。即ち、1/100M生理的リン酸化緩衝食塩液(PBS)にKLHと結合しない合成ペプチドを溶解して0.1mg/mlの溶液を調製し、この溶液をヌンク社製96穴マイクロプレート「マキシソープ」に100μl添加し、室温(20〜25℃)で3時間放置した後、液を吸引除去し、5%のウシ血清アルブミンを含むPBS30μlを加えて約18時間4℃に静置し、カップの未反応部分をブロックした。ブロッキング液を除きPBS300μlで3回洗浄した後、PBSで希釈した抗血清の系列を作製し、この溶液100μlを各カップに加えて室温(20〜25℃)で1時間静置した後反応液を除きPBS30μlで4回洗浄した。次に、希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG((株)医学生物学研究所 製)100μlを加え室温(20〜25℃)で1時間静置反応させた後、再度同様に洗浄し、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンと過酸化水素の溶液100μlを発色基質として加え、一定時間反応させた後1.5Mリン酸を添加して反応を停止し、波長450nmにおける吸光度を測定した。測定結果を図2のグラフに示す。この図2から明らかなように、得られた抗血清は十分な抗体価を示すものである。このように十分な抗体価を示したウサギについては耳下静脈より70mlの採血を行い、約30mlの抗血清を得た。
[1−4]合成ペプチドに対する特異抗体の調製
実施例1−3で得た抗血清には目的とする抗体以外の血清成分や他の抗体が含まれている。測定系の感度を上げるためには実施例1−1の合成ペプチドと反応する抗体のみを不溶性支持体に結合させることが好ましいことから、アフィニティークロマトグラフィーにより特異抗体の採取を行った。即ち、マグネチックスターラーを用い、ウサギ血清に50%飽和となるように硫酸アンモニウムの粉末を徐々に加え、析出した分画を遠心分離によって上清と分け、最少量のPBSに溶解した後、十分量のPBSを用いて透析し、硫酸アンモニウムを除いた。これを合成ペプチドを結合させたセファロース4Bゲルにアプライし、十分量のPBSで洗浄した後、ゲルに結合した免疫グロブリンを0.17Mグリシン−HCl緩衝液pH2.3を用いて溶出した。溶出した合成ペプチド特異抗体は抗体活性の低下を回避するため速やかに1/10量の1M Tris−HCl緩衝液pH9.0を加えて中和した。以上の方法によりウサギ血清1mlあたり0.5mgの合成ペプチド特異抗体(即ち、Fas抗原の細胞内領域に対する抗体)を得た。
【0028】
尚、合成ペプチド結合セファロース4Bの作製はファルマシア社の操作指示書に従った。即ち、ファルマシア社より購入したCNBr活性化セファロース4B6gを1mM HCl600mlに加えて15分間静置してゲルを膨潤させた後、ガラスフィルタを用いて1mM HClを除去し、さらに1mM HCl600mlを用いて同様にゲルを洗浄した。洗浄したゲルは30mlの0.5M NaClを含む0.1M NaHCO3 、pH8.3(カップリングバッファ)30mlに懸濁した。一方、合成ペプチド20μmolを20mlのカップリングバッファに溶解し、上記のゲル懸濁液と混合して室温で1時間ゆるやかに攪拌した後ガラスフィルタを用いて200mlのカップリングバッファで洗浄し、余分なペプチドを除いた。余分な活性基をブロックするために、さらに0.5M NaClを含む0.1M 酢酸バッファpH4.0と、0.5M NaClを含む0.1M Tris−HClバッファpH8.0各100mlで3回交互に洗浄した。
[実施例2]Fas抗原の細胞外領域に対する抗体の作製
Fas抗原の細胞外領域に対する抗体としては、クローンVB3((株)医学生物学研究所 製)を用いて抗Fasモノクローナル抗体を調製することとした。このクローンVB3はヒトFas分子上のアミノ酸のN末端から数えて126〜135番目(細胞外領域)にあり、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号2の通りである。
【0029】
抗Fasモノクローナル抗体は次のようにして得た。即ち、クローンVB3(2×108 個)を無血清ASF104培地(味の素社(製))中、37℃で5日間培養し、得られた培養上清をオメガセル(フィルトロン社(製))で超遠心した。遠心上清を回収し、ヒドロキシルアパタイトカラム(アサヒ光学社(製))に供した。FPLCシステム(ファルマシアファインケミカル社(製))を用いて、リン酸ナトリウム(pH7.4、10〜400mM)で溶出させた。溶出画分を回収し、SDS−PAGEに供し、95%以上の純度で精製された抗Fasモノクローナル抗体を得た(ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J. Exp. Med.)第169巻、第1747〜1756頁(1989年)における報告を参照)。
