JP3651629B2 - 高圧回転機固定子絶縁コイル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、回転電機の絶縁コイル、特に鉄心スロットに収納した固定子絶縁コイルに含浸樹脂を全含浸して得られる高圧回転機絶縁コイルの絶縁構成に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7は従来の高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
発電機及び誘導電動機などの高圧回転機固定子絶縁コイルの絶縁方式には、絶縁コイル単体方式と、未含浸の絶縁コイルを鉄心に挿入して樹脂含浸にて絶縁する全含浸絶縁方式の二通りがある。後者の全含浸絶縁方式は、未含浸の絶縁コイルと鉄心とを含浸樹脂にて一体に含浸し硬化する方式であるので、前記した絶縁コイル単体方式と比して製造工数が低減できることから、最近の高圧回転機固定子絶縁コイルでは、小形の誘導電動機から大形のタービン発電機まで幅広く採用されている。
【0003】
さて、前記全含浸絶縁方式による固定子絶縁コイルは次のようにして製作される。
まず、図7に示すように、素線導体を複数回巻回して成形した素線導体束1に、マイカ箔あるいは集成マイカにガラス繊維等からなる織布あるいはフイルム基材を少量の接着材で貼合わせて構成したドライタイプのマイカ絶縁テープを巻回して未含浸の主絶縁層2を形成し、この主絶縁層2の外周に鉄心3のスロット4の軸方向長とほぼ同じ範囲に半導電性不織布,半導電性フイルム,あるいは半導電性ガラスクロス等の半導電性テープを巻回して表面コロナ防止層5を施し、更に、この表面コロナ防止層5の両端部の前記鉄心スロット4外のコイルエンド部の外周にSiC等を含有する半導電性テープを巻回してエンドコロナ防止層を設けて未含浸の絶縁コイル6を作成する。
【0004】
次に、前記した絶縁コイル6を鉄心スロット4内に挿入する。この際に鉄心スロット4の底部には挿入される絶縁コイル6の機械的損傷を防止するために、ガラスエポキシ積層板等からなるスロット底絶縁材7が設置され、また、絶縁コイル6と鉄心3とを導電接触し、かつ鉄心ロット4内への挿着時に絶縁コイル6の損傷を防止するために、半導電性不織布,又は半導電性グラフアイトペーパ等からなる半導電性すべり材8が鉄心スロット4の形状に沿うようにU字状に配置される。
鉄心スロット4内への絶縁コイル6の挿着は、まずスロット4の底に位置する下コイルの絶縁コイル6aが挿入され、この下コイル6aと所定の絶縁寸法を維持するためにガラスエポキシ積層板等からなる層間絶縁9を介して上コイルの絶縁コイル6bが挿着される。
そして、前記上コイル6bのスロット開口部4a側には、樹脂含浸後の絶縁コイル6が運転中に鉄心スロット4内で振動するのを防止するためにガラスエポキシ積層板等の楔10が前記スロット開口部4aの鉄心3の溝に配置され、前記楔10と同質の材料からなる楔下11にて絶縁コイル6の緩みを調節しなが強固に鉄心スロット4内に装着させる。
【0005】
次に、前記のようにして鉄心スロット内6に収納された絶縁コイル6を、鉄心3とともに含浸槽に設置して、エポキシ樹脂,ボリイミド樹脂,シリコーン樹脂又はポリエステル樹脂等の熱硬化樹脂を真空,加圧含浸して、その後硬化炉に設置して加熱硬化して含浸樹脂にて充填された固定子絶縁コイルが作製される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記したように全含浸絶縁コイル方式により製作された固定子絶縁コイルは、絶縁コイル単体方式によるものと比べて、鉄心3と絶縁コイル6とが含浸樹脂にて一体化された構造となっているために、回転機の運転時の素線導体束1から発生するジュール熱を鉄心3へ放熱する熱伝達率が良好で冷却効率の良い絶縁構成とすることができる。
しかしながら、鉄心スロット4内に収納されている熱伝導率が大きい無機質からなるマイカテープを主体とした主絶縁層2からなる樹脂含浸された絶縁コイル6の周辺には、前記したようにガラス基材を一部使用しているが有機材料を主体とした半導電性すべり8と、スロット底絶縁7,層間絶縁9,楔及び楔下11からなる副絶縁材料が配置されており、これらの構成材料の熱伝導率の値が前記した主絶縁層2の値より劣るために絶縁コイル6から鉄心3への熱伝達を阻害し、冷却効率を低下させる要因となっている。
