JP3630003B2 - 溶融金属中への炭化水素ガスの吹込方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、転炉等の精錬炉の溶融金属中へ2重管羽口を使用して炭化水素ガスを吹き込む方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
脱炭精錬を効率良く進行させるためには、溶鋼の攪拌を強化するのが有効であることが広く知られている。そのため、現在の転炉は、主な酸素供給源である上吹きランスに加えて、溶鋼の攪拌を目的とした底吹き羽口を設置し、酸素、炭化水素、不活性ガスなどをこの底吹き羽口を通して溶鋼に吹き込んでいる。
【0003】
発明者らは、先に3重管構造の羽口を提案しており(特開平05−214420号公報)、この3重管羽口において、内管と外管に炭化水素ガスを、中管に酸素を吹き込むことにより、脱炭時の溶鋼攪拌を増加する手段として、高価な不活性ガスに代えて安価な炭化水素ガスを大量に吹き込むことが可能となることを示した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述の従来の3重管羽口の場合、次のような問題点がある。
▲1▼1羽口あたり、ガス流量制御系が3系統必要であり、設備費が高くなる。
【0005】
▲2▼ガス通過面積が大きく、ガス量をあまり必要としない吹錬の初期および中期でも、羽口地金湯差し防止用(地金入り込み防止用にガス圧をかける)の必要ガス量が単管や2重管羽口の場合よりも多く、ガスコストの上昇を招く。
【0006】
本発明は、前述のような問題点を解消すべくなされたもので、その目的は、2重管羽口を用いて炭化水素ガスを耐火物剥離や羽口詰まり等を起こすことなく大量に吹き込むことができ、3重管羽口と同等以上の効果を得ることのできる溶融金属中への炭化水素ガスの吹込み方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
従来の3重管羽口を用い、吹錬前期に3重管の全面からAr吹きを行い、吹錬後期に炭化水素ガスとしてLPG(液化プロパンガス)を使用し、内管LPG−中管O2 −外管LPGに切り換えた後の温度推移を調査した。温度推移は、3重管の溶銑と接する面から手前50mmの内管内側部に熱電対を埋め込み温度測定する方法で求めた。この温度推移の調査結果から下記(A) の知見、(B) の着想を得た。
【0008】
(A) 3重管の内管のLPGは、中管のO2 および外管のLPGによって2重に断熱されており、内管のLPGが分解温度まで至っていない。従って、LPGが分解により吸熱反応を起こすことがなく、管の金物温度・炉の耐火物温度の低下が防止されている。
【0009】
(B) 3重管のように2重の断熱作用がなくても、1重(単層)の断熱で内管の炭化水素ガスを分解温度以下に保持できれば、2重管を使用しても、3重管と同等の炭化水素ガス吹きが可能である。
【0010】
(B) の着想を実現する手段として、内管の炭化水素ガスが羽口内で分解しない臨界的な条件を下記のように見出し、本発明が完成した。
即ち、本発明の溶融金属中への炭化水素ガスの吹込方法は、溶融金属中へ炭化水素ガスを内管・外管からなる2重管羽口を用いて吹き込む方法において、吹錬前期には内外管ともAr ガスを使用し、吹錬後期に内管から炭化水素ガス(CnHm) を、外管から断熱性ガス(Ar ,N2 ,CO,CO2 等、あるいはこれら断熱性ガスと炭化水素ガスの混合ガス)を吹き込み、その流量比を下記の(1) 、(2) のいずれか一方の条件に基づいて調整することで、羽口詰まりすることなく安定して炭化水素ガスを吹き込むことを特徴とする(図1参照)。
【0011】
条件(1) :内管2の炭化水素ガス4の羽口導入前の圧力Pおよび/または流量Qから外管3の断熱性ガス5(断熱性ガスと炭化水素ガスの混合ガス5’を含む)の流量を調整する。
【0012】
条件(2) :外管外部に設置した熱電対6の温度Tを監視し、その温度Tに応じて外管3の断熱性ガス5(断熱性ガスと炭化水素ガスの混合ガス5’を含む)の流量を調整する。
【0013】
以上のような構成において、吹錬前期に内外管ともにAr ガスを導入して底吹き溶鋼攪拌を行ない、吹錬後期に内管のAr ガスを炭化水素ガスに切り換える。吹錬の進行に伴い溶鋼温度・金物温度が上昇し、この状態で炭化水素ガスに切り換えると、炭化水素ガスが分解反応を起こし、その吸熱反応と外管の断熱性ガスの断熱効果が小さいことにより、外管金物温度・耐火物温度が低下し、熱スポールによる耐火物剥離が生じ、さらにマッシュルーム(凝固殻)の過大な成長により羽口前圧の上昇・羽口詰まりが発生するが、外管金物温度Tを検出し、この温度Tが低下してくると外管の断熱性ガス(Ar ガス等)の流量を増加させることにより、外管の断熱性ガスの断熱効果で炭化水素ガスの分解反応が抑制され、外管金物温度・耐火物温度の低下が防止され、耐火物剥離が解消されることで羽口寿命が延び、また過冷によるマッシュルーム過大成長が防止されることで安定操業が可能となると共に、羽口詰まりが解消されることで炭化水素ガスを大量に吹き込むことができ、十分な溶鋼攪拌力が得られる。即ち、2重管羽口を使用しても3重管羽口と同等以上の効果が得られる。
