JP3657651B2 - 酵素電極用組成物および酵素固定化電極 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、生体試料中に含まれる特定成分を迅速に、容易に、なおかつ精確に定量することができる酵素センサーに関し、さらに詳しくは導電性酵素を用いた酵素固定化電極並びにその電極の製造のための酵素電極用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
酵素の高い基質特異性を利用して種々の物質の存在量を測定する酵素センサーが知られており、例えばグルコースの定量分析に有用なセンサーが実用化されている。
現在実用化されている酵素センサーは、例えば酸化酵素を利用した場合、生成する過酸化水素、水素イオンまたは消費された酸素量を、過酸化水素電極、水素イオン電極または酸素電極によって電気化学的に検出することにより被測定物質を定量している。
【0003】
このような酵素センサーは、被測定物質に対して高い基質特異性を有する酵素を基材に固定化し、試料中の被測定物質と酵素を接触させて、酵素の作用によって生じる物質を、例えば電気化学的に検出し、定量している。例えば、酸化酵素センサーは、酸化酵素を膜中に固定化し、その酵素膜を隔膜酸素電極上に装着して構成されている。基質である被測定物質が固定化された酵素の作用によって酸化されると、酵素膜に密着されている酸素電極の電流値が変化し、その値から基質の濃度が測定できるのである。
【0004】
また、基質と酵素との反応を電極で容易に検出可能なようにメディエーターをセンサー系に存在させることも行われている。例えば、人工メディエーターを電極表面に薄膜状に塗布し、さらにその上を半透明膜で被膜する方法が提案されている(EP−7863681)。また、難水溶性のメディエーターを電極中に含有させたり(Agric. Biol. Chem., 52, 1557(1988))、水溶性のメディエーターを電極に予め含有させた後、その電極表面にイオン性高分子と酵素とからなる組成物の薄膜を設けることで、電解液中にメディエーターが溶出しないようにする方法(Agric. Biol. Chem., 52, 3187(1988))などが提案されている。さらに酵素とフェロセンをパラフィンなどに混ぜてペースト状にしたものを電極に擦り込む方法が提案されている(Talanta, 38(1), 107-110(1991) )。
【0005】
しかしながら、従来の酵素センサーに用いられる電極、とりわけメディエーターを存在させた酵素電極の調製は一般に繁雑である。従って、安定して精度を得るためには、その製造過程において電極の品質管理に細心の注意が払われなければならなかった。また、従来の酵素センサーは電極としての寿命が十分でないとの問題点も指摘されていた。さらに、メディエーターが電極から漏出することがあると、生体内での計測ができない。従って、メディエーターを存在させる場合、その安定化も酵素センサー開発の重要な課題とされていた。
【0006】
このような背景の下、本発明者等は、導電性酵素と、導電成分と、ビヒクルとを含んでなる、酵素電極用組成物を発明し(以下、「先願発明」という)、先に出願を行った(特願平5−93900)。
先願発明の酵素電極用組成物は、基質濃度の変化に伴う酵素組成物の導電率の変化量により基質濃度を測定するものであるが、組成物を基材に固定化すると、溶液中に存在する場合に比べ導電率の変化量が極めて少ないか減少するという問題点があった。このため、導電率の変化量の小さい電位では、基質濃度を測定するのが困難な場合があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような先願発明の問題点を解決すべく、本発明は、基材に固定した場合においても、導電率の変化量が減少しない酵素電極用組成物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決する手段】
本発明者等は、酵素電極用組成物の各成分について鋭意検討を行った結果、従来、酵素電極用組成物の成分として極めて重要な役割を担っていると考えられていたカーボンパウダー、バッファー、界面活性剤、担体、溶媒等を除去し、酵素と所定のメディエーターと樹脂とからなる組成としたところ、意外にも基質濃度に伴う導電率の変化量が著しく増大するとともに、ダイナミックレンジが広がることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明による酵素電極用組成物は、導電性酵素と、メタロセン、金属錯体、ニコチンアミド誘導体、フラビン誘導体、キノンおよびキノン誘導体からなる群から選択される化合物と、親水性樹脂および/または疎水性樹脂を含む樹脂組成物とからなる酵素電極用組成物である。
また、本発明による酵素固定化電極は、前記酵素電極用組成物を基材に担持させてなるもの、である。
【0010】
本発明による酵素電極用組成物をスクリーン印刷などの手法によって絶縁性基材に担持させると、電極を構成することができる。従って、本発明による酵素電極用組成物を用いれば簡便な方法によって、安定した性能の酵素センサー用電極を製造することができる。また、本発明による組成物は、スクリーン印刷という種々のパターンの電極を容易に製造することができる手法を利用できる点でも有利である。また、本発明による酵素電極用組成物を用いて得られた電極中ではメディエーターが酵素に固定されているため、被検試料中へのメディエーターの漏出がなく安定した性能の電極を得ることができる点でも優れる。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
酵素電極用組成物
本発明による酵素電極用組成物は、被測定物質に基質特異性を有しかつ導電性を有する酵素を含んでなる。
ここで「導電性酵素」とは、その酵素がその系に存在する基質たる被測定物質の量に依存してその導電性を変化させる酵素を意味する。本発明において、導電性酵素とは、酵素それ自体が導電性を有するものに加え、各種メディエーターで修飾された結果導電性が付与された酵素であってもよい。
【0012】
