JP4077166B2 - アレスト特性に優れた鋼板およびその製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アレスト特性(脆性亀裂伝播停止特性)に優れた鋼板とその製法に関し、本発明によれば、構造物の安全性を確保するために重要な性能の一つであるアレスト特性に優れた鋼板を、Ni等の高価な元素を多量に添加することなく安価に提供することができる。
【0002】
【従来の技術】
鋼板のアレスト特性を高める上で、鋼板表層領域における等軸フェライト結晶粒(α粒)を微細化することが有効であることは良く知られており、従って該表層領域のフェライト結晶粒を微細化するための研究が種々進められている。ここで等軸フェライトとは、アスペクト比(長径/短径の比)がほぼ1で、圧延により圧延方向に伸展していないフェライト結晶粒をいう。
【0003】
例えば特開昭61−235534号公報には、圧延途中の冷却とその後の復熱過程での圧延によるフェライト粒の再結晶と、Ac3変態点以上への昇温によるα組織からγ組織への逆変態を利用してフェライト結晶粒を微細化する方法が提案されている。しかしこの方法では、Ac3変態点以上の復熱を必須とするため生産性の低下が避けられない。
【0004】
これに対し特開平4−141517号公報には、生産性の低下を緩和するため、圧延途中の冷却とその後の昇温中の圧延による復熱温度をAc3変態点未満に抑えることによってフェライト粒を再結晶化させ、それにより表層領域のフェライト粒を微細化する方法が開示されている。しかもこの公報には、鋼板表層領域のみならず表層領域と板厚方向内部の変形抵抗差によって板厚内部組織も微細化される旨の記述が見られる。しかしこの方法の如く、フェライト粒の再結晶を利用して微細フェライト粒を得るにはかなり大きな圧下量が必要となるため、鋼板の厚さや幅が大きくなると、結晶粒の微細化レベルが圧延機の能力に左右されることになり、目標通りの微細化効果を安定して得ることが難しい。
【0005】
上記以外の結晶粒微細化法として特開平2−301540号公報には、圧延中の加工発熱を利用し、Ac3変態点以上への復熱によるα組織からγ組織への逆変態を利用したフェライト結晶粒の微細化法が開示されている。しかしこの方法は、線材あるいは高速連続圧延の可能な熱延鋼板には適用できるが、厚板への適用は殆ど不可能である。
【0006】
更に特開平8−295982号公報には、板厚方向全断面をフェライト−オーステナイト2相域にまで冷却してから圧延を行なう方法が開示されている。しかしこの様な方法で変形抵抗の異なるフェライトとオーステナイトとを混在状態で圧延した場合、鋼板に求められる板厚精度や平坦性が乱れる恐れがある。しかも等軸フェライトを主体とする組織の鋼板では、アスペクト比の大きな加工フェライトを利用する場合に比べるとアレスト特性はかなり劣るものとなる。
【0007】
またこの種の改良技術の殆どは、金属組織として平均結晶粒径を規定することにより特性の向上を図っており、金属組織を決定するに当たっては、主としてナイタール腐食により粒界を現出させた後の結晶粒界を基に決定している。この場合、結晶方位差の大小にかかわらず粒界を現出させるため、特性の向上により効果的な結晶方位差を有する粒界を区別することができない。
【0008】
本件出願人もかねてよりこの種の改良研究を進めており、その一環として、特開平12−309851号や同12−309852号を先に提案している。しかし、何れもフェライト結晶粒径やその面積率、アスペクト比などを規定するもので、それなりの成果は得ているものの、結晶方位までの解析はなされていない。
【0009】
他方、特開平6−207241号公報には、結晶方位という概念に基づいた組織についての検討結果が示されており、この公報には、平均フェライト粒径が3μm以下で且つ隣接する結晶粒同士で結晶方位の等しいフェライト粒から構成されるコロニーのアスペクト比が4以上である組織が規定されており、また特開平6−88181号公報には、隣接するフェライト結晶粒同士の結晶方位が等しい結晶粒から構成されるコロニーの平均短軸径が5μm以下で、且つ圧延面に平行な集合組織の(100)面のX線強度比が1.5以上を有するフェライト組織で構成される複層組織からなる鋼板が開示されている。しかし、コロニー間の結晶方位が異なる場合でも、結晶方位差の程度によっては満足のいくアレスト特性が得られないことがあり、また適度の結晶方位差を有するものであっても、該組織中に粗大組織が混在する場合は満足なアレスト特性が得られない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
即ち本発明者らがその後更に研究を進めたところによると、コロニー間の結晶方位が異なる場合でも、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)を用いた結晶方位解析による結晶方位差の程度によっては良好なアレスト特性が得られず、また、たとえ適切な結晶方位差を有している場合であっても、短軸径(本件発明における板厚方向結晶粒径に相当する)の粗大組織が多量混在する場合は、満足のいくアレスト特性が得られないことを確認した。
【0011】
こうした事実からすると、見掛けのフェライト組織(ナイタール腐食によって確認される結晶粒径)がほぼ同一の組織を実現した場合でも、EBSPによって確認される結晶方位差の程度や粗大組織の混在の有無がアレスト特性に顕著な影響を及ぼすためと推定される。
