JP3650574B2 - 円錐面の測地線を利用した工業製品 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、工業製品の形状の少なくとも一部が円錐面の測地線の形状となるようにしたことを特徴とする円錐面の測地線を利用した工業製品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、例えば、眼鏡のフレーム及び蔓、時計、ガン等のグリップ、椅子、カップの取手、杖、医療用装具、ブラジャーのワイヤ、人工股関節ステム等の工業製品は、視覚的、人間工学的な観点から製品毎に多種多様なデザイン思想の基で設計されている。
【0003】
特に、杖、医療用装具、ブラジャーのワイヤ等、実際に直接人体にフィットさせるものは、人体形状の平均値に基づいて設計されることが多い。
しかしながら、人体形状は個体差が大きく、各人にフィットさせるのは困難である。このため、よりフィット性を追求する場合には、オーダーメイドにより設計するしかなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、杖、医療用装具、ブラジャーのワイヤ等の工業製品のフィット性を追求する場合、オーダーメードとするとコスト高となるという問題があった。さらに、実際に完成してみないと試着できないという問題もある。
【0005】
特に、人工股関節ステムの場合には、計測精度をあげることにより、理論的には大腿骨髄腔形状に完全に適合させたオーダーメードのステムを作ることができる。しかしながら、人工股関節ステムの場合、大腿骨髄腔形状に完全に適合したオーダーメードのステムであっても、大腿骨髄腔の皮質髄腔面の断面形状は、不均一で、かつ骨の長軸も彎曲しているため、ストレートに刺入する限り、刺入の近位側に緩みが生じてしまう。これは、大腿骨髄腔形状に完全に適合したステムでは、刺入軸に垂直な断面が遠位側で近位側をはみ出す部分があるからである。実際のオーダーメードステムでは遠位断面が近位断面からはみ出した部分をカットすることによってデザインの調整を行っている。このため、はみ出した部分をカットされたステムでは、図7のように、より円錐に近い形となるため、ステムの刺入腔が円錐に近づくにつれて、ステムの回旋固定性も弱く、術後の体重負荷に耐え得るのが困難となり、長期間の使用ができないという問題点がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、視覚的にも優れた設計であり、且つ人体の形状に、より近似する形状とすることにより、機能的にも優れた工業製品を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決すべく、本発明者は円錐面の測地線の形状が生物等の硬組織に近似することを見出し、特に、医学、人間工学的な分野における工業製品に好ましく適用したものである。
【0008】
すなわち、ヒト等の脊椎動物の肋骨、前腕骨(橈骨,尺骨)、大腿骨等の長管骨の特徴は、一端が回転していて他端は真っ直ぐに近い螺旋形状である。このように、少ない回転で段々回転の度合いが小さくなるカーブの螺旋を近似させるものとして、円錐面の測地線が最も適当であることを見出した。
例えば、図14に示す前腕骨と円錐面の測地線形状、図15(a)に示すヒト全身骨格の正面像、図15(b)、(c)に示すヒト全身骨格の側面像、図16(a)、(b)に示すように、人間等の脊椎動物の骨軸だけではなく、バンテン、ソマリジェレヌク等の動物の頭部から出る角等の動物の硬組織と円錐面の測地線とはほぼ近似する。
【0009】
特に、円錐面の測地線は、単純な螺旋のように一様な形状変化ではないにもかかわらず、螺旋性と左右対称性の両方を備えるものであり、螺旋性と左右対称性を備えるヒトの骨等の硬組織形状と近似させることができるものである。なお、単なる螺旋(対数螺旋、つる巻き螺旋)では、一様な形状変化であり、且つ左右対称性を有しないため、ヒト等の生物の硬組織の形状と近似させることは困難である。
【0010】
さらに、本発明者は、トーラス(円環面)の断面として表される卵形状が生物等の骨等の硬組織の断面形状に近似することを見出し、特に、医学、人間工学的な分野における工業製品に好ましく適用したものである。すなわち、大腿骨等の骨の断面形状については、小転子より近位一横指から外側近位に向かって約45度の角度での切断面が、ほぼ卵形であり、大腿骨骨幹部の切断面はほぼ円であるから、骨形状を特定するのに、卵形から円へと連続的に変化していくと認識することができ、軸を円錐面の測地線として、断面形状を上記のように規定していくことにより骨のモデル化が容易となることを見出した。
【0023】
請求項記載の発明は、工業製品の形状の一部に円錐面の測地線の形状が使用されていて、二本以上の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)が互いに接し、接点における法線ベクトルが等角度をなすように互いの曲線上を滑らずに進んでいくように互いに転がり運動をする時、それぞれの円錐の頂点間の距離が不変であることを適用したことを特徴とする。
【0024】
請求項記載の発明は、工業製品の形状の一部に円錐面の測地線の形状が使用されていて、二本の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)が互いに接し、接点における法線ベクトルが等角度をなすように互いの曲線上を滑らずに進んでいくように互いに転がり運動をする時、常に距離の変らないそれぞれの円錐の頂点と定まった位置関係にあるヒンジ軸を介して、そのヒンジ軸を支持する支持部との間で、自由に蝶番運動ができ、その蝶番運動のどの段階においても二本の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)の前記転がり運動が可能なリンク構造を肘、前腕骨運動モデル、ロボットアーム、クレーン車、シャベルカーのアーム、義肢等に適用したことを特徴とする。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の実施の形態及び参考例について詳細に説明する。
