JP3642671B2 - インクジェットプリンタヘッド及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細なノズル孔からインクを噴射させて印刷を行うインク噴射装置等に用いられる高精度かつ安価な軽量薄型のインクジェットプリンタヘッドおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から印刷装置等には凸版印刷法や凹版印刷法、あるいは静電気転写印刷法等によるものが適用されてきているが、前記凸版印刷法や凹版印刷法には印版が必要であり、少量多品種の用途にはコストが高くなるという欠点があり、他方、静電気転写印刷法には前述のような欠点はないものの、装置の外形容積や重量が大きく、その上、高電圧が必要であること等の欠点があった。
【0003】
近年、マルチメディアの浸透に伴い、情報の印刷用インターフェースとしてインク噴射装置や熱転写装置を利用した各種印刷装置が開発され、これらの利用範囲が拡大している。
【0004】
なかでもインク噴射装置は、圧電素子の歪み変形を利用した高画質、高速印字で設置場所を選ばない小型の印刷装置として特に注目されている。
【0005】
かかるインク噴射装置に用いられるインクジェットプリンタヘッドは、一般的には、複数のノズル穴を有するインクノズル部と、インクを噴射させるために圧力を発生させるインク加圧室とから成る構造を有しており、圧電素子の歪み変形を利用して前記インク加圧室に圧力を発生させ、該インク加圧室に供給され充填されたインクを、前記ノズル孔から液滴として吐出させることにより印刷を行うものに利用するものである。
【0006】
前記インクジェットプリンタヘッドには、高密度化と高精度化と共に小型化が要求されており、前記インク加圧室を構成する隔壁の幅は数十μmのオーダーで作製することが求められている。
【0007】
このようなインク加圧室を構成する隔壁の成形方法としては、インクノズル部材と空所が設けられたインクポンプ部材及び基板をそれぞれ積層することによりインク加圧室を形成する方法や、インクノズル部材にインクポンプ室を形成する部材を接着した後、ダイシングマシンで切削加工してインクポンプ室を削り出す方法、あるいは樹脂板を加熱して軟化させ、これに溝付きロールを押し付けて溝付き樹脂板を基板に積層一体化してインク加圧室を形成する方法等が提案されている(特開平6−40030号公報、特開平8−336978公報参照)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、個々に打ち抜き加工等により形成された前記各部材を積層してインク加圧室を形成する前記方法では、空所が設けられているインクポンプ部材を精度良く成形することが困難であることから、隔壁の変形による各空所の容量ばらつきをもたらし、結果的に画素の低下を招く他、画素密度の向上により各空所間の隔壁が薄くなることによる隔壁の破損等の歩留り低下を招き、また、隔壁の形状変形によりインク加圧室の容量ばらつきが発生し、インク吐出特性が均一でないという課題があった。
【0009】
また、前記ダイシングマシンの切削加工法では、加工性及び加工寸法の精度の低下により各インク加圧室の寸法ばらつきが発生する他、切削時の隔壁のチッピングにより隔壁の破損が生じて加工歩留りが著しく悪く、また、ダイシング刃の熱歪みによりインク加圧室の深さにばらつきを生じてインク吐出特性が安定しないという課題があった。
【0010】
さらに、樹脂板を加熱して溝を成形する方法では、基板全体を軟化させるために、下地基板と隔壁形成部に歪みの差が生じ、そのために基板に反りが発生してインク加圧室の容積に変動を生じ、インク吐出特性にばらつきを生じるという課題があった。
【0011】
【発明の目的】
本発明は前記課題を解決するために成されたもので、その目的は、インク加圧室を構成する隔壁の欠けや形状不良の欠陥を低減させて製造歩留りを向上させ、生産性を高めると同時に、一回の工程で高精細な形状の隔壁を形成でき、繰り返し工程の必要がなく、しかも高価な隔壁材料をダイシングマシンによる切削加工法のように切削屑として除去することもなく、容積が均一で高精度なインク加圧室を多数有する、例えば1200以上にも及ぶ連続したインク加圧室を有するインクジェットプリンタヘッド、及びそれを安価にかつ効率良く製造する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は前記課題に鑑み鋭意検討した結果、インクを噴射させるためのノズル孔に対応するとともに、インク加圧室にインクを溜めておくための複数の空所を精度良く形成するために、隔壁成形用組成物を高精度に刻設された成形型で塑性変形させて隔壁成形体を成形し一体化することにより、極めて容易にかつ高精度の寸法を有する隔壁が得られ、容積の安定したインク加圧室を形成できて前記課題が解消できることを知見し、本発明に至った。
