JP3638015B2 - 歯付ベルトおよび歯付ベルトを使用するベルト伝動装置 - Google Patents

歯付ベルトおよび歯付ベルトを使用するベルト伝動装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベルトを使用したベルト伝動装置に関し、特に、歯付ベルトおよび歯付ベルトを使用したベルト伝動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、歯付ベルトを用いたベルト伝動装置は、OA機器(事務機器)などに適用されており、例えば、プリンタのキャリッジ駆動、紙送り、あるいは複写機の紙送りや感光ドラム駆動などに使用されている。プーリと噛み合うことによって掛け回される歯付ベルトは、平ベルトのようなすべりが生じないため、高精度の位置決めを行うのに適している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
歯付ベルトを使用する場合、歯付ベルトと歯付プーリとの噛み合いに起因してベルトの速度変動、すなわち速度ムラが生じる。この速度ムラにより、例えばプリンタや複写機の印字および画像形成において印字ムラ、画像ムラが生じる。このような速度ムラを抑えるため、通常、歯のピッチの縮小化(例えば、ピッチ1.5mm、2mmなど)が計られる。
【0004】
しかしながら、歯のピッチを小さくすると、ベルトにかかる負荷はピッチ縮小前と変わらないため、ジャンピング、すなわち歯とびが起こりやすくなる。ジャンピング防止能力を向上させる手段として、プーリ歯形をベルト歯形より小さくしたり、あるいは、プーリの歯先半径を小さくして噛み合い干渉を大きくしたりする方法があるが、そのような手段を採ると、逆に速度ムラが増大してしまう。
【0005】
そこで本発明では、十分なジャンピング防止能力を維持しながら速度ムラを抑える歯付ベルトおよび歯付ベルトを使用したベルト伝動装置を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のベルト伝動装置は、少なくとも内周面にベルト歯と歯底部とが交互に形成される歯付ベルトと、歯付ベルトと噛み合うようにプーリ歯と歯溝部とが交互に形成され、歯付ベルトが掛け回される原動プーリおよび従動プーリとを備えたベルト伝動装置であり、歯付ベルトは原動プーリと従動プーリの周りに掛け回される。事務機器などにおいて実施される、本発明のベルト伝動装置に適用される歯付ベルトの歯形は、いわゆるHTD−II歯形(例えば、特開昭59−89852号公報参照)を基礎として改良された歯形であり、ベルト歯の断面形状は、3つの円弧からなる連続的な曲線であって、ベルト厚さ方向に沿ったベルト歯の中心線に対して線対称な複合円弧形状である。中心線を境にしてベルト歯の断面形状を分けた場合、ベルト歯の片側の輪郭線は、ベルト歯の歯元部分の凹型形状で第1の半径を有するとともにベルト歯の外部に第1曲率中心のある第1の円弧と、ベルト歯の歯元部分と歯先部分との間の凸型形状で第2の半径を有するとともに中心線に対して反対側に第2曲率中心のある第2の円弧と、ベルト歯の歯先部分の凸型形状で第3の半径を有するとともに中心線上に第3曲率中心のある第3の円弧とによって形成される。中心線Yを境に線対称であることから、ベルト歯の複合円弧形状は、一対の第1、第2および第3の円弧が連続的に繋がることによって形成される。ただし、ここでの円弧の凹凸形状は、ベルトの背面から見た凹凸を表す。また、第2の円弧は、ベルトが回されているときに負荷、すなわち圧力が重点的にかかるベルト歯の圧力面(ベルト歯の歯元と歯先の間にある表面部分)に対応する円弧である。
【0007】
噛み合いに起因する速度ムラは、ベルトが回されている間、ベルトの歯がプーリと噛み合う時の多角形作用によりベルトが振動することによって発生する。この速度ムラを解消するため、一般的に多角形作用を抑えるため小ピッチ化が計られる。事務機器などで使用される歯付ベルトのピッチは、3mm以下であり、1.5mm、1mmのピッチの歯付ベルトなども使用されている。従来において、これら小ピッチのベルト歯の形状は、ピッチが大きい(5mm、8mmなど)ベルト歯の歯形をそのまま縮小することによって形成されていた。しかしながら、ピッチを3mm以下、特に、ピッチを1.5mm〜1.0mmの間、あるいは1mm以下まで縮めていくと、ベルト歯にかかる負荷に対応できず、歯とびが起こりやすくなる。すなわち、ジャンピング防止能力が低下する。
【0008】
プリンタのキャリッジ等に使用される小ピッチの歯付ベルトにおいては、比較的負荷の小さい条件下で使用されるため、今まで歯とびについてはそれほど考慮されずに歯形が定められていた。しかしながら、ピッチが小ピッチ、特に1mm付近の極小ピッチに近づいてくると、歯とびが無視できなくなる。本発明の歯付ベルトの歯形は、小ピッチの歯が並ぶ歯付ベルトにおいて、歯とび防止を考慮して形成されたものである。ピッチが約3mm以下のベルト歯において、歯高さと歯幅との比を示す縦横比は、0.69以上0.90以下の範囲内のいずれかの値に定められる。ここで、歯底部のランドラインと平行であって一対の第1曲率中心の間を結ぶ直線とベルト歯の輪郭線との一対の交点間の距離を「歯幅」として規定し、また、ランドラインからベルト歯の歯先先端であるベルト歯頂点までの距離を「歯高さ」として規定する。
【0009】
上記の一対の第1曲率中心を結ぶ直線は、ランドラインから第1の半径の距離までの位置にあり、歯幅は、この直線上に沿って歯幅が定められる。そのため、縦横比の値は、第1の円弧の形状に起因して変化することはほとんどなく、第2の円弧、第3の円弧形状によって変化する。本発明における縦横比は、上記の範囲(0.69〜0.90)を満たすように、主に第2の円弧、第3の円弧が所定の形状に定められる。ただし、縦横比の上限値0.90は、連続的な線対称の複合円弧形状が形成可能であるときの限界値を示す。縦横比の値を、0.69〜0.90の範囲に定めた場合、第2の円弧、第3の円弧形状は、第2の半径と第3の半径との比(以下では、円弧比という)が1.90〜5.00の範囲内に収まるように形成するのが好ましい。この円弧比の制限は、従来のHTD−II歯形の断面形状に比べて極端に異なった形状を排除し、従来の歯形によって得られる性能を失わないようにするため設定される。
