JP3635912B2 - 永久磁石式回転電機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転子鉄心の内部に複数個の永久磁石を埋め込んだ回転子を備えた永久磁石式回転電機に関する。
【0002】
【従来の技術】
永久磁石式回転電機は、界磁極の磁束を永久磁石から得られ、誘導電動機に比べて高効率で制御も比較的容易であるので、1kW以下のブラシレス直流電動機として多く採用されている。
【0003】
永久磁石式回転電機においては、特開平6−339240 号公報に記載されているように、高トルク化及び高効率化を図った電動機が開発されている。これは次のような構成となっている。
【0004】
固定子は複数個のスロットを有し、これらのスロットに三相の固定子巻線が巻かれている。回転子は回転軸に回転子鉄心を嵌合固着したものである。回転子鉄心には、回転軸の垂直な断面が円弧状である永久磁石が複数個組み込まれている。固定子は回転子を取り囲み、固定子と回転子との間には所定のギャップがある。
【0005】
各永久磁石は凸部が回転軸側(中心側)に向くように配置されている。また、永久磁石はN極とS極が交互になるように着磁されている。この永久磁石の着磁は磁気異方性(磁気配向)を持たせ、磁気は1点に集中する。すなわち、磁気中心は1つである。この電動機は可変速運転を行うために120度通電のインバータで回転数制御を行っている。
【0006】
さらに、この永久磁石形回転機では、回転子鉄心は永久磁石を挿入するための打抜穴を開けた鋼板を多数積層して作られている。鋼板は、打抜穴が一致するように積層される。永久磁石回転子では、永久磁石を鉄心内部に確実に固定する必要がある。
【0007】
特開平7−322538 号は、回転子鉄心の内部に、弧状の永久磁石が凹部を回転軸側に向けて配置され、永久磁石と回転軸の間に永久磁石を回転子鉄心に固定するための押圧部が設けられている永久磁石式回転電機を記載する。この永久磁石式回転電機においては、永久磁石を回転子鉄心に固定するための押圧力が全て遠心力と同方向である。したがって、遠心力を支える回転子鉄心の部位は、永久磁石間のブリッジ部のみとなるため、回転数が数千回転の場合、ブリッジ部を厚くする必要があり、その分永久磁石が小さくなって、永久磁石から得られる磁束量が減少するという欠点がある。
【0008】
特開平9−9537 号は、回転子鉄心の内部に、磁石をV字型に配置した永久磁石形回転機を記載する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記したような従来の永久磁石式回転電機においては、永久磁石の磁気の配列によって様々なギャップ磁束分布が得られる。電動機のトルクは、固定子巻線に電流が流れている間だけ発生し、次の(1)式で表せる。
【0010】
T=m×K×B×Iq+(Lq−Ld)Iq×Id …(1)
T:電動機のトルク,m:電動機の相数,K:固定子巻線の巻線などに関係する定数,B:ギャップの磁束密度,Lq:q軸インダクタンス,Ld:d軸インダクタンス,Iq:q軸巻線電流,Id:d軸巻線電流
(1)式においてトルクを増大させるためには、固定子と回転子との間のギャップにおける磁束密度を大きくし、磁石の磁束を集中させることが必要である。
また、120度(電気角)通電する方式では、永久磁石が1極分として発生する磁束の120度(電気角)分だけがトルクとして作用するため、特開平6− 339240号の図3の斜線部で示される非通電区間、すなわち0度〜30度及び150度〜180度(電気角)の領域の磁束は無駄になっている。
【0011】
本発明の目的は、固定子と回転子との間のギャップ中に作用する永久磁石による磁束がより増加されて、駆動トルクがより大きい永久磁石式回転電機を提供することである。
【0012】
また、従来の構成の永久磁石式回転電機においては、磁束変化が連続的な表面磁石型と比較し、鉄部の補助磁極が存在するため磁束の変化が激しく、誘起電圧波形に高調波成分が存在し、波形が正弦波と比較し歪み波形となる。歪み波形は特にセンサレス制御を困難とするため、制御上の制約が多かった。
