JP3657448B2 - 液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤およびその製造方法 - Google Patents
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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は液体クロマトグラフィー用充填剤、特に二段階膨潤重合法により得られる逆相系の液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤およびその製造方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用充填剤は無機担体を基材とするものと有機担体を基材とするものに大別することができる。しかし実際には無機担体であるシリカゲルを基材とした充填剤の使用頻度が高く、HPLCの全分離モードの60%以上を占める逆相液体クロマトグラフィーではシリカゲル担体表面を化学修飾したアルキルシリル化シリカゲルが主に用いられている。これらシリカゲル基材の充填剤は優れた分離性能を示し、また機械的強度も良好であるが、その反面化学的安定性が低く、また表面に残存するシラノール基あるいはシリカゲル基材の金属不純物などによる好ましくない二次的保持効果の発現などの欠点を有している。
【0003】
これに対して有機ポリマー充填剤は化学的に安定であり、従来サイズ排除クロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィー用充填剤としてシリカゲル用充填剤と同等以上に使用されてきた。また、逆相クロマトグラフィーにおいてシリカゲル充填剤の使用できない分離条件下においても使用可能で、近年その分離特性の理解も進み、シリカゲルを上回る分離特性が示された分離例なども見られるようになってきている。
【0004】
ポリマー充填剤は天然高分子から架橋を経て調製されるものとビニルモノマーの重合で得られる架橋高分子によるものに大別される。前者の代表としてはアガロース、デキストラン、マンナンなどの多糖誘導体から合成された充填剤が挙げられるが、一般に耐圧性が低くHPLC用充填剤としては用いることはできない場合もある。一方合成ポリマー充填剤にはポリスチレンジビニルベンゼンおよびその誘導体、ポリメタクリレート系ゲル、ポリアクリルアミド系ゲルがある。この中でポリスチレンジビニルベンゼン、ポリメタクリレート系ゲルは逆相クロマトグラフィー充填剤として利用され、化学的にも安定であり、シリカゲル系充填剤と比べて幅広いpH領域での使用が可能であり、金属不純物による悪影響を受けることがない。合成ポリマー充填剤はモノマーおよび架橋剤を希釈剤に混合して重合し、多孔質化を図る方法で合成されることが多い。合成する高分子に対して良溶媒を用いると小さな細孔がまた、逆に貧溶媒を用いるとより大きな細孔が形成され、この希釈剤を使用するモノマーとの組み合わせによって細孔径の制御が可能であることから、操作が簡便な懸濁重合法と組み合わせることにより球状多孔性ポリマー充填剤が合成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このポリマー充填剤にはポリマー粒子の細孔の分布に関する構造上の問題があった。すなわち、ポリマー充填剤はシリカゲル充填剤と異なりいわゆる細孔(メソポア)とは別にポリマーの架橋構造に由来するミクロポアと呼ばれる微細孔(通常2nm以下とされる)を持つ二重細孔構造を有している。そのため一般にポリマー充填剤においては溶質分子の浸透できる範囲が大きくなる場合がある。これらをクロマトグラフィー用カラムに充填して試料の分離に用いると、シリカゲル充填剤を使用した場合と大きく異なる分離特性を示すことになる。そしてこのような微細孔の存在による分離能の影響の制御が困難であるため、その影響は分析試料に対する分離能の低下として現れていた。
【0006】
実際のHPLCの分析においてこの微細孔の悪影響は、充填剤への分析試料の保持が強く、立体構造の大きなものほど顕著に現れ、クロマトグラムにおいてはピークの幅を広くし理論段数を低下させる。対象物質の構造による影響は、微細孔内を分析試料が通過する時、この微細孔空間より十分小さな分子は保持の影響をあまり受けないが、大きな分子はこの空間内での疎水性相互作用により保持が起こるためである。
【0007】
この微細孔によるクロマトグラフィーにおける悪影響はポリマーの重合・架橋の状態を変えることにより低くすることができる。すなわち重合によってできるポリマーの直鎖部分を同一の長さにし、架橋点間の距離を長くすれば、微細孔空間が大きくおおよそ同程度の大きさをもつ微細孔となり、充填剤性能の低下を押さえることが可能である。架橋点間の距離を長くするには、架橋の割合を小さくすることにより可能であるが、単に架橋の割合を少なくしただけでは強度面で弱い粒子となってしまうためHPLC用の充填剤として使用できない。そのため重合・架橋の方法、条件を制御することにより充填剤の調製を行う必要がある。例えばこの制御法の一つとしてモノマーの重合法として低温下で重合を行う酸化還元重合を用いる方法がある。酸化還元重合は通常粒子調製に用いられ熱重合に比較して、微細孔の空間を大きくし、ポリマー充填剤のクロマトグラフィーにおける理論段数の低下を押さえることが可能である。この方法は微細孔制御という点で極めて有用であるが、微細孔内の化学的性質は変化していないので充填剤性能の向上にはある程度の限界があった。
【0008】
また、ポリマー充填剤においては、さらに膨潤収縮という問題がある。膨潤収縮とは、ポリマー粒子が溶液中に存在する際に周りの溶液の性質よって膨潤したり、収縮したりする性質である。液体クロマトグラフィー用充填剤としてポリマー粒子を用いる際に、カラム内で粒子の大きさが変化すると著しくカラム性能を低下させる。すなわちカラム内での粒子の膨潤はカラム圧力を上昇させ事実上使用することができない。また粒子の収縮はカラム内での不要な空隙を作るために著しく分離能を低下させる。そのため実際は、粒子が膨潤収縮を起こさない移動相組成が限定された範囲でのみ使用可能であった。
