JP3650682B2 - トレハルロース含有糖質とその製造方法並びに用途 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トレハルロース含有糖質とその製造方法並びに用途に関し、更に詳細には蔗糖にマルトース・トレハロース変換酵素を作用させ得られるトレハルロース含有糖質、および蔗糖にマルトース・トレハロース変換酵素を作用させるトレハルロース含有糖質の製造方法、並びにこの糖質を含有せしめた組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
トレハルロースは、グルコースとフルクトースとからなる二糖類であり、化学的には1−O−α−D−グルコピラノシル−D−フルクトースで示される還元性糖質で、天然界ではわずかながら蜂蜜中に存在している。トレハルロースは、非晶質であって水に対する溶解性が高く、しかも、う蝕を誘発しにくく、甘味度が蔗糖の約40%の糖質であることから、種々の飲食物への利用が期待されており、特に甘味糖質を多く含む食品、例えば、ジャム、あん、羊羹等に利用するのに好適である。本糖質の調製方法としては、『精糖技術研究会誌』、第34号、37頁乃至第44頁(1985年)に記載されているように、プロタミノバクター・ルブラム(Protaminobacter rubrum)のα−グルコシダーゼの糖転移作用によって、蔗糖から生成することが知られている。この酵素反応では、得られる主成分がパラチノース(6−O−α−D−グルコピラノシル−D−フルクトース)であり、トレハルロースは、パラチノース結晶製品の副産物として得られる。また、トレハルロースを主成分とする糖質の製造方法としては、例えば、特開平4−169190号公報で報告されているシュードモナス・メソアシドフィラ(Pseudomonas mesoacidophila)MX−45や、特開平5−130886号公報で報告されているアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)MX−232の固定化菌体を用いて蔗糖から製造する方法が提案されているものの、酵素活性、温度安定性などが不充分で、未だ工業的に実現を見ていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、蔗糖からのトレハルロース生成率が高く、工業的実施の容易なトレハルロースの製造方法を提供するとともに、この製造方法により得られるトレハルロース含有糖質とこの糖質の用途を提供することを課題とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、トレハルロースの製造方法について鋭意検討してきた。その結果、本発明者等が先に特開平7−170977号公報で開示したマルトース・トレハロース変換酵素が、マルトースをトレハロースへ変換するのみならず、蔗糖からトレハルロースを容易に高率で生成する意外な事実を見いだし、蔗糖含有溶液にマルトース・トレハロース変換酵素を作用させることを特徴とするトレハルロース含有糖質の製造方法を確立し、併せて、この製造方法で得られるトレハルロース含有糖質とこの糖質を含有せしめた飲食物、化粧品、医薬品などの組成物を確立して本発明を完成した。
【0005】
マルトース・トレハロース変換酵素は、特開平7−170977号公報で開示したように、ピメロバクター・スピーシーズ(Pimelobacter sp.)R48(FERM BP−4315)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)H262(FERM BP−4579)、あるいはサーマス(Thermus)属に属する微生物により生産され、マルトースをトレハロースに変換、又は、トレハロースをマルトースに変換する分子内糖転移酵素である。この反応の平衡点はトレハロース側に片寄っており、マルトースを基質とした場合のトレハロース生成率は約80w/w%(以下、特にことわらない限り、本明細書ではw/w%を%と略記する。)にも達する。
【0006】
本発明では、上記菌株の酵素のみならず、ピメロバクター属及びシュードモナス属、サーマス属に属し、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する他の菌株やこれらの変異株などの酵素も適宜使用することができる。また、サーマス属に属する微生物としては、例えば、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)ATCC25104、サーマス・アクアティカス ATCC27634、サーマス・アクアティカス ATCC33923、サーマス・フィリホルミス(Thermus filiformis)ATCC43280、サーマス・ルーバー(Thermus ruber)ATCC35948、サーマス・スピーシーズ(Thermus sp.)ATCC43814、およびサーマス・スピーシーズ ATCC43815などが有利に利用できる。
【0007】
マルトース・トレハロース変換酵素を産生する微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、本酵素を産生するものであればよく、合成培地及び天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が資化できる物であればよく、例えば、グルコース、フルクトース、糖蜜、トレハロース、ラクトース、蔗糖、マンニトール、ソルビトール、澱粉部分分解物などの糖質、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸又はそれらの塩なども使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択される。例えば、グルコースを用いる場合には、その濃度は、40w/v%以下が望ましく、とりわけ、微生物の生育及び増殖からは10w/v%以下が好ましい。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物や、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物などが用いられる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。