[実施例3]固相化抗体の作製
実施例1−4で得た合成ペプチド特異抗体を0.1M炭酸緩衝液pH9.0で5μl/mlの濃度に調製し、ヌンク社製96穴マイクロプレート「マキシソープ」の各ウエルに10μlずつ加え、4℃で20時間静置反応させた。抗体溶液を捨て、1%BSA、5%ショ糖を含むPBSを各ウエル200μlずつ加え、室温(20〜25℃)で2時間静置してブロッキングを行った。ブロッキング液を捨て、プレートを風乾し、固相化抗体を得た。この固相化抗体は乾燥剤と共に密封して保存した。
[実施例4]標識化抗体の作製
実施例2で得た抗ヒトFasモノクローナル抗体(クローンVB3)の精製IgG 1mgあたり0.056Uのフィシンを添加し、37℃で8時間反応させた後、Ultrogel ACA44を用いてゲルろ過し、F(ab)'2分画を得た。このF(ab)'2分画にマレイミド法によりペルオキシダーゼを標識し、ペルオキシダーゼ標識化抗体とした。尚、標識は医学書院刊、石川栄治著「酵素免疫測定法 第3版」に従って行った。
[実施例5] 細胞抽出Fas抗原(スタンダード)の作製
Fasスタンダードとしては、ヒトFas cDNAを導入して形質転換させ、ヒトFasをその細胞表面に発現している細胞WR19L−12a(米原ら、Cell、第66巻、233-243頁、1991年)から調製したFas分子を用いることとした。
【0030】
即ち、ヒトFas抗原をコードするcDNAを含有するプラスミドpF58をXhoIで消化して得たヒトFas抗原cDNAを含有するフラグメントを、発現ベクターpEF−BOS(Nucleic acid research, 第18巻、5322頁、1990年)に、BstXIアダプターを用いて導入し、発現プラスミドpEFF58を得た。VspIで消化した25μg/mlのpEFF58フラグメントとEcoRIで消化した2.5μg/mlのpMAneo(クローンテック社製)フラグメントを用いて、1×107 個(0.8ml)のマウスTリンパ腫WR19L細胞(ATCC TIB52)をエレクトロポレーションにより共形質転換した。該細胞を抗生物質G418含有培地中で培養して、G418耐性クローンを選別した。得られたG418耐性クローンをフローサイトメータ及び限外希釈法で分析することによりヒトFas抗原過剰発現形質転換細胞WR19L−12aをクローン化した。
【0031】
WR19L−12a細胞は10% FCS, 400μg/mlのG418を含むDMEM倍地で培養し、集めた細胞5×107 個に対して1mlのRIPAバッファー(150mM NaCl,1%ノニデットP−40,0.5%デオキシコール酸、50mM Tris−HCl緩衝液pH8.0 )を加え超音波破砕機により粉砕した。粉砕後の液を超遠心(4℃、×50000g、30分)し、その上清中に可溶化されたFasをスタンダードとした。
[実施例6]血清中のFas抗原の測定
被検血清を10%の正常ウサギ血清を含むPBSで5倍希釈しマイクロプレート(実施例3の固相化抗体)に100μlずつ添加した。スタンダードは同じバッファーで2ng/mlの濃度から倍数希釈して調製し、同じく100μlを添加した。
【0032】
そして室温(20〜25℃)で1時間緩やかに振盪しながら反応させた後、0.1% tween20を含むPBSを各ウエルに30μl加え洗浄した。洗浄は5回行った。洗浄液を除いた後、実施例4で得たペルオキシダーゼ標識化抗体を1%BSA、0.79%NaCl、0.1%パラヒドロキシフェニル酢酸(p-Hydroxyphenyl acetic acid )、20mM HEPESバッファpH7.2で1μg/mlに希釈し、これを各ウエルに100μlずつ添加し、室温(20〜25℃)で1時間緩やかに振盪しながら反応させ再度同様に洗浄した。洗浄液を除き、1.6mMの3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン2塩酸塩、20%N,N−ジメチルホルムアミド、1.25%ポリエチレングリコール4000を含む10mMクエン酸ナトリウム溶液と、10mMの過酸化水素を含む10mMクエン酸溶液を等量混合し、この液100μlずつを加えて室温(20〜25℃)で30分間緩やかに振盪しながら反応させた後、1.5Nリン酸100μlを加えて反応を停止し、波長450nmにおける吸光度を測定した。検体中のFas濃度はスタンダードの濃度と吸光度より作成したスタンダードカーブ(図3のグラフ参照)を用いて読み取った。
【0033】
この系を用いて検体を測定した結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