【0013】
本発明の他の目的は、誘起電圧の波形を正弦波に近くし、センサレス制御を容易にすると共に、電動機の駆動トルクを大きくし、小型化あるいは駆動効率向上を可能とする永久磁石式回転電機を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の特徴は、回転子鉄心の内部に埋め込まれた永久磁石が、回転軸に垂直な断面において弧状の形状を有し、複数の磁気中心を有し、かつ、弧状の凹部が固定子方向に向くように配置されていることにある。ここで、弧状の凹部が固定子方向に向くとは、内側回転型の永久磁石式回転電機においては、固定子は回転子の外側にあるから、弧状の凹部が外側方向を向く(凸部が回転軸方向を向く)ことであり、外側回転型の永久磁石式回転電機においては、固定子は内側にあるから、弧状の凹部が内側方向を向く(凸部が径方向外側を向く)ことである。
【0015】
本発明によれば、永久磁石の面積を大きくでき、固定子と回転子との間のギャップ中に作用する永久磁石による磁束密度を大きくすることができるので、駆動トルクをより大きくすることができる。また、ギャップ中に作用する永久磁石による磁束密度を大きくすることにより、永久磁石式回転電機を小型化あるいは駆動効率向上を可能とする。
【0016】
また、通電区間に対応する部分で、固定子と回転子との間のギャップ中に作用する永久磁石による磁束密度をより大きくすれば、非通電区間に対応する部分の磁束をより減らすことができ、駆動トルクをより大きくすることができる。
【0017】
本発明の他の特徴は、固定子のスロットピッチ角度をτs ,前記固定子のスリット幅角度をSとしたとき、回転子のポールピース角度θが、ほぼ、
θ=n×τs +A×S
(nは整数、Aはスロット部の磁束の流れに依存する0≦A≦1の定数、角度θ,τs およびSは機械角)
で示されることにある。
【0018】
この特徴によれば、誘起電圧波形が正弦波に近くなり、センサレス制御を容易とし、電動機効率を向上させることができる。
【0019】
スロットとは固定子巻線を巻くために固定子に設けられた溝であり、スロットピッチ角度とは、スロットピッチが回転軸を中心にして作る中心角である。スリットとはスロットの開口部であり、スリット幅角度とはスリットが回転軸を中心にして作る中心角である。ポールピースとは、回転子の鉄心のうち、永久磁石と回転子の外周との間の鉄心部分であり、ポールピース角度とは、ポールピースと永久磁石との境界が回転軸を中心にして作る中心角である。
【0020】
また、本発明の永久磁石式回転電機は、固定子の回りに回転子を配置した外側回転の永久磁石式回転電機としてもよく、上述した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
本発明の第1の実施例である三相4極の永久磁石式回転電機を説明する。図2は、永久磁石式回転電機の回転軸に垂直な断面図である。図1は、図2の永久磁石式回転電機の4極のうち、1極の部分を拡大して示したものである。図2において、固定子1は、24個のスロット3が形成された固定子鉄心2と、スロット3に挿入されたU相の固定子巻線U+ ,U- 、及びV相の固定子巻線V+ ,V- 、並びにW相の固定子巻線W+ ,W- とで構成されている。各スロット3は開口部4をもつ。開口部4はスリットとも呼ばれる。
【0022】
回転子6は、回転軸9と、回転軸9に嵌合固着された回転子鉄心7と、回転子鉄心7に挿入して組み込まれたフェライト製の永久磁石8を4個とで主に構成される。固定子1は回転子6を取り囲み、固定子1と回転子6との間には所定のギャップ5がある。
【0023】
回転子鉄心7のうち、永久磁石8と回転子6の外周との間の鉄心部分はポールピースと呼ばれる。
【0024】