【0012】
本発明はこうした知見を基になされたものであって、その目的は、鋼板表層領域のミクロ組織や粒径などに加えて、EBSPを用いた結晶方位解析による結晶方位差や鋼板表層領域に存在する粗大組織の影響を定量的に把握し、それにより安定して高レベルのアレスト特性を発現し得る様な鋼板を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明に係るアレスト特性に優れた鋼板とは、フェライトとパーライト主体のミクロ組織を有する鋼板であって、鋼板表面から中心部に向う板厚に対し少なくとも5%の表層領域において、板厚方向のフェライト組織が、EBSPを用いた結晶方位解析による結晶方位差が15°以上の粒界によって区分されるコロニーの板厚方向厚さ(コロニー径)が7μm以下で、アスペクト比が2以上である組織の、上記表層領域に占める面積割合が70%以上であり、且つ板厚方向の該組織間隔が15μm以上である粗大組織の占める面積割合が10%以下であるところに要旨を有している。
【0014】
本発明における上記鋼板の好ましい基本組成は、質量%(以下、同じ)で、C:0.03〜0.2%、Si:0.5%以下、Mn:1.8%以下、Al:0.01〜0.1%を含むものであり、あるいは更に
▲1▼Ti:0.02%以下、Nb:0.03%以下、V:0.05%以下、B:0.002%以下およびN:0.01%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、あるいは更に
▲2▼Cu:0.5%以下、及び/又はNi:0.5%以下を含み、
▲3▼Cr:0.1%以下、及び/又はMo:0.1%以下を含み、
▲4▼Ca:0.01%以下、及び/又はZr:0.01%以下を含み、
残部が実質的にFeと不可避不純物からなる鋼材が挙げられる。
【0015】
また本発明に係る製法とは、アレスト特性に優れた上記鋼板を効率よく製造することのできる方法として位置付けられるもので、その構成は、素材鋼板の仕上圧延開始前に、前記鋼板表層領域にAr3変態点以上の温度で少なくとも0.5以上の累積相当塑性歪(ε)を付与した後、650〜550℃の温度域までを遅くとも5℃/秒以上の速度で冷却し、その後、少なくとも30秒間放置してから圧延を再開し、次いで当該表層領域を鋼板の内部潜熱および加工熱によりAr3変態点以下の温度まで復熱させながら、1パス当たりの最大圧下率を16%以下に抑えつつ累積圧下率30%以上で仕上圧延するところに要旨を有している。
【0016】
この方法を実施するに当たっては、前記仕上圧延に引き続いて、平均冷却速度2℃/秒以上で加速冷却を行ない、あるいは上記加速冷却に引き続いて、600℃以下の温度で焼戻し処理を行なえば、得られる鋼板のアレスト特性を一段と優れたものにすることができるので好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、フェライト−パーライト主体のミクロ組織を有する鋼材を対象として、その実現が困難な微細等軸フェライト結晶粒に代わるアレスト特性改善技術についてかねてより研究を進めてきた。その結果として、一般に加工フェライトと呼ばれる圧延方向に伸展した組織を鋼板表層領域に形成すればアレスト特性が向上すること、但し、加工フェライトであればどの様な形のものでも良いというわけではなく、その分布が
▲1▼板厚表面から板厚の5%以上の範囲の表層領域に存在すること、
▲2▼加工フェライト粒の面積が円相当径で5μm以下の結晶粒であること、
▲3▼フェライト粒のアスペクト比が2以上であること、
▲4▼上記フェライト粒が、上記表層領域に50%以上存在すること、
といった要件を満たすものは、アレスト特性が飛躍的に改善されることを確認し、こうした事実を基に特開平12−309851号に開示の技術を提示した。ここで円相当径とは、該当する組織の個々の結晶粒について、その面積が等しくなるように想定した円の直径を意味する。
【0018】
こうした組織の形態制御により、従来材に比べてアレスト特性は飛躍的に改善されたものの、鋼板毎の特性値に若干のバラツキを生じる傾向があり、実用規模での信頼性を高めるには、特性値のバラツキを可及的に抑え、安定して優れたアレスト特性を与え得る様な技術を確立する必要がある。
【0019】
そこで、高レベルのアレスト特性を確実且つ安定に発現し得る様な鋼材とその製法を目指してその後も更に研究を続けた結果、鋼板表層領域の組織、それもEBSPを用いた結晶方位解析によって求められるフェライト組織の結晶方位差が特性バラツキに顕著な影響を及ぼしているという事実を確認し、こうした事実を基に更に追究した結果、上記本発明に想到したものである。
【0020】
即ち本発明における重要なポイントは、下記1)〜6)の新たな知見にある。
【0021】
1)アレスト特性の向上には、見掛けの結晶粒径の微細化ではなく、EBSPを用いて結晶方位的に解析した結晶粒径を微細化することが重要であり、具体的には、個々の結晶粒を区別する結晶粒界を結晶方位差が15°以上の大角粒界とし、結晶粒が板厚方向に微細なものは、アレスト特性が高レベルで安定なものとなること。
【0022】
2)従来は、1パス当たりの圧下率を大きくするほど結晶粒が微細化するといわれているのに対し、今回の本発明者らの知見によれば、1パス当たりの圧下率が小さい場合でも、累積相当塑性歪量を適正に制御してやれば微細組織が得られること。