(第1の参考例
本発明は、工業製品の形状の少なくとも一部が円錐面の測地線の形状、またはそれらより導かれる形状、または少なくとも一部が円錐面の測地線を軸とした形状となるようにしたことを特徴とする。
【0026】
ここで、円錐2の測地線1とは、図1(a)、(b)に示すように円錐面上の2点を最短経路で結ぶ線であり、次式で表される。
【0027】
【数5】
Figure 0003650574
パラメータθは円錐2の頂点から測定線の任意の位置までの測地線の長さsと次式の関係がある。
【0028】
【数6】
Figure 0003650574
【0029】
円錐面の測地線1は、nに対して一種類の無限の長さを持った形状が決定され、その形状の部分は、両端点の回転角のパラメータθ、または、両端点の、円錐面の測地線と円錐2の頂点との間の距離を1としたときの円錐2の頂点から最短距離の点からの円錐面の測地線1に沿った距離sによって規定される。なお、図1(a)は、円錐2の底面の直径と高さの比が1:3の測地線1、(b)は、円錐2の底面の直径と高さの比が1:5の測地線1である。このように、円錐面の測地線1は、単純な螺旋のように一様な形状変化ではないにもかかわらず、螺旋性と左右対称性の両方を備えるものであり、図14〜図16に示すように、螺旋性と左右対称性を備えるヒトの骨等の硬組織形状と近似するものである。円錐面の測地線は、左右が対称で上下と前後が非対称であるというヒトの形状の特徴を備えた特殊な螺旋であり、その前後像、側面像がヒトの全身骨格の前後像、側面像に近似している。特に、尺骨、橈骨、肋骨のような長管骨の骨軸形状を最適に表現することができる。
【0030】
円錐2の測地線1を工業製品の形態に利用する態様としては、▲1▼少なくとも一部が円錐面の測地線の形状、▲2▼それらより導かれる形状、▲3▼少なくとも一部が円錐面の測地線を軸とした形状がある。
▲1▼ 少なくとも一部が円錐面の測地線の形状とは、円錐面の測地線が工業製品の外側又は内側形状の少なくとも一部に円錐面の測地線を適用した形状をいう。
▲2▼ それらより導かれる形状とは、円錐面の測地線を曲線又は直線に沿って、その軌跡を描くように掃引した形状、円錐面の測地線をフレームとして膜を張った形状、円錐面の測地線を立方体、円柱、球体等の立体の中に入れて変形させた形状、円錐面の測地線を2次元的に投影した形状等をいう。円錐面の測地線を立方体、円柱、球体等の立体の中に入れて変形させた形状とは、立方体をx、y、zの各軸方向に拡大縮小したり、円柱、球体等を極座標の回転角に応じて、その回転角方向に拡大縮小したり、それらの立体を圧迫変形、牽引変形、せん断変形、ひねり変形等の変形をさせた形状等をいう。
▲3▼ 少なくとも一部が円錐面の測地線を軸とした形状とは、軸の少なくとも一部を円錐面の測地線とした形状をいう。軸を円錐面の測地線としていれば、その断面形状は問わないが、視覚的に、または機能的には、少なくとも一部が円錐面の測地線を軸とした形状の断面形状を卵形、円形又は多角形等として連続的に滑らかに変化させるようにするのが好ましい。
【0031】
ここで、卵形3とは、ト−ラス(円環面)の断面である。具体的には図2(a)に示すような形状であり、次式で表すことができる。
【0032】
【数7】
Figure 0003650574
式中、aというパラメータにより、図2(b)に示すように、卵形3から円への滑らかな形状変化を制御することが可能となり、rにより卵形3から円へ変化する形状全体を制御することができる。
【0033】
少なくとも一部が円錐面の測地線1を軸とした形状の断面形状を卵形、円形又は多角形等として連続的に滑らかに変化させた例を図3に示す。
【0034】
図3は、円錐面の測地線1を軸として、断面の卵形を滑らかに別の卵形に移行させて、最終的に円としたものである。最終的な円の半径を所定の大きさとし、さらに、断面の卵形を、距離が移行するにしたがって回転させたものである。
詳細には、底面の直径と高さの比が1:nの円錐面の測地線の頂点から測地線1までの最短距離を1とし(ステップ1)、頂点から測地線までの最短距離の点から最初に右下に回転する方向を+、左下に回転する方向を−とし(ステップ2)、距離sを所定位置ss1〜ss2までのばす(ステップ3)。最初断面の卵形3aaを所定角度回転させる(ステップ4)。そして、測地線1の距離が移行するに従って回転させ、同時に卵形3aaは同じトーラス(円環面)を中枢側に向かって切っていくように形状変化させる(ステップ5)。そして、最終的な底面の円3bbの半径を基準値のτ倍となるように断面の縮尺を変えていくようにする(ステップ6)。
なお、この参考例では、円錐面の測地線1を軸として、断面形状を上記のステップ1〜6に従って、変化させるようにしているが、これに限定されるものではなく、少なくとも一部が円錐面の測地線1を軸とした形状の断面形状を卵形、円形又は多角形等として連続的に変化させるものであれば良く、設計する工業製品の目的、用途により適宜変更が可能であることは勿論である。
【0035】
(第2の参考例
本発明の第2の参考例として、円錐面の測地線を、(1)眼鏡のフレーム及び蔓、(2)椅子、(3)カップの取手に適用した例を図4(a)、(b)、(c)により説明する。
【0036】
▲1▼ 眼鏡への適用例
図4(a)に示すように、眼鏡4のフレームから蔓部分にかけて円錐面の測地線を適用している。
具体的には、眼鏡装着者の顔輪郭に合わせて、以下のように設計する。
顔の輪郭、鼻、耳等の装着者の特徴点を抽出し、その特徴点を基に、x、y、z座標(図示せず)を求めて、眼鏡4のフレームの形状を所定の円錐面の測地線が通るように設計する。
眼鏡4又はサングラスなどのフレーム及び蔓をこのようなデザインとすることにより、視覚的にも美観を生じさせることが可能となる。
眼鏡4のフレーム及び蔓の断面形状は、例えば、上述のように、円錐面の測地線を軸として、パラメータ及び断面形状を滑らかに変化させるようにすることにより、多様なデザインとすることができる。