【0013】
即ち、請求項1に係る発明は、基板の表面に隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成し、該インク加圧室を構成する壁の少なくとも一部を、圧電素子により変形させて圧力を発生させることにより上記インク加圧室に充填されたインクをインク加圧室に連通するノズル孔より噴射させるようにしてインクジェットプリンタヘッドを構成したものである。
【0014】
請求項2に係る発明は、基板の表面に圧電材料からなる隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成し、該インク加圧室を構成する壁を直接変形させて圧力を発生させることにより上記インク加圧室に充填されたインクをインク加圧室に連通するノズル孔より噴射させるようにしてインクジェットプリンタヘッドを構成したものである。
【0015】
請求項3に係る発明は、上記請求項1及び請求項2に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、インク加圧室を構成する基板又は蓋体にインク加圧室と連通するノズル孔を設けたことを特徴とするものである。
【0016】
請求項4に係る発明は、上記請求項1乃至請求項3に記載のインクジェットプリンタヘッドにおいて、インク加圧室の容量のばらつきが5%以内であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項5に係る発明は、基板の表面に隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成し、該インク加圧室を構成する蓋体又は基板に圧電素子を設けることによりインクジェットプリンタヘッドを製造したことを特徴とするものである。
【0018】
請求項6に係る発明は、基板の表面に圧電材料からなる隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の変形させる部分に電極を設け、しかるのち、隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成することによりインクジェットプリンタヘッドを製造したことを特徴とするものである。
【0019】
請求項7に係る発明は、上記請求項5乃至6に記載のインクジェットプリンタヘッドの製造方法において、隔壁成形体で形成される空所を、隔壁形状に相当する複数の溝を刻設したロ−ル状成形型で隔壁成形用組成物を押圧して塑性変形させて成形したことを特徴とするものである。
【0020】
【作用】
本発明のインクジェットプリンタヘッドの製造方法によれば、インク加圧室の空所を形成する隔壁は、成形型により隔壁成形用組成物を塑性変形して成形することにより得られた隔壁成形体を基板と焼成一体化することから、高精度で微細なピッチを有する隔壁を安価にかつ効率良く形成することができる。
【0021】
さらに、隔壁成形型を複数の溝を刻設したロール形状とすることにより、層状に基板に被着した隔壁成形用組成物を押圧する圧力が均一となり、隔壁形状を再現性良く均一な状態で成形することができる。
【0022】
また、前述のような製造方法を採用することにより、隔壁の蛇行等の変形や形状欠陥が低減され、各インク加圧室の容積が均一なインクジェットプリンタヘッドを、安価にかつ効率良く、製造歩留りを向上させて生産することができる。
【0023】
その上、前記製造方法により得られたインクジェットプリンタヘッドを用いることにより、インク吐出特性が安定して印刷欠陥のなく、高画質、高速印刷が可能となる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のインクジェットプリンタヘッド及びその製造方法について図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
図1〜3は、本発明のインクジェットプリンタヘッドの製造方法を示す工程図である。
【0026】