【0008】
培養条件は、微生物が生育し、本発明に用いるマルトース・トレハロース変換酵素を産生する条件であればよく、通常、温度約4乃至80℃、好ましくは20乃至75℃、pH5乃至9、好ましくはpH6乃至8.5から選ばれる条件で、好気的に行われる。培養時間は微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは約10乃至100時間である。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、約0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、攪拌したり、酸素を使用したり、また、培養槽内の圧力を高めるなどの手段が採用される。また、培養方式は、回分培養または連続培養のいずれでもよい。
【0009】
このようにして、微生物を培養した後、得られる培養物から酵素を回収する。マルトース・トレハロース変換酵素活性は、培養物の菌体外培養液及び菌体のいずれにも認められ、菌体外培養液及び菌体を粗酵素として回収すればよく、また、培養物全体を粗酵素として用いることもできる。菌体外培養液と菌体との分離には通常の固液分離手段が採用される。例えば、培養物そのものをそのまま遠心分離する手段、培養物に濾過助剤を加えたり、あるいは、プレコートすることにより濾過分離する手段、平膜、中空糸膜などを用いる膜濾過分離する手段などを適用し得る。菌体外培養液をそのまま粗酵素液として用いることができるが、好ましくは通常の手段で濃縮して用いる。例えば、硫安塩析法、アセトン及びアルコール沈殿法、平膜、中空糸膜などを用いる膜濃縮法などが採用される。
【0010】
菌体内酵素は、通常の手段を用いて菌体から抽出し、粗酵素液として用いることができる。例えば、超音波による破砕法、ガラスビーズ及びアルミナによる機械的破砕法、フレンチプレスによる破砕法などで菌体から酵素を抽出し、遠心分離または膜濾過などで清澄な粗酵素液を得ることができる。
【0011】
更に、菌体外培養液およびその濃縮物または菌体抽出液は、通常の手段で固定化することもできる。例えば、イオン交換体への結合法、樹脂および膜などとの共有結合・吸着法、高分子物質を用いた包括法などが採用される。また、培養物から分離した菌体をそのまま粗酵素として用いることができるが、菌体を固定化し固定化酵素として用いてもよい。例えば、菌体をアルギン酸ナトリウムと混合して、塩化カルシウム溶液中に滴下して粒状にゲル化させ得られる粒状化菌体を、さらにポリエチレンイミン、グルタルアルデヒドで処理した固定化酵素として用いてもよい。
【0012】
粗酵素はそのまま用いてもよいが、通常の手段によって精製することもできる。一例として、菌体破砕抽出液を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析後、DEAE−トヨパール樹脂を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、ブチルトヨパール樹脂を用いた疎水カラムクロマトグラフィー、モノQ HR5/5樹脂を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、トヨパールHW−55樹脂を用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィーなどを組合わせて電気泳動的に単一な酵素を得ることができる。
【0013】
本発明に用いるマルトース・トレハロース変換酵素の活性は次のようにして測定する。基質としてマルトース20w/v%(10mMリン酸塩緩衝液、pH7.0)1mlに酵素液1mlを加え、反応温度を25℃、35℃あるいは60℃とし、60分間反応させた後、100℃で10分間加熱して反応を停止させる。この反応液を50mMリン酸塩緩衝液pH7.5で正確に11倍に希釈し、その希釈液0.4mlにトレハラーゼ含有溶液(1単位/ml)を0.1ml添加したものを45℃、120分間インキュベートした後、この反応液中のグルコース量をグルコースオキシダーゼ法で定量する。対照として、予め100℃で10分間加熱することにより失活させた酵素液およびトレハラーゼを用いて同様に測定する。上記の測定方法を用いて、増加するグルコース量からマルトース・トレハロース変換酵素により生成するトレハロース量を求め、その活性1単位は、1分間に1μmoleのトレハロースを生成する酵素量と定義する。
なお、反応温度は、マルトース・トレハロース変換酵素が、ピメロバクター属に属する微生物由来の場合に25℃とし、シュードモナス属に属する微生物由来の場合に35℃とし、サーマス属に属する微生物由来の場合に60℃とした。
【0014】
本発明の基質濃度は特に限定されない。基質溶液として蔗糖濃度を、例えば、0.1%で用いた場合でも、50%で用いた場合でも、本酵素の反応は進行し、トレハルロースを生成する。また、基質溶液中に完全に溶けきれない基質を含有する高濃度溶液であってもよい。反応温度は酵素が失活しない温度、すなわち80℃付近までで行えばよいが、好ましくは約0乃至70℃の範囲、とりわけサーマス属に属する微生物由来の酵素の場合には、約30乃至50℃の範囲において、蔗糖からのトレハルロース生成率が高く好都合である。反応pHは、通常、5.5乃至9.0の範囲に調整すればよいが、好ましくはpH約6.0乃至8.5の範囲に調整する。反応時間は、酵素反応の進行具合により適宜選択すればよく、通常、基質固形物グラム当たり約10乃至1,000単位の酵素使用量で約0.1乃至200時間程度である。
【0015】
このようにして得られる反応液のトレハルロース含量は、通常10%以上、条件によっては30%以上、最大で約80%にも達することが判明した。
【0016】
反応液は、常法により、瀘過、遠心分離などして不溶物を除去した後、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩し、濃縮し、シラップ状製品とすることも、更に、乾燥して粉末状製品にすることも随意である。