【0009】
したがって、未だ微細孔の問題及び膨潤収縮の問題を解決し、その性質を活かしたポリマー充填剤は得られていない。
本発明の目的は、この微細孔の問題及び膨潤収縮の問題を解決し、その性質を活かした優れた分離性能をもち、膨潤収縮を起こさない液体用クロマトグラフィー用ポリマー充填剤およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、発明者らが鋭意検討した結果、ポリマー充填剤において微細孔内の化学的性質の改変を行い、粒子径単分散の系にすると、クロマトグラフィー用カラムの分離性能の向上が可能な液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤が得られることがわかった。そして、その適切な製造方法も開発した。
【0011】
すなわち、微細孔の化学的性質を決定しているのは、ポリマーを構成するモノマーまたは架橋剤の種類によるところが大きい。また先に述べたように逆相クロマトグラフィー用充填剤において、微細孔における分離性能の低下は試料と微細孔内との疎水性相互作用による。そこで逆相クロマトグラフィー充填剤としての保持力を維持しつつ、微細孔内の親水性を高めることで試料と微細孔の疎水性相互作用を弱くさせることにした。微細孔の親水性化を行う際にモノマーとしてグリセリンジメタクリレートを用いた。
【0012】
しかしながら、通常グリセリンジメタクリレートのみで架橋重合させた粒子は、逆相充填剤としては疎水性が小さい。そこで粒子に疎水性を持たせるためにより疎水性の高いモノマー(具体的にはメチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなど)を重合前に混合し共重合させて、粒子を調製し充填剤を得ている場合もある。しかしながら粒子内でグリセリンジメタクリレートなどの架橋剤の割合が小さくなると粒子の膨潤収縮の性質が現れるという問題が発生する。
【0013】
そこで膨潤収縮を抑制するためにグリセリンジメタクリレートのみで架橋重合を行った後に、逆相充填剤としての保持力を持たせるために化学的にアルキル基等の疎水基による修飾を行った。アルキル基等の疎水基をバランス良く粒子内に修飾することで微細孔内に親水化の性質もあり、かつ逆相充填剤としての保持力を有している。こうして調製された粒子は膨潤収縮なく、粒子を充填したカラムは理論段数が高く優れた分離性能を示すようになる。
【0014】
しかしながら、上記のように微細孔を親水性化し、化学的にアルキル基で修飾するだけでは、その性質を充分に発揮した本発明にかかるポリマー充填剤とはならなかった。本発明者らはその原因がポリマー充填剤の粒子径の分布に関する問題であることをさらにつきとめた。そしてこれはポリマー充填剤の製造方法に由来するところが大きい。ポリマー充填剤の合成には主に懸濁重合法が利用されるが、この方法で得られた粒子の粒子径分布は極めて広く、この粒子をそのままカラムに充填しても、使用に望まれるカラム性能は得ることができない。粒子径の分布に大きな幅があるため理論段数の低下を引き起こすのである。また目的の粒径に比べかなり小さな粒子は分析中のカラム圧力の上昇を引き起こし、機械的強度の弱いといわれるポリマー充填剤を破損する可能性がある。一方粒子径は小さなものほど分離性能を引き上げるため目的粒子径よりも大きな粒子の混合は結果としてカラム性能を低下させることになる。
【0015】
そこで通常は得られたポリマー粒子を分級作業によってクロマトグラフィー用充填剤として適当な粒子径をもつ部分のみに分けて使用することが行われている。しかし分級作業は大きな設備を必要とし作業的に困難であり、分級を行うにも事実上限界がありどうしてもある程度の分布が生じる。また分級精度を上げるとはじめに得られたポリマー粒子のごく一部のみを使用することになり、充填剤としての収量を低くし、高コストとなってしまう。
【0016】
そこで、本発明者らは粒子径単分散ポリマー充填剤とするために、公知の二段階膨潤重合法を採用することにした。
具体的な製造方法としては、架橋剤として親水性のあるグリセリンジメタクリレートのみを用い架橋重合を二段階膨潤重合法を用いて行い、得られた粒子径単分散ポリマーに疎水基を化学的に導入することによって逆相系ポリマー充填剤の調製を行った。
【0017】
すなわち、本発明にかかるポリマー充填剤は、スチレンを骨格とする粒子径単分散ポリマー充填剤において、該ポリマー充填剤の細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したことを特徴とする。
また、上記本発明のスチレンを骨格とするポリマー充填剤においては、下記構造の単位を含むことが好適である。
【0018】
【化5】
また、上記本発明のスチレンを骨格とするポリマー充填剤においては、さらに下記構造の単位を含むことが好適である。
【0019】
【化6】
(Rは、炭素数1〜18炭化水素基を表す)
【0020】
また、本発明にかかるポリマー充填剤は、二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤において、該ポリマーの細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したことを特徴とする。
また、上記二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤においては、下記構造の単位を含むことが好適である。
【0021】
【化7】
【0022】