【0023】
3)鋼板表層領域に対し所定の累積相当塑性歪を付与した後に冷却処理を行なう場合、30秒以上復熱させるだけで、生成するフェライト組織の70%以上が結晶方位差15°以上の大角粒界を有する微細フェライト組織を形成すること。この点は、前掲の特開昭61−235534号公報において、急冷処理の後に圧延を行ないフェライト粒の再結晶を利用して微細フェライトを生成させているのと著しく異なる。また、付与しておく累積相当塑性歪量が小さい場合、結晶方位差15°以上の大角粒界を有するフェライト組織の面積割合が70%以下となり、本発明で意図する組織が得られ難くなること。
【0024】
4)上記復熱に当たり、復熱のための放置時間が30秒未満で圧延を開始すると、圧延によって導入される歪の影響を受け、結晶方位差15°以下の結晶粒が生じ易くなること。即ち、フェライト組織の生成は瞬時に完了するのではなく、時間と温度によってその生成速度とフェライト組織分率が決定されるため、復熱時間が短い場合は、生成するフェライト組織よりも未変態オーステナイト組織の分率が多くなり、その状態で圧延を行なうと、冷却による変態駆動エネルギーによって生成するフェライト組織とは異なり、圧延による歪エネルギーを駆動力としてオーステナイトからフェライトへの変態が生じるため、同一結晶方位を有するフェライト組織が生成され易くなること。
【0025】
5)仕上圧延を行なう際に、軽圧下(例えば1パス当たりの圧下率が16%程度以下の圧延)を行なうと局所的なオーステナイトの再結晶現象が抑制され、粗大フェライト粒の生成が10%程度以下に抑えられること。しかもこうした粗大結晶粒を低減することによってアレスト特性が著しく高められること。
【0026】
6)更に、該仕上圧延時の累積圧下率を30%以上に高めてやれば、アスペクト比が2以上のフェライト組織が実現されること。
【0027】
以下、本発明を構成する各要件について詳細に説明していく。
【0028】
まず本発明にかかるアレスト特性に優れた鋼板は、表・裏の両表層領域がフェライト組織とパーライト組織を主体とするミクロ組織であることを必須とする。ここで「主体とする」とは、当該表層領域におけるミクロ組織の好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上がフェライト組織及び/又はパーライト組織であることを意味し、混在することのあるベイナイト組織やマルテンサイト等の占める比率は10面積%以下であることが望ましい。ちなみにこれら第3の組織が多すぎると、当該表層部の硬度分布に偏りが生じ、脆性亀裂がより柔らかいフェライトまたはパーライト組織に集中して進展し易くなり、満足のいくアレスト特性が得られなくなるからである。本発明において特に好ましいのは、面積比でフェライト組織が75%以上、95%以下、より好ましくは80%以上、90%以下で、パーライト組織が5%以上、25%以下、より好ましくは5%以上、15%以下で、その他の組織が10%以下、より好ましくは5%以下ある。
【0029】
そして本発明では、組織制御が行なわれる鋼板表層領域を板厚に対し5%以上と定めているが、これはアレスト特性が特に鋼板表層領域の組織に左右されるからであり、少なくとも板厚の両表面から5%以上の深さ位置までを適切な組織としなければ、アレスト特性向上効果が有効に発揮されないからである。安定してより高レベルのアレスト特性を確保する上では、表面から5%以上、より好ましくは10%以上の深さ位置までを適切に組織制御することが望ましい。
【0030】
ところで、アレスト特性を向上させるにはフェライト結晶粒を微細化することが好ましいとされているが、従来例の様に円相当結晶粒径が5μm程度以下の微細な組織であっても、アスペクト比を大きくすればアレスト特性は向上する。但し、上記表層領域のフェライト組織を微細化することによりアレスト特性は向上し得るとしても、常に安定した特性が得られるとは限らず、従来技術では鋼板毎にアレスト特性には相当のバラツキが見られる。
【0031】
そこでその理由を追究したところ、以下の事実が確認された。まず、鋼板の機械的特性は結晶粒径の微細化によって向上することが知られており、平均結晶粒径で評価することが多い。その場合、小さな結晶粒の数が多いほど平均結晶粒径は相対的に小さくなるが、大きな結晶粒が存在する場合は、平均結晶粒径が小さい場合でも特性値の大幅な向上は見られず、且つ特性値のバラツキも大きくなる。これは、機械的特性が平均結晶粒径ではなく個々の結晶の影響を大きく受けるためと考えられる。
【0032】
そこで本発明者らはこの点に注目し、粗大なフェライト組織の生成を極力低減することのできる圧延法を明かにすべく検討した結果、一般に未再結晶温度域と呼ばれる低温で圧延を行なった場合でも、圧延中の歪の蓄積によって局所的にオーステナイトの再結晶現象が引き起こされ、それに伴って結晶粒の成長が起こることが確認された。そこでこうした結晶粒の成長を抑制する方法について検討を進めた結果、下記の事実が確認された。
【0033】
a)仕上圧延時に軽圧下圧延(1パス当たりの圧下率を16%程度以下に抑えた圧下:通常は生産性を高めるため15〜20%程度の圧下率が採用される)を適用することにより、前述した様な未再結晶温度域での局所的な再結晶現象が抑制される。なお、圧下率が小さいほど粗大結晶組織の発生抑制効果は大きくなるが、1パス当たりの圧下率があまりに小さいと生産性が低下するため、圧下率は6%程度以上とすることが望ましい。