ここで、メディエーターで修飾された結果導電性を付与された酵素とは、次のようなものを意味する。一般に酵素の活性サイトは酵素たる蛋白質の内部に存在するため、その酵素の作用の結果生じる電子の受け渡しを外部から、例えば電極を通じて観察することは一般には難しい。酸化酵素の場合、その電子の受け渡しを、消費される酵素または発生した水素イオンもしくは過酸化水素の量を介して観察することも可能であるが、それらの量を系中で安定化させることが困難な場合も多い。従って、系中に存在する基質量を正確に反映する指標とはなりにくい。しかし、この活性サイトと電極との間の電子の動きを(例えばそれ自体が酸化または還元されて)媒介するメディエーターを存在させると、活性サイトで生じる電子の動きを電極で安定して高い精度で観察することができる。よって、本発明においてメディエーターで修飾された酵素とは、上記のような役割を担うメディエーターで修飾され、その結果導電性を付与されたものを意味するものとする。
【0013】
本発明において好ましい導電性酵素としては、このメディエーターで修飾された酵素が挙げられる。この修飾酵素の態様としては、(1)酵素の側鎖(例えば、糖鎖、アルキル鎖、主鎖より枝分れしたペプチド鎖など)にメディエーターを共有結合を介して結合させたもの、(2)酵素の本体にメディエーターを共有結合を介して結合させたもの、さらに(3)酵素本体および酵素の側鎖にメディエーターを共有結合を介して結合させたもの、の三態様が挙げられる。これらの態様において、メディエーターと酵素とは適当なスペーサーを介して結合していても良い。
【0014】
本発明において、酵素は被測定物質との関係で適宜選択されてよく、またメディエーターは上記役割を担うものであれば特に限定されない。
好ましい修飾酵素の具体例としては、メディエーターで修飾されたオキシダーゼが挙げられる。ここでオキシダーゼの好ましい例としては、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D−またはL−アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼおよびコリンオキシダーゼからなる群から選択されるものが挙げられる。また、メディエーターの好ましい例としては、フェロセン、フェロセン誘導体、p−ベンゾキノン、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルファート、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)などが挙げられる。特にフェロセンまたはその誘導体が好ましい。好ましいフェロセン誘導体としては、例えば1,1’−ジメチルフェロセン、フェロセン酢酸、ヒドロキシエチルフェロセン、1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)フェロセン、フェロセンモノカルボン酸、フェロセン1,1’−ジカルボン酸、クロロフェロセン、メチルトリメチルアミノフェロセンなどが挙げられる。
【0015】
酵素とメディエーターの組み合わせとしては、グルコースオキシダーゼ(GOD)とフェロセンまたはフェロセン誘導体との組み合わせが挙げられる。
より具体的にはGODは次の反応:
【0016】
【化2】
【0017】
を触媒し、GODとフェロセンの組み合わせは、電子を次のように運ぶ。
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、FADはフラビンアデニンジヌクレオチドである)
メディエーターのフェロセンは過酸化水素と比較して低い電極電位でも測定可能であり、過酸化水素と類似した電位で還元される多くの物質(例えば、アスコルビン酸など)からの影響を受けることがない。
オキシダーゼへのメディエーターの導入は、オキシダーゼの酵素本体(例えば、リジン残基のアミノ基)および/または側鎖(例えば、糖鎖、アルキル鎖、主鎖より枝分れしたペプチド鎖など)に行われてよい。
【0020】
さらにこの導入は適当なスペーサーを介して行われてもよい。特に、側鎖へのメディエーターの導入はスペーサーを介して行われるのが好ましい。スペーサーとしては、イソプレン、ブタジエン、アセチレン、およびこれらの誘導体並びに各々のコポリマー等が挙げられるが、スペーサーの好ましい具体例としては、下記の式(I)で表されるスペーサーが挙げられる。
【0021】
【化4】
【0022】
(ここで、nは0〜8の整数を表す)
好ましい修飾酵素の具体例としては、オキシダーゼの酵素本体にリジン残基のアミノ基にフェロセンカルボン酸を酸アミド結合によって導入し、および/または、酵素の糖鎖を修飾して形成したアルデヒド基を利用して上記式(I)で表されるスペーサーを介してフェロセンカルボン酸を導入したものが挙げられる。
【0023】
最も好ましくは、オキシダーゼの酵素本体および糖鎖の両方に上記のようにフェロセンが導入されたものが挙げられる。この酵素本体および糖鎖にメディエーターが導入された修飾酵素は新規であり、後記する酵素固定化電極において特に好ましい特性を有することから、本発明の一態様を構成する。
酵素に導入されるメディエーター量は特に限定されないが、酵素1分子に対するメディエーター分子の比が1:50程度であるのが好ましく、特に酵素がオキシダーゼであり、メディエーターがフェロセンである場合、その比は1:5〜20程度が好ましく、より好ましくは1:10〜15程度である。
【0024】
図1は、酵素の本体および/または側鎖にメディエーターが導入された状態の模式図である。図中、(A)は酵素の側鎖にメディエーターを共有結合させたモデル、(B)は酵素本体および酵素の側鎖にメディエーターを共有結合させたモデル、(C)は酵素本体のみにメディエーターを共有結合させたモデルを表す。
本発明の酵素電極用組成物は、金属錯体、ニコチンアミド誘導体、フラビン誘導体、キノンおよびキノン誘導体からなる群から選択されるメディエーター(前述した導電性酵素のメディエーターとは別個のもの)を含む。
【0025】
