JP3658098B2 - 動圧空気軸受装置及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、動圧空気軸受装置及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、レーザープリンタの画像書込系のポリゴンミラーを駆動するモータや、記録媒体としてのディスクを駆動するモータ等は高速回転が要求されている。このため、モータの回転軸を軸支する軸受は、ボールベアリングでは軸受寿命、回転騒音の面から要求品質を満足することができなくなってきている。そこで、ボールベアリングに代えて動圧空気軸受が実用化されている。こうした動圧空気軸受は、回転中は回転軸と軸受との摺動面が無接触となる流体潤滑状態に維持されているが、起動及び停止時や衝撃を受けたときに回転軸と軸受とが接触し、場合によっては焼き付き等の致命的な損傷に至ることがある。特に回転の高速化を実現するために回転軸又は軸受をアルミニウム等の軽量材料により形成すると、こうした材料は軟質であるために、回転軸と軸受との摺動面に焼き付き防止のための特別な処理を施す必要がある。
【0003】
このようなことから、特開昭61−112818号公報に記載されているように、軸受接触面に潤滑を目的としてBN(窒化ホウ素)複合めっきを施したり、特開昭63−235719号公報に記載されているように、回転軸に耐摩耗性を目的としてSiC(シリコンカーバイト)めっきを施し、固定軸(軸受側)に潤滑性アルマイト処理を施したり、特開平4−808062号公報に記載されているように、粗さを十分に仕上げたセラミックス製の軸受の潤滑面に20〜100ÅのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)をコーティングしたりしている。さらに、特開平6−147221号公報には、軸受の摺動面に粉末潤滑剤を充填する内容が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
動圧空気軸受の焼き付き過程を観察すると、回転軸と軸受との摺動面が溶融して摩擦抵抗が上昇するのではなく、摺動面が摩耗することにより発生した摩耗粉が両者間のクリアランス以上の大きさに成長することが焼き付きの直接の原因となることが多い。こうしたカタストロフィを防止するために、通常の軸受では潤滑油を使用することが多い。しかし、通常の潤滑油は炭化水素を主成分とするので、高速回転させると液分が周囲に飛散するため、レーザープリンタの画像書込系で使用するモータや、記録媒体を駆動するモータとしては不向きである。
【0005】
そこで、前述した公報に開示されているように、軸受の摺動面を耐摩耗性材料により形成している。ここで、図4に耐摩耗性材料による摺動の様子を概念的に示す。回転軸101と軸受102とは断面が円であるが、両者は全面が均一に接触するのではなく部分的に接触するので、図4に示すように円と面との関係で接触する状態に置き換えて見ることができる。回転軸101と軸受102との表面には耐摩耗性材料による摺動面103,104が形成されている。
【0006】
耐摩耗性材料には大きく分けてセラミックスと高硬度金属とに分類することができる。図4(a)(b)に示すように、例えば、軸受102の摺動面104がセラミックス皮膜の場合は微細な加工跡がある。この加工跡は顕微鏡で見ると凹凸として認識されるが、回転軸101が図4(a)に示す停止状態から回転すると回転軸101は軸受102に対して摺動するが、その摺動初期には加工跡の凸の部分105が摩耗粉106として軸受102から破断して遊離しアブレシブ摩耗を起こすなじみ過程がある。セラミックスは低靱性ゆえに摩耗粉106の量が多くなり易く、またセラミックスの摩耗粉106は硬度も高いので、増加する摩耗粉106が砥粒として作用し、更なるアブレシブ摩耗を引き起こす可能性がある。また、軸受102の母材が軟質の場合には、母材の靱性の低さをカバーするためにセラミックスの皮膜を適当な厚さにして摺動面104を形成する必要があるので、これをドライプロセスで成膜しようとするとコストが非常に高くなる。
【0007】
図4(c)に示すように、軸受102の摺動面104を高硬度金属(クロムめっきやニッケルめっき)で形成した場合を考察すると、この摺動面104をなす高硬度金属の皮膜はセラミックスよりも硬度が落ちるものの靱性が高いので、セラミックスに比して加工時の表面仕上げ精度の公差を下げることができる。また、セラミックスに比して低コストで成膜することができる。しかし、金属(めっき)には金属特有の欠点がある。すなわち、金属の表面は通常酸化膜で覆われているが、回転軸101と軸受102との摺動面103,104が摩耗すると表面に凝着性の高い摩耗粉107が発生する。軸受102の表面に凝着した摩耗粉107は、回転軸101の表面にも凝着する。このような摩耗粉107は相対向する摺動面103,104の間に挾まれるため転位が蓄積されて加工硬化を起こすとともに、大気中の酸素を取り込んで硬い酸化物になり、摩耗を拡大させてしまう。
【0008】