【0010】
従来の小ピッチである歯付ベルトの縦横比は、いずれも0.69より小さい値であり、0.65以下のものが多数である。これは、8mm、5mmなどの比較的ピッチが大きいベルト歯の形状が高負荷、耐磨耗性(耐久性)を考慮して主に圧力面の形状等により定められ、縦横比をパラメータとして形状が定められておらず、そのような歯形を縮小することによって小ピッチベルト歯の断面形状を形成していることに起因する。本発明によれば、縦横比、すなわち歯幅に対する歯高さは、従来の歯形をピッチが等しくなるように縮小(あるいは拡大)したときの歯高さに比べて大きい。したがって、ベルト歯がジャンプ、すなわちベルト歯の歯先部分がプーリの歯先部分を乗り越えることが困難となり、小ピッチのベルト歯においてもジャンピング能力が低下せず、歯とびが抑えられる。なお、ベルト歯と噛み合うプーリ溝の形状に関しても、上記の縦横比を有するベルト歯と噛み合うように形状が定められている。
【0011】
複合円弧形状の中で縦横比が0.69〜0.90を満足する円弧形状はいくつも存在するが、従来のベルト歯の複合円弧断面形状をできるだけ利用し、かつ、ジャンピング防止能力のある縦横比のある断面形状に定めるため、以下のような方法によってベルト歯の断面形状を定めることが好ましい。すなわち、第1のピッチで並ぶベルト歯の断面形状を形成する好ましい方法として、まず、第1のピッチより大きい第2のピッチで並ぶ原形ベルト歯の断面形状であって、第1の円弧と相似関係にある歯元円弧と、曲率中心が原形ベルト歯のランドライン上にある圧力面円弧と、原形ベルト歯の中心線上に曲率中心点のある歯先円弧とによって形成される連続的な複合円弧形状を、相似関係を維持しながら第2ピッチが第1ピッチとなるまで縮小させる。この第2ピッチで並ぶ原形ベルト歯が並ぶ歯付ベルトを上記のHTD−II歯形に対応させた場合、原形ベルト歯の縦横比は、0.50〜0.68の範囲にある。
【0012】
次に、この縮小したベルト歯の断面形状に基いて、本発明のベルト歯断面形状を形成する。まず、中心線上にあって歯高さを規定するベルト歯頂点の位置を、縮小された原形ベルト歯の頂点とは異なる所定の位置に定める。このときベルト歯頂点の位置は、原形ベルト歯の頂点より(ベルト背面から歯の頂点方向に向かって)高い位置に定められる。ベルト歯頂点の位置を定めると、ベルト歯頂点の位置に基いて第3の半径を所定の大きさに設定する。そして、設定された第3の半径による歯先円を定めたときに、縮小された歯元円弧と歯先円それぞれに接する円弧を規定する。この円弧が第2の円弧として定められ、また、3つの円弧の境界点となる2つの端点が定められることにより、縮小された歯元円弧の一部と歯先円弧の一部がそれぞれ第1の円弧、第3の円弧に定められる。ただし、縦横比が0.69〜0.90を満たすことを必要とする。
【0013】
あるいは、原形ベルト歯が第1のピッチよりも小さい第2ピッチで並ぶ歯付ベルトを利用して、ベルト歯断面形状を形成するようにしてもよい。この場合、原形ベルト歯の断面形状を第1ピッチまで相似的に拡大する。
【0014】
上述したように、小ピッチで並ぶベルト歯の断面形状を設計する場合、一般的には大きなピッチであるベルト歯の断面形状を縮小、あるいは拡大した形状に基いて歯形を決定する場合が多い。このとき、さらなる歯付ベルトの性能を上げるために歯形が改良される場合があるが、ジャンピング防止能力を低下させないように歯形を定めることはほとんど行われない。逆に、噛み合いに起因する速度ムラを抑えるためにジャンピング能力を低下させるような歯形を定めてしまう場合がある。一方、上記に示したやり方でベルト歯の断面形状を形成する場合、まず、ジャンピング防止能力に最も重要な因子となるベルト歯の頂点位置を変更する。したがって、従来の複合円弧形状を利用して、容易に本発明によるジャンピング防止能力の優れたベルト歯の断面形状が形成される。
【0015】
さらに、原形ベルト歯の複合円弧形状を最大限利用して本発明のベルト歯の断面形状を規定するには、以下のようなやり方でベルト歯の断面形状を形成することが好ましい。すなわち、上記に示したように、まず、第1のピッチより大きい第2のピッチで並ぶ原形ベルト歯の断面形状を第1のピッチまで相似的に縮小する。つぎに、ベルト歯の中心線上にあって歯高さを規定するベルト歯頂点の位置を、縦横比の値を満たすように、縮小された原形ベルト歯の頂点とは異なる所定の位置に定める。そして、縮小された圧力面円弧と接するように、ベルト歯頂点の位置に従って第3の円弧となる円弧を規定する。この断面形状では、縮小された歯元円弧がそのまま第1の円弧となるとともに、縮小された圧力面円弧の一部が第2の円弧となるため、従来の歯形による性能が発揮される。あるいは、上述したように、原形ベルト歯が第1のピッチよりも小さい第2ピッチで並ぶ歯付ベルトを利用して、ベルト歯断面形状を形成するようにしてもよい。
【0016】
以上においてジャンピング防止能力を維持するためベルトの歯の断面形状を示したが、さらに、プーリにおけるプーリ歯、歯溝部の形状をジャンピング防止能力の優れた形状にするため、バックラッシ量は、0.000mmより大きく0.020mmより小さい範囲のいずれかの値であることが好ましい。ここでは、ベルト歯における第2の円弧の中間地点(第1の円弧と第2の円弧の境界点と第2の円弧と第3の円弧の境界点との間)の接線と、プーリの歯溝部においてベルト歯の第2の円弧に対向する部分となるプーリ圧力面円弧との隙間をバックラッシの量として定義する。従来ではバックラッシ量を0.020mm以上としている場合が多く、バックラッシ量を小さくする、すなわちベルト歯の圧力面形状がより近似(密接)することでジャンピング防止能力が向上するとともに、速度ムラも減少する。0.00mm以下に定めない(ベルト歯を歯溝部より大きくしない)ため、バックラッシ量を小さくすることで速度ムラが増加することもない。最も好ましいバックラッシ量は、0.005mmである。
【0017】
また、ベルト歯の歯高さを相対的に大きく、バックラッシ量を小さくしたことにより、プーリ歯の歯先部分とベルト歯の歯元部分が必要以上に干渉して速度ムラを増加させることがないようにするため、プーリ歯先半径から第1の半径を引いた値と第1の半径との比(以下では、歯元比という)が0.1以上であることが好ましい。ただし、プーリ歯先半径は、プーリ歯の歯先部分を形成する円弧の半径である。このような比に定めると、プーリ歯先円弧がより滑らかな(曲率が大きくない)曲線になる。
