JP3635111B2 - 殺菌方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、殺菌方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、包装材料、医療材料、容器等を安全に、かつ簡便にしかも効率よく殺菌できる殺菌方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
物品の殺菌方法としては、酸化エチレンガス等の殺菌剤を用いる方法、ガンマ線や電子線等の放射線を照射する方法、さらに低圧下におけるグロー放電を用いる方法等が知られている。
【0003】
酸化エチレンガス等の殺菌剤を用いる殺菌方法は、使用する酸化エチレンガス等の殺菌剤が毒性を有することが多い。そのため、密閉系で処理しなければならず、処理装置自体が大型となる。さらに、被殺菌物に殺菌剤が残存する恐れもある。
【0004】
ガンマ線や電子線等の放射線を照射する方法は、殺菌剤が残存する恐れはない。しかし、殺菌した物品の機械的強度を低下させたり、物品が樹脂である場合には、樹脂が分解等して悪臭が付着したり、変色する等の問題点がある(特公平3−73309号公報参照)。
【0005】
グロー放電による殺菌方法は、グロー放電を起こすために真空下で行うことが必要である。そのため、設備、コスト、作業性、生産性等に問題があった。
【0006】
これら従来技術が有する課題を解決できる殺菌方法としてプラズマを用いる方法が知られている〔特開平5−229530号〕。この方法は、例えば複合酸化物からなるエネルギー変換体に電磁波を照射し、励起したエネルギー変換体と希ガス等を接触させてプラズマ状態とし、プラズマ状になった希ガス等を被殺菌体と接触させるものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記プラズマを用いる方法は、包装材料等の物品を安全で、容易に殺菌でき、かつ殺菌した物品を変質させることが少ない方法であり、優れた方法である。
本発明者は、この方法を実用化するためにさらに検討を進めた。その結果、多量の物品を一度に処理するためには、プラズマ状態のガスを多量に得る必要があり、そのためには、プラズマ状態とするためのエネルギー変換体を大型化し、さらに大出力の電磁波が必要であった。しかし、実用的には、大型の装置では従来法と対抗することが難しい。
さらに、被殺菌体が厚みのある構造を有する物の場合、内部まで十分に殺菌できないか、殺菌力を高めるためにエネルギー変換体に近付けると、被殺菌体の温度が上がり変質する場合があることもわかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、包装材料等の物品を安全で、容易に殺菌でき、かつ殺菌した物品を変質させることが少ない殺菌方法であって、より小型の装置でも、即ち、より効率よくかつ強力に殺菌を行える方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電界中に気体を通して少なくとも一部を電離させ、得られた少なくとも一部が電離した気体を気体と液体との混合物と混合し、得られた混合物と被殺菌物とを電界外で接触させることを特徴とする殺菌方法に関する。
以下本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の方法においては、まず、電界中に気体を通して、前記気体の少なくとも一部を電離させる。
電界は、例えば、少なくとも1対の高圧電極と接地電極とを用い、この電極間に一定以上の電圧を与えることで発生させることができる。このような電界の発生装置は、例えばコロナ放電等に用いられる高圧電極と接地電極とをそのまま用いることができ、高圧電極及び接地電極の少なくともいずれか一方の表面が固体誘電体で被覆されているものである。尚、固体誘電体には特に制限はないが、例えば石英等のセラミックスやハイパロンラバー、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルの積層体等を用いることができる。
【0011】
高圧電極と接地電極の数及び形状等には特に制限はなく、発生させた電界内を通過する気体をどの程度電離させる必要があるか否かにより適宜決定できる。例えば、気体の流量が多い場合は、一定以上の割合で電離させる目的で、電界中の滞在時間が長くなるように調整することができ、そのような場合、高圧電極と接地電極を並列に複数設けたり、或いは高圧電極と接地電極の少なくとも一方を帯9状の形状にすることもできる。