まず、図1において、1はノズル孔2を有するインクノズル部材を成す基板3の表面に形成した隔壁10と、隔壁10の最頂部に接合された蓋体11とから成るインク加圧室12と、インク加圧室12の壁の一部である蓋体11に形成された圧電素子13とを備えたインクジェットプリンタヘッドである。なお、圧電素子13は圧電/電歪膜14とその両面に被着された電極膜15とから構成されている。
【0027】
そして、このインクジェットプリンタヘッド1は、ノズル孔2を有するインクノズル部材を成す基板3の表面に、隔壁成形用組成物4を層状に被着形成した後、隔壁成形用組成物4に隔壁形状の凹部を刻設した平板状の成形型5を押圧して塑性変形させるか、あるいは隔壁形状に相当する複数の溝6を刻設したロール状成形型7を回転させながら押圧して塑性変形させて隔壁成形体8を成形し、ノズル孔2に対応した空所9を形成する。
【0028】
次いで、隔壁成形体8を基板3と共に脱バインダー処理を施した後、焼成一体化して隔壁10を形成し、隔壁10の最頂部に蓋体11を接合してインク加圧室12を形成し、インク加圧室12の壁の一部を成す蓋体11に圧電素子13を設けると共に、ノズル孔2をインク加圧室12と連通させることにより画素が高密度でかつ高精度のインクジェットプリンタヘッド1を得ることができる。
【0029】
次に、本発明の他のインクジェットプリンタヘッドについて説明する。
【0030】
図2において、21は基板23の表面に形成した隔壁30と、隔壁30の最頂部に接合された蓋体31とから成るインク加圧室32であって、該インク加圧室32を構成する基板23と隔壁30は圧電材料からなり、上記隔壁30の両側面には駆動用の電極34を、隔壁30の最頂部と基板23の裏面には分極用の電極35をそれぞれ備えたインクジェットプリンタヘッドである。
【0031】
そして、このインクジェットプリンタヘッド21は、基板23の表面に隔壁成形用組成物24を層状に被着形成した後、隔壁成形用組成物24に隔壁形状の凹部を刻設した平板状の成形型25を押圧して塑性変形させるか、あるいは隔壁形状に相当する複数の溝26を刻設したロール状成形型27を回転させながら押圧して塑性変形させて隔壁成形体28を成形し、空所29を形成する。
【0032】
次いで、隔壁成形体28を基板23と共に脱バインダー処理を施した後、焼成一体化して隔壁30を形成し、該隔壁30の最頂部と基板23の裏面に分極用の電極35をそれぞれ形成して隔壁30を誘電分極させたあと、隔壁30の両側面に駆動用の電極34を形成し、しかるのち隔壁30の最頂部に蓋体31を接合してインク加圧室32を形成することにより画素が高密度でかつ高精度のインクジェットプリンタヘッド21を得ることができる。なお、このインクジェットプリンタヘッド21には図示していないが、図2の紙面に対して垂直方向にインク加圧室32と連通するノズル孔を備えたインクノズル部材が配置される構造となっている。
【0033】
図3は本発明のさらに別のインクジェットプリンタヘッド41を示したもので、図2の分極用の電極35の形成位置が異なる以外は同様の構造をしたものである。このインクジェットプリンタヘッド41は、まず、基板43の表面に分極用の一方の電極55を敷設する。次に、この基板43上に上記電極55を覆うように隔壁成形用組成物44を層状に被着形成した後、隔壁成形用組成物44に隔壁形状の凹部を刻設した平板状の成形型45を押圧して塑性変形させるか、あるいは隔壁形状に相当する複数の溝46を刻設したロール状成形型47を回転させながら押圧して塑性変形させて隔壁成形体48を成形し、空所49を形成する。
【0034】
次いで、隔壁成形体48を基板43と共に脱バインダー処理を施した後、焼成一体化して隔壁50を形成し、該隔壁50の最頂部に分極用の他方の電極55を形成して隔壁50を誘電分極させたあと、隔壁50の両側面に駆動用の電極54をそれぞれ形成し、しかるのち隔壁50の最頂部に蓋体51を接合してインク加圧室52を形成することにより画素が高密度でかつ高精度のインクジェットプリンタヘッド41を得ることができる。なお、このインクジェットプリンタヘッド41においても、図3の紙面に対して垂直方向にインク加圧室52と連通するノズル孔を有するインクノズル部材が配置される構造となっている。
【0035】
また、図2,3に示すインクジェットプリンタヘッド21,41においては、分極用の電極35,55は予め隔壁30,50を誘電分極させておくことにより除くこともできる。さらに、駆動用の電極34,54は隔壁30,50の側面全体に形成したものでも側面の一部分にのみ形成したものでも構わず、また、基板23,43や蓋体31,51に各インク加圧室32,52に連通するノズル孔を設けて、インクを吐出させるようにしても良い。