回転軸9に垂直な永久磁石8の断面の形状は弧状で、弧の中心は、図1に示すようにa及びb点の2点である。永久磁石8は凹部が固定子方向を向くように回転子鉄心7に配置されている。隣り合う永久磁石8の極性が逆になるように、つまり4つの永久磁石8はN極とS極とが交互になるようにそれぞれ着磁されている。
【0025】
永久磁石8は図1に示すように、磁束がa,bの2カ所に集中するよう着磁されている。
【0026】
図5に示す永久磁石8は、曲率中心のずれた2つの弧状の断面を有する。隣り合う永久磁石8との間の距離、すなわち補助磁極の幅は、径方向の中間部で最小となり、中間部から外周側に向かってその距離が大きくなっている。
【0027】
例えば、出力1kw,半径112mmの電動機においては、2つの磁気中心点間の距離(図5でd1で示す)は1mm、隣り合う永久磁石との最小距離(図5でd2で示す)は2mm、中間半径部から離れるに従ってその距離が大きくなり最大値(図5でd4で示す)は約6mmとなっている。また、回転軸9の表面とは0.5mmの距離(図5でd3で示す)である。
【0028】
図2の回転子鉄心7は、硅素鋼板を多数枚積層して作られている。硅素鋼板には、永久磁石8を挿入するための孔7aと硅素鋼板を連結するリベットを押し入れる穴7bが形成されている。穴7bは、永久磁石8aよりも外周側に設けられている。
【0029】
図3に示すように、穴7aにリベットを押し入れると、穴7aより同心円状に押圧力Fが加わる。この押圧力Fは回転子6が回転することにより発生する遠心力Gと反対向きの力であり、永久磁石8aを強固に固定することができる。
【0030】
更に、図4に示すように、リベット12は端板13で固定されるので、遠心力Gを端板13で支えることができる。従って、遠心力を支える部位として、ブリッジ部以外にリベット及び端板でも支える構造であるので、強固に永久磁石を固定することができる。
【0031】
ここで、穴7bが永久磁石8よりも外周側にある回転子6について、永久磁石8が作る磁束の変化及び効率の変化を検討した。
【0032】
検討に用いた電動機は出力1kw,トルク0.19kg−m(一定)、定格回転数5000rpm の電動機である。図5に本実施例の電動機における磁束密度分布を示す。図6に磁性体のリベットを用いた場合の本実施例の電動機とリベットを永久磁石よりも回転軸側で押し入れた従来型の電動機(特開平7−322538 号の図6を参照)との回転数−効率特性の違いを示す。
【0033】
図5から、穴7aを永久磁石8よりも外周側に設けても磁束密度分布には余り影響ないことがわかる。図6から、磁性体のリベットを用いても、効率が劣化することはないことが明らかである。
【0034】
ただし、リベット12が回転子鉄心7と電気的に絶縁されていないと、回転子6の回転軸方向に大きな渦電流のループができるので、効率が低下する。従って、リベット12は回転子鉄心7と電気的に絶縁されているほうがよい。リベット12は絶縁体か、もしくは絶縁された磁性体がよい。
【0035】
図7に示す回転子6は、4つのポールピースに、それぞれ2つずつ穴7bを設け、磁性体のリベット12と非磁性体のリベット14を対にして用いたものである。回転子6は1極の範囲では非対称であるが、回転子6の全周ではバランスがとれた回転電機である。
【0036】
次に、回転子6のポールピース、固定子1のスロットピッチおよびスリットのそれぞれの中心角の関係を図1を用いて説明する。
【0037】
回転子6のポールピースが回転軸を中心にして作る中心角(以下ポールピース角度と呼ぶ)θを、スロットピッチが回転軸を中心にして作る中心角(以下、スロットピッチ角度と呼ぶ)τs 、及びスリットが回転軸を中心にして作る中心角(以下、スリット幅角度と呼ぶ)Sで表すと、
θ=n×τs +A×S
(nは整数、Aはスロット部の磁束の流れに依存する0≦A≦1の定数、角度は機械角)
で示すような関係に設定されている。スロットピッチ角度τs が15度、スリット幅角度Sが6.7度のときに、特にn=3,A=0.7とするとポールピース角度θは49.7度となる。なお、実用的にはポールピース角度をθ=n×τs+A×S±1の範囲内で選択しても良い。