最近のモータの動圧空気軸受の回転軸101と軸受102との摺動面のクリアランスは10μm以下のものも多く、摺動面103,104の破断によって成長した摩耗粉107は直ぐに排出されず摺動面103,104のクリアランス内に暫く留まることになる。摺動面103,104や摩耗粉107が主に金属によって構成されている場合、一部の摩耗粉107は回転軸101又は軸受102の一方の摺動面103又は104に固定され、この摩耗粉107がもう一方の摺動面104又は103に接触して荷重の殆どを支えている場合がある。この状態は摩耗粉107が強い剪断力により破断して金属そのものの面(新生面と称する)を生じ、これが化学的に非常に活性であるため摺動面103,104に強く結合していると理解されている。これは、通常は金属材料にとって最も回避すべき凝着摩耗の前段階として認識される。摩耗粉107が一方の摺動面103又は104に凝着していることは当然もう一方の摺動面104又は103にも強く凝着する筈である。
【0009】
この状態を凝着摩耗のメカニズムとして概念的に示したのが図5である。回転軸101の回転が続けば、何れかの部分が破断することになるが、凝着摩耗とは、回転軸101や軸受102の摺動面103,104の内部で破断が発生して摺動面103,104の摩耗が増加する現象である。この場合、摺動面103,104の内部の剪断応力が、移着物(摩耗粉107)の内部の剪断応力や、摺動面103,104と移着物との境界面の剪断応力よりも低い状態になっている。図5において、破断線108,109は回転軸101と軸受102の摺動面103,104内での破断を示し、破断線110は移着物(摩耗粉107)の内部での破断を示す。
【0010】
以上のように、耐摩耗性材料は一旦摩耗してしまうと、セラミックスの場合はアブレシブ摩耗の度合いがひどくなり、高硬度金属の場合は凝着摩耗が拡大し易く、回転性能が益々劣化する。特に、摺動初期のなじみ過程では、摩耗粉106,107の発生を原理的に抑えることができないので、少しでも摩耗粉106,107の発生を抑えるためには必要以上に摺動面の仕上げ精度を高める傾向にある。耐摩耗性材料といわれるものでも全く摩耗しないことは不可能であり、ここに耐摩耗性材料の欠点がある。
【0011】
摩耗粉を少なくする試みとしての特開平4−808062号公報の内容も、必要以上に摺動面の表面精度を高めて摩耗量を減らすことが前提条件となっているので、これまで述べた耐摩耗性材料の本質的な欠点は改善されていない。
【0012】
これに対して、図6に示すように、回転軸101と軸受102との間に両者の摺動面の材料よりも弱い材料による固体潤滑膜111を介在させ、その固体潤滑膜111で剪断が優先的に生じるようにした固体潤滑方法がある。図6は固体潤滑摩耗膜による摺動の様子を概念的に示す模式図で、同図(a)は摺動開始前の状態を示し、(b)は摺動開始後に固体潤滑膜111が低剪断応力のために部分的に形状が変化した様子を示す。固体潤滑膜として一般的に使用されるものを分類すると、層構造を有するものでは、石墨(グラファィト)、二硫化タングステン(WS2) 、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化銅(CuS2)等が挙げられ、塑性流動性をもつものでは、鉛等の軟金属、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が挙げられる。
【0013】
固体潤滑膜111の必須の条件としては、摺動面に強く固定されることが挙げられる。雲母は石墨のように層構造を有するが、摺動面に対して固定しにくいので固体潤滑膜111としては用いることはない。二硫化モリブデンはモリブデンを含む材料(摺動面の材料)に対しては親和性が高いので摺動面に対して固定し易く、これにより高い潤滑性が得られることが知られている。
【0014】
このように、固体潤滑膜111は摺動面に固定できなければ潤滑できないことを示すので、様々な固定方法が考案されている。主な方法としては、固体潤滑膜111を焼き付ける方法、特開昭61−112818号公報や特開平3−186608号公報に見られるようにめっき膜を保持部材として固定する方法がある。
【0015】
ところが、動圧空気軸受に固体潤滑膜111を適用する場合にも問題がある。それは動圧空気軸受の構造に原因がある。すなわち、動圧空気軸受は安定した動圧を発生させるために、摺動面に超精密加工による溝パターンが形成されている場合が多く、しかも摺動面のクリアランスは10μm以下と狭いこともあるので、固体潤滑膜111に超精密加工による溝パターンを形成しようとしても、固体潤滑膜111自身の特性により加工時に逃げが生じてしまい十分な精度を維持することができない。また、摺動面上に形成した固体潤滑膜111を含む層は、その剪断応力が低いことが潤滑機能を得るための必須の条件であるために、図6(b)に示すように、回転軸101が回転すると固体潤滑膜111の溝パターンの部分が大きく変形してしまう。こうした変形によって摺動面のクリアランスが狭くなり、軸受機能としての致命的な障害の原因になりかねない。
【0016】
すなわち、特開昭61−112818号記載の内容は、摺動面に固体潤滑膜を予め形成しておく一つの方法であるので、高速回転が要求される動圧空気軸受として機能しなくなってしまう。また、特開昭63−235719号公報には、比較的加工精度が緩い一方の回転軸にのみ固体潤滑膜を固定する方法も開示されているが、回転軸と軸受とが全く異なる工程を経るため、多くの設備を必要とし製造コストが高くなってしまう。
【0017】
