JP3645051B2 - 多孔質複層プラスチックフィルタおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体や気体等の流体中に含まれる微粒子を分離濾過するための多孔質プラスチックフィルタおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、液体や気体等の流体中に含まれる微粒子を分離濾過するための多孔質プラスチックフィルタは多数知られている。中でも、流体の流入側と流出側とで孔径の異なるフィルタ、例えば流入側あるいは流出側のどちらか一方を、平均粒径が比較的大きなプラスチック材料の粒子から成形して大きな孔径とし、他方を平均粒径が比較的小さなプラスチック材料の粒子から成形して小さな孔径とした多孔質複層フイルタは、濾過精度の向上、微粒子の高捕集効率および低圧力損失の点から望ましく、このようなものとして、平均粒径が比較的大きな熱可塑性プラスチック材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリサルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルフアイドなどを焼結成形した多孔質プラスチック基材の表面に、そのプラスチック材料よりも平均粒径が比較的小さなポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と記す)を、接着剤と共に、直接的に被着することで、多孔質プラスチック基材の外表面とその内面側とで、多孔層の孔径に差異を持たせた多孔質複層フィルタが提案されいる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような多孔質複層フィルタでは、使用するPTFEが粘着特性に劣るため、上記多孔質プラスチック基材とPTFEとの界面での接着性が不十分となり、濾過や逆洗の際に多孔質プラスチック基材からPTFE粒子が脱落し、結果として孔径に差異がなくなったり、あるいは部分的に差異を生じ、フイルタの捕集性能の低下を招いたり、あるいは脱落したPTFE粒子が捕集した微粒子中に混入する等の問題があった。
【0004】
また、多孔質プラスチック基材の表面をその多孔質プラスチック基材よりも孔径の小さなPTFE製多孔質フィルムで被覆する方法も提案されているが、上記と同様に基材との接着性が不十分になるという問題や、PTFE製多孔質フィルム自体が高価なために、製造コストが高くなるという問題があった。
さらには、焼結成形した多孔質プラスチック基材の表面を加圧・圧縮することで加圧・圧縮面部の孔径を他部より小さくする方法も提案されているが、この方法では、加圧・圧縮のコントロールが難しく、小さな孔径を表面に均一に形成することは困難である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の問題点を解消できるプラスチックフィルタおよびその製造方法を見出したものであって、その要旨とするところは、(1)多孔質プラスチック基材およびその表面に一体化された少なくとも1層の多孔質層を有し、該多孔質プラスチック基材は、平均粒径が比較的大きな熱可塑性プラスチック材料の粒子を焼結成形して得られる大きな孔径を有するものであり、該多孔質層は、平均粒径が比較的小さな架橋ポリオレフィン系樹脂材料(予め架橋されたポリオレフィン系樹脂材料)の粒子を焼結成形して得られる小さな孔径を有するものであることを特徴とする多孔質複層プラスチックフィルタである。
(2)上記架橋ポリオレフィン系樹脂材料が、放射線架橋ポリオレフィン系樹脂材料(予め放射線によって架橋されたポリオレフィン系樹脂材料)であることを特徴とする上記(1)の多孔質複層プラスチックフィルタである。
(3)熱可塑性プラスチック材料の粒子を焼結成形して多孔質プラスチック基材を形成し、該多孔質プラスチック基材に導電性を付与させた後この基材の表面に、前記プラスチックと相溶性を有する放射線架橋ポリオレフィン系樹脂材料(予め放射線によって架橋されたポリオレフィン系樹脂材料)の粒子を静電塗装し、次いで該塗着粒子および上記基材の表面を加熱して焼結一体化し、少なくとも1層の多孔質層を形成することを特徴とする多孔質複層プラスチックフィルタの製造方法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の多孔質複層プラスチックフィルタは、熱可塑性プラスチック材料の粒子を焼結成形して形成した多孔質のプラスチック基材の表面に、架橋ポリオレフィン系樹脂材料(予め架橋されたポリオレフィン系樹脂材料)の粒子を、好ましくは静電塗装した後、焼結一体化して少なくとも1層の多孔質層を形成することによって得られるもので、多孔質プラスチック基材の表面に、これとは平均粒径が相違する熱可塑性プラスチック材料の粒子を焼結成形して積層一体化した複層構造のものである。