【0034】
b)仕上圧延前に鋼板表層領域を特定の条件で冷却すると、粗大なフェライト組織の発生を抑制しつつ微細フェライト組織を生成させることができ、且つ未変態オーステナイト組織に対し上記a)の圧延を行なうことで粗大フェライト組織の生成が抑制され、その結果として粗大組織の生成が全体の10%以下に抑えられる。
【0035】
この様にして鋼板表層領域における粗大フェライト組織を低減した鋼板であっても、アレスト特性には依然として相当のバラツキが見られる。
【0036】
そこで、これらの鋼板について、通常の組織観察とは異なるEBSPによる結晶方位観察手法で調査したところ、見掛け上はほぼ同一の組織を有しているにもかかわらず、アレスト特性の低い鋼板では、板厚方向の粒界の結晶方位差が小さい組織が多数存在するのに対し、アレスト特性の高い鋼板では、結晶方位差の大きい組織が大半を占めており、該結晶方位差が15°以上の粒界によって区分されると共にその間隔が7μm以下で、当該組織のアスペクト比が2以上であるものは優れたアレスト特性を示すこと、そして当該組織が前記鋼板表層領域の70%以上、より好ましくは80%以上を占めるものは、高レベルのアレスト特性を安定して発揮することが確認された。
【0037】
但し上記要件を満たす場合であっても、当該表層領域中に多量の粗大組織が存在するとアレスト特性は明かに低下傾向を示すようになり、特に前記組織間隔が15μm以上である粗大組織が10面積%を超えて存在すると、当該粗大組織部への応力の集中が起こって亀裂の伝播が促進され、満足のいくアレスト特性が得られなくなる。従って本発明の目的を果たすには、前記「結晶方位差が15°以上の粒界によって区分されるコロニーの板厚方向厚さ(コロニー径)が7μm以下で、アスペクト比が2以上である組織が、表層領域の70%以上を占める」といった要件を満たすことを前提として、更に、「前記組織間隔が15μm以上である粗大組織が10面積%以下(より好ましくは7面積%以下)」といった要件を満たすことが、本発明で意図するレベルのアレスト特性を確保する上で必須の要件となる。
【0038】
そして、結晶方位差が15°以上のフェライト組織を実現するための具体的な制御方法について検討を重ねた結果、前記3)、4)に示した手法を採用することが有効であるとの結論を得た。これら3)、4)の手法を採用することによって実現された微細組織は等軸フェライト組織であるため、更なるアレスト特性の向上を期して、これに特開平12−309851号に開示の技術を利用して加工フェライト組織とするための圧延加工を行なったところ、アスペクト比が2以上の組織の場合に優れた特性が得られること、そしてアスペクト比が2以上の組織とするには、累積圧下率で30%以上の圧延を施せばよいことが確認された。
【0039】
この場合、前掲の特開昭61−235534号公報に開示されている如く、生成したフェライトを直接圧延することによってフェライト組織を再結晶させて微細フェライト組織を得る手法もあるが、本発明の如く復熱温度がAr3変態点以下の低温で且つ1パス当たりの圧下率が前記5)で示した如く小さい場合は、フェライトの再結晶現象は起こらず、前記3)、4)で生成したフェライト組織は圧延によって加工され、アスペクト比が増大するだけに過ぎない。また、Ar3変態点以上の温度に復熱すると、冷却によって生成した微細フェライト組織の一部が粗大なオーステナイトに逆変態する割合が増大するため、復熱の温度はAr3変態点以下に抑える必要がある。
【0040】
上述した様な組織制御要件を含めて、優れたアレスト特性を有する鋼板を得るには、仕上圧延開始前に、前記鋼板表層領域にAr3変態点以上の温度、好ましくはAr3変態点以上で(Ar3変態点+70℃)までの温度で少なくとも0.5以上(より好ましくは0.55以上)の累積相当塑性歪(ε)を付与した後、650〜550℃(より好ましくは600〜550℃)の温度域までを5℃/秒以上(より好ましくは7℃/秒以上)の速度で冷却し、その後、少なくとも30秒間(より好ましくは40秒間)放置してから圧延を再開し、次いで当該表層領域を鋼板の内部潜熱および加工熱によりAr3変態点以下の温度まで復熱させながら、1パス当たりの最大圧下率を16%以下(より好ましくは12%以下)に抑えつつ累積圧下率30%以上(より好ましくは35%以上)で仕上圧延する方法が採用される。
【0041】
また、仕上圧延開始前にAr3変態点以上の温度で実施される累積相当塑性歪(ε)が0.5未満では、その後の冷却速度等を適正に制御したとしても、鋼板表層領域における結晶方位差15°以上の組織分率で70%以上を確保できず、また、仕上圧延後の冷却停止温度域が650〜550℃の範囲を外れ、あるいは当該温度域までの冷却速度が5℃/秒未満では、同様に鋼板表層領域における結晶方位差15°以上の組織分率で70%以上を確保できない。
【0042】
更に、上記温度域まで冷却した後の復熱待ち時間も、結晶方位差15°以上の組織分率で70%以上を確保する上で重要な要件となり、該待ち時間が30秒未満では70%以上の組織分率が確保できなくなる。
【0043】