なお、図示はしていないが、スポーツ用、医療用、実験用、花粉症用などの保護眼鏡等顔面に直接フレーム部分をフィットさせるような形状とした場合、円錐面の測地線が顔面の凹凸形状にフィットさせやすい曲線であるため、人間工学的にも特に好適である。
【0037】
▲2▼ 椅子への適用例
図4(b)に示すように、椅子5の脚部分、座面部分、背もたれ部分などのフレーム形状を円錐面の測地線で設計することができる。具体的には、設計する椅子5の脚部分、座面部分、背もたれ部分のフレーム形状が所定の円錐面の測地線が通るように設計する。
座面、背もたれ部分は、円錐面の測地線でできたフレームに膜をはるように作る。
さらに、全体の形状を立方体に入れ、その立方体のx、y、z軸のそれぞれの方向に拡大縮小したり、立方体を、せん断変形させるようにしてデザインを調節する。
椅子5のフレームの断面形状は、例えば、上述の眼鏡4のように、円錐面の測地線を軸として、パラメータ及び断面形状を滑らかに変化させるようにすることにより、多様なデザインとすることができる。
このようなデザインとすることにより、人間工学的にも優れ、且つ視覚的にも美観を生じさせることが可能となる。
【0038】
▲3▼ カップの取手の適用例
図4(c)に示すように、カップの取手6を、円錐面の測地線で設計することができる。カップの取手6の断面形状は、例えば、上述のように、円錐面の測地線を軸として、パラメータ及び断面形状を滑らかに変化させるようにすることにより、多様なデザインとすることができる。
このようなデザインとすることにより、視覚的にも美観を生じさせるだけでなく、指が掛けやすい形状となるため、単なる円弧、半円などの単純な湾曲形状よりも持ちやすく実用的となる。
【0039】
この参考例では、眼鏡のフレーム及び蔓、椅子、カップの取手の視覚的な外形形状に、円錐面の測地線を適用した例について説明したが、これらはあくまでも例示であり、この他の日用雑貨品、指輪、ブレスレット、ブローチ、髪止め等の装身具、服飾品、壁紙等の図柄、身の回り品、室内装飾品、化粧品等の容器、家具、文具、電化製品、車両等のあらゆる工業製品の視覚的なデザインに幅広く適用できることは勿論である。
これらの製品の円錐面の測地線の適用は、3次元的だけではなく2次元的であっても良く、上述したように、(1)少なくとも一部が円錐面の測地線の形状、(2)それらより導かれる形状、(3)少なくとも一部が円錐面の測地線を軸とした形状とするようにしても良いことは勿論である。
これにより、円錐面の測地線が単純な螺旋のように一様な形状変化ではないにもかかわらず、螺旋性と左右対称性の両方を備える形状を有するので、視覚的に美観を生じ、意識的又は無意識的に人体形状を連想させることができるため製品形状がユニークなものとなり、機能的だけでなく、視覚的にも優れた設計デザインとなる。
【0040】
(第3の参考例
本発明の第3の参考例として、図5により、円錐面の測地線を、ブラジャーのワイヤ7に適用した例を説明する。
乳房下側周辺の基底ラインの湾曲形状を、以下のように円錐面の測地線として表すことができる。具体的には、装着者の乳房の基底ライン形状の特徴点を抽出し、その特徴点を基に、x、y、z座標(図示せず)を求めて、所定の円錐面の測地線が通るように位置を設定するよう設計する。
【0041】
なお、円錐面の測地線1をブラジャーのワイヤ7に適用する場合に、特徴的な3次元上の点を選び、それらに対応する円錐面の測地線上の点との変位の2乗和が最小となるように円錐面の測地線を決定するようにしても良い。
ブラジャーのワイヤ7はばね材などにより形成できることは勿論であるが、ワイヤレスのブラジャーのようにカップの輪郭を布製とするものにも適用できる。
装着者の乳房の基底ライン形状によりサイズ及び湾曲形状が異なるので、最も近似する円錐面の測地線を選択することにより、オーダーメイドに比べ、装着者の乳房形状にフィットし、カップのずれを防止し、肩こり等の生じない装着感の良いブラジャーを低コストで提供することが可能となる。
この参考例では、円錐面の測地線を、ブラジャーのワイヤーで説明したが、円錐面の測地線は、これらに限定するものではなく、直接人体に触れる工業製品に適用可能であり、例えば、ガン等のグリップ、コルセットのワイヤー、杖、ロフストランドクラッチ杖、松葉杖、医療用の装具等幅広く適用できることは勿論である。
【0042】
(第4の参考例
本発明の第4の参考例として、円錐面の測地線を軸として人工股関節ステムに適用した例を説明する。
【0043】
人工股関節ステム8は、人工股関節置換術、大腿骨頚部内側骨折の際の人工骨頭置換術の際に使用されるものであり、大腿骨髄腔内に挿入されて使用されるものである。人工股関節ステム8は、主に、図6(a)、(b)に示すように、骨髄腔断面内にほぼ納まるような方形状のエッジロック型ステム8a、断面形状が骨髄腔断面とほぼ適合するプレスフィット型ステム8bの2種類がある。なお、図中、9は大腿骨断面であり、9aは皮質であり、9bは髄質である。
何れの人工股関節ステム8a、8bも、図8、9に示すように、図示しない頭部と、頭部に続くネック部81a、81bと、これに続くステム部82a、82bとから構成される。なお、人工股関節ステム8の材質は、チタンが好ましい。ステムの表面は、HAコーテイング、ポーラスコーテイング、サンドブラスト加工等の処理が行なわれる。
【0044】
本発明の円錐面の測地線1を軸として両者に対して適用する場合について、以下に詳述する。
【0045】
▲1▼ プレスフィット型ステム
プレスフィット型ステムは、図9(a)、(b)に示すように、円錐面の測地線1を軸としており、実際には次のように設計する。
【0046】
大腿骨近位の3次元CT撮影及び計測を行い、実際の装着者の大腿骨に適合するような最適なパラメータ値を選択する。具体的には、装着者の大腿骨3次元軸から、それに最も近似する円錐面の測地線1を決定し、その円錐面の測地線1に垂直な面で大腿骨近位の3次元CT像を切ることによって各部の断面形状を導き、断面のパラメータを決定するよう設計する。