【0012】
高圧電極と接地電極との間に供給する電圧は、例えば、周波数が50Hz〜1,000kHzの範囲の交流電圧とすることが適当である。交流電圧の周波数は、電極間距離や誘電体材質等を考慮して決定することができる。好ましい周波数は1〜100kHzの範囲である。さらに、高圧電極と接地電極との間の電圧は、使用する気体や気体と液体との混合物の種類や流量、電極間距離等を考慮して適宜決定でき、例えば2000〜20,000Vの範囲とすることが適当である。好ましい電圧は4000〜8000Vの範囲である。
【0013】
本発明において電界を通過させる気体は、電界中で電離可能な気体である。そのような気体として、例えば、酸素、窒素、希ガス(アルゴン、ヘリウム及びネオン)、水素、空気等を挙げることができる。希ガス中でも、アルゴンは電離し易すく、コスト的に優れているので好ましい。また、ヘリウムは電離が連続的になりやすいという観点から好ましい。特に、アルゴンは、ヘリウムよりも比重が空気により近く、大気圧下での取扱が容易であるため、より好適に使用することができる。また、上記気体の2種以上を混合して併用することもできる。
【0014】
さらに上記気体の内、アルゴン又はアルゴンとヘリウムとの混合物には、ケトン化合物、例えばアセトン等を微量添加することができる。ケトン化合物を微量添加することによりグロー放電を発生し易くなる。ケトン化合物の添加量は、アルゴン又はアルゴンとヘリウムの混合ガスとの容量比で、0.1:99.9〜90:10(ケトン化合物:アルゴン又はアルゴンとヘリウムの混合ガス)の範囲とすることが適当である。また、アルゴンとヘリウムの混合ガスにおける容量比(アルゴン:ヘリウム)は100:0〜10:90の範囲とすることが適当である。また、ケトン化合物の添加は、ケトン化合物を充填した洗浄瓶等にアルゴン等を通すことにより行うことができる。また、上記洗浄瓶等を加熱して、ケトン化合物を気化させて、アルゴン又はアルゴンとヘリウムとの混合物に添加することもできる。
【0015】
電界中を通過させる気体は、少なくとも一部が電離することが必要である。そこで、気体流量、電界発生のため投入する電圧及び電流(電力)量、電極の数及び形状、等は、気体の少なくとも一部が電離できるように適宜決定する。
【0016】
本発明においては、電界中を通して少なくとも一部を電離させた気体(以下励起ガスという)を「気体と液体との混合物」と混合する。
ここで、「気体と液体の混合物」の気体は、前記の電界中で電離可能な気体でと同様のものであることができる。また、液体は、例えば、水、過酸化水素又は過酸化水素水、エタノール、エタノールと水との混合物等であることができる。過酸化水素水を用いる場合、過酸化水素の濃度は、市販され、入手が容易であるという観点からは、例えば過酸化水素濃度50%以下、好ましくは35%以下のものであることが適当である。それ以下の濃度においては、殺菌条件等を考慮して、市販の過酸化水素水を水で希釈して適宜濃度を調整することができる。但し、殺菌効果を考慮すると1%以上の過酸化水素水を用いることが好ましい。
【0017】
上記液体は、霧状であることが好ましく、霧状の液体は、液体の供給源と接続しているネブライザーに上記気体をキャリアーガスとして通すことにより発生させることができる。また、霧状の気体は、これらにキャリアーガスをバブリングさせることによっても発生させることができる。
「気体と液体の混合物」においてキャリアーガスである気体と液体との割合は、特に制限はないが、気体1リットル当たり1mg〜100mgの範囲とすることが、被殺菌物への圧力と言う観点から適当である。
さらに、霧状物の粒子径は、例えば約50〜3000μmの範囲とすることが局所放電防止と言う観点から好ましい。
【0018】
励起ガスと「気体と液体との混合物」との混合は、電界外又は電離させる気体が電界の出口付近で行うことができる。電界内に気体のみを供給し、「気体と液体との混合物」とは、励起ガスが電界を実質的に通過した後に行うことで、電界発生用の電極の内、高圧電極の表面を被覆する固体誘電体の破損を防止できるという利点がある。高圧電極の表面を被覆する固体誘電体に霧状物として導入された液体の集合体等が付着すると、その部分に放電が集中し、固体誘電体を破損する場合がある。