金属錯体は、3族;ランタノイド、アクチノイド、4族;チタン、ジルコニウム、ハフニウム、5族;バナジウム、ニオブ、タンタル、6族;クロム、モリブデン、タングステン、7族;マンガン、テクネチウム、レニウム、8族;鉄、ルテニウム、オスミニウム、9族;コバルト、ロジウム、イルジウム、10族;ニッケル、パラジウム、白金、11族;銅、銀、金、12族;亜鉛、カドミウム、水銀などを中心にして単座配位子または多座配位子が配位したものを総称する。その各々には、テトラ(アリル)ランタノイドリチウム、トリス(ジメチルアミノ)メチルチタン、ビス(η−フルオロベンゼン)バナジウム、テトラキス(トリメチルシリルメチル)クロム(IV)、クロロトリカルボニル(1,10−フェナントロリン)レニウム(I)、クロロ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)、(η−アリル)トリカルボニルコバルト(I)、ジエチル(2,2’−ビピリジル)ニッケル(II)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)銅(II)過塩素酸塩、ビス(フェニルエチニル)亜鉛などが挙げられる。それらの中でも、例えば下記の構造式
【0026】
【化5】
【0027】
で表されるトリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)クロライドまたは下記の構造式
【0028】
【化6】
【0029】
で表されるトリス(1,10’−フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライドなどを用いるのが好ましい。
また、金属錯体はメタロセンであってもよい。メタロセンは、シクロペンタジエン環2個と各種の遷移金属とから構成されるが、代表的なものには中心の遷移金属が、鉄、ニッケル、ルテニウム、コバルト、クロミウム、チタン、バナジウム、マンガンである、フェロセン、ニッケロセン、ルテノセン、コバルトセン、クロモセン、チタノセン、バナジノセン、マンガノセンなどが挙げられる。さらにフェロセンの誘導体として、1,1’−ジメチルフェロセン、フェロセン酢酸、ヒドロキシエチルフェロセン、1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)フェロセン、フェロセンモノカルボン酸、フェロセン1,1’−ジカルボン酸、クロロフェロセン、メチルトリメチルアミノフェロセンなどが挙げられる。
【0030】
ニコチンアミド誘導体としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)などが挙げられ、フラビン誘導体としては、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フェナジンメトサルファートなどが挙げられ、キノンおよびキノン誘導体としては、p−ベンゾキノン、ピロロキノリンキノン(PQQ)などが挙げられる。
【0031】
酵素電極用組成物に以上のようなメディエーターを含有させることにより、特にダイナミックレンジが広がるという効果が得られ、生体試料中に含まれる特定成分を精確に定量することができる。
本発明の酵素電極用組成物における上記メディエーターの含有量としては、酵素1分子に対して混合するメディエーターの分子の比が1:1〜1:10であるのが好ましく、特に1:1〜1:5であるのが好ましい。1:10を超えると組成物中のメディエーター量が飽和してそれ以上の効果が得られず、1:1未満では効果が得られにくい。
【0032】
一方、本発明の酵素電極用組成物における親水性樹脂としては、ポリビニルピロリドンを用いるのが好ましいが、水およびアルコールに可溶な樹脂であれば、特に限定されない。具体的に例示すると、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリビニルメトキシアセタール(アセタール化48%)、ポリビニルアミン(75%Rh)、ポリビニルアルコール、ビスコースフィルム、酢酸セルロース(置換度DS=0.8)、ポリエチレングリコール、ポリビニルメトキシアセタール(アセタール化86%)等を挙げることができる。
【0033】
疎水性樹脂としては、ポリビニルブチラールを用いるのが好ましいが、水に不溶でアルコールに可溶な樹脂であれば、特に限定されない。具体的に例示すると酢酸セルロース(置換度DS=2.3)、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリイソブチルエーテル等を挙げることができる。親水性樹脂および疎水性樹脂の混合比は、用いる樹脂に応じて任意に設定することができる。例えば、ポリビニルピロリドンとポリビニルブチラールを用いる場合であれば、混合比を15:1 〜1:5、特に、5:1〜1:1とするのが好ましい。また、樹脂に混合した修飾酵素の溶出を無視できる場合であれば、親水性樹脂を単独で用いることも可能であり、また、例えば、重合度の低い(DP=1000未満)ポリビニルブチラールなどであれば、疎水性樹脂を単独で用いることも可能である。
【0034】
本発明による組成物はこれらの成分を適当な混合手段、例えば、アジテーター、ホモミクサー、三本ロールなどで混合して製造することができる。
酵素固定化電極の製造およびその用途
本発明による酵素電極用組成物は、それを基材に担持させることによって酵素固定化電極とすることができる。すなわち、組成物を基材に適用して、そのビヒクル成分を蒸発させて除くことによって、組成物を基材に担持させる。組成物の基材への適用方法は特に限定されないが、印刷技術に応用することができる。例えば、スクリーン印刷法、ローラーコーティング法、ディスペンサー法などの手法によって、組成物を基材に適用することができる。スクリーン印刷は、種々のパターンを比較的容易に印刷できる方法であることから特に好ましいといえる。
【0035】
こうして得られた酵素固定化電極は、その基質の存在量を測定するためのセンサー用電極として利用することができる。酵素固定化電極は、固定化された酵素を介して検体試料中の基質の存在量に依存してその導電性を変化させる。従って、その導電性の変化を基質の濃度が既知の系で予め標準化しておき、その結果に基づいて基質濃度が未知の試料の基質濃度を測定することができる。具体的には、本発明によって得られた酵素固定化電極と、対向電極と、参照電極を用いた系によって、基質濃度と酵素固定化電極の導電率の変化とを測定すればよい。
【0036】