【0036】
本発明において、前記インク加圧室12,32,52を構成する部材(基板3,23,43 隔壁10,30,50)としては、実質的に気密性を保持できる材料であれば何れでも良く、例えば、ガラス粉末やセラミック粉末、酸化鉛を含む混合物等を無機成分として焼成して使用することができ、該無機成分とバインダー、溶剤、各種添加物等の有機物との混合物を適宜、隔壁の成形条件に応じて調製して使用することができる他、金属やプラスチック等の材料でも適用可能である。
【0037】
具体的には、例えば、ソーダライムガラスや低ソーダガラス、鉛アルカリケイ酸ガラス、ホウケイ酸塩ガラス等の各種ガラスや、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素等の各種セラミックス、あるいはアルミニウムや鉄、チタニウム、ニッケル、白金、ステンレス鋼等の各種金属及びこれらの合金が挙げられ、さらにフェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリカーボネート系の各種プラスチックを用いることもできるが、特に前記構成部材としては、高弾性率のジルコニアが好適である。
【0038】
また、図2,3のように、インク加圧室32,52の構成部材のうちインク加圧室32,52の壁を構成する隔壁30,50を直接変形させる場合には、隔壁30,50自体を圧電材料で形成するか、あるいは隔壁30,50の表面に圧電材料をコーティングすれば良く、また、図1のように、インク加圧室12の構成部材のうち蓋体11に圧電素子13を設ける場合には、圧電素子13を構成する圧電/電歪膜14を圧電材料により形成すれば良い。
【0039】
かかる圧電作動部に用いる材料としては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT系)やマンガンニオブ酸鉛(PMN系)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN系)、マグネシウムニオブ酸鉛、アンチモン錫酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛をそれぞれ主成分とする各種材料、並びにこれらの複合材料を用いることができる。
【0040】
さらに、これら圧電材料には、ランタン(La)やバリウム(Ba)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、ストロンチウム(Sr)、ビスマス(Bi)等の酸化物やそれらの化合物を添加物として含有せしめた材料に所定の添加物を適宜、加えたものも好適に使用でき、しかもそれらの材料中、高弾性率を有する材料では前記インク加圧室12,32,52の構成部材に適用することも可能である。
【0041】
そして、前記圧電材料中、特にマグネシウムニオブ酸鉛とジルコン酸鉛及びチタン酸鉛とから成る成分を主成分とする材料が有利に用いられる。
【0042】
なお、多成分系圧電材料では、マグネシウムニオブ酸鉛−ジルコン酸鉛−チタン酸鉛の3成分系の材料では、擬立方晶−正方晶−菱面体晶の相境付近の組成が好ましく、特にマグネシウムニオブ酸鉛が15〜50モル%、ジルコン酸鉛が10〜45モル%、チタン酸鉛が30〜40モル%の組成が好ましい。
【0043】
また、高弾性部材に積層する場合には、厚膜成形方法で圧電層を成形する手法が推奨される。
【0044】
一方、可塑性を有する隔壁成形用組成物4,24,44とは、最終的に層状の隔壁成型用組成物4,24,44が塑性変形性を有するようになれば良く、例えば、塑性変形性を有する組成物自体を印刷やその他の方法で形成することにより層状に被着形成させたり、あるいは溶剤で希釈した隔壁成形用組成物4,24,44を印刷やその他の方法で層状に形成した後、該隔壁成形用組成物4,24,44中に含まれる溶剤を揮散することにより、好適な塑性変形性を付与させることもできる。
【0045】
前記塑性変形性を有するバインダーとしては、具体的には、ポリビニ−ルアルコ−ルやポリ酢酸ビニル、ブチラ−ル化ポリビニルアルコ−ル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、セルロ−ス、メチル化セルロ−ス、硝化セルロ−ス等が挙げられ、これらは、いくつかのモノマ−の共重合体又は混合物でも良く、特に好ましいのは、ブチラ−ル化ポリビニルアルコ−ルやポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0046】