また、上記二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤においては、さらに下記構造の単位を含むことが好適である。
【0023】
【化8】
(Rは、炭素数1〜18の炭化水素基を表す)
【0024】
また、本発明にかかるポリマー充填剤の製造方法は、二段階膨潤重合法により、グリセリンジメタクリレートのみを重合させることにより得られたポリマーに、化学修飾により疎水基を導入することを特徴とする。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、粒子径単分散の充填剤において、該充填剤粒子の細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したポリマー充填剤を提供するものであるが、その説明図を図1に示す。通常のポリマー充填剤においては、細孔(メソポア)以外にポリマーの架橋構造に由来する微細孔(ミクロポア:通常2nm以下)が存在するが、本発明においては親水性基(図1中の−OH)により親水性化し、その悪影響を少なくすることができる。そして、逆相系充填剤とするため、化学修飾により疎水基を導入することにより、本発明のポリマー充填剤となる。この際、親水性基(図1中の−OH)の一部を修飾するので、本発明の充填剤においては、親水性基と疎水性基が混在することになる。
【0026】
本発明にかかるポリマー充填剤をつくる際に用いられる微細孔に親水性を付与する具体的な架橋剤としては、グリセリンジメタクリレートが挙げられる。
本発明のポリマー充填剤において用いられるグリセリンジメタクリレートは、例えばグリシジルメタクリレートとメタクリル酸の付加反応から合成可能である。グリセリンジメタクリレートは、これのみで重合させる。そして、得られたポリマーに化学修飾剤を反応させることにより化学的に疎水基を導入する。この修飾の程度により、ポリマーの微細孔の親水性、疎水性のバランスを適宜制御する。
【0027】
化学修飾剤としては、例えばCH3(CH2)6COCl、CH3(CH2)16COCl、塩化ベンゾイルなどの炭素数1〜18の炭化水素基が導入できる化合物が挙げられるが、なかでもアルキル基を導入できる化合物がとくに好ましい。
【0028】
したがって、本発明にかかるポリマー充填剤においては、架橋剤としてグリセリンジメタクリレートを用いたものは、その構造中に
【化9】
の単位をもつことになる。
したがって、この構造単位をもつポリマー充填剤は、親水性基である水酸基で微細孔を親水性化したものとなる。
【0029】
また、前記化学修飾により、炭素数1〜18の炭化水素基を導入されたポリマー充填剤はその構造中に
【化10】
(Rは、炭素数1〜18の炭化水素基を表す)
の単位をもつことになる。なお、上記炭化水素基Rの炭素数としては18まで可能であり、炭化水素基は好ましくはアルキル基である。
【0030】
本発明の粒子径単分散系のクロマトグラフィー用ポリマー充填剤は、これらグリセリンジメタクリレートの架橋剤のみを用いて公知の二段階膨潤重合法を用いることによってポリマーを得、一般的な化学修飾によって炭化水素基を導入することにより製造することができる。
【0031】
二段階膨潤重合法は、ソープフリーシード重合により得られた1μm程度の極めて均一な粒子径を持つ種粒子に、膨潤助剤および架橋剤を二段階の工程で膨潤させ粒子径を拡大し、その後重合することによって均一な粒子径のポリマー粒子を得る方法である。この場合膨潤工程で粒子径の均一性は損なわれることはなく、また高度に架橋された粒子合成も可能であり、種粒子をモノマーと共に希釈剤を用いて膨潤すれば多孔性の粒子とすることもできる。この方法によって得られた粒子の単分散性は種粒子の粒子分布に従い、非常に良好なものであり、全く分級作業を行うことなく、容易に粒子径単分散の充填剤を調製可能とする。これは従来一般的に用いられている懸濁重合法による調製の後、分級操作を繰り返したものに比べてはるかに粒子径の均一性が高い。
【0032】
上記二段階膨潤重合法において、核となる種粒子にはスチレンが用いられ、ポリマー充填剤において骨格をつくる。また、膨潤助剤としてはフタル酸ジブチル、希釈剤としてはシクロヘキサノール、トルエン、重合開始剤としてはベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0033】
また、本発明充填剤を充填したクロマトグラフィー用カラムは粒子径の均一性が高く、しかも膨潤収縮を起こさないので圧力を抑制することができる。そのため機械的強度の弱いポリマー充填剤にも問題なく使用できる。カラム圧力を抑制することが可能であれば、より高性能化が図れる粒子径の小さな充填剤も容易に用いることができ、分離性能の向上、高速化が可能となる。
【0034】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例 液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤
(架 橋 剤) グリセリンジメタクリレート
(疎水基R) CH3(CH2)6−
(製造方法) 二段階膨潤重合法
【0035】
ソープフリーシード重合により得られた1μm程度の極めて均一な粒子径をもつスチレン種粒子に、膨潤助剤であるフタル酸ジブチルにて1段階目の膨潤を行った。次いでグリセリンジメタクリレート、シクロヘキサノールおよびアゾビスイソブチロニトリルからなる混合液を添加して撹拌後2段階目の膨潤を行った。そして、70℃に加熱して24時間重合を行った。
【0036】
反応終了後、重合反応器室温まで冷却し、化学修飾剤CH3(CH2)6COClを反応させ生成物を分離した。生成物を十分に水洗し、アセトンを用いてシクロヘキサノールを除去した後、乾燥して微小のスチレンを骨格とする多孔質球状ゲルを得た。
【0037】
比較例1 液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤
