JP3643082B2 - サッカロスリックス新株、これを用いてプラバスタチンを生産する方法及び(HMG)−CoAリダクターゼの単離方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、YS−44442及びYS−45494と称されるサッカロスリックス(Saccharothrix)の二種の新規微生物株、これらの株を用いてプラバスタチン(pravastatin)を生産する方法、並びに(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を単離するための改良された方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高血中コレステロールレベルがアテローム性動脈硬化症、特に冠動脈系心臓病の主たる危険因子の一つであることが認識されている。コレステロールの生合成をモニタリングすることはこれらの疾病の抑制に非常に有用である。3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリール(HMG)−CoAリダクターゼはコレステロール生合成における律速酵素である。(HMG)−CoAリダクターゼの活性を阻害することにより、生体の血中コレステロールレベルを効果的に減少させることができる。
【0003】
数多くの(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤、例えばプラバスタチン、コンパクチン、ロバスタチン、が発見されている。それらは、ラクトン形の以下に示す構造式で表わされるが、他の形態、例えば酸及び/又はその塩やエステルとして存在してもよい。
【0004】
【化1】
【0005】
これらの(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤は、人間を含む多くの動物で血中コレステロールレベルを下げるのに非常に有効である。プラバスタチンは、コンパクチン及びロバスタチンよりも活性があり、高コレステロール血症の治療に適用されてきた(Nara,Fら、Curr.Genet.23:28−32(1993))。
【0006】
プラバスタチンは、コンパクチンの3β−ヒドロキシ誘導体である。プラバスタチンは、例えばストレプトマイセス・ロゼオクロルノジーナス(Streptomyces roseochrornogenus)(米国特許第4,346,277号)やアクチノマジュラsp.(Actinomadura sp.)(Peng,M.ら、J.Antibiotics,Dec:1032−1035(1997)及びPeng Y.とA.L.Demain,J.Mol.Cataly.B:Enzymatic 10:151−156(2000))等、種々の属の真菌や細菌を用いてコンパクチンを微生物ヒドロキシル化により転換することによって生産されると報告されている。しかしながらこれらの真菌や細菌は、恐らくコンパクチンの抗真菌活性のために、真菌や細菌の発酵培養ブロスに添加される多量のコンパクチンに耐性でなく、その結果プラバスタチンの生産性が低い。よって、より多量のコンパクチンに耐性を示すと共に、効果的転換活性を有する新しい微生物を見い出す必要がある。
【0007】
一般に、発酵培養ブロスからの(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤の単離は、抽出、クロマトグラフィー、ラクトン化及び結晶化という容易でない手続きによって行われる。ヨーロッパ特許出願公開第0877089A1号は(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤の調製方法を開示している。これによると、阻害剤(例えば、ロバスタチン)を含む発酵培養ブロスを塩基性とした後に濾過して細胞を除去し、次いで、濾液をカラムを通して充填する。溶出液をトルエンで抽出し、続いてラクトン化することにより阻害剤が得られる。
【0008】
しかしながら、クロマトグラフィーを利用する場合には、望む収量で阻害剤を得るためには、大きなカラムと(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を含む大容量の発酵培養ブロスが通常必要とされ、そのため、阻害剤の精製プロセスの操作の困難性が増大する。さらに、ラクトン化反応は通常多大のエネルギーと時間を必要とする。よって、ラクトン化反応を行ったりクロマトグラフィーを使用することなしに(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を高収率、高純度、且つ低コストで得る改良された方法を探索する必要がある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の一目的は、プラバスタチンを生産することができYS−44442及びYS−45494と命名されたサッカロスリックス(Saccharothrix)の二種の新規微生物株並びにそれらの突然変異体を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、本発明に係る微生物を用いてプラバスタチンを生産する方法を提供することである。特に、プラバスタチンを生産するための本発明方法は、YS−44442又はYS−45494を適切な条件で培養して発酵培養ブロスを生成するステップ(a)と、コンパクチンを前記培養ブロスに供給するステップ(b)と、この培養ブロスを一定時間発酵させてコンパクチンをプラバスタチンに転換するステップ(c)と、プラバスタチンを前記培養ブロスから単離するステップ(d)とを含む。
【0011】