また、これら有機添加剤の添加量は、ガラス粉末又はセラミック粉体に対して5〜50重量%が望ましい。
【0047】
さらに、可塑剤としてフタル酸ジブチルやフタル酸ジオクチル、アジピン酸ジメチル、燐酸トリメチル等を適宜、添加して用いることもできる。
【0048】
また、分散剤や流動性向上剤、濡れ性向上剤、レベリング剤、消泡剤等の印刷助剤を添加することもできる。
【0049】
他方、揮散させることにより塑性変形性をもたらす溶剤としては、ヘキサンやオクタン、ノナン、デカン、エタノ−ル、メタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ヘキサノ−ル、αテルピネオ−ル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。
【0050】
これら溶剤の添加量としては、ガラス粉体又はセラミック粉体に対して30〜100重量%が望ましい。
【0051】
また、隔壁成形型5,7,25,27,45,47は、金属製や樹脂製、ゴム製等、及びそれらの複合材料のいずれでも用いることができる。
【0052】
さらに、例えば、金属製の母材に表面だけ樹脂製あるいはゴム製で被覆した複合型の隔壁成形型5,7,25,27,45,47も用いることができ、かかる成形型5,7,25,27,45,47の表面には、離型性の向上等の改善のために、表面処理等を施しても何等問題無く、成形型の重量や熱変形歪みの大きさ、熱伝達率の点からはアルミニウムを主とする材料が好ましい。
【0053】
また、圧電素子13の電極15や駆動用の電極34、54あるいは分極用の電極35,55を構成する電極材料としては、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、ロジウム(Rn)、パラジウム(Pd)、金(Au)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等の導体金属やこれらの合金、あるいは前記導体金属や合金に少量のガラス粉体やセラミック粉体を混合した材料、さらには酸化ルテニウム、酸化インジウム、酸化錫等の導電性酸化物を用いることができる。
【0054】
そして、隔壁10,30,50や基板3,23,43に電極を形成する方法としては、前記電極材料をペースト状にして一括押出塗布する方法や、前記金属材料をメッキにて被膜を形成する方法、及び導電性成分を含有する有機金属を塗布した後、還元して電極とすることもできる他、酸化インジウムや酸化スズ等を蒸着することも可能である。
【0055】
かくして、得られた隔壁成形体8,28,48は、公知の脱バインダー処理工程及び焼成工程を経て前記基板3,23,43と一体化され、その後、得られた隔壁10,30,50の最頂部に蓋体11,31,51を封着してインク加圧室12,32,52を形成することができるが、その接合には、低融点ガラスや有機接着剤等を用いることができる。なお、蓋体11,31,51を構成する材質としては、金属、ガラス、シリコン、セラミックス、有機材料等様々な材料を用いることができ、好ましくは隔壁10,30,50と同材料により形成することが好ましい。
【0056】
なお、本発明のインクジェットプリンタヘッドでは、吐出するインクとして、顔料又は/及び染料と、水やアルコール等の水系の溶剤、あるいはヘキサンやトルエン等を主成分としたものを用いることができる。
【0057】
【実施例】
次に、本発明のインクジェットプリンタヘッド及びその製造方法について、以下のようにして評価した。
【0058】
なお、実施例、比較例とも成形サイズは一定とし、各々、製作試料数は2枚とした。
【0059】
(実施例1)
まず、厚さ2mm、30cm□の予めインク孔を穿設したソーダライムガラスから成る基板上に、厚膜印刷法によりAgを主成分とする電極ペーストを用いて幅50μmの電極をストライプ状に500μmの間隔で複数本、印刷した。
【0060】
次に、前記電極付き基板上にPZTとブチラール樹脂、溶媒、分散剤から成る隔壁成形用組成物をロールコーダーにて均一に塗布して乾燥し、厚さが35±2μmの層を被着した。
【0061】
一方、500μm間隔で開口部の幅が30μm、底部の幅が20μm、深さが140μmの溝を複数本有するロール状成形型をアルミニウムで切削加工して準備した。
【0062】
次いで、前記隔壁成形用組成物を層状に被着した基板を金属製の平面状の支持体上に設置し、前記ロール状の金属製隔壁成形型を基板に加圧圧着し、前記隔壁成形用組成物を塑性変形させて隔壁形状を付与して空所を形成した後、隔壁成形化を離型して基板上に複数の隔壁成形体を成形した。