【0038】
誘起電圧の波形とポールピース角度θとの関係を明らかにするため、とポールピース角度θをθ=54.7,49.7,44.7 度と変化させた場合の誘起電圧波形を図8に示す。ただし、永久磁石8が回転軸を中心にして作る中心角φ=88.2度とスリット幅角度S=6.7度を一定とする。
【0039】
図8から、誘起電圧波形は、θ=54.7 度の場合は5つの山の凸波形、θ=44.7 度の場合は5つの谷の凹波形である。誘起電圧波形が正弦波に最も近くなるのはθ=49.7 度の場合である。正弦波に近いということを定量的に評価するため、誘起電圧波形が正弦波であれば、電気角90度におけるピーク電圧が実効値の√2倍であることより、波形狂い率=電気角90度における電圧/(電圧実効値×√2)と定義して値を求めた。凸波形は狂い率が1より大きくなり、凹波形は狂い率が1より小さくなる。狂い率が1に近いほど波形は正弦波に近いと言える。その結果を図9に示す。
【0040】
図9から、波形狂い率が1に近いのはθ=49.7 度の場合であり、本実施例で求めたθ,τs,Sの関係を持つ電動機の優位さが定量的に評価できる。
【0041】
次に、誘起電圧の波形と永久磁石8が回転軸を中心にして作る中心角φとの関係を明らかにするため、φ=88.2,78.2度と変化させた場合の誘起電圧波形を図10に示す。ただし、ポールピース角度θ=49.7 度とスリット幅角度S=6.7度を一定とする。φと波形狂い率との関係を図11に示す。
【0042】
図10から、φが変化しても誘起電圧波形の形はほとんど変化しないことがわかる。図11から、波形狂い率がほとんど同じことがわかる。従って、φは誘起電圧波形を変化させないことが明らかである。
【0043】
最後に、誘起電圧の波形とスリット幅角度Sとの関係を明らかにするため、スリット幅角度S=8.7,6.7,2.7 度と変化させた場合の誘起電圧波形を図12に示す。ただし、ポールピース角度θ=49.7度とφ=88.2度を一定とする。Sと波形狂い率との関係を図13に示す。
【0044】
図12から、Sが変化すると誘起電圧波形の形が変化することがわかる。図13から、波形狂い率が大きく変化することがわかる。従って、Sは誘起電圧波形と密接な関係があることが分かる。
【0045】
なお、スロットピッチτsが変化すると誘起電圧波形が変化する。確認のためスロットピッチτs=15,30で、他の条件は一定の場合の誘起電圧波形を図14に示す。図14から、スロットピッチτsが変化すると誘起電圧波形が変化することがわかる。
【0046】
以上より、誘起電圧波形を正弦波に近くするためには、ポールピース角度θが、スロットピッチ角度τs 及びスリット幅角度Sに対し、ほぼ、
θ=n×τs+A×S …(2)
(nは整数、Aはスロット部の磁束の流れに依存する0≦A≦1の定数、角度θ,τs およびSは機械角)
で示す関係を持つことが必要である。
【0047】
更に、スリット幅角度Sの誘起電圧波形変化への有効度を示す定数Aは、磁石の強さや、スロット形状により変化するが、磁石がフェライトの場合はA=0.7程度となる。
【0048】
一方、nであるが、誘起電圧波形とnは、
2n×τs+A×S<θ<(2n+1)×τs+A×S (nは整数)
の場合には、凹波形となり、他方、
(2n+1)×τs+A×S<θ<(2n+2)×τs+A×S (nは整数)
の場合には、凸波形となる。
【0049】
上記実施例において、τs =15度,A=0.7,S=6.7度として具体的に示すと、
4.7<θ<19.7 ・・・凹波形
19.7<θ<34.7 ・・・凸波形
34.7<θ<49.7 ・・・凹波形
49.7<θ<64.7 ・・・凸波形となる。
【0050】
誘起電圧のピーク値は、凹波形から凸波形に変化するときに階段状に増加するので、θが凹波形から凸波形に変化する条件、すなわちnが奇数の場合が有効である。
【0051】