本発明の更に別の目的は、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を単離する方法を提供することであって、該方法は、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を含む第一の溶液に硫酸アンモニウムを添加して沈澱を生成するステップ(1)と、前記沈澱を単離するステップ(2)と、前記沈澱を極性溶媒を用いて溶解して第二の溶液を得るステップ(3)と、第二の溶液のpHを約4から約6に調整するステップ(4)と、第二の溶液を水と混和しない溶媒で抽出して(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を単離するステップ(5)とを含む。この調製方法は、単離された(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を有機又は無機のカチオン源と反応させて阻害剤を塩の形で生成させるステップを更に含む。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、以下の説明を参照することにより、より十分に理解されその利点が明らかになるであろう。
【0013】
I.新規微生物株
本発明の一目的は、良好な収率でプラバスタチンを生産するための二種の新規微生物株を提供することである。本発明者らは、驚くべきことに、土壌試料から放線菌を単離することにより、コンパクチンに対する高い耐性を有すると共にプラバスタチンの生産性が高い二種の新規微生物株、YS−44442及びYS−45494を得た。この二種の株は2002年1月8日、中国基準株保存機関(CCTCC)に夫々、受託番号M202001及びM202002で寄託された。
【0014】
YS−44442及びYS−45494は土壌から単離することができる。まず、土壌試料を滅菌したリン酸緩衝液に懸濁させる。得られた懸濁液を10倍段階希釈した後、単離培地を含有させた寒天プレート上に拡げる。寒天プレート上に増殖したコロニーを、放線菌の形態学的特徴に基づき顕微鏡検査により事前にスクリーニングすることができる。次いで、候補株を培養し、発酵ブロス(fermentation broth)を得る。この発酵ブロスにコンパクチンを供給して、プラバスタチンを生成させる。発酵ブロス中に生成されたプラバスタチンの量を求める。プラバスタチンの生産率が高いことからYS−44442及びYS−45494を選択する。
【0015】
寒天プレートの培地は本技術分野で良く知られているものであり、好ましくはイーストエキストラクト、モルトエキストラクト、デキストロース及び寒天を含むものである。より好ましくは、ISP2培地である。ある種の態様においては、培地に含有させる単離剤は、ナイスタチン、シクロヘキシミド、ペニシリンG、ポリミキシンB及びゲンタマイシンから選択される抗生物質を含むことが好ましい。放線菌属の形態学的特徴は、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, S.T.Williams,Sharpe,M.E.,Holt,J.G.,編集(1989)Williams&Wilkins:ボルチモア、p.2586−2615)等の従来の文献や教科書に記載されている。また、このような微生物を培養し発酵させる技術は、本技術分野で公知である。
【0016】
発酵ブロスに添加されるコンパクチンは、コンパクチンを生産する微生物(例えば真菌や細菌)若しくはその細胞抽出物、又はコンパクチン含有溶液により供給するのが好ましい。発酵ブロスに添加されるコンパクチンの濃度は、微生物が存在しない発酵ブロスに基づいて、かつ供給コンパクチンのみに基づいて計算される。発酵ブロス中に生産されたプラバスタチンは、HPLC等の慣用技術により同定でき、プラバスタチン生成量は、保持時間を標準調製品と比較することにより決定することができる。例えば、生産されたプラバスタチンの収量は式(I)により求めることができる。さらに、コンパクチンからプラバスタチンへの転換効率は式(II)により計算でき、生産された総プラバスタチン中のエピプラバスタチンの割合(epi-pravastatin ratio)(Epi%)は式(III)により計算される。
【0017】
プラバスタチン収量=(標準濃度/標準面積)×試料面積 (I)
モル転換効率(ME%)=(生産されたプラバスタチンのモル数/転換したコンパクチンのモル数)×100 (II)
エピプラバスタチンの割合(Epi%)=(エピプラバスタチンの生成量/(エピプラバスタチンの生成量+プラバスタチンの生成量))×100% (III)
【0018】
エピプラバスタチンはコンパクチンの6α−ヒドロキシル化体であるが、所望の治療効果を有さないばかりか、臨床治療において望ましくない効果を示す。したがって、エピプラバスタチンの割合は低いことが好ましい。なお、本明細書中、「コンパクチン耐性」とは、微生物発酵ブロス中に供給されたコンパクチンの最終濃度であって、且つ微生物が耐えうる濃度、すなわち、このような濃度のコンパクチンを含む培地において、微生物が正常に成長できる濃度を云う。
【0019】
上記方法で得られたYS−44442は以下の性質を有する。寒天プレート上のコロニー(7日目)は青みがかった白色であり、胞子を形成しない。SCY寒天スラント上の培養物は青みがかった白色であり、少量しか胞子が見られない。コンパクチンからプラバスタチンへの転換効率(ME%)は約70〜75%である。エピプラバスタチンの割合は6.5〜8%である。プラバスタチンは、発酵ブロスの体積あたり1.0〜1.5g/L生産される。コンパクチン耐性は1.5〜2.0g/Lである。YS−44442のより詳細な特徴は、後述の実施例に記載される。
【0020】
上記方法で得られたYS−45494は以下の性質を有する。寒天プレート上のコロニー(7日目)は白色であり、胞子を形成する。SCY寒天スラント上の培養物は白色の胞子と黄色の色素を生成する。コンパクチンからプラバスタチンへの転換効率(ME%)は約48〜50%である。エピプラバスタチンの割合は1.8〜3.0%である。プラバスタチンは、発酵ブロスの体積あたり1.0〜1.5g/L生産される。コンパクチン耐性は1.5〜2.0g/Lに達する。YS−45494のより詳細な特徴は、後述の実施例に記載される。
【0021】