上記表1から明らかなように、RA患者血清、RA患者随液、SLE患者血清においてFas抗原の測定値が健常者と比して顕著に高いことが分かる。従って、本実施例の試薬を用い、本実施例の測定法を実施すれば、臨床現場でも容易に可溶性Fas抗原の濃度を測定でき、SLE等の自己免疫疾患の患者の発見が迅速にできる。
【0036】
【配列表】
【0037】
【0038】
【図面の簡単な説明】
【図1】 Fas抗原の構造の摸式図である。
【図2】 実施例1の[1−3]における抗血清の抗体価を表すグラフである。
【図3】 血清中のFas抗原を測定するためのスタンダードのグラフである。
Claims (10)
- 下記a)〜c)及びd)〜f)の工程を含むことを特徴とするFas抗原の免疫学的測定法。
a)Fas抗原の細胞内領域又は細胞外領域のうちの一方と特異的に結合可能な抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体に標準物質としての細胞抽出Fas抗原を反応せしめた後、
b)前記a)にてFas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体を用いた場合は、Fas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を標識化した標識化抗体を反応させ、
前記a)にてFas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体を用いた場合は、Fas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体を標識化した標識化抗体を反応させ、
c)反応生成物の標識量を測定することにより検量線を作製する工程、及び
d)前記固相化抗体に検体を反応せしめた後、
e)前記標識化抗体を反応させ、
f)反応生成物の標識量を測定し、
前記検量線から検体中に含まれるFas抗原を定量する工程。 - Fas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体が、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に反応する抗Fas抗体である請求項1記載のFas抗原の免疫学的測定法。
- Fas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体が、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列に特異的に反応する抗Fas抗体である請求項1又は2記載のFas抗原の免疫学的測定法。
- 前記標準物質としての細胞抽出Fas抗原が、WR19L−12a細胞由来のFas抗原である請求項1〜3のいずれかに記載のFas抗原の免疫学的測定法。
- 前記標識化抗体が、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びビオチンからなる群から選ばれる標識物質で標識された抗Fas抗体である請求項1〜4のいずれかに記載のFas抗原の免疫学的測定法。
- 抗Fas抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体と、
抗Fas抗体を標識化した標識化抗体と、
標準物質としての細胞抽出Fas抗原とを含むFas抗原の免疫学的測定用キットであって、
前記固相化抗体及び標識化抗体のうちいずれか一方は、Fas抗原の細胞内領域と特異的に結合する抗Fas抗体を用いて作製したものであり、他方は、Fas抗原の細胞外領域と特異的に結合する抗Fas抗体を用いて作製したものであることを特徴とするFas抗原の免疫学的測定用キット。 - Fas抗原の細胞内領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体が、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に反応する抗Fas抗体である請求項6記載のFas抗原の免疫学的測定用キット。
- Fas抗原の細胞外領域と特異的に結合可能な抗Fas抗体が、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列に特異的に反応する抗Fas抗体である請求項6又は7記載のFas抗原の免疫学的測定用キット。
- 前記標準物質としての細胞抽出Fas抗原が、WR19L−12a細胞由来のFas抗原である請求項6〜8のいずれかに記載のFas抗原の免疫学的測定用キット。
- 前記標識化抗体が、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びビオチンからなる群から選ばれる標識物質で標識された抗Fas抗体である請求項6〜9のいずれかに記載のFas抗原の免疫学的測定用キット。
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