【0018】
プーリの歯溝の深さは、上記の縦横比を有するベルト歯と噛み合うように形成されるが、ジャンピング防止能力を向上させるため、プーリ歯溝の深さがベルト歯高さ以上であることが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下では、図面を用いて本発明の実施形態であるベルト伝動装置について説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態であるベルト伝動装置が利用されたプリンタのキャリッジ部分を示した側面図であり、図2は、そのキャリッジ部分を示した斜視図である。
【0021】
プリンタ10はキャリッジ部12を備え、キャリッジ部12にはインク射出口11aを有する印刷ヘッド11が一体的に設けられている。キャリッジ部12は、上下2本の平行なガイド棒15によって支持されており、これらガイド棒15の軸方向、すなわち矢印A方向に沿って移動可能である。また、キャリッジ部12は、2本のガイド棒15の間に設けられた歯付ベルト30に対して固定部材17により固定されている。
【0022】
エンドレスベルトである歯付ベルト30は、2つのプーリ、すなわち駆動プーリ16および従動プーリ18の周りに掛け回されており、従動プーリ18を駆動プーリ16から離間する方向には、一定の張力が付勢ばね19によって与えられている。駆動プーリ16および従動プーリ18は、プリンタ10本体に対して回転可能に支持され、また、駆動プーリ16はモータ14により回転駆動される。
【0023】
歯付ベルト30の内周面、すなわち歯面には、ベルト歯部34とベルト歯底部32とが交互に形成されている。一方、駆動プーリ16および従動プーリ18の外周面には、ベルト歯部34、ベルト歯底部32に対応する寸法形状をしたプーリ歯溝部24、プーリ歯部22が交互に形成される。このベルト歯部32、ベルト歯底部34とプーリ歯部22、プーリ歯溝部24との噛み合いにより、歯付ベルト30が回転する。歯付ベルト30が回転すると、キャリッジ部12は駆動プーリ16と従動プーリ18との間を往復運動し、これにより印刷用紙21に印字される。なお、本実施形態におけるベルト歯部34とベルト歯底部32の表面は、ナイロン製の織布(図示せず)に覆われており、また、歯付ベルト30の内部には、移動方向に沿ってアラミド繊維又はグラスファイバなどの心線(図示せず)が埋設されている。歯付ベルト30の原料ゴムとしては、例えばクロロプレンゴム、水素添加ニトリルゴムあるいはウレタンエラストマー等が用いられる。
【0024】
図3は、歯付ベルト30の一部を示した断面図である。
【0025】
図3に示すように、歯付ベルト30のベルト歯部34は円弧状の断面形状を有しており、歯付ベルト30の外周面、すなわち背面30Bから歯面30Fの方向に沿った中心線Yを基準にして左右対称な形状である。線対称なベルト歯部34の断面形状は、複数の円弧が連続的に繋がることによって形成されており、中心線Yを挟んでそれぞれ対になっている3つの円弧から構成される。ベルト歯部34は、3mm以下の所定のピッチPTで並んでいる。
【0026】
中心線Yを境にして片方の輪郭線(ベルト歯部34の歯元部分の端点A1から頂点である端点A4まで)KLについて説明すると、端点A1から端点A2の範囲にある第1の円弧BC1と、端点A2から端点A3の範囲にある第2の円弧BC2と、端点A3と端点A4の範囲にある第3の円弧BC3によって形成される。第1の円弧BC1は、曲率中心C1を中心とした第1の半径R1による凹状円弧であり、曲率中心C1はベルト歯部34の外部にある。第2の円弧BC2は、曲率中心C2を中心とした第2の半径R2による凸状円弧であり、中心C2は中心線Yに対して反対側であってベルト歯底部32の表面に沿ったランドラインLL上に位置する。そして、第3の円弧BC3は、曲率中心C3を中心とした第3の半径R3による凸状円弧であり、曲率中心C3は中心線Y上に位置する。ただし、各円弧の凹凸は、ベルト背面30Bの側から見た形を示す。ベルト歯部34の表面において、第1の円弧BC1は歯元部分の表面に、第3の円弧BC3は歯先部分の表面に対応する。また、第2の円弧BC2は、ベルト歯部34のいわゆる圧力面部分に対応する。以下では、第1の半径R1を“ベルト歯元半径R1”、第2の半径R2を“圧力面半径R2”、第3の半径R3を“ベルト歯先半径R3”として表す。
【0027】
ベルト歯部34の高さhは、ベルト歯底部32からベルト歯部34の頂点までの距離として規定され、中心線YとランドラインLLとの交点をOとした場合、交点Oから中心線Y上にある頂点(端点)A4までの距離に相当する。一方、ベルト歯部34の幅を定義するため、中心線Yに関して第1の円弧BC1の曲率中心C1に対称な位置にある点を「C1”」とし、曲率中心C1、C1”とを結ぶ線BBLを引く。線BBLとランドラインLLは実質的に平行関係にあり、線BBLとベルト歯部34の輪郭線との交点をそれぞれ「AA」、「BB」と定めると、AAからBBまでの距離がベルト歯部34の幅aとして定められる。本実施形態において、歯高さhと歯幅aとの比、すなわち縦横比「h/a」は、以下の式を満たすように定められる。
0.69 ≦ h/a ≦ 0.90 ・・・・(1)
【0028】
図4は、実施化されている従来のベルト歯部(原形のベルト歯部)を有する歯付ベルトのベルト歯部断面形状と図3に示した本実施形態の歯付ベルトのベルト歯部断面形状とを合わせて示した断面図である。図4を用いて、本実施形態におけるベルト歯部の断面形状の特徴について説明する。
【0029】
図4では、ピッチの大きさが本実施形態と異なるベルト歯部の断面形状が示されている。従来(以下では、原形という)のベルト歯部134は、図3に示した本実施形態のベルト歯部34のピッチPT(第1のピッチ)よりも大きいピッチSP(第2のピッチ)で並んでおり、ベルト歯部134の断面形状は、ベルト歯部34と同じように中心線Y”に関して線対称であり、3つの円弧からなる連続的な複合曲線形状となっている。ここでは、3つの円弧を、それぞれ歯元円弧BSC1、圧力面円弧BSC2、歯先円弧BSC3と表し、さらに、各円弧の半径を、それぞれ“歯元半径SR1”、“圧力面半径SR2”、“歯先半径SR3”と表す。また、3つの円弧の端点をそれぞれ端点SA1、SA2、SA3、SA4、各円弧の曲率中心をそれぞれSC1、SC2、SC3と表し、ベルト歯部134の高さ、幅をそれぞれ“a0”,“h0”と表す。