【0007】
本発明の多孔質複層フィルタを構成する多孔質プラスチック基材は、低い圧力損失で、高い強度を有するものであって、それを構成する熱可塑性プラスチック材料は、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエチレンサルファイド樹脂などが使用でき、通常は、その平均粒径が100〜1,000μm、好ましくは150〜600μmの範囲の焼結により多孔質体を得られる熱可塑性プラスチック材料であれば特に限定されるものではない。
【0008】
特に、メトロフローレイト(以下「MFR」と記す)の小さなもの、具体的にはMFRが1.0以下の材料を使用する方が均一な孔径を有する基材層を得る上では好適であり、例えば平均粒径が100〜200μmで、かつ嵩密度が0.35〜0.45g/cm3の、ぶどう房形状の超高分子量ポリエチレンが、機械的強度などより好適である。なお、平均粒径が1,000μmを超えるものでは多孔質複合フィルムの機械的強度が不十分となり好ましくなく、また、平均粒径が100μm未満では多孔質複層フィルムを複層にする意味合いが薄弱となる。
【0009】
また、本発明の多孔質プラスチック基材の表面に被覆溶着される多孔質層は、微粒子を分離濾過するためのものであって、それを構成する架橋ポリオレフィン系樹脂材料は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂に、γ線、X線などの電離放射線を照射して、または、架橋剤として塩化アルミニウム、フッ化窒素等の無機化合物や、t−ブチル−クミル−パーオキサイド、ジクミル−パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、アセチレンパーオキサイド等の有機過酸化物を用いて化学的に架橋させて、その架橋度を10%以上としたものであり、通常は、その平均粒径が5〜90μm、好ましくは10〜60μmの範囲の焼結により多孔質層を得られる架橋ポリオレフィン系樹脂材料(このように、「 架橋ポリオレフィン系樹脂材料」とは、焼結前に予め架橋されたポリオレフィン系樹脂材料を意味する、以下同じ)であれば特に限定されるものではない。ポリオレフィン系樹脂材料の架橋度が10%以下では、架橋ポリオレフィン系樹脂材料を加熱した際に起こす、溶融時の流動性の低下現象が少なく架橋の効果が生じ難いものである。なお、放射線架橋は、化学的架橋に比し、架橋剤の残量がないこと、添加の手間が省けること、架橋の均一性等の点では好ましいが、特殊な装置を必要とする点では不利がある。
【0010】
なお、多孔質プラスチック基材や、その表面に被覆溶着される多孔質層を構成する熱可塑性プラスチック材料や、架橋ポリオレフィン系樹脂材料には、多孔質複層プラスチックフィルタに帯電防止性を付与させるために、例えば、カーボンブラックやカーボンファイバー、金属粉、表面に金属等が塗布してあるチタン酸カリウムなどの導電剤を、目的に合わせて1〜5重量%の範囲、通常は1〜2重量%の範囲の量で添加してあってもよい。
【0011】
本発明の多孔質複層プラスチックフィルタは、熱可塑性プラスチック材料の粒子を焼結して形成した多孔質プラスチック基材の表面に、平均粒径がこの基材とは相違し、かつ架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子の多孔質層を、少なくとも1層、被覆溶着、好ましくは静電塗装し、これを焼結成形して積層一体化した複層構造になっていることに特徴がある。
しかして、多孔質プラスチック基材は、前記したように平均粒径が比較的大きな熱可塑性プラスチック材料を焼結して得られる大きな孔径を有するものであって、また、多孔質プラスチック基材の表面に被覆溶着される多孔質層は、前記したように平均粒径の比較的小さな架橋ポリオレフィン系樹脂材料を、好ましくは静電塗装し、焼結成形して得られる小さな孔径を有するものである。
【0012】