本発明は、プラバスタチンを生産する能力を有するYS−44442の突然変異体及びYS−45494の突然変異体をも含む。突然変異体は、親株YS−44442及びYS−45494に従来の突然変異誘発技法を適用することにより得ることができる。突然変異を誘発させる適切な方法としては、例えば、ガンマ線や紫外線を微生物に照射することや、EMS(スルホン酸エチルメタン)、NTG(N−メチル−N−ニトロ−N'−ニトロソグアニジン)、NQO(4−ニトロキノリンN−オキシド)、DES(ジエチルスルフェート)、DEB(ジエポキシブタン)及びNMU(N−メチル−N−ニトロソ尿素)等の突然変異誘発物質で処理すること等が挙げられる。突然変異体を得るには、親株であるYS−44442又はYS−45494に紫外線を30、60、120、240若しくは480秒間、又は、コバルト60ガンマ線を0.5、1、2、3若しくは4Kgyの量で照射すればよい。良好な収量でプラバスタチンを生産できる所望の突然変異株は、上記の方法を用いて選択できる。当業者であれば、当技術分野で従来知られている突然変異誘発技法及びスクリーニング法を用いて、親株のYS−44442又はYS−45494からこれらの突然変異体を得ることができる。より詳細な突然変異誘発手順については、後述の実施例に記載する。
【0022】
II.本発明に係る株を用いたプラバスタチンの生産方法
YS−44442及びYS−45494を用いてプラバスタチンを生産することができる。すなわち、本発明の一目的は、YS−44442及びYS−45494を用いたプラバスタチンの生産方法を提供することである。具体的には、本製造方法は、(a)YS−44442又はYS−45494を適切な条件で培養し発酵ブロスを生成するステップと、(b)得られたブロスにコンパクチンを供給するステップと、(c)前記ブロスを一定期間発酵させ、コンパクチンをプラバスタチンに転換するステップと、(d)前記ブロスからプラバスタチンを単離するステップとを含む。
【0023】
微生物を培養する技術及びプラバスタチンを発酵ブロスから単離する技術は、当技術分野において周知である。当業者であれば、当技術分野において知られている発酵及び単離技術(例えばHLPC)を組合せることにより、本発明のYS−44442及びYS−45494を用いてプラバスタチンの生産方法を遂行することができる。具体的な実施例を後に説明する。
【0024】
本発明の一態様において、ステップ(a)の発酵ブロスの培養は2日未満、好ましくは約18時間である。ステップ(a)の発酵ブロスは、微生物を適切な条件下で約18〜48時間培養した種培養物(seed culture)から得たものが好ましい。種培養物を培養するための種培地(seed medium)は、グルコース、ペプトン、大豆タンパク質及びミネラル源を含むことができる。発酵培地はさらにコーンスティープパウダー(corn steep powder)(C.S.P.)を含むことができる。
【0025】
前記ブロスに添加されるコンパクチンは、コンパクチンを生産することができる真菌や細菌又はそれらの細胞抽出物、あるいはコンパクチンを含む溶液により提供されるのが好ましい。発酵ブロスに供給されるコンパクチンの濃度は、微生物が存在しない発酵ブロスに基づいて、及び供給コンパクチンのみに基づいて計算される。本発明の好ましい態様において、コンパクチンは、その最終濃度が1.0g/Lより高く、より好ましくは1.5〜2.0g/Lの範囲になるようにブロスに供給される。
【0026】
本発明の他の態様において、コンパクチンをプラバスタチンに転換するステップ(c)の期間は5日未満、好ましくは3日未満、さらに好ましくは24時間未満である。
【0027】
本発明の好ましい一態様において、ステップ(d)で単離されるプラバスタチンの収量は、0.5g/Lより多く、好ましくは1.0g/Lより多く、さらに好ましくは1.5g/Lより多い。本発明の好ましい一態様において、ステップ(d)で生産される総プラバスタチン量中のエピプラバスタチンの割合(EP%)は、約1.8〜8%である。本発明の好ましい一態様において、コンパクチンからプラバスタチンへの転換効率(ME%)は、40%より高く、好ましくは50%より高く、より好ましくは70%より高い。上記の方法で生産されたプラバスタチンは、HPLC等、当技術分野で慣用の技法のいずれかを用いて単離することができ、さらに抽出や結晶化を行ってもよい。
【0028】
III.クロマトグラフィーを用いずにプラバスタチンを単離する方法
本発明者らは、クロマトグラフィーを用いずに(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を良好な収率及び純度で単離しラクトン化反応を進行させるための改善された方法を開発した。
【0029】
即ち、本発明の一目的は、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤の単離方法において、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を含む第一の溶液に硫酸アンモニウムを添加して沈澱物を生成するステップ(1)と、前記沈澱物を分離するステップ(2)と、分離された沈澱物を極性溶媒を用いて溶解して第二の溶液を得るステップ(3)と、第二の溶液のpHを約pH4〜約pH6に調整するステップ(4)と、水と相溶性のない溶媒を用いて第二の溶液から(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を抽出単離するステップ(5)とを含む該方法を提供することである。
【0030】
本発明の好ましい態様において、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤はプラバスタチン、コンパクチン及びロバスタチンから選択され、プラバスタチンがより好ましい。
【0031】