このように構成された電動機は、従来と同様に、インバータ電源により給電される。U相が、V相及びW相の各相の隣接する固定子巻線(たとえば、U相のU1とU2,V相のV1とV2,W相のW1とW2)に120度位相をずらして通電する、いわゆる120度通電を行うことにより、固定子1による回転磁界が発生し、磁気的な吸引力及び反発力により回転子6が回転する。
【0052】
このとき、ギャップ5に作用する永久磁石8の磁束密度分布は、従来例よりも大きくかつ120度通電区間に集中するので、電動機効率が向上する。本実施例の電送機の磁束密度分布を図5に示す。
【0053】
本実施例と永久磁石の磁気中心が1点である従来例との、ギャップ5部の磁束密度分布の違いを図15に示す。
【0054】
図15から、本発明のギャップ5部の磁束密度の最大値は、0.485 テスラであり、永久磁石の持つ磁束密度0.375テスラの約1.3倍であることがわかる。しかし、従来例では約1.1 倍であり、本発明のほうが従来例よりも優れていることが分かる。また、本実施例の電動機の非通電区間の磁束密度は、従来例の非通電区間の磁束密度よりも小さく、磁束が120度の通電区間(図15の電気角30度〜150度)に集中していることが明らかである。
【0055】
図6に、本実施例と従来例との電動機効率の比較を示す。図6では本実施例,従来例とも電動機効率が最大となるような転流位相に制御する。図6から、本実施例は、特に低回転数において効率向上効果が大きいことがわかる。
【0056】
(実施例2)
図16に、本発明の第2の実施例である永久磁石式回転電機を示す。本実施例では、2つの磁気中心を持つV字型の永久磁石8aを用いている。永久磁石8aの凹部が固定子1側になるように配置している。
【0057】
この場合も、ギャップ5に作用する永久磁石8の磁束密度分布は、従来例よりも大きくかつ120度通電区間に集中しており、電動機効率が向上する。図6に、本実施例と従来例との電動機効率の比較を示す。図6から、第1の実施例(図1)の場合と同様に、特に低回転数において効率向上の効果が大きいことがわかる。すなわち、決められた回転子外径,軸長の中で、永久磁石の発生磁束量を最大にとれる形状が高効率となる。
【0058】
なお本発明は、120度通電以外の場合、たとえば180度通電でもよく、永久磁石の個数(極数)は4極以外でもよい。また、固定子のスロット数も24個以外でもよい。さらに永久磁石8はフェライト磁石以外でもよく、また、弧状であれば楕円の一部でもよいなど、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施できることは言うまでもない。
【0059】
ここで、第1の実施例で説明した弧状の永久磁石8を用いた電動機と、本実施例のV字型の永久磁石8aを用いた電動機を比較する。
【0060】
回転子鉄心7の内部に永久磁石が埋め込まれた永久磁石式回転電機のトルクは(1)式以外に次式(1′)でも表すことができる。
【0061】
T=ψIq+(Lq−Ld)Iq×Id …(1′)
T:電動機のトルク,ψ:永久磁石による磁束,Lq:q軸インダクタンス、 Ld:d軸インダクタンス,Iq:q軸巻線電流,Id:d軸巻線電流
(1)式において第1項は永久磁石の主磁束によるトルクで、永久磁石の回転軸側の表面積に比例する。第2項は隣り合う磁石との間の鉄心部の補助磁極によるリラクタンストルクで、隣り合う磁石との間の距離に比例する。回転子鉄心7の表面に永久磁石を配置した表面磁石型電動機のトルクは、第1項だけで、第2項を持たない。第1の実施例および本実施例のような磁石埋め込み型電動機のトルクは、第1項と第2項の両方を持つので、表面磁石型電動機よりも高効率となる。
【0062】
回転子鉄心のポールピース角度θを同じにして、弧状の永久磁石8を用いた電動機と、V字型永久磁石8aを用いた電動機とを比較すると、V字型永久磁石8aよりも永久磁石8の回転軸側の表面積が広い。従って、弧状の永久磁石8を用いた電動機のほうが、永久磁石が作る主磁束が大きいので、第1項によるトルクが大きい。
【0063】
