JP3649175B2 - 長時間連続鋳造時の前処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、長時間連続鋳造時の前処理方法に関し、とくに、長時間の安定鋳造に適した二次精錬の方法についての新規な提案である。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼や高合金鋼などの特殊鋼の場合、品質保持の観点から低速鋳造することが多く、そのために連続鋳造に長時間を必要とするという問題があった。すなわち、近年、鋼材に対する機能や品質への要求が高まり、それにつれて、製鋼段階での鋳片品質の向上が求められている。こうした要請に応えるべく、連続鋳造時に、介在物の侵入を抑えたり、中心偏析等の断面欠陥を低減することを目的として、鋳造速度を低下させる連続鋳造方法が提案されている。しかし、鋳造速度を低下させて鋳造時間が延長されると、取鍋残鋼の溶鋼温度が次第に低下し、結果的には溶鋼の過熱度も低下するという事態が生じる。
【0003】
一般に、連続鋳造時の溶鋼過熱度(タンディッシュ溶鋼温度と凝固温度との差)は、介在物の浮上を促進するためには高い方が望ましいが、あまりに高すぎると、正常な凝固シェルの成長が妨げられることによるブレイクアウト等の操業トラブルの原因となる。一方で、凝固組織として等軸晶が望まれる場合は、この溶鋼過熱度は低い方が望ましく、精錬コスト上も溶鋼温度の低下はコスト低減が図れるという利点がある。しかし、あまりに低すぎると鋳造が続行できなくなったり、介在物の浮上分離が妨げられることに起因する鋳片表面欠陥の増大につながるという問題があり、鋳造を通じて適切な温度範囲に保持することが重要である。
【0004】
このような問題に対し、従来、上述したような低速鋳造を余儀なくされる鋼種を鋳造するときは、精錬終了時の溶鋼温度を高めて、鋳造末期の溶鋼過熱度を確保する方法などの対策が講じられている。しかし、このような方法では、鋳造の初期と末期とで、溶鋼過熱度の差が大きくなり、鋳片品質のバラツキの原因や操業トラブルの原因となることが多かった。
その解決手段としては、鋳造時間の長い場合や溶鋼過熱度の幅狭コントロールが必要な場合には、タンディッシュに誘導加熱やプラズマトーチのような電気的エネルギーを利用することによって溶鋼の温度を上昇させること、鋳造末期の溶鋼温度降下を補償する手段などが検討されている(例えば、特開昭1-237064号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
長時間連続鋳造を行うための上記従来技術については、タンディッシュの改造が必要となったり、タンディッシュ内溶鋼加熱装置等の特別の設備を必要としたり、あるいは溶鋼過熱度を高くしたときに取鍋やタンディッシュのライニング寿命を縮めて、コスト高を招くというような問題があった。また、これらの方法では、熱効率の低下や鋳造の初期から末期に到る溶鋼温度の著しい変動(降下)による鋳片品質のバラツキが不可避に発生するという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、特別の加熱装置や高い溶鋼過熱度を必要とすることなく、鋳片品質のバラツキや操業上のトラブルもなく、鋳造の全期間に亘って安定した長時間の連続鋳造ができる技術を確立し提案するところにある。
【0007】
上掲の目的の実現に向けて鋭意検討した結果、発明者らは、下記の要旨構成に係る発明が、従来技術が抱えている上述した課題を有利に解決できることをつき止め、本発明に想到した。即ち、本発明は、取鍋1チャージの連続鋳造にかける時間が、70分/ch程度以上である長時間の連続鋳造を行うに当たり、この連続鋳造に先立つ取鍋での二次精錬段階での処理を、その取鍋内壁耐火物の温度がほぼ安定化する40分程度以上行うものである。
【0009】
また、取鍋内壁耐火物の温度が安定化する時間、即ち取鍋からの放熱量が定常化する時間が、40分程度以上であることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