当該待ち時間経過後に再開される圧延工程では、鋼板表層領域を鋼板の内部潜熱および加工熱により復熱させながら圧延が行われるが、このときの復熱温度がAr3変態点を超えると、冷却によって生成した微細フェライト組織が粒成長を引き起こし易くなり、粗大組織生成の要因になるので、復熱温度はAr3変態点以下の温度に抑えるべきである。また、該復熱後の圧延時における1パス当たりの圧下率を高め過ぎると、未変態のオーステナイトが局所的な再結晶現象を生じ、粗大オーステナイト組織となって鋼板表層領域の粗大組織分率が増大し、また累積圧下率が30%未満ではフェライト結晶粒のアスペクト比が低下傾向を生じてくるので、1パス当たりの圧下率は16%以下に抑えて粗大組織分率の増大を防止すると共に、累積圧下率は30%以上を確保することによって、フェライト結晶粒のアスペクト比で2以上を確保することが重要となる。
【0044】
かくして上記要件を満たす条件を設定することにより、鋼板表層領域における結晶方位差が15°以上の粒界によって区分されると共にその間隔が7μm以下、当該フェライト組織のアスペクト比が2以上である組織の面積分率で70%以上を確保すると共に、該組織間隔が15μm以上である粗大組織分率を10%以下に抑えることができ、それにより、「−80℃におけるKca値で7800n・mm-3/2以上」といった、従来材に比べて卓越したアレスト特性を有する鋼板を確実に製造することが可能となる。
【0045】
また本発明を実施するに当たっては、上記圧延の後更なる特性向上のため加速冷却を行なうことも有効である。これは、鋼板内部組織(表層領域よりも内側の組織)を微細化することで、シャルピー試験による低温靭性などを向上させる上で有効となるが、前記3)〜6)の手法を採用する本発明においては、鋼板表層領域の組織形成は完結しているため、アレスト特性には殆ど影響は生じない。従って、低温靭性が要求される用途に適用する場合は、仕上圧延の後に加速冷却処理を実施することが望ましく、加速冷却を行なう際の好ましい冷却速度は、平均冷却速度で2℃/秒以上、より好ましくは5℃/秒以上である。
【0046】
更に、鋼板内の残留応力を低減するため焼戻し処理を行なうことも有効であるが、焼戻し温度が600℃を超えると、折角微細化したフェライト組織からオーステナイトへの逆変態が起こり粗大組織が生成してアレスト特性を劣化させる恐れがある。しかし焼戻し温度を600℃以下に抑えてやれば、そうした組織の逆変態も起こらず、アレスト特性の劣化を回避することができる。
【0047】
本発明において上記各要件を定めた理由を一層明らかにするため、図3〜図12に、それらの各要件が、二重引張試験によるアレスト特性(−80℃におけるKca値:N・mm-3/2)に及ぼす影響について調べた結果をグラフ化して示す。これらのデータは、後記する実施例、比較例から抽出したものであり、いずれも表1(後記する)の鋼種A、試験板厚30mmを用いて調べた例である。尚、EBSP解析装置としてはTexSEM Laboratories社製の装置を使用した。
【0048】
この方法を採用した板厚方向断面のEBSP写真(カラーマップ)の一例を図1に示す。即ちこの写真からも明らかなように、結晶方位差の異なる板厚方向の結晶コロニーを色調差によって識別することができる。そして、例えば図2に略示する如くこの写真の縦方向(板厚方向)に直線A−Aを引き、該直線と各コロニーの境界部とが交わる点1,2,3,4……から、1−2,2−3,3−4の各間隔a,b,c,d……を測定し、該間隔が7μm以下であるものはアレスト特性に好影響を及ぼす組織とし、一方該間隔が15μm以上であるものはアレスト特性を阻害する粗大組織とし、これらを基に本発明で定める組織の定量化を行なう。
【0049】
まず図3は、鋼板表層領域における隣接するフェライト組織の結晶方位差(°)と組織間隔(μm)がアレスト特性に及ぼす影響を示すグラフである。この図からも明らかな様に、鋼板のアレスト特性は結晶方位差が大きいほど、また組織間隔が小さいほど向上する傾向が明確に現われている。そして、本発明の目標とする7800N・mm-3/2レベル以上のKca値を確保するには、結晶方位差で15°以上を確保すると共に、組織間隔を7μm以下に抑えるべきであることが分かる。
【0050】
また図4は、鋼板表層領域における上記組織分率がアレスト特性に与える影響を示すグラフである。このグラフからも明らかな様に、目標Kca値を満たすアレスト特性を確保するには、鋼板表層領域の組織分率で70%以上を確保すべきであることを確認できる。
【0051】
図5は、本発明により組織制御される鋼板表層領域の層厚(mm)と組織間隔がアレスト特性におよぼす影響を示したグラフであり、組織間隔が7μmを超える場合は、層厚を如何に厚くしても目標のKca値は得られず、また層厚が1.5mm(供試鋼板の板厚は30mmであるから、全板厚に対して5%)未満では、たとえ組織間隔の狭いものであっても目標のKca値を満たすものは得られない。これに対し、組織間隔が7μm以下で層厚を1.5mm(即ち、全板厚の5%)以上にしたものでは、7800N・mm-3/2レベル以上の高いKca値が得られている。
【0052】
図6は、鋼板表層領域のフェライト結晶粒のアスペクト比がアレスト特性に与える影響を示したグラフであり、この図からは、該アスペクト比を2以上とすることにより、7800N・mm-3/2レベル以上の高いKca値が得られている。
【0053】