そして、この多孔質複層プラスチックフィルタの厚み構成は、大きな孔径を有する多孔質プラスチック基材の厚み比率が、多孔質複層フィルタの全厚みの30%以上、100%未満の範囲とするのが好ましい。
多孔質プラスチック基材の厚み比率が、30%未満では圧力損失が高くなりフィルタの性能上好ましくないものである。
【0013】
本発明の多孔質複層プラスチックフィルタは、大きな孔径を有する多孔質プラスチック基材と、その表面に被覆溶着される小さな孔径を有する多孔質層との複層構造になっていれば、被覆溶着する層の位置や数は限定されず、要求品質に応じて平均粒径を変化させた、被覆溶着された多孔質層を2層以上有するものにすることもできる。
【0014】
本発明の多孔質複層プラスチックフィルタの成形方法は、まず熱可塑性プラスチック材料の所定の平均粒径を有する粒子を、焼結成形して多孔質プラスチック基材を形成し、次いで、この基材の表面に、架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子を被覆溶着し、焼結成形して多孔質層を一体化するものである。
【0015】
この多孔質プラスチック基材の成形は、静的成形法や動的成形法によって行われる。
前者の静的成形法は、いわゆる型内焼結法であって、例えば筒状等の内表面形状を有する外型とその内部に挿入した同様の外表面形状を有する内型とよりなる成形金型を用い、外型内表面と内型外表面の間隙部に形成されるキャビテイ内にプラスチック材料を充填した後、成形金型共々これを加熱する方法である。
【0016】
後者の動的成形法は、(1) 先端部に成形型を有する温度調整が可能なシリンダ内に往復運動をするピストン(プランジャーともいう)を内蔵したラム式押出機を用いて行うラム押出法、(2) 先端部に成形型を有する温度調整が可能なシリンダ内にスクリュウを内蔵した射出成形機を用いて行う射出成形法、(3) 先端部に成形型を有する温度調整が可能なシリンダ内にスクリュウを内蔵した押出成形機を用いて行う押出成形法、(4)雌型とその内径部に挿人される雄型よりなる成形金型を用い、雌型の内部に形成されるキャビテイ内に原料を充填した後、成形金型を加熱する圧縮成形機を用いて行う圧縮成形法、(5) 先端部に上下方一対の移動式ベルトあるいは下方の移動式ベルトで構成される成形型を有する温度調整が可能なシリンダでこの成形型内に原料を押出しする連続式プレス機を用いて行う連続式プレス法などである。
【0017】
これら静的成形法や動的成形法などの方法から、本発明の多孔質複層プラスチックフィルタの最終的な形状などの要求品質に応じて、適宜選択することができる。
また、多孔質複層フィルタの最終的な形状は、断面が円形、楕円形、長方形、多角形、星形などの中空筒状体、板状体、棒状体、有底筒状体あるいは皿状体など、その用途によって適宜選択される。
【0018】
次いで、この多孔質プラスチック基材に、架橋ポリオレフィン系樹脂材料、具体的には、その基材を構成している熱可塑性プラスチック材料の平均粒径より小径の、架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子を被覆溶着した多孔質層を焼結成形する。
【0019】
被覆溶着する方法は、前記した型内焼結法、静電塗装法などであり、型内焼結法は、予め成形してある多孔質プラスチック基材を、その基材の外径より所定量だけ大径の内径を有する筒状外型内に間隙を設けて装填し、続いて、その間隙内に架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子を充填し、その状態でこれらを所定温度で所定時間だけ加熱して焼結成形する方法である。
なお、多孔質プラスチック基材を型内焼結法で成形した場合には、これに連続して架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子を前記と同様にして焼結成形し、多孔質プラスチック基材に多孔質層を被覆溶着して一体化することもできる。
【0020】
また、静電塗装法は、高電圧を印加したノズルから、架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子を噴出させて、これを静電気的に塗着する方法であって、先ず、所定孔径を有する多孔質プラスチック基材の表面に導電性を付与する。