(架 橋 剤) グリセリンジメタクリレート
(モノマー) 2−エチルヘキシルメタクリレート
(モ ル 比) 架橋剤:モノマー =5:5
(重合方法) 懸濁重合
【0038】
重合反応器に、ポリビニルアルコールを溶解した水溶液を仕込んだ。次いでこの水溶液中に純度95%グリセリンジメタクリレート、シクロヘキサノールおよびアゾビスイソブチロニトリルからなる混合溶液を添加し、攪拌しつつ、70℃に加熱して24時間重合反応を行った。
【0039】
反応終了後、重合反応器を室温まで冷却し、生成物を分離した。生成物を十分に水洗し、アセトンを用いてシクロヘキサノールを除去した後、乾燥して微小の多孔質球状ゲルを得、分級して粒子径15〜20μmのものを比較例1の充填剤とした。
【0040】
つぎに、上記実施例、比較例1およびシリカゲル充填剤の比較例2について移動相のアセトニトリルの濃度を変化させ、カラム圧を測定することにより膨潤収縮について測定を行った。その結果を図2に示す。
図2より、グリセリンジメタクリレートおよび2−エチルヘキシルメタクリレートの重合により得られたポリマー充填剤である比較例1は、移動相の有機溶媒アセトニトリルによりカラム圧が上昇し、大きく膨潤収縮が見られることがわかる。これに対して、本発明の実施例の充填剤は、膨潤収縮はほとんどなく、膨潤収縮のないシリカゲルの比較例2の充填剤と比較しても同等であることがわかる。
なお、アセトニトリル100%に近づくにつれて、カラム圧が低下するのは移動相の粘性が低下するためである。
【0041】
したがって、本発明の液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は膨潤収縮がないので、特に濃度勾配をかける溶出においても優れた分離能を保つことができる。
また、本発明の膨潤収縮のないポリマー充填剤はグリセリンジメタクリレートのみで重合することにより初めて得られるものであることがわかる。
【0042】
つぎに、本発明のポリマー充填剤(実施例)により液体クロマトグラフィーを行った結果を図3に示す。なお、図3における標準試料はベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、トリフェニレンの単素環化合物5種の混合物を用いた。
図3より明らかなように、単素環化合物5種の溶出ピークがシャープに出ており、極めて分離能に優れていることがわかる。
これに対して、比較例1のポリマー充填剤により液体クロマトグラフィーを行った結果を図4に示す。なお、試料は実施例と同様の単素環化合物5種の混合物を用いた。図4より明らかなように、分子量の小さいベンゼンは比較的溶出ピークがシャープに出ているが、分子量が大きくなるにつれてピークが広がり分離能が落ちていることがわかる。
【0043】
つぎに、本発明のポリマー充填剤(実施例)により液体クロマトグラフィーを行った結果をさらに図5にもう一つ示す。なお、図5における試料は10種の化合物の混合物を用いた。用いた化合物は溶出順にウラシル、カフェイン、フェノール、2−エチルピリジン、安息香酸メチル、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルアニリン、フェニルアセチルアセトン、ナフタレンである。本発明の液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は膨潤収縮がないだけではなく、優れた分離能をもつことがわかる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にかかる液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は、スチレンを骨格とした粒子径単分散のポリマー充填剤において、該ポリマー充填剤の細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したので、膨潤収縮が少なく優れた分離能を得ることができる。
また、本発明にかかる液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は、二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤において、該ポリマーの細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したので、膨潤収縮がなく優れた分離能を得ることができる。
また、二段階膨潤重合法により、グリセリンジメタクリレートのみを重合させて得たポリマーに、化学修飾剤により疎水基を導入することにより得るポリマー充填剤の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるポリマー充填剤の説明図である。
【図2】実施例、比較例の充填剤の移動相有機溶媒の濃度変化による膨潤収縮を示す図である。
【図3】実施例で得られたポリマー充填剤をカラムに充填して、単素環化合物5種混合物を標準試料とし、逆相系での分配クロマトグラフィーを行った結果得られた溶出パターンである。
【図4】比較例1で得られたポリマー充填剤をカラムに充填して、単素環化合物5種混合物を標準試料とし、逆相系での分配クロマトグラフィーを行った結果得られた溶出パターンである。
【図5】実施例で得られたポリマー充填剤をカラムに充填して、化合物10種混合物を標準試料とし、逆相系での分配クロマトグラフィーを行った結果得られた溶出パターンである。
【発明の属する技術分野】