隣り合う磁石との間の距離は、V字型永久磁石8aを用いた電動機の方が大きい。従って、V字型永久磁石8aを用いた電動機のほうが第2項によるリラクタンストルクが大きい。しかし、120度通電を行う場合、リラクタンストルクは発生しにくい。従って、120通電を行う場合は、弧状の永久磁石8を用いた電動機のほうがトルクが大きい。
【0064】
図17に、磁気中心がa,b,cの3点の場合を、図18にa,b,c,d,eの5点の場合の例を示す。本実施例では磁気中心を多くすることにより、磁束を発生する永久磁石の面積を増加させることができ、磁束の集磁効果が上昇し、ギャップ部の磁束密度を磁石の持つ磁束密度よりも高くすることができる。ただし、鉄損が増加するので、ギャップ磁束密度/磁石磁束密度の値には有効な区間が存在する。
【0065】
図19に、回転数が1000,3000,5000rpm の場合のギャップ磁束密度/磁石磁束密度と効率の関係を示す。図19から、ギャップ磁束密度/磁石磁束密度が1.2 より大きくなると、5000rpm の場合よりも3000rpm の場合の方が高くなって、鉄損の増加による効率悪化の傾向が現れ始める。ギャップ磁束密度/磁石磁束密度が1.5 より大きくなると、回転数が大きいにも関わらず、効率が低下し始める。したがって、ギャップ磁束密度/磁石磁束密度の比は1.2〜1.5が良い。
【0066】
回転数が1000,3000,5000rpm の場合の磁気中心の数と効率の関係を図20に示す。図20から、磁気中心が多いほど磁石の表面積が広くなって磁束が集中するので、効率が増加することがわかる。ただし、同じ固定子1を用いているので、鉄損の影響によって、高回転数の場合は磁気中心が2点のときが最も高効率となる。
【0067】
(実施例3)
図21に、本発明の永久磁石式電動機をエアコンディショナー用のスクロール圧縮機に適用した例を示す。まず全体構成を説明する。
【0068】
図21に示すスクロール圧縮機は、密閉容器21内の上部にポンプ部(圧縮機構部),下部に電動機部が収納されている。ポンプ部は、固定スクロール22,旋回スクロール23,フレーム24,オルダムリング31を主要構成要素としている。固定スクロール22の吸込口27には、外部サイクルに接続する吸込パイプ32が圧入されている。
【0069】
固定スクロール22と旋回スクロール23とで圧縮室26を形成している。
【0070】
旋回スクロールのボス部には、クランク軸25の偏心部25aが回転自在に嵌入されている。台板部の溝およびフレーム24の溝(図示せず)には、オルダムリング31が摺動自在に配設されている。フレーム24には、旋回スクロール23の台板を支持するための座面、オルダムリング31が摺動する面、およびクランク軸25を支えるスラスト面および主軸受けが設けられる。
【0071】
更に、フレーム外周部は固定スクロール22とボルト33により締結され、外周側面は、スポット溶接により密閉客器21に固定されている。クランク軸25には、電動機を構成するロータ30が嵌着されている。電動機を構成するステータ29は密閉客器21内に固定されている。36は、クランク軸25の下部を支持する軸受けである。
【0072】
本発明の永久磁石式電動機をスクロール圧縮機に適用すると、電動機効率がよいので、高い電力効率で熱交換を行うことができる。
【0073】
以上の実施例で説明した永久磁石式回転電機は、いずれも、固定子が回転子を取り囲む内側回転の永久磁石式回転電機である。しかし、回転子が固定子を取り囲む外側回転の永久磁石式回転電機に本発明を適用してもよい。ポールピース角度θ,スロットピッチ角度τsおよびスリット幅角度Sがθ=n×τs+A×Sの関係になるように、外側回転子に永久磁石を配置すると、外側回転の永久磁石式回転電機は、誘起電圧の波形を正弦波に近くし、センサレス制御を容易にすると共に、駆動トルクを大きくすることができる。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、永久磁石の面積を大きくでき、固定子と回転子との間のギャップ中に作用する永久磁石による磁束密度を大きくすることができるので、駆動トルクをより大きくすることができる。また、ギャップ中に作用する永久磁石による磁束密度を大きくすることにより、永久磁石式回転電機を小型化あるいは駆動効率向上を可能とする。
