JP3652159B2 - 画像形成装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子放出素子を用いた画像形成装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、電子放出素子として熱陰極素子と冷陰極素子の二種類が知られている。このうち冷陰極素子では、たとえば表面伝導型放出素子や、電界放出型素子(以下FE型と記す)や、金属/絶縁層/金属型放出素子(以下、MIM型と記す)等が知られている。
【0003】
表面伝導型放出素子としては、たとえば、M.I.Elinson,Radio Eng.Electron Phys.,10,1290,(1965)や後述する他の例が知られている。
【0004】
表面伝導型放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に平行に電流を流すことにより電子放出が生ずる現象を利用するものである。この表面伝導型放出素子としては、Elinson等によるSnO2 薄膜を用いたものの他に、Au薄膜によるもの[G.Dittmer:“Thin Solid Films”,9,317(1972)]や、In2 3 /SnO2 薄膜によるもの[M.Hartwell and C.G.Fonstad:“IEEE Trans.ED Conf.”,519(1975)]やカーボン薄膜によるもの[荒木久他:真空、第26巻、第1号、22(1983)]等が報告されている。
【0005】
これらの表面伝導型放出素子の素子構成の典型的な例として、図22に前述のM.Hartwellらによる素子の平面図を示す。同図において、3001は基板で、3004はスパッタで形成された金属酸化物よりなる導電性薄膜である。導電性薄膜3004は図示のようにH字形の平面形状に形成されている。該導電性薄膜3004に後述の通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施すことにより、電子放出部3005が形成される。図中の間隔Lは0.5〜1[mm]、Wは0.1[mm]で設定されている。尚、図示の便宜から、電子放出部3005は導電性薄膜3004の中央に矩形の形状で示したが、これは模式的なものであり、実際の電子放出部の位置や形状を忠実に表現しているわけではない。
【0006】
M.Hartwellらによる素子をはじめとして上述の表面伝導型放出素子においては、電子放出を行う前に導電性薄膜3004に通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施すことにより電子放出部3005を形成するのが一般的であった。すなわち、通電フォーミングとは、該導電性薄膜3004の両端に一定の直流電圧、もしくは、例えば1V/分程度の非常にゆっくりとしたレートで昇圧する直流電圧を印加して通電し、導電性薄膜3004を局所的に破壊もしくは変形もしくは変質せしめ、電気的に高抵抗な状態の電子放出部3005を形成することである。尚、局所的に破壊もしくは変形もしくは変質した導電性薄膜3004の一部には、亀裂が発生する。該通電フォーミング後に導電性薄膜3004に適宜の電圧を印加した場合には、該亀裂付近において電子放出が行われる。
【0007】
また、FE型の例は、たとえば、W.P.Dyke&W.W.Dolan“Field emission”,Advance in Electron Physics,8,89(1956)や、あるいは、C.A.Spindt,“Physical properties of thin−film field emission cathodes with molybdenium cones”,J.Appl.Phys.,47,5248(1976)等が知られている。
【0008】
FE型の素子構成の典型的な例として、図23に前述のC.A.Spindtらによる素子の断面図を示す。同図において、3010は基板で、3011は導電材料よりなるエミッタ配線、3012はエミッタコーン、3013は絶縁層、3014はゲート電極である。本素子は、エミッタコーン3012とゲート電極3014の間に適宜の電圧を印加することにより、エミッタコーン3012の先端部より電界放出を起こさせるものである。
【0009】
また、FE型の他の素子構成として、図23のような積層構造ではなく、基板上に基板平面とほぼ平行にエミッタとゲート電極を配置した例もある。
【0010】
また、MIM型の例としては、たとえば、C.A.Mead,“Operation of tunnel−emission Devices,J.Appl.Phys.,32,646(1961)等が知られている。MIM型の素子構成の典型的な例を図24に示す。同図は断面図であり、図において、3020は基板で、3021は金属よりなる下電極、3022は厚さ100オングストローム程度の薄い絶縁層、3023は厚さ80〜300[オングストローム]程度の金属よりなる上電極である。MIM型においては、上電極3023と下電極3021の間に適宜の電圧を印加することにより、上電極3023の表面より電子放出を起こさせるものである。
【0011】
上述の冷陰極素子は、熱陰極素子と比較して低温で電子放出を得ることができるため、加熱用ヒーターを必要としない。したがって、熱陰極素子よりも構造が単純であり、微細な素子を作成可能である。また、基板上に多数の素子を高い密度で配置しても、基板の熱溶融等の問題が発生しにくい。また、熱陰極素子がヒーター加熱により動作するために応答速度が遅いのとは異なり、冷陰極素子の場合には応答速度が速いという利点もある。
【0012】
このため、冷陰極素子を応用するための研究が盛んに行われてきている。
【0013】
たとえば、表面伝導型放出素子は、冷陰極素子のなかでも特に構造が単純で製造も容易であることから、大面積にわたり多数の素子を形成できる利点がある。そこで、たとえば特開昭64−31332において開示されるように、多数の素子を配列して駆動するための方法が研究されている。また、表面伝導型放出素子の応用については、たとえば、画像表示装置、画像記録装置等の画像形成装置や、荷電ビーム源等が研究されている。
【0014】
特に、画像表示装置への応用としては、たとえばUSP5,066,883や特開平2−257551や特開平4−28137において開示されているように、表面伝導型放出素子と電子ビームの照射により発光する蛍光体とを組み合わせて用いた画像表示装置が研究されている。表面伝導型放出素子と蛍光体とを組み合わせて用いた画像表示装置は、従来の他の方式の画像表示装置よりも優れた特性が期待されている。たとえば、近年普及してきた液晶表示装置と比較しても、自発光型であるためバックライトを必要としない点や、視野角が広い点が優れていると言える。
【0015】
また、FE型を多数個ならべて駆動する方法は、たとえばUSP4,904,895に開示されている。また、FE型を画像表示装置に応用した例として、たとえば、R.Meyerらにより報告された平板型表示装置が知られている。
【0016】
[R.Meyer:“Recent Development on Micro−tips Display at LETI”,Tech.Digestof 4th Int.Vacuum Microele−ctronics
Conf.,Nagahama.pp.6〜9(1991)]。
【0017】
また、MIM型を多数個並べて画像表示装置に応用した例は、たとえば特開平3−55738に開示されている。
【0018】
上記のような電子放出素子を用いた画像形成装置のうちで、奥行きの薄い平面型表示装置は省スペースかつ軽量であることから、ブラウン管型の表示装置に置き換わるものとして注目されている。
【0019】
図25は平面型の画像表示装置をなす表示パネル部の一例を示す斜視図であり、内部構造を示すために一部を切り欠いて示している。
【0020】
図中、3115はリアプレート、3116は側壁、3117はフェースプレートであり、リアプレート3115、側壁3116およびフェースプレート3117により、表示パネルの内部を真空に維持するための外囲器(気密容器)を形成している。
【0021】
リアプレート3115には基板3111が固定されているが、この基板3111上には冷陰極素子3112が、N×M個形成されている。(N、Mは2以上の正の整数であり、目的とする表示画素数に応じて適宜設定される。)また、該N×M個の冷陰極素子3112は、図25に示すとおり、M本の行方向配線3113とN本の列方向配線3114により配線されている。これら基板3111、冷陰極素子3112、行方向配線3113および列方向配線3114によって構成される部分をマルチ電子ビーム源と呼ぶ。また、行方向配線3113と列方向配線3114の少なくとも交差する部分には、両配線間に絶縁層(不図示)が形成されており、電気的な絶縁が保たれている。
【0022】
フェースプレート3117の下面には、蛍光体からなる蛍光膜3118が形成されており、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の蛍光体(不図示)が塗り分けられている。また、蛍光膜3118をなす上記各色蛍光体の間には黒色体(不図示)が設けてあり、さらに蛍光膜3118のリアプレート3115側の面には、Al等からなるメタルバック3119が形成されている。
【0023】
Dx1〜DxmおよびDy1〜DynおよびHvは、当該表示パネルと不図示の電気回路とを電気的に接続するために設けた気密構造の電気接続用端子である。Dx1〜Dxmはマルチ電子ビーム源の行方向配線3113と、Dy1〜Dynはマルチ電子ビーム源の列方向配線3114と、Hvはメタルバック3119と各々電気的に接続している。
【0024】
また、上記気密容器の内部は10-6[Torr]程度の真空に保持されており、画像表示装置の表示面積が大きくなるにしたがい、気密容器内部と外部の気圧差によるリアプレート3115およびフェースプレート3117の変形あるいは破壊を防止する手段が必要となる。リアプレート3115およびフェースプレート3116を厚くすることによる方法は、画像表示装置の重量を増加させるのみならず、斜め方向から見たときに画像のゆがみや視差を生ずる。これに対し、図25においては、比較的薄いガラス板からなり大気圧を支えるための構造支持体(スペーサあるいはリブと呼ばれる)3120が設けられている。このようにして、マルチビーム電子源が形成された基板3111と蛍光膜3118が形成されたフェースプレート3116間は通常サブミリないし数ミリに保たれ、前述したように気密容器内部は高真空に保持されている。
【0025】
以上説明した表示パネルを用いた画像表示装置は、容器外端子Dx1ないしDxm、Dy1ないしDynを通じて各冷陰極素子3112に電圧を印加すると、各冷陰極素子3112から電子が放出される。それと同時にメタルバック3119に容器外端子Hvを通じて数百[V]ないし数[kV]の高圧を印加して、上記放出された電子を加速し、フェースプレート3117の内面に衝突させる。これにより、蛍光膜3118をなす各色の蛍光体が励起されて発光し、画像が表示される。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べた画像形成装置は、装置内部の真空雰囲気を維持するための外囲器、外囲器内に配置された電子源、該電子源から放出された電子線が照射されるターゲット、電子線をターゲットに向けて加速するための加速電極等を有するが、さらに、外囲器に加わる大気圧を外囲器内部から支持するための支持部材(スペーサ)が外囲器内部に配置されることがある。
【0027】
