JP3656493B2 - 杭基礎構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建物における杭基礎構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、建物を支持するための杭としては、場所打ちコンクリート杭、PHC杭、鋼管杭等、種々の構造のものがあり、建物の構造や規模、形態、地盤条件等に応じて最適なものが選択され採用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような構造の杭はそれぞれ構造的な特質やコスト、施工性等の点で一長一短があり、いずれの構造の杭を採用しても必ずしも最適設計とはなり得ない場合がある。
【0004】
また、いずれの構造の杭であっても、杭頭部は建物の基礎に対して固定接合(剛接合)とされることが通常であるから、地震時に建物に作用する水平力がそのまま杭に対して剪断力および曲げモーメントとして伝達される。したがって、杭には鉛直荷重に対する軸耐力のみならずそのような剪断力や曲げモーメントに対する耐力が要求され、かつ杭頭部で発生する応力を基礎で処理しなければならず、その分、杭および基礎が大断面とならざるを得ない。
【0005】
さらに、近年、既存建物を解体して建て直すような場合において、可能であれば既存杭を残置してそのまま新設建物の杭として使用したい場合があるが、過去に築造された既存杭には十分な剪断断力や曲げ耐力を見込めない場合が多く、したがって既存杭をそのまま使用することができない場合も多く、それを可能とする手段が望まれている。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は既存杭を利用する場合に有効な杭基礎構造を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の杭基礎構造は、建物を支持する複数の杭として既存杭と新設杭とが混在し、既存杭と基礎との接合形式をピン接合またはローラー接合としてそれら既存杭に主として軸耐力を負担させ、新設杭の少なくとも一部と基礎との接合形式を固定接合としてそれら新設杭に主として剪断耐力と曲げ耐力と引き抜き耐力を負担させてなることを特徴とするものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
「第1実施形態」
本発明の実施形態を参考例とともに以下に説明する。なお、以下の説明における「第1〜第5実施形態」のうち本発明の本来の実施形態は「第4実施形態」のみであり、第1、第2、第3および第5実施形態は本発明に関連する参考例であるが、以下では便宜的に全てを実施形態と称して説明する。
本発明の杭基礎構造の第1実施形態は、1つの建物に設ける複数の杭の全てを従来のように同一構造のものとするのではなく、異種の構造の杭、たとえば場所打ちコンクリート杭、PHC杭、鋼管杭、あるいはその他の構造の杭を、2種以上混用するものである。
【0015】
場所打ちコンクリート杭は、地盤を掘削して孔を設け、その中に鉄筋を配してコンクリートを打設することでコンクリート杭を築造するものであり、大口径杭を容易に施工できものである。場所打ちコンクリート杭には、底部を拡径することで支持力を高める拡底杭や、杭頭部に鋼管を巻き建てた補強杭も含められる。
【0016】
PHC杭は、工場において高温蒸気養生されて製作される既製コンクリート杭であり、PC鋼線を内蔵していて曲げ耐力に優れるものである。PHC杭にはプレストレスの程度によりA種、B種、C種があり、また、PHC杭の外周に鋼管を装着したSC杭もこれに含められる。
【0017】
鋼管杭は鋼管それ自体を杭として使用するもので、薄肉であっても曲げ耐力に優れるものである。鋼管内にコンクリートを充填した杭や、鋼管の外周面にアスファルトを塗布したNF杭もこれに含められる。
【0018】
本第1実施形態では、上記のような代表的な3種の杭や、さらに他の構造の杭も含めて、それら異種の構造の杭を建物の構造や規模、形態、地盤状況等に応じて2種以上適材適所に配置するものである。具体的には、たとえば、大きな軸耐力が要求される杭には場所打ちコンクリート杭を採用し、大きな曲げ耐力が要求される杭にはPHC杭や鋼管杭を採用するのである。これにより、同一構造の杭を一律に採用している従来一般の杭基礎構造に比較して合理的かつ最適な設計が可能であるし、杭基礎工事のコスト削減を図ることができる。