【0017】
必要ならば、更に、高度な精製をすることも随意である。例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーによる分画、活性炭カラムクロマトグラフィーによる分画、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画などの方法で精製することにより、高純度のトレハルロース製品を得ることも容易である。また、カラムクロマトグラフィーなどにより分離し得られる蔗糖を、再び、マルトース・トレハロース変換酵素の基質に用いてトレハルロース生成反応を行うことも有利に実施できる。
【0018】
このようにして得られた本発明のトレハルロース含有糖質を、必要により、インベルターゼなどで加水分解したり、澱粉部分分解物などを加え、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼやグルコシルトランスフェラーゼなどで糖転移したりして、甘味性、粘性などを調整することも、また、酵母により発酵性糖質を除去することなど更なる加工処理を施すことも随意である。本発明のトレハルロース含有糖質から、前述の精製方法、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどにより、グルコース及びフルクトースを除去し、トレハルロース高含有画分を採取し、これを精製、濃縮して、シラップ状製品を得ることも、更に乾燥して粉末製品を得ることも有利に実施できる。
【0019】
イオン交換カラムクロマトグラフィーとしては、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより、夾雑糖類を除去してトレハルロース高含有画分を採取する方法が有利に実施できる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0020】
このようにして製造される本発明のトレハルロース高含有糖質は、水に対する溶解性が高く、良質で上品な甘味を有している。更に、トレハルロースは、小腸の加水分解酵素によりグルコースとフルクトースとに分解されることから、経口摂取した場合、容易に消化吸収され、カロリー源として利用される。また、虫歯誘発菌などによって、醗酵されにくく、虫歯誘発菌による蔗糖からの不溶性グルカン合成を阻害することから、非う蝕性甘味料としても利用できる。
【0021】
従って、本発明のトレハルロース含有糖質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして飲食物、嗜好物、飼料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0022】
本発明のトレハルロース含有糖質は、そのまま甘味付けのための調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、蔗糖、異性化糖、蜂蜜、メイプルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の一種または二種以上の適量と混合して使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0023】
また、本発明のトレハルロース含有糖質の甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付け、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0024】
例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、たくあん漬の素、白菜漬の素、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料として有利に使用できる。
【0025】
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンデーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、紅茶、コーヒー、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤などの各種飲食物への甘味付に、呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
【0026】
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤など各種固形物、ペースト状、液状などで嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、または呈味改良剤、矯味剤として、更には、品質改良剤として有利に利用できる。
【0027】
以上述べたような各種組成物にトレハルロース含有糖質を含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程で含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常、トレハルロースとして0.1%以上、望ましくは、1%以上含有せしめるのが好適である。次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0028】
【実験1】
〈酵素の産生〉
ポリペプトン0.5w/v%、酵母エキス0.1w/v%、硝酸ナトリウム0.07w/v%、リン酸二ナトリウム0.01w/v%、硫酸マグネシウム0.01w/v%、および水からなる液体培地を、pH7.5に調製した後、500ml容三角フラスコに100mlずつ入れ、オートクレーブで120℃で、20分間滅菌し、冷却して、サーマス アクアティカス ATCC33923を接種し、60℃、200rpmで24時間回転振とう培養したものを種培養とした。
【0029】
容量30lのファーメンター2基に種培養の場合と同組成の培地をそれぞれ約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度60℃とした後、種培養液1v/v%を接種し、温度60℃、pH6.5乃至8.0に保ちつつ、約20時間通気攪拌培養した。
