JP3650601B2 - 伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品の内、特に足回り系と呼ばれるフレーム類やアーム類などには高強度熱延鋼板が広く用いられている。これらの部品には走行中の振動に対する耐久性の観点から高い疲労特性が要求される。こうした要求に対してはいくつかの鋼板が提案されている。例えば特開平11−199973号公報にはフェライト相とマルテンサイト相の複合組織鋼板中に微細なCuの析出物および/または固溶体を分散させた鋼板が提案されている。
【0003】
こうした、一般にDP鋼板と呼ばれる鋼板は、強度と延性のバランスや疲労特性には優れるものの、穴広げ試験で評価される伸びフランジ性には劣ることが知られている。その理由の一つは、DP鋼板は軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相の複合体であるため、穴広げ加工時に両相の境界部が変形に追随できず破断の起点になり易いからであると考えられている。これに対して伸びフランジ性にも疲労特性にも優れた熱延鋼板の提案がなされている。特開2001−200331号公報がその一例で、鋼板の組織をベイナイト相主体とし、構成するその他の相との硬度差を小さくし、更に粗大な炭化物の生成を回避することなどを要旨としている。また、特開平5−209253号公報には、Al脱酸の代わりにCeによる酸化物を利用した非時効性冷間圧延用鋼が開示されているが、伸びフランジ性と疲労特性に優れる熱延鋼板については何も記載されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
鋼板組織をベイナイト相主体とし、粗大な炭化物の生成を抑制した熱延鋼板は確かに優れた伸びフランジ性を示すものの、Cuを含有したDP鋼板に比べてその疲労特性は必ずしも優れているとは言えない。また、粗大な炭化物を抑制しただけではより厳しい穴広げ加工を行った場合には亀裂の発生を抑制できない。本発明者らの研究によれば、これらの原因は、鋼板中の酸化物を主体とする介在物の存在にあることがわかった。繰り返し変形を受けると表層またはその近傍に存在する粗大な介在物の周辺に内部欠陥が発生し、亀裂として伝播することによって疲労特性を劣化させるとともに、やはり粗大な介在物は穴広げ加工時の割れ発生の起点になり易いことがその理由と考えられる。従って、鋼中の介在物は出来る限り微細化することが望ましい。
【0005】
一般に、鋼の脱酸はフェロシリコンやアルミニウムを用いてなされるが、効率やコストの点で優れるアルミニウムがより汎用的である。アルミニウム脱酸の結果生成したアルミナ系の酸化物は、凝集しやすく粗大な介在物として鋼中に残留する。これが上記のように疲労特性と穴広げ加工性(伸びフランジ性)に影響していると思われるが、アルミナ系の介在物制御の視点に立って伸びフランジ性と疲労特性に優れる熱延鋼板を提案した例は見当たらない。
本発明は伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような状況に鑑み、本発明者らは、▲1▼アルミニウムによらない脱酸、▲2▼その酸化物が凝集して粗大化しない元素を用いた脱酸、▲3▼TiおよびNbの酸化による歩留り低下を抑制し、鋼中Cを炭化物として固定するのに必要なTi量およびNb量を溶鋼中に効率よく確保できる酸素濃度の上限の解明、および、▲4▼疲労特性を劣化させない添加元素の解明、の4点を中心に鋭意研究を進め、更に化学成分や製造方法にも検討を加え本発明を完成させた。
【0007】
その要旨は以下の通りである。すなわち
(1)質量%にて、C:0.03〜0.10%、Si:0.05〜1.5%、Mn:1.0〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、N:0.0005〜0.01%、Al:0.004%以下を含有し、更に、TiおよびNbの一方あるいは双方を、−0.05≦{Ti+(48/93)×Nb−(48/12)×C−(48/14)×N−(48/32)×S}≦0.2
となるように含有し、更に、Ce、およびO(酸素)をCe:0.0003〜0.012%、O:0.0003〜0.01%、かつCe/O≧0.25となるように含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、ベイニティック・フェライト相の面積率が80〜100%であることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板。
【0008】
(2)更に、質量%で、Cu:0.2〜2.0%、Ni:0.1〜1.0%、