本発明は液体クロマトグラフィー用充填剤、特に二段階膨潤重合法により得られる逆相系の液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤およびその製造方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用充填剤は無機担体を基材とするものと有機担体を基材とするものに大別することができる。しかし実際には無機担体であるシリカゲルを基材とした充填剤の使用頻度が高く、HPLCの全分離モードの60%以上を占める逆相液体クロマトグラフィーではシリカゲル担体表面を化学修飾したアルキルシリル化シリカゲルが主に用いられている。これらシリカゲル基材の充填剤は優れた分離性能を示し、また機械的強度も良好であるが、その反面化学的安定性が低く、また表面に残存するシラノール基あるいはシリカゲル基材の金属不純物などによる好ましくない二次的保持効果の発現などの欠点を有している。
【0003】
これに対して有機ポリマー充填剤は化学的に安定であり、従来サイズ排除クロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィー用充填剤としてシリカゲル用充填剤と同等以上に使用されてきた。また、逆相クロマトグラフィーにおいてシリカゲル充填剤の使用できない分離条件下においても使用可能で、近年その分離特性の理解も進み、シリカゲルを上回る分離特性が示された分離例なども見られるようになってきている。
【0004】
ポリマー充填剤は天然高分子から架橋を経て調製されるものとビニルモノマーの重合で得られる架橋高分子によるものに大別される。前者の代表としてはアガロース、デキストラン、マンナンなどの多糖誘導体から合成された充填剤が挙げられるが、一般に耐圧性が低くHPLC用充填剤としては用いることはできない場合もある。一方合成ポリマー充填剤にはポリスチレンジビニルベンゼンおよびその誘導体、ポリメタクリレート系ゲル、ポリアクリルアミド系ゲルがある。この中でポリスチレンジビニルベンゼン、ポリメタクリレート系ゲルは逆相クロマトグラフィー充填剤として利用され、化学的にも安定であり、シリカゲル系充填剤と比べて幅広いpH領域での使用が可能であり、金属不純物による悪影響を受けることがない。合成ポリマー充填剤はモノマーおよび架橋剤を希釈剤に混合して重合し、多孔質化を図る方法で合成されることが多い。合成する高分子に対して良溶媒を用いると小さな細孔がまた、逆に貧溶媒を用いるとより大きな細孔が形成され、この希釈剤を使用するモノマーとの組み合わせによって細孔径の制御が可能であることから、操作が簡便な懸濁重合法と組み合わせることにより球状多孔性ポリマー充填剤が合成されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このポリマー充填剤にはポリマー粒子の細孔の分布に関する構造上の問題があった。すなわち、ポリマー充填剤はシリカゲル充填剤と異なりいわゆる細孔(メソポア)とは別にポリマーの架橋構造に由来するミクロポアと呼ばれる微細孔(通常2nm以下とされる)を持つ二重細孔構造を有している。そのため一般にポリマー充填剤においては溶質分子の浸透できる範囲が大きくなる場合がある。これらをクロマトグラフィー用カラムに充填して試料の分離に用いると、シリカゲル充填剤を使用した場合と大きく異なる分離特性を示すことになる。そしてこのような微細孔の存在による分離能の影響の制御が困難であるため、その影響は分析試料に対する分離能の低下として現れていた。
【0006】
実際のHPLCの分析においてこの微細孔の悪影響は、充填剤への分析試料の保持が強く、立体構造の大きなものほど顕著に現れ、クロマトグラムにおいてはピークの幅を広くし理論段数を低下させる。対象物質の構造による影響は、微細孔内を分析試料が通過する時、この微細孔空間より十分小さな分子は保持の影響をあまり受けないが、大きな分子はこの空間内での疎水性相互作用により保持が起こるためである。
【0007】
この微細孔によるクロマトグラフィーにおける悪影響はポリマーの重合・架橋の状態を変えることにより低くすることができる。すなわち重合によってできるポリマーの直鎖部分を同一の長さにし、架橋点間の距離を長くすれば、微細孔空間が大きくおおよそ同程度の大きさをもつ微細孔となり、充填剤性能の低下を押さえることが可能である。架橋点間の距離を長くするには、架橋の割合を小さくすることにより可能であるが、単に架橋の割合を少なくしただけでは強度面で弱い粒子となってしまうためHPLC用の充填剤として使用できない。そのため重合・架橋の方法、条件を制御することにより充填剤の調製を行う必要がある。例えばこの制御法の一つとしてモノマーの重合法として低温下で重合を行う酸化還元重合を用いる方法がある。酸化還元重合は通常粒子調製に用いられ熱重合に比較して、微細孔の空間を大きくし、ポリマー充填剤のクロマトグラフィーにおける理論段数の低下を押さえることが可能である。この方法は微細孔制御という点で極めて有用であるが、微細孔内の化学的性質は変化していないので充填剤性能の向上にはある程度の限界があった。
【0008】
また、ポリマー充填剤においては、さらに膨潤収縮という問題がある。膨潤収縮とは、ポリマー粒子が溶液中に存在する際に周りの溶液の性質よって膨潤したり、収縮したりする性質である。液体クロマトグラフィー用充填剤としてポリマー粒子を用いる際に、カラム内で粒子の大きさが変化すると著しくカラム性能を低下させる。すなわちカラム内での粒子の膨潤はカラム圧力を上昇させ事実上使用することができない。また粒子の収縮はカラム内での不要な空隙を作るために著しく分離能を低下させる。そのため実際は、粒子が膨潤収縮を起こさない移動相組成が限定された範囲でのみ使用可能であった。
【0009】
したがって、未だ微細孔の問題及び膨潤収縮の問題を解決し、その性質を活かしたポリマー充填剤は得られていない。