【0047】
なお、装着者の大腿骨3次元軸から、それに最も近似する円錐面の測地線1を決定する場合に、特徴的な大腿骨3次元軸上の点を選び、それらに対応する円錐面の測地線上の点との変位の2乗和が最小となるように円錐面の測地線を決定するようにしても良い。
【0048】
特に、ステムの近位で、ステム内側部分のカーブの彎曲の仕方をより滑らかにするために、断面のパラメータの値を遠位にいくに従って、対数的に減少させるようにすると良い。これにより、緩やかに彎曲する実際の人体の大腿骨髄腔の形状に適合した実用的なステムとすることができる。
【0049】
また、大腿骨等の骨の断面は、小転子より近位一横指から外側近位に向かって約45度の角度での切断面であり、この形状はほぼ卵形であり、特に、大腿骨骨幹部はほぼ円であるから、骨形状を特定するのに、卵形から円へと連続的に変化させていくようにする。
【0050】
上記の設計を多くの大腿骨に関して行い、計測の平均値,中央値,群による計測値の特徴等を参考にして段階的なサイズのあるレディメイドのステムをつくることができる。
【0051】
大腿骨髄腔形状は多くの長管骨形状同様、その軸が円錐面の測地線によって近似されるため、かかるプレスフィット型のステム8bでは、ステムと大腿骨髄腔との間で、大腿骨髄腔形状に完全に適合したステムを、仮に大腿骨髄腔内に緩みなく刺入できたとした理想的なステムと同程度の回旋固定性が得られる。
【0052】
従来のオーダーメイドステムは、大腿骨髄腔形状に完全に適合した設計から、遠位断面が近位断面からはみ出した部分をカットするというデザインの調整を行っている。これは、大腿骨髄腔形状に完全に適合した設計の段階では、ストレートに刺入すれば、ゆるみが生じるし、ストレート刺入以外の方法では、全体としての形状が不正なので、規格的にステムを緩み無く刺入する方法がないからである。デザインを調製されたオーダーメイドステムは、図7のように円錐形に近ずくため、調整前の大腿骨髄腔形状に完全に適合した形状に比べて回旋固定性が低下する。一方、プレスフィット型のステム8bは、円錐面の測地線1を軸としているので、人工股関節ステムの形状が明確な螺旋形状となり、一番中枢の骨切り面において回転座標軸を合わせるようにして、右大腿骨であれば左回りに、ステムを螺旋状にねじ込んでいけば、ステムを緩み無く刺入することができる。つまり、プレスフィット型のステム8bは、大腿骨髄腔がもともと持っている回旋固定性を得るために必要な形状の特徴を温存したまま、緩み無く刺入することが可能なのである。従ってプレスフィット型のステム8bは、従来のデザイン調整されたオーダーメイドステム以上に、ステムと大腿骨髄腔との間で強い回旋固定性が得られる。また、人工股関節ステム8は、円錐面の測地線という螺旋形状を利用しているため、ステムに加わった回旋力を長軸方向の力として逃がすことができる。人工股関節ステムは、常に長軸方向では、遠位方向の力のみ受け、この方向の力に対しては、テーパによって十分な抵抗、固定力があるので、円錐面の測地線を軸とした螺旋状のステムの回旋固定力は、非常に強固なものとなる。
【0053】
なお、この参考例では、ステム8bの、ステム部82bの軸に円錐面の測地線を適用しており、ネック部81bの軸は直線であるが、ネック部81bとステム部82bを合わせたステム8b全体の軸を円錐面の測地線としても良い。ネック部81bの軸も円錐面の測地線とすることによって、ネックが従来より後方に位置するようになるので、股関節の屈曲時に、ネックが、人工股関節臼蓋側カップの辺縁やデュアルベアリング人工骨頭のアウターヘッドの辺縁にあたり、摩耗が生じるという現象を防止することができる。
【0054】
さらに、図9(b)に示すように、プレスフィット型のステム8bの表面に、断面の回転に応じた溝をらせん状に掘り、それをねじ込む際の誘導溝83bとすれば、刺入がより容易になると同時に溝のエッジによってさらに回旋固定力が強固となる。なお、この参考例では、誘導溝83bの形状及び個数は、図に示すように断面がほぼ3角形状の溝を8個形成しているが、これに限定されるものではなく、プレスフィット型のステム8bの大きさ等によって、断面を矩形形状等で7個以下又は9個以上とする等適宜設計変更は可能である。
【0055】
▲2▼ エッジロック型ステム
エッジロック型ステム8aは、図8に示すように、円錐面の測地線1を軸としており、実際には次のように設計する。
【0056】
大腿骨近位の3次元CT撮影及び計測を行い、実際の装着者の大腿骨に適合するような最適なパラメータ値を選択する。具体的には、装着者の大腿骨3次元軸から、それに最も近似する円錐面の測地線1を決定し、その円錐面の測地線1に垂直な面で大腿骨近位の3次元CT像を切ることによって各部の断面形状を導き、断面のパラメータを決定するよう設計する。
【0057】
上記の設計を多くの大腿骨に関して行い、計測の平均値,中央値,群による計測値の特徴等を参考にして段階的なサイズのあるレディメイドのステムをつくることができる。
【0058】
このとき、プレスフィット型ステム8bと異なるのは、断面形状を、図11に示すように、卵形状3内に収まるような矩形3aとしている点である。本実施の形態では、卵形状3内に収まる矩形3aの形状は、幾何中心から所定の角度θ1、θ2の台形としている。エッジロック型ステム8bでは、各断面の矩形の各角において、髄質に係止するようになるため、回旋固定力は、プレスフィット型ステム8bよりも強固なものとすることができるとともに、髄腔が温存されるという大きな利点がある。
また、エッジロック型ステム8bは、軸を円錐面の測地線として、断面を滑らかに変化する卵形状3内に収まる矩形3aとしているから、大腿骨髄腔形状に適合したものとなり、従来のストレート刺入を前提としたエッジロック型ステムに比べて、各断面の矩形の各角のうち、髄質に係止する接触点が飛躍的に増加するので、ラインフィット性が向上する。さらに刺入の際、従来のストレート刺入を前提としたエッジロック型ステムでは、各断面の矩形の各角のうち、特定のポイントに強い抵抗が生じるため、刺入が困難であったが、本実施の形態のエッジロック型ステム8bでは、ほぼらせん形状の大腿骨髄腔に円錐面の測地線を軸としたエッジロック型ステム8bをらせん方向に刺入することとなるので、断面の矩形の各角の生じる抵抗が、全体として均一になるため刺入が容易となる。