【0030】
本実施形態では、ピッチPTより大きく、かつ最もピッチPTに近いピッチSPで並ぶベルト歯部134の断面形状を相似的に縮小したものを利用して、ベルト歯部34の断面形状が規定される。図4では、原形のベルト歯部134を、ピッチPTまで相似関係を維持するように縮小したベルト歯部134”の断面形状が破線で示されている。この縮小したベルト歯部134”の断面形状において、原形のベルト歯部134における歯幅a0、歯元半径SR1、圧力面半径SR2、歯先半径SR3、端点SA1〜SA4、曲率中心SC1〜SC3に対応する部分を、それぞれ、歯幅a0”、歯元半径TR1、圧力面半径TR2、歯先半径TR3、端点TA1〜TA4、曲率中心TC1〜TC3と表す。
【0031】
同一のピッチPTで表される本実施形態のベルト歯部34と縮小された原形のベルト歯部134”とを比較して見てわかるように、ベルト歯部34のベルト歯元半径R1、圧力面半径R2は、縮小されたベルト歯部134”の歯元半径TR1、圧力面半径TR2と等しく、端点A1、A2、曲率中心C2の位置は、それぞれ端点TA1、TA2、曲率中心TC2の位置と一致する。したがって、ベルト歯部34の歯幅a0とベルト歯部134”の歯幅a0”は等しい。
【0032】
一方、本実施形態のベルト歯部34のベルト歯先半径R3の大きさおよびベルト歯先半径R3の曲率中心C3の位置は、ベルト歯部134”の歯先半径TR3およびその曲率中心TC3の位置と異なり、ベルト歯部34の第2の円弧BC2と第3の円弧BC3の境界点である端点A3の位置も、ベルト歯部134”の端点TA3と異なる。したがって、ベルト歯部34の歯高さhは、ベルト歯部134”の歯高さh0”より大きい。ここでは、歯高さの差を歯高差Δhとして表す。
【0033】
図4に示された従来のベルト歯部134は、いわゆるHTD−II歯形のベルト歯である。圧力面円弧SR2の曲率中心SC2はベルト歯部134のほぼランドラインLL”上にあり、縦横比は0.69より小さい値の範囲にある。また、歯元半径SR1の大きさは、ピッチSPに対しておよそ0.05〜0.15倍の範囲内の大きさとなる。本実施形態では、ベルト歯部34の断面形状は、以下のように規定される。まず、従来のベルト歯部134をピッチPTまで相似関係を維持しながら縮小させたとき、歯高さがより大きくなるように、ベルト歯34の頂点となる端点A4の位置を頂点TA4の位置とは異なる位置に定める。ただし、頂点TA4は、縮小前の頂点SA4に対応する点である。そして、中心線Y上に曲率中心C3があって、頂点A4を通り、縮小された圧力面円弧BSC2に接する円弧が規定される。この円弧が第3の円弧BC3となり、規定された円弧の半径がベルト歯先半径R3と定められる。縮小された歯元円弧BSC1はそのまま第1の円弧BC1となっており、縮小された圧力面円弧BSC2の一部もそのまま第2の円弧BC2となっている。端点A3では、第2の円弧BC2、第3の円弧BC3は連続的につながっている。
【0034】
このように、本実施形態では、(1)式を満たすように第3の円弧BC3の形状が様々な形に定められる。第3の円弧BC3を変えながらベルト歯部34の断面形状が規定されるとき、圧力面半径R2とベルト歯先半径R3の比(円弧比)「R2/R3」の値は断面形状によって変わる。円弧比「R2/R3」が大きい場合、第3の円弧BC3、すなわち歯元部分の円弧が相対的に小さくなることを示し、逆に円弧比R2/R3が小さい場合、第3の円弧R3、すなわち歯先部分の円弧が相対的に大きくなることを示す。本実施形態では、縦横比h/aが0.69〜0.90の範囲にある条件において、円弧比R2/R3の範囲は、1.90以上5.00以下の範囲に定められる。
【0035】
図5は、原動プーリ16あるいは従動プーリ18において歯付ベルト30と噛み合うプーリ歯溝部24、プーリ歯部22の断面形状を示した図である。図5では、ベルト歯部34の輪郭線は破線で表され、原動プーリ16(従動プーリ18)の外周面の輪郭線は実線で表されている。
【0036】
歯付ベルト30のベルト歯部34に対応した寸法形状を有する原動プーリ16(従動プーリ18)のプーリ歯溝部24において、プーリ歯部22の歯先面の輪郭線に沿った線を外周線OLと定めると、ベルト歯部34の中心線Y上にある原点Oは外周線OL上に位置し、原点Oの位置でベルト歯部34のランドラインLLと交差する。
【0037】
プーリ歯溝部24の断面形状は、ベルト歯部34と係合する(噛み合う)ように定められている。また、歯付ベルト30を原動および従動プーリ16、18と噛み合わせたとき、ベルト歯部34において第2の円弧BC2に応じた圧力面とプーリ歯溝部24におけるその圧力面に対応する伝動面との間には、所定量のバックラッシBLがある。ただし、バックラッシBLの値は、ベルト歯部34の第2の円弧BC2における中間点での接線TLと、その中間点に対応するプーリ歯溝部24の輪郭線PL上の点PAにおける接線HLとの間の距離によって定められる。本実施形態では、バックラッシュBLの値は、次式に示す範囲内に定められる。たただし、バックラッシBLの大きさが0以下であることは、ベルト歯部34の圧力面と歯溝部24の動力面において、ベルト歯部34の大きさがプーリ歯溝部24の大きさ以上であることを意味する。
0.000< BL < 0.020 (mm) ・・・(2)
【0038】
プーリ歯部22の歯先部分における輪郭線は、ベルト歯部34の歯元に対応した形状であって、曲率中心C4の半径R4による第4の円弧BC4によって形成される(以下では、この半径R4をプーリ歯先半径R4という)。本実施形態では、プーリ歯先半径R4からベルト歯元半径R1を引いた値とベルト歯元半径R1との比(歯元比)「(R4−R1)/R4」は、以下の式を満たす。
(R4−R1)/R4 ≧ 0.10 ・・・・(3)