本発明の目的は、この微細孔の問題及び膨潤収縮の問題を解決し、その性質を活かした優れた分離性能をもち、膨潤収縮を起こさない液体用クロマトグラフィー用ポリマー充填剤およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、発明者らが鋭意検討した結果、ポリマー充填剤において微細孔内の化学的性質の改変を行い、粒子径単分散の系にすると、クロマトグラフィー用カラムの分離性能の向上が可能な液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤が得られることがわかった。そして、その適切な製造方法も開発した。
【0011】
すなわち、微細孔の化学的性質を決定しているのは、ポリマーを構成するモノマーまたは架橋剤の種類によるところが大きい。また先に述べたように逆相クロマトグラフィー用充填剤において、微細孔における分離性能の低下は試料と微細孔内との疎水性相互作用による。そこで逆相クロマトグラフィー充填剤としての保持力を維持しつつ、微細孔内の親水性を高めることで試料と微細孔の疎水性相互作用を弱くさせることにした。微細孔の親水性化を行う際にモノマーとしてグリセリンジメタクリレートを用いた。
【0012】
しかしながら、通常グリセリンジメタクリレートのみで架橋重合させた粒子は、逆相充填剤としては疎水性が小さい。そこで粒子に疎水性を持たせるためにより疎水性の高いモノマー(具体的にはメチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなど)を重合前に混合し共重合させて、粒子を調製し充填剤を得ている場合もある。しかしながら粒子内でグリセリンジメタクリレートなどの架橋剤の割合が小さくなると粒子の膨潤収縮の性質が現れるという問題が発生する。
【0013】
そこで膨潤収縮を抑制するためにグリセリンジメタクリレートのみで架橋重合を行った後に、逆相充填剤としての保持力を持たせるために化学的にアルキル基等の疎水基による修飾を行った。アルキル基等の疎水基をバランス良く粒子内に修飾することで微細孔内に親水化の性質もあり、かつ逆相充填剤としての保持力を有している。こうして調製された粒子は膨潤収縮なく、粒子を充填したカラムは理論段数が高く優れた分離性能を示すようになる。
【0014】
しかしながら、上記のように微細孔を親水性化し、化学的にアルキル基で修飾するだけでは、その性質を充分に発揮した本発明にかかるポリマー充填剤とはならなかった。本発明者らはその原因がポリマー充填剤の粒子径の分布に関する問題であることをさらにつきとめた。そしてこれはポリマー充填剤の製造方法に由来するところが大きい。ポリマー充填剤の合成には主に懸濁重合法が利用されるが、この方法で得られた粒子の粒子径分布は極めて広く、この粒子をそのままカラムに充填しても、使用に望まれるカラム性能は得ることができない。粒子径の分布に大きな幅があるため理論段数の低下を引き起こすのである。また目的の粒径に比べかなり小さな粒子は分析中のカラム圧力の上昇を引き起こし、機械的強度の弱いといわれるポリマー充填剤を破損する可能性がある。一方粒子径は小さなものほど分離性能を引き上げるため目的粒子径よりも大きな粒子の混合は結果としてカラム性能を低下させることになる。
【0015】
そこで通常は得られたポリマー粒子を分級作業によってクロマトグラフィー用充填剤として適当な粒子径をもつ部分のみに分けて使用することが行われている。しかし分級作業は大きな設備を必要とし作業的に困難であり、分級を行うにも事実上限界がありどうしてもある程度の分布が生じる。また分級精度を上げるとはじめに得られたポリマー粒子のごく一部のみを使用することになり、充填剤としての収量を低くし、高コストとなってしまう。
【0016】
そこで、本発明者らは粒子径単分散ポリマー充填剤とするために、公知の二段階膨潤重合法を採用することにした。
具体的な製造方法としては、架橋剤として親水性のあるグリセリンジメタクリレートのみを用い架橋重合を二段階膨潤重合法を用いて行い、得られた粒子径単分散ポリマーに疎水基を化学的に導入することによって逆相系ポリマー充填剤の調製を行った。
【0017】
すなわち、本発明にかかるポリマー充填剤は、スチレンを骨格とする粒子径単分散ポリマー充填剤において、該ポリマー充填剤の細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したことを特徴とする。
また、上記本発明のスチレンを骨格とするポリマー充填剤においては、下記構造の単位を含むことが好適である。
【0018】
【化5】
また、上記本発明のスチレンを骨格とするポリマー充填剤においては、さらに下記構造の単位を含むことが好適である。
【0019】
【化6】
(Rは、炭素数1〜18炭化水素基を表す)
【0020】
また、本発明にかかるポリマー充填剤は、二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤において、該ポリマーの細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したことを特徴とする。
また、上記二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤においては、下記構造の単位を含むことが好適である。
【0021】
【化7】
【0022】
また、上記二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤においては、さらに下記構造の単位を含むことが好適である。
【0023】
【化8】
(Rは、炭素数1〜18の炭化水素基を表す)
【0024】