図2は、センサー用電極の好ましい態様を示したものである。図2(a)は、基材1の上にスクリーン印刷の手法によって酵素電極用組成物を適用して、酵素固定化電極2を形成して得られた一極系電極であり、図2(b)はその斜視図である。また、図2(c)は、基材1の上に同様にスクリーン印刷の手法によって酵素電極用組成物を適用して酵素固定化電極2を形成し、さらに導電性酵素および金属錯体等のメディエーターを含まない以外は酵素電極用組成物と同一の組成の組成物を同様の手法で適用して形成した対向電極3を同一の基材1上に設けた二極系電極であり、図2(d)はその斜視図である。図2(c)および(d)の態様の場合、基材は絶縁性の物質であることが必要である。
【0037】
さらにそれらのセンサー用電極を備えたセンサーの模式図は図3(A)および(B)に示される通りである。電極5は本体部4と分離可能であり、電極5は使い捨て型とすることができる。
図4は、センサー用電極の他の好ましい態様を示したものである。このセンサー用電極は、本発明の酵素電極用組成物6をウエル7の内部に有するものであり、使用するにはウエル7の中に検体試料を滴下し、対向電極および参照電極を上部より設置すればよい。このようなウエルタイプの電極は、図2に示されるような短冊タイプの電極と比較して、用いる検体試料の量が少量で済むという点で優れている。また、本態様のように複数のウエルを設けることにより、連続的に測定することもできる。なお、各ウエルの電極は、一回きりの使用でよく、使い捨て型とすればよい。
【0038】
このセンサー用電極の製造工程の一例を図5に示す。まず、基板8を用意し(a)、その表面に金電極9をスクリーン印刷等により印刷し、焼成する(b)。次いで、金電極9の先端部に酵素電極用組成物6をスクリーン印刷等により印刷する(c)。一方、基板に形成された酵素電極用組成物6の位置に対応して孔10が設けられたプレート11を用意し、前記基板8に積層する(d)。
【0039】
このセンサー用電極における酵素電極用組成物に用いる樹脂は、前述した親水性樹脂および/または疎水性樹脂のいずれであってもよいが、好ましくは、親水性樹脂のみを用いる。このようなウエルタイプのセンサー用電極では、修飾酵素が溶出しても何ら問題はなく、また溶出した方がかえって反応が早くなるとともに、感度が良好になるからである。
【0040】
導電性酵素の製造
それ自体が導電性を有しない酵素の場合、メディエーターを導入することにより導電性酵素とすることが出来る。酵素へのメディエーターの導入は、上記したように酵素本体および側鎖のいずれに行ってもよく、またその導入は酵素本体または側鎖に存在する官能基(この官能基は酵素を酸化または還元して、もしくは酵素に存在する官能基と置換反応させることによって形成されたものであってもよい)と、メディエーターに存在する官能基(この官能基もメディエーターを酸化または還元して、もしくは酵素に存在する官能基と置換反応させることによって形成されたものであってもよい)とを反応させることによって行うことができる。
【0041】
さらにメディエーターのスペーサーを介しての導入も、そのスペーサーが有する官能基を利用して行うことができる。
酵素がオキシダーゼである場合の反応の具体例を以下に示す。
(1)酵素の側鎖へのメディエーターの導入
まず、オキシダーゼの糖鎖を、酵素の性質を変化させないような溶媒(例えばリン酸緩衝液)中において、適当な酸化剤(例えば、過ヨウ素酸ナトリウム)で酸化し、糖鎖にアルデヒド基を形成する。次いでスペーサーとして次の式(II):
【0042】
【化7】
【0043】
で表されるジヒドラジドを、そのアルデヒド基に導入する。この反応物とメディエーターとしてのフェロセンカルボン酸とを適当な還元剤(例えば、シアノボロハイドライドナトリウム)または縮合剤(例えば、カルボジイミド)の存在下で反応させる。
(2)酵素の本体および側鎖へのメディエーターの導入(A法)
まず前記(1)と同様の方法で酵素の側鎖にメディエーターを導入する。ついで酵素を変性剤(例えば、尿素)で処理してタンパク質内部を露出させ、Y.DeganiとA.Heller(J.Physical Chemistry,91,1285-1289(1987)) によるカルボジイミド法に類似の方法で、フェロセンカルボン酸を酵素の本体と側鎖とに導入する。
【0044】
(3)酵素の本体および側鎖へのメディエーターの導入(B法)
まず前記(1)と同様の方法で酵素の側鎖を酸化し、側鎖にアルデヒド基を形成する。次いで変性剤および縮合剤の存在下で前記式(II)で表されるジヒトラジドを酵素の側鎖に導入する。更に、変性されて側鎖にスペーサーが導入された酵素と、フェロセンカルボン酸と反応させる。
【0045】
(4)酵素の本体へのメディエーターの導入
前記(2)に準じて行うことができる。すなわち、酵素を変性剤で処理してタンパク質内部を露出させ、ついでカルボジイミド法に類似の方法で、フェロセンカルボン酸を酵素本体に導入する。
【0046】
【実施例】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下では次の略号を使用する。GOD:グルコースオキシダーゼ、HEPES:N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸。
【0047】
実施例1 GOD側鎖へのフェロセンの導入(その1)
(a) GOD(シグマ社製、TypeII、EC1.1.3.4.,Aspergillus niger、100mg) を0.1M、pH6.0のリン酸緩衝液(1ml)に溶かし、予め前記と同様の緩衝液に溶かしておいた20mM過ヨウ素酸ナトリウムと混合し、4℃で1時間放置した。続いてエチレングリコール(100μl)を加えて酸化反応を停止させた。その後、更に4℃で30分放置してから、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応混合物を48時間以上かけて透析した。
【0048】
(b) アジピルジヒドラジド(100mg乾燥粉末)を上記の透析の済んだ溶液に溶かし、その溶液を室温下、暗所にて一晩放置した。この溶液を、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら透析し、未反応のアジピルジヒドラジドを除いた。
(c) フェロセンカルボキシアルデヒド(濃度1mg/ml、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液2ml)を前記(b)で得たGODヒドラジド溶液(2ml)に混合し、4℃暗所にて一晩反応させた。シアノボロハイドライドナトリウムを10mMの最終濃度になるように混合し、1時間反応させた。次いでpH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応混合物を透析して、過剰のフェロセンカルボキシアルデヒドを除き側鎖にフェロセンが導入されたGODを得た。