この式は、ベルト歯元半径R1に比べてプーリ歯先半径R4の値が相対的に大きいことを示し、プーリ歯部22の歯先部分は比較的滑らかな(カーブがきつくない)曲線によって形成される。(2)式に従うことによってバックラッシBLは比較的小さい値に設定されるが、プーリ歯先部分が滑らかな曲線であるため、ベルト歯部34とプーリ歯溝部24とがベルトの歯元(プーリの歯先)部分において速度ムラを増加させるような干渉を起こす(当接する)ことがない。
【0039】
また、本実施形態では、プーリ溝部24の溝深さPhがベルト歯部34の歯高さh以上となるように定められており、図4では、プーリ歯溝部24の溝深さPhと歯高さhは実質的に等しい。
【0040】
次に、図6を用いて、第2の実施形態について説明する。ジャンピング防止能力を向上させる形状を定める場合、歯幅に対するベルト歯高さの大きさ、すなわち縦横比は重要なパラメータとなる。そこで、第2の実施形態では、縦横比がジャンピング防止効果をもつ範囲内に設定される条件の下で、第3の円弧の形状とともに第2の円弧の形状を変形させる。なお、第1の実施形態と対応する構成部分の符号はそのまま同じ符号が用いられる。
【0041】
図6は、従来(原形)のベルト歯部の断面形状と第2実施形態のベルト歯部の断面形状とを比較した図である。なお、第2のプーリ16、18のプーリ歯溝部24、プーリ歯部22の形状は、第2の実施形態において定められるベルト歯部34の断面形状に対応するよう形成されるとともに、第1の実施形態と同様、バックラッシ、プーリ歯先半径が(2)、(3)式を満たすように規定される。
【0042】
図6では、ピッチSPのベルト歯部134の形状を相似的に縮小させたピッチPTのベルト歯部134”の断面形状が示されており、第2実施形態のベルト歯部34の断面形状の1つが2点鎖線で示されている。ジャンピング防止能力を向上させる歯の断面形状、すなわち第1、第2、第3の円弧の形状を定めるため、まず歯高さhを定める。このとき、縦横比h/aは、第1の実施形態と同様に、(1)式を満たす値に定められる。すなわち、0.69以上0.90以下の範囲内の値である。歯高さhは、従来のベルト歯部134を縮小したときの歯高さh0”よりも大きくすればよいが、このとき、歯高さhの上限値が定められる。上限値は、複合円弧形状が形成されるための限界値であり、これ以上大きいとそれぞれ対になっている3つの円弧によってベルト歯部34の断面形状を構成することができない。さらに、図6に示したベルト歯部34の歯高さhは、原動および従動プーリ16、18の歯溝部24の成形を考慮して上限値が定められており、ベルト歯部34の頂点A4の位置は、原形のベルト歯部134の頂点SA4と同じ位置に定められる。このとき、歯高さhは、原形のベルト歯部134の歯高さh0と等しい。
【0043】
ジャンピング防止能力が主に歯高さhによって左右されることを考慮すれば、ベルト歯部34の歯形は、図6に示した形状以外の断面形状であって、始点A1を通って歯高さhの頂点A4を通る任意の連続的な複合円弧形状であればよい。ただし、プーリ歯溝部24との噛み合いを考慮し、また、従来のHTD−II歯形を基にしてベルト歯部34の断面形状を形成するため、ベルト歯元半径R1、すなわち第1の円弧BC1は実質的に変化させないのが好ましい。したがって、圧力面半径R2とベルト歯先半径R3に応じた第2の円弧BC2および第3の円弧BC3の形状を変化させることによって様々なベルト歯部34の断面形状が定められる。言い換えれば、圧力面半径R2とベルト歯先半径R3との比を変えることにより、様々な断面形状が規定される。このとき、第1の円弧BC1および第2の円弧BC2の境界となる端点A2と第2の円弧BC2と第3の円弧BC3の境界となる端点A3の位置は、第2および第3の円弧BC2、BC3の形状によって変わる。
【0044】
そこで、本実施形態では、第3の円弧BC3の形状を優先的に決めるため、まずベルト歯先半径R3を所定の大きさに定め、そのベルト歯先半径R3に基いて第1、第2および第3の円弧BC1、BC2、BC3を形成する。ただし、3つの円弧BC1、BC2、BC3を形成する際、端点A2では、第1の円弧BC1および第2の円弧BC2は連続的に接する(端点A2において接線が規定される)ことが必要であり、端点A3においても第2の円弧BC2および第3の円弧BC3が連続的に接することを満足させる必要がある。このような条件を満たすため、縮小された歯元円弧BSC1と、第3の円弧の曲率中心C3を中心として歯先半径R3を有するここでは図示しない円(以下では、歯先円という)とに接するように、第2の円弧BC2が定められる。第2の円弧が規定されることにより、端点A2、A3の位置が定められ、縮小された歯元円弧BSC1の一部となる第1の円弧BC1と、歯先円の一部となる第3の円弧BC3も定められる。このような仕方で形成される複合的円弧形状では、第3の円弧BC3における曲率中心C3の位置は中心線Yに沿って所定の位置に定められるが、圧力面半径R2の曲率中心C2の位置は、第1の実施形態と異なり、ランドラインLL上の位置に限定されない。第2の曲率中心C2は、中心線Yに関して反対側領域のいずれかの位置に定められる。
【0045】
第2、第3の円弧BC2、BC3を変えながらベルト歯部34の断面形状が規定されるとき、第1の実施形態と同じように、圧力面半径R2とベルト歯先半径R3の比(円弧比)「R2/R3」の値は断面形状によって変わる。円弧比「R2/R3」が大きい場合、第3の円弧BC3、すなわち歯元部分の円弧が相対的に小さくなることを示し、逆に円弧比R2/R3が小さい場合、第3の円弧R3、すなわち歯先部分の円弧が相対的に大きくなることを示す。本実施形態においても、縦横比h/aが0.69〜0.90の範囲にある条件において、円弧比R2/R3の範囲は、1.90以上5.00以下の範囲に定められる。
【0046】
なお、第1および第2の実施形態では、原形のベルト歯の断面形状を縮小した形状に基いてジャンピング防止能力の優れたベルト歯断面形状を形成しているが、逆に、ピッチの小さい原形のベルト歯断面形状をピッチPTまで拡大するようにして、ベルト歯断面形状を形成してもよい。
【0047】
【実施例】
以下では、従来の歯付ベルトと比較しながら本発明の実施例である歯付ベルトについて説明する。まず、ジャンピング防止能力を向上させたベルト歯の断面形状として、第1の実施形態に応じたベルト歯部の断面形状を有する歯付ベルトを、従来実施化されているベルト歯部の断面形状を有する従来歯付ベルトと比較する。次に、第1の実施形態に応じたプーリ歯溝部、プーリ歯部の断面形状を有する本発明の実施例であるプーリを、従来のプーリ歯溝部、プーリ歯部の断面形状を有するプーリと比較する。なお、従来のベルト歯部およびプーリ歯溝部、プーリ歯部の断面形状は、HTD−II歯形に基く。