なお、導電性の付与は、多孔質プラスチック基材の成形時に、前記した導電剤、例えばカーボンブラックやカーボンファイバー、金属粉等を基材中に混入させる方法や、成形後の多孔質プラスチック基材の表面に、界面活性剤等を塗布する方法などであるが、多孔質プラスチック基材の少なくとも表面に導電性を付与できるものであれば、特に限定されない。
【0021】
続いて、高電圧を印加したノズルから、その多孔質プラスチック基材の表面と相溶性を有し、かつその多孔質プラスチック基材を構成するプラスチック材料の粒子よりも、平均粒径が小径である架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子を噴出させて、これを静電気的に塗着して、多孔質プラスチック基材の表面に被覆積層する。
次いで、この架橋ポリオレフィン系樹脂材料の粒子が被着積層してある多孔質プラスチック基材を、所定温度に設定した加熱炉などに入れて加熱し、これを焼結成形すると共に、多孔質プラスチック基材の表面に被覆溶着して一体化するものである。
【0022】
ここで、ポリオレフィン系樹脂材料を架橋するための放射線照射方法は、被照射材料を所定の放射線照射装置内に封入し、被照射材料に対して大気圧中・室温状態でコバルト60を線源として、所定の線量(Gy)を所定の時間照射するもので、これにより、所望の架橋度を有する放射線架橋ポリオレフィン系樹脂材料を得る。
また、多孔質複層プラスチックフィルタの各層は、同種のプラスチック材料で構成されている方が、成形する際には好都合であり、また各層の層間接着力の面からも好ましい。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
なお、以下の実施例および比較例で得られた、多孔質複層プラスチックフィルタの性能は、次の方法により評価または測定し、その結果を表示した。
【0024】
「粒子脱落の有無」
逆洗による払い落しの際に、フィルタ粒子の脱落の有無を目視により評価した。すなわち、フィルタ粒子の脱落がなく良好なものを(○)、フィルタ粒子の脱落が多少認められるものを(Δ)、フィルタ粒子の脱落が相当認められるものを(×)とした。
ただし、ここでフィルタ粒子には、脱落源が多孔質プラスチック基材であるか、その表面に一体化された多孔質層であるかを問わず、フィルタを構成する粒子を、全て含めた。
【0025】
「微粒子捕集性能」
逆洗による払い落しの際に、払い落された微粒子の流体流出側への混入の有無を目視により評価した。すなわち、微粒子の混入が認められないものを(○)、微粒子の混入が多少認められるものを(Δ)、微粒子の混入が相当認められるものを(×)とした。
【0026】
「粉体払い落し性」
逆洗による払い落しの際に、流体流入側のフィルタ表面に付着した微粒子(粉体)の払い落しの良否を目視により評価した。すなわち、微粒子(粉体)の払い落しが極めて良好なものを(◎)、微粒子(粉体)の払い落しが良好なものを(○)、微粒子(粉体)の払い落しが多少悪いものを(Δ)、微粒子(粉体)の払い落しが相当悪いものを(×)とした。
【0027】
「圧力損失/mmAq」
微粒子を含まない空気を1m/minで吸引した時の、流入側と流出側の圧力損失を測定し、水柱mmで表示した値である。
「対水接触角/度」
ゴニオメーター式接触角測定器(エルマ社製G−1型)により、流入側焼結プラスチックの対水接触角を測定し、度で表示した値である。
【0028】
<実施例1>
成形用金型として、円筒状の外表面を有する内型1個と、円筒状の内表面を有する外型1個を準備する。その内型の外径は、外型の内径より3mm小さいものとする。先ず、内型を外型内に挿入し、外型と内型との間に均一に3mmの間隙が形成されるように設置する。次いで、その間隙内に、平均粒径が170μmで、分子量400万の超高分子量ポリエチレン粒子(MFR=0.01以下)を充填し、これを150〜200℃の温度の加熱炉内で60分間加熱して焼結成形して、比較的大きな孔径を有する、肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質プラスチック基材を得た。
続いて、この多孔質プラスチック基材の表面に界面活性剤を塗布して、その基材の表面に導電性を付与した後、別途、平均粒径が26μmの低密度ポリエチレンに200KGyのγ線を照射して得た、架橋度77%の架橋ポリエチレン粒子(MFR=0.01以下)を、自動静電塗装機を用いて、使用電圧60KV、霧化空気圧1.5Kg/cm2 にて静電塗装して、その基材の表面に厚さ70μmの架橋低密度ポリエチレン粒子を被着積層した。