【0019】
「第2実施形態」
本発明の杭基礎構造の第2実施形態は、1つの建物に設ける複数の杭の基礎に対する接合形式を、従来のように一律に固定接合とするのではなく、ピン接合やローラー接合も混用するものである。
【0020】
固定接合は、図1(a)に示すように、杭1の杭頭を基礎2に対して剛接合することにより、基礎2に対する杭頭の相対水平変位と相対回転を拘束し、杭頭と基礎2の水平変位および回転角を同一にする接合形式である。
【0021】
ピン接合は、図1(b)に示すように、杭1の杭頭と基礎2との間に杭頭ピンデバイス3を介在させることで、相対水平変位を拘束しつつ相対回転は許容せしめ、それらの水平変位を同一にしかつそれらが別々に回転できるようにした接合形式である。このようなピン接合では、固定接合の場合と同一の水平変位が生じた場合に杭1が負担する剪断力は固定接合の場合の半分になる。
【0022】
ローラー接合は、図1(c)に示すように、杭1の杭頭と基礎2との間にテフロン樹脂やステンレス板等による滑り機構4を介在させることでそれらの相対水平変位および相対回転を許容せしめ、それらが独立に変位可能とした接合形式である。このようなローラー接合では、杭1が負担する剪断力は滑り機構4の滑り耐力以下となる。なお、このようなローラー接合による場合における杭1と基礎2との相対水平変位は通常1cm以下であるので、そのような相対水平変位が問題になることはない。
【0023】
本第2実施形態では、上記のような異なる接合形式を適材適所に配置することにより、各杭へ負担させるべき剪断力や曲げモーメントの分配を容易にコントロールでき、それに応じて各杭に必要な耐力や変形性能を最適に決定することができ、より合理的な杭基礎の設計が可能となる。特に、ピン接合やローラー接合を採用した杭では、固定構造を採用した杭に比較して曲げ耐力や剪断耐力が軽減されるから十分なコストダウンを図ることができる。
【0024】
すなわち、ピン接合やローラー接合とした杭では固定接合とする場合に比較して最大応力を低減でき、したがって杭断面を小さくすることが可能となるので、その分のコストダウンを図ることができるのみならず、杭径の減少により剪断応力や曲げ応力がさらに低減するので相乗的なコストダウンを図ることができる。そして、場所打ちコンクリート杭にあっては配筋を減らしたりコンクリート強度を低減できるし、杭頭部に必要であった杭頭補強筋や鋼管巻き等の補強を省略可能でき、それによるコストダウンを図ることができるとともに、基礎配筋との干渉を考慮することもなく施工性を改善することができる。PHC杭にあっては固定接合とする場合にはC種あるいはB種とすることが必要であったものをより安価なA種に変更することが可能となるし、それに伴って同種のPHC杭の採用が可能となって継手箇所数を削減でき、それによるコストダウンと工期短縮を図ることが可能である。
【0025】
また、固定接合の場合には杭頭部で生じる剪断力や曲げモーメントを基礎において処理する必要があるが、ピン接合やローラー接合の場合には杭頭部の曲げモーメントや剪断力がなくなることで基礎の耐力も軽減され、それにより基礎梁やフーチングの省略ないし断面削減が可能となり、その分のコストダウンのみならず、構造計画上の自由度が増し、ひいては根切り量や山留め工事の軽減も図ることができる。
【0026】
「第3実施形態」
本発明の杭基礎構造の第3実施形態は、上記第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせたものである。すなわち本第3実施形態では、1つの建物に設ける複数の杭として第1実施形態のように場所打ちコンクリート杭、PHC杭、鋼管杭その他の構造の杭を2種以上任意に選択して混用するとともに、それら杭の接合形式を、第2実施形態のように固定接合のみならずピン接合やローラー接合を任意に選択して混用するものであり、それにより最適設計が可能であって最も合理的である。
【0027】