このような画像形成装置の表示パネルにおいては、以下のような問題点があった。
【0028】
まず、スペーサの近傍から放出された電子の一部がスペーサに当たることにより、あるいは放出電子の作用でイオン化したイオンがスペーサに付着することにより、スペーサ帯電をひきおこす可能性がある。さらに、フェースプレートに到達した電子が一部反射・散乱され、その一部がスペーサに当たることによりスペーサ帯電をひきおこす可能性がある。このスペーサの帯電により冷陰極素子から放出された電子はその軌道を曲げられ、蛍光体上の正規な位置とは異なる場所に到達し、スペーサ近傍の画像がゆがんで表示される。
【0029】
この問題点を解決するために、スペーサに微小電流が流れるようにして帯電を除去(以下除電)する提案がなされている。そこでは絶縁性のスペーサの表面に高抵抗薄膜を形成することにより、スペーサ表面に微小電流が流れるようにしている。
【0030】
しかしながら、冷陰極素子からの放出電子量が大きくなると、これらの除電能力は十分とは言えず、電子ビームの強度により帯電量が変化する。これに伴い、スペーサ付近の素子から放出された電子ビームはその強度(輝度)によって、ターゲット上の正規な位置からのずれが異なる。このため動画を表示したときに、画像がゆらいで見えてしまう等の欠点があった。
【0031】
[発明の目的]
本発明は上記従来スペーサの欠点を電場制御の点から改善するものであり、素子駆動配線上に電子軌道補正用の配線電極を設け、これに任意の電位を与えることにより、スペーサに照射される電子ビーム量を抑制するとともに電子軌道を制御し、画像のゆがみが小さくかつ輝度依存の少ない画像表示装置を提供することを目的とするものである。
【0032】
【課題を解決するための手段および作用】
上記目的は、冷陰極型電子放出素子を設けた電子源基板と、該電子源基板に対向して配され、該電子放出素子から放出される電子を加速する加速電極及び該電子により画像を形成する画像形成部材を備えた対向基板と、該電子源基板と該加速電極の間に設けられたスペーサとを有する画像形成装置において、
前記スペーサがその上に配置された第1駆動配線と、
前記スペーサがその上に配置されていない第2駆動配線と、
前記第1及び第2駆動配線の内の前記第2駆動配線上に設けられた電子軌道補正用の配線電極と、
前記電子源基板と前記加速電極との間の距離をd、前記加速電極と前記電子放出素子との間に印加される加速電圧をV a 、前記電子源基板からの前記配線電極の高さをhとしたときに、前記配線電極に、V h <V a ・(h/d)なる電位V h を与える手段とを有することを特徴とする本発明の画像形成装置によって達成される。
【0035】
なお、本明細書中では、電子放出素子の素子電極間に印加される電圧Vfは、素子電極の高電位側の電極電位と低電位側の電極電位との電位差を言う。また、加速電圧Vaは、アノード(加速電極)電位と、素子電極の高電位側電極電位と低電位側電極電位との中間電位との電位差を言う。
【0036】
また、本発明で用いる画像形成部材としては、蛍光体等の他にも、潜像を形成する部材を用いることもできる。
【0037】
ここで、図1を用いて本発明の機能について説明する。図1は、スペーサと電子放出素子の構成についての説明図であり画像形成装置における断面図である。(a)、(b)において、110は蛍光体とメタルバックを含むフェースプレート、111は電子源基板を含むリアプレート、112はスペーサ、113はスペーサ表面の導電部、114はスペーサ設置した素子駆動用配線部、115は第1近接素子駆動用配線部、116は第2近接素子駆動用配線部、117は第1近接素子、118は第2近接素子、119は代表的な電子ビーム軌道、121,122は絶縁層、123は第1近接配線上に形成される電子軌道補正用配線部、124は第2近接配線上に形成される電子軌道補正用配線部である。
【0038】
このとき、スペーサは絶縁性部材そのものを用いることもでき、また表面に高抵抗薄膜を形成した半導電性のスペーサを用いることもできる。
【0039】
さらに、絶縁性あるいは半導電性のスペーサによらず、スペーサが設置される配線部および加速電極との良好な電気的接触を得るために、あるいは後述する電子軌道補正のために、スペーサ表面の端部(不図示)に導電部を有する構成もとることができる。
【0040】
電子源基板側に形成される導電部は、素子駆動配線との良好な電気的接触を得るとともに、スペーサにおける0電位を加速電極側に上昇せしめ、これによりスペーサ第1近接素子から放出される電子を反発せしめて正規の位置に輝点を形成するという効果も兼ねている。
【0041】
しかしながら、この導電部を形成することはスペーサの沿面距離を短くすることと同義であるので、スペーサ沿面における放電耐圧を下げないために、できるだけ高さを抑えて形成するのが望ましい。
【0042】
スペーサ第1近接配線上に形成される電子軌道補正用配線は、Vh1(<Va ・(h/d))なる電位を印加することにより、スペーサ第1近接素子から放出される電子の軌道を正規の位置に輝点を形成するとともに、できるだけ低い電位を与えて、スペーサ導電部の高さを抑えるという効果も兼ねている。
【0043】
スペーサ第2近接配線上に形成される電子軌道補正用配線は、Vh2(<Va ・(h/d))なる電位を印加することにより、スペーサ導電部では電子軌道補正ができない。スペーサ第2近接素子から放出される電子の軌道を正規の位置に輝点を形成するとともに、できるだけ低い電位を与えて、スペーサ導電部の高さを抑えるという効果も兼ねている。
【0044】
図1においては、スペーサに隣接する第1近接素子駆動用配線および第2近接素子駆動用配線上に電子軌道補正用配線が形成された例であるが、第1近接素子の電子軌道補正がスペーサ導電部のみで達成されるときは、スペーサ第2近接配線上のみに電子軌道補正用配線が形成されることもある。
【0045】
電子軌道補正用配線に印加される電圧Vh に関しては、たとえば加速電圧Va をVa =6kV、電子源基板と加速電極間距離dをd=3mm、電子源基板からの該電子軌道補正用配線の高さhをh=90μmとしたときには、Vh <180Vと制限される。
【0046】
さらに望ましくは、電子軌道補正用配線に印加される電圧Vh は、素子駆動配線と電子軌道補正用配線との間に形成される絶縁層の絶縁破壊電圧から制限される。
【0047】
たとえば、素子駆動配線に印加する電圧Vf1/2をVf1/2=−7V、素子駆動配線と電子軌道補正用配線との間に形成される絶縁層の厚さtをt=30μmとした場合には、絶縁層の絶縁破壊電圧が1kV/mmであるので、Vh は、−37V<Vh <23Vと制限される。
【0048】
(a)において、スペーサに直接入射する電子やスペーサの近傍から電子入射による放出された電子の一部がスペーサに当たること、あるいは放出電子の作用でイオン化したイオンがスペーサに付着することによりスペーサに正帯電が発生する。このスペーサ帯電により電場が変化し、素子から放出された電子はその軌道を曲げられ、正規な位置とは異なる位置に到達する、この結果、画像形成装置においてスペーサ近傍の画像がゆがんで見える問題が生じていた。
【0049】
これに対し、(b)は本発明の構成を適用し、電子の到達位置を補正した状態である。スペーサ112を設置した素子駆動用配線部114上に形成した導電部113により配線電極電位をaの高さまで規定するとともに、第1近接素子駆動用配線部115上に形成される電子軌道補正用配線部123および第2近接素子駆動用配線部116上に形成される電子軌道補正用配線部124にそれぞれVh1,Vh2の複数の電圧を印加することにより、電場形状を変えて、電子が電子軌道119の軌跡を通過してフェースプレート110の正規位置に入射することが可能となる。この結果、歪みのない高品位な画像形成が実現できる。
【0050】
本発明の電子線装置は、以下のような形態を有するものであってもよい。
▲1▼該電子線装置は、該電極が該電子源より放出された電子を加速する加速電極であり、入力信号に応じて該冷陰極素子から放出された電子を該ターゲットに照射して画像を形成する画像形成装置をなす。特に、該ターゲットが蛍光体である画像表示装置をなす。
▲2▼該冷陰極素子は、電子放出部を含む導電性膜を一対の電極間に有する冷陰極素子であり、特に好ましくは表面伝導型放出素子である。
▲3▼該電子源は、複数の行方向配線と複数の列方向配線とでマトリクス配線された複数の冷陰極素子を有する単純マトリクス状配置の電子源をなす。
▲4▼該電子源は、並列に配置した複数の冷陰極素子の個々を両端で接続した冷陰極素子の行を複数配し(行方向と呼ぶ)、この配線と直交する方向(列方向と呼ぶ)に沿って、冷陰極素子の上方に配した制御電極(グリッドとも呼ぶ)により、冷陰極素子からの電子を制御するはしご状配置の電子源をなす。
▲5▼また、本発明の思想によれば、表示用として好適な画像形成装置に限るものでなく、感光性ドラムと発光ダイオード等で構成された光プリンタの発光ダイオード等の代替の発光源として、上述の画像形成装置を用いることもできる。またこの際、上述のm本の行方向配線とn本の列方向配線を、適宜選択することで、ライン状発光源だけでなく、2次元状の発光源としても応用できる。この場合、画像形成部材としては、以下の実施例で用いる蛍光体のような直接発光する物質に限るものではなく、電子の帯電による潜像画像が形成されるような部材を用いることもできる。
【0051】
また、本発明の思想によれば、例えば電子顕微鏡のように、電子源からの放出電子の被照射部材が、蛍光体等の画像形成部材以外のものである場合についても、本発明は適用できる。従って、本発明は被照射部材を特定しない一般的電子線装置としての形態もとりうる。
【0052】
【発明の実施の形態】
次に、本発明を適用した画像表示装置の表示パネルの構成と製造法について、具体的な例を示して説明する。
【0053】
図7は、実施例に用いた表示パネルの斜視図であり、内部構造を示すためにパネルの一部を切り欠いて示している。
【0054】
図中、1015はリアプレート、1016は側壁、1017はフェースプレートであり、1015〜1017により表示パネルの内部を真空に維持するための気密容器を形成している。気密容器を組み立てるにあたっては、各部材の接合部に十分な強度と気密性を保持させるため封着する必要があるが、たとえばフリットガラスを接合部に塗布し、大気中あるいは窒素雰囲気中で、摂氏400〜500度で10分以上焼成することにより封着を達成した。気密容器内部を真空に排気する方法については後述する。また、上記気密容器の内部は10-6[Torr]程度の真空に保持されるので、大気圧や不意の衝撃等による気密容器の破壊を防止する目的で、耐大気圧構造体として、スペーサ1020が設けられている。
【0055】
リアプレート1015には、基板1011が固定されているが、該基板上には冷陰極素子1012がN×M個形成されている。(N,Mは2以上の正の整数であり、目的とする表示画素数に応じて適宜設定される。たとえば、高品位テレビジョンの表示を目的とした表示装置においては、N=3000,M=1000以上の数を設定することが望ましい。)該N×M個の冷陰極素子は、M本の行方向配線1013とN本の列方向配線1014により単純マトリクス配線されている。該、1011〜1014によって構成される部分をマルチ電子ビーム源と呼ぶ。
【0056】
本発明の画像表示装置に用いるマルチ電子ビーム源は、冷陰極素子を単純マトリクス配線した電子源であれば、冷陰極素子の材料や形状あるいは製法に制限はない。したがって、たとえば表面伝導型放出素子やFE型、あるいはMIM型等の冷陰極素子を用いることができる。
【0057】