これをさらに150〜200℃の温度の加熱炉内で30分間加熱し、焼結成形して、その基材の外層側すなわち、流体の流入側に比較的小さな孔径の多孔質層が形成された、全肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質2層プラスチックフイルタを得た。
【0029】
<実施例2>
成形金型として、円筒状外表面を有する内型1個と、円筒状の内表面を有する外型2個を準備する。その外型の内径は、内型の外径よりもそれぞれ2mmおよび3mm大きいものとする。先ず、内型を内径の小さい方の外型内に挿入し、外型と内型の間に均一に2mmの間隙が形成されるように設置する。次いで、その間隙内に、平均粒径が160μmで、分子量400万の超高分子量ポリエチレン粒子(MFR=0.01以下)を充填し、これを160〜220℃の温度の加熱炉内で30分間加熱し、焼結成形して、比較的大きな孔径を有する多孔質プラスチック基材を得た。
続いて、この多孔質プラスチック基材を外面に残したまま内型をその外型より離脱させ、これを内径の大きい方の外型内に挿入し、基材表面とその外型の間に均一に1mmの間隙が形成されるように設置する。次いで、この二次間隙内に、実施例1と同様に、平均粒径が26μmの低密度ポリエチレンに200KGyのγ線を照射して得た、架橋度77%(MFR=0.01以下)の架橋ポリエチレン粒子を充填し、これらを再度160〜220℃の温度の加熱炉内で30分間加熱し、焼結成形して、その基材の外層側すなわち、流体の流入側に比較的孔径の小さな孔径の多孔質層が形成された、全肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質2層プラスチックフイルタを得た。
【0030】
<比較例1>
実施例1と全く同様に成形して得られた、比較的大きな孔径を有する、肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質プラスチック基材の表面に、平均粒径が0.1μmのPTFE微粒子をバインダーと共に、スプレーで吹付けて10〜20μmの厚さに被着積層し、全肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質2層プラスチックフイルタを得た。
【0031】
<比較例2>
実施例1において、架橋ポリエチレン粒子に代えて、架橋前の平均粒径が26μmの低密度ポリエチレン粒子を使用した以外は、実施例1と全く同様にして、全肉厚3mmの中空円筒体を得た。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示したように、実施例1、2においては、粒子の脱落や流体流出側への微粒子の混入、さらには粉体払い落し性についても問題なく良好である。また圧力損失も小さく問題はない。
しかし、比較例1は、粉体払い落し性能を評価する上で1つの目安となる対水接触角は大きな値となったが、PTFE粒子の脱落があり、性能上の欠点が認められた。
比較例2においては、多孔質プラスチック基材の表面に被着積層した低密度ポリエチレンが薄膜状となり、所定の多孔質フィルタにならなかった。
【0034】
<実施例3>
平均粒径が340μmで、分子量330万の超高分子量ポリエチレン粒子(MFR=0.01以下)を、先端部に、最終の多孔質プラスチックフィルタ厚み3mmを得るに必要な幅の、円筒状開口を有する口金を設けたラム式押出機で焼結成形して、比較的大きな孔径を有する肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質プラスチック基材を得た。
以後は、実施例1の架橋低密度ポリエチレン粒子の被着積層厚み70μmを200μmに代えた外は、全く実施例1と同様にして、全肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質2層プラスチックフイルタを得た。
【0035】
<実施例4>
実施例1において、超高分子量ポリエチレンの平均粒径を170μmから160μmに、低密度ポリエチレンの平均粒径を26μmから10μmに、これに照射したγ線の強度を200KGyから100KGyに、架橋度を77%から54%に、また架橋低密度ポリエチレン粒子の被着積層厚み70μmを100μmに代えた外は、実施例1と全く同様にして、全肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質2層プラスチックフイルタを得た。