を含有することを特徴とする上記(1)に記載の伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板。
(3)上記(1)または(2)に記載の鋼板を製造する方法であって、上記(1)または(2)に記載の化学成分を有する鋼材を1150〜1250℃に加熱して粗圧延した後、Ar3 点+50℃〜Ar3 点+150℃で仕上圧延を完了し、更に、40℃/秒以上の平均冷却速度で300〜500℃まで冷却し、300〜500℃で巻き取ることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
まず、本発明を完成するに至った実験について説明する。
本発明者らは、質量%にて、C:0.05%、Si:0.05%、Mn:1.5%、P:0.02%、S:0.001%を含有し、残部がFeである溶鋼に対して様々な元素を用いて脱酸を行い、酸素濃度の測定、TiおよびNbの添加を経て鋼塊を製造した。得られた鋼塊を熱間圧延して4mmの熱延鋼板とした。該鋼板を穴広げ試験、および疲労試験に供するとともに、化学成分分析を行ってTiおよびNbの歩留りを調査した。その結果、様々な元素の内、Ceを用いた脱酸を行った鋼板が最も穴広げ性と疲労特性に優れ、かつTiおよびNb添加前のO濃度が0.01%以下であれば両元素の歩留りにも問題のないことを見出した。これを基に、熱延条件の検討を行って本発明を完成させるに至った。
【0010】
以下に本発明の限定理由を述べる。まず化学成分の限定理由について述べる。なお、成分の標記は全て質量%である。
C:0.03〜0.10%
Cは、鋼板の強度を確保するために必須の元素であり、高強度鋼板を得るためには少なくとも0.03%が必要である。しかし、過剰に含まれると、TiやNbによる炭化物生成や、冷却条件を駆使しても、伸びフランジ性に好ましくないセメンタイト相の生成が避けられなくなるので0.10%以下とする。
【0011】
Si:0.05〜1.5%
Siは、伸びフランジ性を劣化させることなく強度を確保するのに有効な元素であり、少なくとも0.05%が必要であるが、過剰に含まれると伸びフランジ性に好ましくないポリゴナル・フェライト相を生成しやすくなるので、その上限は1.5%とする。
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、C、Siとともに鋼板の高強度化に有効な元素であり、1.0%以上は含有させる必要があるが、2.0%を越えて含有させると延性が劣化するため上限を2.0%とする。
【0012】
P:0.05%以下
Pは、固溶強化元素として有効であるが、偏析による加工性の劣化が懸念されるので0.05%以下にする必要がある。
S:0.01%以下
Sは、MnSなどの介在物を形成して伸びフランジ性を劣化させる他、Cを炭化物とする目的で含有させるTiと結合してその歩留りを低下させるなどの有害な作用をする。従って、出来るだけ抑制すべきであるが0.01%以下であれば許容される。
【0013】
N:0.0005〜0.01%
Nは、Cを炭化物とする目的で含有させるTiと結合してその歩留りを低下させる。従って出来るだけ抑制すべきであるが0.01%以下であれば許容される。一方、0.0005%未満とするにはコストがかかるので0.0005%を下限とする。
Al:0.004%以下
Alは、その酸化物が凝集して粗大化し易いため極力抑制することが望ましい。しかしながら、予備的な脱酸材として0.004%までは用いることが許容される。
【0014】
TiおよびNbは、C、SおよびNを析出物として固定することによって鋼板の加工性を向上させる(いわゆる、scavenging効果)働きをする。一方、必要以上に添加された場合には、それらは固溶Tiや固溶Nbとして鋼中に存在し、再結晶温度を上昇させ熱間加工組織が残存し易くなり延性を損ねる。そして、その最適な添加量の範囲は、実施例の中で示すように、各元素の化学当量を用いて記述される次式の中辺を指標として用いると適切に表すことができる。すなわち、その値が−0.05未満では延性、穴広げ性が劣り、また、0.2を超えると延性が劣化する。以上の理由から、−0.05≦{Ti+(48/93)×Nb−(48/12)×C−(48/14)×N−(48/32)×S}≦0.2の関係を満たすように限定されなければならない。
【0015】
Ce:0.0003〜0.012%
Ceは、Oと結合して鋼の清浄度を高める効果を持ち、また生成した酸化物はアルミナ系の介在物のように凝集粗大化しにくい性質を有するので伸びフランジ性に悪影響を及ぼさない。また介在物が微細化した効果は疲労特性にも有効である。こうした効果は、Ce濃度が0.0003%以上で発現するのでこの濃度を下限とする。一方、0.012%を越えて添加しても効果は飽和し、かつ鋼板のコストを高めるので0.012%を上限とする。また、O濃度の0.25倍未満ではその効果が得られないので、Ce/O≧0.25であるようにする。