本発明は、以上の説明のように、図5を参照して説明した凝着摩耗と、図6を参照して説明した固体潤滑のメカニズムの類似性に着目し、回転性能が高く、また、生産性を向上させ得る動圧空気軸受装置及び動圧空気軸受装置製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明の動圧空気軸受装置は、摺動面同士が互いに微小な隙間を開けて嵌合された回転軸と軸受との少なくとも一方の前記摺動面を金属を含む材料により形成し、前記金属を含む材料により形成した前記摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで前記摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い微粒子粉末を前記回転軸と前記軸受の前記摺動面同士の間に介在させた。したがって、摺動面の摩擦により発生した摩耗粉は物質と混合又は化合することにより機械的特性である剪断応力が低下するため、その混合物又は化合物の破断により潤滑機能が維持される。
【0020】
具体的には、摺動面がニッケルを含む場合には、摺動面同士の間に介在させる物質として、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)、カオリン(A12Si2 O 5(OH)4) 、セキテッ鉱(Fe203)等を用いることができる。
【0021】
請求項2の発明は、請求項1の発明の動圧空気軸受装置において、摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い硫化物を用いる。したがって、硫化物による物質は摺動面に強固に固定する特別の工程を経ることなく摺動面に形成される。
【0022】
具体的には、摺動面がニッケルを含む場合には、摺動面同士の間に介在させる物質として二硫化タングステン(WS2) 、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化銅(CuS2)等を用いることができる。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1記載の発明の動圧空気軸受装置において、摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い非金属無機物を用いる。したがって、安価な材料から物質を選択することが可能となる。
【0024】
具体的には、摺動面がニッケルを含む場合には、摺動面同士の間に介在させる物質として、石墨(C)、コウ石膏(CaSO4)、方解石(CaSO3) 等を用いることができる。
【0025】
請求項4の発明は、請求項1の発明の動圧空気軸受装置において、摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い有機物やその高分子を用いる。したがって、安価な材料から物質を選択することが可能となる。
【0026】
具体的には、摺動面がニッケルを含む場合には、摺動面同士の間に介在させる物質として、ポリ塩化ビニール(PVC) 、ポリアミド、アクリル等の樹脂等を用いることができる。
【0028】
請求項5の発明の動圧空気軸受方法は、摺動面同士が互いに微小な隙間を開けて嵌合された回転軸と軸受との少なくとも一方の前記摺動面を金属を含む材料により形成し、前記金属を含む材料により形成した前記摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで前記摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質として、微粒子粉末を揮発性溶媒により溶液として前記摺動面に塗布して前記回転軸と前記軸受の前記摺動面同士の間に介在させるようにした。したがって、摺動面の摩擦により発生した摩耗粉は物質と混合又は化合することにより機械的特性である剪断応力が低下するため、その混合物又は化合物の破断により潤滑機能が維持される。また、簡便な方法で、物質を摺動面同士の間に導入することが可能となる。
【0029】
請求項6の発明の動圧空気軸受方法は、摺動面同士が互いに微小な隙間を開けて嵌合された回転軸と軸受との少なくとも一方の前記摺動面を金属を含む材料により形成し、前記金属を含む材料により形成した前記摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで前記摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質としての微粒子粉末を、予め前記摺動面のクリアランスと同等又はそれ以下の大きさに加工した後に、揮発性溶媒中に分散させて前記摺動面に塗布して前記回転軸と前記軸受の前記摺動面同士の間に介在させるようにした。したがって、摺動面の摩擦により発生した摩耗粉は物質と混合又は化合することにより機械的特性である剪断応力が低下するため、その混合物又は化合物の破断により潤滑機能が維持される。また、溶解度の低い物質でも、摺動面同士の間に容易に導入することが可能となる。