【0036】
<実施例5>
実施例1において、超高分子量ポリエチレンの平均粒径を170μmから160μmに、低密度ポリエチレンの平均粒径を26μmから10μmに、これに照射したγ線の強度を200KGyから50KGyに、架橋度を77%から43%に、また架橋低密度ポリエチレン粒子の被着積層厚み70μmを90μmに代えた外は、実施例1と全く同様にして、全肉厚3mmの中空円筒体形の多孔質2層プラスチックフイルタを得た。
【0037】
<実施例6>
実施例1において、成形用金型を、円筒状の外表面を有する内型1個と、円筒状の内表面を有する外型1個から、断面星形の角柱状の外表面を有する内型1個と、断面星形の角柱状の内表面を有する外型1個に、加熱炉内の温度を150〜200℃から160〜220℃に、加熱時間を60分から30分に、また架橋低密度ポリエチレン粒子の被着積層厚み70μmを200μmに代えた外は、実施例1と全く同様にして、全肉厚3mmの断面星形で中空角柱体形の多孔質2層プラスチックフイルタを得た。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示したように、多孔質プラスチック基材および多孔質層となるプラスチック材料の平均粒径や静電塗装の条件を変化させた実施例3、4、5および6においては、粒子の脱落や流体流出側への微粒子の混入、さらには粉体払い落し性についても問題なく良好である。また、圧力損失、粉体払い落し性能を評価する上で1つの目安となる対水接触角も大きく問題はない。
【0040】
【発明の効果】
本発明は、多孔質プラスチック基材の表面に、架橋ポリオレフィン系樹脂材料の多孔質層を被覆溶着して一体化した、多孔質複層プラスチックフィルタであるから、容易に流体の流入側と流出側で孔径が異なる多孔質フィルタとすることができると共に、従来のようなPTFE粒子が脱落し、捕集された微粒子中に混入することを防止することができる。
しかも、多孔質プラスチック基材の表面に、架橋ポリオレフィン系樹脂材料を静電塗装し、これを焼結成形して多孔層を一体化することにより、良好な通気性を発現する大きな孔径を有する多孔質プラスチック基材の表面に、良好な微粒子捕集性能を発現する小さな孔径を有する多孔質層が容易に形成し得ると共に、微粒子の高捕集効率およぴ低圧力損失性能を兼備した微粒子分離用多孔質フィルタとすることができる。
【0041】
多孔質プラスチック基材の表面に、架橋ポリオレフィン系樹脂材料が多孔質層を形成するに適する理由は、ポリオレフィン系樹脂材料を架橋させることで、融点(Tm)以上の溶融状態での流動性が架橋個所の存在により低下することにより、材料の粒子面融着の過程で発現する”粒子表面のみの融着”状態で焼結を完了させることが比較的容易に行えることによるものである。
そのために、平均粒径の小さな超高分子量ポリエチレンに代えて、入手が比較的容易な平均粒径の小さなポリオレフィン系樹脂材料を使用することが可能と成り、生産性やコストの面からも有利である。
Claims (3)
- 多孔質プラスチック基材およびその表面に一体化された少なくとも1層の多孔質層を有し、該多孔質プラスチック基材は、平均粒径が比較的大きな熱可塑性プラスチック材料の粒子を焼結成形して得られる大きな孔径を有するものであり、該多孔質層は、平均粒径が比較的小さな架橋ポリオレフィン系樹脂材料(予め架橋されたポリオレフィン系樹脂材料)の粒子を焼結成形して得られる小さな孔径を有するものであることを特徴とする多孔質複層プラスチックフィルタ。
- 上記架橋ポリオレフィン系樹脂材料が、放射線架橋ポリオレフィン系樹脂材料(予め放射線によって架橋されたポリオレフィン系樹脂材料)であることを特徴とする請求項1記載の多孔質複層プラスチックフィルタ。
- 熱可塑性プラスチック材料の粒子を焼結成形して多孔質プラスチック基材を形成し、該多孔質プラスチック基材に導電性を付与させた後この基材の表面に、前記プラスチックと相溶性を有する放射線架橋ポリオレフィン系樹脂材料(予め放射線によって架橋されたポリオレフィン系樹脂材料)の粒子を静電塗装し、次いで該塗着粒子および上記基材の表面を加熱して焼結一体化し、少なくとも1層の多孔質層を形成することを特徴とする多孔質複層プラスチックフィルタの製造方法。
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