次に、冷陰極素子として表面伝導型放出素子(後述)を基板上に配列して単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造について述べる。
【0058】
図18に示すのは、図7の表示パネルに用いたマルチ電子ビーム源の平面図である。基板1011上には、後述の図11で示すものと同様な表面伝導型放出素子が配列され、これらの素子は行方向配線電極1013と列方向配線電極1014により単純マトリクス状に配線されている。行方向配線電極1013と列方向配線電極1014の交差する部分には、電極間に絶縁層(不図示)が形成されており、電気的な絶縁が保たれている。
【0059】
図18のB−B′に沿った断面を、図19に示す。
【0060】
なお、このような構造のマルチ電子源は、あらかじめ基板上に行方向配線電極1013、列方向配線電極1014、電極間絶縁層(不図示)、および表面伝導型放出素子の素子電極と導電性薄膜を形成した後、行方向配線電極1013および列方向配線電極1014を介して各素子に給電して通電フォーミング処理(後述)と通電活性化処理(後述)を行うことにより製造した。
【0061】
本実施例においては、気密容器のリアプレート1015にマルチ電子ビーム源の基板1011を固定する構成としたが、マルチ電子ビーム源の基板1011が十分な強度を有するものである場合には、気密容器のリアプレートとしてマルチ電子ビーム源の基板1011自体を用いてもよい。
【0062】
また、フェースプレート1017の下面には、蛍光膜1018が形成されている。
【0063】
本実施例はカラー表示装置であるため、蛍光膜1018の部分にはCRTの分野で用いられる赤、緑、青、の3原色の蛍光体が塗り分けられている。各色の蛍光体は、たとえば図9の(a)に示すようにストライプ状に塗り分けられ、蛍光体のストライプの間には黒色の導電体1010が設けてある。黒色の導電体1010を設ける目的は、電子ビームの照射位置に多少ずれがあっても表示色にずれが生じないようにする事や、外光の反射を防止して表示コントラストの低下を防ぐ事、電子ビームによる蛍光膜のチャージアップを防止する事等である。黒色の導電体1010には、黒鉛を主成分として用いたが、上記の目的に適するものであればこれ以外の材料を用いても良い。
【0064】
また、3原色の蛍光体の塗り分け方は該図9(a)に示したストライプ状の配列に限られるものではなく、たとえば図9(b)に示すようなデルタ状配列や、それ以外の配列であってもよい。
【0065】
なお、モノクロームの表示パネルを作成する場合には、単色の蛍光体材料を蛍光膜1018に用いればよく、また黒色導電材料は必ずしも用いなくともよい。また、蛍光膜1018のリアプレート側の面には、CRTの分野では公知のメタルバック1019を設けてある。メタルバック1019を設けた目的は、蛍光膜1018が発する光の一部を鏡面反射して光利用率を向上させる事や、負イオンの衝突から蛍光膜1018を保護する事や、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させる事や、蛍光膜1018を励起した電子の導電路として作用させる事等である。メタルバック1019は、蛍光膜1018をフェースプレート基板1017上に形成した後、蛍光膜表面を平滑化処理し、その上にAlを真空蒸着する方法により形成した。なお、蛍光膜1018に低電圧用の蛍光体材料を用いた場合には、メタルバック1019は用いない。
【0066】
また、本実施例では用いなかったが、加速電圧の印加用や蛍光膜の導電性向上を目的として、フェースプレート基板1017と蛍光膜1018との間に、たとえばITOを材料とする透明電極を設けてもよい。
【0067】
図8は図7のA−A′の断面模式図であり、各部の番号は図7に対応している。スペーサ1020は絶縁性部材1の表面に帯電防止を目的とした高抵抗薄膜11を成膜し、かつフェースプレート1017の内側(メタルバック1019等)及び基板1011の表面(行方向配線1013または列方向配線1014)に面したスペーサの当接面3及び接する側面部5に低抵抗膜21を成膜した部材からなるもので、上記目的を達成するのに必要な数だけ、かつ必要な間隔をおいて配置され、フェースプレートの内側および基板1011の表面に接合材1041により固定される。また、高抵抗薄膜は、絶縁性部材1の表面のうち、少なくとも気密容器内の真空中に露出している面に成膜されており、スペーサ1020上の低抵抗膜22および接合材1041を介して、フェースプレート1017の内側(メタルバック1019等)及び基板1011の表面(行方向配線1013または列方向配線1014)に電気的に接続される。ここで説明される態様においては、スペーサ1020の形状は薄板状とし、行方向配線1013に平行に配置され、行方向配線1013に電気的に接続されている。スペーサ1020としては、基板1011上の行方向配線1013および列方向配線1014とフェースプレート1017内面のメタルバック1019との間に印加される高電圧に耐えるだけの絶縁性を有し、かつスペーサ1020の表面への帯電を防止する程度の導電性を有する必要がある。
【0068】
スペーサ1020の絶縁性部材1としては、例えば石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少したガラス、ソーダライムガラス、アルミナ等のセラミックス部材等が挙げられる。なお、絶縁性部材1はその熱膨張率が気密容器および基板1011を成す部材と近いものが好ましい。
【0069】
スペーサ1020を構成する高抵抗薄膜11には、高電位側のフェースプレート1017(メタルバック1019等)に印加される加速電圧Va を帯電防止膜である高抵抗薄膜21の抵抗値Rsで除した電流が流される。そこで、スペーサの抵抗値Rsは帯電防止および消費電力からその望ましい範囲に設定される。帯電防止の観点から表面抵抗RsはRs≦1012[Ω/□]であることが好ましい。十分な帯電防止効果を得るためにはRs≦1011[Ω/□]がさらに好ましい。表面抵抗の下限はスペーサ形状とスペーサ間に印加される電圧により左右されるが、105 [Ω/□]以上であることが好ましい。
【0070】
絶縁材料上に形成された帯電防止膜の厚みtはt=10nm〜1μmの範囲が望ましい。材料の表面エネルギーおよび基板との密着性や基板温度によっても異なるが、一般的に10nm以下の薄膜は島状に形成され、抵抗が不安定で再現性に乏しい。一方、膜厚tが1μm以上では膜応力が大きくなって膜はがれの危険性が高まり、かつ成膜時間が長くなるため生産性が悪い。従って、膜厚は50〜500nmであることが望ましい。表面抵抗RsはRs:=ρ/tであり、以上に述べたRsとtの好ましい範囲から、帯電防止膜の比抵抗ρはρ=0.1〜108 [Ωcm]が好ましい。さらに表面抵抗と膜厚のより好ましい範囲を実現するためには、ρはρ=102 〜106 [Ωcm]とするのが良い。
【0071】
スペーサは上述したようにその上に形成した帯電防止膜を電流が流れることにより、あるいはディスプレイ全体が動作中に発熱することによりその温度が上昇する。帯電防止膜の抵抗温度係数が大きな負の値であると温度が上昇した時に抵抗値が減少し、スペーサに流れる電流が増加し、さらに温度上昇をもたらす。そして電流は電源の限界を越えるまで増加しつづける。このような電流の暴走が発生する抵抗温度係数の値は経験的に負の値で絶対値が1%以上である。すなわち、帯電防止膜の抵抗温度係数は−1%未満であることが望ましい。
【0072】
帯電防止特性を有する高抵抗薄膜11の材料としては、例えば金属酸化物を用いることが出来る。金属酸化物の中でも、クロム、ニッケル、銅、イットリウムの酸化物が好ましい材料である。その理由はこれらの酸化物は二次電子放出効率が比較的小さく、冷陰極素子1012から放出された電子がスペーサ1020に当たった場合においても帯電しにくいためと考えられる。金属酸化物以外にも炭素は二次電子放出効率が小さく好ましい材料である。特に、非晶質カーボンは高抵抗であるため、スペーサ抵抗を所望の値に制御しやすい。
【0073】
帯電防止特性を有する高抵抗薄膜11の他の材料として、III 属あるいはIV属典型元素と遷移金属合金の窒化物は、遷移金属の組成を調整することにより、良伝導体から絶縁体まで広い範囲に抵抗値を制御できるので好適な材料である。さらには後述する表示装置の作製工程において抵抗値の変化が少なく安定な材料である。かつ。その抵抗温度係数が−1%未満であり、実用的に使いやすい材料である。III 属あるいはIV属典型元素としてはAl,Si,B等、遷移金属元素としてはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W等があげられる。
【0074】
合金窒化膜は、スパッタ、窒素ガス雰囲気中での反応性スパッタ、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着法等の薄膜形成手段により絶縁性部材上に形成される。金属酸化膜も同様の薄膜形成法で作製することができるが、この場合窒素ガスに代えて酸素ガスを使用する。その他、CVD法、アルコキシド塗布法でも金属酸化膜を形成できる。カーボン膜は蒸着法、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法で作製され、特に非晶質カーボンを作製する場合には、成膜中の雰囲気に水素が含まれるようにするか、成膜ガスに炭化水素ガスを使用する。
【0075】
スペーサ1020を構成する低抵抗膜21は、高抵抗薄膜11を高電位側のフェースプレート1017(メタルバック1019等)及び低電位側の基板1011(配線1013,1014等)と電気的に接続する為に設けられたものであり、以下では、中間電極層(中間層)という名称も用いる。中間電極層(中間層)は以下に列挙する複数の機能を有することが出来る。
▲1▼高抵抗薄膜11をフェースプレート1017及び基板1011と電気的に接続する。既に記載したように、高抵抗薄膜11はスペーサ1020表面での帯電を防止する目的で設けられたものであるが、高抵抗薄膜11をフェースプレート1017(メタルバック1019等)及び基板1011(配線1013,1014等)と直接或いは当接材1041を介して接続した場合、接続部界面に大きな接触抵抗が発生し、スペーサ表面に発生した電荷を速やかに除去できなくなる可能性がある。これを避ける為に、フェースプレート1017、基板1011及び当接材1041と接触するスペーサ1020の当接面3或いは側面部5に低抵抗の中間層を設けた。
▲2▼高抵抗薄膜11の電位分布を均一化する。冷陰極素子1012より放出された電子は、フェースプレート1017と基板1011の間に形成された電位分布に従って電子軌道を成す。スペーサ1020の近傍で電子軌道に乱れが生じないようにする為には、高抵抗薄膜11の電位分布を全域にわたって制御する必要がある。高抵抗薄膜11をフェースプレート1017(メタルバック1019等)及び基板1011(配線1013,1014等)と直接或いは当接材1041を介して接続した場合、接続部界面の接触抵抗の為に、接続状態のむらが発生し、高抵抗薄膜11の電位分布が所望の値からずれてしまう可能性がある。これを避ける為に、スペーサ1020がフェースプレート1017及び基板1011と当接するスペーサ端部(当接面3或いは側面部5)の全長域に低抵抗の中間層を設け、この中間層部に所望の電位を印加することによって、高抵抗薄膜11全体の電位を制御可能とした。