【0049】
実施例2 GOD側鎖へのフェロセンの導入(その2)
(a) GOD(シグマ社製、TypeII、EC1.1.3.4.,Aspergillus niger、500mg) を0.1M、pH6.0のリン酸緩衝液(5ml)に溶かし、泡立てないように4℃でよく攪拌した。予め前記と同様の緩衝液に溶かしておいた20mM過ヨウ素酸ナトリウムを加え、4℃で1時間放置した。続いて反応を停止させるためにエチレングリコール(500μl)を加え、4℃で30分間攪拌した。この溶液を、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応混合物を48時間以上かけて透析した。
【0050】
(b) アジピルジヒドラジド(500mg乾燥粉末)を上記の透析の済んだ溶液に溶かし、その溶液を4℃で、一晩暗所で攪拌した。この溶液を、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら48時間以上透析し、未反応のアジピルジヒドラジドを除いた。
(c) あらかじめ1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(500mg)およびフェロセンカルボン酸(450mg)を0.15M HEPES緩衝液(25ml)に溶かしておき、pH7.3に調整した。このフェロセン溶液に、先の透析が完了した酵素溶液を混合し、途中2〜3回pHが7.3であることを確認しつつ4℃暗所にて一晩攪拌した。この酵素液について、リン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回以上交換しながら48時間以上かけて再び透析を行なった。続いて未反応のフェロセンカルボン酸および他の低分子成分を除き、側鎖にフェロセンが導入されたGODを得た。
【0051】
実施例3 GOD本体および側鎖へのフェロセンの導入(その1)
Y.DeganiとA.Heller(J.Physical Chemistry,91,1285-1289(1987)) による手法を参考にした。すなわち、フェロセンカルボン酸と酵素自身の遊離アミノ基とをカルボジイミド法にて反応させることにより、GOD本体にフェロセンを結合させた。
【0052】
(a) 実施例1(a)と同様にして過ヨウ素酸ナトリウムでGODの側鎖を酸化した。
(b) 実施例1(b)と同様にしてアジピルジヒドラジドを酸化したGODに反応させた。
(c) 尿素(810mg)、水溶性カルボジイミド(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド;100mg)およびフェロセンカルボン酸(80mg)をpH7.3、0.15M HEPES緩衝液(4ml)中でソニケーションし、pH7.2〜7.3に再び合わせた。このpHでフェロセンカルボン酸を飽和させた。前記(b)で得たGODヒドラジト溶液(2ml)を加え、必要に応じてpHを確認し、調整し、反応物を0℃下暗所にて一晩放置した。過剰量の試薬は、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応物を透析して、本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODを得た。
【0053】
また、アジピルジヒドラジド(n=4)に代えてスクシニルヒドラジド(n=2)を用いた以外は同様の方法で調製することによって、スペーサーがスクシニルヒドラジドである導電性酵素を得た。
比較例1
実施例3のアジピルジヒドラジド(n=4)に代えてオキサリルヒドラジド(n=0)およびセバシルヒドラジド(n=8)をスペーサーとして用いて導電性酵素の調製を試みた。しかしスペーサーがGODリン酸緩衝液に溶解しなかったため導電性酵素を調製することができなかった。
【0054】
実施例4 GOD本体および側鎖へのフェロセンの導入(その2)
酵素の酸化された側鎖のアルデヒド基(−CHO)と、酵素本体の遊離カルボキシル基(−COOH)との両方にアジピルジヒドラジドを反応させた。そしてフェロセンアルデヒドをヒドラジドと反応させた。
(a) 実施例1(a)と同様にして過ヨウ素酸ナトリウムでGOD側鎖の一部を酸化した。
【0055】
(b) 0.5Mアジピルジヒドラジド(pH5に調製:2ml)、塩化ナトリウム(9mg)、前記(a)で得た酸化GOD溶液(2ml)、1M水溶性カルボジイミド(1ml)および3M尿素を混合し、pHを5に調整した。室温下暗所にて4時間放置して反応を進めた。30分おきにpHを5に調整した。4時間後、反応液をpH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応液を透析した。
【0056】
(c) 前記(b)で得たGODヒドラジド溶液(2.5ml)を0.4mg/mlフェロセンカルボキシアルデヒド(2.5ml)と混合し、4℃暗所にて4時間反応させた。最終濃度が0.1mMになるようにシアノボロハイドライドナトリウムを加え、次いでpH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応液を透析して、本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODを得た。
【0057】
実施例5 GOD本体および側鎖へのフェロセンの導入(その3)
(a) GOD(500mg)を0.1M、pH6.0のリン酸緩衝液(5ml)に溶かし、泡立てないように4℃でよく攪拌した。予め前記と同様の緩衝液に溶かしておいた20mM過ヨウ素酸ナトリウムを加え、4℃で1時間放置した。続いて反応を停止させるためにエチレングリコール(500μl)を加え、4℃で30分間攪拌した。この溶液を、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応混合物を48時間以上かけて透析した。
【0058】