【0014】
同様に、内管の炭化水素ガスの羽口導入前の圧力P・流量Qを検出し、圧力Pが増加し、あるいは流量Qが低下すると、外管の断熱性ガスの流量を増加させることにより、外管の断熱性ガスの断熱効果で炭化水素の分解反応が抑制され、外管金物温度・耐火物温度の低下が防止され、前述と同様の効果が得られる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示する一実施形態に基づいて詳細に説明する。この実施態様は、転炉の上・底吹き精錬に本発明を適用した例である。図1は本発明の吹込み方法を実施するための装置を示したものである。図2は吹錬経過時間に対する金物温度と羽口前圧の推移を示したものである。
【0016】
図1に示すように、本発明では、転炉の炉底部に複数個設置される底吹き用の羽口に2重管羽口1を使用し、吹錬後期において、内管2から炭化水素ガス4を吹き込み、外管3から断熱性ガス5、あるいは断熱性ガスと炭化水素ガスの混合ガス5’を吹き込む。
【0017】
炭化水素ガス4は、CH4 ,C2 H6 ,C3 H8 ,C4 H10等を単独あるいは混合ガスとして用いる。断熱性ガス5は、Ar ,N2 等の不活性ガスが含まれるが、本発明の狙いとする断熱効果が期待できるCO,CO2 等も単独あるいは混合ガスとしてそれぞれ用いることができる。
【0018】
また、外管3の外側に熱電対6を設置し(例えば、溶銑と接する面の手前50mm位置)、外管金物温度を常に監視する。内管2への供給管には、圧力計7,流量計8,流量調節弁9を設け、外管3への供給管にも、圧力計10,流量計11,流量調節弁12を設け、炭化水素ガス4の流量および断熱性ガス5(5’)の流量をそれぞれ独立して制御できるようにするのが望ましい。
【0019】
図2は、内管2のガスを切り換え(吹錬前期Ar →吹錬後期LPG:流量 5 Nm3/min一定)、外管3の流量(流量は全て羽口1本当たりの流量を示す)を変えて(Ar :流量 0.05 〜0.1 Nm3/min )底吹きを行なった試験結果である。試験中は上から精錬用の酸素をランスを通して導入した。なお、図2における「羽口前圧」は、内管2の羽口手前のガス圧力の値(圧力計7の検出値)を示し、羽口の閉塞状況を示す指標であり、値が低いほど圧損が小さく、ガスの元圧10kgf/cm2 (0.98MPa)に近づくほど閉塞状況が悪化していることを示す。閉塞のない通常の「羽口前圧」は約 6kgf/cm2 (0.59MPa)である。
【0020】
この図2から明らかなように、吹錬前期において内外管ともAr の場合は、吹錬が進行し溶鋼温度が上昇するにつれ、金物温度も上昇する。内管を炭化水素ガス(LPG)に切り換えると、LPGが分解反応を起こし、この吸熱反応と外管の断熱性ガスの断熱効果が小さいことが重なり、外管金物温度が低下する。それに伴い外管金物に接する耐火物温度も低下するため、熱スポールに起因する耐火物剥離が生じて、羽口寿命が著しく悪化する。
【0021】
さらに、この状態は過冷のため溶鉄が凝固して生成するマッシュルームが過大に成長し、羽口前圧力が増大し安定操業が不可能となる。また、羽口詰まりが発生するため、安定して炭化水素ガスを吹き込むことができずに、本来の目的である炭化水素ガス大量底吹きによる溶鋼攪拌力の確保が不能となる。
【0022】
次いで、この状態から、外管の断熱性ガスのAr 流量を増やすと(0.05→ 0.1Nm3/min )、外管の断熱性ガスによる断熱効果が増すため、内管の炭化水素ガス(LPG)の温度は分解温度まで上昇せず、羽口前圧も低位となる。なお、LPGは、常温でも分解するが、分解が顕著となるのは 430℃程度である。
【0023】
従って、吹錬後期において炭化水素ガスを吹き込む場合、羽口金物温度が低下してきたら外管のAr 流量を増せば、外管の断熱性ガスの断熱効果により内管の炭化水素ガス(LPG)の分解反応が抑制され、金物温度・耐火物温度の低下が防止されるため、熱スポールによる耐火物剥離が解消され、またマッシュルームの成長が防止され、羽口前圧も低下するため、内管からの炭化水素ガス大量吹き込みが可能となる。具体的には、熱電対6による検出温度が例えば 400℃を越えると、外管3の流量調節弁12を制御装置13により調節して外管の断熱性ガス(Ar )を増加させる。
【0024】
但し、外管のAr 流量を増加し過ぎると、ガスコストが悪化するのみでなく、外管のAr そのものの冷却能によりマッシュルームが成長し、羽口詰まりの原因となるため、外管の断熱性ガスの流量は内管の炭化水素ガスを最大に流すことができる程度に少ない方が好ましい。