また、本発明にかかるポリマー充填剤の製造方法は、二段階膨潤重合法により、グリセリンジメタクリレートのみを重合させることにより得られたポリマーに、化学修飾により疎水基を導入することを特徴とする。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、粒子径単分散の充填剤において、該充填剤粒子の細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したポリマー充填剤を提供するものであるが、その説明図を図1に示す。通常のポリマー充填剤においては、細孔(メソポア)以外にポリマーの架橋構造に由来する微細孔(ミクロポア:通常2nm以下)が存在するが、本発明においては親水性基(図1中の−OH)により親水性化し、その悪影響を少なくすることができる。そして、逆相系充填剤とするため、化学修飾により疎水基を導入することにより、本発明のポリマー充填剤となる。この際、親水性基(図1中の−OH)の一部を修飾するので、本発明の充填剤においては、親水性基と疎水性基が混在することになる。
【0026】
本発明にかかるポリマー充填剤をつくる際に用いられる微細孔に親水性を付与する具体的な架橋剤としては、グリセリンジメタクリレートが挙げられる。
本発明のポリマー充填剤において用いられるグリセリンジメタクリレートは、例えばグリシジルメタクリレートとメタクリル酸の付加反応から合成可能である。グリセリンジメタクリレートは、これのみで重合させる。そして、得られたポリマーに化学修飾剤を反応させることにより化学的に疎水基を導入する。この修飾の程度により、ポリマーの微細孔の親水性、疎水性のバランスを適宜制御する。
【0027】
化学修飾剤としては、例えばCH3(CH2)6COCl、CH3(CH2)16COCl、塩化ベンゾイルなどの炭素数1〜18の炭化水素基が導入できる化合物が挙げられるが、なかでもアルキル基を導入できる化合物がとくに好ましい。
【0028】
したがって、本発明にかかるポリマー充填剤においては、架橋剤としてグリセリンジメタクリレートを用いたものは、その構造中に
【化9】
の単位をもつことになる。
したがって、この構造単位をもつポリマー充填剤は、親水性基である水酸基で微細孔を親水性化したものとなる。
【0029】
また、前記化学修飾により、炭素数1〜18の炭化水素基を導入されたポリマー充填剤はその構造中に
【化10】
(Rは、炭素数1〜18の炭化水素基を表す)
の単位をもつことになる。なお、上記炭化水素基Rの炭素数としては18まで可能であり、炭化水素基は好ましくはアルキル基である。
【0030】
本発明の粒子径単分散系のクロマトグラフィー用ポリマー充填剤は、これらグリセリンジメタクリレートの架橋剤のみを用いて公知の二段階膨潤重合法を用いることによってポリマーを得、一般的な化学修飾によって炭化水素基を導入することにより製造することができる。
【0031】
二段階膨潤重合法は、ソープフリーシード重合により得られた1μm程度の極めて均一な粒子径を持つ種粒子に、膨潤助剤および架橋剤を二段階の工程で膨潤させ粒子径を拡大し、その後重合することによって均一な粒子径のポリマー粒子を得る方法である。この場合膨潤工程で粒子径の均一性は損なわれることはなく、また高度に架橋された粒子合成も可能であり、種粒子をモノマーと共に希釈剤を用いて膨潤すれば多孔性の粒子とすることもできる。この方法によって得られた粒子の単分散性は種粒子の粒子分布に従い、非常に良好なものであり、全く分級作業を行うことなく、容易に粒子径単分散の充填剤を調製可能とする。これは従来一般的に用いられている懸濁重合法による調製の後、分級操作を繰り返したものに比べてはるかに粒子径の均一性が高い。
【0032】
上記二段階膨潤重合法において、核となる種粒子にはスチレンが用いられ、ポリマー充填剤において骨格をつくる。また、膨潤助剤としてはフタル酸ジブチル、希釈剤としてはシクロヘキサノール、トルエン、重合開始剤としてはベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0033】
また、本発明充填剤を充填したクロマトグラフィー用カラムは粒子径の均一性が高く、しかも膨潤収縮を起こさないので圧力を抑制することができる。そのため機械的強度の弱いポリマー充填剤にも問題なく使用できる。カラム圧力を抑制することが可能であれば、より高性能化が図れる粒子径の小さな充填剤も容易に用いることができ、分離性能の向上、高速化が可能となる。
【0034】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例 液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤
(架 橋 剤) グリセリンジメタクリレート
(疎水基R) CH3(CH2)6−
(製造方法) 二段階膨潤重合法
【0035】
ソープフリーシード重合により得られた1μm程度の極めて均一な粒子径をもつスチレン種粒子に、膨潤助剤であるフタル酸ジブチルにて1段階目の膨潤を行った。次いでグリセリンジメタクリレート、シクロヘキサノールおよびアゾビスイソブチロニトリルからなる混合液を添加して撹拌後2段階目の膨潤を行った。そして、70℃に加熱して24時間重合を行った。
【0036】
反応終了後、重合反応器室温まで冷却し、化学修飾剤CH3(CH2)6COClを反応させ生成物を分離した。生成物を十分に水洗し、アセトンを用いてシクロヘキサノールを除去した後、乾燥して微小のスチレンを骨格とする多孔質球状ゲルを得た。
【0037】
比較例1 液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤
(架 橋 剤) グリセリンジメタクリレート
(モノマー) 2−エチルヘキシルメタクリレート
(モ ル 比) 架橋剤:モノマー =5:5
(重合方法) 懸濁重合
【0038】
重合反応器に、ポリビニルアルコールを溶解した水溶液を仕込んだ。次いでこの水溶液中に純度95%グリセリンジメタクリレート、シクロヘキサノールおよびアゾビスイソブチロニトリルからなる混合溶液を添加し、攪拌しつつ、70℃に加熱して24時間重合反応を行った。
【0039】
反応終了後、重合反応器を室温まで冷却し、生成物を分離した。生成物を十分に水洗し、アセトンを用いてシクロヘキサノールを除去した後、乾燥して微小の多孔質球状ゲルを得、分級して粒子径15〜20μmのものを比較例1の充填剤とした。