【0059】
なお、この参考例では、ステム8aの、ステム部82aの軸に円錐面の測地線を適用しており、ネック部81aの軸は直線であるが、ネック部81aとステム部82aを合わせたステム8a全体の軸を円錐面の測地線としても良い。ネック部81aの軸も円錐面の測地線とすることによって、ネックが従来より後方に位置するようになるので、股関節の屈曲時に、ネックが、人工股関節臼蓋側カップの辺縁やデュアルベアリング人工骨頭のアウターヘッドの辺縁にあたり、摩耗が生じるという現象を防止することができる。
【0060】
なお、この参考例では、矩形3aの形状を卵形状3内に収まる形状としているが、これに限定されるものではなく、エッジロックされる形状であれば、例えば星型等のような多角形等、どのような形状であっても良い。また、この参考例では、図示していないが、前述のプレスフィット型のステムで説明したように、その表面に、断面の回転に応じた溝をらせん状に掘り、それをねじ込む際の誘導溝を形成するようにしている。これにより、刺入がより容易になると同時に溝のエッジによってさらに回旋固定力が強固となる。
【0061】
また、この参考例では、円錐面の測地線を人工股関節ステム8の軸として適用した例を示している。これは、股関節には荷重がかかり、ステムに緩みが生じやすい部位であるので、特に、本発明を適用すると有効となるためである。但し、股関節ステムに限定されるものではなく、他の人工関節、例えば、肩関節、肘関節、手関節、指関節、膝関節、足関節等にも適用できることは勿論である。
【0062】
また、この参考例では、円錐面の測地線を、人工股関節ステムのような人工関節ステムに適用した例を示したが、これに限定するものではなく、他にも、人体硬組織形状に適合させる必要性のある髄内釘、プレート、スクリュー、ワイヤ、ロッド等の骨修復材料等の整形外科手術用材料に好ましく適用することが可能である。
【0063】
従来、髄内釘はストレート若しくは2次元的な彎曲が若干加えられる程度であったが、円錐面の測地線を軸とした設計を行うことにより、刺入すべき髄腔の正常な解剖学的形状に、より近似した髄内釘を作製することができ、骨折の手術の際、これを用いることによって、骨折の整復をより正確に行うことができる。
【0064】
また従来から、骨折の整復時、骨の表面に当てて骨折がずれないような固定を行うためのプレートに、骨の表面形状に適合すべく作られた解剖学的プレートがあったが、このようなプレートは、何例かの骨の当該部位に、おおむね沿うように設計されており、設計のための数学的に明確な指標はなかった。しかし円錐面の測地線を利用した設計を行うことにより、より規格的で、正確な解剖学的プレートを作製することができる。
【0065】
本発明の実施の形態
本発明の実施の形態として、逆回りの二本の円錐面の測地線が転がり運動をする場合の態様を説明する。
【0066】
図12(a)の紙面であるF平面上に平面Gと平面Hが重なって存在し、G平面上には円錐面の展開図opqが、H平面上には円錐面の展開図rstが書かれていると考える。展開図opqからできる円錐をg、展開図rstからできる円錐をhとする。二つの円錐面の展開図の重なった部分の四角形の中に線分abをとると、この線分abは、両円錐面g,hに共通した展開図上での測地線となる。いま線分ab上に点cをとり、pからc,sからcへの半直線l,mをひく、そしてlを平面G上に残して、展開図opqを平面Fの表側にくるっとまわして円錐gを作る。同様に半直線mを平面H上に残して平面Fの裏側に、展開図rstから円錐hを作る。この時、円錐面g,hは点cで接しており、線分abは両円錐面の測地線となる。図12(b)に、接している円錐g、hを示す。また、円錐面g上の側地線を実線、円錐面h上の側地線を点線で示す。点cをF平面上で自由に動かすと、線分ab上のどの点においても、上のようにして相接する二つの円錐g、hを作ることができる。そしてその時、点cを線分ab上のどこにとったとしても円錐g、hの頂点s、pは動かない。ということは、逆に二つの円錐が接していて、その接点を通る両円錐面の測地線が、接点において接ベクトルを共有するものであれば、二つの円錐面の測地線がその後も常に接するように円錐を転がしたとき、二つの円錐の頂点が空間に保存されるような動きを作りだすことができる。さらに線分abの両端を延長した直線をxとし、平面gと平面hをx軸回りに回転させて一定の角度を付けることを考えれば、二つの円錐を、各々の測地線上の点を一点で共有し、その点における測地線の法線ベクトルが一定の角度を持つように、しかも空間上で円錐の頂点の位置を保存するように動かすこともできる。この時、二つの円錐は部分的に重なりながら転がる。そしてこの動きから円錐を除くと、二つの逆回りの円錐面の測地線が接するように動き、その二つの円錐面の測地線にとってそれぞれと定まった位置関係にあり、かつお互いの空間的関係も一定であるような二つの不動点(仮想円錐の頂点)を持つような動きを想定することができる。さらに、平面Fに厚みを持たせ、その表と裏に、平面G、平面Hを貼り付けることによって、二つの円錐面の測地線が厚みをもった板を介して接するような動きを作ることもできる。
【0067】
図13に2つの円錐面の測地線1a、1bが転がる状態を示す。
最初、図13(a)のように、円錐面の測地線1a、1bが、1a上の点s1、1b上の点s1’において接しており、1aの、点s1における単位接ベクトルTと1bの点s1’における単位接ベクトルT’が一致している。
そして、1a、1bが転がり運動を続けるとき、図13(b)においても、円錐面の測地線1a、1bの、相接する1a上の点s2、1b上の点s2’における単位接ベクトルT2とT2’が一致するように、転がり運動中、二つの円錐面の測地線の接点における単位接ベクトルが常に一致する。