【0030】
【実験2】
〈酵素の精製〉
実験1で得られた培養液を遠心分離して湿重量約0.28kgの菌体を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約1.9lを、超音波破砕機 モデルUS300(株式会社日本精機製作所製)で処理し、菌体を破砕した。この破砕処理液を遠心分離(15,000G、30分間)することにより、約1.8lの上清を得た。その上清に飽和度0.7になるように硫安を加え溶解させ、4℃、一夜放置した後、遠心分離機にかけ、硫安塩析物を回収した。
【0031】
得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離して不溶物を除いた。その透析液(1560ml)を、3回に分けて、DEAE−トヨパール650ゲル(東ソー株式会社製)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量530ml)にかけた。
【0032】
マルトース・トレハロース変換酵素はDEAE−トヨパールゲルに吸着し、食塩を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)でカラムから溶出した。溶出した酵素活性画分を回収した後、1M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、次に、ブチルトヨパール 650ゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量380ml)を行った。吸着したマルトース・トレハロース変換酵素を硫安1Mから0Mのリニアグラジエントによりカラムより溶出させ、酵素活性画分を回収した。
【0033】
次に、トヨパール HW−55S(東ソー株式会社製)を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル量380ml)を行い、溶出した酵素活性画分を回収した。
【0034】
続いて、モノQ HR5/5 カラム(スウェーデン国、ファルマシア・エルケイビー社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィー(ゲル量1.0ml)を行い、食塩0.1Mから0.35Mのリニアグラジエントにより溶出した酵素活性画分を回収し、電気泳動的に単一なマルトース・トレハロース変換酵素標品を得た。精製酵素標品の比活性は、蛋白mg当たり135単位であった。
【0035】
【実験3】
〈各種糖質への作用〉
各種糖質を用いて、マルトース・トレハロース変換酵素を糖質グラム当たり50単位の作用量で反応させ、基質になりうるかどうかの試験をした。最終濃度5w/v%の、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、トレハロース、ネオトレハロース、コージビオース、イソマルトース、マルチトール、セロビオース、ゲンチオビオース、蔗糖、トレハルロース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、あるいはラクトース溶液を調製した。
【0036】
これらの溶液に実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を基質固形物グラム当たりそれぞれ50単位ずつ加え、50℃、pH7.0で48時間作用させた。酵素反応前後の反応液をキーゼルゲル60(メルク社製;アルミプレート,20×20cm)を用いた薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと略称する。)にかけ、それぞれの糖質に対する酵素作用の有無を確認した。TLCは展開溶媒に1−ブタノール:ピリジン:水=6:4:1(容積比)を用い、室温で1回展開した。発色は20v/v%硫酸−メタノール溶液を噴霧し、110℃で10分間加熱しておこなった。酵素反応により生成物を認めた反応液については、ガスクロマトグラフィー(以下、GLCと略称する。)でその糖組成を分析した。酵素反応液の一部を乾固し、ピリジンに溶解した後、オキシム化後トリメチルシリル化したものを分析試料とした。ガスクロマトグラフ装置はGC−16A(株式会社島津製作所製)、カラムは2%OV−17/クロモゾルブW(ジー・エル・サイエンス株式会社製)を充填したステンレスカラム(3mmφ×2m)、キャリアーガスは窒素ガスを流量40ml/分で、カラムオーブン温度は160℃から320℃まで7.5℃/分の昇温速度で分析した。検出は水素炎イオン検出器を用いた。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の結果から明かなように、本発明に用いるマルトース・トレハロース変換酵素は、試験した多種の糖質のうち、マルトースとトレハロース以外に、ネオトレハロース、蔗糖、トレハルロース、ツラノース、マルツロース、パラチノースにも作用し、とりわけ、蔗糖によく作用するという意外な事実が判明した。
【0039】
【実験4】
〈酵素の反応生成物〉
【0040】
【実験4−1】
〈蔗糖からの生成物〉
最終濃度10w/v%の蔗糖水溶液に実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を基質固形物グラム当たり100単位加え、50℃、pH6.5で48時間作用させた。酵素反応液の糖組成は、実験3と同様、GLCで分析した。また、物質の確認のために、オキシム化処理していないトリメチルシリル誘導体も分析試料とした。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2の結果から明かなように、蔗糖から未知の糖質Xが多量に生成し、本糖質Xは、トリメチルシリル誘導体、及びオキシム化トリメチルシリル誘導体のいずれにおいても、それぞれの保持時間が標準のトレハルロースのそれらと一致することが判明した。さらに、糖質Xを同定するために、後述の実験8で調製した高純度糖質標品を用いて確認試験を行ったところ、以下のような結果を得た。