その場合、各杭の構造と接合形式は任意に決定すれば良いが、杭の設置位置に応じて最適な構造と最適な接合形式を選択することが好ましい。具体的には、建物の外周部に位置する杭として鋼管杭を採用してその接合形式として固定接合を採用し、建物の内部に位置する杭として場所打ちコンクリート杭を採用してその接合形式としてピン接合またはローラー接合を採用することが良い。そのようにすれば、外周部の鋼管杭により十分な剪断耐力と曲げ耐力を確保できるとともに引き抜き力に対する十分な耐力も確保でき、かつ、内部の場所打ちコンクリート杭により十分な軸耐力を確保することができるとともにそのその曲げ応力を軽減し得て杭断面を節約することができる。
【0028】
「第4実施形態」
本発明の杭基礎構造の第4実施形態は、既存建物を解体して建て直す場合に既存杭と新設杭を混用するようにしたものである。すなわち、既存建物を解体する際に所望の既存杭を残置してそれをそのまま新設建物の杭として使用することとし、あわせて要所に新設杭を設けるようにしたものである。この場合、既存杭には十分な軸耐力は見込めても剪断耐力や曲げ耐力は十分に見込めないことが通常であるので、そのような既存杭と新設建物の基礎との接合形式としてはピン接合またはローラー接合を採用し、それにより既存杭に過大な剪断応力や曲げ応力が生じないようにする。
【0029】
そして、そのような既存杭の採用を前提としてそれを補完するように新設杭を所望位置に設け、その新設杭の構造と基礎に対する接合形式は第3実施形態のように任意に決定すれば良いが、新設杭の少なくとも一部の接合形式は固定接合として新設建物全体としての耐震性能を確保する必要がある。より具体的には、既存杭を新設建物の内部に配置して新設基礎に対しピン接合あるいはローラー接合することでそれら既存杭に主として軸耐力を負担させ、新設杭としてはたとえば鋼管杭を採用してそれを新設建物の外周部に設けて固定接合することにより、それら新設杭に主として剪断耐力、曲げ耐力、引き抜き耐力を負担させれば良い。
【0030】
本第4実施形態によれば、新設基礎に対して既存杭をピン接合あるいはローラー接合とすることにより既存杭をそのまま使用することが可能となり、したがって建設資材の有効活用を図ることができるのみならず、建物を建て直す際の合理的な構造計画が可能であり、工費削減、工期短縮を十分に図ることができる。
【0031】
「第5実施形態」
本発明の杭基礎構造の第5実施形態は、支持地盤の傾斜あるいは建物基礎レベルの状況に応じて、杭長の異なる短杭と長杭とを混用するものであり、かつ、短杭と基礎との接合形式としてピン接合またはローラー接合を採用し、長杭と基礎との接合形式として固定接合を採用するようにしたものである。
【0032】
本第5実施形態によれば、同一の接合形式の場合には長杭に比較して短杭の方が負担剪断力が大きいので、その短杭をピン接合あるいはローラー接合とすることにより負担剪断力を低減させ、以て、短杭と長杭との剪断力負担を平滑化することができる。
【0038】
【発明の効果】
本発明の杭基礎構造は、建物を支持する複数の杭として既存杭と新設杭とが混在し、既存杭と基礎との接合形式をピン接合またはローラー接合としてそれら既存杭に主として軸耐力を負担させ、新設杭の少なくとも一部と基礎との接合形式を固定接合としてそれら新設杭に主として剪断耐力と曲げ耐力と引き抜き耐力を負担させてなるものであるから、既存杭をそのまま使用することが可能となり、したがって建設資材の有効活用を図ることができるのみならず、建物を建て直す際の合理的な構造計画が可能であり、工費削減、工期短縮を十分に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の杭基礎構造における杭と基礎との接合形式の例を示す図である。
【符号の説明】
1 杭
2 基礎
Claims (1)
- 建物を支持する複数の杭として既存杭と新設杭とが混在し、既存杭と基礎との接合形式をピン接合またはローラー接合としてそれら既存杭に主として軸耐力を負担させ、新設杭の少なくとも一部と基礎との接合形式を固定接合としてそれら新設杭に主として剪断耐力と曲げ耐力と引き抜き耐力を負担させてなることを特徴とする杭基礎構造。
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