発明者らは、従来技術が抱えている上述した問題に対し、その解決策を検討するうちに、長時間連続鋳造時の鋳造末期における温度低下に対しては、取鍋の保有熱量(含熱量)が大きく影響しており、しかもその含熱量は、連続鋳造の前工程の処理である二次精錬条件に大きく影響していることを見い出した。
一般に、取鍋内溶鋼の温度降下に、取鍋の含熱量が影響を与えることは、製鋼の分野では知られていることであり、その温度降下を抑制するために、受鋼前の取鍋を燃焼バーナー等で加熱したり、取鍋の稼働本数を削減して使用比率を高めることによって、含熱量を増大させる方法が採用されている。この点、発明者らも、とくに長時間鋳造を余儀なくされるケースでは、バーナーによる予備加熱を十分に行うとか、事前に汎用鋼種の鋳造に使用して予め含熱量を増大させる等の対策を講じてはいたが、それでも時によっては鋳造末期に溶鋼温度が低下しすぎて、鋳造の続行が不可能になるというトラブルを経験した。
【0011】
そこで、発明者らは、鋳造末期の温度降下に及ぼす諸因子についての研究の中で、連続鋳造に先立って行われる二次精錬時間について検討した。その結果、この二次精錬時間が鋳造末期の溶鋼温度の低下に強く影響していることをつきとめた。二次精錬の時間は、一般に溶鋼の温度や成分の均一性を確保するための攪拌や、溶鋼中に浮遊する非金属介在物の浮上分離、溶鋼中のC,N,H,Oといったガス成分の真空除去、あるいは昇温等による溶鋼の成分、温度、清浄度等を、所期した範囲に的中させるのに必要とされる時間で決定されている。従って、溶鋼に求められているスペックや二次精錬処理に供する溶鋼の条件によって、二次精錬の時間が大きく異なり、精錬コストや耐火物コストの低減を目的に、種々の改善によって二次精錬時間の短縮も図られてきた。
しかしながら、取鍋のとくに耐火物(ライニング)が保有する熱エネルギーという観点から、二次精錬時間について観察すると、図1に示すように、溶鋼から取鍋に供給される熱量は、バーナーの加熱によって供給できる熱量よりも圧倒的に大きく、それは、取鍋の使用時に限って考えると、この取鍋を連続的に使用した回数の差による含熱量のバラツキをも補っても余りあるだけの熱量を供給できる量であることがわかった。
【0012】
そこで、発明者らは、溶鋼から取鍋への熱供給量を二次精錬時間によって変化させることを試みた。即ち、二次精錬時間を故意に短縮もしくは延長する実験を実施し、長時間鋳造時の鋳造末期での溶鋼温度の変化について調査したのである。その結果、二次精錬時間の短いチャージでは、連続使用していた取鍋においても溶鋼温度の低下が著しく、逆に二次精錬時間の長いチャージでは連続使用していなかった取鍋においてさえも、溶鋼温度の低下は小さいという結果となった。なお、この二次精錬時間は、必要以上に延長して二次精錬時間を長くしたとしても、溶鋼温度低下率は次第に飽和することもわかった。
【0013】
これらの事実より、発明者らは、溶鋼から取鍋への熱移動が定常状態に達するまで、即ち取鍋による二次精錬段階の処理を、その取鍋の内壁耐火物の温度がほぼ安定化する時間以上継続すると、たとえ長時間の連続鋳造を行ったとしても、その鋳造末期の溶鋼温度の著しい低下は抑制できることを知見した。
この発明における二次精錬に必要とされる時間は、鋼種、ヒートサイズ、取鍋ディメンジョン、取鍋耐火物の種類、鋳造温度、鋳造時間、二次精錬処理内容による影響を受けるため、一義的に定めることはできないが、それぞれの設備を構成する材料のディメンジョンと熱伝導度のデータにもとづき、伝熱計算によって予め予想することが可能であり、計算予測時間を中心とした操業データを蓄積することによって、実操業での具体的時間を定めることができる。
【0014】
取鍋内壁耐火物は、取鍋の鉄皮に近い側から順に永久張り、ワークライニングという各耐火物層によって構成されている。このうち永久張りは、耐火度や耐溶損性は比較的低いが、断熱性の高い材質の耐火物で構成されている。一方、ワークライニングは、耐火度、耐溶損性、耐スポーリング性などが永久張りに比べてはるかに高いが、断熱性は低い(すなわち熱伝導度が高い)。