本単離方法のステップ(1)に係る第一の溶液は、単離される(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を含む溶液であれば特に限定されない。本発明の好ましい態様において、本単離方法のステップ(1)における第一の溶液は、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を生産できる微生物から誘導することができる微生物発酵ブロスである。該微生物は、ストレプトマイセス・ロゼオクロルノゲナス(Streptomyces roseochrornogenus)(米国特許第4,346,277号)、アクチノマデュラ・sp.(Actinomadura sp.)(Peng,M.ら、前掲及びPeng Y.とA.L.Demain、前掲)、アスペルギルス(Aspergillus)、モナスカス(Monascus)、ペニシリウム(Penicillium)、パエシロマイセス(Paecilomyces)、ヒポマイセス(Hypomyces)、ホーマ(Phoma)、プレウロタス(Pleurotus)、ドラトマイセス(Doratmyces)、ユウペニシリウム(Eupenicillium)、ギムノアクサス(Gymnoaxus)、トリコデルマ(Trichoderma)(欧州特許出願公開第0,877,089,A1号)から選択され、より好ましくは、本発明のYS−44442、YS−45494及び本明細書中に記載のそれらの突然変異体である。
【0032】
ステップ(1)の硫酸アンモニウムは、第一の溶液の30〜60%(w/v)となる量で第一の溶液に添加されることが好ましい。より好ましくは、添加される硫酸アンモニウム量は第一の溶液における飽和量である。
【0033】
本単離方法のステップ(1)において、沈澱物は濾過、遠心分離、又はデカント等の当技術分野において知られている方法、好ましくは薄膜濾過により単離できる。
【0034】
本発明の好ましい態様において、ステップ(4)に係る第二の溶液のpHは無機酸、好ましくは塩酸によって調整される。当業者であれば、第二の溶液のpHを調整するための適当な酸を慣用技術及び知識に応じて選択することができる。
【0035】
本単離方法のステップ(5)において、水と混和しない溶媒を用いて第二の溶液を抽出に付す技術は、当技術分野においてよく知られている。当業者であれば、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を第二の溶液から首尾良く抽出するための水と混和しない適当な溶媒を選択し用いることができる。好ましくは、水と混和しない溶媒は、酢酸エチル、アセトン、トルエン、ジクロロメタン及び酢酸イソプロピルから選択される有機溶媒で、酢酸エチルがより好ましい。有機溶媒の添加量は第二の溶液に含まれる(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤の濃度に依存する。抽出時間は5分を超えることが好ましく、5〜30分の範囲が最も好ましい。
【0036】
有機溶媒による抽出の後、有機溶媒層を回収し、次いで慣用の技法(例えば、無水硫酸マグネシウムと活性炭素)を用いて乾燥、脱色することにより、(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を単離する。
【0037】
本発明の一態様においては、本単離方法は更に、単離(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤を有機若しくは無機カチオン源、好ましくはナトリウム、と反応させ、阻害剤の塩を得るステップを更に含む。ナトリウム源は、NaOH、Na2CO3、酢酸ナトリウム(無水)及び2−エチルへキサン酸ナトリウムから選択することが好ましい。カチオン源の添加量及び反応時間は(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤の濃度に依存する。当業者であれば、カチオン源の種類及び量を適宜選択し、該阻害剤の塩を得ることができる。濃度0.2〜5.0Mでカチオン源を添加し0.5〜2.0時間撹拌することが好ましい。
【0038】
以下、実施例を参照して本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0039】
【実施例】
実施例1
A.土壌サンプルからのYS−44442株及びYS−45494株の単離
放線菌単離のために用いる土壌サンプルを、様々な場所から採集した。土壌サンプルを室温に置き、一定の重量になるまで乾燥させた。空気乾燥した土壌サンプル1グラムを減菌した5mMリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに懸濁させ、スーパーミキサで1分間攪拌した。放線菌の胞子を発芽させるため前記土壌サンプルの懸濁液を振とう培養器で35℃〜50℃で10分間加熱した。十倍段階希釈した後、懸濁液を適切な単離培地を含む寒天プレートに散布した。前記寒天プレートに発生したコロニーを裸眼で数え、放線菌の形態学的特性を光学顕微鏡で調べた。未同定の3000個のコロニーから正の形態学的特性を示す400株を選んだ。コンパクチンからプラバスタチンへの高転換率(>50%)と低エピプラバスタチン含量(<10%)の点から、前記400株からYS−44442株及びYS−45494株を選んだ。YS−44442株及びYS−45494株の単離条件を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
B.YS−44442株及びYS−45494株の特徴
YS−44442株又はYS−45494株をイーストエキストラクト−モルトエキストラクト含有寒天培地(ISP−2)[Shirling,E.B.とGottlieb,D.,International Journal ofSystematic Bacteriology,16(3):313−340(1966)]のスラントの上に保ち、27℃で培養した。生理学的試験に供するための接種材料およびDNA抽出のためのバイオマス調製物はトリプトン−イーストエキストラクトブロス(ISP−1)[ShirlingとGottlieb、前掲]中で培養することによって調製した。
【0042】
(1)形態と色素産生