【0048】
(実施例1)
図7〜9を用いて、本実施例の歯付ベルトと従来例の歯付ベルトをそれぞれを原動および従動プーリの周りに掛け回し、そのときの速度変動率およびジャンピングトルクを測定した比較実験について説明する。
【0049】
図7には、従来例の歯付ベルトとして取り上げる歯付ベルトB1、B2と、本発明の実施例である歯付ベルトB3とが示されている。比較例の歯付ベルトB1、B2の歯のピッチはそれぞれ1.5mmと1.00mmであり、実施例の歯付ベルトB3のピッチは1.27mm(1/20インチ)である。実施例1の歯付ベルトBL1〜BL3は、第1の実施形態の歯付ベルトに対応しており、圧力面半径の曲率中心はランドライン上にある。
【0050】
ピッチが1.5mmの歯付ベルトB1におけるベルト歯元半径R1、圧力面半径R2、ベルト歯先半径R3の値は、それぞれ0.120mm、0.762mm、0.42mmであり、縦横比「h/a」は0.63569、円弧比「R2/R3」は1.814である。ピッチ1.0mmの歯付ベルトB2におけるベルト歯元半径R1、圧力面半径R2、ベルト歯先半径R3の値は、それぞれ0.141mm、0.470mm、0.259mmであり、縦横比「h/a」は0.68926、円弧比「R2/R3」は1.814である。また、歯付ベルトB1のバックラッシBLの値は0.020mmであり、歯付ベルトB2のバックラッシ量は0.000mmである。
【0051】
一方、ピッチが1.27mmである実施例の歯付ベルトB3におけるベルト歯元半径R1、圧力面半径R2、ベルト歯先半径R3の値は、それぞれ0.102mm、0.645mm、0.324mmであり、縦横比「h/a」、円弧比は、それぞれ0.70448、1.99である。また、バックラッシBLの値は、0.005mmである。
【0052】
このような寸法形状を有するベルトB1、B2、B3を原動および従動プーリに掛け回し、速度変動率、およびジャンピングトルクを測定した。速度変動率はベルトの速度のずれを表し、従来知られているように、ベルト背面にレーザ光線を当て、ドップラー効果を利用してベルトの速度変動率を検出する。ただし、従来例の歯付ベルトB1、B3では、従来の断面形状を有するプーリが使用され、実施例の歯付ベルトB2では、歯付ベルトB2に対応し、実施形態に記載された断面形状、バックラッシを有するプーリが使用される。このとき、ピッチPTが1.5mmの場合にはプーリ歯先半径R4は、0.13mmであり、ピッチPTが1.27mmの場合にはプーリ歯先半径R4は、0.11mmである。
【0053】
図8は、歯付ベルトB1、B2、B3それぞれの速度変動率を示したグラフである。横軸はベルト歯部のピッチを表し、縦軸は、グラフの左側では速度変動率(%)、右側では縦横比「h/a」を表す。
【0054】
通常、歯のピッチが大きくなると、速度変動率が大きくなる。実験の結果、ピッチが1.5mmである歯付ベルトB1の速度変動率は0.09(%)、ピッチが1.0mmの歯付ベルトB2の速度変動率は0.02(%)であった。図6では、従来の歯付ベルトが平均縦横比の値である場合に、ピッチを変化させていったとき速度変動率のとる値の予測線KP1が示されている。ただし、平均縦横比は、歯付ベルトB1と歯付ベルトB2の縦横比の略平均値を表し、ここではおよそ0.65である。
【0055】
速度変動率の予測線KP1によれば、従来の歯付ベルトのピッチを1.27mmと仮定したとき、縦横比「h/a」が平均縦横比(=0.65)の値であれば、速度変動率はおよそ0.06(%)になる。しかしながら、ピッチが1.27mm、縦横比「h/a」が0.70448である本実施例の歯付ベルトB3の場合、速度変動率はおよそ0.015(%)であった。この速度変動率の大きさは、従来の歯付ベルトのピッチが同じ1.27mmであった場合に予測される速度変動率よりも小さい。すなわち、速度ムラがより低減されている。
【0056】
図9は、歯付ベルトB1、B2、B3それぞれのジャンピングトルクを示したグラフである。横軸はベルト歯のピッチ(mm)を表し、縦軸は、グラフの左側においてジャンピングトルク(N・cm)、右側において縦横比「h/a」を表す。ジャンピングトルクは、ジャンピング(歯とび)するときのトルク量を表しており、従来知られている方法で計測されている。すなわち、回転している従動プーリにブレーキをかけると、歯付ベルトは回転し続けようとしてプーリにトルクがかかる。そして、ベルトが回り続けようとする力が次第に大きくなり、最終的にジャンピングが起こったときの従動プーリにかかっていたトルク量を計測する。
【0057】
通常、歯付ベルトのピッチが大きくなるほど、ジャンピングトルクの値も大きくなる。すなわち、ピッチが大きいほどジャンピング防止能力が向上する。実験の結果、ピッチ1.5mmである歯付ベルトB1のジャンピングトルクは20.0(N.cm)、ピッチ1.0mmである歯付ベルトB2のジャンピングトルクは16.0(N.cm)であった。図13では、従来の歯付ベルトが平均縦横比の値である場合にピッチを変えていったときのジャンピングトルクのとりうる値の予測線KP2が示されている。
【0058】
ジャンピングトルクの予測線KP2によれば、従来の歯付ベルトのピッチを1.27mmと仮定したとき、縦横比「h/a」が平均縦横比(=0.65)の値であれば、ジャンピングトルクはおよそ17.5(N・cm)になる。しかしながら、ピッチが1.27mm、縦横比「h/a」が0.70448である本実施例のベルトB3の場合、ジャンピングトルクはおよそ19.0(N・cm)であった。このジャンピングトルクの値は、従来の歯付ベルトが同じ1.27mmのピッチであった場合に予測されるジャンピングトルクの値よりも大きい。すなわち、ジャンピング防止能力がより優れている。
【0059】
(実施例2)
