JP3640381B2 - 構造部構築方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、既存構築物の耐震性能を向上する目的で、当該既存構築物に鉄筋コンクリート構造部を増設する場合に於いて、騒音、振動、粉塵等の発生原因と成り、居住者からクレームが生じる要因と成っていたアンカー工事を省く事を特徴とし、且つ構築物の耐震力を大幅に増加させることの出来る構造部構築方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、耐震性能が不足している既存構築物に於いて、当該既存構築物を補強して十分な耐震性能を付与する耐震補強工法が行われており、その補強工法として、既存構造部の壁厚を増加する方法、或いは既存構築物の構造部の無い箇所に新たに構造部を構築する方法等が採用され、それらにより構築物の耐震力を大幅に向上させている。
耐震補強工法の一つである上記既存構造部の壁厚を増加する方法では、既存構造部が形成されている周囲の柱、梁、床等に複数の鉄筋付き後施工アンカーを打ち込み、該鉄筋を既存構造部表面に沿って平行に突出させるとともに、既存構造部に複数のスペーサー付き後施工アンカーを打ち込んでスペーサーを既存構造部表面より垂直に突出させ、溶接金網を既存構造部表面に平行且つ鉛直方向に配筋して該スペーサーに固定し、当該溶接金網及びスペーサー等を埋設するようにしてモルタルを吹き付けて既存構造部の壁厚を増して構築物の耐震力を増加させている。
【0003】
同様に、耐震補強工法の既存構造部の壁厚を増加させる他の方法として、柱と梁等の骨組で囲まれた部分に壁体を設けた既存構築物に於いて、該既設壁体に対して増し打ちすることで構造部を構築するにあたり、既設壁体の前側に於いて柱と梁の開口側の面にコッターを取着し、該既設壁体を型枠として繊維補強モルタル等を吹き付けて壁厚を増すことにより構築物の耐力を増加させているものがある。
【0004】
更に、上記耐震補強工法の一つである新たに構造部を構築する方法として、新設される構造部の周囲の既存主要構造部に定着用のアンカーを取着し、該アンカーを利用して構造部を構築し、そのアンカーにより応力伝達が行われるように増設構造部と既存主要構造部との一体化を図るものがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記耐震補強工法による工事は、居住者が建物を使用している状態での作業と成ることが多く、既存構造部に複数のスペーサー付き後施工アンカーを打ち込む工事は騒音、振動、粉塵等に於いて問題を生じていた。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて成されたもので、スペーサー付き後施工アンカー等の打込工事を省略し、既存構築物に於ける主要構造部と新設される鉄筋コンクリート構造の構造部とを容易に一体化できる工法である。また、精度の高い施工を可能とし、新設の構造部とその周辺の主要構造部とを一体構築物とすることを課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決したもので、既存構築物の開口部を形成している主要構造部の対向面に接着剤を塗布し、新たな構造部を増設する側の該接着剤面に5mm迄の粒径からなる粒状物質を取着して露出面側に凹凸部を形成し、該凹凸部に囲まれた空間部に鉄筋の配筋及び該鉄筋を囲むようにして型枠を組み立て、当該型枠間の空隙部へ、コンクリート中に打設後の容積が収縮側に転じないように配合を調整した膨張材及び収縮低減剤を混入した膨張コンクリートを打設することにより、該凹凸部と一体化して構造部を構築して成る構造部構築方法を特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
図1は、既存構築物である鉄筋コンクリート構築物の開口部を示す正面図で、既存柱1、1と既存梁2、2’又は既存梁2’上の床3とにより開口部4が形成されている。
本発明は、該開口部4に構造部5を増設するもので、開口部4に壁鉄筋を配筋し、型枠を配設し、該壁鉄筋を覆うようにして形成した型枠の間隙内に膨張コンクリートを打設する。
【0012】