形態学的特徴付けは、Shirling&Gottlieb(前掲)の記載に従って行った。培養物の形態は45倍及び100倍の超長作業距離対物レンズを備えたニコンオプティフォト(Nikon Optiphot)−2顕微鏡を用いた光学顕微鏡検査法で検査した。気中菌糸の色は、大気表面での成熟胞子成長を観察することによって決定した。基層菌糸及びメラニン以外の拡散性可溶性色素の色決定は裏側を観察することによって行った。基層菌糸の着色は次の色グループのいずれかに割り当てた:(1)黄色〜茶色;(2)黄色〜茶色+赤(またはオレンジ);(3)黄色〜茶色+青(または紫);(3)黄色〜茶色+緑。色素及び色の決定はTektronix RGB 色サンプラー(Xerox, Inc.)との比較に基づいて行った。形態学的特徴付けはイーストエキストラクト−モルトエキストラクト含有寒天培地(ISP−2)、オートミール寒天培地(ISP−3)、無機塩−スターチ寒天培地(ISP−4)及びグリセロール−アスパラギン寒天培地(ISP−5)[ShirlingとGottlieb、前掲]で行った。
【0043】
YS−44442の結果については、ISP−2及びISP−4で、5個〜10個の胞子から成る短く波状の(開いた)フック型または(短い)らせん型の連鎖が観察された。前記胞子は滑らかな球状で菌糸の直径の約2〜3倍であった。偽胞子嚢はISP−2及びISP−4に存在し、ISP−4の方により多く存在していた。気中でのマスの着色はISP−2及びISP−3で白(R100 G100 B100)であった。ISP−4及びISP−5では気中菌糸は発生しなかった(表2参照)。さらに、YS−44442における基層菌糸の着色はISP−2、ISP−3及びISP−4で茶色(R85 G70 B40、カラー2)、ISP−5で黄〜茶色(R100 G100 B70、カラー1)だった(表2参照)。NaOH(0.05N)及び塩酸(0.05N)を約100μl加えた後のpH変化に対応した色素の変化はなかった。さらに、YS−44442は可溶性色素を産生しなかった(表2参照)。
【0044】
YS−45494の結果については、気中菌糸の気中でのマスの着色はISP−2、3、4及び5では白(R100 G100 B100)であった。ISP−2では気中菌糸はまっすぐ且つ長く枝分かれしていた。ISP−3では気中菌糸が菌糸の栄養成長先端部の膨張部と合体している。経時変化に関しては、A5株はISP−5で球棹菌状成分に分解した。基層菌糸の着色はISP−2で橙茶色(R100 G85 B40、グループ2)、ISP−3で赤〜茶色(R70G55 B40、グループ2)、ISP−4で薄黄〜茶色(R100 G100 B85、カラーグループ1)、ISP−5で薄黄〜茶色(R100 G100 B70、グループ1)であった(表2参照)。NaOH(0.05N)及び塩酸(0.05N)を約100μl加えた後のpH変化に対して色素に変化はなかった。さらに、ISP−3及びISP−5において可溶性の色素を観察した。着色はISP−3で茶色(R70 G55 B40)、ISP−5で黄色(R100 G100 B85)であった(表2参照)。これについてもNaOH(0.05N)及び塩酸(0.05N)を約100μl加えた後のpH変化に対して可溶性色素に変化はなかった。
【0045】
YS−44442及びYS−45494で観察された形態学的特徴を下の表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
(2)生理学的試験
メラニン産生及び単独炭素源利用はShirling&Gottlieb(前掲)の記載に従って測定した。メラニン産生はペプトン−イーストエキストラクト鉄寒天培地(ISP−6)及びチロシン寒天培地(ISP−7)について評価した[Shirling&Gottlieb(前掲)]。単独炭素源利用はD−グルコース(正の対照)、i−アラビノース、スクロース、D−キシロース、i−イノシトール、D−マンニトール、D−フラクトース、ラムノース、ラフィノース及びセルロースを1%(w/v)の濃度にしたもので改変した塩基性無機塩寒天培地(ISP−9)について評価した[Shirling&Gottlieb(前掲)]。負の対照としては改変されていない塩基性無機塩寒天培地を用いた。結果はShirling&Gottliebの記載に従って評価した[Shirling&Gottlieb(前掲)]。
【0048】
YS−44442及びYS−45494の成育一般の特徴を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
YS−44442の炭水化物利用パターンに関して、強い正(positive)の利用がL−アラビノース、スクロース、D−フラクトース、d−フラクトース及びラムノースで観察された。疑わしい利用はセルロースで観察され、負(negative)の利用はI−イノシトール及びラフィロースで観察された。前記培養ではメラノイド色素は産生されなかった。
【0051】
YS−45494の炭水化物利用パターンに関して、強い正の利用がL−アラビノース、スクロース及びD−フラクトースで観察された。正の利用はラムノース及びラフィノースで観察された。疑わしい利用はD−キシロース、I−イノシトール、D−マンニトール及びセルロースで観察された。前記培養ではメラノイド色素は産生されなかった。
【0052】
YS−44442及びYS−45494の炭水化物利用パターンの結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
(3)16s rDNA配列決定
DNA抽出
DNA抽出のためのバイオマスを、オービタルシェーカー(1インチ幅)上で250rpmにて連続振とう下、27℃で、トリプトン−イーストエキストラクトブロス(ISP−1)50ml中で10日間培養して調製した(Shirling & Gottlieb、前掲)。15,000×gで15分間遠心分離し、液状培養物を回収した。バイオマスを減菌した乳鉢と乳棒へ移し、ペースト状に丁寧に磨り潰した。TE緩衝液(10mMトリス:1mMエチレンジニトロ四酢酸)約0.4mlを加え、緩衝液と細胞砕片を10%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液100μlを用いて減菌した2ml遠心分離用試験管へ移した。65℃で15分間、水浴中で混合物を培養した。緩衝化フェノール(pH8)(Ausubel,F.M.,Short protocols in molecular biology,第3版(1995),New York,Wiley.Iv.(複数頁に渡る))約0.5mlを試験管に加え、10分間混合した。混合物を15分間、14,474×gで遠心分離した。水層を減菌した2ml遠心分離用試験管に移し、クロロホルム−イソアミルアルコール(24:1)0.5mlを加えた。混合物を15分間、14,474×gで遠心分離し、水層を減菌した2ml遠心分離用試験管に移した。5M塩化ナトリウム水溶液約50μlと冷95%エタノール1mlを試験管に加え、混合物を24時間、−20℃に保持してDNAを沈澱させた。混合物を4℃で30分間、14,474×gで遠心分離し、上清を除去した。80%エタノール約100μlを試験管に加えた後、10分間、14,474×gで遠心分離した。エタノールを除去し、ペレットを30分間乾燥させた後、減菌した脱イオン水(18Mohm)50μl中に再懸濁させた。使用するまでDNAを−20℃で保存した。