(b) アジピルジヒドラジド(500mg乾燥粉末)を上記の透析の済んだ溶液に溶かし、その溶液を4℃で、一晩暗所で攪拌した。この溶液を、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら48時間以上透析し、未反応のアジピルジヒドラジドを除いた。
(c) 尿素(4050mg)、1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(500mg)およびフェロセンカルボン酸(450mg)を0.15M HEPES緩衝液(25ml)に溶かし、pH7.3に調整した。このフェロセン溶液に、先の透析が完了した溶液を混合し、途中2〜3回pHを確認しつつ4℃暗所にて一晩攪拌した。この酵素液について、リン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回以上交換しながら48時間以上かけて再び透析を行なった。続いて未反応のフェロセンカルボン酸および他の低分子成分を除き、本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODを得た。
【0059】
実施例6 GOD本体へのフェロセンの導入(その1)
GOD(100mg)を0.1M、pH6.0のリン酸緩衝液(1ml)に溶かし、4℃でよく攪拌した。
尿素(810mg)、水溶性カルボジイミド(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド;100mg)およびフェロセンカルボン酸(80mg)をpH7.3、0.15M HEPES緩衝液(4ml)中でソニケーションし、pH7.2〜7.3に再び合わせた。このpHでフェロセンカルボン酸を飽和させた。前記GOD溶液を加え、必要に応じてpHを確認し、調整し、反応物を0℃下暗所にて一晩放置した。過剰量の試薬は、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、その外液を4回交換しながら反応物を透析して、本体にフェロセンが導入されたGODを得た。
【0060】
実施例7 GOD本体へのフェロセンの導入(その2)
GOD(500mg)を0.1M、pH6.0のリン酸緩衝液(5ml)に溶かし、4℃でよく攪拌した。
尿素(4050mg)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(500mg)およびフェロセンカルボン酸(450mg)を0.15M HEPES緩衝液(25ml)中に溶かし、pHを7.3に調整した。この溶液に前記GOD溶液を加え、途中2〜3回pHを確認しつつ、4℃下暗所にて一晩放置した。過剰量の試薬は、pH6.0、0.1Mリン酸緩衝液を外液とし、
その外液を4回交換しながら反応物を透析して、本体にフェロセンが導入されたGODを得た。
【0061】
実施例8 導電性酵素の評価(1)
金作用電極(直径1mm)、プラチナ対向電極、Ag/AgCl参照電極を用いたサイクリックボルタンメトリで、前記実施例で調製した導電性酵素を評価した。使用前に酸化アルミニウム(0.075μm)で作用電極を研磨した。測定は北斗電工ポテンシオシュタット/ガルバノシュタットモデルHAB−151とグラフテックWX1200記録計を用いて行なった。
【0062】
修飾酵素溶液は実施例で得られたものを希釈することなく用いた。過酸化水素の妨害を避けるために、最終濃度で0.1mg/mlのカタラーゼを加えた。最初に、導電性酵素のサイクリックボルタモグラムを基質非存在下で測定した。次に最終濃度で10mMになるようにグルコースを加えてから、同一条件下でサイクリックボルタモグラムを測定した。測定中は酸素の影響を除くため、窒素によるバブリングを充分に行なった。
【0063】
実施例1、2、3(スペーサーがアジピルジヒドラジド)、5、6および7の導電性酵素についての結果は、それぞれ図6、7、8、9、10および11に示される通りである。これらの図から明らかなように、基質としてグルコースが加えられることにより導電率の上昇が認められた。
なお、実施例2、5および7においては、金電極は直径5mmのものを用い、最終濃度8.25×10-2mMになるようグルコース溶液を加えた。
【0064】
実施例9 導電性酵素の評価(2)
実施例3において調製した2種類の導電性酵素(スペーサーがアジピルジヒドラジド(n=4)である場合およびスクシニルヒドラジド(n=2)である場合)を評価した。最終濃度で1.0mg/mlになるようにグルコース溶液を加えた以外は、実施例8と同様の方法でサイクリックボルタモグラムを測定した。
【0065】
結果は図12に示されるとおりである。スペーサーとしてアジピルジヒドラジドを用いた導電性酵素の方が、スクシニルヒドラジドを用いたものよりも高い応答を示した。
実施例10 導電性酵素の評価(3)
実施例3の導電性酵素(スペーサーがアジピルジヒドラジド)を、グルコースの最終濃度が0、0.02、0.06、0.08mg/mlの時のサイクリックボルタモグラムを測定することによって評価した。
【0066】
グルコースの濃度を変化させた以外は実施例11と同様の方法で測定を行った。 結果は図13に示されるとおりである。導電性酵素が存在する溶液系におけるグルコース濃度と導電率の増加には、正の相関関係が見い出された。
実施例11 導電性酵素の評価(4)
ICP(inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy)分析によって、実施例2、5および7で調製された導電性酵素について、GOD1分子あたり導入されているフェロセンの平均分子数を測定した。結果は、実施例2、5、7の導電性酵素に対してそれぞれ11.8個、14.2個、9.2個であった。これらの結果は導電率の増加(図7、9、11)と非常によく相関した。
【0067】
比較例2
GODとメディエーターとを単に混在させた系を実施例11と同様に評価した。すなわち、実施例11と同一の評価装置で、次のような混合物の導電率の変化を測定した。
GOD(未修飾) 100mg
フェロセン 1mg
リン酸緩衝液(pH6.0、0.1M) 30ml
カタラーゼ 3mg
グルコース 10mMまたは0mM
その結果は図14に示される通りである。この図から明らかなように、GODとメディエーターであるフェロセンは、単に混在しているだけでは、GODの導電率の変化にはほとんど寄与しないといえる。