【0034】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態を図1ないし図3に基づいて説明する。まず、図1を参照してポリゴンスキャナ1の構成について概略を説明する。図中、ポリゴンスキャナ1のハウジング2はケース3とカバー4とを螺子5で結合することにより形成されている。ケース3の底部中心には筒状の回転軸6を支持する軸受としての支持軸7が固定されている。また、ハウジング2には、回転軸6を駆動するモータ8が設けられている。また、支持軸7の外周面には、その軸心に対して傾斜する浅い溝9が形成されている。しかして、支持軸7と回転軸6との摺動面10,11との間に動圧空気軸受12が形成されている。さらに、回転軸6の端面とカバー4の内面との間には、マグネット13,14を互いに同一の磁極を対向配置することにより動圧空気軸受15が形成されている。さらに、回転軸6の外周にはポリゴンミラー16が固定的に嵌合されている。
【0035】
したがって、モータ8を駆動すると回転軸6がポリゴンミラー16とともに回転する。回転軸6の回転速度が上昇すると、溝9の効果により動圧空気軸受12の隙間の空気圧が高まり、動圧空気軸受12に空気圧による隙間が生ずるため、回転軸6が支持軸7に対して非接触状態で回転する。
【0036】
このような動圧空気軸受12は、起動及び停止時や衝撃を受けたときに回転軸6と支持軸(軸受)7とが接触するために潤滑する必要がある。以下、本発明の潤滑のメカニズムについて説明する。
【0037】
従来は、動圧空気軸受の摺動面に高硬度金属の皮膜を形成した場合に、その皮膜が脱落して摩耗粉を形成し、その摩耗粉は動圧空気軸受の摺動面に凝着し、やがて摺動面の内部で破断して溶着摩耗に至ることが分かった。また、従来の固体潤滑は、動圧空気軸受の摺動面の精度維持が困難であることも分かった。
【0038】
本発明は、金属を含む摺動面10,11(図1参照)に摩耗粉が必然的に発生するが、この摩耗粉を所定の物質に混合又は化合させることで剪断応力を減じ、摺動面10,11の間に挾まれた摩耗粉と物質との混合物又は化合物の内部で破断を発生させることにより、従来の凝着摩耗を解消し、さらに、従来の固体潤滑膜の欠点を解消しようとするものである。
【0039】
以降の説明のために用語の定義を確認する。回転軸6及び支持軸(軸受)7の摺動面10,11を構成する材料が摺動により破断して遊離したものを摩耗粉と呼び、この摩耗粉の機械特性(剪断応力)を低下させるために予め摺動面10,11上に存在させておく物質を変性剤と呼び、この変性剤と混合又は化合して機械特性が低下した変性物を変性摩耗粉と呼ぶ。
【0040】
本実施の形態における潤滑メカニズムの概念を図2及び図3に示す。本実施の形態では、回転軸6及び支持軸7の摺動面10,11は金属を含む材料により形成されている。そして、図2(a)に示すように支持軸7の摺動面11の上にのみ変性剤17を存在させているが、回転軸6及び支持軸7の摺動面10,11の何れか一方、又は両方に変性剤17を存在させても構わない。18は摺動面11の表面における加工跡の凸の部分である。回転軸6が図2(a)に示す停止状態から回転すると回転軸6は支持軸7に対して摺動するが、その摺動初期には図2(b)に示すように加工跡の凸の部分18が摩耗粉19として支持軸7の摺動面11から破断して遊離する。遊離した摩耗粉19は図2(c)に示すように変性剤17と混合又は化合して変性摩耗粉20となる。この変性摩耗粉20は、金属を含んでいるので摺動面10,11に対して高い親和性をもち、図3に示すように摺動面10,11に強固に固着するが、変性剤17により物性が変化した変性摩耗粉20は機械特性、特に剪断応力が減じられるため、摺動面10,11の内部では破断せずに、変性摩耗粉20の内部での破断が優先される。これにより、円滑な潤滑を行わせることができる。
【0041】
この場合、摺動面10,11と変性摩耗粉20との境界面にも剪断による破断が生ずるが、その境界面における剪断応力よりも変性摩耗粉20の剪断応力の方が低い値である。図3において、21は変性摩耗粉20の内部での破断箇所、22は変性摩耗粉20から摺動面10との境界面に達した破断箇所、23は変性摩耗粉20から摺動面11との境界面に達した破断箇所である。
【0042】
次に、変性剤17としての条件について具体的に説明する。変性剤17として必要な条件は、硬度が低いことは勿論であるが、摩耗粉19の金属との化学反応性も重要な因子である。摩耗粉19の主構成金属がニッケルのとき、仮に銅の酸化物を変性剤17として使用すると、酸化物の生成の標準自由エネルギーの差により、ニッケルの酸化と銅の還元が生じてしまう。この場合、ニッケルの酸化物は硬度が高いので砥粒として働いてしまう上に、還元して発生した銅はニッケルとの相互溶解性が高いために激しい凝着摩耗を引き起こす。このような考察により変性剤17としては以下の物質が望ましい。
【0043】
(変性剤の条件)
(a)摺動面10,11の構成金属(ニッケル)よりも酸化し易い金属による軟質金属。こうした物質(変性剤17)としては、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)、カオリン(A12Si2 O 5(OH)4)、セキテッ鉱(Fe203)等を挙げることができる。
雲母は劈開性をもちながら摺動面10,11に対する付着性が低いため、摩耗粉19とにより構成される変性摩耗粉20(固体潤滑膜に相当)として使用しにくいが、摺動面10,11を構成する材料によってはその材料との相性を考慮に入れて使用すれば、摩耗粉19を変性摩耗粉20として変性させる変性剤17として有効に働くことが期待される。
【0044】