図7は、鋼板表層領域に存在する粗大粒組織分率がアレスト特性に与える影響を示したグラフであり、この図からは、粗大粒組織分率が増大するにつれてKca値は明かに低下傾向を示しており、該分率を10%以下に抑えることにより7800N・mm-3/2レベル以上のKca値を確保できることが分かる。
【0054】
図8は、本発明鋼板を製造する際の冷却停止温度を600℃一定とし、その後の仕上圧延時における累積相当塑性歪量(ε)とその後の冷却速度が結晶方位差15°以上の組織分率に与える影響を示したグラフであり、この図からは、累積相当塑性歪量が少なくなるほど、また冷却速度を遅くするほど結晶方位差15°以上の組織分率は低下傾向を示している。そして、該累積相当塑性歪量を0.5以上に設定すると共に冷却速度を5℃/秒以上に高めてやれば、結晶方位差15°以上の組織分率が70%以上となり、図4に示した結果からも明らかな如く、7800N・mm-3/2レベル以上の高いKca値を確保できることが分かる。
【0055】
図9は、本発明鋼板を製造する際の冷却速度を5℃/秒一定とし、仕上圧延前の累積相当塑性歪量を0.51〜0.55の範囲に納め、冷却停止温度を変えた場合の結晶方位差15°以上の組織分率に与える影響を調べた結果を示したグラフであり、このグラフからは、冷却停止温度が550〜650℃の範囲で所定の結晶方位差15°以上の組織分率を得ることができ、この温度範囲を外れる場合は、いずれも目標とするKca値が得られない。
【0056】
図10は、本発明鋼板を製造する際に冷却停止温度を600℃、冷却速度を5℃/秒一定とし、仕上圧延前の累積相当塑性歪量を0.51〜0.55の範囲に納めて、仕上圧延開始までの復熱待ち放置時間が結晶方位差15°以上の組織分率に与える影響を示したグラフであり、この図からは、復熱待ち放置時間を長くするにつれて結晶方位差15°以上の組織分率は向上し、その結果、前記図4からも分かる様に、本発明で意図する7800N・mm-3/2レベル以上のKca値を確保できることが分かる。
【0057】
図11は、仕上圧延時の1パス当たりの圧下率が鋼板表層領域の粗大組織分率に与える影響を示したグラフであり、このグラフからも明らかな様に、粗大組織分率を10%以下に抑えて良好なアレスト特性を確保するには、仕上圧延時における1パス当たりの圧下率を16%以下に抑えるべきであることが分かる。
【0058】
更に図12は、仕上圧延時における累積圧下率がフェライト結晶粒のアスペクト比に与える影響を示したグラフであり、該アスペクト比で2以上を確保して目標レベルのKca値を得るには、仕上圧延時の累積圧下率で少なくとも30%以上を保証すべきであることが分かる。
【0059】
次に、本発明鋼板の鋼中化学成分について説明する。上述した通り、本発明のアレスト特性に優れた鋼板は、鋼板表層領域の組織を特定したところに重要ポイントを有するものであって、鋼自体の化学成分については特に限定されないが好ましい化学成分は以下の通りである。
【0060】
C:0.03〜0.2%
C含有量は、必要強度を確保するため0.03%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上である。但し、過度の含有は溶接性や母材靭性に悪影響を及ぼすので、0.2%以下、より好ましくは0.17%以下に抑えることが望ましい。
【0061】
Si:0.5%以下
Siは、母材の強度向上および溶鋼の脱酸成分として有用な元素であり、その効果を有効に発揮させるには0.05%以上含有させることが望ましい。しかし、含有量が多くなり過ぎると、溶接性や母材靭性を劣化させるので、0.5%以下、より好ましくは0.45%以下に抑えるのが良い。
【0062】
Mn:1.8%以下
Mnは、母材の強度上昇元素として有用であり、その為には0.5%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.7%以上である。但し、過度の含有は溶接性や母材靭性劣化を招くので、1.8%以下、より好ましくは1.6%以下に抑えるの良い。
【0063】
Al:0.01〜0.1%
Alは、脱酸剤として有用であるのみならず、窒化物を形成して母材組織の細粒化に寄与する。こうした作用は0.01%以上、より好ましくは0.015%以上で有効に発揮されるが、0.1%を超えて過度に含有させると母材靭性が劣化するので、0.1%以下、より好ましくは0.05%以下に抑えることが望ましい。
【0064】
本発明鋼板では、上記元素を基本元素として含み、残部はFeと不可避不純物や微量許容元素を含み得るが、更なる他の特性付与を目指して、下記元素を積極的に添加することも有効である。
【0065】
Ti:0.02%以下,Nb:0.03%以下,V:0.05%以下,B:0.002%以下およびN:0.01%以下、よりなる群から選択される少なくとも一種
これらの元素は、鋼片加熱時のオーステナイト粒粗大化抑制作用、圧延終了後のフェライト変態核生成促進作用、またはオーステナイト粒再結晶抑制効果を通じてフェライト結晶粒の微細化効果を有する元素である。具体的には、Tiは窒化物の形成によって上記作用が得られるが、この様な作用を有効に発揮させるためには0.004%以上添加することが好ましい。但し、0.02%を超えて過剰に添加しても母材靭性を劣化させるため、その上限を0.02%以下にすることが好ましい。
【0066】