図13(a)で、1aの、点s1における主法線ベクトルNと1bの点s1’における主法線ベクトルN’のなす角度ωと、図13(b)での1aの、点s2における主法線ベクトルN2と1bの点s2’における主法線ベクトルN2’のなす角度ω2が等しいように、転がり運動中、二つの円錐面の測地線の接点における主法線ベクトルのなす角度が常に一定である。
【0068】
また、測地線に沿った距離s1s2とs1’s2’とは等しい。
【0069】
このような条件下で、1a、1bそれぞれにとっての円錐の頂点が保存される、即ち、2頂点の位置関係が固定される転がり運動が可能となる。
【0070】
転がり運動中、二つの円錐面の測地線上の、対応する二点(接する二点)における接ベクトルが一致し、主法線ベクトルのなす角度が180度で一定の場合が、図12の同一平面上にある二つの円錐面の測地線の展開図から作られる転がり運動にあたり、図12で、直線Xを軸として平面gと平面hを回転させて一定の角度を付けた時が、接ベクトルが一致し、主法線ベクトルのなす角度ωが任意の角度で一定の場合にあたる。また、図12の平面Fに厚みを持たせ、その表と裏に、平面G、平面Hを貼り付けることによってできる、二つの円錐面の測地線が厚みをもった板を介して接するような動きは、対応する二点における接ベクトルが平行な場合である。上記すべての場合において、二つの円錐の頂点の位置関係は保存される。
なお、本実施の形態では二本の逆回りの円錐面の測地線が転がり運動をする場合の態様を示したが、これが二本の同方向回りの円錐面の測地線が転がり運動をする場合(図12(a)で、展開図rstを、平面Fの表側にくるっとまわして円錐hを作った場合)でも、同様にそれぞれの円錐の頂点の位置関係が空間内に保存されるような動きを作り出すことができる。
さらに、二本以上の円錐面の測地線が転がり運動を行い、それぞれが右回り、左回りのどちらであったとしても、それぞれの円錐の頂点の位置関係が空間内に保存されるような動きを作り出すことができる。
【0071】
二本の円錐面の測地線が転がり運動をする場合、図17に示すように、保存される2点m、n(それぞれの円錐の頂点)を結ぶ直線に、この直線と垂直の方向で、これらの点に対応する円錐(円錐面の測地線)とは逆の方向に支持部15が固定されれば、2点を結ぶヒンジとなる直線をヒンジ軸13として、支持部15と二本の逆回りの円錐面の測地線1a、1bは、蝶番運動を行うことが可能となる(図19)。
前記2本の円錐面の測地線1a、1bの転がり運動は、図20に示すように、両円錐の長軸に対して測地線の頂点から遠い方の端点1c、1dが、おおむね回旋運動を行う。この回旋運動中、円錐の頂点となる2点m、nは保存されるのだから、このような、ヒンジ軸13をはさんだ、支持部15及び2本の逆回りの円錐面の測地線からなる構造は、蝶番運動のどの段階においても同様の回旋運動が可能な構造となる。
【0072】
このときの上記蝶番運動が可能となるような、ヒンジ軸13と、保存される2点m、nとの関係は、以下の場合のいずれかである必要がある。
[場合1]: m、nが両者共にヒンジ軸13上にある。
[場合2]: m、nの一方がヒンジ軸13上にあり、もう一方は、ヒンジ軸13上の特定の点から等距離となるように、ヒンジ軸13上の特定の点を含み、ヒンジ軸13と垂直な平面内を運動する。
[場合3]: m、nが共にそれぞれヒンジ軸13上の特定の点から等距離となるように、ヒンジ軸13上の特定の点を含み、ヒンジ軸13と垂直な平面内を運動し、かつその運動中、m、nの距離が等しい。
【0073】
蝶番運動のどの段階においても同様の回旋運動が可能となるために、図18のA、B部の構造は、図21(a)、(b)、(c)のような3自由度を有する球面対偶の組み合わせが望ましい。なぜなら、A、Bに連結する円錐面の測地線は、蝶番運動時に、単純な蝶番運動をするだけでなく、転がり運動に際して、不定な動きをするため、図18のA、B部は、両者の運動を同時に許容しなくてはならないからである。このため、図21(a)のような、両サイドにおわん型の支持部のあるボールアンドソケットジョイントや、(b)のようなソケットの蝶番運動誘導部をサイドに広げた形のボールアンドソケットジョイント、または、磁力を利用したり、周囲をゴムのような弾性体で包んで支持させれば、(c)のような、ボールに対してソケットが動くようなジョイント等が、図18のA,B部の構造として好ましい。このような図18のA、B部が、球面対偶の組み合わせの時は回旋運動に際して保存される二点は、ボールの中心となり、ヒンジ軸13と、保存される2点m、nとの関係は、上記[場合1]に相当する。
また、回旋運動において、二本の円錐面の測地線の接する点が移動しても、各々の時点において、図18の構造はA、B、Cの3部位で固定されているので、A、Bが自由度の高い球面対偶の組み合わせであっても、ヒンジ軸13回りの蝶番運動は、ぶれることのない安定した運動となる。
【0074】
図18のC部の、二つの円錐面の測地線の接する部分には図24のような、歯面が円錐面の測地線のインボリュートであるような歯車14a、14b(または摩擦伝動ベルト等)をつけることによって、二つの円錐面の測地線の転がり運動、すなわち円錐面の測地線の遠位端点の回旋運動を滑らかに行わせることができる。また二つの歯車の噛み合う部分に、二つの歯車を固着させるような囲い16をつければ、二つの歯車がしっかり噛み合うと同時に、その囲い16を矢印方向にスライドさせることで、二つの円錐面の測地線の転がり運動を行わせることができる。
【0075】
図12(a)で、H平面上にある円錐面の展開図rstのsからcへの半直線mが、線分abと重なる場合、展開図rstから作られる円錐面の測地線は、円錐の母線、すなわち直線となる。したがって作り出される二つの円錐面の測地線の転がり運動は、一方のらせんが、もう一方の直線上を転がるような運動となる。このとき二つの円錐の頂点の位置関係が保存されることはもちろんだが、運動中展開図rstからつくられる円錐hも動かない。このため、このような二つの円錐面の測地線が、ヒンジ軸13を介して支持部15と、蝶番運動を行う場合には、図18のA、B部の、連結する円錐面の測地線が母線、すなわち直線である方の側は、球面対偶である必要はなく、図25(a)、(b)、(c)、(d)に示すような、軸受け17aと軸17bとからなる単なる回り対偶17でよい。また、円錐面の測地線が直線である方の円錐の頂点はヒンジ軸13上にある必要はなく、上記[場合2]の条件を満たせばよい。