(b)摺動面10,11の構成金属(ニッケル)よりも硬度の低い非酸化物セラミックス。これにはコウ石膏(CaSO4)、方解石(CaSO3) 等の他に、グラファィトや二硫化モリブデン(MoS2)等の従来から固体潤滑膜として有効とされている材料もあるが、これらは何らかの方法によって摺動面10,11に固定しなければ従来の意味での固体潤滑作用は得られない。このため、従来では、加工精度低下のリスクを覚悟して固体潤滑膜を含む摺動面10,11の超精密加工を行うことになる。ところが、本実施の形態では、金属を含む耐摩耗性材料の摺動面10,11を通常の仕上げ寸法で仕上げ加工した後に、その摺動面10,11に適した条件の変性剤17を存在させるだけでよいので、製造工程を簡略化し、製造コストを低減することができる。
【0045】
(c)摺動面10,11の構成金属(ニッケル)よりも硬度が低い有機物及びその高分子(樹脂)。これには殆ど全ての高分子を使用することが可能である。但し、それらの高分子(変性剤17)は摺動時に摩耗粉19と混合されずに単独で摺動面10,11上に残留する量が多いと、高分子の多くは可塑性であるため摺動時に軸間で溶融し、停止時にそのまま固化するおそれがある。この場合、摺動面10,11の精密加工面の形状が維持できないばかりか、次の回転時に起動不能となることが懸念されるので、摺動面10,11に導入する量は必要最小限に制限する必要がある。
【0046】
(変性剤の導入方法)
そこで、摺動面10,11の間への変性剤17の導入方法を吟味する必要がある。以下、好ましい例について説明する。
【0047】
(1)変性剤17を摺動面10,11の間のクリアランス(一般には10μm)以下の大きさに加工し、それらを所定の揮発性溶媒に溶解又は分散させたものを摺動面10,11の何れか一方又は両方に塗布し、しかる後に揮発性溶媒を揮発させて変性剤17を固定する。この方法は、高分子のみならず他の材料を用いた場合でも変性剤を最も簡便に摺動面10,11に固定することができる。この場合、揮発性溶媒に対する変性剤17の溶解度が低い場合には、変性剤17をジェット法等の固相法、重合法等の液相法、プラズマ法等の気相法等により微粒化しても構わない。揮発性溶媒には変性剤17の凝集し易さにおいて相性があるため、この点を考慮して選定する。
【0048】
(2)摺動面10,11の間のクリアランスが極めて狭く、変性剤17を均一に摺動面10,11の間に導入する必要がある場合は、スパッタリング法等に代表されるドライプロセス、ゾルゲル法等のウェットプロセスによって薄膜として導入する。この他、変性剤17が有機物の場合にはLB(ラングミュア プロジェット)法により導入することも可能である。
【0049】
(3)変性剤17が熱可塑性を有する高分子や融点の低い無機物等の場合は、変性剤17を加熱等によって流動性を高めて摺動面10,11の間に展開し、しかる後に変性剤17を冷却する等して流動性を下げて固定する。変性剤17を加熱により流動性を高める場合、加熱時間の短縮、コスト低減を目的とするだけでなく、摺動面10,11の超精密加工の精度維持のために、摺動面10,11の近傍のみ温度を選択的に上昇させることが望ましい。この手段として、レーザーや赤外線、マイクロ波等の電磁波を用いたり、電子線等を用いることができる。特に、赤外線フラッシュ加熱は他の方法に比べてコストが易く、最も好ましい方法である。
【0050】
(摺動面の構成材料)
本発明の潤滑メカニズムは、摺動面10,11に必然的に発生する摩耗粉19を固体潤滑膜(変性摩耗粉20に相当)に変化させることにある。したがって、摺動面10,11の条件は摩耗粉19の供給源としての観点による。
【0051】
第一に、摩耗粉19が変性剤17と混合又は化合する必要がある。この点から、摺動面10,11の構成材料には金属を含むことが望ましい。セラミックスの場合は、セラミックスの反応性が特に高くなる条件に使用環境を設定する必要がある。
【0052】
第二に、摺動面10,11と変性摩耗粉20との凝着性がある程度必要である。この点からも摺動面10,11の構成材料としてセラミックスよりも金属を含むことが望ましい。
【0053】
第三に、摺動面10,11内の剪断応力をある程度高くする必要がある。本実施の形態では、なじみ過程で発生する少量の摩耗粉19がさらに摩耗を引き起こす前に潤滑性をもたせることが特徴であるから、なじみ過程で一気に摺動面10,11の間のクリアランス以上の摩耗粉19を生じるようでは円滑な潤滑が得られない。したがって、純アルミニウムや高分子等の軟質材料のみによって摺動面10,11を構成するものは含まない。
【0054】
第四に、摺動面10,11の材料に金属を用いた場合、その金属の酸化し易さが問題になる。アルミニウム等のように酸化物の生成の標準自由エネルギーの絶対値が大きい場合、そのアルミニウムの摺動面10,11から破断した摩耗粉19は速やかに酸化して潤滑に不向きな高硬度の無機物になってしまう。そこで、酸化物の生成し易さによる分類すると、特に望ましい金属は、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Pb,Fe,Co,Crである。望ましくない金属は、Al,Mg,V,Mnである。
【0055】