【0016】
O:0.0003〜0.01%
本発明のCe脱酸を用いてもO濃度が0.01%超では良好な伸びフランジ性が得られないのでOの上限を0.01%とする。また、O濃度が0.01%超ではCの固定に必要なTi、およびNbを確保するために添加する両元素が多量に必要となり、コスト増につながることもO濃度の上限を0.01%とする理由である。一方、O濃度を0.0003%未満とするには長時間の脱酸時間が必要となって実用上好ましくないのでこの濃度を下限とする。
【0017】
Cu:0.2〜2.0%
Cuは、固溶強化元素または析出強化元素として鋼板の高強度化に利用できる。また、その添加によって疲労強度を一層向上させることができる。しかし、0.2%以上を添加しないとその効果は少なく、コスト上昇を招くのみであるので0.2%を下限とする。一方、2.0%を越えて含有されていると熱延後の鋼板表面性状を悪化させるので2.0%を上限とする。
Ni:0.1〜1.0%
Niは、上記Cuによる熱延表面性状悪化を緩和する効果があり、Cuの半分程度を目安に添加することが望ましい。従って、その下限は0.1%である。一方、1.0%を超えて添加してもその効果は飽和し、コストの上昇につながるだけなので、1.0%を上限とする。
なお、本発明において上記以外の成分はFeとなるが、スクラップなどの溶解原料から混入する不可避的不純物は許容される。
【0018】
次に加熱、圧延、冷却および巻取りの各条件について述べる。
加熱温度は鋼中のTiCやNbCなどを固溶させるため1150℃以上とすることが必要である。これらを固溶させておくことにより、圧延後の冷却過程でポリゴナルなフェライトの生成が抑制され、伸びフランジ性にとって好ましいベイニティック・フェライト相を主体とする組織が得られる。
一方、加熱温度が1250℃を超えるとスラブ表面の酸化が著しくなり、特に粒界が選択的に酸化されたことに起因すると思われる楔状の表面欠陥がデスケーリング後に残り、それが圧延後の表面品位を損ねるので上限を1250℃とする。
【0019】
仕上圧延完了温度は鋼板の組織制御上重要である。Ar3 点+50℃未満では表層部の結晶粒径が粗大となって疲労特性上好ましくない。一方、Ar3 点+150℃超では伸びフランジ性にとって好ましくないポリゴナル・フェライト相が生成し易くなるので、上限をAr3 点+150℃とする。
平均の冷却速度を40℃/秒以上とし、300〜500℃まで冷却するのは、ポリゴナル・フェライト相の生成を抑制し、ベイニティック・フェライト相を主体とする組織を得るためである。冷却速度が40℃/秒未満ではポリゴナル・フェライト相が生成しやすくなり好ましくない。
【0020】
一方、組織制御の上では冷却速度に上限を設ける必要はないが、余りに速い冷却速度は鋼板の冷却を不均一にする恐れがあり、またそうした冷却を可能にするような設備の製造には多額の費用が必要になり、そのことで鋼板の価格の上昇を招くことが考えられる。そうした観点から冷却速度の上限は100℃/秒とするのが好ましい。また、冷却停止温度が300℃より低くなると伸びフランジ性に好ましくないマルテンサイト相が生成されるので、下限を300℃とする。
【0021】
巻取り温度は伸びフランジ性を極端に悪化させるマルテンサイト相の生成を抑制するため300℃以上とする必要がある。一方、500℃超ではポリゴナル・フェライト相の生成が抑制できず、また、Cuを含有している鋼ではフェライト相中にCuが局在的に析出して疲労特性向上効果減じる恐れがあるので500℃以下とする必要がある。更に500℃以下で巻き取ることにより、その後の冷却過程でTiCやNbCが析出し、フェライト相中の固溶C量を大幅に減少させ、伸びフランジ性の向上をもたらす。
【0022】
最後に鋼板の組織について説明する。
優れた伸びフランジ性を得るにはベイニティック・フェライトを主相とする組織にすることが必要であり、その望ましい面積率は実施例にて示すように80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは100%である。また残部はベイナイト相および/又はポリゴナル・フェライト相を20%以下含有することができ、マルテンサイト相が含まれることは極力避けることが望ましい。こうした鋼板組織構成に加えて介在物が微細化されることにより、同時に優れた疲労特性も得られる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
(実施例1)