▲3▼放出電子の軌道を制御する。冷陰極素子1012より放出された電子は、フェースプレート1017と基板1011の間に形成された電位分布に従って電子軌道を成す。スペーサ近傍の冷陰極素子から放出された電子に関しては、スペーサを設置することに伴う制約(配線、素子位置の変更等)が生じる場合がある。このような場合、歪みやむらの無い画像を形成する為には、放出された電子の軌道を制御してフェースプレート1017上の所望の位置に電子を照射する必要がある。フェースプレート1017及び基板1011と当接する面の側面部5に低抵抗の中間層を設けることにより、スペーサ1020近傍の電位分布に所望の特性を持たせ、放出された電子の軌道を制御することが出来る。
【0076】
低抵抗膜21は、高抵抗薄膜11に比べ十分に低い抵抗値を有する材料を選択すればよく、Ni,Cr,Mo,W,Pt,Ti,Al,Cu,Pd等の金属、あるいは合金、及びPd,Ag,Au,RuO2 ,Pd−Ag等の金属や金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体、あるいはIn2 3 −SnO2 等の透明導体及びポリシリコン等の半導体材料等より適宜選択される。
【0077】
接合材1041はスペーサ1020が行方向配線1013およびメタルバック1019と電気的に接続するように、導電性をもたせる必要がある。すなわち、導電性接着材や金属粒子や導電性フィラーを添加したフリットガラスが好適である。
【0078】
また、Dx1〜DxmおよびDy1〜DynおよびHvは、当該表示パネルと不図示の気回路とを電気的に接続するために設けた気密構造の電気接続用端子である。Dx1〜Dxmはマルチ電子ビーム源の行方向配線1013と、Dy1〜Dynはマルチ電子ビーム源の列方向配線1014と、Hvはフェースプレートのメタルバック1019と電気的に接続している。
【0079】
また、気密容器内部を真空に排気するには、気密容器を組み立てた後、不図示の排気管と真空ポンプとを接続し、気密容器内を10-7Torr程度の真空度まで排気する。その後、排気管を封止するが、気密容器内の真空度を維持するために、封止の直前あるいは封止後に気密容器内の所定の位置にゲッター膜(不図示)を形成する。ゲッター膜とは、たとえばBaを主成分とするゲッター材料をヒーターもしくは高周波加熱により加熱し蒸着して形成した膜であり、該ゲッター膜の吸着作用により気密容器内は10-5ないしは10-7Torrの真空度に維持される。
【0080】
以上説明した表示パネルを用いた画像表示装置は、容器外端子Dx1ないしDxm、Dy1ないしDynを通じて各冷陰極素子1012に電圧を印加すると、各冷陰極素子1012から電子が放出される。それと同時にメタルバック1019に容器外端子Hvを通じて数百[V]ないし数[kV]の高圧を印加して、上記放出された電子を加速し、フェースプレート1017の内面に衝突させる。これにより、蛍光膜1018をなす各色の蛍光体が励起されて発光し、画像が表示される。
【0081】
通常、冷陰極素子である本発明の表面伝導型放出素子1012への印加電圧は12〜16[V]程度、メタルバック1019と冷陰極素子1012との距離dは0.1[mm]から8[mm]程度、メタルバック1019と冷陰極素子1012間の電圧0.1[kV]から10[kV]程度である。
【0082】
以上、本発明の実施例の表示パネルの基本構成と製法、および画像表示装置の概要を説明した。
【0083】
次に、該実施例の表示パネルに用いたマルチ電子ビーム源の製造方法について説明する。本発明の画像表示装置に用いるマルチ電子ビーム源は、冷陰極素子を単純マトリクス配線した電子源であれば、冷陰極素子の材料や形状あるいは製法に制限はない。したがって、たとえば表面伝導型放出素子やFE型、あるいはMIM型等の冷陰極素子を用いることができる。
【0084】
ただし、表示画面が大きくてしかも安価な表示装置が求められる状況のもとでは、これらの冷陰極素子の中でも、表面伝導型放出素子が特に好ましい。すなわち、FE型ではエミッタコーンとゲート電極の相対位置や形状が電子放出特性を大きく左右するため、極めて高精度の製造技術を必要とするが、これは大面積化や製造コストの低減を達成するには不利な要因となる。また、MIM型では、絶縁層と上電極の膜厚を薄くしてしかも均一にする必要があるが、これも大面積化や製造コストの低減を達成するには不利な要因となる。その点、表面伝導型放出素子は、比較的製造方法が単純なため、大面積化や製造コストの低減が容易である。また、発明者らは、表面伝導型放出素子の中でも、電子放出部もしくはその周辺部を微粒子膜から形成したものがとりわけ電子放出特性に優れ、しかも製造が容易に行えることを見いだしている。したがって、高輝度で大画面の画像表示装置のマルチ電子ビーム源に用いるには、最も好適であると言える。そこで、上記実施例の表示パネルにおいては、電子放出部もしくはその周辺部を微粒子膜から形成した表面伝導型放出素子を用いた。そこで、まず好適な表面伝導型放出素子について基本的な構成と製法および特性を説明し、その後で多数の素子を単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造について述べる。
【0085】
(表面伝導型放出素子の好適な素子構成と製法)
電子放出部もしくはその周辺部を微粒子膜から形成する表面伝導型放出素子の代表的な構成には、平面型と垂直型の2種類があげられる。
【0086】
(平面型の表面伝導型放出素子)
まず最初に、平面型の表面伝導型放出素子の素子構成と製法について説明する。図11に示すのは、平面型の表面伝導型放出素子の構成を説明するための平面図(a)および断面図(b)である。図中、1101は基板、1102と1103は素子電極、1104は導電性薄膜、1105は通電フォーミング処理により形成した電子放出部、1113は通電活性化処理により形成した薄膜である。
【0087】
基板1101としては、たとえば、石英ガラスや青板ガラスをはじめとする各種ガラス基板や、アルミナをはじめとする各種セラミクス基板、あるいは上述の各種基板上にたとえばSiO2 を材料とする絶縁層を積層した基板、等を用いることができる。
【0088】
また、基板1101上に基板面と平行に対向して設けられた素子電極1102と1103は、導電性を有する材料によって形成されている。たとえば、Ni,Cr,Au,Mo,W,Pt,Ti,Cu,Pd,Ag等をはじめとする金属、あるいはこれらの金属の合金、あるいはIn2 3 −SnO2 をはじめとする金属酸化物、ポリシリコンなどの半導体、等の中から適宜材料を選択して用いればよい。電極を形成するには、たとえば真空蒸着等の製膜技術とフォトリソグラフィー、エッチング等のパターニング技術を組み合わせて用いれば容易に形成できるが、それ以外の方法(たとえば印刷技術)を用いて形成してもさしつかえない。
【0089】
素子電極1102と1103の形状は、当該電子放出素子の応用目的に合わせて適宜設計される。一般的には、電極間隔Lは通常は数百オングストロームから数百マイクロメーターの範囲から適当な数値を選んで設計されるが、なかでも表示装置に応用するために好ましいのは数マイクロメーターより数十マイクロメーターの範囲である。
【0090】
また、素子電極の厚さdについては、通常は数百オングストロームから数マイクロメーターの範囲から適当な数値が選ばれる。
【0091】
また、導電性薄膜1104の部分には、微粒子膜を用いる。ここで述べた微粒子膜とは、構成要素として多数の微粒子を含んだ膜(島状の集合体も含む)のことをさす。微粒子膜を微視的に調べれば、通常は、個々の微粒子が離間して配置された構造か、あるいは微粒子が互いに隣接した構造か、あるいは微粒子が互いに重なり合った構造が観測される。
【0092】
微粒子膜に用いた微粒子の粒径は、数オングストロームから数千オングストロームの範囲に含まれるものであるが、なかでも好ましいのは10オングストロームから200オングストロームの範囲のものである。また、微粒子膜の膜厚は、以下に述べるような諸条件を考慮して適宜設定される。すなわち、素子電極1102あるいは1103と電気的に良好に接続するのに必要な条件、後述する通電フォーミングを良好に行うのに必要な条件、微粒子膜自身の電気抵抗を後述する適宜の値にするために必要な条件、等である。具体的には、数オングストロームから数千オングストロームの範囲のなかで設定するが、なかでも好ましいのは10オングストロームから500オングストロームの間である。
【0093】
また、微粒子膜を形成するのに用いられうる材料としては、たとえば、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb等をはじめとする金属や、PdO,SnO2 ,In2 3 ,PbO,Sb2 3 等をはじめとする酸化物や、HfB2 ,ZrB2 ,LaB6 ,CeB6 ,YB4 ,GdB4 等をはじめとするホウ化物や、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等をはじめとする炭化物や、TiN,ZrN,HfN等をはじめとする窒化物、Si,Ge等をはじめとする半導体や、カーボン等があげられ、これらの中から適宜選択される。
【0094】
以上述べたように、導電性薄膜1104を微粒子膜で形成したが、そのシート抵抗値については、103 〜107 [Ω/□]の範囲に含まれるよう設定した。
【0095】
なお、導電性薄膜1104と素子電極1102および1103とは、電気的に良好に接続されるのが望ましいため、互いの一部が重なりあうような構造をとっている。その重なり方は、図11の例においては、下から、基板、素子電極、導電性薄膜の順序で積層したが、場合によっては下から基板、導電性薄膜、素子電極の順序で積層してもさしつかえない。
【0096】
また、電子放出部1105は、導電性薄膜1104の一部に形成された亀裂状の部分であり、電気的には周囲の導電性薄膜よりも高抵抗な性質を有している。亀裂は、導電性薄膜1104に対して、後述する通電フォーミングの処理を行うことにより形成する。亀裂内には、数オングストロームから数百オングストロームの粒径の微粒子を配置する場合がある。なお、実際の電子放出部の位置や形状を精密かつ正確に図示するのは困難なため、図11においては模式的に示した。
【0097】
また、薄膜1113は、炭素もしくは炭素化合物よりなる薄膜で、電子放出部1105およびその近傍を被覆している。薄膜1113は、通電フォーミング処理後に、後述する通電活性化の処理を行うことにより形成する。
【0098】
薄膜1113は、単結晶グラファイト、多結晶グラファイト、非晶質カーボンの何れかか、もしくはその混合物であり、膜厚は500[オングストローム]以下とするが、300[オングストローム]以下とするのがさらに好ましい。なお、実際の薄膜1113の位置や形状を精密に図示するのは困難なため、図11においては模式的に示した。また、平面図(a)においては、薄膜1113の一部を除去した素子を図示した。
【0099】
以上、好ましい素子の基本構成を述べたが、実施例においては以下のような素子を用いた。
【0100】
すなわち、基板1101には青板ガラスを用い、素子電極1102と1103にはNi薄膜を用いた。素子電極の厚さdは1000[オングストローム]、電極間隔Lは2[マイクロメーター]とした。
【0101】
微粒子膜の主要材料としてPdもしくはPdOを用い、微粒子膜の厚さは約100[オングストローム]、幅Wは100[マイクロメータ]とした。
【0102】
次に、好適な平面型の表面伝導型放出素子の製造方法について説明する。
【0103】
図12の(a)〜(d)は、表面伝導型放出素子の製造工程を説明するための断面図で、各部材の表記は該図11と同一である。