【0019】
また、本発明の方法では、複数の電極対を励起ガスの流れる方向に直列に配置する場合、電界中の励起ガスの途中に「気体と液体との混合物」を導入することもできる。途中に導入することで、導入部より上流の高圧電極において、上記固体誘電体の破損を防止できる。
励起ガスと「気体と液体との混合物」との混合は、励起ガスの流れに「気体と液体との混合物」の流れを合流させることにより行うことができる。
励起ガスと「気体と液体との混合物」との混合割合は、励起ガスの単位時間当たりの流量を1容量部としたとき、「気体と液体との混合物」を0.1〜10容量部の範囲とすることが適当である。
【0020】
励起ガスと「気体と液体の混合物」との混合物は、次いで被殺菌物と接触させる。接触方法に特に制限はない。但し、固定した被殺菌物に上記混合物のガス流を接触させるか、又は上記混合物を充填した容器に被殺菌物を導入することもできる。
特に、被殺菌物を設置するチャンバー内は、通常は大気圧付近であることが、操作が容易であることから好ましい。但し、殺菌容器内が大気圧よりやや加圧状態(大気圧より最大1気圧までの陽圧)になるようにして操作することが、殺菌効果を高めることができ、特に、厚みのある被殺菌体の内部まで殺菌することができるという観点から好ましい。また、チャンバー内を陽圧にすることにより、チャンバー内の無菌状態を維持することもできる。
【0021】
本発明の殺菌方法は、例えば、図1に示す装置により行うことができる。図中、1は石英被覆電極てあり、2は金属電極であり、1及び2で高圧電極15を構成する。3は金属電極であり、接地電極を構成する。4はハウジング、5は励起用ガスの導入管、6は高圧ブッシング(高圧絶縁物質からなる差し込み)、7は高圧電源、8は被殺菌体、9は排気管、10はネブライザー、11は気体の供給源、12は液体(例えば、過酸化水素水)の供給源、13は液体を満たしたバブリング容器、14は電離状態の気体、16はネブライザー10またはバブリング容器13で生成した気体と液体との混合物の導入管である。
【0022】
電離用気体(励起用ガス)は、供給源11から導入管5を経て、電界が発生している高圧電極15と接地電極3との間に供給する。高圧電極15と接地電極3との間を通過した気体は、少なくとも一部が電離する。高圧電極15と接地電極3との間の電界中で少なくとも一部が電離した気体は、導入管16から導入されるネブライザー10かバブリング容器13に気体を通して霧状物として得られる気体と液体の混合物と混合される。得られる混合物は、被殺菌体8の方に移動し、被殺菌体を殺菌した後、排気管9から排気される。
【0023】
図1に示す装置は本発明の方法を実施するための1実施態様であり、例えば、被殺菌体8をハウジング4とは別室に配置し、ハウジング内で得られたガスを被殺菌体8を収納する別室に導入して殺菌を施すこともできる。
また、ガスの流量及びの滞留時間等を考慮して、ハウジングの規模は適宜変更することができる。
【0024】
被殺菌物には特に限定はないが、例えば、各種のプラスチック単体、またはこれらのプラスチックを複数積層、あるいはこれらのプラスチックと金属箔とを積層した積層材料からなる物品を挙げることができる。また、これら物品の形態は、食品用又は薬品用包装のシートまたはロール、若しくは容器トレイ、ボトル等であることができる。さらに、被殺菌物としては、天然繊維または合成樹脂繊維からなる織布または不織布、及び紙または上記繊維よりなる衣服類等を例示することができる。特に本発明の方法は、ガーゼ、マスク、綿等の厚みのある物品の殺菌に有効である。
【0025】
被殺菌物が包装材料である場合には、その形態は、例えば、袋、自立袋、成形容器、成形シート、ボトル等であることができる。本発明の方法は、食品、薬品等の無菌を要求する、例えばアセブチック用分野、及び衛生的に無菌を要求する分野へと応用範囲は広い。
【0026】
殺菌できる細菌にも特に限定はない。本発明の方法によれば、例えば、大腸菌(E.coli)、サルモネラ・ティフィ(Sal.typhi)、枯草菌(B.subtilis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus.aureus)、アスペルギルス・ニガー(Asp.niger)等の菌を殺菌することができる。
【0027】