(1)構成糖
0.5N−硫酸で加水分解し、生成物をGLCにて分析したところ、未分解の糖質Xの他に、グルコースとフルクトースが1:0.83のモル比で検出された。ヘキソースとケトースの酸に対する安定性を考慮すると、等モルのグルコースとフルクトースとから構成される糖質と判断される。
(2)酵素による分解
酵母由来インベルターゼによって、分解されなかったが、酵母由来α−グルコシダーゼの作用により分解され、グルコースとフルクトースが1:1のモル比で生成した。
(3)質量
FD−MS分析により342。
(4)比旋光度
[α]D 20 +57.7°(H2O、c=5)
(トレハルロース標準品;[α]D 20 +57.1°(H2O、c=5))
【0043】
糖質Xは、グルコースとフルクトースとからなる二糖類で、他の諸性質が標準のトレハルロースに一致したことから、トレハルロース(1−O−α−D−グルコピラノシル−D−フルクトース)であると判断される。また、マルトース・トレハロース変換酵素により蔗糖から生成する他のマイナーな成分は、GLC分析における標準品の保持時間との比較から、パラチノースとツラノースであることが判った。
【0044】
以上の結果から明かなように、マルトース・トレハロース変換酵素は、マルトースをトレハロースに、トレハロースをマルトースに変換するのみならず、蔗糖にも作用してトレハルロースに変換する。一方、トレハルロースに本酵素を作用させたが、トレハルロースから蔗糖への変換はほとんど認められなかった。
【0045】
【実験4−2】
〈蔗糖からの生成物の組成〉
最終濃度10w/v%の蔗糖水溶液に実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を基質固形物グラム当たり約330単位加え、40〜70℃、pH6.5で30分間作用させた。酵素反応液の糖組成は、実験3と同様、GLCで分析した。その結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から明らかなように、本発明で用いるマルトース・トレハロース変換酵素は、トレハルロース含量が約45〜80%のトレハルロース含有糖質を生成した。トレハルロース生成量は、温度が低いほど高く、逆に温度が高くなるほど低くなる傾向を示した。本酵素は、パラチノースに対するトレハルロースの生成率が高く(トレハルロース/パラチノースの比は14以上)、また、生成するトレハルロース高含有糖質のパラチノース含量が約4%以下という特徴を有していた。本酵素を用いて得られる本発明のトレハルロース含有糖質は、トレハルロース/パラチノースの比とパラチノース含量の点で、従来公知の酵素を用いて得られるトレハルロース含有糖質とは著しく相違していた。
【0048】
【実験5】
〈トレハルロース生成に及ぼす酵素作用量の影響〉
蔗糖濃度を10%で、温度40℃、pH6.5にて、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を蔗糖グラム当たり2単位、5単位、10単位、20単位、50単位、100単位、あるいは200単位加えて反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。酵素反応液の糖組成は、実験3と同様、GLCにて分析した。各酵素作用量、各時間でのトレハルロース含量を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4の結果から明らかなように、酵素作用量が蔗糖グラム当たり10単位以上で蔗糖からのトレハルロース生成率が10%以上となり、100単位以上では80%以上に達することが判った。10単位の酵素作用量でも、更に長時間反応させれば、トレハルロース含量は30%以上になることが予測される。
【0051】
【実験6】
〈トレハルロース生成に及ぼす蔗糖濃度の影響〉
蔗糖濃度を2.5%、5%、10%、20%あるいは40%で、温度40℃、pH6.5にて、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を蔗糖グラム当たり100単位加えて96時間反応させ、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。酵素反応液の糖組成は、実験3と同様、GLCにて分析した。その結果を表5に示す。
【0052】
【表5】
【0053】
表5の結果から明かなように、蔗糖からのトレハルロース生成率は、蔗糖濃度2.5%でも、70%以上の高率を示したが、蔗糖濃度が高いほど更に反応はよく進行し、蔗糖濃度10%以上では、約80%の高率を示した。
【0054】
【実験7】
〈トレハルロース生成に及ぼす温度の影響〉
蔗糖濃度10%で、pH6.5にして、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を蔗糖グラム当たり100単位加えて、温度20℃、30℃、40℃、50℃あるいは60℃で反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。酵素反応液の糖組成は、実験3と同様、GLCにて分析した。各温度、各時間でのトレハルロース含量を表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
表6の結果から明らかなように、蔗糖からのトレハルロース生成率は、約30乃至50℃において約70%以上の高率を示した。
【0057】
【実験8】
〈蔗糖からのトレハルロースの調製〉