表1に化学成分を示す鋼のスラブを表2に示す条件にて熱間圧延し、厚さ3.2mmの熱延板を得た。このようにして得られた鋼板の強度、延性、穴広げ性、断面組織、および疲労限度比を調べた。その結果を鋼と条件の組み合わせ毎に表3に示す。強度と延性は、圧延方向と平行に採取したJIS5号試験片の引張試験により求めた。穴広げ性は、150×150mmの鋼板の中央に開けた直径10mmの打ち抜き穴を60°の円錐パンチで押し広げ、板厚貫通亀裂が生じた時点での穴径D(mm)を測定し、λ=(D−10)/10で求めたλで評価した。また、疲労限度比は、JIS Z 2275に準拠した方法で求めた2×106 回時間強さ、σW を鋼板の強度(σB )で除した値(σW /σB )で評価した。なお、試験片は同規格に規定の1号試験片であり、平行部が25mm、曲率半径Rが100mm、原板(熱延板)の両面を等しく研削した厚さ3.0mmのものを用いた。表3から明らかなように、本発明の方法を用いれば、強度、延性、穴広げ性、および疲労特性に優れた鋼板を得ることができる。
【0024】
【表1】
Figure 0003650601
【0025】
【表2】
Figure 0003650601
【0026】
【表3】
Figure 0003650601
【0027】
(実施例2)
質量%にて、C:0.05%、Si:0.05%、Mn:1.5%、P:0.02%、S:0.001%、Cu:1.0%、Ni:0.5%、Al:0.0004%、Ti:0.3%、Nb:0.03%を含有し、CeとOの含有量が異なり、残部がFeである鋼片を製造した。これらを加熱温度1250℃、仕上圧延終了温度850℃、平均冷却速度50℃/秒、巻取り温度450℃の条件で3.2mmの熱延鋼板とした。このようにして得られた鋼板の強度、延性、断面組織、穴広げ性、および疲労限度比を調べた。評価方法は実施例1と同じである。その結果、何れの鋼も強度800MPa以上、延性20%以上、ベイニティック・フェライト相の面積率80%以上、疲労限度比0.65以上を示し、それらの特性はCe含有量、およびO含有量の影響をほとんど受けなかったが、穴広げ性は強く影響を受けた。その結果を、Ce含有量、およびO含有量を座標軸として図1に示す。図1は鋼板の伸びフランジ性をCe濃度およびO濃度を座標軸として示すグラフである。この場合、単位は何れも質量ppmであり、太線の内部が本発明の範囲を示す。このように、本発明の範囲内であれば、伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の得られることが明らかである。
【0028】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板の伸びフランジ性をCe濃度およびO濃度を座標軸として示すグラフである。

Claims (3)

  1. 質量%にて、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.05〜1.5%、
    Mn:1.0〜2.0%、
    P:0.05%以下、
    S:0.01%以下、
    N:0.0005〜0.01%、
    Al:0.004%以下を含有し、
    更に、TiおよびNbの一方あるいは双方を
    −0.05≦{Ti+(48/93)×Nb−(48/12)×C−(48/14)×N−(48/32)×S}≦0.2
    となるように含有し、更に、Ce、およびO(酸素)を
    Ce:0.0003〜0.012%、O:0.0003〜0.01%、かつCe/O≧0.25
    となるように含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、ベイニティック・フェライト相の面積率が80〜100%であることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板。
  2. 更に、質量%で、
    Cu:0.2〜2.0%、
    Ni:0.1〜1.0%、
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の鋼板を製造する方法であって、請求項1または2に記載の化学成分を有する鋼材を1150〜1250℃に加熱して粗圧延した後、Ar3 点+50℃〜Ar3 点+150℃で仕上圧延を完了し、更に、40℃/秒以上の平均冷却速度で300〜500℃まで冷却し、300〜500℃で巻き取ることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
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