【実施例】
以下本発明を実施例によりさらに説明する。
実施例1〜7
図1に示す装置を用いて、大気圧下で、本発明の殺菌方法を実施した。尚、接地電極である金属電極3の寸法は16mmφ×50mmであり、石英被覆した高圧電極15の寸法は19mmφ×150mmである。実験条件である電圧、出力、周波数、電離用気体の種類と流量、気体と液体の混合物用の気体と液体の種類と流量、処理時間、被殺菌物の種類を表1に示す。尚、霧状物の生成にはネブライザーを用い、被殺菌物と電極との距離は10cmとした。また、実施例4では、電離用気体をアセトンを充填した洗浄瓶中にバブリングすることで、アセトンを添加した。アセトンの流量は液体としてのアセトン量で表示した。
【0028】
被殺菌物であるテストピースとして2種類用いた。
テストピースAは、無菌ポリエステルテープにバシルス・スブチリス(Bacillus subtilis)の芽胞子(endspore)を1ピース当たり106 個になるように付着させた(スポアー径5mmφ)ものである。
テストピースBは、栄研器材株式会社製、商品名テスパーG(OG滅菌乾熱用滅菌効果測定用)を用いた。
【0029】
評価方法(残存胞子数検査)
殺菌試験に供したテストピースAを、滅菌した0.2%トゥイーン(Tween)80生理食塩水10mlに1時間浸積後攪拌して、残存胞子を抽出した。また、テストピースBを、生理食塩水量を50mlとして、残存胞子を抽出した。得られた残存胞子抽出液を、標準寒天培地を用いて、35℃で48時間培養した。培養後、出現したコロニー数から1ピース当たりの残存胞子を算出した。結果を表1に示す。尚、表1中、コントーロルの残存胞子数は4.2×106 (胞子数/ピース)であり、滅菌数は、−log(処理品の胞子数/コントーロルの胞子数)として表した。
【0030】
【表1】
Figure 0003635111
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、特開平5−229530号に記載のプラズマを用いた殺菌方法と同様に、包装材料等の物品を安全で、容易に殺菌でき、かつ殺菌した物品を変質させることが少なく、さらに上記殺菌方法より、より小型装置で、即ち、より効率よくかつ強力に殺菌を行える方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例で用いた殺菌装置の説明図である。
【符号の説明】
1・・・石英被覆電極
2・・・金属電極
3・・・金属電極(接地電極)
4・・・ハウジング
5・・・ガスの導入管
6・・・高圧ブッシング
7・・・高圧電源
8・・・被殺菌体
9・・・排気管
10・・ネブライザー
11・・気体の供給源
12・・液体(例えば、過酸化水素水)の供給源
13・・バブリング容器
14・・電離状態の気体
15・・高圧電極
16・・気体と液体との混合物の導入管

Claims (6)

  1. 電界中に気体を通して少なくとも一部を電離させ、得られた少なくとも一部が電離した気体を気体と液体との混合物と混合し、得られた混合物と被殺菌物とを電界外で接触させること、及び電界を少なくとも1対の高圧電極と接地電極との間で発生させ、前記高圧電極及び接地電極の少なくともいずれか一方の表面が固体誘電体で被覆されていることを特徴とする殺菌方法。
  2. 電界中を通過させる気体が、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム及びネオンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の殺菌方法。
  3. 気体と液体との混合物を構成する気体が請求項2記載の気体であり、液体が水、過酸化水素、過酸化水素水、エタノール、又はエタノールと水との混合物である請求項1記載の殺菌方法。
  4. 液体が霧状である請求項1又は3記載の殺菌方法。
  5. 電界中を通過させる気体が、ケトン化合物を含有するアルゴン又はヘリウムである請求項1〜4のいずれか1項に記載の殺菌方法。
  6. 高圧電極と接地電極との間に、50Hz〜1,000kHzの範囲の交流電流を供給する請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
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