以上の条件により、望ましいのは一般的に耐摩耗性材料として使用されている金属系材料ということになる。こうした材料にはニッケル基合金やクロム基合金、十分に焼入れした鉄系材料等が挙げられる。さらに望ましいのは、このような耐摩耗性金属とセラミックスとの複合材料による摺動面10,11である。
【0056】
次に、摺動面10,11の材料と変性剤17との組合せ、変性剤17の導入方法等について、具体的な例を挙げ、回転軸6を一定期間回転された後の実験結果について述べる。
【0057】
【実施例1】
この例では、アルミニウム製の回転軸6と支持軸7とにNi−P複合めっきを施し、両者の摺動面10,11をNi−P合金とSiCの複合材料とした。このとき、めっきの膜厚とめっきの分散粒子の平均粒径を変化させたところ、めっき膜厚は、1μm未満では破壊が起こり易く、かつ、めっきの平均粒径の2倍未満では分散粒子の脱落が多く仕上げ加工の精度を維持することができないことが明らかになった。そこで、本実施例ではめっきの膜厚を5μmとし、めっきの分散粒子の平均粒径を0.7μmとした。しかる後に摺動面10,11を超精密加工して図1に示すポリゴンスキャナ1を組み立てた。その組み立てに際し、摺動面10,11の間に変性剤17を導入した。変性剤17の種類と導入方法は、下記の(1)〜(5)の5通りである。
【0058】
(1)変性剤17としてのタルク(Mg3Si4O10(OH)2)をボールミルによって摺動面10,11の間のクリアランスより十分小さくなるように粉砕し、これを揮発性溶媒としてのエタノールに分散させたものを摺動面10,11に刷毛塗りし、しかる後にエタノールを揮発させてタルク粉末を摺動面10,11に導入した。この例では変性剤17としてタルクを用いたが、摺動面10,11の主材料となるニッケルよりも酸化し易い金属の酸化物であって、そのニッケルよりも十分に軟質(タルクはモース硬さ1)であれば本質的に問題がないので、カオリン(A12Si2 O 5(OH)4)、セキテッ鉱(Fe203)等を用いても構わない。また、この例ではタルクをボールミルにより粉砕したが、他の方法で微粒子としてもよい。
【0059】
(2)変性剤17としての二硫化モリブデン(MoS2)をボールミルによって摺動面10,11の間のクリアランスより十分小さくなるように粉砕し、これをエタノールに分散させたものを摺動面10,11に刷毛塗りし、しかる後にエタノールを揮発させて二硫化モリブデンの粉末を摺動面10,11に導入した。この例では二硫化モリブデンを用いたが、摺動面10,11の主材料となるニッケルよりも酸化し易い金属の酸化物であって、そのニッケルよりも十分に軟質(二硫化モリブデンはモース硬さ2)であれば、二硫化タングステン(WS2) 、二硫化銅(CuS2)等の硫化物、石墨(C)、コウ石膏(CaSO4)、方解石(CaSO3)等を用いても構わない。二硫化モリブデンや石墨は結晶方向によって剪断応力に異方性(劈開性)があるため、従来は固体潤滑膜として使用するときに、潤滑性を発現させるためには劈開面と摺動面とが平行になるように固体潤滑膜を固定しなければならず、これが維持できないと潤滑性が発現されなくなる。ところが、本発明では、単に潤滑性物質(変性摩耗粉20)の原料として働くのみであるので、従来のような制約はない。また、この例では二硫化モリブデンをボールミルにより粉砕したが、他の方法で微粒子としてもよい。さらに、摺動面10,11の間のクリアランスが特に小さい場合には、スパッタリング法、レーザーアブレーション等のドライプロセスにより変性剤17を薄膜状に摺動面10,11に導入することができる。
【0060】
(3)ジェット法等によって摺動面10,11の間のクリアランスより十分小さくなるように粉砕された変性剤17としてのポリ塩化ビニール(PVC)の微粒子をエタノールに分散させたものを摺動面10,11に刷毛塗りし、しかる後にエタノールを揮発させてポリ塩化ビニールの粉末を摺動面10,11に導入した。なお、ポリ塩化ビニールに代えてポリアミド樹脂やフェノール樹脂による変性剤17を用いてもよい。
【0061】
(4)変性剤17としてのアクリル等の樹脂(ポリメチルメタクリル酸)をアセトンに溶解し、これを摺動面10,11に塗布した。しかる後にアセトンを揮発させて薄膜状のアクリル樹脂を摺動面10,11に導入した。この例では塗布法によりアクリル樹脂の高分子を摺動面10,11に導入したが、ディップ法によっても導入することができる。また、摺動面10,11の間のクリアランスが特に小さい場合には、有機物の単分子膜をLB(ラングミュア プロジェット)法により導入することができる。
【0062】
(5)変性剤17としての粉末パラフィンをエタノールに分散させたものを摺動面10,11に塗布し、エタノールを揮発させてパラフィンを層状に摺動面10,11に導入した。しかる後に摺動面10,11を赤外線ランプによって加熱してパラフィンを溶融させて膜状に摺動面10,11に展開し、余分なパラフィンを摺動面10,11から除いた後、摺動面10,11上のパラフィンを冷却して固定した。このようにパラフィンを一旦溶融させることで必要最小限の量を均一に摺動面10,11に導入することができる。また、この方法により、パラフィンを摺動面10,11の間のクリアランス以下に加工する手間を省くことができる。この例では、パラフィンを溶融するために赤外線を用いたが、表面近傍を急速に加熱するものであればレーザーや電子線等の高エネルギービームにより加熱しても構わない。何れにしても、超精密加工した摺動面10,11が熱により変形しないことが必要である。