【0076】
さらに、図25を、図22のように接触する両面が負の曲率を持った鞍状面であるようなフックジョイントにすれば、少ない可動範囲の中では大きな自由度(3自由度)を有するから、連結する円錐面の測地線が直線でなくとも、緩いカーブの円錐面の測地線であれば、図18のA、B部の一方の構造として成り立つ。また、A、B部両方をボールアンドソケットジョイントとした場合に比べ、いずれか一方をフックジョイントとすると、より強固で安定したジョイント構造とすることができる。
【0077】
前に述べたように、ヒト前腕の橈骨と尺骨は、その骨軸が円錐面の測地線によって最適に近似され得るので、上で述べた機構を、実際の肘、前腕骨(右肘)に当てはめることによって、肘、前腕骨運動モデルを作製することができる。
図23は、実際のヒト右肘を模式化した図である。橈骨11と尺骨12の骨縁が、図17の二つの円錐面の測地線1a、1bに相当し、上腕骨は、支持部15、上腕骨小頭の中心11aと上腕骨滑車の軸を通る直線が、ヒンジ軸13に相当している。
上腕骨小頭と橈骨頭は、図18のAに相当し、図21のボールアンドソケットジョイント(c)を形成する。上腕骨滑車12aと、尺骨肘頭12bは、図18のBに相当し、図22のフックジョイントを形成する。このように、前腕の場合には、ヒンジ軸13と円錐の頂点m、nのリンク構造は、ボールアンドソケットジョイント構造及びフック構造で結合されているため、上記[場合2]に相当し、円錐の頂点は、上腕骨小頭11aの中心と、上腕骨滑車の後方、尺骨肘頭12b(図22(b)、(c)、(d)参照)内に位置する。また、尺骨側の円錐面の測地線は、直線か、直線に近い緩いカーブの円錐面の測地線であればよい。
【0078】
橈骨11と尺骨12が近接する橈骨粗面付近に橈骨側尺骨側それぞれに、歯面が円錐面の測地線のインボリュートであるような歯車14a、14b(図24)をつけ、橈骨と尺骨の遠位端(図20の1c及び1dに相当)に回旋運動を許容するような関節をつければ、前腕の屈曲伸展(蝶番運動)に際して、屈曲伸展のどの段階においても回旋運動が可能なような前腕骨運動モデルができる。
【0079】
上述のように、本実施の形態では、人間の前腕の運動モデルを例にとっているので、二つの円錐面の測地線の転がり運動の際の円錐の頂点とヒンジ軸のリンク構造は、ボールアンドソケットジョイント構造及びフックジョイント構造による組合せとなっているが、これに限定するものではなく、他の構造に適用する場合には、2円錐の頂点とヒンジ軸との結合が両方共にボールアンドソケットジョイント構造であっても良く、他のジョイント構造又はこれらの組み合わせであっても良いことは勿論である。
【0080】
また、本実施の形態では、転がり運動を行なう二本以上の円錐面の測地線を前腕骨運動モデルに適用した例を示したが、これに限定されるものではなく、前腕の屈曲伸展運動のようなヒンジ軸を中心として蝶番運動を、例えば、ロボットアーム、クレーン車、シャベルカーのアーム、義肢等の構造に適用することもできる。このため、より人体の動きに近い滑らかで、高強度で、且つ安定した動きを再現させることができる。
【0081】
【発明の効果】
請求項1記載の発明では、工業製品の形状の一部に円錐面の測地線の形状が使用されていて、二本以上の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)が互いに接し、接点における法線ベクトルが等角度をなすように互いの曲線上を滑らずに進んでいくように互いに転がり運動をする時、それぞれの円錐の頂点間の距離が不変であるという原理を工業製品に適用することにより、前腕の回外、回内等の回旋運動のような、より複雑な人体の動作等を再現させることが可能となる。
【0092】
請求項記載の発明では、工業製品の形状の一部に円錐面の測地線の形状が使用されていて、二本の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)が互いに接し、接点における法線ベクトルが等角度をなすように互いの曲線上を滑らずに進んでいくように互いに転がり運動をする時、常に距離の変らないそれぞれの円錐の頂点と定まった位置関係にあるヒンジ軸を介して、そのヒンジ軸を支持する支持部との間で、自由に蝶番運動ができ、その蝶番運動のどの段階においても二本の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)の前記転がり運動が可能なリンク構造を肘、前腕骨運動モデル、ロボットアーム、クレーン車、シャベルカーのアーム、義肢等に適用することにより、特に、人間の肘の屈曲伸展運動、前腕の回外、回内運動に近似させることができるため、複雑な人体の動きを、より滑らかに再現させることが可能となる。
さらに、蝶番運動と同時に回旋運動を行うジョイント構造そのものが、広い範囲での3点支持であるので、動きに際しての強度が高く、重量物を持つなど、強い力に耐えて安定した運動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 円錐面の測地線を説明する図であり、(a)は、底面の直径と高さの比が1:3の円錐の測地線、(b)は、底面の直径と高さの比が1:5の円錐の測地線である。
【図2】 (a)は、断面が卵形状の場合を説明する図、(b)は、卵形を表す式中、パラメータa、rを変化させた場合の卵形状を説明する図である。
【図3】 円錐面の測地線を軸とした形状の断面形状を卵形、円形又は多角形等として連続的に滑らかに変化させた参考例を示す図である。