【0063】
その後、表面に隔壁成形体が成形された基板を所定温度に保持して脱バインダー処理した後、各材料主成分により焼成雰囲気を適宜変更し、550〜580℃の温度で10分間焼成して隔壁と基板を一体化した評価用の試料を作製した。
【0064】
かくして得られた評価用の試料は、製作したいずれも割れることなく焼成できており、基板の反りも30cm当たり最大12μmと後述する比較例に比べて非常に小さいものであり、隔壁には欠け等の不良は全く認められなかった。
【0065】
さらに、得られた評価用の試料に厚さ1mmのソーダライムガラス基板を重ねて450℃の温度で30分間加熱して隔壁の最頂部の端部に接合して評価用のインクジェットプリンタヘッドを作製し、該インクジェットプリンタヘッドのインク加圧室毎に水銀を圧入し、水銀の重量からインク加圧室の容量を測定したところ、300個のインク加圧室の容量のばらつきは±4.3%と後述する比較例に比べて非常に小さいものであった。
【0066】
(実施例2)
実施例1のソーダライムガラスから成る基板を、厚さ1mmのジルコニア製基板に変更して、実施例1と同様にして評価用の試料を作製した後、厚さ0.5mmのジルコニア製基板を加圧接合して評価用のインクジェットプリンタヘッドを作製した。
【0067】
その結果、評価用の試料は、いずれも割れることなく焼成でき、基板の反りも30cm当たり最大8μmと極めて小さいものであり、隔壁の欠け等の不良は全く認められなかった。
【0068】
また、前記同様にして評価用のインクジェットプリンタヘッドのインク加圧室の容量のばらつきを測定したところ、±3.2%と極めて小さいものであった。
【0069】
(実施例3)
実施例1のロール状成形型の表面にテフロンコーティング処理を施した以外、他は実施例1と同様にして評価用の試料及びインクジェットプリンタヘッドを作製したが、いずれも割れもなく焼成でき、基板の反りも30cm当たり最大9μmであり、インク加圧室の容量のばらつきも±3.8%であった。
【0070】
(比較例1)
厚さ2.5mmのソーダライムガラス基板をダイシングソーにより500μm間隔で、幅470μm、深さ110μmの切削加工を行ったところ、得られた基板のうち、1枚の加工中に熱歪みにより破損し、基板の反りも30cm当たり最大145μmと極めて大であり、また、チッピングによる隔壁の欠けも13カ所認められた。
【0071】
さらに、得られた評価用の試料に、厚さ1mmのガラス基板を実施例1と同様にして接合して評価用のインクジェットプリンタヘッドを作製したが、得られたインク加圧室の容量のばらつきを実施例1と同様に評価したところ、±10.8%にも及ぶものであった。
【0072】
次に、図3に示す本発明の他のインクジェットプリンタヘッド及びその製造方法について、以下のようにして評価した。
【0073】
なお、実施例、比較例とも成形サイズは一定とし、各々、製作試料数は2枚とした。
【0074】
(実施例4)
まず、厚さ2mm、30cm□の予めインク孔を穿設したジルコニアセラミックスから成る基板上に、厚膜印刷法によりPtを主成分とする電極ペーストを用いて幅50μmの電極をストライプ状に20μmの間隔で複数本、印刷し焼き付けを行った。
【0075】
次に、前記電極付き基板上にPZTとブチラール樹脂、溶媒、分散剤から成る隔壁成形用組成物をロールコーダーにて均一に塗布して乾燥し、厚さが35±2μmの層を被着した。
【0076】
一方、20μm間隔で開口部の幅が90μm、底部の幅が85μm、深さが250μmの溝を複数本有するロール状成形型をアルミニウムで切削加工して準備した。
【0077】
次いで、前記隔壁成形用組成物を層状に被着した基板を金属製の平面状の支持体上に設置し、前記ロール状の金属製隔壁成形型を基板に加圧圧着し、前記隔壁成形用組成物を塑性変形させて隔壁形状を付与して空所を形成した後、隔壁成形化を離型して基板上に複数の隔壁成形体を成形した。
【0078】
その後、表面に隔壁成形体が成形された基板を所定温度に保持して脱バインダー処理した後、各材料主成分により焼成雰囲気を適宜変更し、1150〜1250℃の温度で30分間焼成して隔壁と基板を一体化した評価用の試料を作製した。
【0079】
かくして得られた評価用の試料は、製作したいずれも割れることなく焼成できており、基板の反りも30cm当たり最大6μmと後述する比較例に比べて非常に小さいものであり、隔壁には欠け等の不良は全く認められなかった。
【0080】