図10は、本発明の実施例であるプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状と従来のプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状とを比較した図であり、図11は、それぞれの断面形状における速度変動率を示したグラフである。なお、使用される歯付ベルトは、実施例1に示されたベルトB3のベルト歯部を有する。
【0060】
図10では、実施例1で示したピッチPTが1.27mmである歯付ベルトB3におけるベルト歯部の断面形状TBとともに、従来例のプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状ST1および本実施例のプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状ST2がそれぞれ表されている。ベルト歯先半径R3など各寸法値は、実施例1で示した値と同じである。一点鎖線で示す従来例の断面形状ST1では、バックラッシBLの量が0.020mmであり、一方、本実施例の断面形状ST2(破線参照)は、バックラッシ量が0.005mmである。ただし、バックラッシBLの量は、第1の実施形態で示した定義によって測定される。また、プーリ歯先半径R4は、0.11mmである。ここでは、従来例、および本実施例のプーリに対してそれぞれ所定の張力(=3.9N)で張られた歯付ベルトB3を掛け回したときの平均的な速度変動率を計測した。その実験結果が、図11に示されている。
【0061】
図11に示すように、従来例のプーリ断面形状に比べ、本実施例のプーリ断面形状の方が、3.9Nの張力で張られた歯付ベルトを回したときの平均速度変動率が小さかった。したがって、本実施例のプーリ断面形状のほうが、速度ムラが抑えられる。
【0062】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、十分なジャンピング防止能力を維持しながら速度ムラを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態であるベルト伝動装置が利用されたプリンタのキャリッジ部分を示した側面図である。
【図2】キャリッジ部分を示した斜視図である。
【図3】歯付ベルトの一部を示した断面図である。
【図4】原形となる従来の歯付ベルトのベルト歯部断面形状と本実施形態の歯付ベルトのベルト歯部断面形状とを示した断面図である。
【図5】プーリ歯溝部、プーリ歯部の断面形状を示した図である。
【図6】従来のベルト歯部の断面形状と第2実施形態のベルト歯部の断面形状とを比較して示した図である。
【図7】従来例の歯付ベルトと、本発明の実施例である歯付ベルトを示した図である。
【図8】従来例の歯付ベルトと、本発明の第1の実施例である歯付ベルトそれぞれの速度変動率を示したグラフである。
【図9】従来例の歯付ベルトと、本発明の第1の実施例である歯付ベルトそれぞれのジャンピングトルクを示したグラフである。
【図10】第2の実施例であるプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状と従来例のプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状とを比較した図である。
【図11】第2の実施例であるプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状と従来例のプーリ歯部、プーリ歯溝部の断面形状それぞれの断面形状における速度変動率を示したグラフである。
【符号の説明】
16 駆動プーリ(原動プーリ)
18 従動プーリ
22 プーリ歯部(プーリ歯)
24 プーリ歯溝部(歯溝部)
30 歯付ベルト
32 ベルト歯底部(歯底部)
34 ベルト歯部(ベルト歯)
134 原形ベルト歯部(原形ベルト歯)
C1 曲率中心(第1の曲率中心)
C2 曲率中心(第2の曲率中心)
C3 曲率中心(第3の曲率中心)
R1 ベルト歯元半径(第1の半径)
R2 圧力面半径(第2の半径)
R3 ベルト歯先半径(第3の半径)
R4 プーリ歯先半径
BC1 第1の円弧
BC2 第2の円弧
BC3 第3の円弧
Y 中心線
LL ランドライン
KL 輪郭線
a 歯幅
h 歯高さ
A1 端点
A2 端点
A3 端点
A4 端点(ベルト歯頂点)
PT ピッチ(第1のピッチ)
SP ピッチ(第2のピッチ)
BSC1 歯元円弧
BSC2 圧力面円弧
BSC3 歯先円弧
BL バックラッシ

Claims (12)

  1. 少なくとも内周面にベルト歯と歯底部とが交互に形成される歯付ベルトと、
    前記歯付ベルトと噛み合うようにプーリ歯と歯溝部とが交互に形成され、前記歯付ベルトが掛け回される原動プーリおよび従動プーリとを備え、
    前記ベルト歯の断面形状が、ベルト厚さ方向に沿った前記ベルト歯の中心線に対して線対称な連続的複合円弧形状であって、
    前記中心線を境にした両輪郭線それぞれが、前記ベルト歯の歯元部分の凹型形状で第1の半径を有するとともに前記ベルト歯の外部に第1曲率中心のある第1の円弧と、前記ベルト歯の歯元部分と歯先部分との間の凸型形状で第2の半径を有するとともに前記中心線に関して反対側に第2曲率中心のある第2の円弧と、前記ベルト歯の歯先部分の凸型形状で第3の半径を有するとともに前記中心線上に第3曲率中心のある第3の円弧とによって形成され、
    前記ベルト歯のピッチがおよそ3mm以下であり、
    前記歯底部に沿ったランドラインと前記ベルト歯の歯先先端であるベルト歯頂点との間の距離で定められる歯高さと、前記ランドラインと実質的に平行であって、一対の前記第1曲率中心の間を結ぶ直線と前記両輪郭線との交点間距離で定められる歯幅との比である縦横比が、0.69以上0.90以下の範囲内のいずれかの値であることを特徴とするベルト伝動装置。
  2. 前記第2の半径と前記第3の半径との比が1.90以上5.00以下の範囲のいずれかの値であることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
  3. 第1のピッチで並ぶ前記ベルト歯の断面形状に関し、
    縦横比が0.69よりも小さく、前記第1のピッチより大きい第2のピッチで並ぶ原形ベルト歯の断面形状であって、前記第1の円弧と相似関係にある歯元円弧と、前記第2の円弧に対応するとともに曲率中心が前記原形ベルト歯のランドライン上にある圧力面円弧と、前記第3の円弧に対応するとともに前記原形ベルト歯の中心線上の所定の位置に曲率中心のある歯先円弧とによって形成される連続的複合円弧形状を、前記第1のピッチまで相似的に縮小し、