1)まず、図12(a)に示すように、基板1101上に素子電極1102および1103を形成する。形成するにあたっては、あらかじめ基板1101を洗剤、純水、有機溶剤を用いて十分に洗浄後、素子電極の材料を堆積させる。(堆積する方法としては、たとえば、蒸着法やスパッタ法などの真空成膜技術を用いればよい。)その後、堆積した電極材料を、フォトリソグラフィー・エッチング技術を用いてパターニングし、(a)に示した一対の素子電極(1102と1103)を形成する。
2)次に、同図(b)に示すように、導電性薄膜1104を形成する。
【0104】
形成するにあたっては、まず該(a)の基板に有機金属溶液を塗布して乾燥し、加熱焼成処理して微粒子膜を成膜した後、フォトリソグラフィー・エッチングにより所定の形状にパターニングする。ここで、有機金属溶液とは、導電性薄膜に用いる微粒子の材料を主要元素とする有機金属化合物の溶液である(具体的には、本実施例では主要元素としてPdを用いた。また、実施例では塗布方法として、ディッピング法を用いたが、それ以外のたとえばスピンナー法やスプレー法を用いてもよい。)。
【0105】
また、微粒子膜で作られる導電性薄膜の成膜方法としては、本実施例で用いた有機金属溶液の塗布による方法以外の、たとえば真空蒸着法やスパッタ法、あるいは化学的気相堆積法等を用いる場合もある。
3)次に、同図(c)に示すように、フォーミング用電源1110から素子電極1102と1103の間に適宜の電圧を印加し、通電フォーミング処理を行って、電子放出部1105を形成する。
【0106】
通電フォーミング処理とは、微粒子膜で作られた導電性薄膜1104に通電を行って、その一部を適宜に破壊、変形、もしくは変質せしめ、電子放出を行うのに好適な構造に変化させる処理のことである。微粒子膜で作られた導電性薄膜のうち電子放出を行うのに好適な構造に変化した部分(すなわち電子放出部1105)においては、薄膜に適当な亀裂が形成されている。なお、電子放出部1105が形成される前と比較すると、形成された後は素子電極1102と1103の間で計測される電気抵抗は大幅に増加する。
【0107】
通電方法をより詳しく説明するために、図13に、フォーミング用電源1110から印加する適宜の電圧波形の一例を示す。微粒子膜で作られた導電性薄膜をフォーミングする場合には、パルス状の電圧が好ましく、本実施例の場合には同図に示したようにパルス幅T1の三角波パルスをパルス間隔T2で連続的に印加した。その際には、三角波パルスの波高値Vpfを、順次昇圧した。また、電子放出部1105の形成状況をモニターするためのモニターパルスPmを適宜の間隔で三角波パルスの間に挿入し、その際に流れる電流を電流計1111で計測した。
【0108】
実施例においては、たとえば10-5[Torr]程度の真空雰囲気下において、たとえばパルス幅T1を1[ms]、パルス間隔T2を10[ms]とし、波高値Vpfを1パルスごとに0.1[V]ずつ昇圧した。そして、三角波を5パルスするたびに1回の割りで、モニターパルスPmを挿入した。フォーミング処理に悪影響を及ぼすことがないように、モニターパルスの電圧Vpmは0.1[V]に設定した。そして、素子電極1102と1103の間の電気抵抗が1×106 [Ω]になった段階、すなわちモニターパルス印加時に電流計1111で計測される電流が1×10-7[A]以下になった段階で、フォーミング処理にかかわる通電を終了した。
【0109】
なお、上記の方法は、本実施例の表面伝導型放出素子に関する好ましい方法であり、たとえば微粒子膜の材料や膜厚、あるいは素子電極間隔L等表面伝導型放出素子の設計を変更した場合には、それに応じて通電の条件を適宜変更するのが望ましい。
4)次に、図12の(d)に示すように、活性化用電源1112から素子電極1102と1103の間に適宜の電圧を印加し、通電活性化処理を行って、電子放出特性の改善を行う。
【0110】
通電活性化処理とは、該通電フォーミング処理により形成された電子放出部1105に適宜の条件で通電を行って、その近傍に炭素もしくは炭素化合物を堆積せしめる処理のことである(図においては、炭素もしくは炭素化合物よりなる堆積物を部材1113として模式的に示した。)。なお、通電活性化処理を行うことにより、行う前と比較して、同じ印加電圧における放出電流を典型的には100倍以上に増加させることができる。
【0111】
具体的には、10-4ないし10-5[Torr]の範囲内の真空雰囲気中で、電圧パルスを定期的に印加することにより、真空雰囲気中に存在する有機化合物を起源とする炭素もしくは炭素化合物を堆積させる。堆積物1113は、単結晶グラファイト、多結晶グラファイト、非晶質カーボン、のいずれかか、もしくはその混合物であり、膜厚は500[オングストローム]以下、より好ましくは300[オングストローム]以下である。
【0112】
通電方法をより詳しく説明するために、図14の(a)に、活性化用電源1112から印加する適宜の電圧波形の一例を示す。本実施例においては、一定電圧の矩形波を定期的に印加して通電活性化処理を行ったが、具体的には、矩形波の電圧Vacは14[V]、パルス幅T3は1[ms]、パルス間隔T4は10[ms]とした。なお、上述の通電条件は、本実施例の表面伝導型放出素子に関する好ましい条件であり、表面伝導型放出素子の設計を変更した場合には、それに応じて条件を適宜変更するのが望ましい。
【0113】
図12の(d)に示す1114は、該表面伝導型放出素子から放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極で、直流高電圧電源1115および電流計1116が接続されている。(なお、基板1101を、表示パネルの中に組み込んでから活性化処理を行う場合には、表示パネルの蛍光面をアノード電極1114として用いる。)活性化用電源1112から電圧を印加する間、電流計1116で放出電流Ieを計測して通電活性化処理の進行状況をモニターし、活性化用電源1112の動作を制御する。電流計1116で計測された放出電流Ieの一例を図14(b)に示すが、活性化電源1112からパルス電圧を印加しはじめると、時間の経過とともに放出電流Ieは増加するが、やがて飽和してほとんど増加しなくなる。このように、放出電流Ieがほぼ飽和した時点で活性化用電源1112からの電圧印加を停止し、通電活性化処理を終了する。
【0114】
なお、上述の通電条件は、本実施例の表面伝導型放出素子に関する好ましい条件であり、表面伝導型放出素子の設計を変更した場合には、それに応じて条件を適宜変更するのが望ましい。
【0115】
以上のようにして、図12(e)に示す平面型の表面伝導型放出素子を製造した。
【0116】
(垂直型の表面伝導型放出素子)
次に、電子放出部もしくはその周辺を微粒子膜から形成した表面伝導型放出素子のもうひとつの代表的な構成、すなわち垂直型の表面伝導型放出素子の構成について説明する。
【0117】
図15は、垂直型の基本構成を説明するための模式的な断面図であり、図中の1201は基板、1202と1203は素子電極、1206は段差形成部材、1204は微粒子膜を用いた導電性薄膜、1205は通電フォーミング処理により形成した電子放出部、1213は通電活性化処理により形成した薄膜である。
【0118】
垂直型が先に説明した平面型と異なる点は、素子電極のうちの片方(1202)が段差形成部材1206上に設けられており、導電性薄膜1204が段差形成部材1206の側面を被覆している点にある。したがって、該図11の平面型における素子電極間隔Lは、垂直型においては段差形成部材1206の段差高Lsとして設定される。なお、基板1201、素子電極1202および1203、微粒子膜を用いた導電性薄膜1204については、該平面型の説明中に列挙した材料を同様に用いることが可能である。また、段差形成部材1206には、たとえばSiO2 のような電気的に絶縁性の材料を用いる。
【0119】
次に、垂直型の表面伝導型放出素子の製法について説明する。図16の(a)〜(f)は、製造工程を説明するための断面図で、各部材の表記は該図15と同一である。
1)まず、図16(a)に示すように、基板1201上に素子電極1203を形成する。
2)次に、同図(b)に示すように、段差形成部材を形成するための絶縁層を積層する。絶縁層は、たとえばSiO2 をスパッタ法で積層すればよいが、たとえば真空蒸着法や印刷法等の他の成膜方法を用いてもよい。
3)次に、同図(c)に示すように、絶縁層の上に素子電極1202を形成する。
4)次に、同図(d)に示すように、絶縁層の一部を、たとえばエッチング法を用いて除去し、素子電極1203を露出させる。
5)次に、同図(e)に示すように、微粒子膜を用いた導電性薄膜1204を形成する。形成するには、該平面型の場合と同じく、たとえば塗布法等の成膜技術を用いればよい。
6)次に、該平面型の場合と同じく、通電フォーミング処理を行い、電子放出部を形成する(図12(c)を用いて説明した平面型の通電フォーミング処理と同様の処理を行えばよい。)。
7)次に、該平面型の場合と同じく、通電活性化処理を行い、電子放出部近傍に炭素もしくは炭素化合物を堆積させる(図12(d)を用いて説明した平面型の通電活性化処理と同様の処理を行えばよい。)。
【0120】
以上のようにして、図16(f)に示す垂直型の表面伝導型放出素子を製造した。
【0121】
(表示装置に用いた表面伝導型放出素子の特性)
以上、平面型と垂直型の表面伝導型放出素子について素子構成と製法を説明したが、次に表示装置に用いた素子の特性について述べる。
【0122】
図17に、表示装置に用いた素子の、(放出電流Ie)対(素子印加電圧Vf)特性、および(素子電流If)対(素子印加電圧Vf)特性の典型的な例を示す。なお、放出電流Ieは素子電流Ifに比べて著しく小さく、同一尺度で図示するのが困難であるうえ、これらの特性は素子の大きさや形状等の設計パラメータを変更することにより変化するものであるため、2本のグラフは各々任意単位で図示した。
【0123】
表示装置に用いた素子は、放出電流Ieに関して以下に述べる3つの特性を有している。
【0124】
第1に、ある電圧(これを閾値電圧Vthと呼ぶ)以上の大きさの電圧を素子に印加すると急激に放出電流Ieが増加するが、一方、閾値電圧Vth未満の電圧では放出電流Ieはほとんど検出されない。
【0125】
すなわち、放出電流Ieに関して、明確な閾値電圧Vthを持った非線形素子である。
【0126】
第2に、放出電流Ieは素子に印加する電圧Vfに依存して変化するため、電圧Vfで放出電流Ieの大きさを制御できる。
【0127】
第3に、素子に印加する電圧Vfに対して素子から放出される電流Ieの応答速度が速いため、電圧Vfを印加する時間の長さによって素子から放出される電子の電荷量を制御できる。
【0128】
以上のような特性を有するため、表面伝導型放出素子を表示装置に好適に用いることができた。たとえば多数の素子を表示画面の画素に対応して設けた表示装置において、第1の特性を利用すれば、表示画面を順次走査して表示を行うことが可能である。すなわち、駆動中の素子には所望の発光輝度に応じて閾値電圧Vth以上の電圧を適宜印加し、非選択状態の素子には閾値電圧Vth未満の電圧を印加する。駆動する素子を順次切り替えてゆくことにより、表示画面を順次走査して表示を行うことが可能である。
【0129】
また、第2の特性かまたは第3の特性を利用することにより、発光輝度を制御することができるため、階調表示を行うことが可能である。
【0130】
(多数素子を単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造)
次に、上述の表面伝導型放出素子を基板上に配列して単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造について述べる。
【0131】