さらに、得られた評価用の試料の隔壁の最頂部にPt電極を形成し、隔壁の分極を行った。しかるのち、隔壁の両側面に駆動用としてPt電極をスパッタリング法にて形成し、隔壁の最頂部に蓋体として厚さ1mmのソーダライムガラス基板を有機接着材で接着して評価用のインクジェットプリンタヘッドを作製し、該インクジェットプリンタヘッドのインク加圧室毎に水銀を圧入し、水銀の重量からインク加圧室の容量を測定したところ、300個のインク加圧室の容量のばらつきは±6.4%と後述する比較例に比べて非常に小さいものであった。
【0081】
(実施例5)
実施例4のジルコニアセラミックスから成る基板を、厚さ1mmのPZTから成る基板に変更して、実施例4と同様にして評価用の試料を作製したところ、割れることなく焼成できており、基板の反りも30cmあたり最大8μmと後述する比較例に比べて非常に小さいものであり、隔壁には欠け等の不良は認められなかった。
【0082】
また、得られた評価用の試料の隔壁の最頂部と基板の裏面に分極用のPt電極をそれぞれ形成して隔壁の分極を行ったあと、隔壁の両側面に駆動用としてPt電極をスパッタリング法にて形成し、隔壁の最頂部に蓋体として厚さ1mmのソーダライムガラス基板を有機接着材で接着して評価用のインクジェットプリンタヘッドを作製し、該インクジェットプリンタヘッドのインク加圧室毎に水銀を圧入し、水銀の重量からインク加圧室の容量を測定したところ、300個のインク加圧室の容量のばらつきは±8.6%と後述する比較例に比べて非常に小さいものであった。
【0083】
(実施例6)
実施例4のロール状成形型の替わりに、アルミニウム平板により溝を形成し、インクジェットプリンタヘッドを作製した。この場合も同様に試料は割れることなく焼成でき、基板の反りも30cmあたり最大7μmときわめて小さいものであり、隔壁の欠け等の不良は認められなかった。またインク加圧室の容量のばらつきを測定したところ、±7.0%と極めて小さいものであった。
【0084】
(実施例7)
実施例5のロール状成形型の替わりに、アルミニウム平板により溝を形成し、インクジェットプリンタヘッドを作製した。この場合も同様に試料は割れることなく焼成でき、基板の反りも30cmあたり最大9μmときわめて小さいものであり、隔壁の欠け等の不良は認められなかった。またインク加圧室の容量のばらつきを測定したところ、±9.0%と極めて小さいものであった。
【0085】
(実施例8)
実施例4のロ−ル状成形型の表面にテフロンコ−ティング処理を施し、同様にしてインクジェットプリンタヘッドを作製し評価したところ、基板の反りが30cmあたり最大6μm、インク加圧室の容量ばらつきが3%となり、その結果は実施例4よりさらに優れていた。
【0086】
(実施例9)
実施例5のロ−ル状成形型の表面にテフロンコ−ティング処理を施し、同様にしてインクジェットプリンタヘッドを作製し評価したところ、基板の反りが30cmあたり最大8μm、インク加圧室の容量ばらつきが4%となり、その結果は実施例5よりさらに優れていた。
【0087】
(実施例10)
実施例6のアルミニウム平板成形型の表面にテフロンコ−ティング処理を施し、同様にしてインクジェットプリンタヘッドを作製し評価したところ、基板の反りが30cmあたり最大7μm、インク加圧室の容量ばらつきが±6.4%となり、その結果は実施例6と同様であった。
【0088】
(実施例11)
実施例7のアルミニウム平板成形型の表面にテフロンコ−ティング処理を施し、同様にしてインクジェットプリンタヘッドを作製し評価したところ、基板の反りが30cmあたり最大8μm、インク加圧室の容量ばらつきは±8.6%となり、その結果は実施例7と同様であった。
【0089】
(比較例2)
PZT基板をダイシングソ−により溝幅70μm、溝深さ200μm、隔壁幅70μmの切削加工を行ったところ、加工中に隔壁が破損したり、基板の反りも30cmあたり85μmと大きく、チッピングによる欠けも多く発生した。
【0090】
また、得られた基板を実施例4と同様にして評価用のインクジェットプリンタヘッドを製作し、インク加圧室の容量ばらつきを評価したところ±15%にも及ぶものであった。しかも、比較例2の溝深さは一様でなく、インク加圧室の流路方向へ向かって漸次深さが浅くなる構造となるが、それに比べ、前述の実施例は溝全体が一定の深さとなり、駆動部となる隔壁の変形領域が広くとれることから、インクを吐出する点においては、より容量の大きい液滴を噴射でき、駆動エネルギ−が少なくて済むなどの利点が得られた。
【0091】