また、この全含浸絶縁方式での含浸樹脂の真空加圧含浸によっても絶縁コイル6と鉄心スロット4の角部及び副絶縁材料との境界部に、含浸樹脂の加熱硬化時の漏れ等により微小な空隙が発生する場合があり、この空隙部の存在も絶縁コイル6の冷却性能の低下の原因となっており、冷却効率を向上させることによる回転機の小形化あるいは容量アップを図るための障害となっているという問題がある。
【0007】
この発明の課題は、前記の課題を解決して鉄心スロット内に収納されている絶縁コイルの周辺に配置されている絶縁構成の熱伝導性を改善した冷却性能の優れた全含浸絶縁方式の高圧回転機固定子絶縁コイルを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記した課題を解決するために、この発明は、素線導体束上にマイカテープを複数回巻回されてなる主絶縁層と、この主絶縁層の外周に巻回された半導電性テープからなる表面コロナ防止層と、この表面コロナ防止層の両端部に設けたエンドコロナ防止層とからなる未含浸の絶縁コイルを半導電性すべりと、スロット底絶縁,層間絶縁,楔下及び楔からなる副絶縁材料とともに鉄心スロット内に収納し、この絶縁コイルを鉄心とともに含浸槽内で含浸樹脂を真空加圧含浸した後、硬化炉にて加熱硬化してなる高圧回転機固定子絶縁コイルにおいて、前記半導電性すべりを良熱伝導性のアルミナ繊維からなるセラミックス基材で構成するようにする。
そして具体的には、前記セラミックス繊維の織布又は不織布からなるシートに半導電性塗料を施した、又はセラミックス繊維とカーボン繊維とを混抄したシートから半導電性すべりを構成するものとする。
これにより、絶縁コイルの主絶縁層の外周が熱伝導性の良好なセラミックス基材からなる樹脂含浸性の良好な半導電性すべりで覆われて、この半導電性すべりを介して絶縁コイルが鉄心と一体化して導電接触する構成となるので、素線導体束から発生する熱を主絶縁層を介して効率良く鉄心へ伝達する冷却性能の優れた固定子絶縁コイルを得ることができる。
【0009】
また、鉄心スロット内に絶縁コイルを絶縁固定する副絶縁材料を良熱伝導性のアルミナ,窒化アルミナ又はアルミナシリケートのいずれからからなるセラミックス成形品、マイカ・ガラスパウダーからなる複合成形品、ガラス基材・無機接着材からなる複合成形品及びマイカ積層品のいずれかからなる無機質基材で構成するものとする。
これにより、絶縁コイルと隣接する周辺の絶縁構成材料の熱伝導率を向上させることにより絶縁コイルの冷却効率を更に増大させることが可能となる。
【0010】
また、前記した無機質基材からなるスロット底絶縁,層間絶縁及び楔下のそれぞれを、アルミナ繊維を混抄して構成した良熱伝導性の無機質基材からなるマットを介して未含浸絶縁コイルに押圧接触して絶縁固定することにより、絶縁コイルと鉄心スロット角部,及び副材料との境界面に形成される空隙部に前記した良熱伝導性の無機質基材のマットが変形して充填され、含浸した樹脂が漏洩することなく良熱伝導性絶縁材で充填された緻密な固定子絶縁層を形成することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下この発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
実施の形態1
図1は、この発明の第1の実施の形態からなる高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
なお、後記する実施の形態をも含めて図は従来の図7の絶縁コイルに対応するものであり、従来と同じ部分には同一符号を用いることにより詳細な説明を省略する。
図1において、従来の前記図7に示す固定子絶縁コイルの絶縁構成との違いは、素線導体束1にマイカテープを巻回して構成した主絶縁層2の外周に施した表面コロナ防止層5からなる未含浸の絶縁コイル6を鉄心スロット4内に導電接触して装着する半導電性すべり8aを、セラミックス基材から構成される半導電性のすべり材料としたことにある。
【0012】
この半導電性すべり8aの材料構成は、前記したように鉄心3と絶縁コイル6の表面コロナ防止層5との境界に設置されることから、すべり材のシート面垂直方向において半導電性を有する必要がある。
このため、図2に示すように、アルミナ、アルミナシリケート又はこれらの混抄からなるセラミックス繊維12をクロス状に織り込んだ織布、あるいは不織布からなるセラミックス基材に、カーボランダムとエポキシ樹脂等の接着樹脂とを混合して作製された導電性塗料13を塗布し、加熱乾燥した構成、または、図3に示す、前記したセラミックス繊維にカーボン繊維を混抄させたセラミックス・カーボン繊維混抄ペーパ14をからなる構成を半導電性すべり8aとして用いることができる。