【0055】
16s rDNA配列決定
パーキン・エルマー社のGeneAmp(登録商標)PCRシステム2400のGibcoBRL(登録商標)ネイティブTaqポリメラーゼを用い、16srDNA配列のPCR増幅を抽出したDNAに対して行なった。増幅された16s rDNAの精製は、バイオ・ラッド社のPrep−A−Gene(登録商標)DNA精製システムで行なった。ABI Prism(登録商標)BigDye(商標)ターミネーターサイクル配列決定用調製済み反応キットを用い、配列決定用の蛍光標識したDNAを調製した。製造業者による手引きに従ってABI Prism(登録商標)POP−6(商標)パフォーマンスオプティマイズドポリマー6を用い、61cm×50μmキャピラリーを備えたABI Prism(登録商標)310ジェネティックアナライザーでDNA配列を解析した。16s rDNA PCR増幅および配列決定では、プライマーGMG1とGMG10を使用した(表5参照)。16s rDNA PCR増幅プログラムは次の通りである:(1)94℃、7分間;(2)94℃、1分間;(3)53℃、1分間;(4)72℃、2分間;(5)72℃、6分間;ステップ2〜5を30回反復;(6)4℃で保持。
【0056】
【表5】
【0057】
YS−44442およびYS−45494の16s rDNA配列は配列番号1および2にそれぞれ示した配列を含む。ARB配列エディター(リリース8.1)を用い、リボソームデータベースプロジェクト(RDP)〔Maidak,B.L.ら、Nucleic Acids Res.,28:173−174(2000)〕の多数配列アラインメントデータセットに対して配列を整列させた。YS−44442およびYS−45494の16s rDNA配列とRDP(Maidak,B.L.ら、前掲)との比較によって、サッカロスリックスsp.NRRL B−16133[Labeda,D.P.とR.M.Kroppenstedt,Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,50Pt 1:331−6(2000)]との配列相同性はそれぞれ99.1%と99.0%であることが示される。(http://www.eme.msu.edu/RDP/html/index.html)。加えて、YS−44442およびYS−45494と関連する放線菌類(表6)とを比較する、ARBソフトウェアパッケージ(Tree0.1と示す)によって得られた16s rDNA系統樹を図1に示す。
【0058】
【表6】
【0059】
C.YS−44442およびYS−45494と既知の微生物との比較
YS−44442およびYS−45494は両者共、サッカロスリックス・アエロコロニゲネス(Saccharothrix aerocolonigenes)およびサッカロスリックス・オーストラリエンシス(Saccharothrix australiensis)についてBergey's Manual of Systematic Bacteriology(Cross,T.,前掲)に記述されている特徴、そしてサッカロスリックス・テキサセンシス(Saccharothrix texasensis)についてLabedaとLyons(Labeda,D.P.とLyons,A.J.,International Journal of Systematic Bacteriology,39(3):344−358(19689))によって記述されている特徴と同様の表現型の特徴を示す(表7)。YS−44442およびYS−45494は、その形態と炭水化物利用パターンが公開された記述とは異なる(表8)。また、炭水化物利用パターンにおいて、YS−44442およびYS−45494はサッカロスリックス・アエロコロニゲネス、サッカロスリックス・オーストラリエンシスおよびサッカロスリックス・テキサセンシスとも異なる(表8)。
【0060】
【表7】
【0061】
【表8】
【0062】
系統発生学的および生理学的分析の総合結果に基づき、YS−44442株およびYS−45494株は互いに異なり、またサッカロスリックス・アエロコロニゲネス、サッカロスリックス・オーストラリエンシス及びサッカロスリックス・テキサセンシスの各規準株とも異なり、サッカロスリックス属の新規な種であると考えられる。これら2つの株は中国基準株保存機関(CCTCC)に寄託されており、2002年1月8日にそれぞれ受託番号M202001とM202002が与えられている。
【0063】
実施例2
YS−44442およびYS−45494によるプラバスタチンの生産
(1)発酵ブロスに添加するコンパクチン溶液の調製
0.3M水酸化ナトリウム溶液(500ml)を温め、50〜60℃に保持した。水酸化ナトリウム溶液にコンパクチン40gを加え、50〜60℃で2〜3時間撹拌した。水酸化ナトリウム中のコンパクチン溶液を室温に冷却し、1N塩酸でpHを7.5に調整した。水酸化ナトリウム中のコンパクチン溶液の容量を1000mlに調整し、20分間、1000rpmで遠心分離した。上清を濾過して減菌した。
【0064】