図18に示すのは、図7の表示パネルに用いたマルチ電子ビーム源の平面図である。基板上には、図11で示したものと同様な表面伝導型放出素子が配列され、これらの素子は行方向配線電極1003と列方向配線電極1004により単純マトリクス状に配線されている。行方向配線電極1003と列方向配線電極1004の交差する部分には、電極間に絶縁層(不図示)が形成されており、電気的な絶縁が保たれている。
【0132】
図18のB−B′に沿った断面を、図19に示す。
【0133】
なお、このような構造のマルチ電子源は、あらかじめ基板上に行方向配線電極1013、列方向配線電極1014、電極間絶縁層(不図示)、および表面伝導型放出素子の素子電極と導電性薄膜を形成した後、行方向配線電極1013および列方向配線電極1014を介して各素子に給電して通電フォーミング処理と通電活性化処理を行うことにより製造した。
【0134】
図20は、NTSC方式のテレビ信号に基づいてテレビジョン表示を行う為の駆動回路の概略構成をブロック図で示したものである。同図中、表示パネル101は前述した表示パネルに相当するもので、前述した様に製造され、動作する。また、走査回路102は表示ラインを走査し、制御回路103は走査回路へ入力する信号等を生成する。シフトレジスタ104は1ライン毎のデータをシフトし、ラインメモリ105は、シフトレジスタ104から1ライン分のデータを変調信号発生器107に入力する。同期信号分離回路106はNTSC信号から同期信号を分離する。
【0135】
以下、図20の装置各部の機能を詳しく説明する。
【0136】
まず表示パネル101は、端子Dx1ないしDxmおよび端子Dy1ないしDyn、および高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続されている。このうち、端子Dx1ないしDxmには、表示パネル101内に設けられているマルチ電子ビーム源、すなわちm行n列の行列状にマトリクス配線された冷陰極素子を行(n素子)ずつ順次駆動してゆく為の走査信号が印加される。一方、端子Dy1ないしDynには、該走査信号により選択された1行分のn個の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。また、高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、たとえば5[kV]の直流電圧が供給されるが、これはマルチ電子ビーム源より出力される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与する為の加速電圧である。
【0137】
次に、走査回路102について説明する。同回路は、内部にm個のスイッチング素子(図中、S1ないしSmで模式的に示されている)を備えるもので、各スイッチング素子は、直流電圧源Vxの出力電圧もしくは0[V](グランドレベル)のいずれか一方を選択し、表示パネル101の端子Dx1ないしDxmと電気的に接続するものである。S1ないしSmの各スイッチング素子は、制御回路103が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものだが、実際にはたとえばFETのようなスイッチング素子を組合わせる事により容易に構成することが可能である。なお、該直流電圧源Vxは、図17に例示した電子放出素子の特性に基づき走査されていない素子に印加される駆動電圧が電子放出閾値電圧Vth電圧以下となるよう、一定電圧を出力するよう設定されている。
【0138】
また、制御回路103は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行われるように各部の動作を整合させる働きをもつものである。次に説明する同期信号分離回路106より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscanおよびTsftおよびTmryの各制御信号を発生する。同期信号分離回路106は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から、同期信号成分と輝度信号成分とを分離する為の回路で、良く知られているように周波数分離(フィルタ)回路を用いれば容易に構成できるものである。同期信号分離回路106により分離された同期信号は、良く知られるように垂直同期信号と水平同期信号より成るが、ここでは説明の便宜上、Tsync信号として図示した。
【0139】
一方、該テレビ信号から分離された画像の輝度信号成分を便宜上DATA信号と表すが、同信号はシフトレジスタ104に入力される。
【0140】
シフトレジスタ104は、時系列的にシリアルに入力される該DATA信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのもので、該制御回路103より送られる制御信号Tsftに基づいて動作する。すなわち、制御信号Tsftは、シフトレジスタ104のシフトクロックであると言い換えることもできる。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子n素子分の駆動データに相当する)のデータは、1dlないし1dnのn個の信号として該シフトレジスタ104より出力される。
【0141】
ラインメモリ105は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、制御回路103より送られる制御信号Tmryにしたがって適宜1dlないし1dnの内容を記憶する。記憶された内容は、1′dlないし1′dnとして出力され、変調信号発生器107に入力される。
【0142】
変調信号発生器107は、該画像データ1′dlないし1′dnの各々に応じて、電子放出素子1015の各々を適切に駆動変調する為の信号源で、その出力信号は、端子Dy1ないしDynを通じて表示パネル101内の電子放出素子1015に印加される。
【0143】
図17を用いて説明したように、本発明に関わる表面伝導型放出素子は放出電流Ieに対して以下の基本特性を有している。すなわち、電子放出には明確な閾値電圧Vth(後述する実施例の表面伝導型放出素子では8[V])があり、閾値Vth以上の電圧を印加された時のみ電子放出が生じる。また、電子放出閾値Vth以上の電圧に対しては、図17のグラフのように電圧の変化に応じて放出電流Ieも変化する。このことから、本素子にパルス状の電圧を印加する場合、たとえば電子放出閾値Vth以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出閾値Vth以上の電圧を印加する場合には表面伝導型放出素子から電子ビームが出力される。その際、パルスの波高値Vmを変化させることにより出力電子ビームの強度を制御することが可能である。また、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御することが可能である。
【0144】
従って、入力信号に応じて、電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等が採用できる、電圧変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器107として、一定長さの電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いることができる。また、パルス幅変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器107として、一定の波高値の電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いることができる。
【0145】
シフトレジスタ104やラインメモリ105は、デジタル信号式のものでもアナログ信号式のものでも採用できる。すなわち、画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行われればよいからである。
【0146】
デジタル信号式を用いる場合には、同期信号分離回路106の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があるが、これには同期信号分離回路106の出力部にA/D変換器を設ければよい。これに関連してラインメモリ115の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器に用いられる回路が若干異なったものとなる。すなわち、デジタル信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器107には、例えばD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路等を付加する。パルス幅変調方式の場合、変調信号発生器107には、例えば高速の発振器および発振器の出力する波数を計数する計数器(カウンタ)および計数器の出力値と該メモリの出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合せた回路を用いる。必要に応じて、比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0147】
アナログ信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器107には、例えばオペアンプ等を用いた増幅回路を採用でき、必要に応じてシフトレベル回路等を付加することもできる。パルス幅変調方式の場合には、例えば、電圧制御型発振回路(VCO)を採用でき、必要に応じて電子放出素子の駆動電圧まで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0148】
このような構成をとりうる本発明の適用可能な画像表示装置においては、各電子放出素子に、容器外端子Dx1ないしDxm、Dy1ないしDynを介して電圧を印加することにより、電子放出が生じる。高圧端子Hvを介してメタルバック1019あるいは透明電極(不図示)に高圧を印加し、電子ビームを加速する。加速された電子は、蛍光膜1018に衝突し、発光が生じて画像が形成される。
【0149】
ここで述べた画像表示装置の構成は、本発明を適用可能な画像形成装置の一例であり、本発明の思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号についてはNTSC方式を挙げたが、入力信号はこれに限るものではなく、PAL、SECAM方式等他、これらより多数の走査線からなるTV信号(MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式をも採用できる。
【0150】
図21は、前記説明の表面伝導型放出素子を電子ビーム源として用いたディスプレイパネルに、たとえばテレビジョン放送をはじめとする種々の画像情報源より提供される画像情報を表示できるように構成した多機能表示装置の一例を示すための図である。
【0151】
図中16100はディスプレイパネル、16101はディスプレイパネルの駆動回路、16102はディスプレイコントローラ、16103はマルチプレクサ、16104はデコーダ、16105は入出力インターフェース回路、16106はCPU、16107は画像生成回路、16108および16109および16110は画像メモリーインターフェース回路、16111は画像入力インターフェース回路、16112および16113はTV信号受信回路、16114は入力部である。
【0152】