取鍋内の溶鋼から熱伝導の高いワークライニングを通じて耐火物内に流入した熱は、高断熱性の永久張り層に阻まれて、ワークライニング内に蓄積される。そして、ワークライニングと永久張りの境界の温度と鉄皮温度の差によって、永久張り層内を徐々に移動して鉄皮へと移行し、最終的に鉄皮から大気中、あるいは真空脱ガス処理槽内へと放散していく。取鍋鉄皮の温度は、大気あるいは雰囲気による冷却を受けているのであまり大きく変化しない。したがって、取鍋内から鉄皮を通じて放散する熱流束は、ほぼ永久張りとワークライニングの境界の温度に依存する。取鍋内壁耐火物内の温度の状態が定常に達するということは、上記の熱流束が安定するということに他ならないから、取鍋内壁耐火物内の温度が定常状態に達したか否かの把握は、永久張りとワークライニングの境界の温度をモニターすることがもっとも合理的である。
したがって、本発明において、取鍋内壁耐火物の熱的状態を把握するのは、伝熱計算によるものであれ、熱電対等による実測によるものであれ、永久張りとワークライニングの境界もしくはその近傍の温度を対象とするのが実際的であり、好ましいものである。
【0015】
例えば、取鍋からの放熱量が定常化し、取鍋内壁耐火物の温度(永久張りとワークライニングの境界の温度)がほぼ安定化させる二次精錬時間としては、図1に示すように、40分/ch程度以上であり、この時間を超えて二次精錬を行うと、図2に示すように、取鍋の連続使用回数が3回以上のときもまた3回未満のときも、鋳造中の温度低下は10℃以下になるという結果を得ることができる。
【0016】
なお、本発明において、長時間連続鋳造というときは、70分/ch以上の時間を継続的に鋳造する場合であって、この場合、図3に示すように、二次精錬時間が20分(従来例)では、連続鋳造の時間:70分を境として溶鋼過熱度が急に低下し始めるのに対し、本発明に適合する条件の下で連続鋳造した場合(二次精錬時間60分)、鋳造末期にあっても、溶鋼過熱度は35〜55℃の適正範囲に収まっていることが判明した。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の効果を検証するために行った実験について説明する。
この実験は、マルテンサイト系中炭素ステンレス鋼を素材とし、この適用材を連続鋳造に先立って二次精錬、即ちVOD装置によって真空脱ガス処理を施した。そして、得られた180t/chの溶鋼をスラブ連鋳機にて連続鋳造した例である。
なお、前記VOD処理の時間は20〜90分、80〜120分の鋳造時間で連続鋳造を実施し、ダンディッシュでの溶鋼過熱度(℃)を一定時間毎に測定し、溶鋼温度の低下を求めた。
【0018】
その結果につき、図3に、本発明例として二次精錬時間60分、従来例として二次精錬時間20分の場合についての鋳造中の温度変化を図示した。
【0019】
この図からわかるように、鋳造時間120分経過時において、発明法では、40分経過時点に50℃だったものが40℃へと溶鋼温度はたしかに低下したが、それでも適正範囲内にあって鋳造は可能であった。しかし、従来法では、鋳造時間が40分経過した時点で65℃だったものが、120分経過時点では溶鋼過熱度は25℃にまで低下していて、鋳造の継続が困難になった。
【0020】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、長時間連続鋳造を行うときであっても、タンディッシュ内溶鋼加熱装置のような特別な熱付与設備が不必要であり、しかも鋳造末期の溶鋼温度を確保するために、鋳造初期の温度(溶鋼過熱度)を過度に上昇させる必要がなくなるので、鋳片品質のバラツキや操業上のトラブルが解決できる。加えて、鋳造の全区間で安定した鋳造操業を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 二次精錬時間と取鍋内壁温度との関係を示すグラフである。
【図2】 連続鋳造時の溶鋼温度低下に及ぼす二次精錬時間の影響を示すグラフである。
【図3】 実施例における鋳造中の溶鋼温度変化と溶鋼過熱度との関係を示すグラフである。

Claims (1)

  1. 取鍋1チャージの連続鋳造にかける時間が、70分/ch程度以上である長時間の連続鋳造を行うに当たり、この連続鋳造に先立つ取鍋での二次精錬段階での処理を、その取鍋内壁耐火物の温度がほぼ安定化する40分程度以上行うことを特徴とする長時間連続鋳造時の前処理方法。
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