【0013】
上記した半導電性すべり8aの厚さ寸法は、0.5mm 〜2.0mm で、表面抵抗は1 〜10KΩである。そして、前記したアルミナ、アルミナシリケートの熱伝導率は有機材料より数十倍大きいので、これらの良熱伝導性のセラミックス基材からなる半導電性すべり8a用いることにより、鉄心3への熱伝達率を改善した冷却性能の優れた高圧回転機固定子絶縁コイルを得ることができる。
なお、前記したセラミックス繊維からなるクロス、及びぺーパは機械強度的に弱い欠点があるので、これを補う結合材として熱伝導性に影響を与えない程度の少量のポリアミド繊維等の有機材料からなる繊維を混抄して構成することも可能である。
【0014】
実施の形態2
図4は、この発明の第2の実施の形態からなる高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
この発明の実施の形態は、固定子絶縁コイルの冷却効率の改善のために、鉄心スロット4内に収納した絶縁コイル6を絶縁固定する副絶縁材料を、良熱伝導性の無機系のスロット底絶縁7a,層間絶縁9a,楔10a及び楔下11aから構成したものである。この絶縁構成とすることにより、絶縁コイル6と鉄心3との間で絶縁接触している副絶縁材料が従来の有機材料より大きな熱伝導率を有しているで、絶縁コイル6からの熱を前記無機系の副絶縁材料を介して鉄心3へ伝達する熱伝達効率を向上させることができる。
【0015】
上記した無機系の副絶縁材料としては、熱伝導率の大きいアルミナ,窒化アルミナ及びアルミナシリケートからなるセラミックスの成形品、マイカ・ガラスパウダーからなる複合成形品、ガラス基材とシリコーン等の無機接着材からなる複合成形品、及び剥がしマイカ,あるいは集成マイカからなるマイカ積層品から選択して使用することができる。
【0016】
実施の形態3
図5は、この発明の第3の実施の形態からなる高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
この第3の実施の形態は、前記した実施の形態2の無機質基材からなる副絶縁材料を、良熱伝導性の無機質基材からなるマットを介して絶縁コイル6に押圧して鉄心スロット4内に絶縁固定して構成したことにある。
この実施の形態からなる固定子絶縁コイルの絶縁構成の製造方法は以下のとおりである。
【0017】
まず、図5に示すように、鉄心スロット4の底部に前記実施の形態2で説明した無機系のスロット底絶縁7aを設置し、その上にアルミナ又はアルミナ・シリケート等の無機質繊維の混抄からなる無機系マット15を備える。この場合に前記の無機系マット15と無機系スロット底絶縁7aとの上下の配置関係を逆にしてもよい。
次に、半導電性すべり8をスロット開口部4aに沿って鉄心スロット4内に設けて、下コイルの絶縁コイル6aを挿入して、この下コイル6aのコイル頭部に前記の無機系マット15,無機系層間絶縁9a,無機系マット15の順に設置した後に上コイルの絶縁コイル6bを挿着する。そして、この上コイル6bの頭部に更に前記無機系マット15を備えて、この無機系マット15を介して無機系楔下11aと無機系楔10aとを設けて、未含浸の絶縁コイル6を鉄心スロット4内に固く挿着する。 その後、前記した含浸樹脂を含浸・硬化して固定子絶縁コイルを得る。
【0018】
前記のようにして絶縁構成された絶縁コイル6の外周と導電接触している鉄心スロット4の角部,及び副絶縁材料との境界面に形成される空隙部は熱伝導性の良好な無機系マット15で空隙がなく緻密に充填されて絶縁固定されるので、絶縁コイル6の冷却効率が大幅に改善される。
なお、この実施の形態での半導電性すべり8は、従来の有機系の基材からなるすべり材としてあるが、前記した実施の形態1からなるセラミックス基材から構成されたものをも適用することができる。
【0019】
図6に、定格電圧11kv級の前記したこの発明の実施の形態からなる絶縁構成での全含浸絶縁による固定子絶縁コイルの通電によるコイル絶縁層の温度上昇の経時変化を示す。
温度上昇の測定は、モデル付き鉄心絶縁コイルを用いて行い、素線導体束1に直流大電流を通電し素線導体束1及び上コイル6bの頭部の絶縁層表面に熱電対を取り付けて測定した。図6には素線導体束1の温度上昇Aをも併記してあるが、前記した従来の絶縁構成による全含浸絶縁方式Bに比べて、この発明の前記した第1及び第3の実施の形態からなる全含浸絶縁方式C及びDのコイル絶縁層の温度上昇は小さく、熱伝導性が改善されていることが分かる。