なお、本表示装置は、たとえばテレビジョン信号のように映像情報と音声情報の両方を含む信号を受信する場合には、当然映像の表示と同時に音声を再生するものであるが、音声情報の受信、分離、再生、処理、記憶などに関する回路やスピーカーなどについては説明を省略する。
【0153】
以下、画像信号の流れに沿って各部の機能を説明してゆく。
【0154】
まず、TV信号受信回路16113は、たとえば電波や空間光通信などのような無線伝送系を用いて伝送されるTV画像信号を受信する為の回路である。受信するTV信号の方式は特に限られるものではなく、たとえば、NTSC方式、PAL方式、SECAM方式などの諸方式でもよい。また、これらよりさらに多数の走査線よりなるTV信号(たとえばMUSE方式をはじめとするいわゆる高品位TV)は、大面積化や大画素数化に適した前記ディスプレイパネルの利点を生かすのに好適な信号源である。TV信号受信回路16113で受信されたTV信号は、デコーダ16104に出力される。
【0155】
また、TV信号受信回路16112は、たとえば同軸ケーブルや光ファイバーなどのような有線伝送系を用いて伝送されるTV画像信号を受信するための回路である。前記TV信号受信回路16113と同様に、受信するTV信号の方式は特に限られるものではなく、また本回路で受信されたTV信号もデコーダ16104に出力される。
【0156】
また、画像入力インターフェース回路16111は、たとえばTVカメラや画像読み取りスキャナーなどの画像入力装置から供給される画像信号を取り込むための回路で、取り込まれた画像信号はデコーダ16104に出力される。
【0157】
また、画像メモリーインターフェース回路16110は、ビデオテープレコーダー(以下VTRと略す)に記憶されている画像信号を取り込むための回路で、取り込まれた画像信号はデコーダ16104に出力される。
【0158】
また、画像メモリーインターフェース回路16109は、ビデオディスクに記憶されている画像信号を取り込むための回路で、取り込まれた画像信号はデコーダ16104に出力される。
【0159】
また、画像メモリーインターフェース回路16108は、いわゆる静止画ディスクのように、静止画像データを記憶している装置から画像信号を取り込むための回路で、取り込まれた静止画像データはデコーダ16104に出力される。
【0160】
また、入出力インターフェース回路16105は、本表示装置と、外部のコンピュータもしくはコンピュータネットワークもしくはプリンターなどの出力装置とを接続するための回路である。画像データや文字・図形情報の入出力を行うのはもちろんのこと、場合によっては本表示装置の備えるCPU16106と外部との間で制御信号や数値データの入出力などを行うことも可能である。
【0161】
また、画像生成回路16107は、前記入出力インターフェース回路16105を介して外部から入力される画像データや文字・図形情報や、あるいはCPU16106より出力される画像データや文字・図形情報にもとづき表示用画像データを生成するための回路である。本回路の内部には、たとえば画像データや文字・図形情報を蓄積するための書き換え可能メモリーや、文字コードに対応する画像パターンが記憶されている読み出し専用メモリーや、画像処理を行うためのプロセッサーなどをはじめとして画像の生成に必要な回路が組み込まれている。
【0162】
本回路により生成された表示用画像データは、デコーダ16104に出力されるが、場合によっては前記入出力インターフェース回路16105を介して外部のコンピュータネットワークやプリンターに出力することも可能である。
【0163】
また、CPU16106は、主として本表示装置の動作制御や、表示画像の生成や選択や編集に関わる作業を行う。
【0164】
たとえば、マルチプレクサ16103に制御信号を出力し、ディスプレイパネルに表示する画像信号を適宜選択したり組み合わせたりする。また、その際には表示する画像信号に応じてディスプレイパネルコントローラ16102に対して制御信号を発生し、画面表示周波数や走査方法(たとえばインターレースかノンインターレースか)や一画面の走査線の数など表示装置の動作を適宜制御する。
【0165】
また、前記画像生成回路16107に対して画像データや文字・図形情報を直接出力したり、あるいは前記入出力インターフェース回路16105を介して外部のコンピュータやメモリーをアクセスして画像データや文字・図形情報を入力する。
【0166】
なお、CPU16106は、むろんこれ以外の目的の作業にも関わるものであって良い。たとえは、パーソナルコンピュータやワードプロセッサなどのように、情報を生成したり処理する機能に直接関わっても良い。
【0167】
あるいは、前述したように入出力インターフェース回路16105を介して外部のコンピュータネットワークと接続し、たとえば数値計算などの作業を外部機器と協同して行っても良い。
【0168】
また、入力部16114は、前記CPU16106に使用者が命令やプログラム、あるいはデータなどを入力するためのものであり、たとえばキーボードやマウスのほか、ジョイスティック、バーコードリーダー、音声認識装置など多様な入力機器を用いることが可能である。
【0169】
また、デコーダ16104は、前記16107ないし16113より入力される種々の画像信号を3原色信号、または輝度信号とI信号、Q信号に逆変換するための回路である。なお、同図中に点線で示すように、デコーダ16104は内部に画像メモリーを備えるのが望ましい。これは、たとえばMUSE方式をはじめとして、逆変換するに際して画像メモリーを必要とするようなテレビ信号を扱うためである。また、画像メモリーを備えることにより、静止画の表示が容易になる、あるいは前記画像生成回路16107およびCPU16106と協同して画像の間引き、補間、拡大、縮小、合成をはじめとする画像処理や編集が容易に行えるようになるという利点が生まれるからである。
【0170】
また、マルチプレクサ16103は、前記CPU16106より入力される制御信号に基づき表示画像を適宜選択するものである。すなわち、マルチプレクサ16103はデコーダ16104から入力される逆変換された画像信号のうちから所望の画像信号を選択して駆動回路16101に出力する。その場合には、一画面表示時間内で画像信号を切り替えて選択することにより、いわゆる多画面テレビのように、一画面を複数の領域に分けて領域によって異なる画像を表示することも可能である。
【0171】
また、ディスプレイパネルコントローラ16102は、前記CPU16106より入力される制御信号にもとずき駆動回路16101の動作を制御するための回路である。
【0172】
まず、ディスプレイパネルの基本的な動作に関わるものとして、たとえばディスプレイパネルの駆動用電源(図示せず)の動作シーケンスを制御するための信号を駆動回路16101に対して出力する。
【0173】
また、ディスプレイパネルの駆動方法に関わるものとして、たとえば画面表示周波数や走査方法(たとえばインターレースかノンインターレースか)を制御するための信号を駆動回路16101に対して出力する。
【0174】
また、場合によっては表示画像の輝度やコントラストや色調やシャープネスといった画質の調整に関わる制御信号を駆動回路16101に対して出力する場合もある。
【0175】
また、駆動回路16101は、ディスプレイパネル16100に印加する駆動信号を発生するための回路であり、前記マルチプレクサ16103から入力される画像信号と、前記ディスプレイパネルコントローラ16102より入力される制御信号に基づいて動作するものである。
【0176】
以上、各部の機能を説明したが、図21に例示した構成により、本表示装置においては多様な画像情報源より入力される画像情報をディスプレイパネル16100に表示することが可能である。
【0177】
すなわち、テレビジョン放送をはじめとする各種の画像信号はデコーダ16104において逆変換された後、マルチプレクサ16103において適宜選択され、駆動回路16101に入力される。一方、ディスプレイコントローラ16102は、表示する画像信号に応じて駆動回路16101の動作を制御するための制御信号を発生する。駆動回路16101は、上記画像信号と制御信号にもとずいてディスプレイパネル16100に駆動信号を印加する。
【0178】
これにより、ディスプレイパネル16100において画像が表示される。これらの一連の動作は、CPU16106により統括的に制御される。
【0179】
また、本表示装置においては、前記デコーダ16104に内蔵する画像メモリや、画像生成回路16107およびCPU16106が関与することにより、単に複数の画像情報の中から選択したものを表示するだけでなく、表示する画像情報に対して、たとえば拡大、縮小、回転、移動、エッジ強調、間引き、補間、色変換、画像の縦横比変換などをはじめとする画像処理や、合成、消去、接続、入れ換え、はめ込みなどをはじめとする画像編集を行うことも可能である。また、本実施例の説明では特に触れなかったが、上記画像処理や画像編集と同様に、音声情報に関しても処理や編集を行なうための専用回路を設けても良い。
【0180】
したがって、本表示装置は、テレビジョン放送の表示機器、テレビ会議の端末機器、静止画像および動画像を扱う画像編集機器、コンピュータの端末機器、ワードプロセッサをはじめとする事務用端末機器、ゲーム機などの機能を一台で兼ね備えることが可能で、産業用あるいは民生用として極めて応用範囲が広い。
【0181】
なお、上記図21は、表面伝導型放出素子を電子ビーム源とするディスプレイパネルを用いた表示装置の構成の一例を示したにすぎず、これのみに限定されるものでないことは言うまでもない。たとえば、図21の構成要素のうち使用目的上必要のない機能に関わる回路は省いても差し支えない。またこれとは逆に、使用目的によってはさらに構成要素を追加しても良い。たとえば、本表示装置をテレビ電話機として応用する場合には、テレビカメラ、音声マイク、照明機、モデムを含む送受信回路などを構成要素に追加するのが好適である。
【0182】
本表示装置においては、とりわけ表面伝導型放出素子を電子ビーム源とするディスプレイパネルが容易に薄形化できるため、表示装置全体の奥行きを小さくすることが可能である。それに加えて、表面伝導型放出素子を電子ビーム源とするディスプレイパネルは大画面化が容易で輝度が高く視野角特性にも優れるため、本表示装置は臨場感にあふれ迫力に富んだ画像を視認性良く表示することが可能である。
【0183】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明の特徴であるスペーサ近傍のビームずれの補正方法について、さらに説明を加える。
【0184】
以下に述べる各実施例においては、マルチ電子ビーム源として、前述した、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=3072、M=1024)の表面伝導型放出素子を、M本の行方向配線とN本の列方向配線とによりマトリクス配線(図7および図18参照)したマルチ電子ビーム源を用いた。
【0185】
(実施例1)
本実施例は、絶縁性基材表面に高抵抗薄膜Ti−AlNおよび導電部を設けた半導電性スペーサを用いた場合に本発明を適用した例であり、図2と図3を用いて説明する。
【0186】