【0040】
つぎに、上記実施例、比較例1およびシリカゲル充填剤の比較例2について移動相のアセトニトリルの濃度を変化させ、カラム圧を測定することにより膨潤収縮について測定を行った。その結果を図2に示す。
図2より、グリセリンジメタクリレートおよび2−エチルヘキシルメタクリレートの重合により得られたポリマー充填剤である比較例1は、移動相の有機溶媒アセトニトリルによりカラム圧が上昇し、大きく膨潤収縮が見られることがわかる。これに対して、本発明の実施例の充填剤は、膨潤収縮はほとんどなく、膨潤収縮のないシリカゲルの比較例2の充填剤と比較しても同等であることがわかる。
なお、アセトニトリル100%に近づくにつれて、カラム圧が低下するのは移動相の粘性が低下するためである。
【0041】
したがって、本発明の液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は膨潤収縮がないので、特に濃度勾配をかける溶出においても優れた分離能を保つことができる。
また、本発明の膨潤収縮のないポリマー充填剤はグリセリンジメタクリレートのみで重合することにより初めて得られるものであることがわかる。
【0042】
つぎに、本発明のポリマー充填剤(実施例)により液体クロマトグラフィーを行った結果を図3に示す。なお、図3における標準試料はベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、トリフェニレンの単素環化合物5種の混合物を用いた。
図3より明らかなように、単素環化合物5種の溶出ピークがシャープに出ており、極めて分離能に優れていることがわかる。
これに対して、比較例1のポリマー充填剤により液体クロマトグラフィーを行った結果を図4に示す。なお、試料は実施例と同様の単素環化合物5種の混合物を用いた。図4より明らかなように、分子量の小さいベンゼンは比較的溶出ピークがシャープに出ているが、分子量が大きくなるにつれてピークが広がり分離能が落ちていることがわかる。
【0043】
つぎに、本発明のポリマー充填剤(実施例)により液体クロマトグラフィーを行った結果をさらに図5にもう一つ示す。なお、図5における試料は10種の化合物の混合物を用いた。用いた化合物は溶出順にウラシル、カフェイン、フェノール、2−エチルピリジン、安息香酸メチル、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルアニリン、フェニルアセチルアセトン、ナフタレンである。本発明の液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は膨潤収縮がないだけではなく、優れた分離能をもつことがわかる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にかかる液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は、スチレンを骨格とした粒子径単分散のポリマー充填剤において、該ポリマー充填剤の細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したので、膨潤収縮が少なく優れた分離能を得ることができる。
また、本発明にかかる液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤は、二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤において、該ポリマーの細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したので、膨潤収縮がなく優れた分離能を得ることができる。
また、二段階膨潤重合法により、グリセリンジメタクリレートのみを重合させて得たポリマーに、化学修飾剤により疎水基を導入することにより得るポリマー充填剤の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるポリマー充填剤の説明図である。
【図2】実施例、比較例の充填剤の移動相有機溶媒の濃度変化による膨潤収縮を示す図である。
【図3】実施例で得られたポリマー充填剤をカラムに充填して、単素環化合物5種混合物を標準試料とし、逆相系での分配クロマトグラフィーを行った結果得られた溶出パターンである。
【図4】比較例1で得られたポリマー充填剤をカラムに充填して、単素環化合物5種混合物を標準試料とし、逆相系での分配クロマトグラフィーを行った結果得られた溶出パターンである。
【図5】実施例で得られたポリマー充填剤をカラムに充填して、化合物10種混合物を標準試料とし、逆相系での分配クロマトグラフィーを行った結果得られた溶出パターンである。
Claims (7)
- スチレンを骨格とする粒子径単分散ポリマー充填剤において、該ポリマー充填剤の細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化し、化学修飾により疎水基を導入したことを特徴とする液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤。
- 二段階膨潤重合法により得られたポリマー充填剤において、該ポリマーの細孔内に存在する微細孔の内部を親水性化させ、化学修飾により疎水基を導入したことを特徴とする液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤。
- 二段階膨潤重合法により、グリセリンジメタクリレートのみを重合させることにより得られたポリマーに、化学修飾により疎水基を導入することを特徴とする液体クロマトグラフィー用ポリマー充填剤の製造方法。
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