【0020】
【発明の効果】
以上のように、この発明においては、未含浸の絶縁コイルを鉄心スロット内に挿着して一体に樹脂含浸して作製する全含浸絶縁方式からなる高圧回転機固定子絶縁コイルの絶縁構成において、半導電性すべり、及びスロット底絶縁,層間絶縁,楔及び楔下からなる副絶縁材料を従来の有機絶縁材料からなる構成に代えて熱伝導性の良好なセラミックス系の無機基材からなる構成、また更に無機系マットを適用することにより、熱伝導性の良好な全含浸絶縁方式の特徴を更に活かした冷却性能の優れた固定子絶縁コイルを得ることが可能となった。
これにより、従来の絶縁方式に比して、冷却効率が改善されたことにより回転電機の小形化あるいは容量の増大を達成することができるとともに、更に、回転電機の小形化による設置スペースの縮小化、及び構成材料の低減により安価な回転機を提供することができるという経済的効果が得られる。
また、回転機の絶縁コイルに加わる温度ストレスが低減することから、信頼性の高い長寿命な回転機絶縁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施の形態からなる高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
【図2】この発明のセラミックス基材から構成された半導電性すべりの構成図である。
【図3】この発明のセラミックス基材から構成された図2とは異なる構成からなる半導電性すべりの構成図である。
【図4】この発明の第2の実施の形態からなる高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
【図5】この発明の第3の実施の形態からなる高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
【図6】モデル鉄心による全含浸絶縁コイルの通電時におけるコイル絶縁層の温度上昇の経時変化を表す特性図である。
【図7】従来の高圧回転機固定子絶縁コイルの断面図である。
【符号の説明】
2 主絶縁層
3 鉄心
6 絶縁コイル
7a 無機系スロット底絶縁
8a 半導電性すべり
9a 無機系層間絶縁
10a 無機系楔
11a 無機系楔下
12 セラミックス繊維
13 導電性塗料
14 セラミックス・カーボン繊維混抄ペーパ
15 無機系マット
Claims (4)
- 素線導体束上にマイカテープを複数回巻回されてなる主絶縁層と、この主絶縁層の外周に巻回された半導電性テープからなる表面コロナ防止層と、この表面コロナ防止層の両端部に設けたエンドコロナ防止層とからなる未含浸の絶縁コイルを半導電性すべりと、スロット底絶縁,層間絶縁,楔下及び楔からなる副絶縁材料とともに鉄心スロット内に収納し、この絶縁コイルを鉄心とともに含浸槽内で含浸樹脂を真空加圧含浸した後、硬化炉にて加熱硬化してなる高圧回転機固定子絶縁コイルにおいて、
前記半導電性すべりを良熱伝導性のアルミナ繊維からなるセラミックス基材で構成したことを特徴とする高圧回転機固定子絶縁コイル。 - 素線導体束上にマイカテープを複数回巻回されてなる主絶縁層と、この主絶縁層の外周に巻回された半導電性テープからなる表面コロナ防止層と、この表面コロナ防止層の両端部に設けたエンドコロナ防止層とからなる未含浸の絶縁コイルを半導電性すべりと、スロット底絶縁,層間絶縁,楔下及び楔からなる副絶縁材料とともに鉄心スロット内に収納し、この絶縁コイルを鉄心とともに含浸槽内で含浸樹脂を真空加圧含浸した後、硬化炉にて加熱硬化してなる高圧回転機固定子絶縁コイルにおいて、
鉄心スロット内に絶縁コイルを絶縁固定する副絶縁材料を良熱伝導性のアルミナ,窒化アルミナ又はアルミナシリケートのいずれからからなるセラミックス成形品、マイカ・ガラスパウダーからなる複合成形品、ガラス基材・無機接着材からなる複合成形品及びマイカ積層品のいずれかからなる無機質基材で構成したことを特徴とする高圧回転機固定子絶縁コイル。 - 請求項2に記載の高圧回転機固定子絶縁コイルにおいて、前記スロット底絶縁,層間絶縁及び楔下をそれぞれ良熱伝導性の無機質基材からなるマットを介して絶縁コイルに押圧接触して絶縁固定したことを特徴とする高圧回転機固定子絶縁コイル。
- 請求項3に記載の無機質基材からなるマットがアルミナ繊維を混抄したものであることを特徴とする高圧回転機固定子絶縁コイル。
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