【0063】
以上のように、Ni−P合金とSiCとの複合材料とした摺動面10,11に、(1) 〜 (5)の方法でそれぞれ異なる変性剤17を導入した複数のポリゴンスキャナ1を組み立て、これらのポリゴンスキャナ1を繰り返して起動停止させる試験を行ったところ、試験開始後100回までに摩耗粉19と変性剤17とによる変性摩耗粉20(固体潤滑膜や潤滑保護膜に相当)が形成され、500000回後においても良好な潤滑状態を得ることができた。試験後、ポリゴンスキャナ1を解体して摺動面10,11を顕微鏡で観察すると、摺動面10,11に薄膜状に付着した変性摩耗粉20が観察された。これは変性摩耗粉20が固体潤滑膜として有効に働いていることを示している。また、摺動面10,11の間に残留する変性摩耗粉20の形状は、米粒状、ころ状のものが多い。これは変性摩耗粉20が摺動面10,11の間に挾まれるためにこうした形状になるものと考えられる。
以上の考察から、摺動面10,11で必然的に発生する摩耗粉19を変性剤17に混合又は化合させ変性した変性摩耗粉20を、固体潤滑膜として機能させることができることが確認された。
【0064】
【実施例2】
次に、実施例2について説明する。この例は、熱処理によりマルテンサイト系ステンレス鋼により回転軸6と支持軸(軸受)7とを作成した。したがって、両者の摺動面10,11は母材と同質である。そして、この回転軸6と支持軸7とれを超精密加工して図1に示すポリゴンスキャナ1を組み立てた。その組み立てに際し、摺動面10,11の間に変性剤17を導入した。変性剤17の種類と導入方法は、実施例1における(1) 〜 (5)の5通りであるので説明を省略する。
【0065】
以上のように、マルテンサイト系ステンレス鋼による摺動面10,11に、(1) 〜 (5)の方法でそれぞれ異なる変性剤17を導入した複数のポリゴンスキャナ1を組み立て、これらのポリゴンスキャナ1を繰り返して起動停止させる試験を行ったところ、試験開始後100回までに摩耗粉19と変性剤17とによる変性摩耗粉20(固体潤滑膜や潤滑保護膜に相当)が形成され、500000回後においても良好な潤滑状態を得ることができた。試験後にポリゴンスキャナ1を解体して摺動面10,11を顕微鏡で観察したところ、摺動面10,11の間に残留する変性摩耗粉20の形状は、米粒状、ころ状のものが多いことが確認された。これにより、本実施例においても、摺動面10,11で必然的に発生する摩耗粉19を変性剤17に混合又は化合させ変性した変性摩耗粉20を、固体潤滑膜として機能させることができることが確認された。
【0066】
【実施例3】
次に、実施例3について説明する。この例は、シリコンカーバイト(SiC) 微粒子とニッケル(Ni)微粒子とを混合し、これをHIP(熱間静水圧プレス)法によって所望の形状に加圧成形することにより回転軸6と支持軸(軸受)7とを作成し、その成形物をそれぞれアルミニウムによって形成された回転軸6及び支持軸7とに嵌合し、その表面を10μmの厚さに仕上げ加工した。これにより、回転軸6と支持軸7との摺動面10,11はシリコンカーバイトとニッケルとの複合材料である。そして、この回転軸6と支持軸7とれを超精密加工して図1に示すポリゴンスキャナ1を組み立てた。その組み立てに際し、摺動面10,11の間に変性剤17を導入した。変性剤17の種類と導入方法は、実施例1における(1) 〜 (5)の5通りであるので説明を省略する。
【0067】
以上のように、シリコンカーバイトとニッケルとの複合材料による摺動面10,11に、(1) 〜 (5)の方法でそれぞれ異なる変性剤17を導入した複数のポリゴンスキャナ1を組み立て、これらのポリゴンスキャナ1を繰り返して起動停止させる試験を行ったところ、試験開始後100回までに摩耗粉19と変性剤17とによる変性摩耗粉20(固体潤滑膜や潤滑保護膜に相当)が形成され、500000回後においても良好な潤滑状態を得ることができた。試験後にポリゴンスキャナ1を解体して摺動面10,11を顕微鏡で観察したところ、摺動面10,11の間に残留する変性摩耗粉20の形状は、米粒状、ころ状のものが多いことが確認された。これにより、本実施例においても、摺動面10,11で必然的に発生する摩耗粉19を変性剤17に混合又は化合させ変性した変性摩耗粉20を、固体潤滑膜として機能させることができることが確認された。
【0068】
本実施例においては、シリコンカーバイトとニッケルとの複合材料による部材を回転軸6と支持軸7とに嵌合することにより、回転軸6と支持軸7とに摺動面10,11を形成したが、HIP法或いは焼結法により、回転軸6と支持軸7とのそれぞれを、耐摩耗性の摺動面10,11とともに一体に形成してもよい。
【0069】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、回転軸と軸受との少なくとも一方の摺動面を金属を含む材料により形成し、金属を含む材料により形成した摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質を回転軸と軸受との摺動面の間に介在させたので、摩耗粉と物質との混合物又は化合物の破断により潤滑機能を維持することができる。