また、Nbは炭窒化物の形成により、圧延中のオーステナイト粒粗大化作用および再結晶抑制作用を発揮し、圧延終了後のフェライト粒微細化に有効な元素であるが、この様な作用を有効に発揮させるためには、0.002%以上添加することが好ましい。但し、0.03%を超えて過剰に添加すると溶接性が劣化するため、その上限を0.03%にすることが好ましい。
【0067】
Vは、Nbと同様、炭窒化物の形成により、圧延中のオーステナイト粒粗大化および再結晶抑制作用を発揮し、圧延終了後のフェライト粒微細化に有効な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには0.002%以上添加することが好ましい。但し、0.05%を超えて過剰に添加すると溶接性が劣化するため、その上限を0.03%とすることが好ましい。
【0068】
Bは、溶接熱影響部(HAZ)の靭性を向上させるのに有効な元素であり、この様な作用を有効に発揮させるためには0.0002%以上の添加が好ましい。但し、0.002%を超えて添加すると、焼入れ性が増加し、母材の低温靭性劣化を招くことから、その上限を0.002%とすることが好ましい。
【0069】
Nは、上記Al,Ti,Nb,Vなどの添加元素と窒化物を形成し、母材組織の細粒化作用を有する。この様な作用を有効に発揮させるには0.001%以上含有させることが好ましい。但し、0.01%を超えて含有量が多くなり過ぎると固溶Nの増大を招き、特に溶接部の靭性が劣化するので、0.01%以下に抑えることが好ましい。
【0070】
Cu:0.5%以下及び/又はNi:0.5%以下
これらの元素は、いずれもオーステナイト結晶粒の微細化および低温靭性の向上に寄与する元素である。
【0071】
具体的には、Cuは、結晶粒の微細化に有効な元素であり、この様な作用を有効に発揮させるためには、0.2%以上添加することが好ましい。但し、多量に添加すると母材の溶接性を劣化させるので、その上限は0.5%とすることが好ましい。
【0072】
Niは、低温靭性の向上に有効な元素であるが、高価なため、その上限は0.5%とすることが好ましい。
【0073】
これらの元素は単独で使用しても良いし、或いは併用しても構わないが、Cuを単独添加すると熱間割れが発生する可能性があることから、Niも同時に添加し、熱間割れを防止することが好ましい。
【0074】
Cr:0.1%以下及び/又はMo:0.1%以下
これらの元素は、いずれも炭窒化物を析出させ、強度上昇に寄与する元素であり、この様な作用を有効に発揮させるためには、いずれの元素も0.03%以上添加することが好ましい。但し、過度の添加は溶接性および母材靭性を劣化させるため、その上限は0.1%とすることが好ましい。
【0075】
Ca:0.01%以下及び/又はZr:0.01%以下
これらの元素は鋼中の介在物形態を球状化させることによって母材の靭性を高める作用を有する。
【0076】
このうちCaは、鋼中介在物の形態を球状化させることにより、母材の靭性を改善する効果を有する。この様な作用を有効に発揮させるためには0.0005%以上添加することが好ましい。但し、過剰の添加は逆に母材の靭性を劣化させるため、その上限は0.01%とすることが好ましい。
【0077】
Zrは、Caと同様、鋼中介在物の形態を球状化させることによって母材の靭性を改善する作用を有する。この様な作用を有効に発揮させるためには、0.003%以上添加することが好ましい。但し、過剰の添加は逆に母材の靭性を劣化させるため、その上限は0.01%とすることが好ましい。
【0078】
【実施例】
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はもとより下記実験例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0079】
実験例
表1に記載の鋼種A〜Iを用い、表2及び表4に示す条件で加熱し、二段階に分けて圧延した後冷却し、一部については加速冷却、あるいは更に焼戻し処理を行なうことにより、表3及び表5に記載の組織を有する鋼板を製造した。
【0080】
得られた各鋼板(全厚さ:30mm)について、TexSEM Laboratories社製のEBSP解析装置を用いて、表層領域(表面から1.5mmの深さ位置)における結晶方位差が15°以上の粒界によって区分されると共に板厚方向の組織間隔が7μm以下の組織が占める面積率とアスペクト比、および板厚方向組織間隔が15μm以上である粗大組織の占める面積率、並びにそれら組織を有する表層部厚さ(全板厚に対する比率)を求めると共に、夫々について、WES(日本溶接協会)が規定する温度勾配型二重引張試験により−80℃におけるアレスト特性測定した。結果を表3及び5に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
表2,3のNo.1〜20は、いずれも本発明の規定要件を全て満たす実施例であり、何れも−80℃におけるアレスト特性は目標値の7800N・mm-3/2を超える高い値を示している。
【0087】
これに対し、本発明で定めるいずれかの要件を欠く表4,5のNo.21〜40は、−80℃におけるアレスト特性値が目標とする7800N・mm-3/2に達していない。