蔗糖10重量部を水40重量部に溶解し、温度40℃、pH6.5にて、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を蔗糖グラム当たり100単位加えて90時間反応させ、次いで100℃で10分間加熱して酵素を失活させ、40℃に冷却した。本溶液中に残存する蔗糖を分解するため、本溶液のpHを4.0に調整し、酵母由来のインベルターゼを糖質グラム当たり20単位加えて40℃で24時間反応させ、次いで100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。本溶液には、トレハルロースを固形物当たり約80%含有していた。本溶液を活性炭で脱色し、イオン交換樹脂(H型およびOH型)にて脱塩して精製し、濃度約50%に濃縮し、得られた糖液を原糖液とし、トレハルロースの含量を高めるため、アルカリ金属型強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社販売、商品名『ダウエックス50W×4』、Ca++型)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。樹脂を内径5.4cmのジャケット付ステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ、樹脂層全長20mとした。
【0058】
カラム内温度40℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して、5v/v%加え、これに40℃の温水をSV0.2で流して分画し、フルクトース、グルコースなどの夾雑糖類を除去し、トレハルロース高含有画分を採取した。更に、精製、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、純度98%のトレハルロース高含有糖質粉末を固形物当たり、約70%の収率で得た。
【0059】
【実験9】
〈他の微生物由来マルトース・トレハロース変換酵素による蔗糖からのトレハルロースの生成〉
実験1及び2の方法に準じて、ピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)、シュードモナス・プチダ H262(FERM BP−4579)の各精製マルトース・トレハロース変換酵素、及び、サーマス・アクアティカス ATCC27634、サーマス・ルーバー ATCC35948、サーマス・スピーシーズ ATCC43815、及びサーマス・アクアティカス ATCC33923由来のDEAE−トヨパール650カラムクロマトグラフィーによる部分精製マルトース・トレハロース変換酵素を調製し、表7に示すそれぞれの作用条件で、濃度20%の蔗糖溶液中で96時間作用させ、反応液の糖組成をGLCにて分析した。各微生物起源の酵素による蔗糖からのトレハルロース生成率を表7に示した。
【0060】
【表7】
【0061】
いずれの微生物起源の酵素も蔗糖からトレハルロースを生成し、蔗糖からのトレハルロース生成率は70%以上の高率に達することが判明した。
【0062】
【実験10】
〈生体内での利用試験〉
厚治等が、『臨床栄養』、第41巻、第2号、200乃至208頁(1972年)で報告している方法に準じて、実験8で調製したトレハルロース高含有糖質粉末(純度98%)30gを20w/v%水溶液とし、これをボランティア3名(健康な25才、27才、30才の男性)にそれぞれ経口投与し、経時的に採血して、血糖値およびインスリン値を測定した。対照としては、グルコースを用いた。その結果、トレハルロースは、血糖値、インスリン値ともに、グルコースの場合より半分程度の数値を示したが、投与後、約0.5乃至1時間で最大値を示した。トレハルロースはグルコースとフルクトースとから構成され、その比率が1:1であることを考慮に入れると、本糖質は、容易に消化吸収、代謝利用されて、エネルギー源になるものと判断される。
【0063】
【実験11】
〈急性毒性試験〉
7週齢のdd系マウスを使用して、実験8で調製したトレハルロース高含有粉末(純度98%)を経口投与して急性毒性テストしたところ、体重1Kg当たり15gまでは死亡例は見られず、これ以上の投与は困難であった。従って、本糖質の毒性は極めて低い。
【0064】
以下、本発明に用いるマルトース・トレハロース変換酵素の調製を参考例で示し、この変換酵素を作用させ得られるトレハロルース含有糖質を実施例Aで、トレハルロース含有糖質を含有せしめた組成物を実施例Bで示す。
【0065】
【参考例1】
ピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)を、グルコース4.0w/v%、ポリペプトン0.5w/v%、酵母エキス0.1w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム0.06w/v%、硫酸マグネシウム・7水塩0.05w/v%、炭酸カルシウム0.5w/v%、及び水からなる液体培地を用い、温度を27℃とした以外は実験1の方法に準じて、ファーメンターで約60時間、通気攪拌培養した。この培養液約18lを、超高圧菌体破砕装置ミニラボ(大日本製薬株式会社製)で処理し、菌体を破砕した。この菌体破砕懸濁液を遠心分離機にかけ、その上清を回収し、更にその液をUF膜濃縮し、マルトース・トレハロース変換酵素をml当たり約30単位有する濃縮酵素液約300mlを回収した。
【0066】
【参考例2】
シュードモナス・プチダ H262(FERM BP−4579)を、グルコース2.0w/v%、硫酸アンモニウム1.0w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム0.06w/v%、硫酸マグネシウム・7水塩0.05w/v%、炭酸カルシウム0.3w/v%、及び水からなる液体培地を用い、温度を27℃とした以外は実験1の方法に準じて、ファーメンターで約20時間、通気攪拌培養した。この培養液約18lを遠心分離にかけ、湿重量約0.4kgの菌体を得た。これを4lの10mMリン酸緩衝液に懸濁し、超音波破砕機で処理し、菌体を破砕した。この菌体破砕懸濁液を遠心分離機にかけ、その上清を回収し、更にその液をUF膜濃縮し、マルトース・トレハロース変換酵素をml当たり約15単位有する濃縮酵素液約100mlを回収した。
【0067】
【参考例3】
サーマス・アクアティカス ATCC33923を、実験1の方法に準じてファーメンターで約20時間、通気攪拌培養した。この培養液約18lから回収した湿重量0.18kgの菌体を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約1.5lを、超音波破砕装置で処理し、菌体を破砕した。この菌体破砕懸濁液を遠心分離機にかけ、その上清を回収し、更にその液をUF膜濃縮し、マルトース・トレハロース変換酵素をml当たり約50単位有する濃縮酵素液約100mlを回収した。