    前記ベルト歯頂点の位置を、縮小された前記原形ベルト歯の頂点とは異なる所定の位置に定め、
    前記ベルト歯頂点の位置に基いて前記第3の半径を所定の大きさに設定し、そして、
    縮小された前記歯元円弧と前記第3の半径による歯先円それぞれに接するように、前記第2の円弧となる円弧を規定することにより、前記第1、第2および第3の円弧からなる前記ベルト歯の断面形状が形成されることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
  4. 第1のピッチで並ぶ前記ベルト歯の断面形状に関し、
    縦横比が0.69よりも小さく、前記第1のピッチより小さい第2のピッチで並ぶ原形ベルト歯の断面形状であって、前記第1の円弧と相似関係にある歯元円弧と、前記第2の円弧に対応するとともに曲率中心が前記原形ベルト歯のランドライン上にある圧力面円弧と、前記第3の円弧に対応するとともに前記原形ベルト歯の中心線上の所定の位置に曲率中心のある歯先円弧とによって形成される連続的複合円弧形状を、前記第1のピッチまで相似的に拡大し、
    前記ベルト歯頂点の位置を、拡大された前記原形ベルト歯の頂点とは異なる所定の位置に定め、
    前記ベルト歯頂点の位置に基いて前記第3の半径を所定の大きさに設定し、そして、
    拡大された前記歯元円弧と前記第3の半径による歯先円それぞれに接するように、前記第2の円弧となる円弧を規定することにより、前記第1、第2および第3の円弧からなる前記ベルト歯の断面形状が形成されることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
  5. 第1のピッチで並ぶ前記ベルト歯の断面形状に関し、前記縦横比が0.69よりも小さく、前記第1のピッチより大きい第2のピッチで並ぶ原形ベルト歯の断面形状であって、前記第1の円弧と相似関係にある歯元円弧と、前記第2の円弧に対応するとともに曲率中心が前記原形ベルト歯のランドライン上にある圧力面円弧と、前記第3の円弧に対応するとともに前記原形ベルト歯の中心線上の所定の位置に曲率中心のある歯先円弧とによって形成される連続的複合円弧形状を前記第1のピッチまで相似的に縮小し、
    前記ベルト歯頂点の位置を、縮小された前記原形ベルト歯の頂点の位置とは異なる所定の位置に定め、そして、
    縮小された前記圧力面円弧と接するように、前記第3の円弧となる円弧を前記ベルト歯頂点の位置に従って規定することにより、前記第1、第2および第3の円弧からなる前記ベルト歯の断面形状が形成されることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
  6. 第1のピッチで並ぶ前記ベルト歯の断面形状に関し、前記縦横比が0.69よりも小さく、前記第1のピッチより小さい第2のピッチで並ぶ原形ベルト歯の断面形状であって、前記第1の円弧と相似関係にある歯元円弧と、前記第2の円弧に対応するとともに曲率中心が前記原形ベルト歯のランドライン上にある圧力面円弧と、前記第3の円弧に対応するとともに前記原形ベルト歯の中心線上の所定の位置に曲率中心のある歯先円弧とによって形成される連続的複合円弧形状を前記第1のピッチまで相似的に拡大し、
    前記ベルト歯頂点の位置を、拡大された前記原形ベルト歯の頂点の位置とは異なる所定の位置に定め、そして、
    拡大された前記圧力面円弧と接するように、前記第3の円弧となる円弧を前記ベルト歯頂点の位置に従って規定することにより、前記第1、第2および第3の円弧からなる前記ベルト歯の断面形状が形成されることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
  7. 前記ベルト歯が前記歯溝部と噛み合う時のバックラッシ量が0.000mmよりも大きく、0.020mmよりも小さい範囲内のいずれかの値であることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
  8. 前記プーリ歯の歯先部分におけるプーリ歯先円弧の半径であるプーリ歯先半径から前記第1の半径を引いた値と前記第1の半径との比が、0.1以上であることを特徴とする請求項7に記載のベルト伝動装置。
  9. 前記従動および原動プーリの前記歯溝部の深さが、前記ベルト歯の前記歯高さ以上であることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
  10. 少なくとも内周面にベルト歯と歯底部とが交互に形成される歯付ベルトであって、
    前記ベルト歯の断面形状が、ベルト厚さ方向に沿った前記ベルト歯の中心線に対して線対称な連続的複合円弧形状であって、前記中心線を境にした両輪郭線それぞれが、前記ベルト歯の歯元部分の凹型形状で第1の半径を有するとともに前記ベルト歯の外部に第1曲率中心のある第1の円弧と、前記ベルト歯の歯元部分と歯先部分との間の凸型形状で第2の半径を有するとともに前記中心線に関して反対側に第2曲率中心のある第2の円弧と、前記ベルト歯の歯先部分の凸型形状で第3の半径を有するとともに前記中心線上に第3曲率中心のある第3の円弧によって形成され、
    前記ベルト歯のピッチがおよそ3mm以下であり、
    前記歯底部に沿ったランドラインと前記ベルト歯の歯先先端であるベルト歯頂点との間の距離で定められる歯高さと、前記ランドラインと実質的に平行であって、一対の前記第1曲率中心の間を結ぶ直線と前記両輪郭線との交点間距離で定められる歯幅との比である縦横比が、0.69以上0.90以下の範囲内のいずれかの値であることを特徴とする歯付ベルト。
  11. 請求項10に記載の前記歯付ベルトと噛み合うようにプーリ歯と歯溝部とが交互に外周面に形成され、前記歯付ベルトが掛け回されることを特徴とする原動プーリおよび従動プーリ。
  12. 前記縦横比が、0.70以上0.90以下の範囲内のいずれかの値 であることを特徴とする請求項1に記載のベルト伝動装置。
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