【0088】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、アレスト特性に影響を及ぼす鋼板表層領域の組織評価に、EBSPを用いた結晶方位解析による結晶方位差を採用し、該結晶方位差が15°以上の粒界によって区分され、その板厚方向組織間隔が7μm以下でアスペクト比が2以上である微細組織が表層領域に占める割合を70%以上に特定すると共に、上記板厚方向組織間隔が15μm以上の粗大組織の存在量を10%以下と規定することにより、従来材に比べて卓越したアレスト特性を安定して示す信頼性の高い鋼材を提供し得ることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で得た鋼板の板厚方向断面のEBSPカラーマップの一例を示す図である。
【図2】EBSPカラーマップの解析法を説明するための概念図である。
【図3】鋼板表層領域における隣接するフェライト組織の結晶方位差(°)と組織間隔(μm)がアレスト特性に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】鋼板表層領域におけるフェライト組織の組織分率がアレスト特性に与える影響を示すグラフである。
【図5】本発明により組織制御される鋼板表層領域の層厚(mm)と組織間隔がアレスト特性におよぼす影響を示したグラフである。
【図6】鋼板表層領域のフェライト結晶粒のアスペクト比がアレスト特性に与える影響を示したグラフである。
【図7】鋼板表層領域に存在する粗大結晶組織分率がアレスト特性に与える影響を示したグラフである。
【図8】本発明鋼板を製造する際の冷却停止温度を600℃一定とし、仕上圧延前の圧延時における累積相当塑性歪量とその後の冷却速度が、結晶方位差15°以上の組織分率に与える影響を示したグラフである。
【図9】本発明鋼板を製造する際の冷却速度を5℃/秒一定とし、仕上圧延前の圧延時における累積相当塑性歪量を0.51〜0.55の範囲に納め、冷却停止温度を変えた時の結晶方位差15°以上の組織分率に与える影響を調べた結果を示したグラフである。
【図10】本発明鋼板を製造する際の冷却停止温度を600℃、冷却速度を5℃/秒一定とし、仕上圧延前の圧延時における累積相当塑性歪量を0.51〜0.55の範囲に納めて、仕上圧延開始までの復熱待ち放置時間が結晶方位差15°以上の組織分率に与える影響を示したグラフである。
【図11】 仕上圧延時の1パス当たりの圧下率が鋼板表層領域の粗大組織分率に与える影響を示したグラフである。
【図12】 仕上圧延時における累積圧下率がフェライト結晶粒のアスペクト比に与える影響を示したグラフである。
Claims (10)
- Al:0.01〜0.1%(質量%の意味。以下、同じ。)、N:0.01%以下(0%を含まない)を含有し、
フェライトとパーライト主体のミクロ組織を有する鋼板であって、鋼板表面から中心部に向う板厚に対し少なくとも5%の表層領域において、板厚方向フェライト組織のうち、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)を用いた結晶方位解析による結晶方位差が15°以上の粒界によって区分されるコロニーの板厚方向厚さ(コロニー径)が7μm以下で、アスペクト比が2以上である組織の、上記表層領域に占める面積割合が70%以上であり、且つ板厚方向の組織間隔が15μm以上である粗大組織の占める面積割合が10%以下であることを特徴とするアレスト特性に優れた鋼板。 - 鋼中の化学成分が、
C :0.03〜0.2%、
Si:0.5%以下(0%を含まない)、
Mn:1.8%以下(0%を含まない)
を含み、残部がFeおよび不可避不純物である請求項1に記載の鋼板。 - 他の元素として、
Ti:0.02%以下(0%を含まない)、
Nb:0.03%以下(0%を含まない)、
V :0.05%以下(0%を含まない)
よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項2に記載の鋼板。 - 更に他の元素として、B:0.002%以下(0%を含まない)を含有する請求項2または3に記載の鋼板。
- 更に他の元素として、Cu:0.5%以下(0%を含まない)及び/又はNi:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項2〜4のいずれかに記載の鋼板。
- 更に他の元素として、Cr:0.1%以下(0%を含まない)及び/又はMo:0.1%以下(0%を含まない)を含有する請求項2〜5のいずれかに記載の鋼板。
- 更に他の元素として、Ca:0.01%以下(0%を含まない)及び/又はZr:0.01%以下(0%を含まない)を含有する請求項2〜6のいずれかに記載の鋼板。
- 上記請求項1〜7のいずれかに記載の鋼板を製造する方法であって、仕上圧延開始前に、前記鋼板表層領域にAr3変態点以上の温度で少なくとも0.5以上の累積相当塑性歪(ε)を付与した後、650〜550℃の温度域までを5℃/秒以上の速度で冷却し、その後、少なくとも30秒間放置してから圧延を再開し、次いで当該表層領域を鋼板の内部潜熱および加工熱によりAr3変態点以下の温度まで復熱させながら、1パス当たりの最大圧下率を16%以下に抑えつつ累積圧下率30%以上で仕上圧延することを特徴とするアレスト特性に優れた鋼板の製法。
- 前記仕上圧延に引き続いて、平均冷却速度2℃/秒以上で加速冷却を行なう請求項8に記載の製法。
- 前記加速冷却に引き続いて、600℃以下の温度で焼戻し処理を行なう請求項9に記載の製法。
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