【図4】 (a)は、眼鏡のフレームから蔓部分に円錐面の測地線を適用した参考例を示す図であり、(b)は、椅子の脚部分、座面部分、背もたれ部分のフレーム形状に円錐面の測地線を適用した参考例を示す図である。(c)は、コップの取手部分に円錐面の測地線を適用した参考例を示す側面図である。
【図5】 ブラジャーのワイヤの形状を説明する図である。
【図6】 人工股関節ステムが大腿骨に挿入された状態を説明する図であり、(a)はエッジロック方式、(b)はプレスフィット方式を示す図である。
【図7】 デザインを調製された、従来のオーダーメイド人工股関節ステムが大腿骨に刺入される際、刺入腔及びステムが円錐形状に近づくため、回旋固定性が得られなくなった状態を説明する図である。
【図8】 本発明の参考例のエッジロック方式の人工股関節ステムを説明する斜視図である。
【図9】 本発明の参考例のプレスフィット方式の人工股関節ステムを説明する図であり、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図10】 本発明の参考例の人工股関節ステムを大腿骨に挿入した時の大腿骨正側X線像の輪郭を示す図である。
【図11】 卵形形状内に包含される矩形形状を説明する図である。
【図12】 本実施の形態の二本の円錐面の測地線の転がり運動を説明する図であり、(a)は展開図、(b)は立体図である。
【図13】 二本の円錐面の測地線の転がり運動時の測地線上の点のフルネフレームを説明する図であり、(a)は、測地線上の所定の点s1、s1’におけるフルネフレームの状態を示し、(b)は、(a)の状態から所定距離の接運動をした後の所定の点s2、s2’におけるフルネフレームの状態を示す図である。
【図14】 本実施の形態の円錐面の測地線で人体の前腕骨の模型を製作した図を説明する図であり、(a)は前腕骨の回外位のX線像、(b)はその側面像、(c)は円錐面の測地線で人体の前腕骨の模型の回外位のX線像、(d)はその側面像である。
【図15】 (a)は、底面の直径と高さの比が1:5の円錐面の測地線の正面像と、ヒト全身骨格の正面像の類似を説明する図、(b)は、底面の直径と高さの比が1:5の円錐面の測地線の側面像と、ヒト全身骨格の側面像の類似を説明する図、(c)は、底面の直径と高さの比が1:3の円錐面の測地線の側面像と、ヒト全身骨格の側面像の類似を説明する図である。
【図16】 (a)はバンテンの角と円錐面の測地線との類似を説明する図、(b)はソマリジェレヌクの角と円錐面の測地線との類似を説明する図である。
【図17】 二本の逆回りの円錐面の測地線が蝶番運動を行うことが可能となる実施の形態を説明する図であり、ヒンジ軸に固定された支持部15と二本の逆回りの円錐面の測地線1a、1bの状態を示す構成図である。
【図18】 ヒンジ軸と二本の円錐面の測地線の関係を示す斜視構成図である。
【図19】 蝶番運動を行うことが可能となる状態を説明する図である。
【図20】 転がり運動時に、回旋運動を行なう状態を説明する図であり、(a)は端点1c、1dの回旋方向を示す図、(b)は回旋運動後の位置を示す図である。
【図21】 ボールアンドソケットジョイントの例を示す図であり、(a)は、両サイドにおわん型の支持部のあるボールアンドソケットジョイント、(b)は、ソケットの蝶番運動誘導部をサイドに広げた形のボールアンドソケットジョイント、(c)は、ボールに対してソケットが動くようなジョイントの構成図である。
【図22】 狭い可動範囲において高い自由度を持ち、肘、前腕骨運動モデルに適用されるフックジョイントの例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は正面図、(d)は上面図である。
【図23】 (a)は、橈骨及び尺骨について、ヒンジ軸を適用した場合を説明する概要構成正面図、(b)は、橈骨及び尺骨の側面構成図である。
【図24】 (a)は、転がり運動を行う円錐面の測地線にインボリュート歯車を設けて噛み合うようにした構成図、(b)は、二つの歯車の噛み合う部分に、二つの歯車を固着させるような囲いを設けた場合の構成図である。
【図25】 ジョイントが回り対偶である例を示す図であり、17aが軸受け、17bが軸となる。(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は正面図、(d)は上面図である。
【符号の説明】
1、1a、1b 測地線
2 円錐
10 フルネフレーム
N 主法線ベクトル
T 単位接ベクトル
B 従法線ベクトル
11 橈骨
12 尺骨
13 ヒンジ軸
14a、14b 歯車
15 支持部
16 囲い
17 回り対偶
17a 軸受け
17b 軸

Claims (2)

  1. 工業製品の形状の一部に円錐面の測地線の形状が使用されていて、二本以上の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)が互いに接し、接点における法線ベクトルが等角度をなすように互いの曲線上を滑らずに進んでいくように互いに転がり運動をする時、それぞれの円錐の頂点間の距離が不変であることを適用したことを特徴とする円錐面の測地線を利用した工業製品。
  2. 工業製品の形状の一部に円錐面の測地線の形状が使用されていて、二本の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)が互いに接し、接点における法線ベクトルが等角度をなすように互いの曲線上を滑らずに進んでいくように互いに転がり運動をする時、常に距離の変らないそれぞれの円錐の頂点と定まった位置関係にあるヒンジ軸を介して、そのヒンジ軸を支持する支持部との間で、自由に蝶番運動ができ、その蝶番運動のどの段階においても二本の前記円錐面の測地線(円錐の母線を含む)の前記転がり運動が可能なリンク構造を肘、前腕骨運動モデル、ロボットアーム、クレーン車、シャベルカーのアーム、義肢等に適用したことを特徴とする円錐面の測地線を利用した工業製品。
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