【0025】
また、以上は外管金物温度を監視して外管のAr 流量を制御する例であるが、これに限らず、内管2の羽口前圧P(圧力計7)と流量Q(流量計8)のいずれか一方あるいは両方に基づいて外管3のAr 流量を制御するようにしてもよい。この場合、羽口前圧Pが増加し(例えば、7kgf/cm2を越えると)、あるいは流量Qが減少すると、外管3の断熱性ガス(Ar )を増加させれば、前述と同様の効果が得られる。
【0026】
【実施例】
溶銑250Ton(温度1200〜1300℃、成分は表1に示す)を転炉に装入し、酸素ガスを850Nm3/minで上吹きランス( 6孔, 傾斜角15度,スロート径48mm,ランス高さ 2.5m)から溶銑に上吹き吹錬した。
【0027】
【表1】
転炉の炉底に設けた4本の2重管羽口から吹錬前期および中期に、内管と外管にAr を流し、吹錬後期([C] =0.5 %以下)には、内管にLPGを、外管にAr を流して、[C] =0.05%になるまで吹錬した。その結果を表2に示す。
【0028】
表2において、比較例1は3重管羽口の場合、比較例2,3,4は2重管羽口で外管ガス流量を金物温度、羽口前圧により変化させなかった場合、本発明例1,2は2重管羽口で外管ガス流量を金物温度,羽口前圧によって変化させた場合である。
【0029】
【表2】
【0030】
上記の表2から明らかなように、本発明例1,2の羽口損耗速度は、炭化水素ガスの大量吹き込みを実施しない場合と同等の0.17mm/ch が得られた。比較例2で羽口損耗速度が大きいのは、羽口周辺レンガの熱スポールによるものであり(大量吹き込みのLPGの吸熱反応等で耐火物温度が低下)、本発明例1,2では、内管の羽口前圧あるいは熱電対の温度に基づいて外管ガス流量を調整することで、羽口レンガの熱スポールを抑制できた。
【0031】
比較例3で鉄歩留指数が低下しているのは、羽口が詰まり炭化水素ガスが規定流量流れなかったことに起因しており、本発明例1,2のように外管ガス流量を調整すれば、羽口詰まりが解消され、比較例4の炭化水素ガスを吹き込まない場合と比べても鉄歩留指数を大幅に向上させることができ、比較例1の3重管の場合と同等となる。
【0032】
また、本発明例1,2は2重管羽口を使用しているため、比較例1の3重管羽口と比較して、ガスコスト指数および設備費用指数を大幅に低減することができた。
【0033】
【発明の効果】
本発明の溶融金属中への炭化水素ガスの吹込方法は、以上のような構成からなるので、次のような効果を奏することができる。
【0034】
(1) 2重管羽口の内管から炭化水素ガスを、外管から断熱性ガスを吹き込む際に、外管外部に設置した熱電対の温度を監視し、その温度に応じて外管の断熱性ガスの流量を調整し、あるいは内管の炭化水素ガスの羽口導入前の圧力および/または流量から外管の断熱性ガスの流量を調整するようにしたため、外管の断熱性ガスの断熱効果で炭化水素ガスの分解反応が抑制され、外管金物温度・耐火物温度の低下が防止され、耐火物剥離および羽口詰まりを解消することができる。これにより、羽口寿命を延ばすことができ、また炭化水素ガスを大量に流すことができ、2重管羽口を使用しても3重管羽口と同等以上の効果を得ることができる。
【0035】
(2) 2重管羽口によりガス流量制御系が2系統ですみ、ガス通過面積も少なくなり、3重管羽口に比べて、設備費用およびランニングコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の炭化水素ガスの吹込方法を実施するための装置を示す概略断面図である。
【図2】吹錬経過時間に対する金物温度および羽口前圧の推移を示すグラフである。
【符号の説明】
1…2重管羽口
2…内管
3…外管
4…炭化水素ガス(CnHm)
5…断熱性ガス(Ar ,N2 ,CO,CO2 等)
5’…断熱性ガスと炭化水素ガスの混合ガス
6…熱電対
7…圧力計
8…流量計
9…流量調節弁
10…圧力計
11…流量計
12…流量調節弁
13…制御装置
Claims (1)
- 溶融金属中へ炭化水素ガスを内管・外管からなる2重管羽口を用いて吹き込む方法において、内管から炭化水素ガスを、外管から断熱性ガスを吹き込み、その流量比を下記の(1) 、(2) のいずれか一方の条件に基づいて調整することで、羽口詰まりすることなく安定して炭化水素ガスを吹き込むことを特徴とする溶融金属中への炭化水素ガスの吹込方法。
条件(1) :内管の炭化水素ガスの羽口導入前の圧力および/または流量から外管の断熱性ガスの流量を調整する。
条件(2) :外管外部に設置した熱電対の温度を監視し、その温度に応じて外管の断熱性ガスの流量を調整する。
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