【0068】
実施例12 ルテニウム錯体の評価
実施例8と同様のサイクリックボルタンメトリで、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)クロライド(以下、Ru(bpy)3 2+ という。)およびトリス(1,10’−フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライド(以下、Ru(phen)3 2+ という。)について評価した。Ru(bpy)3 2+ としては、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)クロライドヘキサハイドレートを使用し、Ru(phen)3 2+ としては、トリス(1,10’−フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライドハイドレートを使用した。
【0069】
修飾酵素溶液としては、実施例2で得られた導電性酵素を得られたままの状態、即ち溶液の状態で使用した。その添加量は、2ml(濃度4.3mg/ml)であった。なお、サイクリックボルタンメトリのスキャンレートは5.0mV/secであった。
最初に、Ru(bpy)3 2+ およびRu(phen)3 2+ のサイクリックボルタモグラムを基質非存在下で測定した。Ru(bpy)3 2+ の含有量は、0,2.2,6.6,11.0×108 mol で行い、Ru(phen)3 2+ の含有量は、0,2.1,6.3,10.5,14.7×108 mol で行った。結果を図15(a) ,(b) に示す。次に最終濃度で0.33mMになるようにグルコースを加えてから、同一条件下でサイクリックボルタモグラムを測定した。結果を図16(a) ,(b) に示す。
【0070】
実施例13 センサー用電極の調製
実施例2で得られた導電性酵素と、Ru(phen)3 2+ と、親水性樹脂(ポリビニルピロリドン;BASFコリドン90)と、エタノール(和光社製)とを次表に示す配合量で混合して、酵素電極用組成物を得た。なお、実施例2で得られた導電性酵素は、得られたままの状態、即ち溶液の状態で使用した。
基板としてガラス板を用意し、図5(b)のように、ゴールドペースト(有機ペースト,N.E.Chem Cat Ltd. 社製)をスクリーン印刷し、焼成した。その後、、形成した金電極の先端部に、得られた酵素電極用組成物を直径3mm、厚さ10μmとなるようにスクリーン印刷した。次いで、直径9mmの孔が設けられた厚さ3mmの塩化ポリビニルプレートの裏に接着剤を塗布し、図5(d)のようにして基板に重ね、接着した。また、同様にしてスクリーン印刷を2回行った酵素電極センサーを作製した。
【0071】
このようにして作製した酵素電極センサーを用い、グルコースの最終濃度が0、0.33mg/ml の時のサイクリックボルタモグラムを測定した。なお、対向電極としてはプラチナ、参照電極対極としてはAg/AgClを用いた。電位+700 mVの時の各グルコース濃度において測定した電流値を図17のグラフに示す。
比較例3 センサー用電極の調製
実施例2で得られた導電性酵素と、親水性樹脂(ポリビニルピロリドン;BASFコリドン90)と、エタノール(和光社製)とを次表に示す配合量で混合して、酵素電極用組成物を得た。なお、実施例2で得られた導電性酵素は、得られたままの状態、即ち溶液の状態で使用した。
実施例13と同様にして酵素電極センサーを作製し、グルコースの最終濃度が0、0.5、1.0mg/ml の時のサイクリックボルタモグラムを測定した。なお、対向電極としてはプラチナ、参照電極対極としてはAg/AgClを用いた。結果を図18のグラフに示す。また、電位+700 mVの時の各グルコース濃度において測定した電流値を図19のグラフに示す。
【0072】
実施例13における図17および比較例3における図19のグラフから明らかなように、金属錯体(Ru(phen)3 2+ )を含む酵素電極用組成物を用いたセンサーは、金属錯体を含まないセンサーよりもダイナミックレンジが広い。
比較例4 センサー用電極の調製
実施例3で得られた導電性酵素と、次表に示される成分とを混合して、組成物A、B、Cを得た。
1):クエン酸30g、クエン酸ナトリウム120gおよびアミルアルコール504gをボールミルポットに入れ30時間以上かけてよく混合し、スラリー状にしたものを使用した。
【0073】
2):ポリビニルピロリドン(BASFコリドン90)50.4g、ポリビニルブチラール(積水化学Bx−1)9.0gおよびアミルアルコール282.6gをアジテータでよく攪拌した後、一晩以上静置したものを使用した。
組成物AおよびBについて電位+450 mVの時の各グルコース濃度における電流値を次表に示す。
組成物Bに比べ組成物Aは、グルコース濃度の増加による電流の変化が大きく、検量線を作成するのに適している。
【0074】
次に組成物AおよびCを基材に塗布し、サイクリックボルタモグラムでその特性を評価した。組成物Aの結果を図20に、組成物Cの結果を図21に示す。組成物Aを用いた場合は、溶液系で観測されるようなグルコースの増加に伴う導電率の増加が観測されたが、組成物Cを用いた場合にはそのような導電率の増加が観測されなかった。
【0075】
実施例13、比較例1及び比較例4から明らかなように、カーボンパウダー、バッファー、界面活性剤、担体等を含む酵素電極用組成物よりも、それらを除去した酵素電極用組成物の方が基質濃度に伴う導電率の変化量が著しく大きく、さらにカーボンパウダー等を除去してなる酵素電極用組成物よりも、それに金属錯体(ルテニウム錯体)を加えた酵素電極用組成物の方がダイナミックレンジが広く、成分の精確な定量を行うことができる。
【0076】
【発明の効果】
本発明の酵素電極用組成物は、基材に固定化した場合でも導電率の変化量が減少しないので、検量線の作成が容易であり、またダイナミックレンジが広いため精確な定量が可能である。従って、操作が簡易でかつ精度の高い酵素センサーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酵素の本体および/または側鎖にメディエーターが導入された状態の模式図である。