図2は、接着剤と粒状物質とを利用して露出面に凹凸部を形成した側断面図を示している。開口部4を形成する主要構造部の既存柱1、1の内側側面、既存梁2の上下面又は既存梁2’上の床3面上の上記構造部5を増設する端縁部に相当する位置に接着剤6を塗着し、該接着剤6に粒状物質7を取着させている。従って、粒状物質7が取着された露出面側は凹凸部8が形成されることに成る。上記接着剤6としては、様々な材料が使用できるが、一例としてアクリル系接着剤が使用される。また、上記粒状物質7としては、一例として5mm径までの珪砂等の材料が使用される。
【0013】
型枠の間隙内に打設される膨張コンクリートは、コンクリート中に混入する膨張材及び収縮低減剤等の配合により、打設後の容積がその後に収縮側に転じないように調整する。収縮側に転じさせないことにより、上記凹凸部8と型枠の間隙内に打設されたコンクリートとが常に一体化され、それらが分離されることを防止することが可能と成る。
【0014】
図3は、膨張コンクリートのその後の容積変化をグラフに示したものである。Aは本発明の増設構造部に使用した膨張コンクリート、Bは従来の通常の普通コンクリートの変化例を示している。普通コンクリートBは、打設後コンクリートの中の小さな空隙内に存在している水分が蒸発して縮むいわゆる乾燥収縮により全体が収縮することになる。従って、その容積はグラフに示すように収縮側へ変化することに成る。
【0015】
これに対して膨張コンクリートAは、膨張材を膨張素材としてセメントに混入し、膨張コンクリートとして使用しているものである。例えばカルシウムサルフォアルミネート(消石灰と石膏及びボーキサイトを調合焼成したもの)系は、水和反応によりエトリンガイトを生成し膨張する。従って膨張コンクリートAは、打設後膨張しその後緩やかに収縮するが、その収縮に於いても所定規模の残留膨張量Cが残ることに成り、全体としてその容積は膨張を保持した状態と成る。
【0016】
上記膨張コンクリートに於ける各部材の配合例の一実施例を以下に明記する。
セメント :486kg/m3
細骨材 :691kg/m3
粗骨材 :969kg/m3
水 :155kg/m3
膨張材 :60kg/m3
収縮低減剤:15kg/m3
上記膨張材として、前記したCSA系(カルシウムサルフォアルミネート系)のものを使用した。また、収縮低減剤として、低級アルコールを主成分としたものを使用した。
なお、上記材料及び配合例は、一実施例を示したもので、その他の材料の使用や配合比等は適宜変えることが可能である。
例えば、膨張材として石灰系膨張材、鉄粉系膨張材等の膨張材を使用することが出来る。
【0019】
【発明の効果】
本発明は、従来不可欠であったアンカー工事を行うこと無く、既存構築物の主要構造部と増設構造部との接触面に形成した接着剤及び粒状物質の集合体による凹凸部が、コッター効果による機械的な定着作用を発揮し、増設構造部と既存主要構造部とを一体化することが出来る。これによって居住者が居ながらにして騒音、振動、粉塵等の発生を伴うこと無く、工事を施工することが出来、既存構築物に鉄筋コンクリート構造部を有効的に増設することが可能となった。
【0020】
また、増設構造部に使用するコンクリートは、打設後の容積が収縮側に転じないように調整されていることにより、新設した構造部コンクリートと既存主要構造部とが常時密着した状態を保持することに成り、経事に伴うコンクリートの収縮による両者の分離を防ぐことが可能と成った。
【0021】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の膨張コンクリートを現場打設する構造部構築方法の適用される開口部の正面図。
【図2】 本発明の接着剤と粒状物質とを利用して凹凸面を形成した部位の側断面図。
【図3】 本発明に使用する膨張コンクリートの変化性状を示すグラフ。
【符号の説明】
1・・既存柱
2・・既存梁
3・・床
4・・開口部
5・・構造部
6・・接着剤
7・・粒状物質
8・・凹凸部
Claims (1)
- 既存構築物の開口部を形成する主要構造部の対向面に接着剤を塗布し、 新たな構造部を増設する側の該接着剤面に5mm迄の粒径からなる粒状物質を取着して露出面側に凹凸部を形成し、該凹凸部に囲まれた空間部に鉄筋の配筋及び該鉄筋を囲むようにして型枠を組み立て、当該型枠間の空隙部へ、コンクリート中に打設後の容積が収縮側に転じないように配合を調整した膨張材及び収縮低減剤を混入した膨張コンクリートを打設することにより、該凹凸部と一体化して構造部を構築することを特徴とする構造部構築方法。
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