(2)YS−44442およびYS−45494を用いたプラバスタチンの生産YS−44442(あるいはYS−45494)の胞子菌懸濁液1mlを−80℃でGL(10%グリセロール、5%ラクトース)中に保存し、層をなす花状に開け(opened in laminar flower)、種培地(1リッター当たりグルコース10g、ペプトン2g、大豆タンパク質4gおよびKH2PO41gを含む、pH7.0±0.2)20mlを含む300ml振とうフラスコに加えた。種培養物をロータリーシェーカー内で200〜220rpmにて24〜48時間、27℃で培養した(生育相)。その後、種培養物1.5〜2mlを発酵培地(1リッター当たりグルコース15g、ペプトン5g、コーンスティープパウダー(C.S.P.)5g、大豆ミール4g、KH2PO41gを含む、pH7.0±0.2)20mlを含む300ml振とうフラスコ内で培養した。振とうフラスコをロータリーシェーカー内で200rpmにて18〜24時間、27±0.5℃で培養した(生育相)。発酵ブロス中での最終濃度が1500〜2000mg/Lとなるよう上述のように調製したコンパクチンを発酵ブロスに加え、16〜24時間培養を継続した。
【0065】
(3)プラバスタチンおよびコンパクチンのHPLC分析
上記で得られた発酵ブロス(0.2ml)を脱イオン水(1.8ml)に加えた。混合液を1分間混合し、3000rpmで10分間遠心分離した。得られた上清をHPLCを用いて次の条件で分析した。
*移動相は下記の勾配で流した。
時間(分) 流量 %A %B
0 1.0 100 0
1.0 1.0 100 0
1.1 1.0 30 70
3.5 1.0 30 70
3.6 1.0 100 0
30 1.0 100 0
31 0.0 100 0
【0066】
(4)計算と結果
アルカリ性メタノール(100%メタノールと0.1N水酸化ナトリウム)に溶解し、水で希釈した標準プラバスタチンまたはコンパクチン調製物を調製した。プラバスタチン収量、モル転換効率(ME%)およびエピプラバスタチンの割合(Epi%)は、上記式(I)、(II)および(III)で計算される。
【0067】
YS−44442およびYS−45494によるコンパクチンからプラバスタチンへの転換効率、プラバスタチン収量およびエピプラバスタチンの割合を表9に示す。
【0068】
【表9】
【0069】
実施例3
コンパクチンを連続供給するYS−44442およびYS−45494によるプラバスタチン生産
発酵ブロスに添加するコンパクチン溶液を実施例1の記載に従って調製した。−80℃でGL(10%グリセロール、5%ラクトース)中に保存したYS−44442またはYS−45494の胞子懸濁液(9ml)を、層をなす花状に開け(opened in laminar flower)、実施例1に記載の種培地(600ml)を入れた3L振盪フラスコに加えた。ロータリーシェイカー(200〜220rpm)を用いて24〜48時間、27℃で種培養物を培養した(生育相)。その後、消泡剤(LG−109、0.1ml/L)を添加した実施例1に記載の発酵培地(16L)を30L発酵器に入れ、種培養物(1.6L)を加え培養した。発酵を、ブロスの体積あたり0、9体積/分の空気を供給しながら、27℃で、撹拌下(100〜150rpm)、24〜48時間行った。その後、発酵ブロスにコンパクチン(50〜60g/L)を10〜30ml/hrで供給した。2〜3日間供給を続けた後、発酵を停止した。得られた発酵ブロスを実施例1と同様にHPLCを用いて分析し、YS−44442およびYS−45494によるコンパクチンからプラバスタチンへの転換効率、プラバスタチン収量およびエピプラバスタチンの割合を実施例1と同様に計算した。結果を表10に示す。
【0070】
【表10】
【0071】
既知の微生物(例えば、Peng M.ら、J. Antibiotics(前掲)およびPeng Y.とA.L.Demain(前掲)に記載のアクチノマデュラsp.(Actinomadura sp.))が、濃度0.5〜1.1g/Lのコンパクチン供給濃度で収量0.326〜0.821g/Lのプラバスタチンを生成するために(コンパクチン供給後)5〜7日の転換期間が必要なことに比べ、本発明のYS−44442およびYS−45494は、濃度1.5〜2.0g/Lのコンパクチン供給濃度で収量1.0〜1.5g/Lのプラバスタチンを(コンパクチン供給後)24時間以内で生成することができる。また、YS−44442およびYS−45494の発酵ブロスを(種培養物の接種から)ほんの18時間培養した後、すぐにコンパクチンを該発酵ブロスに添加することができる。従来技術においては、アクチノマデュラsp.(Peng M.ら、J.Antibiotics(前掲)およびPeng Y.とA.L.Demain(前掲))の発酵ブロスを(種培養物の接種から)2日以上培養しなければ、コンパクチンを添加できなかった。さらに、YS−44442またはYS−45494が生産するプラバスタチンは、所望の治療効果を示さないばかりか臨床治療において望ましくない効果を示すエピプラバスタチン(即ち、コンパクチンの6α−ヒドロキシル化体)の割合が低い。本発明の二種の新規微生物は、コンパクチンに対する耐性が高く、コンパクチンからプラバスタチンへの転換効率が高い。
【0072】
実施例4
NTG突然変異誘発方法
YS−44442またはYS−45494の胞子懸濁液をISP2培地(10ml)に添加し、振盪下1〜2時間培養した。遠心分離後、胞子ペレットを0.9%NaCl溶液で2回洗浄し、NaCl溶液(0.9%、3ml)に懸濁させた。得られた胞子懸濁液に、0.2MNaOH溶液(2.5ml)および1000ppmNTG(1ml)を加え、よく混合した。次いで、27±1℃で10、20、30、60および120分間培養した。培養後、12%チオ硫酸ナトリウムを胞子懸濁液に添加し、遠心分離させた後、上層を除去して、NTGを除去した。ISP2培地(10ml)を胞子懸濁液に添加し、振盪下1〜2時間培養した。遠心分離後、胞子ペレットを0.9%NaCl溶液で2回洗浄し、NaCl溶液(0.9%、3ml)に懸濁させた。10倍段階希釈の後、希釈胞子懸濁液(0.1ml)をISP2寒天プレート上に散布した。27±1℃で6〜9日間培養した後、寒天プレート上に現われたコロニーの形態を観察し、それらを計数した。次式で求められる殺傷率(killing rate)が50〜99.5%であることが好ましい。
【0073】