図2は、本実施例を適用した画像装置のスペーサ近傍の断面図、図3は本実施例に用いたスペーサを示す。図2において、110は蛍光体とメタルバックを含むフェースプレート、111は電子源基板を含むリアプレート、112はスペーサ、113はスペーサ表面の導電部、114はスペーサ設置した素子駆動用配線部、115は第1近接素子駆動用配線部、116は第2近接素子駆動用配線部、125は第3近接素子駆動用配線部、121,122は絶縁層、123は第1近接素子駆動用配線上に形成される電子軌道補正用配線部、124は第2近接素子駆動用配線上に形成される電子軌道補正用配線部、117は第1近接素子、118は第2近接素子、126は第3近接素子、119は代表的な電子ビーム軌道である。また、aはスペーサ設置配線における電子源基板からスペーサに形成された導電部上端までの高さ、a′はフェースプレートからスペーサに形成された導電部下端までの高さを示す。
【0187】
本実施例において、フェースプレート110と電子源基板111間の距離は3mmとし、素子サイズは650μm×290μmとして、図2の配線部は650μm周期で配置されている。また、114,115,116,121等の素子駆動用配線部の高さは絶縁層を含めて全ライン50μm、123,124等の電子軌道補正用配線部の厚さは10μm、121,122等の素子駆動用配線部と電子軌道補正用配線部との間に形成される絶縁層の厚さは30μmとした。
【0188】
また、スペーサ131の下端に形成した導電部の高さは70μmとし、導電性フリットおよび絶縁層を含めた素子駆動用配線の高さも含めたaの大きさを150μmとした。さらに、スペーサ131の上端に形成した導電部の高さも70μmとし、a′の大きさを100μmとした。
【0189】
ここで図3を用いて、導電部の説明をする。図3は、図2のスペーサ112を図2に示すE方向から見た図である。図3において、112はスペーサ、113は導電部を示す。スペーサ112に高さ2.8mm×長さ20mm×厚さ0.2mmの青板ガラスを用い、導電部113としてスパッタリング法を用いてAlを両側に0.1μmの厚みに形成し、さらにスパッタリング法を用いてアルゴンと窒素混合雰囲気中でTiとAlのターゲットを同時スパッタすることによりTi−AlN高抵抗薄膜151を成膜した。Ti−AlN膜151は、それぞれのターゲットにかける電力を変化することにより組成の調節を行い、最適の抵抗値を得た。基板は室温で、アースに接地されている。作製したTi−AlN膜151は、膜厚がt=200nmで比抵抗がρ=2.8×105 Ωcmであった。
【0190】
このとき、Alを導電部側端部にも形成することにより、配線部との電気的接続を取り易くしている。また、導電部と配線部との電気的接続とスペーサの固定は、Au被覆シリカ球を分散させて形成した導電性フリットガラスを用いて実施した。
【0191】
本発明の画像形成装置を、加速電圧Va =6kV、第1近接素子駆動用配線115上に形成される電子軌道補正用配線123電位Vh1=−10V、また第2近接素子駆動用配線116上に形成される電子軌道補正用配線124電位Vh2=7.5Vで駆動したところ、スペーサ112近傍においてもビームずれがなく高品位な画像を得ることが可能となった。
【0192】
(実施例2)
本実施例は、絶縁性基材表面に高抵抗薄膜NiOおよび導電部を設けた半導電性スペーサを用いた場合に本発明を適用した例であり、図4と図5を用いて説明する。
【0193】
本実施例では、図4に示した通り、スペーサ第1近接配線115は配線を高く形成し、スペーサ第2近接配線116上にのみ電子軌道補正配線124を形成した。
【0194】
以下では、実施例1と異なる箇所のみ説明する。
【0195】
また、スペーサ112の下部表面に形成した導電部113の高さは、370μmとして、導電性フリットの高さも含めたaの大きさを450μmとした。さらに、実施例1同様、スペーサ112の上端に高さ70μmの導電部113を形成し、a′の大きさを100μmとした。さらにスペーサ第1近接配線115上端までの高さは60μmとした。
【0196】
ここで図5を用いて、導電部の説明をする。図5は、スペーサ112を図5のE方向から見た図である。図5において、112はスペーサ、113は導電部を示す。スペーサ112に高さ2.8mm×長さ20mm×厚さ0.2mmの青板ガラスを用い、導電部113としてスパッタリング法を用いてAlを両側に0.1μmの厚みに形成した。
【0197】
さらに電子ビーム真空蒸着法を用いて、膜厚t=200nmで比抵抗がρ=3.3×105 ΩcmのNiO高抵抗薄膜151を成膜した。
【0198】
本発明の画像形成装置を、加速電圧Va =6kV、第2近接素子駆動用配線116上に形成される電子軌道補正用配線124を位Vh2=−25Vで駆動したところ、スペーサ近傍においてもビームずれがなく高品位な画像を得ることが可能となった。
【0199】
(実施例3)
本実施例は、絶縁性基材表面に高抵抗薄膜および導電部を設けない絶縁性スペーサを用いた場合に本発明を適用した例であり、図6を用いて説明する。
【0200】
本実施例では、図6に示した通り、スペーサ第1、第2近接素子の電子軌道補正には、スペーサ第1、第2近接配線115、116上に形成される電子軌道補正配線123、124のみで行った。
【0201】
以下では、実施例1と異なる箇所のみ説明する。
【0202】
素子駆動用配線部114,115,116,125等の高さは、絶縁層を含めて全ライン50μm、電子軌道補正用配線部123、124等の厚さは10μm、素子駆動用配線部と電子軌道補正用配線部との間に形成される絶縁層121、122等の厚さは50μmとした。
【0203】
本発明の画像形成装置を、加速電圧Va =6kV、第1近接素子駆動用配線115上に形成される電子軌道補正用配線123電位Vh1=−45V、また第2近接素子駆動用配線116上に形成される電子軌道補正用配線124電位Vh2=−20Vで駆動したところ、スペーサ112近傍においてもビームずれがなく高品位な画像を得ることが可能となった。
【0204】
(その他の実施例)
また、本発明は、SCE以外の冷陰極型電子放出素子のうち、いずれの電子放出素子に対しても適用できる。具体例としては、特開昭63−274047号公報に記載されたような対向する一対の電極を電子源を成す基板面に沿って構成した電界放出型の電子放出素子がある。
【0205】
また、本発明は、単純マトリクス型以外の電子源を用いた画像形成装置に対しても適用できる。例えば、特開平2−257551号公報等に記載されたような制御電極を用いてSCEの選択を行う画像形成装置において、電子源と制御電極間等に上記のような支持部材を用いた場合である。
【0206】
また、本発明の思想によれば、表示用として好適な画像形成装置に限るものでなく、感光性ドラムと発光ダイオード等で構成された光プリンターの発光ダイオード等の代替の発光源として、上述の画像形成装置を用いることもできる。またこの際、上述のm本の行方向配線とn本の列方向配線を、適宜選択することで、ライン状発光源だけでなく、2次元状の発光源としても応用できる。
【0207】
また、本発明の思想によれば、例えば電子顕微鏡等のように、電子源からの放出素子の被照射部材が、画像形成部材以外の部材である場合についても、本発明は適用できる。従って、本発明は被照射部材を特定しない電子線発生装置としての形態もとり得る。
【0208】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、電子放出素子の駆動配線上に設けられた電子軌道補正用の配線電極と、これに任意の電位を与える手段とを設けることにより、スペーサ隣接配線の配線電位を任意に与えることができ、これを最適化することにより、スペーサ帯電により乱れる電子軌道を補正してフェースプレートの適正な位置にスポットを形成することが可能となる。この結果、高い品位の画像装置の提供が可能となった。
【0209】
また、電子被照射体は特定せず、マルチ平面電子源を成す電子発生装置においても同様の効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の機能を説明するための図であり、画像形成装置の断面図である。
【図2】本発明第1の実施例の画像形成装置の断面図である。
【図3】本発明第1の実施例の画像形成装置に用いるスペーサの説明図である。
【図4】本発明第2の実施例の画像形成装置の断面図である。
【図5】本発明第2の実施例の画像形成装置に用いるスペーサの説明図である。
【図6】本発明第3の実施例の画像形成装置の断面図である。
【図7】本発明の実施例である画像表示装置の、表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図8】本発明の実施例である表示パネルのA−A′断面図である。
【図9】表示パネルのフェースプレートの蛍光体配列を例示した平面図である。
【図10】蛍光体の他の構成例を説明する為の図である。
【図11】実施例で用いた平面型の表面伝導型放出素子の平面図(a)、断面図(b)である。
【図12】平面型の表面伝導型放出素子の製造工程を示す断面図である。
【図13】通電フォーミング処理の際の印加電圧波形である。
【図14】通電活性化処理の際の印加電圧波形(a)、放出電流Ieの変化(b)である。
【図15】実施例で用いた垂直型の表面伝導型放出素子の断面図である。
【図16】垂直型の表面伝導型放出素子の製造工程を示す断面図である。
【図17】実施例で用いた表面伝導型放出素子の典型的な特性を示すグラフである。
【図18】実施例で用いたマルチ電子ビーム源の基板の平面図である。
【図19】実施例で用いたマルチ電子ビーム源の基板の一部断面図である。
【図20】本発明の実施例である画像表示装置の駆動回路の概略構成を示すブロック図である。
【図21】本発明の実施例である画像表示装置を用いた多機能画像表示装置のブロック図である。
【図22】従来知られた表面伝導型放出素子の一例である。
【図23】従来知られたFE型素子の一例である。
【図24】従来知られたMIM型の素子の一例である。
【図25】画像表示装置の表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【符号の説明】
110 フェースプレート
111 電子源基板
112 スペーサ
113 導電部
114 スペーサ設置した素子駆動用配線部
115 第1近接素子駆動用配線部
116 第2近接素子駆動用配線部
117 第1近接素子
118 第2近接素子
119 電子ビーム軌道
121,122 絶縁層
123,124 電子軌道補正用配線部
125 第3近接素子駆動用配線部
126 第3近接素子
151 高抵抗薄膜

Claims (3)

  1. 冷陰極型電子放出素子を設けた電子源基板と、該電子源基板に対向して配され、該電子放出素子から放出される電子を加速する加速電極及び該電子により画像を形成する画像形成部材を備えた対向基板と、該電子源基板と該加速電極の間に設けられたスペーサとを有する画像形成装置において、
    前記スペーサがその上に配置された第1駆動配線と、
    前記スペーサがその上に配置されていない第2駆動配線と、
    前記第1及び第2駆動配線の内の前記第2駆動配線上に設けられた電子軌道補正用の配線電極と、
    前記電子源基板と前記加速電極との間の距離をd、前記加速電極と前記電子放出素子との間に印加される加速電圧をV a 、前記電子源基板からの前記配線電極の高さをhとしたときに、前記配線電極に、V h <V a ・(h/d)なる電位V h を与える手段とを有することを特徴とする画像形成装置。
  2. 該スペーサ絶縁性の部材からなることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
  3. 該スペーサは半導電性の部材からなることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
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