【図2】本発明によるセンサー用電極の好ましい態様を示す。図2(a)は基材1の上に酵素固定化電極2を形成して得られた一極系電極であり、図2(b)はその斜視図である。また、図2(c)は酵素固定化電極2を形成し、さらに導電性酵素を含まない以外は酵素電極用組成物と同一の組成の組成物を同様の手法で適用して形成した対向電極3を同一の基材1上に設けた二極系電極であり、図2(d)はその斜視図である。
【図3】本発明によるセンサー用電極を備えたセンサーの模式図である。
【図4】本発明によるセンサー用電極の他の好ましい態様を示す。
【図5】図4におけるセンサー用電極の製造工程の一例を示す概略図である。
【図6】実施例1で得られた側鎖にフェロセンが導入されたGODのサイクリックボルタモグラムである。
【図7】実施例2で得られた側鎖にフェロセンが導入されたGODのサイクリックボルタモグラムである。
【図8】実施例4で得られた本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODのサイクリックボルタモグラムである。
【図9】実施例5で得られた本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODのサイクリックボルタモグラムである。
【図10】実施例6で得られた本体にフェロセンが導入されたGODのサイクリックボルタモグラムである。
【図11】実施例7で得られた本体にフェロセンが導入されたGODのサイクリックボルタモグラムである。
【図12】スペーサーの炭素数がn=2またはn=4である場合の、実施例3で得られた本体および側鎖のフェロセンが導入されたGODのサイクリックボルタモグラムである。
【図13】実施例3で得られた本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODの、グルコース濃度を変化させた時の、サイクリックボルタモグラムである。
【図14】GODとメディエーターとを単に混在させた系のサイクリックボルタモグラムである。
【図15】 (a) は、実施例2で得られた本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODと、Ru(bpy)3 2+ とを含む系のサイクリックボルタモグラムである。 (b) は、実施例2で得られた本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODと、Ru(phen)3 2+ とを含む系のサイクリックボルタモグラムである。
【図16】 (a) は、実施例2で得られた本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODと、Ru(bpy)3 2+ とを含む系に、グルコースを添加した溶液のサイクリックボルタモグラムである。 (b) は、実施例2で得られた本体および側鎖にフェロセンが導入されたGODと、Ru(phen)3 2+ とを含む系に、グルコースを添加した溶液のサイクリックボルタモグラムである。
【図17】実施例2で得られた導電性酵素と、Ru(phen)3 2+ とを用いた酵素電極センサーによる、電位+700 mVの時の各グルコース濃度における電流値のグラフである。
【図18】実施例2で得られた導電性酵素を用いた酵素電極センサー(金属錯体等を含まない)によるサイクリックボルタモグラムである。
【図19】実施例2で得られた導電性酵素を用いた酵素電極センサー(金属錯体等を含まない)による、電位+700 mVの時の各グルコース濃度における電流値のグラフである。
【図20】導電性酵素と樹脂からなる組成物のサイクリックボルタモグラムである。なお、グルコースの添加量は40μlである。
【図21】導電性酵素と、カーボンパウダー、バッファー、樹脂、界面活性剤、ブチルセロソルブ、アミルアルコールからなる組成物のサイクリックボルタモグラムである。なお、グルコースの添加量は40μlである。
【符号の説明】
1…基材
2,6…酵素固定化電極
3…対向電極
4…本体部
5…電極
7…ウエル
8…基板
9…金電極
10…孔
11…プレート
Claims (13)
- 導電性酵素と、金属錯体、ニコチンアミド誘導体、フラビン誘導体、キノンおよびキノン誘導体からなる群から選択される化合物と、親水性樹脂および/または疎水性樹脂を含む樹脂組成物とからなる、酵素電極用組成物。
- 親水性樹脂がポリビニルピロリドンであり、かつ、疎水性樹脂がポリビニルブチラールである、請求項1記載の酵素電極用組成物。
- 導電性酵素が、酵素に共有結合を介してメディエーターを維持させてなるものである、請求項1または2記載の酵素電極用組成物。
- 酵素がオキシダーゼである、請求項3記載の酵素電極用組成物。
- オキシダーゼが、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D−またはL−アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼおよびコリンオキシダーゼからなる群から選択される、請求項4記載の酵素電極用組成物。
- メディエーターが、フェロセン、フェロセン誘導体、ニコチンアミド誘導体、フラビン誘導体、キノンおよびキノン誘導体からなる群から選択される、請求項3記載の酵素電極用組成物。
- メディエーターが酵素の側鎖および/または酵素本体に導入されてなる、請求項3記載の酵素電極用組成物。
- 酵素がグルコースオキシダーゼであり、メディエーターがフェロセンまたはフェロセン誘導体であり、該メディエーターが酵素本体に、そして請求項8で定義された式(I)で表されるスペーサーを介して酵素の側鎖に導入されてなるものである、請求項8記載の酵素電極用組成物。
- 金属錯体がメタロセンである、請求項1記載の酵素電極用組成物。
- 金属錯体が、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム(II)クロライドまたはトリス(1,10’−フェナントロリン)ルテニウム(II)クロライドである、請求項1記載の酵素電極用組成物。
- 請求項1〜11いずれか一項記載の酵素電極用組成物を基材に担持させてなる、酵素固定化電極。
- 請求項1〜11いずれか一項記載の酵素電極用組成物をウエルの内部に有する、酵素固定化電極。
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