殺傷率=(NTG処理されない細胞の数−NTG処理した細胞の数)/(NTG処理されない細胞の数)×100%
【0074】
例えば、104倍希釈した胞子懸濁液を散布しNTG処理した寒天プレートにコロニーが28個(細胞数:2.8×106個)現われ、106倍希釈した胞子懸濁液を散布しNTG処理しなかった寒天プレートにコロニーが36個(細胞数:3.6×108個)出現した場合、殺傷率は約99.22%[100%×(360,000,000−2,800,000)/360,000,000]となる。別の突然変異誘発物質を用いた他の突然変異誘発方法も上記の方法で行うことができる。
【0075】
紫外線照射による突然変異誘発方法
YS−44442またはYS−45494の胞子懸濁液を10倍段階希釈に付した。希釈胞子懸濁液(0.1ml)をISP2寒天プレート上に散布した。寒天プレートを開け、30、60、120、240および480秒間、紫外線処理した。紫外線照射後、それ以上の光照射を避けるために、寒天プレートをカバーし直ちに暗所に移した。27±1℃で6〜9日間培養した後、寒天プレート上に現われたコロニーの形態を観察し、それらを計数した。上記の式で求められる殺傷率が99〜99.999%であることが好ましい。
【0076】
実施例5
YS−44442またはYS−45494由来の突然変異体の生物活性アッセイ
突然変異誘発後、形態学的変異体(morphological variant)を選択し、6〜10個のガラスビーズおよび脱イオン水(0.5ml)と共にスクリューチューブ(screw tube)に入れ、よく混合した。懸濁液(0.1〜0.15ml)をISP2スラント寒天中でリフレッシュ(refreshed)し、液体培地中で発酵させた。発酵中、コンパクチンを最終濃度が1.5g/Lまたは2.1g/Lとなるように添加し、27℃で24〜48時間、生変換(bioconversion)を進行させた。発酵ブロス(0.2ml)を脱イオン水(1.8ml)と混合した。遠心分離後、上記のようにHPLCによって、上清を分析した。YS−44442またはYS−45494由来の突然変異体を、それら突然変異体のプラバスタチン生産性、転換効率、エピプラバスタチンの割合を調べるために選択した(表11参照)。
【0077】
【表11】
【0078】
実施例6
硫酸アニモニウム沈澱によるプラバスタチンの精製方法
親株YS−44442またはYS−45494に由来する突然変異体株のプラバスタチン含有発酵ブロス(14L、pH7.5〜8.5)に硫酸アンモニウム(4.5〜7.0kg)を2〜6時間かけてバッチ添加した。次いで、5〜15時間、室温で撹拌し、沈澱を得た。得られた沈澱物を濾過により分離した。分離した沈澱物を水(100〜200ml)に溶解し、0.5時間撹拌して、溶液を調製した。溶液をセライト床を通して濾過し、セライト床を水(100ml)で一回洗浄した。濾液を回収し、18%(w/v)塩酸を用いて濾液のpHを4.0〜6.0に調整した。前記濾液を1.0〜3.0体積の酢酸エチルと混合し、室温で10〜30分間撹拌した。得られた乳液をセライト床で濾過した。相を分離した後、水相を回収し、1.0〜3.0体積の酢酸エチルを用いて再度抽出に付した。このような2度の抽出により得られた酢酸エチル相を合一した。合一酢酸エチル相に無水マグネシウム(0.1〜1.5%w/v)と活性炭素(0.1〜1.5%w/v)を添加し、室温で1〜15分間撹拌し、濾過し、未使用の酢酸エチル(100ml)で洗浄して脱水・脱色した。プラバスタチンを収率94.495%(HPLC)で得た。
【0079】
プラバスタチンナトリウムを以下のようにして得た。上記のように精製したプラバスタチンを未使用の酢酸エチルに溶解し、プラバスタチン濃度5.0〜25.0g/Lの溶液を調製した。上記の溶液に2−エチルヘキサン酸ナトリウム(0.2〜5.0M)のメタノール/エタノール溶液またはイソプロピルアルコール溶液を添加し、室温で0.5〜2.0時間撹拌した。得られた溶液を0〜20℃まで冷却し、濾過し、未使用の酢酸エチルで洗浄した。純度98.5%(HPLC)、各不純物量0.3%未満、合計不純物量1.0%未満のプラバスタチンを収率60〜80%で得た。
【0080】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のYS−44442及びYS−45494をARBソフトウエアパッケージ(バージョン:Tree0.1)で発生させた関連放線菌類と比較する16s rDNAの系統樹である。
Claims (12)
- サッカロスリックスの微生物株YS−44442又は良好な収量でプラバスタチンを生産し得るその突然変異体。
- サッカロスリックスの微生物株YS−45494又は良好な収量でプラバスタチンを生産し得るその突然変異体。
- 請求項1又は2記載の微生物を用いてプラバスタチンを生産する方法。
- 請求項1又は2記載の微生物を適切な条件で培養して発酵ブロスを生成するステップ(a)と、コンパクチンを前記ブロスに供給するステップ(b)と、このブロスを一定時間発酵させてコンパクチンをプラバスタチンに転換するステップ(c)と、プラバスタチンを前記ブロスから単離するステップ(d)とを含む、請求項3に記載の方法。
- ステップ(a)の発酵ブロスが2日未満培養されるものである、請求項4に記載の方法。
- ステップ(a)の発酵ブロスが約18時間培養されるものである、請求項5に記載の方法。
- ステップ(a)の発酵ブロスが、前記ブロスへの接種前、適切な条件下で約18時間〜約48時間培養された前記微生物の種培養物(seed culture)に由来するものである、請求項4に記載の方法。
- ステップ(b)のコンパクチンが、1.0g/Lより高い最終濃度で前記ブロスに添加される、請求項4に記載の方法。
- 前記最終濃度が、約1.5〜約2.0g/Lである、請求項8に記載の方法。
- ステップ(c)における、コンパクチンからプラバスタチンへの転換時間が5日未満である、請求項4に記載の方法。
- 前記時間が3日未満である、請求項10に記載の方法。
- 前記時間が24時間未満である、請求項11に記載の方法。
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