【0068】
【実施例A−1】
最終濃度が30w/v%になるよう蔗糖溶液を調製し、これに参考例1の方法で調製したマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり25単位の割合で加え、10℃、pH7.0で150時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約75%のトレハルロース含有糖質シラップを固形物収率約95%で得た。本品は、固形物当たりトレハルロースを約75%含有していて、良質な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。更に、本品を水素添加して、トレハルロースを含む還元性糖質を対応する糖アルコールに換えて利用することも有利に実施できる。
【0069】
【実施例A−2】
最終濃度が20w/v%になるよう蔗糖溶液を調製し、これに参考例2の方法で調製したマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり20単位の割合で加え、25℃、pH7.0で120時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、トレハルロース含有糖質粉末を固形物当たり、約90%の収率で得た。本品は、固形物当たりトレハルロースを約70%含有していて、良質な甘味を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0070】
【実施例A−3】
実施例A−1の方法で得たマルトース・トレハロース変換酵素による反応終了液をpH4.5に調整し、インベルターゼを固形物グラム当たり5単位の割合で加え、40℃で24時間反応させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、濃度約55%に濃縮して糖液を得た。本糖液を原糖液とし、アルカリ土類金属型強酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス99、Ca++型、架橋度6%、ダウケミカル社製)を用いて、実験8と同様にカラムクロマトグラフィーにかけ、トレハルロース高含有画分を採取した。更に精製し、濃縮して濃度約75%のトレハルロース高含有糖質シラップを固形物収率約60%で得た。本品は、固形物当たりトレハルロースを約95%含有していて、良質な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0071】
【実施例A−4】
最終濃度が40w/v%になるよう蔗糖溶液を調製し、これに参考例3の方法で調製したマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり50単位の割合で加え、40℃、pH6.5で96時間反応させた。その反応終了液をpH4.5に調整し、インベルターゼを固形物グラム当たり5単位の割合で加え、40℃で24時間反応させ、95℃で10分間保った後、冷却し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、濃度約55%に濃縮して糖液を得た。本糖液を原糖液とし、アルカリ土類金属型強酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス99、Ca++型、架橋度6%、ダウケミカル社製)を用いて、実験8と同様にカラムクロマトグラフィーにかけ、トレハルロース高含有画分を採取した。更に精製し、濃縮し、噴霧乾燥して、トレハルロース高含有糖質粉末を固形物当たり、約60%の収率で得た。本品は、固形物当たりトレハルロースを約95%含有していて、良質な甘味を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0072】
【実施例 B−1】
〈甘味料〉
実施例A−4の方法で得たトレハルロース高含有糖質粉末1重量部に、α−グリコシルステビオシド(東洋精糖株式会社販売、商品名αGスイート)0.05重量部を均一に混合し、顆粒成形機にかけて、顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、蔗糖の約2倍の甘味度を有し、甘味度当りカロリーは、蔗糖の約1/2に低下している。本甘味料は、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付に好適である。また、本甘味料は、虫歯誘発菌による酸の生成が少なく、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付に好適である。
【0073】
【実施例 B−2】
〈ハードキャンデー〉
濃度55%蔗糖溶液100重量部に実施例A−1の方法で得たトレハルロース含有糖質シラップ30重量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸1重量部および適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成形し、製品を得た。本品は、歯切れ、呈味良好で、蔗糖の晶出も起こらない高品質のハードキャンデーである。
【0074】
【実施例 B−3】
〈いちごジャム〉
生いちご150重量部、蔗糖60重量部、マルトース20重量部、実施例A−1の方法で得たトレハルロース含有糖質シラップ40重量部、ペクチン5重量部およびクエン酸1重量部をなべで煮詰め、ビン詰めして製品を得た。本品は、風味、色調とも良好なジャムである。
【0075】
【実施例 B−4】
〈乳酸飲料〉
脱脂乳10重量部を80℃で20分間加熱殺菌した後、40℃に冷却し、これにスターター0.3重量部を加えて約37℃で10時間醗酵させた。次いで、これをホモジナイズした後、実施例A−2の方法で得たトレハルロース含有糖質粉末4重量部、蔗糖1重量部および異性化糖シラップ2重量部を加えて70℃に保って殺菌した。これを冷却し、適量の香料を加え、ビン詰めして製品を得た。本品は、風味、甘味が酸味とよく調和した高品質の乳酸飲料である。