なお、本実施例において、成形型の寸法(溝幅、ピッチ、溝深さ)は任意に設定することができるが、微細で高精度のヘッドを得るためには、溝幅は150μm以下、ピッチは550μm以下、溝深さは500μm以下が良く、好適には溝幅は35〜120μm、ピッチは350μm以下であることが好ましい。
【0092】
【発明の効果】
本発明のインクジェットプリンタヘッド及びその製造方法によれば、インク加圧室を構成する隔壁の欠けや形状不良の欠陥が極めて少なくなって製造歩留りが向上し、生産性が高まり、一回の工程で高精細な形状の隔壁を成形でき、繰り返し工程の必要がなく、高精度で微細な間隔の隔壁を有する容積が均一なインク加圧室を備えた部材を安価にかつ効率良く製造することができ、また、溝部の深さが一定であることから、吐出能力の高い、より低エネルギ−の部材を効率よく製造することができ、該製造方法により得られたインクジェットプリンタヘッドは安定したインク吐出特性を有するものとなり、インク噴射装置に最適なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェットプリンタヘッドの製造方法を示す一工程図である。
【図2】本発明の他のインクジェットプリンタヘッドの製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明のさらに他のインクジェットプリンタヘッドの製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
1,21,41 ・・・インクジェットプリンタヘッド
2 ・・・ノズル孔
3,23,43 ・・・基板
4,24,44 ・・・隔壁成形用組成物
5,25,45 ・・・成形型
6,26,46 ・・・溝
7,27,47 ・・・ロール状成形型
8,28,48 ・・・隔壁成形体
9,29,49 ・・・空所
10,30,50・・・隔壁
11,31,51・・・蓋体
12,32,52・・・インク加圧室
13 ・・・圧電素子
14 ・・・圧電/電歪膜
15 ・・・電極
34,54 ・・・駆動用の電極
35,55 ・・・分極用の電極
Claims (7)
- 基板の表面に隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成し、該インク加圧室を構成する壁の少なくとも一部を、圧電素子により変形させて圧力を発生させることにより上記インク加圧室に充填されたインクをインク加圧室に連通するノズル孔より噴射させるようにしたことを特徴とするインクジェットプリンタヘッド。
- 基板の表面に圧電材料からなる隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成し、該インク加圧室を構成する壁を直接変形させて圧力を発生させることにより上記インク加圧室に充填されたインクをインク加圧室に連通するノズル孔より噴射させるようにしたことを特徴とするインクジェットプリンタヘッド。
- 上記インク加圧室を構成する基板又は蓋体にインク加圧室と連通するノズル孔を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェットプリンタヘッド。
- 前記インク加圧室の容量のばらつきが5%以内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインクジェットプリンタヘッド。
- 基板の表面に隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成し、該インク加圧室を構成する蓋体又は基板に圧電素子を設けたことを特徴とするインクジェットプリンタヘッドの製造方法。
- 基板の表面に圧電材料からなる隔壁成形用組成物を層状に被着させると共に成形型で塑性変形させて上記基板の表面に空所を形成する隔壁成形体を成形し、次に得られた隔壁成形体を前記基板と共に加熱して脱バインダ−処理を施すと共に焼成して一体化した隔壁を形成した後、該隔壁の変形させる部分に電極を設け、しかるのち、隔壁の最頂部に蓋体を接合してインク加圧室を形成することを特徴とするインクジェットプリンタヘッドの製造方法。
- 前記隔壁成形体で形成される空所を、隔壁形状に相当する複数の溝を刻設したロ−ル状成形型で隔壁成形用組成物を押圧して塑性変形させて成形することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のインクジェットプリンタヘッドの製造方法。
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