【0075】
また、通電区間に対応する部分で、固定子と回転子との間のギャップ中に作用する永久磁石による磁束密度をより大きくすれば、非通電区間に対応する部分の磁束をより減らすことができ、駆動トルクをより大きくすることができる。
【0076】
本発明の永久磁石式回転電機によれば、回転子の各永久磁石のポールピース角度θが、スロットピッチ角度τs 及びスリット幅角度Sとほぼ、
θ=n×τs+A×S
(nは整数、Aはスロット部の磁束の流れに依存する0≦A≦1の定数、角度θ,τs およびSは機械角)
で示す関係とすることにより、誘起電圧波形が正弦波に近くなり、センサレス制御を容易とし、電動機効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施例の永久磁石式回転電機の一部の断面図。
【図2】第1の実施例の永久磁石式回転電機の断面図。
【図3】回転子鉄心7における押圧力Fと遠心力Gを示す図。
【図4】回転子鉄心7を連結するリベット12を示す図。
【図5】回転子鉄心7の磁束密度分布を示す図。
【図6】実施例1,実施例2および従来例の効率を比較する図。
【図7】回転子鉄心7を連結する8本のリベット12を示す図。
【図8】ポールピース側角度θを変えた場合の誘起電圧波形を示す図。
【図9】永久磁石のポールピース側角度θと波形狂い率との関係を示す図。
【図10】φを変えた場合の誘起電圧波形を示す図。
【図11】φと波形狂い率との関係を示す図。
【図12】スリット幅角度Sを変えた場合の誘起電圧波形を示す図。
【図13】スリット幅角度Sと波形狂い率との関係を示す図。
【図14】スロットピッチτsを変えた場合の誘起電圧波形を示す図。
【図15】実施例1と従来例のギャップ部の磁束密度を比較した図。
【図16】第2の実施例である永久磁石式回転電機を示す図。
【図17】磁気中心が3点の2の永久磁石式回転電機を示す図。
【図18】磁気中心が5点の2の永久磁石式回転電機を示す図。
【図19】ギャップ磁束密度/磁石磁束密度と効率の関係を示す図。
【図20】磁気中心数と効率の関係を示す図。
【図21】本発明の電動機を利用したスクロール圧縮機の縦断面図。
【符号の説明】
a,b,c,d,e…磁束集中点、1…固定子、2…固定子鉄心、3…固定子スロット、4…固定子開口部、5…ギャップ、6…回転子、7…回転子鉄心、
8a…永久磁石、9…回転軸、θ…ポールピース角度、S…スリット幅角度、
τs …スロットピッチ角度。
Claims (1)
- 固定子と、回転子鉄心の内部に複数個の永久磁石が埋め込まれた回転子とを備える永久磁石式回転電機において、
前記永久磁石はそれぞれ、回転軸に垂直な断面において弧状の形状を有し、複数の磁気中心を有し、かつ、弧状の凹部が固定子方向に向くように配置され、前記固定子のスロットピッチ角度をτs,前記固定子のスリット幅角度をSとしたとき、前記回転子のポールピース角度θが、ほぼ、
θ=n×τs+A×S
(nは整数、Aはスロット部の磁束の流れに依存する0≦A≦1の定数、角度θ,τsおよびSは機械角)
で示され、かつ、前記回転子の各永久磁石の断面形状が、磁気中心が少なくとも2点であるような線状となるように形成すると共に、これら永久磁石が磁気的に連続である永久磁石式回転電機。
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- 1998-03-05 JP JP05308598A patent/JP3635912B2/ja not_active Expired - Lifetime
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