【0071】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い硫化物を用いるので、硫化物による物質は摺動面に強固に固定する特別の工程を経ることなく摺動面に形成される。これにより、物質の材料の選択幅を広げることができる。
【0072】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明において、摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い非金属無機物を用いるので、安価な材料から物質を選択することが可能となる。
【0073】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明において、摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い有機物やその高分子を用いるので、安価な材料から物質を選択することが可能となる。
【0075】
請求項5の発明によれば、回転軸と軸受との少なくとも一方の摺動面を金属を含む材料により形成し、金属を含む材料により形成した前記摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質を、揮発性溶媒により溶液として摺動面に塗布するようにしたので、摺動面の摩擦により発生した摩耗粉は物質と混合又は化合することにより機械的特性が低下するため、その混合物又は化合物の破断により潤滑機能を維持することができる。また、簡便な方法で、物質を摺動面同士の間に導入することが可能となる。
【0076】
請求項6の発明によれば、回転軸と軸受との少なくとも一方の摺動面を金属を含む材料により形成し、金属を含む材料により形成した摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで摩耗粉の機械特性を低下させる物質を、予め摺動面のクリアランスと同等又はそれ以下の大きさに加工した後に、揮発性溶媒中に分散させて摺動面に塗布するようにしたので、摺動面の摩擦により発生した摩耗粉は物質と混合又は化合することにより機械的特性である剪断応力が低下するため、その混合物又は化合物の破断により潤滑機能を維持することができる。また、溶解度の低い物質でも、摺動面同士の間に容易に導入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態におけるポリゴンスキャナの縦断側面図である。
【図2】潤滑メカニズムを概念的に示す模式図である。
【図3】潤滑メカニズムを概念的に示す模式図である。
【図4】従来の耐摩耗性部材による摺動の様子を概念的に示す模式図である。
【図5】従来の凝着摩耗のメカニズムを概念的に示す模式図である。
【図6】従来の固体潤滑メカニズムを概念的に示す模式図である。
【符号の説明】
6 回転軸
7 軸受
10,11 摺動面
17 物質
19 摩耗粉
Claims (6)
- 摺動面同士が互いに微小な隙間を開けて嵌合された回転軸と軸受との少なくとも一方の前記摺動面を金属を含む材料により形成し、前記金属を含む材料により形成した前記摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで前記摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い微粒子粉末を前記回転軸と前記軸受の前記摺動面同士の間に介在させたことを特徴とする動圧空気軸受装置。
- 摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い硫化物を用いることを特徴とする請求項1記載の動圧空気軸受装置。
- 摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い非金属無機物を用いることを特徴とする請求項1記載の動圧空気軸受装置。
- 摺動面同士の間に介在させる物質として、摺動面を構成する金属又はこの金属の酸化物よりも硬度が低い有機物やその高分子を用いることを特徴とする請求項1記載の動圧空気軸受装置。
- 摺動面同士が互いに微小な隙間を開けて嵌合された回転軸と軸受との少なくとも一方の前記摺動面を金属を含む材料により形成し、前記金属を含む材料により形成した前記摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで前記摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質として、微粒子粉末を揮発性溶媒により溶液として前記摺動面に塗布して前記回転軸と前記軸受の前記摺動面同士の間に介在させることを特徴とする動圧空気軸受装置の製造方法。
- 摺動面同士が互いに微小な隙間を開けて嵌合された回転軸と軸受との少なくとも一方の前記摺動面を金属を含む材料により形成し、前記金属を含む材料により形成した前記摺動面が破断することにより生成される摩耗粉と混合又は化合することで前記摩耗粉の機械特性である剪断応力を低下させる物質としての微粒子粉末を、予め前記摺動面のクリアランスと同等又はそれ以下の大きさに加工した後に、揮発性溶媒中に分散させて前記摺動面に塗布して前記回転軸と前記軸受の前記摺動面同士の間に介在させることを特徴とする動圧空気軸受装置の製造方法。
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