【0076】
【実施例 B−5】
〈加糖練乳〉
原乳100重量部に実施例A−3の方法で得たトレハルロース高含有糖質シラップ3重量部および蔗糖1重量部を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度約70%に濃縮し、無菌状態で缶詰めして製品を得た。本品は、温和な甘味で、風味もよく、乳幼児食品、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
【0077】
【実施例 B−6】
〈チューインガム〉
ガムベース3重量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに蔗糖6重量部および実施例A−4の方法で得たトレハルロース高含有糖質粉末1重量部とを加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。本品は、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムである。
【0078】
【実施例 B−7】
〈カスタードクリーム〉
コーンスターチ100重量部、実施例A−3の方法で得たトレハルロース高含有糖質シラップ100重量部、マルトース80重量部、蔗糖20重量部および食塩1重量部を充分に混合し、鶏卵280重量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1000重量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて攪拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味である。
【0079】
【実施例 B−8】
〈ういろうの素〉
米粉90重量部に、コーンスターチ20重量部、実施例A−4の方法で得たトレハルロース高含有糖質粉末120重量部、プルラン4重量部を均一に混合してういろうの素を製造した。ういろうの素と適量の抹茶と水とを混練し、これを容器に入れて60分間蒸し上げて抹茶ういろうを製造した。本品は、照り、口当りも良好で、風味も良い。また、澱粉の老化も抑制され、日持ちもよい。
【0080】
【実施例 B−9】
〈流動食用固体製剤〉
実施例A−4の方法で得たトレハルロース高含有糖質粉末500重量部、粉末卵黄270重量部、脱脂粉乳209重量部、塩化ナトリウム4.4重量部、塩化カリウム1.85重量部、硫酸マグネシウム4重量部、チアミン0.01重量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部、ビタミンEアセテート0.6重量部およびニコチン酸アミド0.04重量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。本品は、1袋分を約150乃至300mLの水に溶解して流動食とし、経口的、または鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用される。
【0081】
【実施例 B−10】
〈外傷治療用膏薬〉
実施例A−4の方法で得たトレハルロース高含有糖質粉末500重量部に、ヨウ素3重量部を溶解したメタノール50重量部を加え混合し、更に10%プルラン水溶液200重量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷冶療用膏薬を得た。本品は、治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
【0082】
【発明の効果】
上記から明らかなように、蔗糖を含有する水溶液にマルトース・トレハロース変換酵素を作用させ得られるトレハルロース含有糖質は、蔗糖からのトレハルロース生成率が高く、分離、精製も容易である。トレハルロースはグルコースとフルクトースからなる還元性二糖類で、上品で良質な甘味を有している。また、経口的または非経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝利用される。
【0083】
本発明のトレハルロース含有糖質は、液状で、又は粉末状でその取扱いが容易である。さらに、本糖質は、浸透圧調節性、賦型性、照り付与性、保湿性、粘性、他糖の晶出防止性、難発酵性などの諸性質を具備している。これらの諸性質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして各種組成物の製造に有利に利用できる。従って、本発明のトレハルロース含有糖質とその製造方法並びに用途を確立したことは、食品、化粧品、医薬品分野などにおける工業的意義が極めて大きい。
Claims (6)
- 蔗糖含有溶液にサーマス属微生物由来のマルトース・トレハロース変換酵素を作用させ得られる、固形物中のパラチノースに対するトレハルロースの比が14以上であるトレハルロース含有糖質。
- 固形物当たりのパラチノース含量が4w/w%以下である請求項1記載のトレハルロース含有糖質。
- トレハルロース含有糖質が、トレハルロースを固形物当たり10w/w%以上含有している請求項1又は2に記載のトレハルロース含有糖質。
- 蔗糖含有溶液にサーマス属微生物由来のマルトース・トレハロース変換酵素を40乃至70℃の温度で作用させてトレハルロースを生成せしめ、これを採取することを特徴とするトレハルロースまたはトレハルロース含有糖質の製造方法。
- 蔗糖含有溶液にマルトース・トレハロース変換酵素を固形物グラム当たり10単位以上作用させることを特徴とする請求項4に記載のトレハルロースまたはトレハルロース含有糖質の製造方法。
- 得られた酵素反応液にインベルターゼを作用させ、さらに、塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにかけて、トレハルロース含量を高めることを特徴とする請求項4または5に記載のトレハルロースまたはトレハルロース含有糖質の製造方法。
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